●週刊チャオ サークル掲示板
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
3089 / 4005 ←次へ | 前へ→

CHAOS PLOT 「MY POWER YOUR POWER」
 スマッシュ WEB  - 10/1/7(木) 21:35 -
  
目が覚める。
いつも通りの朝だった。
オルガが既に起きていて木の実を食べているのを見ればそれがわかる。
お互いに生活パターンが固定されているいい証拠だ。
「なあオルガ」
「ん?」
新しい木の実を差し出してくる。
「いや違う。そうじゃない」
「えっと、じゃあ」
ころり。
ボールが転がってくる。
俺がこれで遊びたいと思っているだなんてどうやったらそんな解釈ができるのか。
ボールを投げ返す。
オルガはそれを片手で受け、落とす。
「ARKの中、どうなってるか俺まだよくわからないんだ。案内してくれないか?」
案内をしてもらうだけならば他の人間でもいいのだが。
一緒にチャオガーデンなんてところに暮らしているわけで。
嫌でも気になる存在であるし、嫌でないが気になる存在だった。
だからこそオルガに案内してもらおうと俺は思ったわけである。
「無理」
あっさり断られた。
「なぜ」
「私は忙しいの。チャオスが現れても撃退しに行けるの私だけなんだよ?ずっと待機してなきゃいけないのもあるし、疲れるし。だから無理なの」
「えー」
「えーとか言うな。どうしても案内してほしいなら私に楽させな」
褒美が欲しければ働けというわけだ。
取引である。
それをするくらいには俺のことは認められているともとれる。
そういう考えをすれば、むしろやる気が出てくる。
やってやる。
「俺の大活躍でお前は楽どころか仕事がなくなるだろう」
「まず戦えるようになれ」
オルガの投げた剛速球が俺の顔を真正面から捉える。
ご褒美、いただきました。
「そういえばさ、チャオスって大体どのくらい現れるんだ?」
「私たちが撃退しに行くのは最低でも10匹くらい集まっているっていう情報があったところだから10匹以上なのは確か。集まる理由として餌や小動物が豊富にあるっていうのが挙げられるね。餌については大体場所が決まっているから対処しやすいけれど、問題は小動物の方だね」
「いつどこに小動物が大量に現れるかわからんわけか」
「そう。だからいつどこにチャオスが大量に現れるかもわからない。ついでに、餌や小動物が豊富にあるからって大量に集まるかというとそうでもない。そういう群れを形成するのは強力なチャオスが必要なの」
「それはどういうことだ?」
「実力が同じくらいだと集団行動をするどころか自分の利益のために戦うんだよ。でも明らかに実力差があったり数の差があると劣っている方が退くか屈するかするしかないわけ。で、後者を選んだ場合が積み重なって群れになるっていうわけ」
つまり基本的には単独行動を好むということか。
命が危ない時だけ集団行動をする。
そういうことだとオルガは頷いた。
しかしどうして初めから集団行動をしないのか。
オルガがそれに答えた。
「チャオスの敵はチャオスだから」
他の生物は相手にならない。
他の生物から身を守るために集団になる必要はない。
殺されるとすれば、殺してくる相手は自分と同じチャオスだけ。
チャオスの敵となり得るのはチャオスのみなのである。
「じゃあ10匹以上の集団になるのは珍しいわけだ」
「まあね」
オルガがボールを蹴り上げる。
チャオはそれに触れようと必死に手を伸ばす。
チャオより何倍も高く上がったボールに触れられるわけもないのだがとにかく手を伸ばす。
「だからそれに見合った珍しいチャオスがいることもある」
落ちてきたボールはオルガがキャッチした。
チャオにとっては手の届かない場所へ行ってしまったままである。
「例えば、レアな小動物をキャプチャしてたりするわけ」
こちらを向いたままボールを横へ投げる。
チャオがそちらへ走っていく。
彼女の周囲からチャオがいなくなって俺の視線は彼女に固定される。
