●週刊チャオ サークル掲示板
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5:休日部
 問題式部  - 13/8/29(木) 7:20 -
  
 育てたチャオがダークチャオになった、ということが知られると、否が応でも良い目で見られない。
 そりゃあ、普段から素行の悪い奴がダークチャオを育てても「やっぱりなー」「お前じゃなー」と、軽い調子で笑い飛ばされるくらいだろう。逆にそんな奴がヒーローチャオを育てると、ちょっとした話題になる。実際、僕の古い知り合いにもそういう奴がいて、ヒーローチャオを育てたことで友達がぐっと増えたそうだ。
 だけど、普段は素行の良い奴がダークチャオを育てると、先の例とはガラリと話が変わる。理解のある友人でもいれば話は別だが、普段は雲の上だと思っていた真面目な優等生がダークチャオを育てたと知ると、みんな態度が変わる。最初は冗談で陰口をして当人をからかう。そしてそれは、やがて本当の陰口に変わっていく。
「あいつの成績には裏があるんじゃないか」
「あいつは先生に媚を売ってるんだ」
「あいつが他の生徒を殴ってるのを見た」
 みんなしてあることないこと騒ぎ立てて、その生徒を孤立させていくのだ。
 これは例え話ではなく、僕が小学生の頃に実際にあったことだ。その優等生とは三年か四年の頃からずっとクラスが一緒だった。当時の僕は趣味の時間を確保するためにがむしゃらに勉強して優等生となっていたが、そいつはそんな僕よりもっと優秀な奴だったし、いろんな奴の注目を集めていた人気者だった。
 だが、五年生になった頃にそいつの評価は急落した。
 そいつはチャオガーデンで自分のチャオを育てていた。そいつ自身もチャオのことが大好きで、度々話題にあげていたからみんな知っていた。だが夏休みが終わって二学期になると、急にチャオの話題を避けるようになった。気になったクラスメイトが勝手にチャオガーデンへ行ってそいつのチャオを見に行くと、チャオはダークチャオに成長していたというのだ。
 それからそいつは小学校を卒業するまでずっと陰口を言われ続けた。直接暴行を受けたという事実はないが、僕の知らないところではあったかもしれない。タチの悪いことに、そいつをいじめていた連中は普通のいじめっ子よりも罪の意識がなかった。だって相手はダークチャオを育てた悪い奴だから。それが連中の主張だった。
 いくらそいつが弱々しい顔で泣いても、連中はそいつの態度を全て、嘘だ、演技だ、と決めつけた。本当は自分たちのことをバカにして見下してるんだと信じて疑わなかった。この世の悪はぜんぶ純粋悪しかないと信じていた、自分たちの行いがわかっていない視野の狭い小学生でしかなかったのだ、連中は。
 そいつは卒業を皮切りにどこかへ引っ越し、僕はそいつをいじめていた連中と一緒に中学生になった。そして僕はそいつに成り代わるようにしてトップクラスの優等生になった。
 だけど僕はクラスメイトと距離を置き続けた。いじめを行っていた連中と友達になりたくないという気持ちもあったが、一番恐れていたのは別のことだった。僕もその優等生のチャオ自慢が羨ましくて、ひっそりとチャオを育てていたのだ。
 別にダークチャオを育てたわけではない。中学生になったばかりの頃はまだコドモチャオだった。ただ、あっさりと手のひらを返した連中の姿がずっと頭に焼き付いてて、僕はクラスメイトたちのことが怖くて仕方がなかった。
 もし僕のチャオがダークチャオに成長したら。
 もしそのことがクラスメイトたちにバレたら。
 誰も信用できなくなって、僕はみんなと距離を置いた。いま思えば実に滑稽なことだ。別にチャオを育てていることだけをひた隠しにしておけばいい。もしダークチャオを育てたことがバレても開き直って、みんなに認められる個性を作り上げていけばそれでよかった。
 でも僕はただの中学生でしかなかったから、そんな冴えたやりかたは思いつかなかった。僕はただ、目を逸らすことしかできなかった。


