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CHAOS PLOT 「CAPTURE」
 スマッシュ WEB  - 10/1/1(金) 17:25 -
  
目が覚める。
いつもの朝とは違う光景。
なぜ、俺は草の上で寝ているのだろう。
起き上がる。
どこを見てもチャオガーデン。
ここはチャオガーデンで、俺はここに寝ていた。
俺はチャオなのか。
少しずつ目覚めてくる。
すぐ視界に入ったのは少女だった。
彼女はオルガという名前だ。
日本人とは思えない名前であるが、髪が黒くないので日本人とも限らない。
紫色の髪が印象的だが、彼女の最大の特徴はケイオスであること。
つまりチャオスに変身して戦う少女であること。
……俺もそのケイオスとやらなんだけども。
彼女の髪型はツインテールだ。
紫色のせいでそれがニュートラルヒコウチャオの頭にも見える。
そういえば彼女がチャオスに変身したときもニュートラルヒコウになっていた。
そこで気付く。
彼女はまさにニュートラルヒコウを意識してツインテールにしているのだと。
オルガは木の実を食べていた。
……木の実を。
「それチャオの食べ物じゃないのか?」
「おいしいけど」
「……そうなのか?」
時に人は普段食べないものを食す。
例えば異文化では食べている食べ物。
例えば珍味。
例えば下手物。
例えば人肉。
……いや最後のはちょっと違うか?
ともかく彼女も食べている以上人間が食べても大丈夫なはず。
俺も木の実を食べてみることにした。
食。
外はともかくとして中身は柔らかい。
食感はフルーツのようだ。
だが。
「味、薄くないか?」
「そう?」
「薄い。絶対薄い」
キャベツでも食わされている気分だ。
味の濃い調味料が欲しい。
この際ソースでもドレッシングでもいい。
「無理だ食えん」
「えー」
非難される。
なんで食えるんだこいつ。
味覚おかしいんじゃないのか。
「他に食べ物ないのか?食えるやつ」
「一応食堂があるけど」
「それだ。どこにある」
場所を教えてもらう。
早速行くことにする。
木の実をこのまま食うのは拷問だ。
俺はチャオじゃない。
人間なのだ(もう違うけど)。
チャオガーデンから出る前に一応聞いておく。
「お前はいいのか?」
「うん」
「木の実、うまいか?」
「おいしいよ」
彼女の不思議な点がまた1つ増えた。
彼女には謎が多い。
でもどうせ大したものじゃない。
髪はそういう髪なわけで、木の実だってそういう好みなわけだ。
謎が多いというより不思議ちゃんということか。
俺としては不思議ちゃんな理由がケイオスの副作用でないことを祈るのみだ。
「なんだお前木の実食わんのか」
食堂に来た俺を先田さんは目ざとく見つけ、つっかかってきた。
あんなの食べるのは人間じゃないという文句で返そうとしたが、瞬時に口を閉じる。
お前人間じゃないだろ、という木の実を食うことを暗に強制していそうな内容の返事があると気付いたからだ。
「……せめて食生活は人間らしくありたいなあ、と思いまして」
「つまらん」
二人で朝用のメニューを貪る。
パンとその他だ。
その他の中身は注文すれば増えるししなければ全くない。
先田さんは山積みになったパンをかじりながら俺に指示をした。
この後訓練施設に行けとのことだ。
そこで訓練ができるらしい。
「時間制限ありなのに動けなきゃ話にならないからしばらくお前は訓練だけだ。実戦投入はせん」
「最初からそうしてください」
いきなり実戦で死にかけたのだが。
