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CHAOS PLOT 「CHAOS―チャオス―」 スマッシュ 09/12/23(水) 0:19

CHAOS PLOT 「X-AOS」 スマッシュ 10/2/2(火) 23:04

CHAOS PLOT 「X-AOS」
 スマッシュ WEB  - 10/2/2(火) 23:04 -
  
初陣の次の朝。
オルガは相変わらずチャオと遊んでいた。
チャオに楽器を持たせている。
ベルやタンバリンやマラカスを手渡していく。
当然だが全てチャオ用の物だ。
ここにそのようなおもちゃまであることには驚きだ。
青いチャオはたいこを渡された。
しかしそのチャオにとっては重いのか、演奏に元気がない。
あの青色のチャオ。
あれが先田さんのチャオである。
「もっとちゃんと演奏する」
オルガが拳骨を食らわせた。
「おいおいおいおい」
手加減はおそらくしているが。
いやそれでもまずいだろうそれ。
先田さんに怒られても知らないぞ俺は。
「演奏できないのは罪」
「だからといって殴っていいわけではないだろ」
他の楽器はないのかと聞く。
もうないとオルガは答えた。
では他のおもちゃで遊べばいいと返した。
するとオルガは、そういえば、と不思議そうに言った。
「昔は木馬のおもちゃがあったんだけど、今ないんだよね。どこにやっちゃったんだろう」
「昔っていつぐらいだ?」
「うーん。私が3歳くらいの頃かなあ」
現在オルガは確か16歳だったか。
となると13年昔の話になる。
「古くなって捨てたとかじゃないのか?」
「でも、ボールもあったよ。テレビもあったし」
「む、そうなのか」
木馬だけ捨てられたとは考えにくいな。
ボールとテレビだけ都合よく買い換えることができたとか。
しかしチャオスが増えて、チャオ関連のグッズが全く売れなくなった今ではそもそもその2つすら手に入らないのではないのだろうか。
ここに無いだけでどこかにあるという可能性もある。
「どっか変なところに入れられたままなのかもな」
「そうなのかな」
「誰かに聞けばわかるんじゃないか?」
そう言うとオルガは考え込んだ。
もう演奏のことは頭にないようにも見える。
フォローとして先田さんのチャオをなでておいた。
ポヨがハートマークになるまで中々時間がかかった。
「オルガー。橋本ー」
びくっとした。
先田さんの声だ。
振り向くと確かに先田さんがガーデンに入ってきていた。
「ふむ」
青いチャオをちらりと見る。
なでておいてよかった。
そう胸をなでおろす。
「お前ら、ちょっと来い」
簡潔に言って先田さんはガーデンから出ていく。
「なんだろ」
オルガが首をかしげながらそれに着いていく。
俺も彼女が口にしたことを同じことを思いながら後ろに着いていった。

先田さんに連れられて会議室まで来た。
そこには所長と優希さんが先に来ていた。
適当な場所に座る。
今回の任務はチャオスの殲滅ではなかった。
カオスエメラルドを奪取せよ、ということだった。
人工カオスを量産している人間がいる。
人工カオスというのは昔に作られた一種の兵器らしい。
その名前が示しているように、人工的に生み出したカオスだそうだ。
カオスが劣化した類似品でしかないそうだが。
とにかくその過去の技術を最近になって復活させた人間がいるそうだ。
そいつがカオスエメラルドを所持しているため、その住居に侵入して強奪するのだという。
チャオスを倒す任務ではない。
カオスエメラルドが必要だという話は前に聞いていたが、人間を襲ってまでも手に入れなくてはならないのだろうか。
もっと他の方法があるのではないだろうか。
そんな疑問があった。
オルガはどう思っているのかと横を見る。
目が輝いていた。
表情にいつも以上に元気があった。
非常にやる気があるようだった。
「今回は普段よりも達成が困難だと思われるため、白いカオスドライブを各自に5個ずつ用意したわ」
「へえ。私使ったことないけど大丈夫かな」
「まあ、チャオスの殲滅なんかで使わせてもらえるような物じゃないことは確かね」
それが5つももらえるというのは非常に有難いことだ。
それだけ困難な仕事だと示唆されているかもしれないわけだが。
