●週刊チャオ サークル掲示板
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No.4
 冬木野  - 11/10/4(火) 15:00 -
  
「えーっと、それじゃあ駅の方に行けばいいんですね?」
『そうそう。凄くおっきな建物が見えるでしょ? その方角に向かえば簡単に着くから』
「わかりました。それじゃ、すぐに行きます」
 携帯電話を閉じて、ミスティさんの言うおっきな建物目指して歩き始めた。
 彼女の言うとおり、この街中で迷う要素というのはそれほど無かった。ここの道路は車道もそうだが、歩道も基本的には一本道だらけで、分かれ道という分かれ道にはご丁寧に看板が立てられている。初めてこの街に来た人でも迷わないような配慮はされていたみたいだ。
 横幅に余裕を持った歩道を、私はエクストリームギアの練習がてらエアを軽く吹かしてゆっくりと走った。スケートと同じ感覚で行けるものかと思っていたが、やはり最初は怖い。スケートは細いブレードで滑らなくてはいけないが、こっちはそもそも接地してないからまたバランスが取り難い。例えるならばN極の板の上を進むN極の磁石だ。ふらついてしょうがない。
 珍妙な走行を続ける私に視線が集まるなか(実に不都合だ)、ミスティさんの言った通りあっさりと駅のところまでやってきた。こちらに手を振る人影が見えるあれがミスティさんだろうか。本当にすぐに来てしまったな。
 足取りの覚束無いままミスティさんの目の前まで滑っていき、目の前までやってきたところでエアを止め――。
「わわっ」
 足が地面に着いた途端、あまりの体勢の悪さに前のめりになって倒れそうになってしまう。それを咄嗟にミスティさんが受け止めてくれた。
「止まる時は、ちゃんと一時停止してからじゃないと危ないよ」
「覚えておきます……」
 体を起こそうとしたが、顔を合わせたミスティさんが何故か離してくれない。どうしたのだろうとお互いに見つめ合う形になり、ふとミスティさんが言った。
「チャオの時もそうだったけどさ」
「はい?」
「ユリちゃんかわいい!」
「ぎゃう」
 抱きしめられました。
「あー、ああー、わかりましたんで、放してください」
 あたしゃ愛玩動物じゃないよと訴えながらミスティさんから離れる。
「というかそれ、この辺の学校の制服だよね? コスプレ?」
「身分詐称の一環です……」
 事、変装するにあたって一番言われたくないのがコスプレという言葉だ。こちとら仕事なんだってばさ。
「ミスティ」
「ん? ああ、ごめん。仕事だよね」
 ふと、ミスティさんの真後ろからも声が聞こえた。どうやらフウライボウさんもいたらしい。今日もリュックの中だろうか。
「フロウルの捜索状況……っていっても、どうせわかるよね」
「まあ……」
 捜索などと一口で言っても、フロウルのことを知ってる人から言わせれば、ぶっちゃけ無理がある。モノポールにいるらしいという情報を手に入れただけでも奇跡みたいなものだ。
「ただ、それに釣られた魚達はわかるだけでもかなりいるね」
「魚って、裏組織の?」
「そうそう。このターミナルの中だけでも沢山」
「具体的にはどれくらい?」
「た・く・さ・ん」
 沢山、ね。
 改めてターミナルの内装は、外から覗き見ただけでもちょっとしたショッピングモールのように見えた。
「このターミナルってどれくらい大きいんですか?」
「えっと、確か30階建て。見ての通り一階層だけでもかなり広いよ。どうするつもり?」
 なるほど、モールみたいになるわけだ。そんなに無駄に大きく作ってあるとは、市民の評判は良くても今の私達には悩みの種にしかならない。
「さあて、どうしましょうね……」
 見知らぬ設計者にクレームを飛ばしつつ、一つ荒っぽい策を思いついた。無線機を司令官殿から貰った周波数の一つに設定する。
「あー、メガロチーム? こちら小説事務所。応答願う、どうぞ」
『――こちら、メガロチーム。話は聞いております、ディテクティブ』