今のが実戦でなくてよかったな、実戦だったらお前はもう死んでるぞ、などと言われるくらいの猶予は欲しい。
「俺に言うな。後藤に言え」
まあそうなのだけど。
「死ぬかと思いましたよ」
先田さんは苦笑いしつつコーヒーを飲む。
やがて思いついたように。
「なあ」
「なんですか」
「もしかしたらさんかくの実あたりなら食えるんじゃないか?」
「自分の舌で試してください」
露骨に嫌な顔をされる。
なら言うなよ。
そう思ったが。
「さんかくの実まずかったぞ?」
食ったことあるのかよ。
その後先田さんが一度全ての木の実を食べる挑戦をしたことを聞かされた。
結果、木の実によって味が違うらしいことがわかったようだ。
ついでにどれも味が薄くて食べるに値しないという評価を下したようだ。
やはり人間の食べるものではないのか。
「じゃあなんでオルガは……」
「アホ舌なんだろ」
「ですよね」
こうしてオルガの舌がおかしいことが証明されたのだった。

訓練施設、と書かれた部屋を見つける。
ドアを開ける。
大きな機械がある。
天井まで高さのある大きな機械の存在感が凄まじかった。
人が入れそうなカプセルがその機械の真ん中についている。
いや、それが主要な部分なのだろう。
それだけでなく壁という壁が機械によって隠されている。
これでは機械が壁なのかと勘違いしそうだ。
実際は大きな部屋なのだろうが、人間の存在できるスペースは少なく、機械による圧迫感もあるせいか少し窮屈な印象を抱かせる。
俺がチャオガーデンなんて広い場所で一夜過ごしたせいもあるだろう。
その中で女性が椅子を回転させてこちらを向いた。
赤い眼鏡の女性だ。
「ああ、君が橋本君」
「はい」
「私は滝優希。君の指導係」
「そうなんですか。よろしくおねがいします」
「……ところで、もう一人来るはずなのだけれど。女の子を見なかった?オルガじゃなくて普通な感じの……」
「はい?」
少女はオルガだけじゃないのか。
しかしそのような人物を見た記憶はない。
ここは子供が気軽に来るような場所ではないはず。
少女という存在は希少種だろう。
なら見た記憶がなければその通りなのだろう。
「ごめんなんでもない。もう来る」
優希さんは頭を抱えている。
後ろの方、すなわち廊下から物凄い足音と大声を出しながら誰かがやってくる。
なにを言っているのか、聞き取ってみることにした。
「新しい朝が来ましたおはようございますっていうか寝過ごしたー!春もぐっすり夏もぐっすり秋も冬も熟睡するこの身、たとえ季節感の感じられない室温が調整されている施設の中でも完璧熟睡そして遅刻ー!」
足音が止まる。
やかましい声の主はドアをはさんですぐ前にいるということになる。
思わず息を呑む。
漫画であったら冷や汗が描かれるであろう位に嫌な予感がした。
実際には冷や汗が出るほどの時間もなく事は起こった。
「バスタァァァオオカミィィィ!!」
ドアが物凄い音を立てた。
しばらくの無音の後にその音よりも大きな悲鳴が聞こえた。
痛みにより苦しんでいるように聞こえる。
優希さんが溜め息をついてドアへと歩み寄り、パネルを操作してドアを開けた。
少女が倒れて悶えていた。
「なにをしているのかしらあなたは」
「バスターオオカミしたけどドアが開かなくて」
「開くわけないでしょうが。バスターオオカミって一体なんなの」
「必殺技」
「そんなのでドアを開けない。普通に開けなさい」
「あいー」
そのままドアが閉められる。
少女はまだ入ってない。
「あの……」
「いいの。あれ私の妹だし」
だからっていいのだろうか?
そもそも普段からこんなやりとりをしているのだろうか?
