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No.13
 冬木野  - 11/10/4(火) 15:56 -
  
「実はな、今回俺はお前のことをフロウルだと思っていた」
 シャドウさんにしては馬鹿げた言葉に、私はとにかく面食らった。
「……な、なんで?」
 あまりにも突拍子の無いカミングアウトに一瞬頭の中が真っ白になったが、彼が言うには、GUNは本来フロウルの足取りを掴んでいないはずなのに、そのGUNから情報をもらったといって現れた私をユリとは思わなかったようだ。
 だからってなんで私と勘違いするんだって話になるが、正体不明でお馴染みのフロウルが「じつはぼくふじみなんだー」とかなんとか言っていたらしいので、それで試しに腕の一本を撃ち抜いて判断したとか。
「いやそれ出会い頭のことですから! 会話したのそれより後ですよ!」
 そこを指摘すると、珍しいことにシャドウさんが言い難そうに口を開いた。
「……俺のことを“フェイ”と呼ぶのはフロウルだけだ」
 そう言われて、私がフェイという名を知ったのは、自分が死んでいる時だということをようやく思い出した。

 確かに忙しかったのですっかり忘れていたが、結局シャドウさんとは合流なんかしなかった。
 どうやらその後本物のフロウルと会ったようで、ずっとそっちを手伝っていたようだ。本当に私がこっちに来ていると知ったのは、所長が私に救援を求めた時だったそうな。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 そんなこんなでシャドウさんと別れ、私は何故かワゴン車を転がすことになった。
「……なんで私が運転するんですか」
「俺免許持ってねえし」
 物騒にも所長は助手席で刀を抱えていた。一応鞘には納めてあるが、なんでもいいからさっさと隠してほしい。物騒の度合いで言ったら、血で汚れた服でそのまま運転してる私も負けてないけど。ちなみに一応乾かした。座席に血をつけると後が面倒なので。
 カーナビを頼りに、植物園近くを迂回しながらメガロステーション方面へ向かう。すっかり暗くなったが、抗争騒ぎのせいで足止めされた他の車達がちょっとした渋滞を作っており、あまり夜遅くだということを実感しない。ふとバックミラーに映る四人の子供達の寝顔を見て、まるで親になったみたいな気持ちになり溜め息が漏れた。
 フロウルのやっていたこと。それはカズマら四人を人間に戻すことだった。いつかフロウルがシャドウさんに話した“後半”だ。
 元々あの廃工場にはごく小規模の派生組織が居座っていたそうだ。というのも、過去に大きな派生組織が人工チャオの管理に使っていたという都合の良い場所だったそうだ。そこから派生組織を追い出す為に、フロウルは自分の名前を使って陽動を行って防衛を手薄にさせ、所長とシャドウさんの二人で制圧した。
 カズマ達がモノポールにやってきたのは今日の昼過ぎ、ちょうど私達が植物園にいた頃のことだ。昨日の夜の内に呼び出された四人は、何故か適当な洋服を一着、あとは手ぶらという謎の手荷物でここに到着。そこで待っていたシャドウさんに言われるがままワゴン車に乗り、裏組織との楽しいカーチェイスに。人工チャオ相手の厄介極まりない追いかけっこだったが、幸運にも(私にとっては不運だったが)ちょうどその頃植物園の前の前で大事件が発生していたので、GUNや警察はみんなそっちに回り、GUNに目を付けられないという目標は簡単に達成できた。
 あとは私も知っての通りだ。追っ手を無くす為に人工チャオを殲滅、その間に四人を人工チャオから人間に戻した。
「そういえば気になってたんですけど、人工チャオを人間に戻す方法って」
「ああ、お前のとは違った方法だよ。俺はよくわかんねえけど、人工チャオに情報を移すのも人間に戻すのも、ちゃんとそれ用の機械を使ってんだ。変な後遺症も無かったみたいだ」
 そうか、私のはやっぱり例外なのか。てっきり四人とも殺しちゃってるんじゃないかとか思ってた。
「そういえば、結局フロウルはどこいっちゃったんですか?」
「また姿変えて暢気に観光でもしてんだろ」
 言われた通りの光景が目に浮かんで、思わずああと声をあげて納得した。あの男(いや女かもしれないけど)、危機感とかそういうものとは無縁そうだもんな。