「白いカオスドライブは勿論、水色のカオスドライブについてもできるだけ多く手配したわ。あなたたちがカオスエメラルドを入手して帰ってくることを心から期待しているわ」
優希さんがそう言って俺たちを送り出した。
白だけでなく水色も。
この期待には応えなくてはならないだろう。
結局、水色は1人につき5個配られた。
「水色も5個か……。結構きついな」
25分で決着をつけなくてはならないということだ。
短期決戦。
「私の分もあげようか?」
オルガが水色のカオスドライブを全て差し出してきた。
「いや、それじゃお前戦えないだろ」
全てを俺に任せられても困る。
そうするのであれば俺が全てを任した方がいいだろう。
しかしそうする気はない。
俺はこいつの仕事の負担を減らすことでこの施設の案内をしてもらうのだ。
ここに来てかなり時間が経っているのに、そのためだけに探索もしていない俺は実に律儀である。
先田さんに連れられて外へ出る。
車に乗り込んでも彼は何も喋らなかった。
前のように冗談を言う気はないのだろうか。
「静かだねー。緊張してんの?」
オルガの呼びかけにも反応しない。
「だめだこりゃ、緊張しすぎて喋れないみたい」
「いや、先田さんが戦うわけじゃないですよ」
ここで何らかの反応をしてもいいはずだった。
例えば、そう。
うるせー、だとか、わかってるそんなこと、だとか。
そういうリアクションもせずに黙々と車を運転する。
車は一定速度で進んでいく。
赤い信号で止まって、青くなると再び元の速度に戻る。
ずっと黙っていた先田さんはARKから離れると、口を開いた。
「あー、お前ら。これは俺個人の意見なんだがな」
とても言いにくそうに言葉を押し出していた。
「カオスエメラルドを手に入れなくてもいいから生きて帰ってこい」
「何それ、心配してるの?」
オルガが茶化すと先田さんは違うと声を低くした。
オルガもそれで何かを感じて真面目に問う。
「どういうこと?」
「お前らが死ぬと俺の計画が狂う」
「ああ、そういうこと」
オルガはそれで言及をやめる。
計画とはどういうことだ?
オルガはどうして納得できたのだろう。
「計画ってなんです?」
オルガが聞いてくれるなんてことはないだろうし、自分の聞きたいことは自分で質問するべきだろう。
だが、明確な答えは返ってこなかった。
明確どころではない。
曖昧な返答すらなく。
どう表現するか散々迷っていた挙句、最終的に知らなくていいと言い放ってきた。
謎だ。
そして怪しい。
そこでオルガが俺に対して言った。
「自分が企んでいることは、よっぽど信頼できる人でないと教えられないものなんだよ」
「どういうことだ?」
「もしかしたら、知られたら都合の悪い人物にまでその情報が伝わってしまうかもしれないでしょ」
「ああ、なるほど」
「情報がどういう経路で伝わっていくかわからない。だから本当に信頼できる人間にすら教えることはできないってこともある」
そういうことであれば仕方ない、ということになる。
しかし秘密にしなくてはならない情報であればあるほど知りたくなるわけだが。
どうにかして知ることはできないだろうか。
そう模索して無理だと気付く。
信頼できる人間にすら教えていないとしたら情報は漏れようがないからだ。
しかし、俺たちが死ぬと困るだなんて、一体先田さんは何を考えているのだろうか。
「お」
外を見ていたオルガが声を上げる。
豪邸が見えたのだ。
結構大きい。
遠くからでもその存在が分かる。
「あそこ?」
「ああ、そうだ」
「人工カオスってどんくらいいるの?」
「わからん。だが量産されていると言うのだから相当な数はいるだろう」
どんどん近づいていく。
豪邸の傍までは行かなかった。
ほんの少し前で車は止まる。
「車の中で狙われたらどうしようもないからな。俺ができるのはここまでだ」
もっと何かできたらよかったのだが、と先田さんは惜しそうに言った。
その後に、死ぬなということを再び。
俺とオルガは豪邸の傍まで歩いていく。
「なあ、お前はどのくらいの間変身できるんだ?」
「どういうこと?」
「水色のカオスドライブ1つでどのくらいの時間変身していられるんだ。俺は5分だが」
「あー」
オルガはすぐに返事をしてこない。
「えーと」
思い出しているのか。
そもそも、そんな重要な事を覚えていない?
