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CHAOS PLOT 「PAST」
 スマッシュ  - 10/4/29(木) 23:57 -
  
「……」
「……」
会話が無い。
斬新なことがないとまあこんな感じにもなる。
仕方のないことである。
チャオガーデンに入ってくる人間は少ないというのも斬新さに欠ける一因だろう。
むしろほぼいないと言っても差し支えが無い。
チャオスについて研究している人間がチャオに癒しを求めることはないのかもしれない。
誰か来れば何か会話があるものだが。
今までもせいぜい美咲が来ていたくらいだ。
それもなくなった。
オルガと俺が生活のためにいるだけだ。
しかしこの頃先田さんがよく現れるようになった。
「よう、お前ら」
まるで美咲と入れ替わるように来るようになった先田さんは彼女と違ってチャオを可愛がりに来るわけではない。
彼のチャオである青いチャオとは多少の交流があるものの、彼にとってここに来る意味の大半が俺たちへの情報提供と言えた。
「美咲への対応が決まった。お前たちにも協力してもらう」
所長が優希さんへ情報を伝えるように、俺たちは先田さんから情報を得ていた。
先田さんがどういうつもりで俺たちに協力してくるのかはよくわからないが、そこには触れず有難く情報を頂戴している。
作戦について先に教えてもらうのは初めてだ。
というか、仕事という仕事は全て優希さんが独占しているのだから、そんなお知らせが来る時点でちょっとしたことであった。
「どうするの?」
殺すことはできない。
だからといって放置もできない。
その事実は以前確認した。
正直、これだけで既にどうしようもない状況に陥っているわけだが。
「隔離する」
そう、隔離するしかない。
それはこちらにカオスタイプの人材がいても同じことだった。
今隔離するのであれば、それに代わる何かが必要だった。
「どうやって?」
「檻に閉じ込める」
檻の中のライオンを想像する。
まあ似たような感じだろう。
でもどこに不死身のチャオスを閉じ込める檻があるのか。
「今からそこに下見に行く」
「下見」
オルガが反復する。
「それでこれから出かけることになった」
「へえ」
「お前たちも来るんだ」
「え」
移動することになった。
俺はそそくさと外に出る用に防寒をする。
適当に羽織るだけだが。
オルガはすぐにガーデンから出ていく。
常に同じ服を着て生活する彼女は寒さ対策というものをしない。
前に聞いた話によるとどうやら暑さにも強いらしい。
そういう季節によって服を変える習慣のいらない体質が彼女を着飾ることから遠ざけるのに一役買っているのだろう。
彼女の非人間らしさは枚挙に暇がないのだ。

移動には4時間はかかった。
これでも移動時間は短くしてある方だ。
なるべく速い乗り物、なるべく効率のいい移動。
金額を一切考慮することなく採用されたそれでも4時間。
それなりの長旅である。
距離を考えればなおさらだ。
その間、オルガは空の旅を満喫していた。
彼女にとって非常に刺激のあるものだったらしい。
しきりに外を眺めていた。
さて、やって来た場所。
冬の厳しさを身をもって教えられるような土地だ。
普段は平気そうな顔をしているオルガも今回ばかりは肌寒いようだ。
それでもいつも通りの服装なのはそういうこだわりがあるわけではなく寒いことを事前に知らされておらず予想もしていなかったことが災いしているのを俺は知っている。
俺も同じようなものだし。
「ここだ」
目の前には見慣れた大きな建物があった。
ARKと非常に似た外見。
むしろ違う点があるのか疑わしい。
異なる場所を挙げるとすれば、周りには何もないというところだろうか。
人里から離れた場所。
あそことは違って、世間から離れてひっそりとしている。
そんな印象を抱かせる。
「ここってもしかして?」
オルガの問いに先田さんは頷いた。
問いの内容は簡単にわかる。
オルガの声から期待をしていることが読み取れたから。
ここもまたARKの施設なのだ。
昔使われていたらしい。
オルガが先頭に立って中に入る。
「うお……」
声が漏れる。
初めて入る建物だが、中身は知っている建物と全く同じだ。
それなのにほこりが酷い。
それと暗い。
どうやら明かりがまばらにしか点いていないようであった。
そのギャップについ驚いてしまった。
「ほこりが酷いな」
先田さんが呟く。
オルガは黙々と歩く。
「暗いですね」
「こっちにはカオスエメラルドが無いからな。馬鹿みたいな量のカオスドライブで動かしてるが、それでも節電しないと足りない」
