●週刊チャオ サークル掲示板
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1728 / 1925 ツリー ←次へ | 前へ→

元編集長からの挑戦状 ホップスター 13/12/23(月) 12:00

ボクはチャオ(v1.1.1) チャピル 14/12/23(火) 22:56
Part 1 チャピル 14/12/23(火) 23:56
Part 2 チャピル 14/12/23(火) 23:56

ボクはチャオ(v1.1.1)
 チャピル WEB  - 14/12/23(火) 22:56 -
  
12月23日 22:56
先に親発言だけ作って自分を追い込んでいくスタイル

12月23日 23:56 (v0.0.1)
14時間ではこれが限界でした。ごめんなさい。
ライブラリーに収録される頃にはきっといろいろ修正されているはずです。

聖誕祭おつかれさまでした。グッナイ!

12月28日 21:11 (v1.0.0)
チャオ16周年おめでとうございます。そして遅刻してごめんなさい。
聖誕祭14時間チャレンジのつもりが、完成させるまですっかり長くなってしまいました。
ひとまずは今日のバージョンで最終形としたいと思います。
挑戦状スレのハードルは下げたので、あとはホップさん頑張ってください。

12月29日 18:46 (v1.1.0)
Part2にバナナ買うシーンを入れたりしました。

12月30日 12:02 (v1.1.1)
オランダ人→ポルトガル人。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10.9; rv:34.0) Gecko/20100101 Firefox/3...@p9221-ipngnfx01kyoto.kyoto.ocn.ne.jp>

Part 1
 チャピル WEB  - 14/12/23(火) 23:56 -
  
 木の実を探していたら、ツバメの巣を見つけた。
 今年は木の実の出来が悪い。ここ数年は軒並み悪かったけど、今年は特に実りが少ない。だからツバメの巣を見たときはチャンスだと思った。
 小さな羽を動かして巣に近づく。3羽の雛がくちばしを開けて親鳥を待っている。雛のくちばしを掴んでひねる。ポキリと首が折れて、ぐったりと動かなくなる。とりあえず3羽とも殺して捨てる。巣の中に潜って親鳥が来るのを待つ。
 親鳥がミミズをくわえて戻ってきた。飛び付いて、そのまま地面に叩きつけると、親鳥はあっけなく死んでしまった。
 その羽をむしって食べた。ツバメの肉はおいしくなかったけれど、頑張って飲み込んだ。おいしくない肉は僕の力になる。翌朝になると、それは僕の背中から生える黒い翼に変わっていた。
 僕は翼を広げて飛び立った。昨日よりもずいぶん高く飛べる。羽を動かせば動かすほど、空気が薄くなっていく。息を継げる限界まで羽ばたいてから、地表を見下ろす。
 僕の生まれた小さな島が、海の中に浮かんでいた。隣には大きな陸地があって、僕の島を囲むように湾を形成していた。
 ……あそこならば、豊富な食事が取れるかもしれない。
 体を西へ向けた。滑空しながら徐々に高度を落としていった。ぼんやりと広がる地形が次第に鮮明になっていく。
 そこは島とはずいぶん異なる様子だった。
 木や土が所々にしかなくて、代わりに黒っぽい砂利が地面を覆っていた。光沢のある大きな箱が轟音と共に地面を動いている。箱はあまりにも動きが速くて、固そうで、どうやって食べたらいいのか見当もつかない。
 僕は地上に降りるのをやめ、近くにあった木の枝に足を降ろした。あの箱がどういう生き物なのか、ここで様子を見よう。
 冷たい朝の空気がしだいにやわらいでゆく。東の地平線上にうっすらと僕の故郷が見える。それが次第に太陽の光に飲み込まれていく。
 しばらく景色を眺めているうちに、木の下には別の生き物が現れていた。そいつらは二本足で歩いていた。
 体つきは僕らと似ているけれど、僕らより数倍大きくて細長い。そんな二本足の生き物が、次から次へと木の下に現れ、去って行く。たくさんいるのに、まるで誰かに命令されているみたいに、流れに沿って動いている。
 そんな中、二匹が立ち止まって僕の方を指さした。なにやらしきりに鳴き声をあげている。どういう意味だろう。
 すると突然、二匹のうちの一匹が分裂した! いや、実際には分裂ではなかった。背負っていた紺色の袋を降ろしただけだ。紺色の袋が体の一部にはりついて、まるで生き物の一部のようになっていたんだ。
 紺色の袋から、さらに小さくて赤い袋を取り出す。赤い袋から黒っぽい小さな粒が出てくる。あれは……木の実?
 その生き物は、手の上に黒い粒を載せて、僕に向けて差し出した。
 そいつは明らかに僕を誘い出そうとしていた。罠なのかなんなのか、判断がつかない。
 彼らの狙いは何だろう。捕獲か、それとも食べられるのか。明らかに怪しい。しかし、僕は長距離の空の旅によってずいぶん疲れている。あたりには他に木の実らしきものは見当たらない。現状では唯一の食料源だ。
 紺色の生き物たちは、また何度か鳴き声をかわした。そのとき、視線が僕から外れた。
 その隙を見逃さない。
 木の実に向かって急降下する。いくつかの黒い粒を掴んでまた素早く木の枝へと戻る。数秒遅れて、彼らは黒い粒が奪われたことに気付く。
 食べ物を奪われたというのに、紺色の生き物は不思議なくらい温和だった。ただ手の上に残ったいくつかの粒を、自らの口に放り込んで、用が済んだかのようにそのまま立ち去っていった。
 一体何だったんだろう。僕は初めて見るこの土地の生き物の生態に、とても興味が沸いてきた。
 黒い粒を一つだけ食べてみた。とても甘い。でも、その味は今までに食べたどの木の実にも似ていなかった。