 そして僕は、ダークチャオを育ててしまった。


―――――――――――――――――――――――――


 中学三年生になった僕は、ますます注目を浴びる生徒になった。教師が言うには「先生以上に生徒の顔を覚えている凄い奴」だそうだ。確かに中学の頃は凄く記憶力が良かった時期かもしれない。
 ただ、僕が覚えていたのは“ステーションスクエアのチャオガーデンに通っている生徒”だ。それがたまたま別のクラスや学年にいたというだけ。
 とにかく同じ学校の生徒に僕がチャオガーデンにいるということを知られたくなかった。だから僕は、誰がチャオガーデンに通っているのか徹底的に調べ上げた。その生徒が何年何組、なんの部活に入っているのか、なんの習い事をしているのか、果ては家族構成や交友関係、その生徒の抱えている問題まで。多分この経験を活かして探偵になれるんじゃないかと思う。
 そして僕は、同じ学校の生徒がいない時間を狙ってチャオガーデンにやってくるわけだ。


「さいきん、あんまりあってくれない、よね?」
 一番苦手な言葉を言われてしまい、僕は思わず目を逸らしてしまう。
「いまなつやすみ、なんでしょ?」
「うん、そうなんだけど。結構忙しくてさ」
「べんきょう、してるの?」
「そうだよ。お母さんが厳しいんだ。ちゃんと勉強しなさいって」
 もちろん嘘。僕はよくできた仮面優等生なので、親にも愛想を振りまくのがうまい。成績はトップで維持できてるのでなんにも言ってこない。ちょっと遊んでくると言ったときも満面の笑顔で送り出してくれた。ちなみに僕は徹底してチャオガーデンに通っていることを隠している。親も例外ではない。
「ふうん。たいへん、なんだね」
「うん、大変だよ。とってもね」
 眼鏡をくいっとあげて、やり手の若者姿をアピールする。ちなみに伊達眼鏡だ。流石にこれはバカじゃないのかと思われるかもしれないが、僕はチャオガーデンに来るときはわざわざ変装している。
 基本的に学校の生徒とは制服姿でしか会っておらず、プライベートではちっとも顔を合わせていない。おかげで制服姿のイメージしかないから、パーカーを着てキャップを被り、縁の太い伊達眼鏡を装備してしまえばどこかですれちがっても僕だと気付かれないのだ。
「ぱーかー、あつくない?」
「熱い。他の服ちょうど洗濯しちゃってて」
 残念ながら嘘じゃない。他に服がないから今日はガーデンに行くのをやめようと思ったが、ただでさえこの子と会う時間が減っているからそれはできなかった。この子は僕と会いたがっているんだから、それに応えなくちゃいけない。
 だけど、この子は最近こんなことを言う。
「むりして、あいにこなくて、いいよ」
 一番言ってほしくない言葉を言われてしまい、僕は思わず目を逸らしてしまう。
「なんで? 僕、別に無理なんてしてないよ」
「でもすごい、つかれてるかお、してるもん」
 クラスメイトや親は騙せるのに、この子のことは騙せない。僕もまだまだ若いなと溜め息が出る。
「僕ぐらいの歳の人はみんなそうだよ。テストがいっぱい増えるからね。別に大したことじゃないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。それに僕はお前に会えれば疲れなんてなくなっちゃうからね」
「ほんとう?」
「ほんとうだよ」
 頭を優しく撫でてやる。ポヨはハートマークになるけど、チャオの表情は変わらなかった。
「ぼく、ひとりでもへいきだよ。おとな、だから」
 自分の大切に育ててきた子に気を遣われることが、こんなに辛いことだとは思わなかった。言葉も、それに込められたものも優しさで溢れてるのに、いざ言われると「おまえは情けないやつだ」と言われている気がして、なんだか居た堪れなくなる。
「そっか」
 挙句、返せるのはこんな陳腐な言葉しかない。もう少しなにかいい言葉はないかと思い、視線を彷徨わせる。
「そうだ。お前、友達はいるの? 僕以外にさ」
「ともだち? うん、いるよ。きみは?」
「もちろんいるよ。僕、評判良いからね」
「でもきみ、おなじがっこうのひと、ここにきてるのみると、かえっちゃうよね?」
 げ、バレてる。うまく隠してると思ったのに。
「違うよ。ええーっと……ほら、ここに来る人って女の人が多いじゃない? 僕、女の人が苦手だからさ」
「いまも、おんなのひと、いっぱいいるよ」
「う゛、あれはそもそも他人だから。ほら、同じ学校の女の子にガーデン通ってるのバレると恥ずかしいんだよ。男なのにこんな可愛い趣味してるんだーって」
「ふうん……」
 よし、誤魔化せた。僕の育てた子ながらなかなか手強いやつめ。
「それじゃ、かのじょとか、いないんだ?」
「む……」
 こいつめ、オトナになったからって急に色のある話を振ってくるようになったな。
「そりゃあいないよ。だいたい恋人とかは高校生になってからできるもんだろ? まだまだ早いって」
「でも、きみとおなじ、がっこうのひと、がーでんにかれし、つれてきてた」
 彼氏持ちの生徒? ああ、そういえばいたはずだ。最高に頭の悪い男子と付き合ってる体の女子が。確か当の彼氏が勝手に付き合ってると勘違いしてて、女子もその彼氏のことを見えないところでバカにしていたはずだ。あのバカほんとガキねー、とかなんとか。
「あれはませてるって言うんだ。大人の付き合いしてるつもりだけの奴。恋人同士とは言えないよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「じゃあ、おとなのつきあいって、なに?」
 僕に聞くなよ。まだ15歳ですよ?
「ううん……許容、かなあ」
「きょよう?」
「そう。理想の人なんて普通はいなくて、絶対にどこかダメなところがあるんだけど、それを認めること、かな。ほら、よくいるでしょ? 喧嘩ばっかりしてるのに長続きしてる夫婦」
「うん、いる」
「そういう夫婦が別れないのは、お互いに好きだってことをちゃんとわかってるからなんだ。……納得した?」
「うん、なっとくした」
 助かった。なんだかとてつもなく恥ずかしいことを言った気がする。

