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CHAOS PLOT 「CHAOS―チャオス―」 スマッシュ 09/12/23(水) 0:19

CHAOS PLOT 「CHANGE」 スマッシュ 09/12/23(水) 8:53

CHAOS PLOT 「CHANGE」
 スマッシュ  - 09/12/23(水) 8:53 -
  
長いこと寝ていた。
いろいろな夢を見た気がする。
その中にはとっても大切な夢もあった気がする。
でも、思い出せない。
何時間も何時間も寝ていた気がして。
俺は目を覚ました。
天井にある蛍光灯が俺の家にあるものとは形が違う。
細長い蛍光灯が天井につけられていた。
どこかに連れてこられたのだと悟る。
それも誰かの家だとそういう所ではなく。
学校やら病院やら。
そういう所にだ。
「お、起きた」
声のする方を向く。
そこには紫色のツインテールの少女がいた。
初めてみる子だ。
「君は……?」
「あ、ちょっと待ってて。今起きたって連絡入れるから」
少女は携帯電話をちらりと見せて、これで電話するアピールを一瞬してからボタンを押し始めた。
まわりを見渡す。
何もない部屋だ。
この少女がおらず、ドアにも鍵がかかっていたらそれはそれは大変な状況だったことだろう。
脱出ゲームをするにしてもアイテムのありそうな場所が横たわっているベッドの下以外ない。
あとはそのまま床に落ちているか壁にギミックがあるかの二択だ。
ナースコールもない。
病院などではないようだ。
「今起きた。うん。ええ?時間がかかるって……。は?適当になんか話せ?」
部屋の中には壁とベッドしかないため、視線は自然と少女の方へ戻った。
紫色の髪。
それは本来日本人の髪の毛の色ではない。
むしろ、そんな色の髪の毛をした人種がいるのかどうかも怪しい。
顔の色からするとモンゴロイドではあるのだが。
染めた場合以外にそのような色をすることはないだろう。
髪の毛を凝視するが、根元まで紫のままだ。
「わかったけど、できるだけ早く来てよ」
少女は通話をやめ、ため息をついた。
そしてもう一度ため息をついてから俺を見る。
「ちょっと時間かかるって」
「何に?」
「あー、あれ」
少女は天井へ視線を向け、指を上に向けてくるくる円を描きながら言葉をひねり出そうとしたが。
「責任者」
「責任者?」
「そう、責任者っぽい感じの人」
とても曖昧であった。
偉い人、ということではあるらしい。
「まあいいや、私はオルガ」
少女が名乗る。
日本人ではないようだ。
「あー、俺は」
名乗ろうとすると、いいよ知ってるから、とオルガは遮った。
知ってるのか、と聞き返す。
少女は頷いて俺の名前を言った。
「進むって字なのにそのまますすむって読み方じゃないんだね。音読み」
「俺はこっちの方が気に入ってるかな」
「同じ読みの漢字の意味も由来として込められているってネタもありそうだね」
「かもな」
そこで話が途切れる。
その沈黙を逃さず質問を投げかける。
「その髪、染めたのか?」
やっぱり髪のことは気になる。
「これ地毛。染めるなんてそんなのしないよ」
「珍しすぎる色だ」
「まーねー」
「でも綺麗な色だな。染めてないと言われても納得できるかもしれん」
「いいでしょー?」
「ああ、そうだな」
そこでドアが開く。
白衣で眼鏡の男が入ってきた。
「おはよう、橋本君」
「どうも」
「オルガ君から話は聞いたかい?」
「いえ、全く」
その反応に男は少し固まり、頭を抑えた。
「しなかったのか?」
「うん」
素直にオルガは答える。
「まあいい……。私はこのARKの所長の後藤だ」
「ARK?」
「……」
後藤と名乗った男は再びオルガを見る。
「なにも話をしていないのか?」
「名前の話と髪の毛の話はしたけど」
「それだけ?」
「私になにを期待しているか知らないけど、それだけしかしてないよ」
彼はまた頭を抑える。
今度の硬直時間は少し長かった。
「とりあえず、そうだな……。ここがどこだかを話そう。ここはARK。チャオスの研究及びチャオスの撃退を行う施設だ」
「ああ、チャオスの……」
本当に病院ではなかったらしい。
というか、チャオスの研究及び……?
