●週刊チャオ サークル掲示板
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No.1
 冬木野  - 11/10/4(火) 5:53 -
  
 人間に戻って、何が変わったか?
 言い出してみればキリが無い。扱われ方も変わったし、高いところに手が届くようになった。日常を過ごす上では、やはりチャオよりも人間の方が便利な事が多い。
 それを踏まえて、あえて言うならこうだ。特に変わったことはない。
 人間だろうがチャオだろうが、結局のところ私は私だ。大した意味は含んでない。まるっきり別人になったわけではないから、前と違うことをするわけではないという意味だ。チャオの時と同じように、私は所長室にある来客用のソファに腰を降ろして、ひたすらに時間を無駄にしている。
 一度染み付いた習慣は、二年前の私にあった探偵としての習慣を確かに塗り替えていた。いつぞやにフロウル・ミルについての情報を漁ろうと画策した気がするのだが、あれから結局何もしていないわけで。
「おお……美しい姫君のだらしない姿が……まさに俺得」
 唯一変わったと実感できるのは、ヤイバの野郎がうぜぇという一点だろうか。
「おお……美しい姫君のガン垂れる姿が……まさに俺とくおっ!?」
 なんともタイムリーなことに、机の上に攻略本らしき分厚い本があったので投げてみた。見事額に命中。我ながら良いコントロールをしている。隣のカズマは至って冷静に落ちた本を拾って机に戻した。ヤイバの事はこれっぽっちも気にせず。
「あのー、ユリさん? 一応これ大事な本なんで、乱暴に扱われると」
「買い直せばいいじゃん」
 まあね……と言った風に納得し、カズマは再び携帯ゲーム機を手に取った。
「くう……ユリもすっかりドS嬢になられてしもうた」
「就職し始めの頃とは大違いだね」
 陰口なら他所でやってほしい。というか、ダメージを負った友人よりも攻略本を優先したそこの坊やも大概である。
「それもこれもユリ様が暇潰しの手段を持っていないが故にストレスを溜めているせいに違いない!」
 問題点がすり替えられた。
「というわけで何かゲームをオススメしてみたいと思うのですが、好みのジャンルはございますでしょうか」
「ジャンル?」
「ほら、アクションとかシューティングとか。ユリ様なら魔界村も怒首領蜂も余裕でクリアできましょうぞ」
 どっちも知らないけど、難しいんだろうなというのはなんとなくわかる。
「あんまり面倒な事を要求されないのがいいかな」
「アドベンチャーとか?」
「そんなん本読んでるのと一緒じゃんよー」
「いや、ノベルゲーってわけじゃないでしょ」
 ゲームの素人には傍から聞いててよくわからない。
「あ、そうだ。音ゲーなんてどうかな」
「音ゲー?」
「ゲームセンターなんかで見かけたことないかな? ビーマニとかポップンとか――ええと、音楽に合わせて鍵盤とか丸いボタンとか叩いて遊ぶアレ」
「ああ、うん」
 なんとなく見覚えがある。やったことはないけど。
「どう?」
「んー……よくわかんない曲ばっかりだからやってなかったわけだし」
「音ゲーなんてそんなもんだよ。最初はどの曲もわかんないものばっかだけど、やってるうちに選ぶ曲が固まってくるものだから」
「ふうん……」
「あーもーまだるっこしいな、こうなりゃまずはギャルゲーからあいてっ」
 なんともタイムリーなことに、机の上にライトノベルらしき小さな本があったので投げてみた。見事顔面に命中。我ながら良いコントロールをしている。隣のカズマは至って冷静に落ちた本を拾って机に戻した。ヤイバの事はこれっぽっちも気にせず。


『小説事務所、こちらマスカット大尉。緊急の連絡あり、どうぞ』
 その時、所長専用デスクの上の無線機から渋い声が漏れた。
 私達は一様に顔を見合わせた。一番近い場所にいたヤイバが無線機を手に取り、無線に応じる。
「こちら小説事務所。続けてどうぞ」
 突然なんの連絡だろうかと、ついさっきまでとは打って変わって静かに返事を待つ私達。内容は、割と想像できたものだった。
『フロウル・ミルの足取りを掴んだ』