 でも……許容、か。
 ふと、小学校の頃にいじめられてた優等生のことを思い出した。あいつには味方が一人もいなかった。親はどうだったか知らないけど、少なくとも先生はあいつの味方はしなかった。生徒はもちろん敵だらけだった。
 あいつは確かにダークチャオを育てたけど、決して悪者ではなかったはずだ。あのときあいつを許容してくれる人は、本当にいなかったのだろうか。
 僕を許容してくれる人は――いるんだろうか。

引用なし
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つづきから 問題式部 13/8/29(木) 6:31
1:導入部 問題式部 13/8/29(木) 6:39
2:移動部 問題式部 13/8/29(木) 6:51
3:平日部 問題式部 13/8/29(木) 6:58
4:探索部 問題式部 13/8/29(木) 7:10
5:休日部 問題式部 13/8/29(木) 7:20
6:考察部 問題式部 13/8/29(木) 7:34
7:忌日部 問題式部 13/8/29(木) 7:38
8:帰宅部 問題式部 13/8/29(木) 7:50
9:変調部 問題式部 13/8/29(木) 8:06
10:結末部 問題式部 13/8/29(木) 8:23
11:再開部 問題式部 13/8/29(木) 8:28
12:再会部 問題式部 13/8/29(木) 8:40
13:起床部 問題式部 13/8/29(木) 8:48
おわり 問題式部 13/8/29(木) 9:36
感想です スマッシュ 13/8/30(金) 23:59
感想 ダーク 13/8/31(土) 23:23
乾燥です(爆) ろっど 13/9/4(水) 20:54

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