歩く方向にはチャオガーデンがある。
もしそれがARKであったなら、だ。
それにしてもよく似ている建物だ。
まるでトレースしたかのような。
向こうの方が後にできた建物のはずだから、トレースしたのは向こうか。
変化が無い。
そっくりそのままだ。
歩く距離すら俺たちの住んでいる施設と同じなのだろうと直感的に感じる程度に予想通りのタイミングでチャオガーデンに着いた。
無論、チャオガーデンも同じ形だ。
しかし元のデザインが同じというだけでガーデン内の状況は非常に違う。
チャオはいない。
おそらく今の施設の方に全て移されたのだろう。
木は全て枯れている。
どれだけの期間かはわからないが長く放置されればそうなるものだろう。
以前、ピアノに遭遇したガーデンより廃れているガーデンは一際寂しく見える。
「あった」
ガーデンの真ん中。
木馬がぽつんと置かれていた。
チャオ用だからかなり小さい。
小さいが、枯れた木などを見た後では唯一のおもちゃであるそれは非常に目立って見えた。
オルガがその前に膝を着き、背に手を乗せる。
ゆらゆらと揺らしながらじっと見つめている。
「うーん。これがあるってことは前はここで暮らしてたってことなんだろうけどさ、どうしてあっちに移動することになったの?」
「わからん」
先田さんの即答で会話が終わる。
数秒沈黙。
「わからないの?」
木馬を見てしみじみしていたのに思わずオルガは先田さんを見た。
「ああ。よくわからん」
「色んな情報持ってることだけが唯一の存在価値なのに」
失望したような目で先田さんを見る。
冗談か本気でそう思っているのか。
表情から判断できないがどっちにしろひどいことを言っている自覚が彼女にはあるのだろうか。
「……お前な」
先田さんが苦情を言おうとするのを無視してオルガは立ち上がる。
「もういいよ。行こうか」
「……お前な」
もう一度発せられたその言葉には諦めの色しかなかった。

リフトに乗って移動する。
カオスエメラルドが無いことによる影響はここにもあった。
動作がやたらと遅い。
ゆっくり進む足場はいつ目的地に到着するのかわからない。
もしかしたらちょっと寝たりできるんじゃないかと思う。
そうするくらいで丁度よさそうだが。
どうせ大して変化のない光景をずっと見るしかないのだろうし。
最初はまだ会話があった。
「優希さんはやっぱりチャオスの?」
「ああ。誘う暇すらなかった」
ピアノをここに監禁する作戦には彼女も参加することになっている。
彼女がこの場にいないのは別に構造が変わるわけでもないことと、チャオスの殲滅で忙しいからだ。
彼女は今、どれほどの小動物を集めたのだろう。
未だに俺たちに仕事が来ないことを考えると、まだカオスタイプになるのに十分な小動物をキャプチャしたわけではなさそうだが。
「それにしても頑張りすぎじゃないですかね」
「そうだな。あれ、ほぼ一日ずっとやってるぞ」
それでもリフトの遅さや照明の暗さなどに一通り文句を言い終えると、出てくる言葉が無くなった。
無言が続く。
3人の中で次に音を発したのは先田さんだった。
それはいびきであったが。
やはり少し寝るくらいで丁度いいのだ。
そうに違いない。
俺は目を瞑る。
寝心地がよくなかった。
そのせいで起きているのか寝ているのかわからない感覚をずっと味わっていた。
よくわからない時間だった。
ずっと起きていたかのように長くも感じたし、寝ていたかのように短くも感じた。
「あれ?」
オルガが声を上げたのだ。
それで俺の目は覚める。
先田さんもだ。
「これ違う方向に向かってない?」
「ああ。向かってるぞ」
「どういうこと?」
「こっちにはあんな神殿はない」
あんな神殿。
俺たちが普段いる施設ではカオスエメラルドは神殿の周囲にある柱の頂上に浮くようにして設置されていた。
そうである方がカオスエメラルドの力を引き出せるそうだ。
どういう理屈でそうなっているのかは知らない。

動力室を見て、驚愕する。
神殿のインパクトの強さがあった。
それとはすごくギャップがある。
広めの部屋。
中央にまるで大黒柱のような大きな機械が鎮座している。
そこにカオスエメラルドを装填する部位が7つあった。
なるほどあっちの施設とは似ても似つかない。
どこを見ても見えるのは機械類。
無駄な段差など存在せず、溝に大量の水を走らせることもない。
代わりに複数のハードが置かれ配線がそこかしこに巡っている。
神秘性などは一切ない。
「さて、作戦について説明しよう」
先田さんは柱のような機械をぱしぱし叩く。