「私も、5分、くらい」
「そうか。仲間だな」
「え、あはは」
本当なら、変身していられる時間が長い方が先に変身して、様子を見に行こうと提案しようと思ったのだが。
同じとなるとどっちから変身するべきだろう。
実力的にはオルガの方が上だ。
オルガが戦える時間をなるべく多くするべきだろう。
「俺が先に変身して様子を見てくる」
「わかった」
水色のカオスドライブをキャプチャ。
変身してすぐに飛び上がり、敷居の中に入る。
一見、なにもおかしいところはなかった。
しかし俺が入ってすぐに噴水の水が動き出した。
動いて散らばると、それぞれが一定の形を作り上げる。
頭部がカオスを模した機械になっており、それを液体が木の幹のようになって支えている。
あれが人工カオスか。
それらがこちらを向く。
頭部の目と思われる部分が光る。
危険を感じてすぐに加速して降りる。
上を大量のビームが通過した。
「おー、ちゃんと避けた」
着地した所に、既にオルガがニュートラルヒコウの姿でいた。
「お前……」
「結構数多いね。ちゃんと頭攻撃して倒さないと死んじゃうよ。それじゃ」
オルガはすぐに飛び去る。
飛ぶと行っても羽を動かし、ヒコウのスキルで移動しているだけで、地面すれすれを移動している。
俺もすぐに動く。
人工カオスの攻撃を避けなくてはならない。
オルガと反対方向に走る。
流れ弾に当たったらお互い洒落にならない。
人工カオスの弱点は頭部の機械部分だと言われた。
思い切りそれを蹴る。
硬い。
だが破壊できた。
感触から判断すると相当力を入れて攻撃していかなくてはならないことがわかった。
ずっとあんなものを殴り続けていたら手がどうにかなってしまいそうだ。
とは言え、やらなければどうしようもないのだが。
下手に手を抜いて破壊できないというのは避けたいし、1体1体全力で壊していこう。
ビームを避ける。
そして触手が俺に向かって伸びてくる。
この攻撃が厄介だ。
あまり突撃しすぎると全方位からこれらの攻撃が飛んできて回避が難しくなってしまう。
だから深入りできずちまちまと前の方に並ぶ人工カオスを撃退していた。
オルガはどうなのか。
好き勝手に飛び回っていた。
回避さえできればいいと思っているのか、とにかく飛び回っている。
人工カオスを撃退できているかというと、そうでもないようだ。
1発で破壊できていない場合もある。
だが周りから飛んでくるビームや触手には全く当たらない。
相手の集団のど真ん中で飛び回っているのに、だ。
俺はそこまで避ける自信はないので地道に倒していく。
しかし数が多い。
どうしたものか。
「あー、もう、飽きた!」
まるで楽しい遊びがなくて暇を持て余した子供のようにオルガが叫んだ。
そして俺はとてつもない衝撃に耐えられず飛ばされた。
見ると、人工カオスの破片が散り散りになって吹き飛んでいた。
白いカオスドライブを使いやがった。
もったいないと思うが、その効果はあって人工カオスの数が思い切り減っていた。
「橋本も使って!」
「お、おう」
オルガは上空へ避難。
俺は白いカオスドライブの力で再び攻撃を仕掛ける。
同じように残りの人工カオスが消えていく。
なんという破壊力だ。
優希さんに返り討ちにされたのが嘘みたいな効果を発揮している。
大量の敵に向かって数を減らすために、というのが正しい使い方なのだろう。
勿論、その大量の敵とやらがこの技を使うまでの隙を突いてこない、いわば雑魚だという前提で。
庭の人工カオスは殲滅完了した。
ちょっとの時間が経って俺の体が人間に戻る。
それに呼応するかのようにオルガの体も少女のものとなった。
冷たい風が動いて熱くなった体を冷やす。
秋の昼は夏ほど明るくない。
だからあまりいい気のしない空だ。
これから豪邸の内部に入らなくてはならない。
「中にはもっといるのか?」
「だったら嫌だなあ」
「ああ、キリがない」
ここからさっきよりも多い人工カオスの大群と戦わなくてはならないと想像すると帰りたくなった。