 その日はずっとその木の上で過ごした。というのも、ひっきりなしに二本足の生き物と轟音の箱が周囲を行き交うので、簡単には出られないのだ。
 僕は木の葉で自分の身を隠した。彼らは無限にいるように見えるけど、木の上に目を向ける個体はほとんどいない。だから、観察するにはうってつけだった。
 二本足の生き物も、轟音の箱も、よく見ると様々な色をしていた。赤や緑、オレンジ色の個体もいた。
 夜になると二本足の生物はずいぶん減った。でも、箱の方は依然として活動していた。やつらには活動時間というものはないのだろうか。
 そんなことを考えていると、朝見た紺色の生き物が現れた。同じ個体だと分かったのは、やつが僕のことを覚えていたからだ。僕に向かって一直線に近づいてくる。どうしようか。
 紺色の二本足がやることは今朝と同じだった。赤い袋を取り出して、また手の上に粒を並べ始めた。僕はおそるおそる木を降りて、その手ににじり寄る。
 この黒い粒はやはりおいしい。初めて食べたのにやみつきになってしまう。こんなにおいしいものをこの土地の生物たちはいつも食べているんだろうか。
 しばらく夢中になって食べていると、いつの間にか粒はもうなくなっていた。
 紺色の生き物は目を細めていた。笑顔。他の生き物が笑うところを見るのは初めてだったけれど、僕たちの種族とよく似た顔つきだった。ここにきてようやくこの生き物が敵ではないと思い始めた。
 紺色の生き物は袋をしまって、その場を離れる。僕は紺色の生き物の後をついていった。紺色の生き物は僕に気付いていたけれど、あえて歩みを遅くしたりはしなかった。
 僕たちはやがてある場所に辿り着いた。そこは夜なのに不思議と明るくて、暖かい、紺色の生き物の住処だった。