そんな施設があったのか。
全く知らなかったぞ。
どうして自分がそんな場所にいるのか。
それを尋ねた。
チャオスによって負傷した人間がチャオスについて研究する施設に送られる理由。
そう考えた場合どのようなものを予測するだろうか。
チャオスと接触することでなんらかのウィルスが人体に送り込まれる、という展開か。
それを治療するには病院ではなくここが最適、というわけだ。
だが、返ってきた答えは負傷などとは全く関係のないものだった。
「それは君がケイオスの適合者だったからだ」
「ケイオス……?」
彼の携帯電話が鳴る。
すぐに彼はそれに出る。
少し会話して、切る。
時間にして30秒に満たない、スムーズなやりとりだった。
「実際に体験すればわかるだろう」
そう言い、男はオルガに告げた。
「仕事だ。彼も連れて行きたまえ」
「はーい。ほら、行くよ」
オルガに手を引かれベッドから降りる。
そしてオルガの後ろについていく。
「なあ、ケイオスってなんなんだ?」
「んー、説明するのって難しいんだよね」
唸りながら考えるが、なにも思いつかないらしい。
やがてオルガは答えを出す。
「やっぱ、実際に見た方がわかりやすいよ」
投げた。
こいつ、投げやがったな。
そんな強烈な視線を浴びせる。
浴びせまくる。
意地でも浴びせる。
自分の身になにをされたのかわからないのだから、余計に力が入る。
効果があったか、慌ててオルガはフォローを入れてきた。
「まあ、わかりやすく言うなら英雄かな」
「英雄?」
「うん。人間を助けるから、ヒーローってとこでしょ」
英雄。
ヒーロー。
そういうのになれたのであれば、悪い気はしない。
だが、どういう存在に自分がなったのかはまだわからない。
ケイオスとはつまりなにかの役職なのか?
それともなにかと戦う存在か。
そのなにかはチャオスしかいないわけだが。
しかしそうだとして、歩いていても身体能力に変わりがなさそうであるのが疑問であった。
その答えを彼女は知っている。
彼女についていけばそのうちわかるのだろう。
距離を離すことなく俺は歩いた。

外に出る。
この施設は大きなドーム型の建物だということを実際に外から見て知る。
空は基本的に黒色だった。
どうやら昼ではないらしい。
それで自分がチャオスにやられてから何日経ったのか気になった。
オルガにそれを聞くと、2日という答えが返ってきた。
「こういう場合2日寝ていたのは長いのか短いのかよくわからないな」
「わかる人っているの?」
「年がら年中チャオスにやられているやつならわかるんじゃないのか」
「それ死んでる。絶対死んでる」
違いない。
「おーい、こっちだこっち」
中年の男が手を振っている。
外見は全く違うが、外見から推測される年齢は後藤さんと同じくらいだろうか。
「君が橋本君か。俺、先田。よろしく」
「どうも」
「さ、こっちだ」
男に連れられていく。
歩いて駐車場へ。
その中の一台に案内され、乗せられる。
俺は後部座席、オルガは助手席だ。
「これ俺の車だから変なことするなよ」
中を見ても普通の車と変わったところはない。
完全に先田という男の私物であるようだ。
「これからどこへ行くんですか?」
「どこって、チャオスが群れて出現したとこ」
やはりチャオスか。
戦うのだろうか、それとも住人の救出だろうか。
「なに、もしかしてなにも知らない?ってかなにも聞いてない?」
「まあ」
「うわ、ありえん」
「所長が実際に見た方がわかりやすいって言ってたよ」
オルガの言葉を聞き、ふむ、と先田さんは無言になった。
が、すぐになにかを思いつき口を開いた。
「でも単純なことじゃないか。チャオスになってチャオスと戦うってだけだろ」
「はい?」
自分の耳を疑う。
チャオスになってチャオスと戦うと聞こえた。
事実先田さんはそう言った。
「俺、人間ですよ」
「うん。でもケイオスって人間がチャオスになって戦うんだぜ?かっこいいだろ」
「えっと、よくわからないんですけど、変身ヒーローみたいなもんですかそれ」
「そう、それだ」
先田さんが非常に威勢よく反応した。
「変身するんだよ、チャオスに。かっこいいだろ」
かっこいいからってテンション上げられても困る。
「でもそういうのって特撮チックなものであって現実には」
「できるのさ」
先田さんは得意気に断言する。
なぜできるのかと問う前に車が速度を落とし、停止する。
「着いたぞ」
そう言うや否やオルガはシートベルトを外し、ドアを開ける。
「待て待て落ち着け」
「なに」
落ち着けと言われた時には既に車の外に出ていたが、顔を再び車の中に戻す。
先田さんはその顔に向けて水色のカオスドライブを差し出した。
怪訝な顔でそれをオルガは見た。
先田さんは手首を使ってそれを僅かに動かし、受け取れと言わんばかりの動作を見せるがオルガは受け取らない。
「いや、受け取れよ」
「どうして?」
「どうしてってお前、これ変身ツールだしさ」
オルガの顔は今度はぽかんとしている。
停止して数秒。
視線だけ俺を見た。
「そういうことね」
腕を伸ばして水色のカオスドライブを受け取った。
そして顔と腕を引っ込め、走っていく。
俺、なにかした?