ドアを日常的に思い切り殴ったりするような人間がいるとは思えない。
ドアが開く。
今度は向こう側から開けたようだ。
たとえドアではなく別のなにかを殴る目的であったとしてもそんなことをする人間がここにいるとは思えない。
「回転アロー!」
前言撤回。まさにそんな人でした。
蹴りが体ごと回転しつつ矢のように迫ってくる。
なんでこんなやつがいるんだ。
脳はそんな反応しかすることができず。
俺の顔に蹴りが入った。
「ぐふぅ」
「あ、間違えた」
少女は綺麗に着地する。
俺は綺麗に顔から着地する。
痛いがすぐに立ち上がる。
チャオスを相手に戦った俺はもはや人間の攻撃など食らっても平気なのである。
あくまでそれはチャオスの体になっている時の話かもしれないが気にしないことにする。
人間の時でも大丈夫だという思い込みは重要だ。
「おお、すぐ立ち上がった。すごいねー」
「謝りなさいあんた」
お姉さんの方から的確な指摘が飛ぶ。
「ごめんねー。私滝美咲。そこにいるのお姉ちゃん。君、橋本君だよね?知ってる知ってる。なんたってケイオスだもんね。いいなあケイオス。私もなりたいなあ。っていうか元々私がなるはずだったのになあ。あ、そうそう。橋本君18でしょ?私も18。同い年だよー。やったね嬉しいなあ。ほらここって学校とかじゃないから私たちくらいの年齢っていないんだよねー。オルガちゃんも16才だって言ってるし同い年いなかったんだよねー。だからよろしくね?」
早口で一気に喋られ、握手させられる。
握手すると同時に腕を激しく上下運動させられる。
美咲は腕だけでなく体全体を大きく動かし、体に合わせてポニーテールも攻撃判定がありそうなほどに揺れる。
「ケイオスになる予定だった?」
年齢の情報も重要な人にとっては重要なのだろうが、それよりもケイオスという単語に俺は敏感だった。
美咲は俺の問いに頷いて肯定した。
「そのためにVRでずっと訓練してたんだよ?まだうまく動けないから仕方ないとは思うけどさー」
「VRってのは……バーチャルリアリティって言えばわかるかな?そこにある機械を使って仮想現実内でチャオスとして動く訓練をしているの」
優希さんが補足説明を加えた。
なるほどこの機械の群れはそのための物か。
あのカプセルの中に入って仮想現実内へ……ということか。
「早速だけど訓練を始めましょう。まだ機械は1つしかないから順番に行うわ。まずは美咲」
「え、私から?」
「経験者が先にやるのは当然でしょう。ほら早く」
「はいはい」
優希さんがキーボードをいじるとカプセルが開いた。
それに美咲が入る。
腕や目、足などいたるところに機器を取り付ける。
程なくしてオッケーと声で合図を送ると優希さんがそれに応じて開けるのと同様にしてカプセルを閉じる。
「そこのモニターで仮想現実内でなにが起きてるのか見れるわよ」
指差したモニターを俺は見る。
そこにはチャオスが1匹。
ただのニュートラルノーマルだ。
「歩いて」
優希さんがマイクに向けて声を発する。
それから2秒ほどしてチャオスは歩き始めた。
直進。
ゆっくりと歩いていく。
「右に曲がって」
指示されてすぐに右に曲がる。
そして再び直進。
まるでロボットが歩いているのを見ているように感じる。
次に優希さんは止まるよう指示し、すぐさまその通りにチャオスは足を止めた。
「はい、じゃあまた歩いて」
指示があって、少し遅れてチャオスは歩く。
それを確認し優希さんはこちらを向いた。
「どこが悪いかわかる?」
どこかが悪かったのか。
あれを操作しているのが美咲だとして、俺にとっては歩けているだけで十分に思えるが。
答えを出す前に回答は締め切られた。
「歩けと言ってからしばらくしてから歩き始めた。しかし曲がる際にはそのラグがない。ということは歩くときにチャオスの体ではどう歩くのかを考えているということ。それがそのままスローペースな歩みに繋がってもいる」
言われてみてなるほどな、と思う。
モニターの中のチャオスは徐々に歩くペースが上がっているように見える。
つまりこれは歩くのに慣れてきたということなのか。
30分ほどそのまま歩いていた。
段々本当にちゃんと歩けているのか判断ができなくなってきた。
混乱する。
優希さんにはそれができているのだろうか。
「はい、じゃああと30分くらいは歩いてて」
何気なく言うが、長時間歩くだけというのはきつい気がする。
野球をしたい夢見る少年に延々と球拾いをさせるようなものだ。
動きに変化がないだけ、こっちの方がよほど辛いだろう。
同情する前に俺は自分を心配した。
「しかしこれができてよかったわ」
優希さんが俺に話しかける。
これ、とは優希さんが取り出した水色のカオスドライブのことだろう。
美咲は歩き続けている。
「赤や緑、黄色に紫。この4色のカオスドライブしか見たことがないでしょう?」
「はい」
「水色のカオスドライブはケイオスの変身のためだけにARKがごく最近作ったものなの。本当に変身できるのか疑わしかったけれど、君が変身できたのだから問題はないみたいね。で、その水色のカオスドライブなんだけどね。数に限りがあるの。ここで作ってるというのもあって」
「量産できないというわけですか」
「しようと思えばできるんだけど、諸々の問題でね。でもまあできないってことでいいかな。だから訓練で使うわけにもいかないの。このVRがなければ君は歩けないまま実戦投入だったでしょうね」
「命がいくらあっても足りなさそうですねそれ」
仮に歩けたとしてもその程度では死にかねない。
あの時だって、ジャンプできたからよかったものの。
それができない状態だとしたら初戦闘で生き残れるのは体が勝手に暴走した時くらいか?