俺の目が彼女の表情を捉えてから、まるでその時まで待っていたかのように、オルガはそこで口を開いた。
「カオスチャオになる条件を満たすなら、出遅れないように気をつけなよ」
顔には微笑すら浮かんでいなかった。
アドバイスではなく、忠告なのだと理解する。
そう理解させるためにわざわざチャオをどけたのだろうか。
オルガはもうボールを追いかけていた。

訓練室。
俺はチャオスの体で動けるようになっていた。
歩くことも可能だし、走ることもできる。
飛ぶことすらできる。
まだ人間とのギャップに慣れてはいないが移動には困らない。
ここまでになるのに1ヶ月かかった。
前例がないためわからないが、早い方ではないのかというのは優希さんの弁だ。
美咲もなんやかんやでちゃっかり同じレベルだった。
実はわざと実力を俺に合わせて手を抜いているのではないのかと少し疑う。
「今日からは実戦に向けての訓練を行う」
まずは美咲からだ。
美咲が先なのはなんとなく習慣となっていた。
彼女自身が行動的であるという理由もあるためレディがファーストだからというわけではないと思われる。
「私ね、チャオスの体でできる必殺技を考えてきてあるんだよね」
その言葉を聞いて優希さんは露骨に嫌そうな顔をする。
美咲は派手なモーションで攻撃する(彼女いわく必殺技)のが好きだがそれをあまり好ましく思っていないようである。
美咲が攻撃してきた時に冷静に関節技などで対処するのを見ると攻撃の方向性の違いがあるようだ。
「ちゃんと見ててね。まだ技名考えてないから、それも考えてね」
なぜそんなことをしなくてはならないのか。
そう反論する前にカプセルは閉じられた。
ここで言っても向こうに聞こえるのだろうか。
悩んでいたが、すぐにモニタにチャオスが現れた。
「能力は6種類ともオンにしておくわ。好きに戦いなさい」
そして美咲以外のチャオスも出現した。
ダークが10匹ほど。
それが美咲を取り囲むように現れた。
「……鬼だ」
優希さんはマイクから離れた。
そしてとんでもないことを俺に言った。
「……最も強い設定にしているけどどうにかなるでしょ」
「うわ」
「ぼこぼこにやられてしまえばいいのよ」
私怨でもあるのだろうか。
毎日のように意味の分からない必殺技で飛び込まれればそうなるのもわからないでもないが。
さて。
美咲はどうなるだろう。
俺と同じくらいと想定して考える。
走ることに問題はない。
だが、相手の行動に反応して動くとなると話は別だ。
相手の動きを見てからしっかり動くことができるかどうか。
自信はない。
であるから、攻められれば負けてしまうことだろう。
実際にそうして前方の1匹が飛びかかってくる。
上からの攻撃。
後ろからもそれに合わせて美咲に向かって直進していく。
美咲はその両方を交互に見ているだけだ。
これはだめか。
と思ったが、眼前にチャオスが来たときに美咲は動いた。
飛び上がりながらアッパーを繰り出し、飛びかかってきたチャオスを撃墜した。
そのまま上空から着地し後ろから来たチャオス達の背後をとる。
すぐ傍にいたチャオスを蹴り飛ばし、右側、左側と順に倒していく。
残り4匹。
「嘘……」
優希さんが呟く。
「すごいですね、なんか」
「あなた、なにがすごいかちゃんと理解しているの?」
「え、6匹一気に倒したところが、ですよね?俺あんなに上手く動けませんよ」
優希さんはそれもあるけれど、と言いつつ首を横に振る。
「あの子、チャオスの動きをしっかり見ている」
動きをしっかり見ている。
どういうことなのか。
「向かってきた6匹を基本的に行動が早かった順に倒しているのよ」
「はい?」
言われてもどういうことなのかいまいちイメージできない。
俺たちが会話している間にも美咲は4匹に向かって突進していっており、既に3匹倒していた。
「美咲が棒立ちでいると仮定しましょう。その状態で最も早く美咲に攻撃できるチャオスから撃退しているの。そうすることで結果的に敵の攻撃を遅らせて、その猶予の間に敵を倒している」
解説されている間に4匹目も倒され、チャオスは全滅した。