「今回はこいつを使って美咲を宇宙へ隔離する」
「宇宙?」
宇宙とはあの宇宙か。
隔離する場所としては確かに最もよさそうではあるが。
「そう、宇宙だ。この施設は宇宙へ行ける機能がある」
「なんでまたそんな機能を……」
半ば呆れたようにオルガが呟いた。
わざわざつけるような機能じゃないだろうというつっこみには同意だ。
宇宙に行く理由でもあるのか。
「宇宙まで行けば大抵のものからは逃げられるからだろ」
そんな理由でつけるにしては大袈裟な機能だと思うのだが。
「まあともかく、宇宙へ隔離するわけだが、宇宙まで飛ぶには今のままでは馬力が足りない」
「宇宙へ飛ぶ以前の問題ですからね、これ」
もしかしたらホラー施設なのではないのかと思うくらいに薄暗い。
実際はエネルギー不足なだけである。
「読めていると思うが、カオスエメラルドが必要なわけだ」
「いくつ必要なの?」
「最低1つ。2つあればなおよい。3つ以上あるとベストなんだが」
怖い敵を退場させるために3つのカオスエメラルドをお供させる。
それにオルガは超嫌な顔をした。
せっかく集めたカオスエメラルドが、という気分なのだろう。
「後々回収ができないわけでもないから、そう嫌な顔をするな」
「むう」
先田さんのフォローは大して効果がなかった。
「じゃあ隔離について説明するぞ」
それでもオルガの不満は考慮されずに話は進む。
元々オルガの意思など関係ないのである。
「隔離までにやることは2つある。まず1つはカオスエメラルドをここまで持ってくること。もう1つは美咲をなるべく出口から遠ざけることだ。できればここからも遠ざけた方がいいから、こちらへ誘導するのがいいだろう」
モニターに研究所の地図を表示させた先田さんの指は入り口から道をなぞっていく。
指は俺たちがここに来るのに使ったリフトをスルーし、道に沿って中心部へと向かっていく。
2つ目、3つ目と所々にあるリフトにも乗らず、4つ目になってようやくリフトに指を重ねる。
「ここから地下に行く」
次に表示されるさっきとは少し構造が異なる地図。
地下の地図だ。
「ベストはここだが、地下に連れてきた時点で十分と言えるだろう」
指が示したのはリフトから遠ざかった部屋。
そして指をモニターから離す。
手は機械の上に置かれた。
「そしてカオスエメラルドをここまで持ってきたやつがこれを操作してこの施設を宇宙まで打ち上げる」
「この施設ごと宇宙に行くんだよね」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、私たちはどうやって脱出するの?」
「その件か」
機械の上の手が動く。
指がキーを数回タッチした。
モニターに表示されている地図に赤い点がいくつか表示された。
「この赤い点の場所に脱出用のカプセルがある。これを使えば戻ることができる」
「ふうん」
「ただし、脱出できない場合もある。あくまで美咲を隔離する目的だからな。カプセルの射出をできる回数を限定する。作戦開始以降、1回しか使用できなくする予定だ。場合によっては1人2人しか脱出できないこともあるだろう」
カプセルの操作はここへ来る人間がすることになっていると先田さんは告げた。
最も安全であると思われるから、だそうだ。
しかし、1回のみとは。
生き残るための方程式が冷酷だ。
他に方法は無かったのだろうか。
「つまりケイオスが減る可能性もあるわけだ」
「そうだな。全滅もあり得る」
「……先田はそれでいいわけだ」
低い声。
彼女の鋭い眼差しも作用して場に緊張感が生まれる。
しかし先田さんの方は全く変わらないトーンで言う。
「ああ。俺は構わん」
その発言からは余裕さを感じられた。
作戦についての話はそのまま続いた。
別の方法はおそらくあったのだと俺は思う。
もっと俺たちが生存できそうな方法が。
そう。
あえてこんな難しい状況を押し付けられたのだ。
オルガはそれに気付いたから食いついた。
状況は変化しなかったが。
戦う前から戦いは始まっているのだった。

帰りのリフト。
やはり低速で話題も無い。
目を瞑る。
今度は寝るためではない。
考えるために。
意外だったことについて。
先田さんは俺やオルガに対して協力的であると思っていた。
常に俺たちをサポートしてくれるものだと。
必ずしもそうではないということが今回わかったわけだ。
いまいち彼の目的がわからない。
わかるのは、ケイオスを必要としていない、ということくらいだろうか。
裏切りとは少し違う。
先田さんは先田さんの目指す方向に行っているだけだ。
その途中で俺やオルガが必要になったから利用しただけ。
