●週刊チャオ サークル掲示板
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バイザウェイ スマッシュ 15/11/13(金) 23:32

第9回〜第16回まとめ スマッシュ 15/12/6(日) 0:00

第9回〜第16回まとめ
 スマッシュ  - 15/12/6(日) 0:00 -
  
 まとめその2。
 第9回は、新聞小説風です。元々その文章量に合わせて毎回投稿していたので、実際にそれっぽくしてみたかったのです。しかし画像データをいちいち作るのが大変だったので、1回限りでやめておきました。と言うか、一番の原因は、テンプレとなる編集データを残すべきだったのに残し忘れてたってことなんです! 本当にごめんなさい。
 今回のまとめですけれど、第10回〜第13回までは、2日分を繋げて掲載してみます。そして14回〜16回の3日分も繋げてみます。
 これは、新聞小説の文章量をそのままネット上の文章としてアップすると、とても短く感じられるのが気になったからです。毎日投稿した際、読んだ人が満足できる文章量、というか文字列の見た目、みたいなものを模索してみたいですね。

11月22日投稿分
http://www3.tokai.or.jp/sumassyu/bytheway09.jpg


11月23日投稿分+11月24日投稿分

 その箱を出して中を見てみると、そこにちゃんと箱の絵と同じカメラが入っていた。薄くて軽いから、ゴウでも扱えるだろう。ほとんど同じ大きさなのに性能が全然違くて色々な機能が付いている、と新しいカメラを買った時に父はとても喜んでいたから、このカメラでできることは少ないに違いない。それでもゴウが使うのだから十分だ。カメラの底面の右側にある蓋を開けると、充電池を入れる場所がある。SDカードを挿入する所も蓋を開けた所にある。充電池のすぐ上だ。既にカードは挿入されてあった。試しに電源を入れるため、シャッターボタンの横の小さなボタンを長押ししてみるとレンズがせり出してきた。撮影モードになっていた。液晶画面のすぐ近くにあるスライド式のつまみを左に動かして、画像を確認するモードに切り替える。どんな写真を撮ったのだろうと思ったのだが、何の写真も保存されていなかった。
「あれ?」
「どうしたの」とキッチンにいる母が声をかけてきた。
「前にお父さんが使ってたカメラ、SDカード入ったままだったんだけど、一枚も写真保存されてないの」
 そう答えると、ふうん、と母は言った。言ったのはそれだけで、何も意見を言ってはこなかった。私は、父がわざわざSDカードの中のデータを全て消去するような人間だろうか、と考えていた。あり得そうではあるが、そんなことはしないだろうという気もする。母なら父がデータを消すか消さないか理解していそうだから、何か言ってくれるのを期待したのだが、ここで醤油とみりんを入れます、と料理の手順を呟いているのが聞こえて諦めた。
「このカメラでよかったら使う?」
 私はゴウにデジタルカメラを差し出した。ゴウがにこりと笑って手を伸ばしたので、私はカメラを持たせてやった。理解できるかわからないけれど、私は電源の入れ方など操作方法を教えてみた。するとゴウは電源の入れ方と、スライド式のつまみを右に動かせば撮影モードになることを把握したようだった。ゴウはテレビにカメラを向けて三枚撮影すると、私にカメラを差し出した。私はつまみを動かして、ゴウが撮った三枚の写真を見た。どれもテレビの画面は綺麗には撮れていない。黒い部分と白っぽくなっている部分がほとんどであった。それにチャオには指がないせいで、両手でカメラを固定してボタンを押すということのできないために、写真はぶれていた。
「テレビを撮るのはあまり上手くいかないみたいね」と私は言ってカメラを返した。ゴウはつまみを動かして撮影モードに戻すと、カメラを私に向けた。私はいつもカメラを向けられたらするように、ピースして歯を見せないように笑う。撮った写真をゴウは見せてくる。
「ぶれてんじゃん」と私は笑い、楽しそうな振りをした。しかし私はゴウの撮った写真を面白いとは少しも思っていなかった。写真を撮らせてあげたのだからもう十分だろう、と私は思った。
「それじゃあ撮影頑張ってくださいね」
 そう言って敬礼してみせ、私はゴウを置いて自分の部屋へ行った。
 私はずっと机の引き出しにしまっていたmicroSDカードを出そうと思った。カードケースに入れてあるそれは翔矢がスマホに挿していた物だ。
 私は恋人だったという理由で色々な物を遺品としてもらっていた。彼の家族が暮らしていた家に遺品をもらいに行った時、私は彼のことを思い出せるような物をことごとく持って帰るつもりでいた。好きなだけ持っていっていいと言われたから、心を悲しみの液体の中に沈めてひたすらに染み込ませているような状態だった私は、本当に好きなだけ持ち帰るつもりでキャリーケースとリュックサックと紙袋を持って彼の家に行ったのだった。


