●週刊チャオ サークル掲示板
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CHAOS PLOT 「CHAOS―チャオス―」
 スマッシュ  - 09/12/23(水) 0:19 -
  
夜の町を歩く。
夜の時間というものは季節によって長さが変わるものだ。
今は夏。
暗い時間が少ない季節。
明るい季節だ。
世間は真っ暗ではあるが。
そんな現在とマッチしている夜道をただ歩く。
元々人通りの少ない道のせいか。
街灯の光があってもなお暗い。
もしかしたら、街灯が無くても大して変わらないのかもしれない。
そんな中を歩く。
その隣には小さな生物がいる。
チャオ、という生物だ。
名前はシンバ。タイプはニュートラルチカラ。
チャオとは大抵ペットであるのだが、俺にとってはそうではない。
このチャオは相棒のようなものである。
それは非常に親しくしているから家族と比喩するような行為とは異なる。
俺たちの仲とはいわば二人一組で棒の端を持ち籠の中の人を運ぶような間柄であり、協力し合う存在であり、テレビで高視聴率を獲得することができるのである。
つまり本当に相棒なのだ。
ちなみに今はシーズン8である(1シーズン=半年換算)。
相棒の歩幅に合わせてゆっくり歩く。
チャオの足は短いから、歩幅も狭い。
そんな歩幅で歩くと大変な遅さになる。
横断歩道を信号が青の間に渡ることはできまい。
歩いているチャオにとって早足の人間は人間にとっての車に近い。
ぶつかったらただでは済まない。
ゆえにチャオがのんびり歩くことは危険と隣り合わせなのである。
一方、その速度に合わせるとなると人間も大変だ。
車なのに人間の徒歩に速度を合わせねばならない。
人間を車に乗せて思い切り走った方が速いのはチャオと人間の関係にも言えることだ。
人間はチャオを抱っこすることができる。
あるいはチャオが人間のどこかにつかまることだってできる。
だが、気にしない。
急いでいるわけではないからだ。
どちらかといえば、待っている。
何を?
恋人はいない。
俺はいわば趣味の名前を挙げてそれが恋人だと言い訳をする部族(若い人気のあるスポーツ選手はよくこれに属している)である。
では偶然自分と同じくチャオと散歩している女性に遭遇して「これって運命の出会いかも」というようなイベントだろうか。
今は夏であるから、女性と遭遇した瞬間に様々なイベントへ連れて行かれることが確定するのである。
夏祭りや海などが代表的な例であろう。
暑いという理由で薄着になりやすい季節であるから多くの男性の目にも優しい。
多くの男性以外は厚着がメインになる冬まで引きこもっていろ。
そうして数々のイベント(こなしていく最中、あるいはその前にさらに様々な女性と出会うことになる)の後に女性と結ばれるのである。
そんなわけないだろう。
実際に起こる見込みが明らかに無さそうなものを狙うわけがないだろう。
そもそも夜中にチャオと散歩する女性をピンポイントで狙ってどうするのか。
単純にチャオが好きな女性でいいじゃないか。
では気になる答えはなにか。
強いて言うなら通り魔を待っている。
通り魔に恋しているわけではない(念のため)。
俺は通り魔に対して通り魔する男。
ヲタク狩り狩りのような聞いた瞬間はなんかかっこよさそうだが、よく考えるとそうでもないんじゃないのかというような存在なのである。
しかし人間の通り魔は対象外。
そういうのは警察に任せる。
人間ではない通り魔。
それは一体何なのか?
霊か?化け物か?
