●週刊チャオ サークル掲示板
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No.7
 冬木野  - 11/10/4(火) 15:29 -
  
 さて、どうしたもんだろう?
 後ろに引き連れた二台の車のお熱い視線を背に、私は今後のことを考えた。
 何はともあれ、急ぐ必要は無くなったように思う。フロウルは向こうから接触してきて、少なくとも敵意が無いことを示した。今後気軽に会えるかどうかに関しては首を傾げざるを得ないところだが、今後裏組織に関連する事柄に介入できる機会は増えるだろう。
 ただ、このまま帰って良いものだろうか。
 ポケットの中に入れたままの四枚の写真のことを思い出す。いったい誰の写真なのかはわからないが、これについて探ることを放棄してさっさと帰ってしまうというのはスッキリしない。さっきフロウルから聞いておけば万事解決だったのだが。我ながら自分の浅はかさに溜め息が出る。よく探偵なんかやってたもんだなぁ、昔の私は。優秀とかなんとか言われてたけどほんとかよ。
 やれやれ、と首を振る。私の手腕については今後改めて反省するとして、とりあえず写真の少年少女の件はもう少し調べてみよう。そうと決まれば、まずは後ろの二台をさっさと撒かなければ。なんだかんだ言って単身車道を突っ切ってるこの状態はどうにもよろしくない。
 どこか車両を簡単に撒けそうなところはないかと視線をあちこちに飛ばす。歩道に出れれば一気に距離を離せるのだが、生憎とその為の通路や階段がない。どこか車の通りが多いところに行って撒くしかない。が、そこは交通分離帯。快適と言ってなんら差し支えない道路なので、渋滞という渋滞が無い。なんて素敵な道路だろう。舌打ちも風に消える。
 だが、どこまで快適にしても道路は道路だ。絶対どこかで車が団子になってるはず。どこか渋滞してそうな場所はないかとあちこちを探し、ようやくそれっぽい場所を見つけた。ここからそれなりに離れたところに、何やら植物園のような遊園地のような施設の姿が見えた。前者はともかく後者であれば好都合だ。人の出入りも多いはず。
 かくして読みは見事に的中、植物園へ向かう道路は行きも帰りも車の通りが多く、その間を縫うようにして簡単に追っ手を撒くことに成功した。一般車両のクラクションに煽られながら、私はようやく見つけた歩道へ移行する階段を見つけて腰を降ろす。誰かの目に留まって顔でも覚えられる前に、私は早々に歩道へ移って足早に植物園に向かう事にした。特に用があるわけではないけど。
 改めて、この後のことを考える。即ち写真の少年少女達の調査だ。
 とは言っても、そう手段が多いわけでもない。もう一度フロウルを探し出して問い質すか? いや、手間が掛かる。連絡手段も無いから待ち合わせもへったくれもないし、向こうさんもとっとと顔を変えてしまっている可能性が高い。フロウルを頼ることはできない。それ以外に手っ取り早くこの写真の人物を知る方法は……。
「ん?」
 そこで私はとんだ見落としをしていることに気付いた。この写真に写っているのが誰なのか、もっとてっとり早く知る方法があったことに。自分のとんだボケっぷりに思わず空を仰いだ。一刻も早くと勝手に急いで判断を誤ったようだ。今の私にはコネというものがあるのだから、然るべき筋の方にお尋ねすればよろしかった。
 そうと決まればGUNのお方とお会いせねばなるまいて。司令官殿から貰ったメモを見る限り、この先の植物園――ロイヤルボタニカルガーデンとやらに警備隊が配置されているようだ。なんともタイムリー。
 しかしまた何故植物園なんかに警備隊をと思っていた私は、そこに近付くにつれてその理由がよくわかった。どうやらロイヤルボタニカルガーデンというのは一種のテーマパークのようで、人の出入りが私の予想していたよりも遥かに多い。小さなお子様からお熱いカップルまで大勢の客入りだ。それに紛れて怪しい人物が出入りする可能性も無くはない。
 流れる人混みを避けつつ、受付さんにGUNの警備隊がいないか聞いてみる。
「小説事務所の者と言えば通じるはずです」
 制服姿の女の子がそんなこと言うもんだから、受付のお姉さんの顔が怪訝になる。お姉さんは少しの間だけ席を外し、やがてすぐに戻ってきた。
「ここから裏手の駐車場にスタッフ専用の入り口がございます。警備隊の方がそこでお待ちです」
「ありがとうございます」
 僅かに苦味を残したままの笑顔でお礼を言って、さっさと指定された場所へ向かう。
 喧噪から遠ざかった駐車場から入れるスタッフオンリーの扉の前には、既に警備の人が待っていた。
「ディテクティブですね?」
 もう私の通り名、それで決まっちゃってるのかな。会う度にコードネームっぽいので呼ばれるのも考えものだなぁ。
「どうぞお入りください。話はそこで」
「ああ、いいです。すぐに済む話ですから」
 扉を開けようとする警備を引き止め、持っている写真を四枚とも渡した。
「その人達の身元を調べてくれませんか?」
「派生組織の者……というわけではなさそうですが」
「とにかく調べてみてください。わかったら連絡お願いします」
「はあ……了解しました」
 そういうわけで、早速やることが無くなってしまった。あとはのんびり連絡を待つだけだ。どうしようかなと考えながらその場を後にしようとした時、警備の人が私を引き止めた。
「この写真に似た人物なら見かけましたよ」
「え、本当ですか? どれですか?」
 早くも収穫か。警備が指差した写真は、中高生くらいの少年の写真だった。
「ここの植物園でですか?」
「ええ、そうなんですが……」
 そういう割には、どうもハッキリしない物言いだ。何か問題でもあるのか聞いてみると、警備はやはりピンと来ない言葉を返してきた。
「確かに似た顔だったんですが、こんなに若くはなかったかと」