 ̄ ̄ ̄ ̄


 所長室とは、別名会議室であると私は勝手に思っている。ただ単にみんなが一番集まりやすい場所という理由なだけだが、ここ以外で大事な話をしようという気にはならないのもまた事実。それに、わざわざパウやリムさんがこの部屋にやってきたのもまた事実。ヒカルとハルミちゃんはちょうどお出かけ中だった。
「それで、大尉さんはなんて言ってたんですか?」
「フロウルと思しき人物がいる場所の情報を手に入れてガサ入れしたらしいんすけど、誰もいなかったと。で、偶然フロウルが残したっぽい手がかりから、フロウルの向かった場所がわかったとかなんとか」
「残した手がかりはともかく、よくフロウルの場所を突き止められたね」
「運良くフロウルの目撃情報を手に入れたみたいっすよ」
「それこそ凄いよ。ユリの話だと、フロウルって人はいつも変装してるんだろ?」
 ミキの話だと変装どころの話ではないと思うのだが、まあそういうことになる。確かによく目撃情報なんてあったものだ。
「それで、フロウルはどこに?」
「モノポールって場所らしいですけど」

 モノポール。
 カオスによる超弩級大洪水や黒の軍団による地球侵攻など、様々な事変を乗り越えてようやく平和が訪れ、最初に某国大統領が行ったのが新たな街づくりだ。
 これまでにも類を見ない被害を被り続けた地球はボロボロ、住む場所を失った人々の数は計り知れない。そんな人々の為に大統領が集められるだけの資金を捻り出して作った街の一つがモノポールというわけである。
 モノポールの特徴を一言で言ってしまえば、一世紀は先の未来からやってきた街とか言われているらしい。未来都市という言葉がこれ以上ないくらい似合う、近未来的な巨大都市だ。テレビでしか見たことがないが、まるでそのように作られたテーマパークなんじゃないかと疑ったレベルではある。

「モノポールかあ……」
「ちょっと気軽に行ける場所じゃないですね」
 話を聞いた二人が首を傾げる。確かにステーションスクエアから向こうに行くとなると、ちょっとした旅行になってしまう。
「僕は遠慮しとくんで。そこんとこよろしく」
「あ、オレもオレも。ちょっと彼女と用事があって家から出られないのよ」
「彼女?」
「おうよ」
 いやに胸を張って言うヤイバの言葉を、私は頭の中で穴が開くくらい見返した。彼女……家から……。
「……ああ」
 空しい奴だ。とは口に出さず、ただ見つめ返すに留まった。当人は私の視線の意味を悟り「そ、そんな目でオレを見るな!」とかなんとか言い出したが、自分で蒔いた種だろうに。
「ヒカル達も多分行かないと思うけど」
「私達もゼロさんを探さないといけないので、ちょっと」
 ……ということは、なんだ。私が行かされる流れなのかこれは。
「はは、大丈夫だって。あそこはミスティさんの管轄だから、彼女に頼んでみようよ」
 最初からそう言ってほしい。変にプレッシャーを掛けられて、私は溜め息が漏れ出た。


『ちょっと難しいかなー』
 早速電話してみたところ、ミスティさんは苦く即答した。
「どうしてですか?」
『ほら、モノポールって広いし、そこから人一人探し出すのは難しいの。GUNの人も協力してくれるとしても、ちょっと容易じゃないかも』
 一応やるだけやってみるけど、と協力は得られたが。相手がそこに留まるという保証が無い以上、やはり人員は必要かもしれない。
「わかりました。私もそっちに向かいます」
『オッケー、楽しみにしてるね。あたし、まだ探偵のユリちゃんの姿を見たことないから』
「……あー、はい。まあ、楽しみにしててください」
『あ、それとパウさん? ユリちゃんをこっちに向かわせる前に“移動手段”を作っておいた方が効率的だよ。じゃ、そういうことで』
 移動手段。そう言い残して、ミスティさんは通話を切った。言葉をかけられたパウはと言えば、何やら腕を組んで唸っている。いったいなんだろう。
「ユリ。探偵としては、やっぱり目立つ物は持ち歩きたくないよね?」
「うん、まあね」
「わかった。それじゃ靴のサイズを教えて。三日――いや、二日で移動手段を用意するよ」
 靴のサイズ?

引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.1; Trident/4.0; GTB7.1; SLCC2;...@p2003-ipbf1804souka.saitama.ocn.ne.jp>

小説事務所 「Misfortune Chain」 冬木野 11/10/4(火) 5:33
キャラクタープロファイル 冬木野 11/10/4(火) 5:44
No.1 冬木野 11/10/4(火) 5:53
No.2 冬木野 11/10/4(火) 5:59
No.3 冬木野 11/10/4(火) 14:54
No.4 冬木野 11/10/4(火) 15:00
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No.13 冬木野 11/10/4(火) 15:56
新しい小説事務所 ドキュメント 冬木野 11/10/4(火) 16:03
「あ、でも後書きがないんだっけ……」 冬木野 11/10/4(火) 16:27

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