もし解説の内容を意識的にやっているとしたら彼女の実力は俺より遥かに上だ。
その後、カプセルから出てきた美咲は冗談にならないジョークを言ってきた。
「弱くて必殺技使うまでもなかったよ。残念」
俺は同じ設定でやることになった。
結果だけ言う。
惨敗した。
「あなたは状況を見てからどう動くかを決めているけれど、ちゃんとイメージ通りに動けているかどうかで混乱している節があるわね。それによって動くのが遅れている。正確に動けているかどうかは気にしなくていいからその時の勢いに任せて動きなさい。勿論イメージ通りに動けていなかったら後で反省すること。それとまだ人間の体と同じように考えている部分があるわね。パンチやキックが少し不自然な動きだった。腕は人間の場合と大差ないとはいえ曲がらないこともきちんと把握しておくこと。ではもう1回やりましょう」
「え」
「美咲がクリアできたのだから、あなたもクリアできないと駄目よ」
「そ、そんな……」
「あはは、頑張ってー」
能天気に笑う美咲は今は恨めしい。
クリアするのに2時間ほどかかった。
その度に優希さんから駄目だしされた。
なぜそんなに詳しいのか。
そう思ってしまうほどの解説っぷりだった。

オルガは常にチャオガーデンにいた。
勿論、チャオスを殲滅しに行っている時はいないものの、それ以外であればほぼ確実にここにいる。
チャオの世話が好きだという印象はない。
最初の頃はそうだと思っていたが、次第にそうではないと訂正した。
美咲と比べているうちにわかったことだ。
美咲はよくチャオに木の実を食べさせようとしている。
他にはチャオをなでたりするものの、メインは空腹なチャオの腹を満たすことだ。
対してオルガ。
こちらはそんな気遣いをしていない。
寝ているチャオを無理に起こしたりするくらいだ。
世話をするというよりも一緒に遊んでいる。
ペットではなくまるで友人のように接しているのである。
今日も例に漏れることなく遊んでいた。
オルガがこっちを向く。
「橋本も遊ぶ?」
「いや、見ているだけで」
「そう」
オルガは遊びを再開する。
チャオたちがボールを追いかけてオルガを中心にぐるぐる回っていく。
チャオたちはとても楽しそうだ。
それに違和感を覚える。
「不思議なもんだな」
「なにが?」
オルガはボールを操っている。
そのためにボールを見ているが、実はチャオを見ているようにも感じられる。
「チャオスと同じ姿したやつと遊ぶのが」
「そう?」
「そう?って……」
こいつが無神経なだけかもしれないが。
チャオとチャオスを外見だけで判断することは難しい。
それこそ明らかにパーツがチャオのキャプチャできるものではなければ話は別だが、姿が全く同じである両者を外見だけで見極めることはほぼ不可能だろう。
それはすなわちここにいるチャオが実はチャオスである可能性を否定できないということだ。
「この中の1匹が……1匹じゃないかもしれないけれど、それがチャオスだったらどうする?」
聞いてみる。
それはないと即答された。
「いないと確定してるのか?」
「うん。ARKではチャオかチャオスかを見極めるための検査ができるの。で、それをクリアしてるわけ」
世界で一番安心してチャオと遊べるチャオガーデンだ、とオルガは言った。
それに、とオルガは付け足す。
「チャオと同じ姿したやつが誰かを殺すって方が信じられないと思わない?」
「俺はその逆だな。チャオスのインパクトは強烈すぎる」
「そう」
オルガは残念そうな顔をした。
しかし今時そのような考えを持つ方が少数派だろう。
ケイオスとしてチャオスを倒す立場だからこそそういう考え方ができるのかもしれない。
「ところで、橋本はどうしてケイオスになったの?」
「どうしてもなにも気付いたらケイオスになっていたわけだが」
「そういうことになっている、ってだけでしょ。本当のところはどうなの?どういう目的?」
「……どういうことだ?」
まるで俺はなにかをするためにケイオスになったと言わんばかりである。
偶然ケイオスになったことが、実は仕組んでいたことであったと。
そう言いたいのか?