11月25日投稿分+11月26日投稿分

 そうして持って帰った物に触れて彼のことを思い出すことは全くと言っていいくらいになかった。彼の家に泊まった時に読んだ漫画をもう一度読み返して泣いたくらいだ。彼の描いた落書きの絵のある教科書は持ち帰ってから一度も開いていない。
 私は自分のスマホにカードを入れて、翔矢の撮った私の写真を探す。翔矢はフォルダを作って撮った写真を丁寧に分別していた。美結待ち受けというフォルダがある。待ち受け画面のために私の最高の写真を撮りたいと翔矢は言って、私たちはモデルとカメラマンの真似事をしたことがあった。ただ私が被写体になってスマートフォンのカメラに向けてポーズを取っていただけで大したことはしていないのだけれど、それでも今まで撮られたどんな写真よりも私は可愛く写っていた。
 旅行に行った時の写真もあった。フォルダ名には日付が書いてあるだけだったが、それだけで旅行の写真だと私はわかった。夏休みに私たちは海水浴へ行った。二泊三日の旅行で、ゴウも付いてきた。写真のほとんどが海で撮ったものではなくホテルで撮ったものだった。旅行に行ったのは待ち受け画面の写真遊びの後だったから、ホテルで撮った写真でも私はポーズを取っている。
 水着姿で窓際に立ち、膨らませたビーチボールを抱えて微笑んでいる私の写真があった。私は幸せだった。干からびる前の私の体を愛する男に撮られていることが幸せだった。私は二十歳を過ぎたらもう老化していくだけなんだと今でも信じている。だから綺麗なところを撮られたい。撮ってもらえて私は幸せそうに微笑んでいるように見える。しかし鏡を見ながら笑ってみる時だって同じような笑顔だということも私にはわかってしまった。幸せであることと私の笑顔には何の関係もないようだった。そのように思った瞬間にこの写真の中から私と幸せは切り離された。そこに写っているのは幸せな私ではなく幸せと私になってしまったのだった。
 どの写真を探してもそこに写っている私は幸せとは別物だろう。そのことを否定する気も確かめる気もなく、私はただ始めたことの終わりを求め、保存されている写真を全て見ようとした。しかし翔矢の入っていた大学のサークルでの旅行の写真を見終わると、私は飽きてしまった。翔矢も入れて十数人で行ったということは聞いていた。確かにそのフォルダの写真にはたくさんの人が登場していた。そこにもソニックチャオがいる。ゴウはサークルの人々に可愛がられていて、いつも誰かに抱っこされて写っていた。なるほど転生するわけだと私は思った。この人たちに可愛がられた分もあるのだ。
 はたして私がチャオだったら私は転生するのだろうか、と私はふと考えた。しかし考えたところでどうしようもないことだ。翔矢は転生しなかった。ゴウばかりが愛されているのかもしれない。それはゴウがチャオだからだ。それにチャオなんて頭は人より悪いし、写真だって綺麗には撮れないのだ。事故に遭っても転生して助かるかもしれないとしたって、一度の寿命が約六年では頼りない。なんと言っても、もう翔矢は死んでしまったのだ。だからゴウ、お前はもう五年と数ヶ月しか生きられないかもしれない。
 私はベッドに横になり、母に呼ばれるまで眠った。起きると父が帰ってきていて、夕飯には酢豚が用意されていた。ゴウのガラスコップにはぶどうジュースが注がれてある。
「いただきます」
 私は椅子に座るなり手を合わせてそう言った。遅れて父と母もいただきますと言い、ゴウはそれまでジュースを飲まずに待っていた。
 ゴウはストローを使って少しずつジュースを飲んだ。ゴウが飲み終わるより早く父は食べ終わる。ゴウはさっきガーデンでは木の実を勢いよく食べていたのに、今は目を瞑って味わっている。