まあ、似たようなものだろう。
つまり霊でも化け物でもないのだが。
きゃあ、という女性の悲鳴。
それが仕事を始める合図だ。
仕事の始まりはいつも誰かの悲鳴なのだ。
シンバを片腕で抱えて悲鳴のした方向へダッシュする。
今日、世間で通り魔といったらそれは人間ではない。
チャオの姿をしながらチャオでない存在――
チャオス、と呼ばれているそれだ。
見た目がチャオだからといって軽視してはいけない。
チャオスは人を殺すことができる。
それが武装していない一般人ならなおさら簡単だ。
そんなチャオスから人々を守る。
そういう趣味である。
たまに依頼という形式で報酬が出る。
けれども基本的に無料で人を守っている。
趣味だからだ。
いかにして、チャオスから人を守るのか。
化け物からどうやって人を守るのかを考えれば答えは自ずと出てくる。
1つは弱点。
相手によって銀の弾丸を撃ち込んだり心臓に白木の杭を打ったりして退治する。
こちらが人間であれば必然的こちらの手段となる。
しかし俺がとる手段はもう1つの方。
わかりやすくストレートな方法。
目には目を。
化け物には化け物を。
チャオスにはチャオスを。
そう、このシンバは正確にはチャオではなくチャオスなのである。
「いた」
女性を視認。
そしてその周囲に2匹のチャオスを確認する。
ヒーローノーマルとダークノーマルの2匹だ。
これでチャオスではなく人間の通り魔であったら困ったことになる。
霊や化け物でもだ。対象外は困る。
目には目をではなくなってしまう。
まあ、そういう場合は大抵駆けつけた時にはもう手遅れだ。
チャオスの場合のみ、被害が少ないうちに助けることができる。
それは人を襲おうとして現れるわけではないからだ。
シンバを空中へ放り投げる。
投げた初速を利用して空中から一気に距離を詰める。
シンバはヒーローノーマルのチャオスを踏みつけ再びジャンプした後に着地した。
「大丈夫ですか」
2匹が奇襲に驚いている間に女性に駆け寄る。
そして、体を押して戦いの場から遠ざかるように誘導する。
ついでに武器をもらうことにする。
「あ、すみません、カッターとか持ってません?」
「はい?」
「あー、無ければいいんですけど。忘れちゃって」
「あっ、あります」
女性は鞄の中に手を入れる。
一方シンバとチャオスは。
互いに距離を保ちつつにらみ合っている。
シンバの周囲になにかいいものはないだろうか。
まわりにも視線を走らせる。
「あ、ありました」
女性がカッターを差し出す。
「あ、どうも」
受け取る。
「シンバ、これを使え!」
呼びかけてからカッターを投げる。
シンバはそれに反応して手をカッターへと向ける。
そうするや否やカッターは光の粒子となって消え、代わりにシンバの右手が変化する。
右手はカッターに変化した。
そう。
シンバはカッターをキャプチャしたのだ。
武器となった右手を振るい、攻撃を仕掛ける。
警戒したダークノーマルが必要以上に後退し距離をとる。
そして、両手を突き出した。
「シンバ、来るぞ!」
呼びかける。
シンバはすぐさま反応して動きを止める。
攻撃もすることなく、身構える。
それと同時にダークノーマルの手からクマの手パーツがロケットパンチのよう飛び出す。
発射したダークノーマルの手は健在だが、クマの手も確かにシンバ目掛けて飛んできていた。
シンバは横に転がってそれを避ける。
こちらも被弾しないように女性を庇いながら物陰に隠れる。
横の壁に穴が空く。それを見て女性がひっ、と声を漏らした。
そりゃチャオスにここまでの力があるって知らなきゃ驚くだろうな。
でもここまで強くなければ人を殺すことなんてできない。
「放出がメインか。もう1匹は何かな」
ヒーローノーマルの動きに集中する。
ヒーローノーマルはシンバとの距離を調整していた。
近づきすぎるとカッターによる攻撃を受けてしまう。
だからカッターが届かないぎりぎりの距離を保とうとしていた。
隙があれば飛び込む、ということだ。
そこにダークノーマルが再びロケットパンチのような攻撃を繰り出す。
今度はチーターの手パーツだ。
