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第25回〜第32回まとめ
 スマッシュ  - 15/12/23(水) 0:12 -
  
 何もやること思い付かんかったよ……。

12月8日投稿分
    
「ルールは二つあって、もう削れないってくらいまで削ることと、削るために削ってはいけないということなんです」
「ルールって、そういう競技なの?」
 そう聞くと塩崎君は、いえ違います、と否定した。
「いや、自分で作ったルールです。それで削るために削ってはいけないっていうのは、つまり、鉛筆の先っちょが丸くなって書くのに支障が出始めるまで削ってはいけないということです。常識的な使い方をしながら、鉛筆が凄く短くなるまで使う。そういう遊びです」
 そう説明されても私は困ってしまうだけだった。そんな風に自分でルールを作って遊ぶのは楽しいのだろうけれど、他人のそんな遊びの話を聞いたって少しも楽しくはない。私のでたらめな楽譜を書く遊びのことを聞いても、興味を持つ人はいないだろう。
「エコだね」
 ひねり出した感想を言うと、塩崎君は、最初はエコのためだったんですよ、と嬉しそうに頷いた。さっきまでスケッチをしながら話していたのだが、もう描き終わったのか、私の方を見て話し出す。
「小学校で、エコがどうのこうのとか教えられるじゃないですか。将来の子供たちのために資源を大切にしなさいよって。で、その時先生が、物を大事に使いなさいって言ったんですね。鉛筆とか消しゴムも無くしたりすぐに新しい物に変えたりしないできちんと使えって。そこから始めた遊びなんです」
「じゃあ将来の子供たちのために今もそれしてるってわけ?」
 小学生の頃に始めた遊びなんて、ちょっと可愛いかもしれないな、と思って聞いた。
「いや、エコはもうどうでもいいんですよ。ただ短くした鉛筆を集めるのが楽しくなってきたんです」
「そうなんだ。それで、それ描き終わったの?」


12月9日投稿分

 塩崎君が一切描かなくなったので私は絵のゴウを指して聞いた。少量の影が付けられているだけで、まだ影を増やせそうにも見えるし、簡素なこの状態で完成しているようにも見えた。塩崎君は、はい、と言った。
「まだ鉛筆使う?」
「そうしたいです」
「じゃあ、ゴウ、ポーズ変えてあげて」
 座ったままじっとしていたゴウにそう呼びかけると、ゴウは立ち上がった。どのようなポーズを取るか迷って腕を挙げたり下げたり体の向きを変えていると、塩崎君が、
「背中見えるようにしながら、こっち向いてほしいな」と言った。
 ゴウはまず私たちに背中を見せ、それから顔を私たちの方を向けようと試みた。塩崎君が、もうちょっと体を左に向けて、とか指示を出してゴウの体の向きを微調整する。
「よし、オッケー。そのままでいてね」
 塩崎君はまたもさっと描き終えた。迷いなく線を引くところなどを見ると、凄く慣れているのだとわかる。
「上手いね」と私は言った。
「そんなことないですよ。チャオは、初めて描きましたけど、難しいです」
「そうなの?」
「チャオよりも人間の似顔絵描く方が上手くできる気がします」
 そんなわけないだろう、と私は思った。どう見たって人間の顔の方が複雑だ。チャオなんて、頭も目も手も足も丸を変形させたパーツじゃないか。
「チャオの方が楽だよ。私だってそれなりに上手く描けるもん。教科書の隅とかに」と私は言った。すると塩崎君は笑って顔を伏せた。
「080ですか」
「はい。080です」
 笑ったまま塩崎君は頷いた。自分が正常だと思っている部分で馬鹿だと思われているのが私は納得できなかった。


12月10日投稿分

 はたして馬鹿なのはどっちかな、と思いながら私は聞いた。
「どうしてそんな笑うの」
「ほら、よく見てください」
 塩崎君はスケッチブックを渡して、二体のゴウを見せた。
「白いでしょ」
「そりゃあヒーローチャオになりかけなんだし」
「あんまり影を入れ過ぎると、硬い生き物に見えちゃいそうだから少なくしたんですよ。でも、チャオのゼリーっぽい感じがこれで出ているかと言うと、全然でしょう?」
 これがゼリーに見えるだろうか、と思って見てみると、塩崎君の言いたいことがわかってきた。このチャオは餅のように伸びそうでもなく、押してもぷにぷにとした感触が味わえそうにはない。
「これじゃあ白っぽいクッキーだね」
「そういうことです」
 正当な評価をされて嬉しいといった感じに塩崎君は言った。
「人間の方が上手く描ける?」
 似顔絵を描かせてみたくなって私はそう言った。
「人間はチャオほど柔らかくないですから」
 それはきっと途方もなく大きな違いだろう、と私は直感的に思った。似顔絵を描かせるのはやめにしようかと思うくらいに大きな違いだった。
「似顔絵、描きましょうか?」と言われてしまって、迷う間もなく似顔絵を描かせるしかなくなった。私は、じゃあお願い、と涼しい顔を装って言った。塩崎君は尻を上げて三十センチくらい横にずれて離れると、私の顔を描き始めた。相手にされなくなって暇になったゴウが私の方に寄ってきたので、手や羽を揉んで遊んでやる。ゴウがは猫なで声を出し、大人しくなる。私はそのまま揉み続けてやる。ゴウを見なくても、うっとりとした顔をしているのが私にはわかる。