先田さんも生存を優先していいと言っていた。
帰っても許される気がした。
帰らないにしても冗談として提案していい。
そう思って言おうとした矢先。
「提案があるんだけど」
「……なんだ?」
帰りたい。
そう言ってきたらなんて返してやろうか。
俺も帰りたい、ってところだろうか。
オルガが帰りたいと言ってきたら、無理せずに諦めて試合終了でいいはずだ。
そこであえて、いや行こう、などと勇ましいことを言う気など間違ってもあってはならない。
「カオスエメラルドってどこらへんにあると思う?」
予想に反してそんな質問が来た。
そしてその質問からは嫌な予感が溢れていた。
「向こう側が奪われないようにするなら、少なくとも最上階だろう」
最上階は何階だろうか。
建物の高さから軽く予想を立てる。
4階くらいだ。
結構高いぞ。
そこまで人工カオスの連戦だなんて考えたくない。
やっぱり帰った方がいいだろう。
「でさ、この白いカオスドライブのやつ、美咲は何て言ってたっけ、えーっと」
「カオスブラスト、だったか?」
いつ考えても変てこなネーミングだと思う。
「そうそれ。そのカオスブラストの威力ってすごいじゃん?流石に2発当てればどんな硬い壁でも突破できると思うんだよね」
物凄く嫌な予感がした。
いや、ここまで言われればもはや予感などというものではない。
もう何を提案してくるか大体読めてしまうのだから。
ここからその流れになるのはあり得ないとわかっていながらも、帰る、という言葉を強く希望してしまう。
「そういうわけで」
数分話し合った後。
2人で変身して飛び上がる。
高く高く上がり、屋根を視界の下にいれる。
窓の外から攻撃されては困るから、最上階の中央辺りにカオスエメラルドはある。
そういう推測だった。
「じゃあ、行くよ」
頷く。
「いっせーのーで!」
白いカオスドライブの莫大なエネルギーを足に集中させて急降下する。
お互いに身を近づけながら降りていく。
風を受けながら屋根が近づいてくる。
狙いを定める。
屋根を踏みつけるかのように着地するがそこで止まることなく白いカオスドライブの力で屋根をそのまま破壊していく。
突破できた。
豪邸に穴を開けて、俺たちは室内に着地した。
「素晴らしい稲妻だねえ」
枯れた声がする。
目の前に人がいる。
白髪の老人だ。
侵入されたというのに、笑顔を見せて余裕さをアピールしている。
俺たちの外見はチャオスなのだぞ。
人類が恐怖する化け物なのだぞ。
それを前にしてこの余裕っぷりに不安になる。
「君たちはただのチャオスなのかな?それとも違うのかな?」
オルガが一歩踏み出す。
老人を攻撃するつもりだ。
そうすれば彼は死んでしまうことだろう。
オルガの足が地面から離れて、羽が動き空中で加速する。
しかしそれを液状の細い触手のようなものが遮った。
「どちらにせよ、こいつの力を試すのには丁度いいだろう」
老人の笑みが邪悪なものとなっていく。
邪悪、という表現が正しいかはわからない。
だが少なくとも俺たちの死を歓迎するような笑顔だった。
液状のそれは老人の前に集まり、形を作っていく。
頭部に機械があるというのは人工カオスと変わりない。
それでも機械のデザインがまるで違うものだった。
スーパーロボットとでも表現しようか。
そしてそこから肩や腰、腕や足にも同じように機械が付属し、液状の敵は人間と同じような形へなった。
ただしサイズは老人より少し大きい。
老人も人間にしては背の高い方なので、あの人工カオスは人間より少し大きいと言ってしまっていいのだろう。
チャオスの体である俺たちから見れば化け物と言わんばかりの迫力だった。
胸にはカオスエメラルドがある。
そのカオスエメラルドを取り込んだ人工カオスが右腕を伸ばしてくる。
俺とオルガは避ける。
相手の動きは遅かったからそれは容易だったのだが、威力の高さが床に穴が開いたことでよく理解できた。
液体が叩きつけられただけだぞ?