そもそも協力でもなんでもなかったのだ。
むしろ、そういう考えであることを示唆してくれただけ良心的だ。
それこそ、あたかも自分が俺たちにとってプラスになるものしか与えないように振舞って利用し続ければいいのだ。
こちらとしては気をつけるのみだ。
何も考えずに従っているだけでは手遅れになることがあるかもしれない。
いつの間にかもう死ぬことが確定したような状況になっていたりとか。
本当なら俺も他の人みたく目的とか野望があった方がいいんだろうが。
そういうのを抱くほど現状について深く理解していないのであった。

空を見上げる。
青を断片的に埋める雲の形をぼうっと眺めながら道を歩いていく。
前を見ずに上に目線を逸らすのは一種の逃避と言えるかもしれない。
それこそ空をきっかけに思考を現実から遠ざけようとすれば明らかな逃避だ。
俺は空を見るのをやめた。
逃避について考えることで逃避するなんてジョークは全くもって面白くないからだ。
そういうことをするなら、雲の形から食べ物を連想してよだれを垂らすくらいのどうしようもない感じの方がいい。
さて、現実。
俺が美咲を例の場所まで連れていく役割となった。
理由は簡単。
最も殺されそうじゃないのが俺だから。
そういうわけで俺は今、美咲を探して街中を歩き回っているのだ。
あまり気が気じゃない。
死ぬ確率が低いだけで殺されないわけじゃない。
うまく例の場所まで連れていく巧みな口実も思いつかない。
あそこまで連れていって何かするということはどうしても伝えなければならない。
そう話した時にどういう反応が返ってくるか未知数だ。
監禁するということは言わない方がいいだろう。
彼女は俺に殺されたがっていたから、そういう風に嘘をつくという手もあるが、そうした場合の反応も未知。
不安だらけだ。
俺1人で行かなくてはならないというのも心細さを増す要素になっている。
オルガに一緒に来てくれと頼み込んだら丁重に断られた。
「おのれ……」
非情なやつめ。
命大事だし仕方ないことではあるが。
「しかし、どこにいるかな……」
本来なら、真っ先に探す場所がある。
もしかしたらそこにいるかもしれない。
そう思う場所はある。
ピアノの姿を初めて見たあのチャオガーデン。
あそこで出会ったからというだけでなくあそこならチャオスの大群もくつろげるという理由もある。
そういうわけで探すなら最初に行ってみるべき場所だ。
それでもそうしないのはやはり恐怖か。
心の準備とか、決心とかがまだまだ足りないと判断してしまう。
足りないと判断することで逃げている。
ピアノを探す。
建物の中に入る。
粋な商品を眺めながら、目当ての物を手に取る人たちを見る。
彼女の本質が見抜けない。
どうかこの中に彼女がいないようにと願うばかりだ。
そしていくつもの店を回りながら、ピアノがいないのを確認する度に安堵しながら、俺は1つの作戦を思いついた。
ピアノと会っても最初は作戦のことを伏せて会話する。
日常会話を演じて、彼女から俺が彼女について知りたいことを聞きだす。
それらを判断材料にして、作戦について話さない方がいいという結論が導き出されればそうすればいい。
しかし、俺がそうしようと思えば、情報不足ということにして作戦について話さないで帰ることも可能なのだ。
彼女について少しでも多く知っておいた方がいい、という理由を盾にして逃げ道を作ったに過ぎない。
それでも保守に走ることのできる状況がどれだけ俺を安心させることか。

「いらっしゃい、橋本君」
「……」
他に探す場所も無くなっていた。
去り際に言った通り、この街の中にいるのであればこの場所以外にいるはずがない。
案の定、彼女は人の寄り付かなくなったチャオガーデンの中にいた。
もうここにしかいないとわかっていつつ足を踏み入れたのだ。
覚悟はできている。
逃げることができるから、という後ろ向きな覚悟だが。
俺に警戒し、飛びかかろうと姿勢を落とすチャオスを彼女が人間の言葉で制止する。
チャオスたちは張りつめた空気を残して大人しくなった。
こいつらがいなくても俺は十分張りつめているのだけれども。
「お前はどうして死にたいんだ?」
第一声がこれはさすがにないだろう。
もっとうまい入り方があるはずなのに。
言ってから後悔。
「唐突だね」
「あ、ああ」
彼女の声に緊張感はこもっていない。
警戒を悟られないようにそうしている、というわけではなさそうだ。
余裕だ。
彼女の態度だけがこの空気からずれていた。
「どうして死にたいか、だっけ」
「ああ」
「じゃあまだ私を殺す気じゃないわけだ」