12月11日投稿分

 ずっと写真を撮られる時のように笑みを浮かべた表情を作っていたはずなのに、似顔絵の私は鏡で見る自分よりも不細工だった。絵が上手くないというのが本当だとわかったのは、それだけが理由ではなかった。私がいつかどこかで見た記憶のある似顔絵、あるいは似顔絵ってこんなものだろうというイメージと比べると、彼の描く似顔絵は顔のパーツをそれらしく描いただけの福笑いのような絵だった。
「なるほど。下手だね」
「そもそも絵を描くことにはあまり興味がないんで、下手なんですよ」
 率直に感想を言えば塩崎君は喜ぶのかと思ったが、今度は言い訳をするように言った。私はゴウにも似顔絵を見せた。ゴウは首を傾げたが、私の似顔絵だと教えると、私の顔を見てもう一度似顔絵を見て、納得したように頷いた。また首を傾げてくれることを期待した私は、一応私に見えるらしいことに少しだけ傷付いた。
「それで鉛筆は?」
「ええ、まあまあ丸くなりましたよ。ほら」
 そう言って鉛筆を見せてくる。削ってもいいし、削らなくてもまだ書けるといった具合だった。
「削るの?」
「いえ、まだですね。文字が書きにくくなったら削ります」
「そうなんだ。頑張って」
 私は彼の趣味への関心を完全に失っていた。鉛筆を短くする趣味を面白がることの方が難しいのだから当然のことではあったけれど、これ以上鉛筆の話が長引かないようにしたいと思っていた。
「一応言っておきますけどね」と彼は恥ずかしそうに言った。「俺は別に鉛筆のために生きてるわけじゃないですからね?」
「え?」
「だから、寝ても覚めても鉛筆のことばかり考えてるような変人じゃないってことですよ。なんか話の流れでそんな感じになっちゃってますけど、俺は結構普通の人ですからね」


12月12日投稿分

「あ、そうなんだ」
 しかし彼が口にしたせいで、寝ても覚めても鉛筆のことばかり考えている人間にしか思えなくなってしまう。言わなければただの変人だったのに。
「ゲームやるしテレビ見るし、友達とチャオガーデン行ったりしますし、あと、友達に好きな人がいたら告白するように急かしますよ」
 急かされているのはカメラの彼、石川君に違いない。三人でいた時の塩崎君は変人には見えなかったから、私は鉛筆さえ持たせなきゃ普通に見えるのか、と理解した。スケッチをさせなければこんな一面を見ずに済んだということだ。
「わかった。これからは鉛筆を持たせないようにするよ」
 からかうつもりでそう言うと、塩崎君は大真面目に頭を下げて、
「できれば、そうしてください。鉛筆の人と期待されても困るんで」と言った。
「期待することなんて何もないでしょうよ、鉛筆の人になんか」
 私は笑ったけれど、塩崎君は何か嫌なことを経験したことのあるような暗い顔を見せた。
「いや、色々あったりしますよ」
「へえ」
 その彼の経験した色々を私は聞きたいとは思わなかった。どんな話だったとしても、鉛筆のエピソードでは共感できそうになかった。
 また今度遊びましょう、と言って塩崎君は帰った。今度遊ぶ時、チャオガーデンではない所に行くことになって、私はゴウを連れていかないような気がした。

 私の予感は外れて、私たちはそれから三回もチャオガーデンで会いゴウと遊んだ。一月も経たないうちに五回もチャオガーデンに来るというのは、会員になっていない子供にはちょっとした出費になる。彼の小遣い事情は知らないが、私だったら大打撃になるくらいの額を彼は既に払っている。