「これぞ私が作り出したカオス。『X-AOS』だ!」
カオスエメラルドを利用して人工カオスを更にカオスに近づけたというわけか。
こちらとしてはこんなやつ倒さなくてもいいのだが、肝心のカオスエメラルドはあいつの中。
どうしたものか。
オルガは躊躇無くX-AOSとやらに近づいていく。
両腕の攻撃、目から放たれるビームを避けて相手の目前に行く。
頭部の機械を思い切り殴りつけた。
なるほど。
確かに人工カオスと同じであればそこを破壊すればいい。
しかし、オルガは一発殴っただけで俺の所まで戻ってきた。
「だめ。硬すぎて無理。めっちゃ手が痛いもん」
その報告が聞こえた老人は少し驚いたようだった。
「ほう、最近のチャオスは人間の言葉を喋るのか。では1つ言っておこう。他の量産型と同じようにするな、と」
X-AOSが左腕を振り上げる。
急いでできるだけ遠くに離れる。
太い腕が鞭のように叩きつけられた。
床にぶつかる衝撃で腕がはじける。
液体が飛び散った。
それで左腕の大半が失われる。
これはチャンスではないだろうか。
俺は欠けた左腕の方向から走る。
X-AOSの目が俺の方を向いた。
右腕は動かない。
無防備だった。
白いカオスドライブの力を発動する。
これで頭部を破壊すればいい。
そう思って見たX-AOSの目が光った。
横に飛ぶがビームは出てこない。
「後ろ!」
オルガが叫ぶ。
それを受けて俺は後ろを見た。
「っ!?」
さっき飛び散った水滴が動いている。
少しずつ加速していた。
そしてそれはまるで矢のような速さになっていきつつ左腕に集合してくる。
その経路にいた俺は当然それによって撃ちぬかれそうになっていた。
白いカオスドライブの力で瞬間移動する。
どうにか事なきを得た。
「危ないな」
「でも色々正解。攻撃方法とか回避の仕方とか」
死にかけたけどな。
あと白いカオスドライブを無駄に使った気分である。
また腕の攻撃。
水滴が飛び散る。
これらが回収されるのを待つ。
だが今度は単純に集まってくるわけではなかった。
飛び散った水滴が一旦その場で集合し、大きな水溜りになった。
まるでゲルのようにまとまって移動し始める。
どろりと意思を持っているかのようにオルガへ向かってうねった。
避けるとその腕だった部分はカーブを描いてX-AOSの腕へと戻る。
なんでもありか。
今の2回の攻撃があったおかげで俺たちは中々攻撃に転じることができなくなった。
近づいたら白いカオスドライブの力を使う前に面倒な攻撃で翻弄されてしまうだろう。
もしかしたら、まだ攻撃のネタがあるかもしれない。
確実にあると考える方がいい。
だからこそやたらと無茶な行動をするオルガも慎重に動いているのだ。
人間の体に戻る前に水色のカオスドライブを取り出して、キャプチャする。
チャオスの体では自分の体から物を取り出すことができる。
これはチャオの時からできたことだと思う。
どういう理屈だかはよくわからないがキャプチャと似たようなことではないだろうか。
ともかく、これで変身していられる時間を5分延長する。
結局最後の5分になるまで様子見で終わってしまった。
中々攻撃に踏み込めない。
しかし残り5分で決着をつけなくてはならない。
先に攻撃をしに走ったのはオルガだった。
少しずつ近づきながら当たれば死ぬであろう腕を避ける。
本当に少しずつ近づく。
急いで近づいて初見の攻撃に殺されては洒落にならないからだろう。
X-AOSが腕をオルガに向ける。
ロケットパンチでもしてくるのだろうか。