「ほら、お前もだ」
先田さんから水色のカオスドライブを渡される。
こんな色のカオスドライブを見るのは初めてだ。
まじまじと眺める。
これはチャオにキャプチャさせたらどうなるのだろうか。
緑はハシリ、黄色はオヨギ、赤はチカラ、紫はヒコウ。
もう1つはスタミナだから、これはスタミナが上がったりするのだろうか。
「これをどうすれば」
「それをキャプチャすればチャオスの体になる」
「キャプチャって、俺がですか?」
「そうだとも」
どうやら自分はこの水色のカオスドライブをキャプチャすることができるらしい。
いよいよ普通の人間から遠ざかってしまったな。
しかし、どうやってキャプチャするのだろう。
とりあえず聞いてみることにした。
「どうやって?」
「知らん」
即答だった。
じゃあどうしろと?
自分がチャオであったらポヨを疑問符にするどころか泣き出しそうなほどの理不尽さだ。
「あー、まあオルガに聞けばわかるんじゃないのか。とりあえずとっとと行け」
車から追い出される。
自分が行かなくても彼女だけでどうにかなってくれないものか。
そんなことを考える。
足元に勢いよくチャオスが転がってきた。
腕を伸ばしてくる。
だが、それには攻撃になるほどの勢いはなく。
すぐに力を失って動かなくなった。
本当に彼女に任せていいのかもしれない。
そう思いつつ彼女が何匹のチャオスと戦っているのかを確かめる。
ざっと20匹はいた。
前言撤回。
オルガは死ぬだろう。
俺が助太刀に行ったところで1人につき10匹のチャオスと戦わなくてはならない。
そもそもあの中でオルガが生きているかどうかもわからない。
先ほど足元に飛んできたチャオスこそがオルガだったのかもしれないのだ。
戦場からはまだ距離がある。
今のうちに逃げれば助かる。
「どうした、早く行け」
背後から釘を刺された。
「あんな大勢の相手は無理ですよ。死にますよ」
「いいや、死なないね」
「どうして」
「お前はケイオスだからだ」
わけのわからない理由に絶句する以外道はなく。
逃がしてはもらえないのだと諦めた。
生きて帰れたら幸運だと心の中で遺書を読み上げる。
ちゃんと書いておけばよかったな、遺書。
そんな感じの諦めで満ちていた。
まあ、元々あの時死んだようなものだし……。
「ほら、あそこにいるニュートラルヒコウがオルガだ。おーいオルガー」
先田さんが呼びかけると紫のチャオスは一瞬だけ振り向いた。
すぐに向かってきたチャオスに対して反撃し遠くまで飛ばす。
どうやら、数が多いために攻撃しに近寄ってきたチャオスをさばいていくので精一杯なようだ。
「なにー?」
そう紫のチャオスが大声で叫んだ。
チャオスが人間の言葉を話した。
そう驚く暇はあまりなかった。
本当にあの少女はチャオスになって戦っているらしい。
声がオルガのそれだったため、信じざるを得ない。
「こいつにどうやってキャプチャするのか教えてやってくれ」
返事はない。
まるで作業のように近づいたチャオスを強引に退けるのみ。
殴って飛ばし、蹴って飛ばし、また殴って飛ばした後に返答があった。
「手」
「手?」
「手から自分の体の中に吸収する感じ」
「だそうだ」
「はあ」
やるしかないらしい。
手に持ったカオスドライブを見つめる。
水色のカオスドライブ。
これを自分の体内に吸収する。
入れ、と念じる。
何度も何度も。
入れ入れ入れ入れ。
何度も念じて、カオスドライブは光った。
それがキャプチャに成功した合図なのだとすぐにわかった。
意外にもあっさりとできた。
そう思っている間に、俺にとっての世界は広くなった。
いや。
俺自身が小さくなったのだ。
自分の手を見る。
それはチャオスの手になっていた。
きっと体全体がそうなったのだろう。
「これもキャプチャしろ」
上からアザラシが落ちてくる。
声からして落とした主は先田さんか。
今の俺とでは随分身長に差がある。