 どうやら部隊の皆々様には“探偵”で通っているらしい。話が早くて助かる。
「メガロチームの人数を確認させていただけますか? ターミナルに近い分だけで」
『はっ。現在、ターミナルには駐車場と非常口を含め、全8箇所の出入り口にそれぞれ4人程配置されています。また、付近にいる隊員と合計すれば一個小隊程になります』
 えーっと、小隊一個分は確か30人から50人くらいだったか。緊急だっていうのによく集められたもんだ。最高司令官殿の手腕に乾杯。
「わかりました。手の空いている隊員をターミナルの各階に配置していただけますか?」
『了解。配置後はどのように?』
「指示があるまで待機でお願いします。以上」
 通信を終えて、溜め息を一つ。果たしてうまくいくかどうか。
「すごーい、ユリちゃんって偉いんだね」
「え? あー、そうですね」
 確かに軍の一個小隊を軽く動かす探偵なんかフィクションにもそうそういないかもしれない。
「ははは」
 思わず乾いた笑いが出てくる。私って実は凄い奴なのかなと思えてきた。自惚れているわけではない、ちょっと怖いだけだ。
「で、私達はどうする?」
「えっと、ミスティさんがわかる分だけでいいので、ターミナルを一階ずつ回って、裏組織の人間がどこにいるか教えてください。それをGUNの人達にマークさせます」
「オッケー。それじゃついてきて」
 ミスティさんの後を追って、いよいよターミナルの中へ足を踏み入れた。
 もうすぐここは戦場になる。願わくば、五体満足でここから出られることを――って、確か私、不死身になってたっけね。


 ̄ ̄ ̄ ̄


「あれだよ。背の高くて、髪の茶色い」
「30階。長身、茶髪、やけにガタイのいい男性です」
『了解。マークします』
 作戦の前準備も一段落終え、自然と溜め息が漏れる。
「これで一通り回り終わったね」
「そうですね……」
 覚悟はしていたが、かなり時間をかけてしまった。まだ本番は先だと言うのに、もう疲れが溜まっている。
「確認します。目標の状況は?」
 階層の中央に陣取り、最終確認を行う。ここは真下のホールまでよく見渡せるようになっていて、別階層に異常があればすぐにわかるようになっている。
『1階、目標の二人は未だに動いていません。こちらに気付いた様子もないと思われます』
『3階にも問題ありません。暢気にチリドッグを頬張っていますよ』
 続々と4階、5階、7階と連絡が入ってくる。聞いてるだけでも気が遠くなってくるが、とりあえずどこも問題はないようだ。
 深呼吸を一つ。
「わかりました。それでは――確保を」
 緊張で手汗が滲んできた。いよいよメインイベントだ。街や市民への被害が気になるが、今はこれくらいしか方法が思いつかない。多少の荒っぽさは覚悟の上だ。
「ミスティさん、先に出口の方へ行きましょう。向こうが騒動を起こせば、市民に紛れて逃げる可能性は高いです。GUNにも援軍は頼んであるけど、一応」
「オッケー」
 これから起きるであろう混乱に焦る気持ちを抑えながら、エスカレーターを足早に降りる。
 もうそろそろ、だろうか。

 ――何かが破裂する音が聞こえた。
「いやああああ!」
「なんだ! いったい何が起こった!」
 銃声に煽られるように、人々の叫び声も聞こえ始めた。ターミナル中が混乱にざわつく。
「……始まった……!」
 ここからはのんびりしてられない。私達はエスカレーターを駆け足で降り、出口のある階まで急いだ。人々の叫び声、足音に混じって、疎らな銃声も聞こえる。
「ターミナル周辺の各員へ! 目標は決して殺さないように! 市民への被害は最小限に! いいですか、死傷者を出さないことを最優先してください!」
 流れる人波を掻き分け、なんとか進んでいく。これは先に出口でスタンバっておくべきだったかと後悔しつつ、とにかく出口へと急ぐ。
『ディテクティブ! 目標の一集団が車に乗って逃走した!』
「はあ!?」
 思わず声が出た。早速逃がしてどうするんだ。
『人員が不足しており、追跡は困難!』
「そのまま防衛を続けてください! お願いですから、これ以上逃がさないで!」