今までの挙動を見ているとそうしても不思議ではなかったが、実際の攻撃はそれよりも避けにくいものだった。
腕がはじけて飛んでくる。
それは細かい水でできた銃弾のよう。
一瞬で弾幕が張られる。
オルガはそれをあり得ないスピードで弾幕の外へと回避しながらX-AOSに近づく。
白いカオスドライブの力だ。
俺が優希さんの銃弾を避けたように、遅くなった時間の中でオルガは弾幕から逃れた。
そして敵の目の前。
もう1つの腕がオルガを狙っているのに俺は気付いた。
またあの攻撃をするつもりだろうか?
阻止しなくては。
俺は白いカオスドライブの衝撃波で攻撃する。
腕がX-AOSの後ろへばらばらになって飛んでいく。
同時にオルガが頭部へと白いカオスドライブを用いた攻撃をぶつける。
「えっ……」
それでもX-AOSは健在。
攻撃などされていないかのように頭部のパーツに変化が見られなかった。
なんということだ。
しかしオルガがそこで再び衝撃波を放つ。
彼女の最後の白いカオスドライブの力だ。
今度は頭部ではなく胴体に。
それでX-AOSの体がえぐられる。
カオスエメラルドがむきだしになった。
オルガがカオスエメラルドを掴む。
「よしっ」
これでカオスエメラルドゲット。
後は白いカオスドライブの力で瞬間移動して逃げればいい。
と思ったのも束の間、瞬時に胴体がカオスエメラルドの周りに復活し、オルガの腕がそのゲル状の体に捕らえられた。
「くうっ……」
カオスエメラルドが光る。
そうか。
白いカオスドライブでできる事はカオスエメラルドでできる事の再現。
だから今度はカオスエメラルドの力を使って瞬間移動して逃げればいい。
X-AOSの目が光る。
呼応したかのようにカオスエメラルドが発していた強い光が消えて元の状態に戻ってしまった。
「橋本、逃げて!」
オルガが叫ぶ。
逃げれば俺は助かるだろう。
しかしここで逃げてはいけない気がした。
なんでそんな気がしたか考える余裕はない。
こっちは残り5分もないんだ。
なのでX-AOSへと走る。
俺が使用できる最後の1つの白いカオスドライブが正真正銘最後の白いカオスドライブ。
これを瞬間移動して逃げることに使用できなければ負けだ。
つまり相手の攻撃を避けるのに使うことができない。
仮に今俺の方へ向けられている2つの腕の両方が1発1発に俺を殺す力を持たせた弾幕攻撃になろうともだ。
あの人工カオスを騙せ。
俺はジャンプする。
俺の動きを腕が追う。
そして着地する時に腕がはじけた。
両方だ。
両方が弾幕を張る。
これは読めていた。
だから俺は着地せずに空中でもう1度ジャンプしていた。
実際にはジャンプなんてしていない。
頑張ってそう見えるように飛んでいるだけだ。
美咲がやっていたことが役に立つとは。
もう1回ジャンプして高さを稼いで弾幕を避けきる。
腕を無くしたX-AOSは目からビームを撃つ。
これも壁を蹴るように空中で軌道を変えて避けていく。
「オルガ!もう1度カオスエメラルドで!」
その呼びかけに応えてオルガはカオスエメラルドを光らせる。
X-AOSがオルガの方を向き、目を光らせる。
そうやってオルガが瞬間移動をして逃げてしまうのを防ぐ。
これが俺の狙いだった。
X-AOSがオルガに気を取られている間に近づき、白いカオスドライブの力でオルガごと瞬間移動する。
強い光に包まれる。
光が弱まり、地面に着地するとしっかり外に出ていた。
オルガの手には赤いカオスエメラルドがあった。
「大丈夫か!」
豪邸の門の前まで先田さんの車が来ていた。