美咲は歩き続けている。
「そういうわけだから水色のカオスドライブは大事に使うこと。大事にと言ってもそうするには短時間で敵を殲滅するしかないのだけれど」
「はい」
「そこまでできるようにきつめに鍛えてあげるから安心しなさい」
それには苦笑するのを禁じえない。
30分歩くだけなどという変化のないトレーニングを強いられている人間を目の当たりにしているのだからきつめに指導されることに素直に喜ぶことはできない。
どうにかして早く上達することがそのまま自分のためになりそうだ。
モニターを見ると、映っているチャオスは止まっている。
優希さんも気付きマイクに向かう。
「どうしたの?歩きなさい」
それでも歩かない。
何度か呼びかけるが応答がない。
「訓練を一旦終了するわ」
機械を操作。
カプセルが開き、優希さんが問いかける。
「どうしたの?」
なにも言わずに美咲は自分の体につけてある機器を全て外し、出てきた。
そして大きく息を吸う。
彼女は吸った量に見合うくらいに口を開けて叫んだ。
「飽きたーーーーーっ!!」
優希さんが近寄る。
握り拳を掲げた状態で。
そして美咲の傍でそれを振り下ろした。
げんこつは頭に当たった。
優希さんも彼女に負けじと大声で怒鳴る。
「飽きたからってそんなことしないの!なにを考えているの!訓練の意味ないでしょうが!」
「せめて景色が変わるとかそういう配慮をしてからそういうのは言うべきだと思いまーす!辺り一面銀景色どころかパーフェクトな白じゃあつまらないを超えちゃうよ!」
優希さんは無言で彼女の後ろに回りこむ。
腕が美咲の首を力強く隠す。
あー、絞めてる。
美咲が必死に腕を叩くがそのままだ。
鬼である。
彼女の意見には同意するが心の中だけに留めておく。
「まあ、このくらいか」
そう言って開放したのは1分ばかし経ってからであった。
美咲はそのままダウンする。
生きているだろうか。
不安になる。
最後のほうほとんど理性を持って抵抗してなかったというか体が変な感じにじたばた動いていたというか。
痙攣していたような気がしなくもない。
「大丈夫、この程度では死なない子だから」
どんな理屈だ。
「次はあなたの番よ」
「ひぃ!?」
「いや、首絞めるんじゃなくて、訓練ね」
「あ、ああ、はい……」
殺されないようにしよう。
そう意気込んで臨んだ訓練はとてもじゃないが面白いものではなかった。
まずVRに入るまでが面倒であった。
変な機器を大量に自分の体に着ける必要がある。
どこにどれを着けるか、それを覚えるようにと言われたが多すぎてとても覚える気にはならない。
明らかに着ける場所がわかるようなものもあるのは幸いだが、それぞれに細部の違いしかないようなものもあるのは勘弁してほしい。
ようやくのことでVRの世界に入るとここからがまた問題である。
俺の体はきっちりチャオスのそれになっている。
なんの訓練をするかと言えば当然歩行する訓練であるわけだ。
どう歩行すればいいか、という点については優希さんが詳しく解説してくれた。
「見てわかるけれど、チャオには脚がないの。あ、難しい漢字の方の脚ね。簡単な方は地面と接する部分のことを言うのだけれど、チャオにはこの部分しかないということになるわ」
接地する部分が足で、脛や腿などを含める場合脚と呼ぶようだ。
そしてチャオには足しかないわけだ。
「なんかわかりやすく区別したいわね。あ、ここでは音読みで区別することにしましょう。いいわね」
つまり、足と言う場合ソクで脚はキャク、ということか。
こちらの声が向こうに届くことはない。
そういう機能が実装されていないからだ。
「人間は主に脚を使って歩いているから、脚のないその体になるといつも通りに歩けなくなっちゃうってわけね。その体の場合は足で歩かなくてはいけないの」