無論、それを放ったダークノーマルの手は健在。
小動物のパーツをロケットパンチのように発射する攻撃のようだ。
それに合わせてヒーローノーマルが走り出す。
両手を突き出しながら近づくそれは、相手を殴ったりしようとする動作ではない。
それで理解した。
「離れろ!」
シンバはその指示通りに後ろに跳ぶ。
それを見てヒーローノーマルは前進を止める。
着地したシンバが自分の右手を確認する。
カッターの先端が欠けていた。
「こっちは攻撃か……」
相手の狙いはわかった。
ではその対策としてどうするか。
数秒思考して指示を出す。
「そこの標識を合成だ」
シンバはカッターの刃を折り、再び武器を鋭利にしてから止まれと書かれた標識を見つめた。
そして、標識を支えていた棒をキャプチャした。
標識が地面へ落ちる。
シンバは右手をヒーローノーマルへ向けて突き出す。
すると、右手のカッターは先ほどキャプチャした棒の長さになり、ヒーローノーマルは勿論、その後ろにいたダークノーマルも串刺しにした。
体を貫かれた2匹は目を見開いたまま動かない。
しばらくして脱力し、人形のようになる。
本当に動かないか見張る。
そうしているうちに2匹は白いマユに包まれた。
それはチャオの死の合図。
チャオスもチャオと同様このように死んだ場合、ひとかけらも残さず消失する。
「これでよし、っと」
物陰から身を出す。
それにつられて女性も恐る恐る周囲を確認しながら立ち上がった。
「お疲れさん、これでもキャプチャしとけ」
シンバにウサギを投げ渡す。
シンバはそれで手をウサギのパーツにした。
戦ううちに今回のように日常生活には不便なパーツをつける場合がある。
それに備えてある程度の小動物を持ち歩いている。
それをキャプチャして生活できるパーツに戻すのである。
「あ、あの、ありがとうございました!」
女性が頭を下げる。
それを見て、自然と微笑むことができた。
「お気をつけて」
もっと見返りを求めてしまってもいいのかもしれない。
今の彼女からして見れば俺は典型的な物語のような命の恩人でありヒーローなわけである。
うまくやればいくらだって見返りがある。
けれどそれは違う気がする。
そういう目的でやっていることではない。
そう心が告げている。
でも、まあ。
とにかくだ。
今日も楽しく戦えたのでよしとしよう。

チャオスの存在が確認されたのは20年前だ。
チャオスはチャオの突然変異体で、チャオとカオスの中間の存在と言われている。
カオスとは昔、大事件を起こした生命体だ。
カオスエメラルドの力を使って暴走し、大変なこととなったらしい。
そしてチャオスはそのカオスに似ている部分があるとか。
チャオがなぜそんなチャオスへ突然変異したのか。
その理由は明らかになっていない。
ただ、20年前にチャオスが生まれたことはわかっているようだ。
そして、この20年で大きな問題になるほどにチャオスはその数を増やした。
チャオスが増えた原因の1つとして、ソニックがいなかったことが挙げられる。
以前、この世界は何かが起きてもソニックを始めとしたいわゆる英雄がそれを解決してくれていた。
今回だってそういうふうに解決されれば問題なかったのだ。
ちょっとした事件。
ちょっとした異変。
そんな程度で済んだ。
けれどもいつしか彼ら英雄は姿を消してしまったいた。
ソニックのいた頃の世界を知らない現在の人々は、そもそもソニックなんて英雄が本当に実在したのかと疑うこともある。
俺は18才だ。
チャオスがいなかった頃の世界を知らない。
どんな世界だったのか、想像してもよくわからない。
それと同じようなものだ、と考えている。
ともかく、問題を解決してくれる存在がいなかったためにチャオスは自由に活動し、その数を増やしたのだ。
俺がチャオスに関して知識として知っているのはこのようなことくらいだ。
この他に知っているのは、実戦によって得た情報である。
チャオスの戦闘能力について、だ。
チャオスのキャプチャ能力はチャオと比べ物にならないほど強化されている。
チャオスが有害である所以はほとんどここにあると言っても過言ではない。