 紺色の生き物との暮らしが始まって一週間が過ぎた。この一週間で判明した生き物の生態がいくつかある。
 第一に、紺色の生き物はいつも紺色ではない、ということだ。
 この生き物の本来の色は薄茶色のようだ。その上に様々な皮を纏うことで、日ごとに違う色になるようだ。色の違いがどのような意味を持つのかについては不明だ。
 第二に、この生き物は朝になると住処を出る。そして夜になると戻ってくる。この間、この住処の出入り口は使用できなくなる。
 僕は最初閉じ込められたかと思った。が、そうではなかった。出入り口についているいくつかのしかけを、手順通りに操作すれば、自由に出入りできるようだ。
 僕は時々この方法で外に出て、他の生き物や仲間を探したりした。とはいえ、あまり目立った成果はあげられなかった。ツバメの翼は小さすぎて不便だったので、カラスの翼に変更した程度である。
 最後に、この生き物は僕のことを「ポメラ」と呼ぶ。彼らは鳴き声でコミュニケーションを取っている。物によって決まった呼び方があるようだった。呼び方の一部は把握したが、まだ全部は分からない。僕は「ポメラ」で、生き物は「ユキ」、黒い粒は「ゴハン」だ。
 一度だけ、ユキとは別の個体に出会ったことがある。その個体はユキと違って頭部が黒いので、見分けるのは簡単だった。
 黒い頭の目元には、ぴかぴかした透明の板がついていた。それが光を反射してまぶしかった。右手には青い板を握っていて、そこに第三の目があった。
 黒い頭は第三の目を僕に向けた。第三の目は僕のことを見透かしているような気がしてならなかった。僕は眠っているふりをして、第三の目をやり過ごした。第三の目はカシャリ、カシャリと不思議な音を立てた。
 黒い頭との遭遇は、それきりだった。
 ユキは毎朝、部屋の隅にある器にゴハンを補充してくれる。僕はそれを好きなときに好きなだけ取って食べる。以前食べた黒い粒の他に、別の種類の粒が置かれていることもあった。どれもそれなりにおいしかったが、やはり黒い粒が一番のお気に入りだ。
 この大陸の黒い粒はおいしい。しかし、おいしいものを食べていても僕たちは成長しない。成長するには、自分で狩りに行かないといけない。このことは島にいたときと何も変わらない。
 夕方になるとユキは住処に戻る。その後、決まって僕をなでたり、つついたりしてくる。この生き物なりのスキンシップだと思って、僕は甘んじて受け入れることにしている。
 ユキを喜ばせる方法は簡単だ。彼らの鳴き声を真似てやればいい。試しに「ユキ」という音を真似すると、そいつはすぐに僕の所にかけよって頭をなでる。
 だけど、まだ声については分からないことだらけだ。
 ユキは毎晩よその光景を見ていた。ここには遠くの景色を映し出す不思議な薄くて黒い板があるのだ。
 ユキはいつもこれを見て笑っていたけれど、僕には何が面白いのか分からなかった。そのことがなんとなく不満だった。
 黒い板は風景だけでなく音も出している。この声がもっと分かるようになれば、僕にも笑顔のわけが理解できるんだろうか。
 僕は、彼らの使う鳴き声についてもっと知りたいと思った。そのためには、成長しなければならない。彼らのことを知るには、やはり彼らの仲間を食べるのが一番いい。
 とはいえ二本足を食べるには入念な準備が必要だ。なにしろ彼らは僕たちの数倍は大きいし、力もある。普通にやっていたら肉を喰らうところまでは至らないだろう。
 ユキ以外に食べられそうな個体はいないだろうか? ふと、黒い頭の個体を思い出す。でもあいつはユキの側にいた。複数の相手と同時に敵対するのは分が悪い。それにユキは食べ物を与えてくれるので、できれば生かしておきたい。
 ユキ以外の別の個体が一匹だけいる。そんな理想的な場面に出会うには、やはり一度狩りに出かける必要がある。