「……ねえ、所長」
「ん?」
「あの四人の体を見つけたのってフロウルですよね」
「そうだな」
「結局フロウルの目的ってなんなんですか?」
「ああ? それならとっくに知らねって言ったろ」
「まあそうなんですけど……」
 それでも気になってしまう。素性がわからないというのは当然として、自分のことも気にしないで私達を助けてくれたというのはどういうことだろう。裏組織とは敵対しているようだから正義の味方でも気取ってるのかもしれないが、それにしたってシビアな裏の世界で生きてきた人間のくせにメリットやデメリットに疎くないか?
「別にいいんじゃねえの? 仮に敵だったとしても問題になんねえよ」
 私の悩みを、所長は簡単に一蹴した。
 確かに所長にとっては問題じゃないだろう。それは所長の魔法使いとしての側面を見ればあきらかだ。並大抵の奴は敵にはならない。
 ……ひょっとして、その戦闘能力を見込んでの事だろうか? それならこの協力関係も納得がいくが……。
「あー、面倒くせえことばっか考えるんだなお前。青」
「え、あっ」
 いつの間にか信号が変わっていた。慌ててアクセルを踏み込み、思考も置き去りにしていく。
「で、これからどうするんですか?」
「帰る」
 単純な一言を言い放ってきた。その意味を受け取るのに少しだけ手間取って、私は聞き返した。
「帰るって?」
「決まってんだろ。事務所だよ」
 そこまで言われて、ようやく私はその意味を実感できた。やっと帰ってくるんだ。所長が小説事務所に。
「なんだお前、変な顔しやがって」
「ああいえ、別になんでも」
 感慨に浸っている顔を慌てて戻した。
「あ、でもミキがいないんだっけ……」
「いるぞ?」
「えっ? どこ?」
 運転中にも関わらず後ろを覗いてみると、なんと私の真後ろの席に鎮座していた。全然気付かなかった。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 空港に向かう前に、一度荷物を取りに行く為にミスティさんの泊まっているホテルの前までやってきていた。流石に血塗れのままホテル内を闊歩はできないので、ミスティさんに取ってきてもらった。
「そっかー、もう行っちゃうんだー」
 名残惜しそうに言いながらも、窓越しに後ろの四人の寝顔を見るミスティさんはどこか微笑ましそうだ。
「こうして見ると、まるで家族みたいだね!」
「家族?」
「うん。あ、でも駄目だぁ。所長さん浮気になっちゃうよ」
「おいこらどういう意味だ」
「じゃ、また会おうね!」
 所長に噛み付かれる前に、ミスティさんはさっさとホテルへ逃げ帰ってしまった。所長はばつが悪そうにそっぽを向いてしまう。
「早く出せよ」
 不機嫌な所長に促されて、私はアクセルを踏み込む。私が運転してる間もずっと窓の外を見たまま口を開かない。
「……リムさん、ずっと待ってましたよ?」
 からかったらものすげえ睨まれた。刀まで握ってたので、それ以上は何も言わないことにしておいた。


 空港に着いた頃には、既に飛行機が私達を待ってくれていた。私がここに来る時のと同じものだ。既に話が行っているのか、乗務員らしき人達が四人を機内に運ぶのを手伝ってくれた。
「やあ、忙しない探偵君。一日ぶりだね」
 そんな気はしたが、パイロットもここに来る時と同じ人だった。妙に印象的なこの人物を再び目の前にして、何やら言い知れないものを溜め息として吐き出す。
「随分お疲れのようだね」
「ええ、たった一日ぶりですから」
 体感ではもっと長い時間を過ごしたような気がするのに、思い返せば二日しかこの街にいなかったわけだ。来た時はGUNの最高司令官殿までもがお迎えに来てくれたっていうのに、帰りは寂しいものだ。
「そうだろうと思って、今回は機内上映と機内食を用意しておいたよ」
「へえ……ちなみに、映画のラインナップは?」
「僕の好みでカーアクションとスカイアクションを用意したよ。どっちがいい?」
「……あの、カーアクションってチェイス物ですか?」
「だったかな」
「……スカイアクションでお願いします」
 カーチェイスはもうお腹一杯だった。ちなみにお腹は減っていた。

引用なし
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