だが心当たりは全くない。
俺は偶然チャオスにやられ、偶然この施設でケイオスになっただけのはずだ。
「言う気がないならそれでいいけど。君と私の目的が一致するといいんだけどね」
これは完全になにかを疑われている。
そもそも適合者でなければケイオスになれないはず。
そうであるから目的があるからといってケイオスにはなれないだろう。
本当に変なやつだ。

オルガはチャオスの数を数えていた。
大体30匹くらいいるとわかった。
これだけの数がいる理由は見たくなくても見える。
チャオの餌になる実がなる木が生えている地帯だったからだ。
そのような木は昔ならば散歩ついでにチャオに木の実を食べさせるのに都合がよかっただろう。
だがそんなことができたのももう20年も前の話だ。
今の状況を考えるならば切り倒してしまった方がいいと思われる。
自分にとっては相手が集まってくれるからいいけれども。
そこで思考を打ち切り、戦うことにする。
チャオスの体へと変身する。
ニュートラルヒコウの大きな羽を広げ、地を蹴る。
上から飛びかかる。
一番手前にいたチャオスの顔を殴り飛ばす。
低い弾道ながらも勢いがあったために遠く飛ぶ。
あまりにも豪快に吹っ飛ばれてしまったので他のチャオスに注目されてしまった。
多勢に無勢。
ただし無勢側は一騎当千だが。
その構図はまるで大勢を一気に倒して爽快感を得るゲームのようであった。
オルガはそのようなのん気なことを考えず、どうすればいいか悩んでいた。
ちゃんと戦えば負けはしないことはわかっている。
けれどもより効率的に大勢を相手に立ち回るにはどうするのが最善だろうか。
なるべく空中にいる方がいいのかできるだけ地上で戦う方が得策か。
どうやって数を減らしていくのが理想的か。
オルガはそれらに対してある程度の結論を出し、腕をゴリラのパーツに変えた。
ゴリラをキャプチャしてはいない。
しかし腕はゴリラのパーツのものになった。
異様な事態にチャオスは警戒する。
迷わずオルガは自分からチャオスへと向かっていき、そのうち1匹にアッパーを食らわせた。
空中に浮いた敵を追いかけ自分も飛ぶ。
地上にチャオスがどのような配置でいるかを確認しつつ浮いたチャオスを掴み落ちていく。
着地とほぼ同時にオルガはなるべく多く巻き込むように掴んだチャオスを投げる。
間をおかずにオルガは追撃しに向かう。
腕はトラのパーツに足はイノシシのパーツになっていた。
自分と同じ大きさのものが投げ込まれ身動きが取りづらくなっているチャオスたちを順々に切り刻んでいく。
生きているチャオスの数が一気に減る。
そしてその中から1匹を掴んでまた投げる。
ここまでいけばもう作業に等しい。
投げて切り刻んでその中からまた投げて切り刻む。
その繰り返しにより短時間でチャオスの数を約30から5まで減らすことに成功した。
「お?」
そこで気付く。
珍しいチャオスがいることに。
そのチャオスはフェニックスのパーツで身を包んでいた。
フェニックスはキャプチャしようと思ってキャプチャできるほど身近な小動物ではない。
なんとしても奪いたい。
オルガは逃げられる前にそのチャオスの懐へ飛び込む。
殺してしまわないように手加減することにした。
今、オルガの腕にはどの小動物のパーツもついていない。
最優先するべきなのは逃げられないようにすること。
オルガは殴りかかってきたその腕を掴み、足を払って地面へ落とした。
残りの4匹が逃げていく。
好都合だった。
攻撃してきたらそれはそれで対処しなくてはならないから。
倒れたチャオスに手を向け、キャプチャを試みる。
攻撃の能力でフェニックスを奪う魂胆だ。
実のところオルガはこれが得意ではない。
