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CHAOS PLOT 「PERSONALITY」
 スマッシュ  - 10/6/30(水) 23:53 -
  
優希さんに呼び出された。
もしかしたら罠かもしれない。
彼女の矛先が俺に向く可能性を否定できる根拠は存在しない。
俺は応じるべきかどうか迷ったが、結局言われるがまま指定された場所に行くことにした。
それに、俺はそこまで危険ではないと感じていた。
優希さんにその場で問答無用に殺されるということはない、と思う。
殺す気ならわざわざ呼び出さなくたっていい。
呼び出す機会があったのだから、その時に殺してしまってもよかったのだ。
場所も場所だ。
指定された場所は訓練室だ。
最近訪れることは少なくなった。
オルガは基本的にガーデンにいるからあまり近寄ることはなく、美咲はもういない。
彼女はどうなのだろう。
彼女だけがひたすらにあそこに通っているとしたら、あそこは既に彼女のスペースになっているのだろう。
まるで私室のような場所。
ひっそりと殺すのにふさわしい場所とは言い難い。
自分の部屋はゴミ箱ではない。
自分にとって嫌な物を溜める場所ではないのだ。
それにあくまで施設の中だ。
オルガや先田さんが気まぐれで来るという可能性がないわけではない。
そう考えると緊張する意味もないだろう。
水色のカオスドライブを常備できるわけではない。
殺されそうになった時にはどう抵抗したって無意味だろう。
オルガには呼び出されたことを伝えておいた。
彼女は俺が行くのを引きとめようとして、途中で言葉を濁してうやむやにした。
干渉しない。
その判断は非常に正しいと思う。
結局は他人の問題だ。
そうだ。
これは俺の問題だ。
俺が選択するべきだということを忘れてはいけない。
それについての覚悟もだ。
大丈夫。
もう既に1人、俺の判断であんなことになってしまったのだから。
あるいは昔から俺の判断で酷い目に遭ったやつはいるのかもしれない。
例えば、シンバ。
考えなしにチャオスの戦いに突っ込むようなことをせずに、ずっと無難なことをしていれば、あのチャオスは今も生きていたのだろうか。
そうやって思い返していると気分はどんどん沈んでいく。
これからそうなってしまうような過去を作らないように、大丈夫でなくてはならないんだ。

死ぬようなことはなかった。
ドアが開くと同時に撃たれたりすることもなかった。
優希さんはゆったりと座っていた。
両手に何も持っていないことも確認できた。
安全。
今、俺は促されるまま椅子に座っている。
彼女の動きが少し硬いような気がする。
緊張しているのだろうか。
うまく殺せるかどうかという点で緊張しているとは思えないが。
思えばどういう理由で呼び出されたのかもよくわかっていない。
諸々の不安から出る俺の緊張感とで場は微妙な雰囲気になっていた。
「今日呼び出したのは他でもないわ」
そういう空気だったからか、まさに話を切り出すぞと言わんばかりの定型句で話は切り出された。
「私たちに協力してほしいの」
「それは……」
言葉を選ぶ。
彼女の言わんとしていることはなんとなくわかる。
だから、相手の言葉を引き出せるように。
「どういうことへの協力ですか」
「ARKの本当の目的を達成することへの、よ」
ARKの本当の目的。
それを俺は既に知っている。
「ARKは不死の人間を生み出すためにあるの。チャオスを殲滅するためではなく」
「……」
「あまり驚いていないようね」
「……美咲から聞いていたので」
そうでなくとも似たような反応になっていたのではないかと思う。
いきなり不死の人間だなんて言われても反応に困るだろう。
「そう、なら話は早いわね。その協力、すなわち不死身のケイオスになることを目指し、不死身になったらそれを他の人間へも反映させられるようになるまで力を貸してほしいの」
悪い言い方をすれば、材料になれ、と言われていることになる。
だが口にも表情にも出さない。
そのような皮肉は本意ではない。
「どうして不死を?」
「え?」
なんとなく思った疑問を口に出しただけだった。
深い意味はない。
だから、今のように聞き返されると少し困ってしまう。
取り消そうかととっさに思う。
遅れて、聞いてみるのもいいかもしれないという思いも生まれた。
俺は後者に従った。
「どうして、ARKは不死身の人間を目指しているんでしょうか」
「あなたは死ぬことが怖くないの?」
「……あまり深く考えたことはないです」
死にそうなことはあった。