『了解! 各員、目標を決して逃がすな!』
『隊長、言ったそばからまた一台逃げました! 分かれて逃げていきます!』
「おいド阿呆……うわっ」
 通信に集中していたせいか、誰かとぶつかってしまった。頼むからみんな早くターミナルから逃げてくれ。やり難いったらありゃしない。
「ユリちゃん、大丈夫!?」
「くっそ」
 焦りを堪えつつ、懐から紙切れを一枚出した。落ち着いて無線機の周波数を紙に書かれた数字に変えて、祈る気持ちで通信。
「シャドウさん聞こえますか! 今どこにっ」
『聞いてる。ターミナルのすぐ近くだ。どうにも騒がしいが、何かあったのか?』
「車に乗って逃走している奴がいます! 確認できますか!」
『ああ、やけに荒っぽい車が見える。どうすればいい』
「追ってください! その場から動けなくしてくれればいいです、絶対に殺さないで!」
『わかった。任せろ』
 話が早くて助かる。シャドウさんなら逃がしはしないだろう。
「ミスティさん、逃げたもう一台を追いましょう!」
「わかった、じゃ先に行ってるよ!」
「先にって」
 その言葉の意味はかなりとんでもないものだった。フウライボウさんがタイミングを計ったようにリュックからボックスのようなものを取り出し、ミスティさんに渡した。彼女専用のエクストリームギアだ。
「グッドラック!」
 無駄に眩しい笑顔を残して、ミスティさんはホール目掛けて飛び降りた。
「ちょ、ミスティさん!」
 何やってんだあの人は。ここはまだ20階よりも上だぞ。
 少なくとも逃げ遅れた人々の視線を掻っ攫ったであろうミスティさんは、大胆にも空中でギアをバイク形態に変形させ華麗にライディング、着地、そして走り出した。
『な、なんだあれは!』
「あー、あれは攻撃しちゃダメですよ! 味方ですからね!」
『ディテクティブ! また車両が一台逃走した!』
「いい加減に……!」
 眉間を抑えて呼吸を整える。最高司令官殿の話は本当だったようだ。これが連邦政府お抱えの国際警備機構か……。
「各員へ、これ以上の逃走者は手に負えません! せめて援軍が来るまで持ち堪えてください!」
『お前ら! 次は無いぞ、何がなんでも逃がすな!』
 本当に逃がさないでくれよ? と、GUNではない別の誰かにでも願って、私もミスティさんの真似事をするかのようにその場から飛び降りた。半ばヤケクソで。
「くっ」
 なんとか体を地面と垂直にし、エアを強く吹かす。20階以上の高さをたった1、2秒で降下し、覚悟していた着地の衝撃は……思った以上になかった。強いエアの力のおかげか、マットかトランポリンの上に着地したみたいだ。
「すご……」
 勢いでやっておいてなんだが、もっと痛いものだと思っていた。
「ディテクティブ!」
 ふと、GUNの隊員の誰かが私を呼んだ。振り返ると、隊員の一人が私目掛けて拳銃を放り投げてくるではないか。
「あぶなっ」
 暴発したらどうすんだと焦りながらなんとかキャッチした。隊員はこっちの気も知らず、暢気に敬礼してくる。
「後は任せてください!」
 そう言って、頼りない背中が一つ奥へと引っ込んでいった。私も背を向けてターミナルから走り出す。初めての高速走行に多少怯むが、泣き言を言っている暇はない。
 高速で突っ込んでくる私を恐れて、歩道を逃げる人達がみんな横に退いてくれる。心の内で謝罪を述べながら、下の方に見える車道に目を遣る。そこには見るからに荒い運転でターミナルから離れていく車が見えた。
「このっ」
 竦む足を風で後押しさせ、歩道から車道へと一気に飛び移った。着地の際にそのまま横に倒れそうになるのをなんとか堪え、全速力で車を追う。スピードの差が大きいのか、車には軽々と近づけた。このまま拳銃でタイヤでも撃ってしまえば足止めできる。周囲に一般車両が近付いていないのを確認して、私は拳銃を構え――ようとしたところで、窓から逃走者が顔を出した。
「え」
 顔だけじゃなかった。何やらマシンガンらしきものまで。これってひょっとして、私を狙って?