 チャンスは突然やってきた。
 僕はその日も住処を飛び出し、近くの山の中に来ていた。小動物が捕まえられれば、と思っていたのだけど、やはり冬が近いためだろうか。動物の姿は見当たらなかった。ただ積もった枯れ葉だけが僕の足にまとわりついた。
 そのうちに、しとしとと雨が降り始めた。このままでは体が冷えてしまうので、来た道を引き返すことにした、そんな矢先だった。
 木陰から初めて見る二本足の個体が現れた。背丈はユキよりもやや大きいくらいか。がっしりとした体格をしている。頭が灰色のところに特徴がある。
 灰色の頭は僕を見るなり雄叫びをあげて、こちらに向かって走り出した。
 僕は慌てて逃げた。しかし、その個体はずいぶんと鈍くさかった。走り始めてすぐに、苔の生えた岩で足を滑らせてしまったのだ。ドサッという重い音がして、その巨体は枯れ葉の中に沈んだ。彼はそのままうめき声をあげて、動かなくなった。
 今なら殺すことができる。
 僕は近くに落ちていた鋭い小石を手にとった。相手が動かないことを確認しつつ、頭部ににじり寄る。首筋に何度か切りつける。すぐ静脈に穴が空き、赤黒い液体が滴り落ちた。
 弱い雨が死体の傷を洗い流していた。そのまま首から上を切り落とせればよかったのだが、小石にそこまでの鋭さはない。
 しかたなく、僕はその体を押して、やつが足を滑らせた岩場まで移動させる。灰色の頭を持ち上げる。そのまま、落とす。頭蓋骨の割れる音がする。
 地道な作業だった。小石で頭皮を切り開いたり、頭蓋骨の割れ目を押し広げたりして、何とか脳を露出させた。ようやく見えた脳は、血と雨に揉まれてぐちょぐちょになっていた。
 脳みそもおいしくない。おいしくない部位を食べれば食べるほど、僕の体は成長するんだ。
 雨が降っていてよかった。このような作業をすると、どうしてもついてしまう血の臭いが、今は自然と洗い流されていく。
 僕は無心で脳をむさぼった。とても苦くて柔らかい、老人の脳。

 その夜、生まれて初めて夢を見た。
 主人公は僕ではなく、死んだはずの白髪の老人だった。
 老人は家族と鍋を囲んでいた。若い夫婦と小さな女の子がいた。この老人の孫だろうか。
 孫娘は自分の取り皿に盛られたしいたけを箸でつついた。明らかに嫌そうな顔をしながら、つまみあげて父親に見せた。
「それはおじいちゃんがとってきてくれたんだぞ。我慢して食べなさい」
 父親は娘を&#134047;った。
「えー」
 孫はしばらくしいたけを見つめていたが、やがてぱくりと食らいついた。
 夢はそこで覚めた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10.9; rv:34.0) Gecko/20100101 Firefox/3...@p9221-ipngnfx01kyoto.kyoto.ocn.ne.jp>