この能力に関してオルガはできるけれどできないと評している。
敵は何事もなく立ち上がる。
仕方なくオルガもキャプチャをやめる。
もっと長い時間倒れていてもらわないといけないと判断した。
今度は相手の攻撃を待たずに腕を掴みにいく。
相手も掴まれたらどうなるかわかっているからそれを避ける。
その攻防を何度か繰り返し、オルガは腕を回避させてから両手で敵の体を掴んだ。
そうして動きを止めてから片方の腕を離し、もう片方の腕で引き寄せ、離した手で顔面を思い切り殴る。
フェニックスをキャプチャしたチャオスは倒れずに踏みこらえた。
レアな小動物をキャプチャするだけの能力はあると評価しつつもオルガは今度こそ腕を掴んでいた。
「てぇぇいっ!」
今度は足を払って転ばせる程度では済まさない。
足を払い背負うようにして宙に浮かせ、空中から地面へ叩きつける。
ついでに地面へ激突した頭部を数回殴打し、それからキャプチャを始める。
しばらくしてフェニックスのパーツがオルガのものになった。
そして仕事だから最後にそのチャオスを消して、それから帰った。
とても満足のいく仕事であった。

「これを」
水色のカオスドライブを渡される。
それをキャプチャし、チャオスの体へとなる。
視界が低くなる。
VRでは背景がなかったからこの感覚にはまだ慣れない。
上を向く。
俺の腕にはまだアザラシのパーツがついていた。
前の戦闘と変わったところは見られない。
それを見て優希は導き出される結論を呟いた。
「成長はしない、と」
成長。
その能力を持つチャオスのパーツは徐々に発達していくという。
発達はより強く、より戦いやすく、より勝てるようにというベクトルで進んでいく。
俺にはそれが見られない。
次に優希が拳銃を差し出した。
「これはキャプチャできる?」
拳銃を受け取り、試みる。
無差別にキャプチャできるかどうかというテストだ。
拳銃はしばらく反応を見せなかった。
だが30秒ほどしてようやく。
体の中に入った。
ふむ、と優希が呟く。
結果は俺にもわかった。
確かに無差別にキャプチャはできる。
だけどもこれは実戦で使えるレベルではない。
実質できないのとそう変わりはない。
そういう結果であるはずだと俺は思い、事実優希からそう告げられた。
その後も能力のテストは続く。
キャプチャしたものを外部に放出することができるか?
先ほどの拳銃で試みる。
出すまでに1分はかかった。
おまけに飛び出すようなものではなく、その場で落ちた。
これでは攻撃に使用することはできまい。
次は攻撃の能力を調べることになった。
縄で縛られ身動きを取れなくされたチャオスが運ばれる。
そのチャオスに向けてキャプチャをする。
これには先ほどの2つより時間がかかった。
すなわちこれもダメ。
時間がかかったためここで休憩が入る。
その間にチャオスの体でいられる時間を測定される。
人間の体に戻ったのは水色のカオスドライブをキャプチャしてから約5分。
これが俺が1つのカオスドライブで戦える時間というわけだ。
さて、こんな調査をしている理由であるが。
今日はVRの設備が使えないのである。
2台目を入れるための作業が行われているそうだ。
明日からは2人同時に訓練が可能になるということだ。
訓練が効率的になる他、様々なことができるようになると優希さんは嬉しそうだった。
水色のカオスドライブをキャプチャし調査を再開する。
まずどれくらいの速さで走ることができるかを調べ、それからチーターをキャプチャする。
再び走る速さを測りどの程度能力が上がっているかを確かめる。
今更のことではあるが、訓練の成果もあり難なく走ることはできた。
