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小説事務所 「Misfortune Chain」 冬木野 11/10/4(火) 5:33

新しい小説事務所 ドキュメント 冬木野 11/10/4(火) 16:03

新しい小説事務所 ドキュメント
 冬木野  - 11/10/4(火) 16:03 -
  
「やあお嬢さん、今日は絶好の恋愛日和じゃないか。というわけで付き合ってくだサイコミュ兵器」
 ぶん殴った。
「親父にもぶたれたことないのに!」
 覚えてないくせに。
「何故だ、何故俺はこうも恋愛に恵まれないんだ! 鏡で見たら結構高水準な顔してたのに、今日だけで三回も大打撃! ふにゃ〜ん」
 いい加減喧しいのでさっさと通り過ぎて来客用ソファに腰を降ろした。所長室はヤイバの他に眠りこけている所長と隅っこのパイプ椅子で本を読んでいるミキ、それと向かいのソファにヒカルとハルミちゃんが座っていた。
「……もう二回は二人が?」
「あたしの時は『オレと伝説になろう』とかほざいてたから鳩尾殴った」
「えっと、わたしの時は『さあ子供は寝たこれからが本当の大人の時間ギョエ』って言ってたので腹パンしました」
「ハルミちゃん酷いよ、ギルガメッシュくらい言ってもいいじゃんノリ悪いよ!」
 なんの話か全然わかんねえ。
 まあ、なんだ。確かに冷静に見てみると、案外悪くない容姿をしているのだ。友達に一人はいそうな当たり障りの無い顔をしていて、折角取り戻した体なのに早速目の下に隈を作っている以外は少なくとも問題点は見当たらない。ただ他の点が足を引っ張り過ぎているだけだ。性格は勿論のこと、なんでか知らないがヤイバの傍らには箱一杯の服(男物女物問わず)とかメイク用品とか山積みの雑誌とかが置かれてるし。
「何ソレ」
「何って、変装用のブツに決まってるじゃないですか。フロウル氏が羨ましくてやってみたいなあと常々思って」
「ああん?」
「あ、間違えた。今のは本音で、建前は今後諜報活動があった時に役に立つかと思いまして」
「ところでカズマは?」
 面倒くさくなったので無視してヒカルに話を振った。「聞けよ!」聞かねえよ。
「どうせ寝坊でしょ。昔から寝起き悪いし」
「へえ、詳しいね?」
「え、う、まあ」
 はっと手を押さえ、視線を逸らしてしまった。ひょっとして昔は一緒に学校に行ってたりしたのだろうか。
「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!」
「ひゃああっ!?」
 なんともタイムリーなことにカズマが所長室に現れ、ヒカルが物凄いビビった。そんなことは気にせず早速ヤイバと二人で遊び始める。どこからともなく太鼓のバチを取り出し鍔迫り合い「それがわかっていながら何故戦う!」とか「軍人に戦う理由を問うとはナンセンスだな!」とか言い合うが、なんのネタかさっぱりわからない。ヒカルはそれを見て呆れたように首を振るが、ハルミちゃんはおかしそうに笑っている。なんのネタかわかるらしい。
 それにしても不思議だ。親子であるからしてカズマがユキヒサさんと似た顔をしているのは当然なのだが、感じる印象がまるっきり違う。ユキヒサさんは突けば簡単に壊れそうなくらい気弱な表情をしていたが、カズマはそれとは違う弱々しさを感じる。こうやって馬鹿みたいに笑ってるのは明るくて結構だが、あどけないというかなんというか。
「俺がガンダムだ!」
 あ、ガンダムネタだったんだ。
「俺もガンダムだ」「奇遇だな俺もガンダムだ」「ハルミあんたまで一緒になることはないの」「あーうー」
 ちょっと短めのふわふわな髪をわしっと掴まれて、ハルミちゃんは楽しそうにうめいた。こうして見ると本当にただの女の子だ。ぬいぐるみみたいにやわらかい印象を持っているこの子を見てると、とても何十人もの人間を刺し殺して回ったなんて過去を持ってるようには見えない。ただの可愛い女の子でしかない。
「ユリ、どうしたのぼーっとして」
「え、ああ別に」
 思わずじっと見つめたままだったらしい。ヒカルの気の強そうな目に指摘され慌てて取り繕った。何故か竹刀袋を持参していらっしゃるので、そのせいか凛とした威圧感があるのだ。
「あ、竹刀じゃん。ヒカルひょっとして剣道続けるの?」
「うん。なんか体鈍った気がすると落ち着かないし」
「こえーよ、運動できる人が体鈍ったとか言うのマジでこえーよ」
「わたしはかっこいいと思いますけど。ヒカルさん今度教えてください」
「駄目だハルミ甘く見るな、簡単そうに見えて剣道はキツいぞ。少なくとも僕は素振りだけで音を上げる自信がある」
「どんだけ虚弱なのよあんた……胸張っていうことじゃないし」

 ――ああ、やっぱり。
「ユリどうしたの? 急に笑い出しちゃってさ」
「いや、なんていうか……やっぱり、変わんないなって」
「ん? そんなの当たり前じゃん。だってユリの時もおんなじだったし」
「馬鹿言え同じじゃねーよ、ドSになって帰って来たろうが。今回だってドSが二人増えあいてっ! わかったハルミちゃんはノーカンにするからいてえ!」
「あんたわかって言ってんでしょ!」
 その後も馬鹿騒ぎはエスカレートし、最終的にはヤイバが「優しい女の子に会いたーい!」とか言って所長室から飛び出してしまった。


 結局(ヤイバは例外としておいて)三人とも親にはまだ連絡を入れていないらしい。東家に関してはその平和が無知によって保たれているからその判断もわからなくないが、倉見根家に関してはどうも話をし辛いのだろう。カズマはずっと塞ぎ込んでいた父と話す機会がなく、ハルミちゃんに至っては面識が無いに等しい。三人とも、親と会うのはもう少し落ち着いてからになる。
 そういえば、何故ユキヒサさんが長い間裏組織の人間に殺されなかったのかを所長が教えてくれた。答えは“手を出す暇がなかったから”なんだそうだ。
 ユキヒサさんが狙われ始めたのはサユキさんが殺されてからしばらくの事だが、その時ユキヒサさんを狙っていた裏組織は、活動資金を提供してもらっていた資産家に黒い噂が漂い始め、身の振り方を考えなくてはいけなくなってしまった。なにせその裏組織はその資産家から受け取る活動資金のみをアテにしていたちっぽけな派生組織だった為に、その資産家を失うことは組織の崩壊を意味していたからだ。新しい資金源を探そうにもコネがないというくらいだ。
 その黒い噂だが、どうやらフロウルが掴んだ“スキャンダル”のせいなんだそうだ。何はともあれその影響で組織は活動停止。再び動き出した頃にはカズマ達が事務所にやってきていた頃で、所長達は密かにユキヒサさんが殺されるのを阻止し続けていたようだ。毎日所長室でぐーすか寝てる所長しか見てなかったから知らなかったけど、ちゃんと日夜働いていたみたいだ。……多分、パウかリムさんが。
 こうして聞くと、私達は不思議な繋がりを持っているように思う。謎の大学のOBから始まった不運の連鎖が倉見根家を崩壊させ、東家の幼馴染を巻き込んで魔法使い達の傘下に流れ込み、いつの間にか守り守られあっている。私はそれに知らない内に関わっていたみたいだ。
 そんな私達を、ミスティさんは家族みたいだと言っていた。
 ――悪くない。
 私は、この家族が好きだ。これからもこの関係を守りたい。素直にそう思えた。
引用なし
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