なるほど。
体にない部分を使って歩こうとするから歩けないわけか。
第三第四の腕があると思い込んで、それで物を取ろうとしても取れないのだ。
「勿論その体にはそうするに必要なだけの力はあるから、必要なのはあなたが足で歩く方法を体で理解して慣れることね」
解説の後はひたすら練習であった。
自分で意識して足を動かす。
脚の役割があるだけでなく自分の体に対して足が大きいせいもあるだろう。
人間と比べてチャオスにとって足という存在がなかなか大きいものであると実感する。
必死に動き、歩けるようになった。
だが訓練後に。
「まあ、こんなところね」
「これなら1週間後にはもうチャオスと戦っても問題ないレベルまでいけるかもしれませんね」
「まさか」
「え?」
「あなたはまだ前になんとか歩けるようになっただけじゃない。スムーズに歩けるようにならなくちゃいけないし走れるようにならなきゃいけない。それだけでなく、横にも後ろにも動けるようにならないからまだまだよ」
「うぐ」
そんなやり取りがあった。
つまりこれからもこんな退屈な訓練を続けなくてはならないということか。
全てできるようになるのはいつだ?
来月か?来年か?
気が遠くなる。
これは美咲の気持ちがわからなくもない。
「ああ、そうそう。所長が呼んでいたわよ」
「え?」
なんだろう。
会議室に行くよう言われ、それに従った。

会議室に所長はいた。
当然だが。
既に座っている所長にならい、俺も適当な椅子に腰掛ける。
「順番がおかしくなってしまったが、君にやってもらうことを説明することにしよう」
「チャオスを倒す、じゃないんですか?」
「それは基本的な仕事だ。やるべきことは他にもある」
なにをやれというのか。
身構える。
「カオスチャオ、というのは知っているね?」
不死身のチャオ。
知っているのは大体そのようなところだ。
それを告げる。
「ああ。その通り。カオスチャオは死なない」
「それがどうかしたんですか」
「チャオスがカオスチャオへと進化したらどうなると思う」
チャオスが不死身になる。
単純なイメージだがそれが一瞬で浮かんだ。
「死なない化け物になる……と?」
「ああ、おそらくそうだろう」
そしてそれこそが我々にとって問題なのだ、と所長は言った。
「不死身になった途端に弱点ができるならまだいいが、カオスチャオを見る限りそうでもないらしい」
繁殖をしなくなる……というのは個体の命と無関係か。
「そうだとすると相手にそれが1匹いるだけで我々の敗北は決定してしまう」
「そうですね」
「そこで君にはカオスチャオになっていただきたい」
「はい……?」
「正確には全ての小動物をキャプチャし、その準備をしてもらいたい。お互いに不死身ならば決着はつかない。人間に害の及ばない場所で永遠に戦ってもらう。いわば隔離だな。無論、相手のみを隔離するようにこちらも努力するから常に戦うわけではないよ」
チャオスにはチャオスを。
不死には不死を。
理にはかなっている。
だがそうするためには1つ条件がある。
「カオスチャオには転生が必要だと聞いたことがあります。それはどうするのですか?」
転生するまで待つというのだろうか。
しかし転生までの時間はチャオ準拠なのか人間準拠なのかわからない。
人間として死ぬまで待たなければならないのであればそれは気の遠い話だ。
いや、それでもそれしか手段はないのか。
「問題ない」
所長はにやり、と笑みを浮かべた。
「それはどうにかなる」
「どうにか、なるんですか?」
「ああ。勿論正規のルートで進化した方が確実だろう。だが我々にはもう1つ、些細な条件など無視する方法がある」
「あるんですか?そんなものが」
「あるに決まっているだろう。君だってその方法でケイオスになったのだからな」