「そういうことになるな」
「そっか。でもね」
その後に発せられた言葉で今度は疑問に支配された。
それまでの緊張感を塗りつぶされ、忘れてしまうほどに。
「橋本君ならきっと殺す気になってくれると思うな」
言葉を出すのに時間がかかる。
「どういうことだ、それは」
「なんていうか、橋本君はそういう性質なんだよ。特殊なくらいに」
解説のつもりなんだろうが、逆にわけがわからない。
矛盾を見つけるために藁をも掴む思いで同じコマンドを繰り返すかのごとく、俺はどういうことだそれはと直前に言ったことと全く同じセリフを吐くことで理解を深めようとしたがそれよりも彼女の発言の方が速かった。
「オルガちゃんでもよかったんだけど、彼女はもう意思を決めちゃってるからこっちに向くかわからなかったし、ね」
謎は深まるばかり。
無言で彼女の言葉を待つが、それ以上は何も言わない。
付け加えることは無いということか。
何かを示唆しただけ。
あるいは、彼女にとって自身の発言で重要だったのは俺がきっと殺す気になるということだけ。
どちらにしても彼女にこの話を続けてもらうことはできないだろう。
仕方ない。
俺はもう1度質問を出す。
「お前はどうして死にたいんだ」
「橋本君、私はね、生きるのに疲れちゃったんだ」
そんな精神的に傷ついた人間のようなことを言う。
そういう人々はたまに自殺する。
する方としない方ではどちらが強い心を持っているのか、よくわからない。
それはともかくとして。
目の前にいる彼女には自殺する選択肢が存在しない。
「ソニックって知ってるよね」
「あ、ああ」
英雄として有名なハリネズミ。
ただ、非常に昔の出来事であり当時の記録もなぜかあまり残っていないために実在したかは定かではない。
もしかしたらいたのかもしれない英雄。
それがソニックだ。
脈絡もなくその名前を美咲は出してきた。
「ソニックとカオスが戦ったっていう話も知ってる?」
「ああ」
カオスは7つのカオスエメラルドの力を使って破壊活動をしたらしい。
ソニックもまた7つのカオスエメラルドの力を使ってその危機から世界を救ったそうだ。
ソニックが世界を救う。
彼に関する伝説はそんなのばかりだ。
「私、そのことを今生きている誰よりもよく知ってると思うよ」
美咲の口調はちょっと誇らしげだ。
顔からも自分はちょっと凄いと言いたげな自信の色が見られる。
「……どういうことだ」
しかし意味がわからない。
この話が彼女の死にたがる理由とも結びつかない。
「見てたから」
「見てた?その、ソニックとカオスの……をか?」
「うん」
首肯と共に出された声は既に自慢をするようなトーンではなくなっていた。
落ち込んだ声からは哀愁が漂う。
まるで触媒のようにその声が俺の理解を早めた。
「その時から生きていたのか?」
「うん」
「何年前だ、それは」
「昔すぎて覚えてないよ。1000年はまだ超えてないんじゃないかなあ」
流石に100年程度ではないだろうとは思っていたが数字の大きさはチャオや人間が生きる長さとはレベルが違う。
「みんな死んだよ」
彼女は多くを語ろうとはしなかった。
ソニックなどの名を挙げていく。
俺たちでも知っているほど有名で、もうこの世にいない者の名前を。
そしてそれらに関する思い出を少し。
面識があったらしい。
最後に自分の飼い主の名前を挙げた。
これは聞いたことのない名前だったし、実際名前が知られるような人ではなかったと彼女は言った。
「もうみんないないし、やがてみんないなくなる。だから私は生きるのに疲れたの。どう、わかった?」
人間は100年生きれば長く生きた方だ。
チャオであれば6年も生きれば十分。
生きるのに疲れた。
そんな感情を抱くのに、1000年はむしろ長すぎる期間だったに違いない。
なんとなく察してしまった。
そしてそうであれば殺してあげたいと思う。
見事に彼女の言った通りになった俺だった。
しかし殺すことはできないのだ。
殺せたら隔離なんてしない。
彼女のためには隔離しない方が正しいのだが。
……。
…………。
悪いけれど。
この死ねない少女のために俺は何かをしてあげられない。
同情はできても、やはり脅威であることに変わりはない。
「お前を、殺せる場所がある」
「え?」
俺は彼女を騙すことにした。
戦う前から戦いは始まっている。
過去があり現在があり未来があるのだから。
未来にとって都合のいい過去ができるように。
俺たちはばらばらに戦う。

引用なし
パスワード
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