Part 2
 チャピル WEB  - 14/12/23(火) 23:56 -
  
「あの生き物の正体分かったかも!」
 加奈ちゃんから届いたメッセージは、私の期待と不安の両方を押し上げた。
 ポメラを保護してから、すでに十日も経っている。加奈ちゃんが私の家に来たのが三日目だったから、調べるのに一週間かかった計算になる。どうしてそんなに時間がかかったのか、良い意味でも悪い意味でも気になる。早く会って話を聞きたい。だけどスマホを持つ指がかじかんでうまく返信が打てない。私は焦っていた。
 三浦加奈子は高校以来の友達だった。もともとそれなりに仲は良かったのだが、同じ大学に進学して以来、気の置けない仲となっていた。
 いつもは食堂で落ち合うことが多いけど、今日だけは違った。秘密の話をしたいときに人の多い食堂は使えない。わざわざ教室を指定してきたってことは、つまり、どういうことなんだろう。
 教室の扉を開ける。加奈ちゃんの丸っこい眼鏡が私に向けられる。
「ごめん、遅くなって」
 メールで知らせてくれた教室には、加奈ちゃんだけが残っていた。
「すごく早くて驚いてるよ」
 私は加奈ちゃんの隣に腰を降ろす。
 彼女は獣医学部だ。だから、私がよく分からない生き物を拾ったとき、真っ先に相談したのが加奈ちゃんだった。一刻も早く結果を聞きたい。私は加奈ちゃんを促した。
「単刀直入に言うと『チャオ』だと思う」
 加奈ちゃんはクリアファイルを私に差し出した。
 古い本のコピーだった。本文よりもまず挿絵に目が引き寄せられる。水風船のような手足、頭の上に浮いた球体。間違いない。ポメラと同じだ。
 文字は英語かと思いきや、よく見ると違う言語だった。私は読むのを諦めて、加奈ちゃんに解説を求めた。
「それは1552年に東南アジアを航海したポルトガル人の残した記録だよ。彼らは旅の途中、ある島でこの絵の通りの生き物を見たと言っている。現地の人がこの生き物をチャオと呼んでいた、とも書いてある」
 私は世界史の授業を思い出す。16世紀というと、大航海時代か。
「5年後の1558年にも、ポルトガル人はこの島に船を出している。で、そのときに持ち込んだ家畜がチャオを全滅させてしまったみたい」
「全滅?」
「そう。家畜っていうか、護衛用の犬だったみたいだけど。それがチャオを全部食べちゃったみたい」
「それが本当の話だったら、チャオはあまりに外敵に弱すぎるんじゃない?」
 私の疑問に、加奈ちゃんはうなずいた。
「島の直径は100メートルくらいしかなくて、ほとんどチャオしか住んでなかった。だから、元々の個体数がそんなに多くはなかったし、天敵もそれまでいなかったんじゃないかな」
 私はポメラのことを思い出す。実際、ポメラもそんなに強そうな外見に見えない。それにエサを与えるだけでほいほいと家までついてきた。自然界の生き物にしては、人間への警戒心が小さすぎる。
「チャオに関する資料はその2つだけ。資料が少なすぎるから、ほとんどの文献がそんな生き物の存在はなかったことにしているみたい。でもこのイラストを見たら、それが嘘だとは思えなくて……」
 冷静に考えると、東南アジアで絶滅した生き物が日本で見つかるのは奇妙だ。それも普通の街路樹にとまっているところを、私みたいな普通の学生が見つけるなんて。でも、この生物について説明しているのが、この本しかないのも確かだ。
 一体どういうことなんだろう? 東南アジアに住んでいたチャオは、本当は絶滅したわけではなかったとか? 周りの島にもチャオがいて、それが巡り巡って今の日本に住んでいるとか? そんなことが有り得るんだろうか?
「ちょっと信じられないけど……いろんな疑問があるけど……私はポメラがチャオの生き残りだと思う」
 加奈ちゃんもうなずいた。
「実際、有紀ちゃんちにいるもんね。私もそう考えるしかないと思う」
 私はその言葉にほっとしていた。もしこれが自分だけの問題だったら、どう処理していいのか分からなかったから。加奈ちゃんはお人好しすぎるところがあるけど、今はそれがありがたかった。
「私、ポメラをどうしたらいいんだろう?」
「調べて欲しいって頼んだの有紀ちゃんでしょ。何か考えてたんじゃないの?」
「私は……」
 ただ、私の手に負える生き物なのかどうか、それが知りたかっただけだ。育て方が分かれば育てようと思っていたし、ちゃんとした専門家がいるならそこに預けるべきだと思っていた。こんなにスケールの大きな話になるとは、全然予想していなかった。
「正直、予想外の話になってすごくとまどってる」
「だよねー」
 加奈ちゃんはうんうんとうなずく。
「色んなやりかたがあると思うよ。例えば、うちの大学のどっかの研究室に預けたいっていったら、許してくれる先生もいるだろうし」
「自然に還すとかってのは、ないのかな」
「うーん、やめたほうがいいと思うよ。それで地域の人に迷惑がかかったりしたら、良くないでしょ?」
「確かに」
 今の段階では判断がむずかしい。今回加奈ちゃんが見つけてきてくれたのは、つまり資料がないってことを示す資料だ。チャオがどういう生き物なのか、まだ私たちはよく理解できてない。
 将来的に研究室や専門機関に預けることになるとしても、今の段階でどうするべきかまでは分からない。急に環境を変えてストレスにならないかとか、食べ物は今のままでいいのかとか、色んな疑問がある。
 私はまだ、何も糸口を掴んでいないんだ。
「結論って今出さないとだめ?」
「そんなことないと思うよ。家でゆっくり考えたらいいじゃん。持ち主は有紀ちゃんなんだしさ」
 結局、私は加奈ちゃんの甘い言葉に従うことにした。資料だけ分けてもらって、加奈ちゃんにアイスをおごって別れた。
 帰り道は薄暗かった。足は自然に明るいスーパーへ向く。晩ごはんの材料を買うだけのつもりだったけれど、入り口に置かれたバナナに目が吸い寄せられる。チャオは南の島に暮らしていたと、加奈ちゃんは言っていた。今まではコーンフレークやグラノーラなど、穀物ばかりを与えていたけど、本当は果物の方がチャオの主食に近いのかもしれない。そう思ってバナナをかごに入れた。
 ポメラが普通の生き物じゃない、と分かっただけでも収穫だった。だけど、そのことが今は惜しい。普通じゃない生き物はいつか手放さないといけない。そのことがすぐにはイメージできなかった。
 アパートの鍵を開ける。電気をつけると、部屋の隅で丸くなって寝ているポメラを見つける。皿に盛ったグラノーラは、今日はあまり減っていなかった。
 グラノーラを捨てて皿を洗った。皿を拭いて、ここ十日間ポメラのことばかり考えていた自分に気付いた。