そのこともまた自分がチャオスになったのだと実感させる。
「オヨギ関係の小動物は防御力も上がるらしい。お守りだと思え」
先ほどと同じようにしてアザラシをキャプチャする。
体がチャオスになったからか。
今度はスムーズにキャプチャできた。
腕にアザラシのパーツがつく。
さあ、いざ戦場へ。
俺は歩き出した。
はずだったが一歩踏み出した瞬間転んだ。
チャオの足は短い。
チャオスの足もまた短い。
人間のそれとは勝手が違うのである。
「歩けん」
手はそこまで深刻ではない。
曲がらない腕だと割り切ってしまえば一応動かせる。
しかし動けない。
どうしたものか。
解決策を考える暇もなくチャオスが向かってくる。
動けないから避けられず、受けるしかない。
腕をクロスさせて攻撃を防いだ。
「いっ……」
激痛。
それをこらえて手を振り下ろす。
チョップだ。
チャオスの頭にヒットし、顔面から地に突っ込んだ。
「倒せた……」
少し感動するものの、すぐに痛みがやってきた。
本当にアザラシに防御力を上げる効果があったとして。
このアザラシのパーツで防いでいなかったら死んでいたのではないか?
すぐに攻撃に転じず相手の攻撃を受け続けていても死んだかもしれない。
戦うとはこんなにも恐ろしいことだったのか。
自分の代わりに戦っていたシンバのことを思い出す。
シンバもまたこの恐怖を感じていたのだろうか。
そして指示している時はそれを感じていなかった自分を愚かだと思う。
だが、そんなことを考えている場合ではない。
即座に戦うことに脳を集中させる。
ともかく動けないのはまずい。
どうにかして移動しなければなるまい。
試しに足の裏を地面に思い切り叩きつけるようにしてみる。
それでジャンプできた。
「お」
これは使える。
というよりもこれを使うしかない、今のところは。
そう判断しこれを移動手段として使うことにする。
幾度もジャンプを繰り返してチャオスの群れへと向かう。
上から叩きつけるように攻撃する。
それでチャオスを撃退するが、今度は感動などしない。
すぐにジャンプする。
一秒前までいた地点は別のチャオスの攻撃範囲になっていた。
小動物のパーツだろうか。
するどい爪が通り過ぎていた。
ああいう攻撃が危険そうなのはオルガに任せよう。
そう判断して、ジャンプで移動しながら様子を伺う。
「あれ」
既にチャオスがいなくなっていた。
するどい爪のチャオスも倒れている。
残っているのは自分とニュートラルヒコウのみ。
「ああ、なるほど」
彼女は自分などがいなくても素早くこの程度の量は退治できるのだ。
オルガを見下ろす。
この小さなチャオスに少し尊敬していた。
「あれ」
なにかがおかしい。
どうして自分は彼女を見下ろしているのだろう。
飛んでいるわけではない。
もう足ついてる。
自分の体を見て納得する。
体が元の人間の姿に戻っていたのだ。
先田さんがやってくる。
「言い忘れてたが、しばらくするとカオスドライブの効果がなくなる。気をつけないと死ぬぞ」
「あとちょっと遅かったら死ぬところだったのか……」
げんなりする。
下手したら死ぬような場面が多すぎた。
こんなに多いと下手せずとも死にそうである。
いつの間にかオルガも元の少女の姿に戻っている。
「どうだオルガ。こいつ、使えそうか」
「足が地に着いてない。今はよくてもそのうちきつくなるよ」
「鋭い指摘だな」
足が地に着いてない。
その言葉を噛み締める。
早く歩けるようにならないと。
そう思った。

「ご苦労」
帰るなり所長――後藤さんの話を聞かされるはめになった。
今度は大きい机と椅子のたくさんある部屋であった。
いわゆる会議室だという。
「さて、橋本君。ケイオスがどんなものか、わかってくれただろうか」
「人間がチャオスになって戦う、それがケイオスってことで合ってますか」
所長は頷いた。
「そうだ。その通り。ではこちらに聞きたいことはあるかね」