心配しすぎだが、助かった。
X-AOSは動力源を失ってもうただの液体と化しただろうが、追っ手が来るかもしれない。
車に乗り込み、俺たちはその場から離れた。

チャオガーデン。
カオスエメラルドを渡したり、もろもろの報告が終わって寝床に帰還。
オルガは早くも寝転がっている。
疲れているのかチャオが寄ってきても無視している。
チャオが触れても反応がない。
まるでただの屍のようだ。
「なあ」
「んー?」
しかし声には反応するようだった。
相変わらず体の動きはないが。
俺もあまり動く気はしないので変に何か物体を投げつけられるよりかはいいだろう。
「気になったことがあるんだが」
「何」
あの時の状況を思い返す。
残り時間は5分未満。
おそらく4分程度だったと思われる。
白いカオスドライブは残りオルガは3個で俺が2個。
少し場面を進めると白いカオスドライブの残りがオルガは1個で俺が1個になっていた。
どうしてあの時、逃げることを選択せずにカオスエメラルドを取りにいったのか。
それを聞いた。
「どうしてって、カオスエメラルドが欲しかったからだよ。それにあの時はゲットできるチャンスでもあったわけだし」
「それにしたって、一度逃げて仕切りなおすことだってできるだろう。カオスエメラルドになんでそこまで拘る?」
逃げても十分な位には相手へのダメージを与えていたはずだ。
人工カオスの数も相当減らし、最上階への侵入ルートもできた。
新たに白いカオスドライブと水色のカオスドライブを用意するのにどれだけの時間がかかるかはわからない。
その間に相手がどういう事をするかもわからない。
だからって無理にカオスエメラルドを入手しようと白いカオスドライブを使って後がない状況にするのもおかしい。
結果的にはしっかり攻撃は効いてカオスエメラルドを入手できたからまだいい。
仮に防がれたりしたらどうする?
逃げる方が無難な選択だ。
それはわかっているはずだ。
「カオスエメラルドが手に入る。そのリターンのためならあの位のリスクは安いものだよ」
「どうしてだ」
「どうしてって、そりゃカオスエメラルドを7つ揃えれば願い事が叶うからに決まってるでしょ」
カオスエメラルドにそのような効果はないとされる。
だが、願い事が叶うという表現は間違いではない。
無限の力を持つカオスエメラルドは使用者が思い描く事を実現できるからだ。
「橋本だってそのために逃げなかったんでしょ?」
違う。
そうではない。
少なくとも俺はそういう動機で動いていなかった。
どういうつもりであんな行動をしたか。
それを正確に表現するのは難しいし、自分でも把握できていない。
けれども。
子供の頃、チャオスを助けた時のように。
前にチャオスに襲われている人たちを助けていた時のように。
殺されてしまいそうだったオルガを見捨てることができなかった。
だからこそ助けようと思って行動した。
そう否定したらオルガは笑って言った。
そういうことにしておいてあげるよ、と。
確かにカオスエメラルドを集めて願いを叶えるため、という動機と比べれば弱い。
自分の願いを叶えたいと思うことがどれほど勇気になることだろう。
他人を助けたいと思うことがどれだけ勇気にならないことだろう。
あるいは。
俺には他人を助けるためでなくては動けないほど、自分の願いが無いのではないのだろうか。
どうして俺は戦っているのだろう?
引用なし
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