「朝ご飯だよ」
 ポメラのお皿にスライスしたバナナを置く。
「ワーイ、ゴハンダ!」
 ポメラが喜びの声をあげる。って、ええええ? 私は目を見開いた。
「ポメラだよね?」
「ウン?ソウダケド」
 生き物がいきなり言葉を覚える、なんてことがあるんだろうか? 昨日までは片言だったはずなのに、今日はちゃんと文になっている。人間の赤ちゃんだって数年かけて覚える言葉を、ほんの2週間弱で習得した。そんな信じがたい奇跡が今、目の前で起きている。
 驚きがだんだん好奇心に変わっていく。どんな言葉が話せるのか、ちょっと試してやろう。
「ねえ、ポメラ」
「ナニ?
「一番好きなご飯は何?」
「ヤッパ サイショニタベタ ムギチョコ ダネ」
「このバナナはどう?」
「オイシイケド ハゴタエガ タリナイネ」
 楽しい。これは、楽しい。
 私の生活に足りなかったのは、人との会話なのかもしれない。ポメラは人ではないけど、でも、話し相手としては十分すぎる。
 まだ何か話し足りなかったけど、そうも言ってられなかった。そろそろ大学に行くバスの時間が迫っていた。
 急いでダッフルコートに袖を通し、バッグを肩に掛ける。そんな私の様子をポメラが見上げている。
「ドコニイクノ?」
「大学だよ」
「ドウシテ?」
「今から授業あるし、加奈ちゃんとか、朋ちゃんもいるから」
「カナチャン? ヒサシブリニ カナコニ アイタイナ」
「じゃあ、夜までにはまた戻るよ」
「ウン!」
 ポメラと手を振って別れる。いやはや、ただの珍しい動物かと思ってたら、こんな能力を秘めていたなんて。