加えて、チャオスはキャプチャに関連した6つの能力を持っている。
1つ目に「無差別」。
本来のキャプチャは小動物のみがその対象となるがチャオスはそれ以外であってもキャプチャが可能だ。
カッターや標識をキャプチャすることができる。
あるいは人間すらキャプチャできるかもしれない。
2つ目に「放出」。
キャプチャしたものを何らかの方法で排出する。
これにより遠距離攻撃などを得意とするチャオスが存在する。
ロケットパンチのような攻撃をしたダークノーマルがその例だ。
3つ目に「攻撃」。
キャプチャ行為そのものを他者への攻撃へ利用する。
相手がチャオやチャオスであれば、相手のキャプチャしたものを奪い取ることも可能であり、シンバのカッターが欠けたのはこの能力によるものだ。
他に「強化」、「成長」、「合成」が存在する。
それぞれ、キャプチャによる能力の上昇幅が大きい、キャプチャによって獲得したパーツが徐々に発達する、キャプチャしたものを組み合わせることができる、という特徴を持つ。
各個体に得手不得手があり、能力によっては全く使えないこともある。
例えばシンバは無差別と合成が得意だが、攻撃や放出などは実用的でないほどの効果しかない。
俺は実戦を経て、これらの能力の詳しい特徴やその能力を活かそうとする相手への対策を練り上げた。
これはかっこつけでもなんでもなく、数年の努力によって自覚できるくらいに磨き上げたものなのだ。
これらの知識を身に付けるようになったきっかけはシンバとの出会いだ。
小さい子供だった頃。
可愛いチャオスが本当は恐ろしい存在であるとは思えなかった頃。
傷ついて倒れていたチャオスを保護した。
親に見つかると叱られるとわかっていたので、隠れて飼った。
名前も付けた。
その時からそのチャオスの名前はシンバだ。
そこからシンバはなつき、共に行動するようになった。
シンバをチャオスと戦わせるようになったのは、中学生の時だ。
そういうことをしている人間がいると聞き、真似をしてみたのだ。
最初の頃は途中で命の危険を感じて逃げることも多々あったのだが。
逃げながら少しずつ知識を蓄積し、勝てるまでになった。
そうなってからは今のような生き方だ。
チャオスと戦って人を守る。
いい生き方だと思う。
金にはならないけれど。

とても早い時間から遅い時間まで太陽が迷惑なほどにはりきって活動する季節であるが、今日はその太陽の姿が見えない。
雨であった。
早朝、夏ならば明るく冬ならばまだ薄暗い時間帯。
今日は薄暗い朝であった。
それでもまだ暑いのではあるが。
鬱陶しい天候である。
それなのに俺は今外出中。
なぜならば。
「おっす、おはようさん」
「おはようございます」
仕事である。
チャオスを倒す仕事である。
これはいつものとは違う。
マジ仕事である。
つまり報酬が出るのだ。
「今日はなにをすればいいんですか、山崎さん」
目の前にいる男、山崎剛もまたチャオスを飼い、チャオスと戦う人間である。
俺と違う点は、チャオスを扱うことを本職としているところだ。
山崎さんはチャオスに関する依頼を受け、その報酬のみで生計を立てている。
逆に俺がチャオスに関係することで金を手にできるのは彼の仕事に協力する場合のみである。
彼がいなければチャオスから人を守っても俺に報酬が出ることはないのだ。
「今日は人と物の保護だ」
「物……というと?」
「カオスエメラルドだ」
カオスエメラルド。
無限の力を持つ石であり、この世に7つのみ存在する。
7つ揃えて使用することで奇跡を起こすと言われている。
1つのみでも強大な力を持ち、力を引き出せばワープできたり時空を歪められたりとやりたい放題できるらしい。
色は1つずつ異なり、それぞれ緑、赤、黄、紫、青、水、白。
最近ではそれぞれ微妙に性質が異なることが判明している。
「なんでそんな物が?」
「知り合いに預けるために持っていくんだと」
「へえ」
それ以上の質問はしない。
疑問に思うことはあるが、深入りしようとしても山崎さんが知っているとは思えない。
深入りしないことがロマンでもある。