その時には恐怖を感じたが、それでもその感情をいつまでも持っているわけではなかった。
危機が去れば安堵し、忘れてきた。
「死とは恐ろしいものよ。死んだ後、どうなってしまうのかわからない。死後の世界があると信じきることは難しいわ」
そうだろう。
本当に天国や地獄があるとは思いにくい。
仮に死後の世界があるとしても、それを証明する手立てもない。
「それよりも、死ねばただ無がそこにある、と思った方が現実的でしょう?」
「そうですね」
死後がどうなっているのか考えている時点で現実的な話ではないのかもしれないが。
少なくとも現世的ではない。
「自分が消えることは、恐怖よ」
優希さんは軽く腕を組んだ。
本当に軽く、自然な動作だったが、それは不安から自分を守るために自身をかき抱く行為にも見えた。
「今、ここにいる私が消えてしまう。私という個が消えてしまうのは嫌なのよ。私は私であり続けて、確かにここにあり続けたい」
その声がかすかに震えているとわかった。
組んだ腕は少し強張っていて。
少しの沈黙。
彼女の声はもう落ち着いたものに戻っていた。
「多くの人はそう思うものなのよ。だから、不死であることを求める多くの人がARKに協力しているわ。莫大な金と、強力な権力を提供することで」
多くの人が死を恐れている、と言った。
それは確かに正しいのだろう。
しかし優希さんは間違ってもいる。
彼女の恐怖は彼女だけのものだ。
他の人間の感じる恐怖とは違うものだ。
クオリアは共有できないし、お互いに全く同じものを持っているという証明もできない。
個人差という言葉では表しきれない絶対的な差がそこにあるのだ。
だから彼女が自分をかき抱きたくなるくらいに感じている恐怖も、さっき彼女が言った感情も全ては彼女だけの物なのだ。
だが、きっとそういうことを優希さんは理解しているのだろう。
自分というものを強く感じれば感じるほど己の消滅は耐え難いものになるはずだ。
「ずっと生きていたいから優希さんはケイオスになったんですか」
「ええ、そうよ。美咲がいたから私はARKという存在を知った。そして、ARKのことを深く知って私はケイオスになると決めたわ。そうじゃなきゃこんなのになろうとなんて思わない。自分のためでなければ、人は戦えないわ」
組んだ腕はそのままで、しかし恐怖を発していない。
その仕草から表現されるものが別のものになったのだろう。
ケイオス。
それは自分の体を人類の敵である化け物のチャオスに変えられる存在だ。
好き好んで化け物になろうと思う人間は少ない。
自分が死なないために。
そういう意思が働いて初めてそれを受け入れる決意が生まれるのだろう。
強い口調が威圧をする。
「私は生きるためなら、不死になるためならなんでもするわ。邪魔な者は誰でも殺す。利用できる者は利用する。1秒でも早く私が死なない体になるように」
「俺はその両方なわけですね」
「ええ、そうよ」
「……しばらく考えさせてくれませんか」
「構わないわ。でも手遅れにならないように気をつけなさい」
「はい。それでは」
「ああ、少し待ちなさい。あなたが生きている間にこちら側に来る決心をすると祈って忠告をしておくわ」
「……なんでしょうか」
「オルガに近寄りすぎるのはやめておきなさい」
「それは」
どういう意味だろうか。
想定される理由のいくつかがすぐに頭に浮かんだ。
冷静な思考がその中でもっともな理由を選び出した。
「不都合だからですか?俺とオルガが組んだらすぐ殺さなくてはならなくなると?」
「それもあるけれど、組む組まない以前の問題もあるわ」
「どういうことです?」
「私は、あなたを私たちの意志と関係なく、彼女という得体の知れないもののせいで失いたくはないの」
「得体の知れない?」
彼女はチャオスだ。
そしてここはARKだ。
得体の知れないという表現は非常に不自然に思えた。
いや、もしかしたら優希さんは彼女がチャオスであると知らないのかもしれない。
しかし優希さんはその可能性を消し去った。
「オルガは、チャオスでも人間でもないわ」
その言葉は俺にとって意味不明だった。
そして驚愕だった。
優希さんはオルガがチャオスであると知っていた。
そしてオルガは人間とチャオスのどちらでもないと言う。
2つ驚きが重なれば言葉が口から出なくなる。
「それはどういうことですか?」
「彼女の母親はチャオス。でも父親は人間よ」
「……ハーフ、ということですか」
「ええ」
思えば、父親は人間だと先田さんも言っていたな。
そういうことは可能なのだろうか。
チャオスが人間の体をキャプチャして手に入れれば少しは現実味のある話になる……のだろうか。
