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No.5
 冬木野  - 11/10/4(火) 15:13 -
  
 作戦開始から十数分。少なくとも確認できるだけの不審者連中は全員確保し終え、ターミナルもようやく静かになり始めた。敵味方や市民にも死傷者は出ず、開始時のGUNの情けない働きによって抱えた懸念も無く、結果としては上々に終わった。
 唯一問題があるとすれば、この作戦自体だろうか。GUNの方々はこういうのには慣れているだろうが、私一人の思いつきによって市民には多大なる迷惑をかけてしまった。
「……なんでこんなこと思いついたんだろう……」
 仮にも元探偵の起こす行為とは思えず、女子トイレの洗面台に映った自分の顔を見て自問自答してみた。なんとなくいくつかの答えが頭の中をぐるぐると回っただけで終わったが。
 穴開きにされた制服も着替え終わり、どこで処分したものかと軽く血で汚れた制服を手に取った時、ふとポケットから何かが零れ落ちた。見覚えのないそれを手に取ってみると、どうやら四枚の写真らしいことがわかる。
 その内の一枚に写っていたのは知らない人物の顔だった。見たところ若い少年のように見えるが、中高生くらいだろうか?
 残りの写真も似たようなものだった。同じ中高生くらいに見える少女、それより年上に見える青年、それと小学生くらいの少女。当然、どの写真の人物にも見覚えは無い。写真自体にも目に見えておかしい部分は見当たらず、ただの日常風景写真にしか見えない。
 いつの間にこんなものを手に入れたのだろうか。思い当たる節なんてあるわけが無いし。そんな出所不明の写真を見比べながら女子トイレを出た。
「あ、ユリちゃんお帰りー。……で、それ何?」
 トイレの前で待っていたミスティさんが、写真を指差して尋ねてくる。試しに四枚とも見せてみたが、彼女は首を傾げるだけだった。
「誰これ?」
「さあ?」
「さあって、これユリちゃんが撮ったんじゃないの?」
「いつの間にかポケットに入ってたんです」
「へえ……」
 ますます不思議そうな顔で写真を見つめてくる。後ろのフウライボウさんも彼女の肩越しに写真を見つめてくるが、やはり知らないようだ。
「ひょっとして、あの時じゃないかな」
 と、思い当たる節があるのかフウライボウさんが口を開いた。
「どの時?」
「エスカレーターを降りてた時に、ユリさん誰かにぶつかったろ?」
 確かに、誰かとぶつかった覚えがある。GUNから車を二台逃がしたと報告を受けた時だったか。
「それ、顔は見てませんか?」
「ううん。ただ、服装はユリさんのと同じだったのは見たよ」
「本当ですか?」
「うん。同じ制服だった」
 つまり、私に写真を寄越したのは一介の女子高生という事になるのか。だとすると……実におかしな話になる。ここの学校だけでなく、どこの学生諸君にも縁もゆかりもないのに、その人物は知らない人であるはずの私に写真を渡してきたということになる。少なくとも、偶然私のポケットに写真が入ったなんてマヌケな話ではないはずだ。
「ミスティさん。GUNの人に、何か情報を手に入れられたら私に連絡を入れるように言っておいてください」
「行くの? その学校に」
「はい。あ、あと」
 ポケットに忍ばせていた拳銃をミスティさんに手渡した。彼女は「おおっ」と軽く驚いて受け取る。
「それ、返しておいてください」
 もし学校の生徒や先生方の目にそいつが映ったら、とても笑えた話ではなくなってしまうだろう。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 この街の学校は、流石にバスを使う程度には距離があった。さっきの作戦で派手に動いた分なるべく人目を避けるようにした為、ギアは使えず時間を必要以上に掛けて、ようやく学校へと到着した。
 ちょうど下校時間になっていたらしく、帰路につく生徒達の姿がちらほらと見える。学校の教師達の目に触れずに行動できるのは都合が良い。
 今が好機と、私は生徒達への聞き込みを開始した。なるべく生徒達に印象を残さないようにする為、学校から交差点一つか二つ分離れ、かつ人目の少ない場所を周回するように歩きながら情報収集にあたる。
 蛇足な話になるが、この程度の対策で聞き込みに踏み入ってはならないものだ。本来はもっと入念な下準備をしなければならない。聞き込みに行く場所の下見などがそれにあたる。いくら今回のタイミングがちょうどよく下校タイミングだったからと言って、ぶっつけ本番で聞き込みをするのは私としても非常によろしくない。何故なら、今後同じ質問を同じ場所、同じ人物または近しい人物にぶつけるチャンスを失ってしまうからだ。
 それでもこのタイミングで聞き込みをしたのは、やはりターミナルでの一件のせいだろう。あれのせいでフロウルが警戒し、この街から逃げてしまう可能性がある。だからこんなことでチンタラしてる暇はないのだ。……そもそもあんな事をしなければこんな事もする必要がなかったわけで。
「バカなことしたなぁ……」
 ますます自分の過ちを悔やむ。全国の現役探偵様方に鼻で笑われること必至だが、後悔先に立たずだ。なるたけ気負わずに聞き込みを続ける。
 重要な点は二つ。
 私の持っている写真の人物に見覚えがあるか。
 午後の授業をサボった生徒に心当たりがあるか。
 本来聞き込み方の基本として、知りたい事柄をストレートに問わないという鉄則がある。が、今回の私はこれを無視してストレートな聞き込みを行った。
「この写真の人に見覚えはありませんか?」
「今日、午後の授業をサボった生徒を知りませんか?」
 これもまた、現役の探偵様方が聞いたら腹を抱えて笑うことだろう。だが、さっきも述べた通り時間が無い。二度とここに来ないつもりで直球勝負を掛ける。