11月27日投稿分+11月28日投稿分+11月29日投稿分

 私も母も父やゴウのペースには合わせず、自分のペースで食べている。母は私より少し早く食べ終わるだろう。
「そのカメラ、使うのか」
 父は私にそう聞いてきた。
「ゴウがね」と私は答えた。
「そうなのか」
 父はゴウに聞いた。ゴウは目を瞑ったまま反応しないので、今度は私の方を向いて父は再び聞いた。
「そうなのか?」
「ガーデンで写真撮られて。それで興味持っちゃったみたい」
「へえ」
「そういえばさ、カメラにSD入ってたけど、なんにも保存されてなかったんだけど、どうして?」と私は聞いた。
「ああ、元々カメラにそのカードが入ってたんだよ。でも使ってる時は別のカード挿れてたけど、そのカメラ使わなくなったから元々入ってたやつを戻しといた」
「ふうん」
 確かにそれはデータを全部消すことよりもずっと父のやりそうなことだ。
「それで、ゴウはどんな写真を撮ったんだ?」
「後で見てみたらいいよ。酷いから」
「それは面白そうだな」
「つまらないよ」
 最後に食べ終わった私が最初に風呂に入る。父は食器をキッチンに運んで洗う。母はゴウとテレビを見ている。
 風呂から上がると私はスマートフォンのアプリを立ち上げて、クラスの友達と話をしながら楽譜を書く。曲を作っているわけではなくて、いい加減に書きたいように音符を書き入れていくだけの遊びだ。落書きと言っていい。私の場合絵を描くのではなくて、音符をたくさん書くのだ。そして五線譜ノートに音符を書いていくと、自分がとてつもない音楽を創作しているような気分になって楽しい。だけど私には音楽の才能はない。一度鍵盤ハーモニカで書いた楽譜を弾いてみようとしたことがあったが、あまりにもでたらめで弾くことは難しかったし、弾けた数小節のメロディーはどこも素晴らしくなかった。どこかで聞いたことのあるような、あるいは好きな曲をちょっといじっただけの曲を鼻歌で歌いながら、見た目だけは綺麗な楽譜を私は作った。
 会話している四人の友達の中で一番好きな怜央ちゃんが宿題の話をし始めて、私も今から宿題やる、と急いで送信する。そして通学鞄から宿題に出された英語のプリントを出して、本当に宿題をやり始める。他の三人も宿題をやる気になったらしくて、会話は止まる。解くのが面倒くさい問題は怜央ちゃんに教えてもらえばいい。そして私はプリントの問題を全て解き終えても終わったと報告せずに、しばらく楽譜作りに専念した。

 カメラの彼と出会ってから二週間後の月曜日のことだった。その日私は翔矢の部屋で過ごす夢を見て起きた。大したことをしていない夢だったけれど、私と翔矢はいくら食べても飲んでもどこからか出てくるお菓子とお茶をどうにか食べ切ろうとしていた。ポテトチップにポップコーン、チョコレートクッキーといったお菓子がサラダボウルのような容器に盛られていて、私と翔矢は退屈に思いながらそのお菓子を食べ続けた。こんなに食べたら夕飯食えなくなるな、と翔矢は言った。だけど食べ切らないと、と私は返した。口の中が渇くので手元にあったカップに入っている温かい紅茶を飲む。カップの中身はいくら飲んでも、次に目を向けるといつの間にか注がれたかのように元に戻っている。容器の中のお菓子も、食べ切ったと思って安心すると別のお菓子が山盛りになっているのだった。いつになったら終わるんだろう、と翔矢はチョコレートクッキーを食べ切ってバームクーヘンが出てきたところで言った。私たちはもはや何も食べられそうになかった。それでも私は、わかんないよ、と言いながらバームクーヘンを食べようとしたけれど手が重くて届かなくて、おかしいと思っているうちに目が覚めた。
 翔矢が夢に出てきたのは久々だった。翔矢の葬式が終わって一週間も経つと翔矢は一切夢に出てこなくなった。どうして今になって出てきたのだろうか、と私は考えようとした。それになぜ二人でお菓子を食べ続けていたのだろう。ご飯を食べながら考えてみても、死んだ翔矢からのメッセージを私は受け取ることができなかったし、私の心境も見えてこなかった。何の意味もない変な夢だった、というのが真相だと私は思った。
 そしてその日、私のクラスで現代文を教えている先生が婚約したことを私たちに報告した。その先生の授業は好きではなかったから、私はあまり騒がなかった。休み時間も、翔矢を失った私の心の傷を意識してくれる怜央ちゃんと一緒にいたから、その先生の話をしないでよかった。その先生は男で、結婚しても教師を続けるはずだ。だからどうでもいいことだったのだ。
 私がチャオガーデンでカメラの彼と再会したのは、それから三日後のことだ。カメラの彼から私を見つけて声をかけてきた。彼は二人の男と一緒に歩いていた。二人も彼と同じ制服を着ていた。
「お久し振りです」と彼は言った。私はしゃがんでゴウとお互いの手を叩いて遊んでいた。
「また会ったね。えっと、名前なんだっけ?」
 彼の名前を思い出せなくて、私はそう聞いた。
「石川です」
「あれ。そんな名前だったっけ」
 立ち上がりながら私は言った。聞き覚えのない名前だったから、嘘をついたのだと私は思った。
「だって、この前は名前言ってませんから。お互いに」
「ああ、そうだったかも。私、押花。プッシュの押すにフラワーの花ね」
引用なし
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