それはどういう方法なのか。
そう聞いた俺への返答は現実味に少し欠けるものでありつつも実にわかりやすい答えであった。
いや、現実味に欠けるわけではない。
俺の今までの人生でまだ一回、それもほんの僅かな時間だけしか関わったことがないだけだ。
奇跡を起こす物。
――カオスエメラルド。
様々な力があると聞いたことがある。
昔、その7つの宝石を用いることで無限の力を手にし世界を揺るがした者が多くいるらしい。
そしてあのソニックも同じようにしてそれらの敵を打ち倒したらしい。
それは例えばカオス。
7つのカオスエメラルドの力を得て大洪水を起こしたが、7つのカオスエメラルドの力を得たソニックに倒された。
カオスエメラルドにそのような力が本当にあるのかどうか、実際に見たことのない俺にはわからない。
だがそれを利用するのだと所長は言った。
カオスエメラルドを使えば人はチャオスへとなることができ、不死身にもなり得るのだと。

風呂に入ることにした。
昨日入れなかったことは気になっていたし、オルガからも入ってくるように言われた。
「風呂って、あるのか?」
「ここにはないけど」
オルガはドアを指した。
それからARK内に銭湯があることとその場所を解説された。
コスト削減のために一定の時間帯でないと入れないことも同時に言われる。
なので今から行くことにした。
「お前は入らないのか?」
そう聞いたが返答はここで水浴びをする、というものだった。
チャオガーデンで水浴び。
風呂があるのに入らずに水浴び。
やはり少し彼女はずれている気がする。
いや。
日本人から見たらずれているだけで、彼女のいた所ではそっちの方が当たり前なのかもしれない。
文化の違いというやつだ。
俺は銭湯へ向かった。
風呂は特に特筆することはなかった。
大人数が入れるように広いだけだ。
その割には人が少なかった気もするが。
俺は可及的速やかにという言葉を体言するがごとく短時間で済ませた。
そしたら、美咲と遭遇した。
「あ、橋本君もお風呂?」
「おう」
「偉いねー。ちゃんと入って。清潔に保つことはいいことだからね。毎日入ってる?そうでなくてもいいけどせめて2日に1回は最低限入ってほしいところかなあ。入らないとそれが習慣になっちゃうし。橋本君はしっかりしてるねー」
まるで風呂に入らない人の方が普通であるかのような物言いだ。
「ここの人、特に男の人って全然入らないんだよねー」
正解だった。
「確かに研究のほうが大事かもしれないけどね。でもここって入れる時間が決まってるじゃん?普段会えない人とも会える可能性があるわけだよ。ほら今まさにそうじゃん?」
「なるほどな」
「普段会えないってわけじゃないかー。橋本君チャオガーデンで寝てるんだよね?私、チャオガーデンによく行くんだ」
「ああ、そうなのか」
そういうわけだから、と言われて。
俺たちはチャオガーデンに戻った。
そういえばオルガが水浴びするとか言っていた気がする。
俺は短時間で風呂を済ませたが彼女は女性だ。
当然入浴時間は長いだろう。
俺たちがチャオガーデンに入ったとき入浴シーンとご対面になる可能性は高い。
その時彼女は裸だろうか。
きっと裸だろうな。
風呂の代わりなのに水着を着るなんてことはあるまい。
風呂をチャオガーデンで済ませようとする方が悪い。
そういう考えを持ちつつ期待しつつチャオガーデンに入った。
「お帰りー。あ、美咲だ」
普通に服を着ていた。
先ほど着ていた服と同じものだ。
「またその服?もっと可愛いのにしなよ」
「服なんてこれしかないもん」
「大昔のGUNの制服で、しかもそれを何着も持ってるなんて趣味悪いよ」
「いいじゃん別に」
ボールを蹴って飛ばしている。
それをチャオが追いかけた。
あれ?水浴びは?
していないのか?