代わりにどういう話題を振ればいいのだろう、と考えていると向こう側から口を開いた。
「なあ、知ってるか」
「なにをですか」
「チャオスの能力が7つあるということを」
またか、と可笑しく思う。
思わせぶりなことを言っておいて、なんでもないようなことを言う手のジョークが山崎さんは好きだ。
だからまたそれかと思って吹き出しそうになって、止まる。
「7つ?」
「ああ」
「6つじゃないんですか?」
「ああ」
「でも、6つしか見たことないですよ」
「使えるチャオスがいなくなったんだ」
「どういうことですか?」
山崎さんは口元を吊り上げる。
俺たちが一番盛り上がる話題。
それは本来恐怖されるはずのチャオスへの興味で溢れた話題だ。
「最初、チャオスは7匹しかいなかったらしい。そしてそれぞれのチャオスはそれぞれの能力を持っていた。俺たちの知っている6つと消えたもう1つだな。時間と共にお互いの能力が使えるようになったらしいんだが、1つだけは他のチャオスに扱うことができず、おまけに使うことのできた唯一のチャオスも姿を消したらしい」
「死んだってことですか?」
「たぶんそうだと思う。子孫も残さなかったんだろうな。死んでも死体が残るわけじゃないから確認できないのが辛いな」
「でもおかしくないですか?」
今では6つの能力を全て使えるチャオスがいてもおかしいことではない。
それなのに最初の頃はそれぞれが1つの能力しか使えず、時間と共にその境界が消えたとするのならば。
どうして7つのうち1つだけは他のチャオスが使えないのか。
「その能力だけ他の能力とは性質が異なる、いわば特殊なものだったのではないか、というのが俺の考えだ。どうだろうか」
違和感を感じた。
それはおかしい、と頭が反応する。
そもそもチャオスの能力そのものが特殊なものだ。
6つの能力のことを考えても、どのチャオスでもその能力を使えないという点がおかしい。
1匹のチャオスができることならば、どんなチャオスにもそれができる可能性があるはず。
では。
「そのチャオスだけ、チャオスじゃなかった、っていうのはどうですか」
「なに?」
「そのチャオスだけチャオスに似ているけれど、厳密にはチャオスではなかったんです。だからそいつの能力だけはチャオスに使うことはできない」
「能力が特殊なのではなく、能力を使う側が特殊だったということか。面白いな」
「でしょう?」
「さて。そろそろ仕事を始めるとしよう。しっかりと守れよ」
はたしてチャオスは出てくるだろうか。
カオスエメラルドにつられて出てくるという情報は聞いたことがない。
できれば出てきてくれた方が楽しい。
そうでないとわざわざ依頼された意味もないというものだ。
依頼人側からすればたまったものではないだろうが。
一方山崎さんはそういうことをあまり考えない。
金が手に入ればそれでいいからだ。
むしろ楽に金が入ると喜ぶことだろう。
しばらくして、護衛の仕事が始まった。
世間話をするのは山崎さんに任せる。
結果として、俺の嬉しい展開になった。
仕事が始まって数分もしないうちに、2匹のチャオスと対峙することになっていた。
「いくらなんでも早すぎだろ……」
山崎さんはげんなりとしていた。
彼は報酬の出る仕事しか請けない分、仕事を確実にこなす。
それは、俺の連れているチャオスが1匹であるのに対して山崎さんは3匹も連れていることからもわかる。
彼は他にも多数のチャオスを飼っているらしい。
見たことがあるチャオスだけでも10匹は超えている。
そのうちチャオスの軍隊でも作り上げるのではないだろうか。
そもそも一体どうやってそんなに多くのチャオスを飼いならしたのか。
謎である。
そしてその謎の大群の中から3匹が今日この場にいる。
全員連れ出さなくても大抵の場合問題ない。
事実今回も相手より数が多い。
それだけで有利なのだ。
それでも片方のチャオスは正面から突っ込んでくる。
体中のパーツがイノシシのものである。
1対4で勝てる武装とは思えない。
せいぜい猪突猛進という言葉にぴったりな外見というだけである。
走ってくるその勢いをどうにか殺せば勝ちは確定するだろう。