結果としてはチャオスの能力の1つであるキャプチャによる身体能力の強化はないことが判明するという残念なものだったが。
最後に合成をするように言われた。
アザラシのパーツとチーターのパーツを合成せよ、とのことだった。
「どうやって合成をすれば?」
「そうね、どこのパーツを合成したい?」
「じゃあ腕で」
そこが無難なところだろう。
自分でも変化を見やすいだろうから。
「腕の中で混ぜる感じよ。やってみて」
「はい」
イメージの中で2つのパーツを混ぜ合わせる。
腕の中では血液のように液状となって流れる2つのパーツが渦を作り1つになっていく。
そのようなイメージ。
混ぜて混ぜて混ぜて。
しばらく混ぜ続けた。
これもだめなのだろうと思ったときにやっとアザラシのパーツから爪が生えた。
それでも遅い。
こんなことしていたらその間に殺されてしまうだろう。
これで6つの能力全て。
俺はどれも実戦で使うことはできないようだ。
あるいは使っても大して効果はない。
どうしたものか。
そんな思考を優希さんも張り巡らしているようだ。
口に手を当てて難しい顔をしている。
「似ているのよね」
「え?」
微かな声に反応した俺に対して、今度は俺に話すように普段の声量で言った。
「オルガに似ているのよ、あなたの能力」
「オルガに?」
「彼女もあなたと同じようにどの能力も実戦では使えるものでない。けれど彼女にはたった1つ、チャオスとして優れた能力を持っているの」
6つの能力とは違う能力。
聞いたことがある。
あの日、山崎さんが言ったのだ。
「なあ、知ってるか」
「なにをですか」
「チャオスの能力が7つあるということを」
確かこういう感じの会話をした。
7つ目の能力。
存在したらしいが、消えたはずの能力。
「それは、どういう?」
「彼女は『融合』と呼んでいるわ」
融合。
そこから連想されるのはキャプチャしたパーツを組み合わせる能力。
でもそれは合成と呼ばれている。
「その能力は、過去にキャプチャしたパーツを自由自在に発現消失できるのよ。あなたがもしキャプチャしないで自在にアザラシのパーツとチーターのパーツを入れ替えることができるのであれば、あなたもその能力が使えるということになるわ」
やるように促される。
腕を見つめる。
脳内でスイッチを切り替える。
チーターをONに。
腕のパーツはチーターのそれになる。
今度はアザラシを。
思考に体は即座に反応し、アザラシのパーツがONになる。
なるほど。
これが7つ目の能力。
消えたとされた能力。
これが「融合」なのだ。
「これは必然なのかしら。それともただの偶然……?」
優希さんの表情はオルガに似ていると言った時よりも険しくなっていた。
だが俺は自分に使える能力があることに満足していた。
それも、よりによって消えたはずの能力なのだ。
男の子ソウルが震えていた。

珍しく食堂にオルガがいた。
カレーを貪っている。
俺はカツカレーである。
「よう仲間」
対面に座る。
返事はない。動いているからただの屍ではないようだ。
「ヘイ、ナカーマ。ナカーマ?」
何度も呼びかけてやっと顔を上げてこちらを見た。
「なに」
「俺とお前は仲間だ」
「それカツカレーでしょ?」
オルガのスプーンが俺のカツを向いて指し示す。
「ああ、そうだが」
「私のはカレーコロッケカレーだから」
確かにオルガのカレーにはコロッケが乗っていた。
よく見るとコロッケの中身はカレー、すなわちカレーコロッケである。
カレーコロッケが乗っているカレー。
なんだその謎フードは。
「わからん……。その食べ物の意味がわからん……」
「戦闘員フード」
謎すぎた。
そんなものを食べる戦闘員がいるのか?