 学校に着いてからも、つい変な笑いが漏れてしまう。
「ふふふ……」
 だめだ。これじゃあただの変な人だ。なんて、自分でツッコミを入れながら教室に向かう。
 今日の前半は教養科目だったはずだ。ということは、加奈ちゃんも来る。私がポメラのことを打ち明けているのは加奈ちゃんしかいないから、必然的に、この話は彼女のために取っておくしかない。
 私は加奈ちゃんが来るのを待った。しかし、始業の時間を過ぎても、彼女は授業にこなかった。
 一時間目だけなら寝坊かな?と思ったけど、二時間目の授業にも来ないからさすがに不安になる。
 なんだか嫌な予感がした。こういう勘だけは昔からよく当たる。
「御手洗いに行ってきます」と言って授業を抜けた。
 トイレの前で、加奈ちゃんに電話をかけてみる。意外とすぐに電話はつながった。
「もしもし、今何してる?」
「あ、ごめん、今日休みなんだ。お祖父さんの忌引きで……」
 ああ、こういうときにどう返したらいいんだろう。はしゃいでいた自分が急に恥ずかしくなった。
「何か用事あった?」
「いや、授業来ないから何かあったのかと思ってかけたんだけど。そっちは忙しい?」
「うん……ちょっとね。詳しいことは、新聞とかニュースにもなってると思うから」
「加奈ちゃんのお祖父さんってそんなに有名人なの?」
「いや、有名じゃないんだけど、その死に方が、ね……」
 加奈ちゃんは言葉を濁した。
「そっか。じゃあ、また」
「またね」
 ツーツーツーと長引くパルス音を私はぼんやりと耳にしていた。それから、授業を抜けてきていることを思い出して、いそいそと教室に戻った。といっても、授業はほとんど終わりかけていたのだけれど。
 加奈ちゃんが言ったニュースの話が少し気になる。たしか大学の図書館に新聞が置いてあったはずだ。
 授業終了のベルが鳴ってすぐ、バッグにノートとペンを投げ入れる。食堂へ向かう人の波をかき分けて、私は北棟を目指した。昼なのにコートのすき間から冷たい風が容赦なく吹き込む。私の足を急がせる。
 お昼時ということもあって、図書館にいる人は少なかった。とりあえず目に付いた新聞を取って、地方欄を広げる。「変死体発見」の見出しは中段上あたりにあった。
 亡くなったのは三浦義一さん70歳。死体は山の中。しいたけの収穫のため山に入っていたものと思われる。頭部と首筋に外傷が見られ、直接の死因は首からの流血。しかし、何より不可解なのは、死体の脳だけが取り除かれていたことだった。警察では事件性があると見て捜査を進めている。
 酷い事件だ、というのが第一印象だ。こんなのに巻き込まれて、加奈ちゃんも大変だな。
 でも、なんでだろう。私の頭の中で今朝のポメラの台詞が反芻する。
「ヒサシブリニ カナコニ アイタイナ」
 思い返せば気になる出来事はいくつかあった。
 家に帰ると、玄関の鍵が何度か開いていたことがあった。あのときは鍵を閉め忘れたのかと思ったけど、もしポメラが自力で外に出ていたとしたら、どうなる? 昨日の昼、山の中に行っていたとしたら?
 私は加奈ちゃんのことを「加奈子」と呼ばない。それなのにポメラはカナコといった。誰に教えられたわけでもないのに。
 まるでお祖父さんの魂が乗り移ったみたいに……

「ただいま」
「オカエリナサイ」
 部屋には電気がついていた。ポメラが床に座ってテレビを見ていた。言葉を覚えたただけではなく、やることがまるで人間のようだ。昨日までのポメラとは明らかに変わっている。
 私はコートをハンガーにかけながら、何気なくポメラに話題を振る。
「加奈ちゃんがね、近いうちにもう一回うちに来たいって」
「ホント!? イツ?」
 ポメラはテレビから目を離し、大きな黒目を私に向けた。
「週末くらいかなあ」
「ヤッタ!」
 ポメラは立ち上がって飛び跳ねながら喜んだ。
「ポメラって加奈ちゃんのこと好き?」
「ウーン、ソウデモナイカナー」
 そうでもないのかよ。じゃあ、さっきまでの喜びようは一体何だったんだ。
 ポメラからお祖父さんの話題を聞き出すには、ひたすら加奈ちゃんのことを話すしかない。それが私の作戦だった。嘘でもいいから、加奈ちゃんの話題を繋ぐ。
「きっと驚くと思うよ、加奈ちゃん。ポメラがしゃべれるようになったって言ったらすごいビックリして、早く会いたいみたいなこと言ってたから」
「シャベルノ ワリト フツウ ダヨ」
「ポメラって、チャオなの?」
「チャオッテ ナニ?」
「加奈ちゃんが、ポメラはチャオだって言ってたから」
 そう伝えても、ポメラはピンとこない様子で首を傾げる。
 チャオではない? いや、単に知らないだけかもしれない。チャオという呼び名を使っていたのは昔の人だ。一般的な名前ではない。
「ポメラ、人間って分かる?」
「ユキトカ カナチャンノ コト デショ」
「ポメラって、人間なの?」
「ナンデ?」
「だって、こうやって喋れるようになったじゃん」
「シャベレタラ ニンゲンナノ?」
「うーん、そういうわけじゃないけど」
 やっぱり勘違いだったのかな、という思いが次第に私の中で強くなっていく。今朝の台詞は聞き間違いだったのかもしれない。ポメラとお祖父さんとを繋いでいた細い糸が、ほとんど切れかかっている。
「全然関係ないこと聞いていい?」
「ナニ?」
「昨日の昼間、何してた?」
「ズット イエニ イタヨ」
 ポメラは視線を逸らすかのように、またテレビを見た。私の中の疑惑が膨らんだ。ポメラは何かを隠している、ような気がする。それが何なのかは分からないけれど。
 ポメラは人に近い知能を手に入れた。他の生き物にはできないことだ。もしかすると、とても賢い生き物なのかもしれない。嘘をつくことができたとしても不思議はない。
「前に家に帰ってきたとき、鍵がかかってなかったことがあったけど、あれってポメラ?」
「カギッテ ナニ?」
 私は少し怖くなった。今まではか弱くて保護すべき存在だと思っていた。でも、本当はポメラの方が人間より優れた生き物だったとしたら。
 思い出せ。鍵がかかってなかった日、ポメラに何か変わったことがなかったか。すると、ある一つの事実に気がつく。あの日、ポメラの翼の形が少し変わっていた。
 新聞記事の見出しがフラッシュバックする。「脳のない死体発見」。
 ……もしも、ポメラが死体の一部を身体に取り込む能力を持っているとしたら。それをまるで自分の体の一部のように動かせるとしたら。
 昔、ニュースで万能細胞というものを見たことがある。あの細胞で全身が出来ている生物がいるとしたら。
 まず、山で加奈ちゃんの祖父をポメラが見つける。そして脳だけをなんらかの方法で自分の体内に取り込む。結果として、人間の脳がポメラの一部になる。そしてポメラが言葉を喋れるようになる……そんなことが可能だとしたら。
 いや、さすがに非現実的すぎるな。ほとんど私の妄想に近い。そんな超能力があったら、UFOも幽霊も説明できるんじゃないかっていう次元の話だ。
「ねえ、ポメラ」
 ポメラはテレビを見ている。バラエティを見て笑っている。
 私はどうすればいいんだろう? 考えて、考えて、しかし私の頭ではそこに続く言葉が浮かばなかった。