12月12日投稿分その2

諸事情により、12月13日分の更新は休みます。ご了承ください。


12月14日投稿分

 ゴウなんかのためにチャオガーデンの入場料を払わせ続けるのも嫌だった私は、五回目にチャオガーデンで塩崎君と会った次の日、メールで塩崎君と放課後に会う約束をした。
 部活動のない人たちが一通り帰り、人が少なくなった頃に私は靴を履きかえて一年生の下駄箱へ向かった。彼は靴を履きかえ、下駄箱の近くに立って私を待っていた。
「私、自転車」
 そう言って駐輪場へ寄ることを告げると、
「俺もです」と彼は言った。
 停められている自転車は遠目で見るとほとんどが似たような自転車で、大体黒かシルバーだ。今朝どこに停めたのか大体覚えておいて、その大体の位置から自分の知っている自転車を探すことになる。私は今日、赤い自転車の右隣に停めた。その赤い自転車がまだあったので見つけるのは簡単だった。私も赤い自転車にすれば今ほど手間がかからなくなるけれど、赤じゃなかったとしても黒とシルバー以外の自転車に乗るのは自分を浮かせてしまうようで嫌だし、このためだけに新しい自転車を買いたいと親にねだるのも小さな子供みたいだから、冗談でも言うつもりにならない。塩崎君の自転車は私と同じで黒かった。
 私は彼とどこに行けばいいかわからなかった。駅近くのマクドナルドに行ったりカラオケで歌ったりゲームセンターで遊んだり、皆がやっているようなことを私は昨日の晩に思い浮かべたのだけれど、どれもお金がかかってしまう。チャオガーデンに入るのにお金を使わせているのが嫌でそれ以外のことをしようと思っているのだから、お金を一切使わないで済ましたい。
 私たちは自転車には乗らず、押して歩き校門を出た。
「今日はチャオガーデン行かないんですか?」と塩崎君は聞いてきた。
「毎回入場料払って、きつくない?」
「まあ、きついですね」
「だから今日はお金を使わずに遊ぼう」


12月15日投稿分

「わかりました。ありがとうございます。それで、どこに行くんですか?」
「決まってない」
 私はそのように答えながら、いつも通る帰路を歩く。私の家に連れ込むのではない。母に新しい男が出来たと思わせたくはない。母も私の悲しみを想像しているのだ。ただ途中に駅があるから、ひとまずそこに向かっているのだった。駅の近くには公園だってあるから、決まらなければそこにすればいい。
「別にチャオが好きで飼ってるわけじゃないんだよ」
 私には、行き先のことよりもそちらの話をする方が大事なことのように思えて言った。
「じゃあ、どうしてチャオを飼ってるんですか」
「死んだ恋人の飼っていたチャオだから」
 事実なのに、まるで脚色して言っているように感じられた。恋人なんて単語を口にしたことが今までなかったせいだ。彼氏、と言うべきだったんだろう。それとももう付き合っていないから元彼なのだろうか、と思いながら、
「本当のことだよ。彼氏が交通事故で死んだの。それで彼の飼っていたチャオを引き取ることになった」と私は言い直した。
「そうなんですか」
「遺品が欲しかったんだよ。一生彼のことを愛し続けるつもりで。でもそんな風にはいかないね。もう彼のこと、そんなに愛してない気がする。勿論ゴウのことも。それまでチャオなんて飼ったことなかったし、彼氏の飼っているチャオに時々構うくらいが丁度よかったんだよ」
 私はいくらでも自分の思っていることを彼に話せるような気がした。塩崎君と遊ぶうちに、私はゴウと翔矢のことを彼に告白しようと思うようになっていた。打ち明ける気にさせたのは、外見がそれなりにいいのに趣味が鉛筆を削ることだったからだ。

引用なし
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バイザウェイ スマッシュ 15/11/13(金) 23:32
本編コーナー スマッシュ 15/11/13(金) 23:35
バイザウェイ 一 スマッシュ 15/12/23(水) 0:03
バイザウェイ 二 スマッシュ 15/12/23(水) 0:03
バイザウェイ 三 スマッシュ 15/12/23(水) 0:04
お遊びコーナー スマッシュ 15/11/13(金) 23:35
第1回〜第8回まとめ スマッシュ 15/11/24(火) 23:16
第9回〜第16回まとめ スマッシュ 15/12/6(日) 0:00
第17回〜第24回まとめ スマッシュ 15/12/11(金) 22:13
第25回〜第32回まとめ スマッシュ 15/12/23(水) 0:12
第33回〜最終回まとめ スマッシュ 15/12/23(水) 0:18
感想コーナー スマッシュ 15/12/23(水) 0:04
感想です ろっど 15/12/24(木) 13:41
返信です スマッシュ 15/12/24(木) 21:38

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