「うわ、うわわわ!」
 撃ってきた。条件反射でスピードを落として、車道の端の方へと逃げる。こんなんじゃ近付きようがない。射撃の腕に自信なんかあるわけないし、かといってあの銃撃を防ぐ手立てなんて――。
「って、バカか私は」
 自らを叱咤し、もう一度急接近を試みる。よくよく考えたら私って死なないじゃないか。実は死んでしまうのかもしれないが、少なくとも鉛程度じゃ死なないハズだ。
 できるだけ距離を詰め、もう一度銃を構え直した。逃走者が再び私に向けて銃撃を行ってくるが、気にしてはいけない。弾丸が当たっても無視だ。既に私の体を二発程の弾が貫いているが、痛いのは当たった瞬間だけ。良い気付けだと思えばいいんだ。照準はタイヤに合わせた。周囲に一般車両はない。今だ。
「うわあっ!」
 狙い通りだ。私を狙っていた逃亡者は突然車が不安定に揺れだしたことにより体勢を崩した。その隙に私は前輪も一つ、手早く撃ち抜く。十分なバランスを保てなくなった車は、まっすぐに走ることもままならずガードレールに突っ込んだ。
「やった……」
 車道のど真ん中で止まり、哀れな姿になった車を眺める。気絶でもしているのか、中の人は出てくる気配がない。
 張り詰めた緊張が体中を駆け巡り始めて、道路にへたり込んだ。やっぱり荒事には慣れない。少なくともこういうのは探偵の領分ではないわけだし。まあ、この方法を思いついたのは私だし、そもそも私は“元”探偵だし、構わないといえば構わないかな。
「おおー……!」
「すげーぞ、あいつなんなんだ?」
「あの子何者? うちの学校にいた?」
「……げ」
 歩道の方を見ると、市民達が私のことを見てにわかにざわつき始めた。中には携帯電話やカメラを構え出すものまで。
「やばっ」
 目立ち過ぎた。写真を取られるのはご勘弁な私は、再び全速力で走り出した。
「こちらディテクティブ、援軍に要請があります。ガードレールに突っ込んだままの車がいますので、その中の逃亡者の確保を任せます。早くしないと逃げ出すかもしれませんから、そのつもりで」
『は。ディテクティブはどこへ?』
 逃げるんだよ。市民から。

引用なし
パスワード
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小説事務所 「Misfortune Chain」 冬木野 11/10/4(火) 5:33
キャラクタープロファイル 冬木野 11/10/4(火) 5:44
No.1 冬木野 11/10/4(火) 5:53
No.2 冬木野 11/10/4(火) 5:59
No.3 冬木野 11/10/4(火) 14:54
No.4 冬木野 11/10/4(火) 15:00
No.5 冬木野 11/10/4(火) 15:13
No.6 冬木野 11/10/4(火) 15:24
No.7 冬木野 11/10/4(火) 15:29
No.8 冬木野 11/10/4(火) 15:34
No.9 冬木野 11/10/4(火) 15:39
No.10 冬木野 11/10/4(火) 15:43
No.11 冬木野 11/10/4(火) 15:48
No.12 冬木野 11/10/4(火) 15:51
No.13 冬木野 11/10/4(火) 15:56
新しい小説事務所 ドキュメント 冬木野 11/10/4(火) 16:03
「あ、でも後書きがないんだっけ……」 冬木野 11/10/4(火) 16:27

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