そのまま待機させ、相手の攻撃を待つ。
山崎さんも同じ考えだったのだろう。
4匹がそれを迎え撃とうと構えた瞬間、もう片方のチャオスが高く跳んだ。
チャオスは4匹を飛び越える。
ツバメの大きな羽パーツのシルエットが4匹の上を通り過ぎた。
そのチャオスの目標が依頼人だとわかった。
正確には依頼人の持っているカオスエメラルドだ。
「しまっ……」
俺よりも先に山崎さんが動いた。

3匹のうち2匹に対応させようとする。
しかしそれは阻止される。
追いかけようとした2匹にイノシシのチャオスが体当たりしていたのだ。
その攻撃は見事に2匹に衝撃を与え、行動を封じた。
ツバメの羽パーツをもったチャオスはそのまま邪魔されることなく依頼人へ突進する。
「うわあ!」
衝撃で水色のカオスエメラルドが地面に転がる。
依頼人に突進したチャオスは水色のカオスエメラルドを手にする。
そして、4匹の方へ向き直る。
「ちょっとまずいな。俺がカオスエメラルドを取り返す。お前はもう1匹を頼む」
「はい」
山崎さんの3匹がカオスエメラルドを持ったチャオスへ一斉に飛び掛る。
そして、シンバはもう1匹に接近して殴りかかる。
周囲にキャプチャできそうなものがないか探す。
このままでは不利だ。
なにかキャプチャしたい。
それと同時に相手のチャオスがどの能力を使うことを得意とするのかを探る。
相手はシンバから距離を取ろうとしない。
しかしながらキャプチャで攻撃するようなこともしない。
そうであるならば、ただ単純に能力で勝っていると思っているに違いない。
能力で勝っていれば相手にキャプチャさせなければ有利なまま戦うことができる。
ならば、やるべきことは距離を取ってなにかをキャプチャすることだ。
すなわちこの状況はキャプチャさえすれば優勢になると判断できる。
シンバに離れるように指示をする。
シンバは少しずつ敵から離れていく。
相手は無理に追いかけようとはしない。
なぜ追いかけないのか。
キャプチャできる余裕は作らせたくないはず。
違和感を感じた瞬間、チャオスは動いた。
先ほど突進してきた時のように全力疾走をする。
だが、それはシンバへ向かってではない。
攻撃対象は。
俺だ。
シンバもそれを追いかけるが、追いつけない。
逃げなくては。
そう思うより早く、体が逃げるべく足を動かした。
はずだった。
動くよりも先に胴体にチャオスが突進した。
体が地面に落ちる。
死んだな。
そういう諦めが脳を支配しそうになった。
地面に叩きつけられた痛みが思考を切り替える。
死にたくはない。
すぐに腕を使って体を起こすと、シンバが俺をかばうように壁となりチャオスとにらみ合っていた。
立ち上がるのを忘れてシンバの背中を見つめていた。
自分は助かったと思った。
いつもはその小さな相棒を見下ろしていたから気付かなかったのかもしれない。
低い姿勢から見たシンバは大きな存在に見えた。
シンバがいるからこそ自分の命があるのだと直感した。
その刹那だった。
「なっ……」
それは死刑宣告だった。
上から降ってきた何かがシンバを潰した。
衝撃で吹っ飛ぶなどという茶番はなく。
体がばらばらになり飛び散った。
一瞬ほど前まで自分を守る存在だったものが顔や体に付着する。
それは落下してきたのではなく、意図的に物凄い勢いで急降下してきたのだとわかった。
その犯人の姿はシンバに少し似ていた。
そりゃそうだ、と自分につっこみを入れる。
相手もこっちも同じチャオスなんだから似ているだろうさ。
水色の石を持ったチャオスに睨まれる。
チャオであれば睨んでいても可愛げな瞳だと思うだろう。
だが、目の前にいるそれの可愛げな瞳とやらには可愛さを塗りつぶすほどの殺気を感じ取れた。
そしてその視線を自分の代わりに受ける相棒はもういない。
二匹のチャオスはためらうことなく俺へ向かって飛び込んだ。
空から降ってくる水滴に自分の性質を変えられてしまいそうな。
そんな雨の日だった。

引用なし
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