「どれくらいの歳ですか? 二十歳くらい?」
「いや、もっとですね。少なくとも四十代だったと思われます」
 四十代? そりゃもう立派なおっさんじゃないかよ。
「本当に似ていたんですか?」
「ええ。グレーのポロシャツを着ていました」
「まだここにいるんですか?」
「おそらくは。一人でやってきているようで、どことなく不審に感じたので覚えています。十数分前の事です」
「わかりました。ご協力感謝します」
 有益な情報を手に、改めてこの場を後にした。
 四十代。あの警備が見たのが本当にあの写真の人物だとすれば、あれは少なくとも二十年以上は前の時の写真だということだろう。とすると、何故フロウルは今の写真を渡さなかったんだろうかということになる。深い理由があるのかないのかもわからないが、とりあえずは会って話をしてみるべきか。とは言っても、何を話せばいいのかがわからない。友達とはぐれた女子高生を装って、世間話から巧みに身の上話に発展させて個人情報を聞き出すか? そこまで口がうまけりゃ苦労はしないよなあ。
 などと思いながらも一応頭の中でシミュレートしながら植物園に入った時、突然カチューシャが着信を告げた。タイミングがタイミングだったので必要以上に驚き、周りの人の視線をいくらかもらってしまう。
『ミス・ミサキ、アブラハム・タワーズだ』
「司令官っ?」
 さらに驚いてしまった。これ以上変な目で見られないうちに、どこか腰を落ち着けて話せる場所に移動しなければ。
『先ほど警備の者に人物調査を依頼しただろう。写真のデータがこちらに送られてきた』
「ええ、そうですけど……」
 はて、何か問題でもあったのだろうか。それとも、もうわかっちゃったとか? 目に付いたベンチに腰を降ろして、その先の言葉を待つ。
『君はあの四枚の写真に写っているのが誰かは知らないということかね?』
「まあ、だからこそ調べてもらおうと思ったんですが」
『ふむ……単純に知る機会が無かっただけかな』
 なんの話だろう。
『あの写真の四人は、君のいる小説事務所の者達だ』
「えっ?」
 小説事務所の人間? あんな知り合いはいないぞ? 元所員か何かか?
『いただろう、元は人間だったはずの者が』
「ええ、いますけど……あれ、まさか」
『そうだ。この中高生程度の少年が倉見根カズマだ。同じ程の少女が東ヒカル、それより幼いのが倉見根ハルミ。一番年上に見えるのが木更津ヤイバだ』
 あれが、そうなのか。事務所にたむろしている問題児二人と、それに悪影響を受けているハルミちゃん。その醜態にハリセンの渇を入れるヒカル。あの見慣れた情景がふっと浮かぶ。あの四人の本当の姿が、あの写真の中に。
「あの、本当ですか?」
『もちろんだ。この四人が小説事務所にやってきてから三、四年になるか。カズマとヒカルの両名が行方不明になったと届出があってからしばらくの時期だ』
 行方不明って、つまりチャオになってしまったってことだよな。
 そういえば中途半端に知るだけ知っておいて、あの四人がどういった経緯でチャオになったのかは知らない。カズマが事務所から消えてしまった事件の時にヤイバがその話をちょろっとしていた記憶があるが、まだソニックチャオのユリでしかなかった私は、興味が無いと言ってバッサリ斬ってしまったんだっけ。
『ちなみに、彼らの今の身元については親族に連絡していない。今も警察が行方を捜していると思っているだろう』
「え……どうして何も教えてないんですか?」
『事務所からの強い要請だ。本人達からどうしてもと頼まれてな。特別措置だ。理由については残念ながら聞けなかったが』
 そりゃまたどういうことだろう。普通は親御さんの心配を取り除いてやらなきゃいけないだろうに。自分がチャオになってしまったということを知られたくないとか?
『他に何か質問はあるか?』
「ん。えーと……親御さんはどこにお住まいで?」
『カズマらの親の倉見根氏、ヒカルの親の東氏共にセントラルシティだ。ステーションスクエアからそう遠いというわけではないな。木更津氏に関しては……』
 途端に言葉が一度区切られる。どうも言い難い事らしい。
『母親がヤイバ出産時に死亡、父親も自殺している。遺書は残していないが、自殺した時期はヤイバの行方不明の頃と重なる。おそらくそれの影響だろう』
 そりゃまた悪いことを聞いてしまった。いや、ヤイバは確か人間の頃の記憶がさっぱり無いと言ってたし、それについてのダメージはないのだろうか。なんにせよ、今必要以上に追求するのはよそう。
「ありがとうございます。もう十分です」
『そうか。また何か知りたいことがあれば遠慮なく聞いてくれたまえ。では失礼する』
 通信を切って、今一度思案してみる。
 フロウルが何故この写真を渡したのか。これについては今のところわからない。後で考えておいてもいいだろう。今の問題はそこじゃない。
 歳は違えど似た顔の男――他人の空似ではないとするなら、一番しっくりくる可能性は親族だろうか。だが、こんな遠いところまで何をしに?
 見つけ出して聞き出すのが一番簡単だ。だが、それは私がカズマの関係者ということを教えるのと同義だ。本人達が隠そうとしていた自分自身の存在を、私が勝手に暴露することになってしまう。それは避けておきたい。
 尾行……それだけやっておこうか。情報漏洩を防ぎながら調査するにはそれが一番だ。
 頭の中で錯綜した情報もまだ纏まりきっていないまま腰を上げた。わからないことばかりわかっていくのは、どうもやる気を削がれる。

引用なし
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小説事務所 「Misfortune Chain」 冬木野 11/10/4(火) 5:33
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