 そうしてド下手な探偵活動を続けること、約一時間弱。
「知ってるよ」
「……え?」
 生徒達の姿も見えなくなり始めた頃、ようやく当たりが来た。
「サボった奴なら、ウチの知り合いがそうだけど」
「本当ですか?」
「そうだけど……なんで?」
 待ちに待った情報源だ。頭を完全に探偵の時のそれに切り替え、本格的な聞き込みに移る。
「えっと、申し遅れました。生徒会に所属しているフジサキって言います」
 用意しておいた架空の設定を話しながら、相手を観察する。身体的特徴はもちろんのこと、目や手、表情の動きにも注目する。
「生徒会?」
「はい。不良生徒についての調査を行っているんです」
 もちろん、自らの身の振り方にも気を遣う。姿勢を正し、喋り方も意識し、真面目で気丈な優等生っぽさを演じる。
「調査って……なんか大袈裟じゃない?」
「ええ。というのも、この写真の人のせいなんですけど」
「どういうこと?」
「最近、この写真の人達が学生を様々な不正行為に参加させているっていう情報がありまして。それを詳しく調べてるんです」
 あらかじめ女の子二人の写真は見せない方向で話を進める。中高生っぽい方はともかく、小学生くらいの女の子の写真を見せてそんなことを言っても信憑性がなくなってしまう。
「調査って、もしかして一人でやってんの?」
「一人、というわけではないんですけど……こんな調査をやりたがる人はなかなかいなくて、協力者が少ないんです。だから聞き込みも満足にできなくて」
 何気無く目を伏せながら、相手の手に注目する。といってもポケットに手をつっこんだままで、そこからは何も読み取れない。再び目線を戻して表情の方にも注目するが、特におかしな様子はない。と言っても架空の設定に反応されるわけはないのだが、少なくとも不審そうな目は向けられていなくて助かる。
「ふうん……大変なのね」
「まあ、弱音なんて吐いていられないんですけどね」
「そっか。あー、とりあえず電話して聞いてみるよ」
「え、大丈夫なんですか?」
「うん。ウチのその知り合い、確かに不良やってるけど根はマジメな奴だから。もしそういうことやってるとしたら、手を引かせてやらないといけないでしょ?」
「ありがとうございます!」
 頭を下げて礼を言った。が、その中身はスカスカだった。彼女の言う事が本当だとすると、本当に不良な友達を紹介されるだけに終わる可能性が高い。そうすると、当然無駄な時間を食ってしまうことになるわけだ。
「あ、もしもし? ウチだけど」
 と、どうやら電話が繋がったらしい。何を聞けばいいの? と目配せしてくる。
「今日、どこに行ったか聞いてください」
「えっとさ、あんた今日どこに行ってたの? ……あー、ターミナル?」
 お? 何やら手応えを感じる。そのまま彼女と友人の通話は続いた。
「何してたわけ? いや、別に大したことじゃないんだけど暇でさー。明日休みでしょ。どっか一緒に行かない? ……うん、オッケーオッケー。じゃあターミナルの前で待ち合わせね。うん、十時頃ね」
 うまく話を運んでくれたみたいだ。通話を終えて携帯電話をしまい、彼女はこちらへ向き直る。
「これで良かった?」
「はい、バッチリです」
「で、あんたはどうするの?」
「えっと、そうですね……明日、待ち合わせ場所に行きますので、私はあなたの友達ってことにしておいてくれませんか? もちろん、生徒会だっていうのは伏せて」
 そもそも私に写真を寄越した相手と顔を合わせるのは問題なのだが、例によって時間の壁が立ちはだかっているので威力偵察に出る。その後は顔と服装を変えて行動することになるだろう。
「わかった。じゃあ、明日ね」
「はい、ありがとうございました」
 もう一度深く頭を下げた。彼女はいいのいいのと手を振りながら、帰り道を歩いていった。その後ろ姿が見えなくなるまで眺め、見えなくなった頃に私は溜め息を吐いた。
 うまくいくとは思ってなかった。いや、もっと言えば今でもうまくいっているかわからない。ターミナルの作戦を思いついた時もそうだが、私は今必要以上に焦っている。
 昂る神経を抑え、首を振る。とにかく明日だ。もしこれで空振ったら、仕様もないミスを犯したと思って教訓にでもしておけばいい。
 頭の中を整理をし終えた時、ちょうどリュックのサイドポケットに入れておいた携帯電話が鳴った。基本これで連絡を取る事が少ないので使わないつもりだったのだが、誰だろう。
「はい、もしもし」
『やっほー、ミスティだよ!』
 こんな時に陽気だな、と子供向け番組のお姉さん的なテンションのミスティさんに心底呆れる。だが、今の私には救いかもしれない。
『GUNの人が取り調べを終えて結果を教えてくれたの。直接話したいから、すぐに戻ってきてね』
「戻るって、どこにですか?」
『ターミナルのすぐ近くのホテル』
 ……ああ、またホテルなのね。


