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詩織「異世界に飛んだ後はヒロインのヒロシンと出会うんだよね」
翔斗「でもどうやってその場面につなげればいいんだろう。こんな感じかな」
二人はとにかく道を歩いた。
すると町があった。
「町だ!」
二人は喜んだ。
「なんか食い物の匂いがするぞ」
食いシンがそう言って走り出した。
そこには飯屋があった。
「飯だ!」
「おいおい。そう焦るなよ」
「いらっしゃいませー」
「おっ、可愛い子だ!」
翔斗「どうかな」
詩織「うん。ちゃんとヒロインのいるところまでいけたね」
翔斗「でもなあ」
詩織「どうした? なにか不満なところがあるの?」
翔斗「これだとただ真っ直ぐ話を進行させただけな感じがする。ヒロインと出会わせたいから、ヒロインのいるところまで移動しただけで」
詩織「もっとあれこれ書きたいというわけね」
翔斗「そうそう。もっと中に肉がぎっちり詰まった小説を書きたいんだ」
詩織「肉……? 要望通りのアドバイスができるかわからないけど、話を作るコツを紹介するね」
翔斗「お願いします」
詩織「前回の書き出しで、主人公の二人は、テレビの撮影かもしれないって期待していたね」
翔斗「もしもそうじゃなかったら怖いって感じだった」
詩織「そこをクローズアップしながら、ヒロシンと出会う場面を目指してみよう」
「とにかく歩いてみようぜ」
食いシンは、緩やかな坂道を下ることにする。
そうだな、とピンシンは頷いた。
「なんか出てきたりしないよな?」
左右の茂みや木々の奥を気にしながらピンシンは後ろを歩く。
カメラマンや番組スタッフをそこに見つけようとしているのかもしれない。
食いシンはもう諦めていた。
森の中はあまりにも静か過ぎた。
獣たちの世界が、密度のある無音によって作られてあった。
俺たちを撮影している人間はいない。
俺たちはなにかに巻き込まれて、ここまで連れてこられてしまったのだ。
そう食いシンは思った。
だから、早く安全そうな所まで逃げたかった。
森を抜けると、まだ坂は続いていたが、視界は開けた。
二人の向かっている先には町があるのが見えた。
「よかった。町だ」
「ここどこだよ!」
ピンシンはテレビ番組を意識した叫びで言った。
町にはビルなどなかった。
三角屋根の建物はどれも背が低い。
アスファルトのグレーの道は見当たらず、自動車も走っている様子がない。
「ここ東京じゃねえのかよ! おかしいだろ!」
「俺たち五分くらいしか乗ってないよな、車」
「だよな。どういうことだ?」
わからない、と食いシンは首を横に振った。
とにかく目の前の町に行くしかなかった。
町の入り口まで来ると食いシンが顔を小刻みに動かし始めた。
「うまそうな匂いがするな」
「よくこんな状況で飯のこと考えられるな」
ピンシンは苦笑いした。
「とにかく飯にしようぜ。ここがどこなのかとかも、そこで聞けばいいじゃん」
「それもそうだな」
詩織「まだヒロシンと出会えてないけど、近くまで来たから勘弁してね」
翔斗「俺のと比べるとずいぶんボリューミーだ」
詩織「前回出た撮影の話を引っ張ったら、森の中が静かなことや不安な気持ちの話につながったよ」
翔斗「一つの話題を長く続けるってことか」
詩織「続けると言うよりも、切り上げないって感じかな。こういうふうにお喋りをしてると、徐々に話題が変わっていくよね。それと同じように、話の流れるままに語ることを意識しよう」
翔斗「でも脱線には気を付けないといけないな」
詩織「そうだね。流れのままにとは言っても、後のストーリーを意識した上で自然な流れを作り上げていきたいね」
翔斗「その話、もっと詳しく聞かせてほしいな」
詩織「じゃあ次回はそこを掘り下げようか」
翔斗「よろしくおねがいします」
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