 二回目の夢を見た。
 色あせたジャングルだった。不思議な既視感がある。加奈ちゃんのコピーしてきた本のかすれとそっくりだ。
 一匹の犬がチャオを追っている。チャオの走る速度は遅い。犬との距離は徐々に縮まっていく。
 そのとき、ジャングルの切れ目に小川が現れる。チャオは小川の手前で立ち止まった。
 チャオは逃げていたのではなかった。犬が十分に近づくのを待って、チャオは小川に飛び込んだ。それを合図に、周囲の木陰からたくさんのチャオが現れた。そこはチャオたちの縄張りだった。ある者は熊の腕を持ち、ある者は蛇の牙を持っていた。
 周囲のチャオは一斉に犬を襲う。鋭い爪が目を潰し、首筋に牙を突き立てる。標的を見失った犬は、為す術もなく冷たい塊となった。
 犬の死体は、囮のチャオが食べた。次の朝には、そのチャオの体は犬のパーツで覆われていた。一度バラバラになったパーツは再びチャオの周りで結合し、一体になる。オリジナルの犬と見分けがつかないくらい、完璧に変身していた。
 そのチャオは何事もなかったかのように、ポルトガル人の乗る船に帰還した。誰も犬が一匹入れ替わったことには気付かなかった。
 翌日、一人のポルトガル人が犬によって殺害される。その日から次々にポルトガル人とチャオが入れ替わっていく……

「おはよう」
 数日ぶりに聞く声。加奈ちゃんはずっと休んでいたから、こうして会うのは久しぶりだ。
「休みの間、なんか変わったことあった?」
「別に何も……」
 と言いかけて、私には加奈ちゃんに伝えるべきことを思い出す。
「そういえば、この前ポメラが家出しちゃった。だから今週末うちに来てもポメラには会えないよ」
「ポメラに会いたいって、私そんなこと言ったっけ?」
 加奈ちゃんは不思議そうに私の顔を見つめた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10.9; rv:34.0) Gecko/20100101 Firefox/3...@p9221-ipngnfx01kyoto.kyoto.ocn.ne.jp>

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1728 / 1925 ツリー ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
56305
(SS)C-BOARD v3.8 is Free