 ̄ ̄ ̄ ̄


「わー!」
「わーっ」
「……わー」
 ミスティさんの言うホテルの一室に着いた時、お二方はおっきなベッドで子供みたいに遊んでる最中だった。三つ目の覇気の無い声が私。
「あ、ユリちゃんお帰りー!」
「おかえりー」
「ああ、うん」
 どうしたものかと内心で頭を抱えながら、とりあえず生返事を返す。人はホテルとかに泊まるとこうなるものなんだろうか。そうするとおかしいのは私か。噂に聞く修学旅行とやらに参加する学生のテンションもこういうものなんだろう。なんだか社会に取り残された気分になって軽く鬱になる。
「はあ」
 溜め息を一つ。
 背負いっ放しだったリュックを下ろして、空いているもう一つのベッドに腰を降ろす。なんとなくツインで良かったと当たり前の事に胸を撫で下ろしながら話を切り出す。
「で、取り調べの結果の話は……」
「ああ、それね」
 すっかり忘れてたわ、と二人仲良くベッドに正座。私も改めて二人の方へ向き直る。
「あの場にいたのは三つの組織の人間だった。その内の一つは“CHAO”、件の元“BATTLE A-LIFE”計画の組織ね。覚えてるでしょ?」
「ええ」
 実際に接触したのは結構前の話になる。所長達の件で少々揉めた、あのGUNとの合同作戦の時だ。最近はこの事を思い出す機会が多くて忘れようがない。
「残りの二つの組織はそれの派生組織。確かにみんな、フロウルを探しにきてたみたい」
「ちょっと待ってください。派生組織って?」
「ああ、文字通り“CHAO”から派生した……っていうより離反の方が合ってるかな。理念が一致しないってんで、小規模でも対抗する組織が多いの。対抗組織の“HUMAN”も厳密に言えば派生組織になるのかな」
 なるほど、いわゆる烏合の衆という奴だ。哀れみの嘆息を漏らしながら、質問を一つ投げかける。
「派生組織の数って、そんなに多いんですか?」
「うん。昔はそんなに多くなかったんだけど、最近はかなり。すぐに潰れちゃったりとかよくあるんだけど」
「増えだしたのはいつ頃から?」
「結構最近かな。去年か一昨年くらいから」
 つまり一、二年前。その証言に私は敏感に反応する。が、ここはひとまず記憶に留めて情報集めに専念しよう。
「それで、フロウルについてはなんて?」
「答えだけ先に言っちゃうと、居場所は知らないって」
「ですよね……」
 ある意味わかりきった答えではあったが、こうして聞かされると落胆も一入だ。
 相変わらず、肝心なことは何もわからず仕舞い。なまじ手応えがあるから余計もどかしい。明日の内に何か情報の一つでも手に入れないと時間が無くなってしまう。
「さて! ご飯でも食べに行こっか」
「え、今からですか?」
「うん。だってユリちゃん、気難しくて疲れきった顔してるよ? 気分転換でもしないと」
「いや、私それなりに疲れてるんで休みたいんですけど」
「よっしゃー、行くぞフウライボウ先生!」
「おー!」
「え、あのちょっと」
 まだ足の疲れも溜まったまま、私は手を引かれて部屋を出た。


 結局、その後は何事も無く一日の終わりを迎え、胸の中に溜まったままのもやもやを次の日に持ち越すことになった。
 今回の転機は、まさにそこから始まる。

引用なし
パスワード
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小説事務所 「Misfortune Chain」 冬木野 11/10/4(火) 5:33
キャラクタープロファイル 冬木野 11/10/4(火) 5:44
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「あ、でも後書きがないんだっけ……」 冬木野 11/10/4(火) 16:27

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