「この素晴らしさがわからないなんて……」
オルガは唖然としていた。
唖然としたいのは俺の方だ。
わからん殺しとかやめてほしい。
「というか、カレーだから仲間だと言ったわけではない」
「あ、そう」
「能力だ能力」
能力、と言った途端オルガの目が少し光る。
光ると言えども実際に光を発したわけではなく、目を見開いたために眼球に映る像が真っ黒な状態と比べて光っているように見えることへの比喩で――
とかそういうのはどうでもいい。
「能力」
オルガは俺の言葉を反復して興味があることを示した。
「今日調べたんだ」
「そうだ」
「で、仲間ということは、『融合』が使えるってことか」
「それどころの話じゃない」
「ということは」
オルガはそこでカレーを口に含む。
彼女の咀嚼に合わせて、俺もカツを口へ運んだ。
飲み込んでからオルガ。
「『融合』以外はだめだったってこと」
彼女の言葉は淡々としていた。
優希さんのそれとは全く逆である。
カツを喉へ通してから返事をする。
「ああ、そうだ」
「ふーん」
「しかし、『融合』は消えたはずの能力だと聞いた。なんで俺とお前は使えるんだ?」
そう問いかけつつも実はこんな仮設が俺の中にあった。
俺は最初に7つ目の能力を知ったときに言った。
その能力だけ消えたのは、その能力を使うチャオスだけ、実はチャオスではなかったのだと。
チャオスではないチャオス。
それはつまり、こいつと俺。
ケイオス。
ただこの場合、20年前からケイオスがいたということになるが。
「まあ、なんていうか、うーん」
彼女はそう言って言葉を選ぶ時間を稼いでから言った。
「チャオスの中に特別なのがいなかっただけ、かな」
「なん……だと……?」
その言葉の意味を深く考える必要はなかった。
特別であればチャオスでも「融合」は使える。
そう言っているのだ、彼女は。
「どう特別なら使えるんだ……それは?」
カレーを食べ終えた彼女が立ち上がる。
「ヒントはここまでです」
意地悪な返答を残して彼女は去っていった。
ヒント。今のがヒント。
チャオスに特別なのがいなかっただけ。
でも俺たちが「融合」を使える。
それは俺たちが特別だったということだが、それは一体どういう点でだ?
その特別な点を持っているのは俺とオルガだけだ。
「共通点を探すしか……ないな」
俺と彼女の共通点を。
そうしろという遠回しなヒントだったのだろうと思うことにした。

引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.0; ja; rv:1.8.1.8pre) Gecko/20071012 lol...@p090.net219126004.tokai.or.jp>

CHAOS PLOT 「CHAOS―チャオス―」 スマッシュ 09/12/23(水) 0:19
CHAOS PLOT 「CHANGE」 スマッシュ 09/12/23(水) 8:53
CHAOS PLOT 「CAPTURE」 スマッシュ 10/1/1(金) 17:25
CHAOS PLOT 「MY POWER YOUR POWER」 スマッシュ 10/1/7(木) 21:35
CHAOS PLOT 「CHAOS CONTROL」 スマッシュ 10/1/12(火) 22:30
CHAOS PLOT 「RESULT AND PLAN」 スマッシュ 10/1/15(金) 14:24
CHAOS PLOT 「X-AOS」 スマッシュ 10/2/2(火) 23:04
CHAOS PLOT 「CHAOS EMERALD」 スマッシュ 10/2/6(土) 13:07
CHAOS PLOT 「NEW CHILDREN」 スマッシュ 10/2/8(月) 23:00
CHAOS PLOT 「RESULT AND PAIN」 スマッシュ 10/2/10(水) 3:14
CHAOS PLOT 「PEACE」 スマッシュ 10/2/16(火) 23:24
CHAOS PLOT 「CHAO GARDEN」 スマッシュ 10/2/18(木) 0:12
CHAOS PLOT 「CHAOS―カオス―」 スマッシュ 10/3/2(火) 3:34
CHAOS PLOT 「CONFESS」 スマッシュ 10/3/31(水) 21:35
CHAOS PLOT 「PAST」 スマッシュ 10/4/29(木) 23:57
CHAOS PLOT 「SPACE COLONY ARK」 スマッシュ 10/5/6(木) 20:26
CHAOS PLOT 「RESULT AND POISON」 スマッシュ 10/5/6(木) 20:28
CHAOS PLOT 「PERSONALITY」 スマッシュ 10/6/30(水) 23:53
CHAOS PLOT 「CROSS」 スマッシュ 10/7/3(土) 4:04
CHAOS PLOT 「PHILOSOPHY」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:33
CHAOS PLOT 「RESULT AND CANNON」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:34
CHAOS PLOT 「CANNON'S CORE」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:35
CHAOS PLOT 「CHAOS―ケイオス―」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:36
CHAOS PLOT 「RESULT OF CHAOS PLOT」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:37
CHAOS PLOT 「ENDING OF CHAOS PLOT」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:38
感想はこちらのコーナー スマッシュ 10/7/17(土) 13:48

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
3089 / 4005 ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
56284
(SS)C-BOARD v3.8 is Free