「俺はなぜそのケイオスに選ばれたんでしょうか」
「さっき言っただろう。君がケイオスにふさわしいからだ」
ふさわしいと言われてもよくわからない。
どこがふさわしかったのか。
遺伝子とかそういう話なのだろうか。
「とにかく、だ。ケイオスになれる者は限られている。君の命も危うかったしな。半ば強制的にケイオスにしたことは責めないでくれ」
半ば、どころかほとんど完全に強制的だったが。
「でも、なんでわざわざそんなことを?」
「そんなこと、とはどういうことかね」
所長の目が細まる。
それに少し威圧される。
「わざわざ人間がチャオスになって戦う必要があるのでしょうか」
「ふむ。なるほど。そういうことか」
なるほどなるほど。
そう呟きながら頷く。
そして、頭を動きが停止すると共に俺に視線を合わせる。
得意げな笑みで。
机に突っ伏したオルガが視界に入る。
うんざりとした表情が伺える。
背後からは先田さんの溜め息。
どうやら俺は地雷を踏んだらしい。
「確かに人間をチャオスに変身させるのは大変だ。そういう身体にするための作業だけでも大変だ。しかしこれが最善なのだ」
ケイオスが最善。
よくわからない。
例えば俺のようにチャオスを飼って戦うというのはだめなのだろうか。
そういう考えを察してか、所長は問題をぶつけてきた。
「まず、単純に人間が相手をしたらどうだろうか。人間の肉体でチャオスと戦うことができるだろうか」
「それは無理だと思います」
即答する。
そんなことができたら事態は深刻にならなかっただろう。
「チャオスは人間以上に機敏です。それにサイズも小さいからそれだけこちらがいい的になりやすい。なにより殺傷力がチャオスより劣っている」
「では対チャオス用の兵器を用意しよう。これではどうか」
「キャプチャーされる可能性を考えれば、雑魚しか倒せないでしょう」
「そうだとも。こちらがいくら苦労し時間を費やし金をかけて兵器を作ってもチャオスはそれを一瞬でキャプチャしてしまう。相手に武器を提供するようなものだ」
所長は満足そうに頷いた。
それも一瞬。
すぐに鋭い目つきを向けてくる。
これが本題だ、と。
「ではこちらもチャオスを飼いならし対抗するのはどうか」
「俺はそうやってチャオスと戦ってきました。それが最善ではないかと思います」
「確かに有効な手段だ。相手と対等に戦うことができる。もし、世界一強いチャオスを飼いならすことができればその時点で勝利したも同然だろう」
そこまで認めつつも、だが、という接続詞を頭につけて所長は主張した。
「チャオスとは信頼に足る生物だろうか。裏切ることはないと言い切れるだろうか。個人ならば問題あるまい。自業自得だ。だが我々は組織だ。裏切られて壊滅しては元も子もない。そのような可能性を考えればそのままチャオスで対抗するのはセンスがない」
ではどうするか、と彼は話を展開させていく。
自分の意見を一方的に語るその様子は少し楽しげでもある。
「で、あるならば。我々に残された対抗策はたった1つ。人間がチャオスとなり戦う。そう、ケイオスこそが唯一チャオスを完全に殲滅でき得る存在なのだ。わかってくれるかな」
「はあ、わかりました」
「そうかそうか。あとは君がどんなチャオスよりも強いケイオスになれば我々人類の勝利だ。よろしく頼むよ」
所長は立ち上がる。
ようやく終わるのか、オルガの目に生気が戻ってきつつあった。
「明日からはそのための鍛練に励んでもらうよ」
そう言い残して先に部屋から去った。
喋る人間が消えて、2人は溜め息を漏らした。
その片方のオルガに睨まれる。
「余計なこと言わない」
「いや、でも俺未だに自分がどうなったのかよくわからないんだけど……」
「正義の組織に改造人間にされちゃった、って考えれば複雑でもないだろう」
先田さんはまた特撮か。
しかし今のところはなんかこうなっちゃいました、という感じで徐々に適応していくより他ないだろう。