「……まあ人間とチャオスのハーフって点はチャオス以上に得体が知れないってだけで重要じゃないわ」
「え?」
てっきりそこを責めたてるのだと思っていたが。
「彼女は生まれた時、肉体が不安定だったらしいの。私もよくは知らないのだけれど……」
優希さんの聞いた話によれば、オルガは生まれた時、人間とチャオをぐちゃぐちゃに混ぜにしたような外見をしていたという。
どのような混ざり方をしていたかまでは聞かされていないということだったが、人間として見てもチャオスとして見ても違和感を感じずにはいられないものだったという。
「そして、体には欠陥だらけだったらしいわ。生まれてすぐに死んでしまいそうだったとか」
「……どうやって生き延びたんです?」
「単純な話よ。おぞましい話でもあるけど、ね。彼女はちゃんとした肉体を手に入れたの。チャオスの体と人間の体を両方」
「まさか……」
信じ難いことではある。
だが、彼女が言おうとしていることは嫌でも空気が伝えてくる。
「キャプチャを?」
「ええ。父親と、母親を両方」
頷かれてしまった。
察していたからやはりそうなのか、とは思えてもショックは大きい。
生まれたばかりの子どもが生きるために親を殺せば、それに対して恐怖を感じないはずはない。
印象は強く刻まれる。
俺のオルガに対するイメージは大きく変動した。
それは止めることは仮に止めたいと思ったとしてもできるものじゃない。
「そうやって生きるっていう手段を彼女は生まれた時から知っているの。だから、気を付けなさい。彼女の味方になっても危険なことに変わりはないわ」
「……はい」

「お、生きて帰ってきた」
チャオガーデンに戻ると、そうオルガがあたかも俺が死ぬと予想していたかのように驚いた振りをして言った。
「まあなんとか」
「で、何か言われた?」
「不死身の研究を手伝えと勧誘された」
「ふうん」
今度はあたかもそんなところだろうと予想していたかのように無関心な声を上げた。
「それで?」
「保留ってことにしといた」
「そう」
「研究のために金を出してる人がいるって言ってたなそういえば」
「あー、大金持ちが――」
オルガは彼女が把握している限りの人間と金額を言った。
中にはかなり有名な人物もいた。
どうも特定の層にはこの研究のことが知られているようだ。
「合計したらとてつもない金額だ」
「そういうわけだから、不死身の人間を早く作れるように実験台は多い方がいいわけだね」
「なるほど」
「そして人類の敵であるチャオスを消されると困るから私は邪魔者というわけ」
「そうか。チャオスが消えたら理由が無くなるのか」
オルガの目的はチャオスをチャオに戻すことだった。
ここはあくまでチャオスに対抗したりチャオスを研究するための場所。
チャオスが消えれば表向きな存在理由が消える。
しかも過去の事例の通りに動きのであればカオスエメラルドは7つ集まって力を発揮した後は散り散りにどこかへ行ってしまうという。
それだけではない。
今まで小動物の収集はチャオスに頼っていた。
小動物を揃えることが難しくなるなどの問題が発生する。
結構なダメージになる。
「あとお前がチャオスと人間のハーフで両親をキャプチャして生き延びたやつだから気を付けろと言われた」
「……」
これが事実であるかどうか。
気になることであった。
「どうなんだ、実際?」
彼女は正直に話してくれるだろうか。
あの神殿で俺に話した時のように。
「うん。キャプチャしたよ。両方」
あっさりと認めた。
あまりにもためらいがなかったことが予想外だった。
「どうも最初の7匹の中の1匹だったらしいよ」
「母親が?」
オルガは首肯した。
仕草も口調も普段の日常会話と変わりない。
違うのは俺に冗談を言うつもりがなかったことと、オルガもどうやらこの話題に関してそういうことをしようとは思っていないらしいことくらいだった。
「うん。最初の『融合』使うチャオス。最初で最後かもね」
「じゃあお前の能力は母親譲りってことか」
「キャプチャしてるからね。影響は結構受けてると思うよ」
「ふむ。じゃあ俺のはどこから来てるんだ?」
「性格」
すぱっと答えた。
「血液型かよ」
「あー、そういうのに似てるかも」
「……」
説得力の欠片も無いように感じた。
どうも自分が浮いた存在のように思える。
能力だけでない。
立場もそうだし、このARKにいる理由もだ。
そこが胸につかえた。

引用なし
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