オルガに近づく。
髪が濡れている。
ということは水浴びはしたらしい。
だが時間は全くかけていない、と。
本当に水を浴びただけかもしれないな、これは。
「……なに?」
「いや、起きると想定されるイベントに遭遇できなくて驚いているだけだ」
「よくわからないけどいいや」
ボールを追いかける。
チャオに混じって遊んでいるようだ。
器用にボールを動かしてチャオたちを翻弄している。
オルガの位置は動いていないが、その周辺を何匹かのチャオが駆け回る。
たまにチャオがボールに触れボールがオルガから離れると、少し驚いた表情を見せる。
「オルガちゃん、チャオと遊ぶのがやたら好きなんだよね。休みの日もずっとここにいるんだよ」
「へえ」
美咲はボール遊びをしていないチャオを抱えていた。
そしてそのチャオに木の実を差し出す。
チャオはしばらく木の実を見つめていた。
食べる気はないらしく手を出さない。
美咲は諦めてチャオを放した。
「昔はあんな光景当たり前だったのにね」
懐かしむように言う。
今のチャオガーデンは人がいない。
そりゃそうだろう。
人を襲う怪物と同じ姿をした生物となんて遊べるわけがない。
もしかしたらチャオガーデンの中にはチャオスが混じっているかもしれない。
そういう恐怖が人々をチャオガーデンから遠ざけた。
俺の知っていたチャオガーデンには人はいない。
もしかしたら管理もろくにされずチャオすらいないのかもしれない。
「昔がどうだったか、知っているのか?」
「うん」
美咲は首肯する。
「昔はみんなチャオを世話してくれてた。チャオってね、誰かが見ていてくれないと生きていけないんだ。物凄く昔はカオス、昔は人間。でも今は、誰もチャオを見ない」
カオス。
俺はそいつを暴走しカオスエメラルドの力を使い人々を襲った事件のことしか知らない。
これは有名な事件だ。
例のソニックが解決した事件でもあるから。
「カオスってあのカオスだよな?」
「うん、そのカオス」
「それがチャオを?」
「そうなんだよ」
美咲は語った。
それはチャオの突然変異体であり、高い知能と能力で同族のチャオを外敵から守っていたことを。
守護神なんて称されることもあったそうだ。
「ねえどうやってチャオがカオスに突然変異したと思う?」
「難しいな。あそこまで変化したら普通の突然変異だとは思えないな」
突然変異と言われてもそこまで大袈裟に変わるようなイメージはない。
つまり、チャオが高々突然変異だけで大事件を起こすような生物になるとは思えないわけである。
仮にできたとしてチャオ以外の生物が同じような突然変異をしたという例が見られないのはなぜか、ということもある。
そういう意味の発言をし、美咲に聞き返す。
「お前はどう考えているんだ?」
「これは私の考えなんだけど、カオスはチャオスと同じ方法で変異したんじゃないのかなって」
チャオスと同じ方法、だと?
確かにチャオスはカオスとチャオの中間だと比喩されることがある。
姿はチャオだが、中身はカオスに近いものがある。
カオスエメラルドで姿が変わるかどうかはわからないが。
チャオからチャオスへの変化を大きくしたものがチャオからカオスへの変化。
一理あるだろう。
「そもそもどうしてチャオはチャオスになったんだ?」
こちらも突然変異と言われているが、こちらもまた突然変異で済まされるような変化ではない気がしてきた。
その質問に美咲は驚いたようだった。
「知らないの?」
「少なくとも常識ではない……だろ?」
「そうだけど、所長から聞かされてない?」
「ああ」
美咲は押し黙った。
うーん、と唸って考え始める。
「じゃあ、いいや。所長が黙っているということは知らない方がいいってことなんでしょ」
「そうなのか?重大な秘密を隠されているだけな気がするぞ」
「隠す必要があるんだよ。橋本君には。ここに来る前にとんでもないことしたんじゃない?」
「そんなことしたかな……?」
「きっとそうなんだよ」
それから美咲はチャオに木の実を食わせていた。
ほとんどのチャオは食べるのを拒否していたので、実際に食べさせたのはほんのわずかであったが。
そして去り際。
「そのうち教えてもらえる時が来るといいね」
なんてことを彼女は言った。

引用なし
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CHAOS PLOT 「RESULT OF CHAOS PLOT」 スマッシュ 10/7/17(土) 13:37
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