「さて、君の部屋に案内しよう」
先田さんがさも当然のように案内をし始めるがちょっと待て。
「帰ってはいけない?」
「まあな」
突然連れ去られて帰してもらえない。
こういうのを世間一般では拉致監禁とか言う気がする。
おまけに改造までされています俺。
「なんか嫌な予感しかせんのですが」
「大丈夫大丈夫。指もいで焼いて食べたりしないし」
食うまでいったら大事件じゃねえかよ。
洒落にならん。
「宣言しよう。そんなことをしたらメディアが黙ってはいない。貴様のコレクションの中から異質なものを1つでも見つけ次第、あたかもそのようなものを集めていたかのような報道をするであろう」
曖昧な文章にすることで仮にそのようなものが1つしかなくてもたくさん所持していたかのように表現することができるのである。
これで貴様は社会的に白い目で見られる。
そういう趣味の人間からも変なことしやがってと白い目で見られるダブルパンチだ。
これぞ罪人の受けるべき裁き。
「まあ、帰してもいいんだけどさ」
頭をかきながら先田さんが言う。
じゃあ帰せよ。
「チャオスが現れた時とかすぐ連絡取れないと不便だしさ」
「あー……」
確かにそうだ。
「それにここでチャオスの体で動く訓練できたりするしさ。こっちにいた方が都合いいってことで諦めてくれ」
チャオスの体で。
そういえば俺はまだ歩くこともできないんだったか。
訓練とやらができるならやった方がいいのは当然だ。
そういうことで諦めることにしよう。
そもそも、もう純正の人間ではないのだし。
……まだ完全に飲み込めたわけではないが。
「今日からここが君の部屋だ」
ドアの横についてある機械を先田さんは操る。
しばらくし、その機械の画面がロックの外れたことを知らせた。
扉が開く。
そこに待っていたのは。
「これは――」
一面の芝生。
木がいくつか生えており、それらには実がなっている。
どうやらあれは食べ物であるようだ。
さらに水辺がある。
泳げるというわけだ。
水辺の向こう側は段差になっており、登っていけば結構高いところまでいける。
俺に飛ぶ能力があったら、そこから飛ぶと面白いのかもしれない。
他にも小型のボールやテレビがある。
さらに箱のようなものが無造作に置いてあった。
妙な装飾がされている。
あれはきっとびっくり箱だったりするのだろう。
というか。
「あはは、ここチャオガーデンじゃないですか。ちゃんと案内してくださいよもう」
用意されていたセリフを読む素人のような完璧な棒読みっぷりだった。
こんな感じのセリフで返さなくてはならないと空気が告げていたので不可抗力だ。
そしてこれはオチのためのフリだということもわかっていた。
運命がデスティニーなのである。
「うん。今日からここが君の部屋な」
「ない。チャオガーデンに人が住むだなんてそんな展開はない」
「大丈夫大丈夫。もう住んでるやついるから」
「誰だそんな終わっているやつ」
先田さんは終わっているやつを指差した。
オルガだった。
「まじすか」
「おめでとう、同棲」
「いやいやいや」
オルガは既にチャオガーデンの中に入ってくつろいでいる。
テレビを見ていた。
チャオガーデンに設置されているテレビはチャオ向けの番組しか見ることができない。
それは人間にとって面白いものとは限らない。
このガーデンのテレビは人間向けの番組も映るのか?
というか。
「ケイオスは人間扱いされないんですね」
「違うんだが違いない」
先田さんは苦笑する。
どうにか暮らしてくれと頼まれ、仕方なく承諾する。
どうせ彼に食いかかったところでどうにもならないことだろう。
「あ、そうそう」
その先田さんが去り際に一言残した。
「俺のチャオ、青色のチャオなんだけど世話よろしくな」
もっとまともな言葉が欲しかった。
引用なし
パスワード
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