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小説事務所聖誕祭特別篇「Turn To History」 冬木野 11/12/23(金) 22:03

FIRST CHIEF SIDE DIGEST 冬木野 11/12/23(金) 22:07
No.1 冬木野 11/12/23(金) 22:16
No.2 冬木野 11/12/23(金) 22:22
No.3 冬木野 11/12/23(金) 22:28
No.4 冬木野 11/12/23(金) 22:32
No.5 冬木野 11/12/23(金) 22:39
No.6 冬木野 11/12/23(金) 22:45
No.7 冬木野 11/12/23(金) 22:49

FIRST CHIEF SIDE DIGEST
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:07 -
  
 かつて異世界を渡り歩き旅を続けていた過去を持つゼロ達。ある日突然、気付かぬうちに異世界で目覚める。

 久しく目の当たりにした見知らぬ異世界で、彼らはバケモノ扱いされ、町の中の森へと逃げ出す。そこで彼らを襲った正真正銘のバケモノ。

 混迷を極める町で、魔法使いたちは仲間の姿を求め動き出す。


>ゼロ:男性:ニュートラルハシリ・ハシリ二次進化
 白い帽子と眼鏡がトレードマークの、小説事務所の所長。

 その正体は風を自在に操る魔法使い。今はその力を持て余し、事務所で眠ってばかりいる。

 突然やってきた異世界を目の当たりにし、鈍る体に鞭打って帰る方法を模索することに。


>パウ:女性:テイルスチャオ
 小説事務所きってのメカニックであり、熱と炎を操る魔法使い。

 見知らぬ異世界で、草木のバケモノに対するリーサルウェポンとして活躍する。

 密かにこの状況を楽しんでおり、その行動はどこか奔放的。


>リム:ヒーローチャオ(垂れウサミミ)
 小説事務所の受付嬢に甘んじる、狂った豪運を持つ少女。

 水分を操る魔法使い。突っ走り気味な二人をサポートするお姉さん役。

 専ら常識人の立ち位置であり、異常事態に対してどこか抜けている二人に少し呆れている。
引用なし
パスワード
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No.1
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:16 -
  
 ――これはなんの冗談だ。
 周囲に群がる古風な姿をした兵士達を見て、俺は真っ先にそう思った。
 まったく、頭が痛くなってくる。
 見知らぬ町の路地裏で目を覚ましたと思えば、表に出た時の光景はとても現代とは思えなかった。
 挙句、古風な姿をした住民達は俺達を見て急に叫びだしたかと思えば「衛兵を呼べ!」とか叫んで、文字通り衛兵がやってきた。

「……おい、パウ。カメラはどこだ」
「さあ? 監督の姿も見当たらないね」
 どうやら映画の撮影ではないらしい。となると、ここは……
「異世界、じゃないですか?」
「だろうね。ここのところずっと平穏だったし、随分と久々だね」
 ということらしい。淀みのない青空、毛色の違う空気を肌に感じ、溜め息を一つ吐いた。我ながら飲み込みの早いことで。
「このバケモノめ! いったいどこから進入した!?」
 槍だの盾だのを構えた衛兵達が、俺達に向けて歯を剥く。
「だってさ」
「可愛い事前提のチャオに向かってバケモノって、この世界の人達はどういう美的感覚してるんでしょう?」
「さあな。熱烈な視線を浴びるって事実は変わらんみたいだが」
 どこから湧いてきたのかは知らないが、数え切れない程の衛兵達は皆、俺達に敵対心むき出しの目を向けている。少なくとも話の通じる雰囲気ではなさそうだ。周りの一般人達も見慣れない危険物でも見るような目でこっちを見ている。
「ゼロ、どうする?」
 どうする……か。
 とりあえずはこの場を切り抜けなければならないだろう。だが、ただ逃げるにしても俺達はこの町を知らない。適当に逃げて衛兵を撒いたとしても、住民さえも俺達を見て叫びだすんじゃ話にならない。かと言ってこの衛兵達を蹴散らしてもキリがないだろうし、仮に全員倒したところで悪名はあがるわ次の追っ手が来るわで状況は好転しないだろう。
 さて、どうするのが最善か。

「……逃げるしかないな」
「どこまで?」
「人のいないところを探すしかないだろう」
「貴様ら、何をごちゃごちゃ言っている!?」
「うるさい気が散る、作戦会議中だ」
「ふざけた事を……総員、決して民には被害を出すな! この場で仕留めろ!」
「おおーっ!!」
 衛兵全員が雄叫びをあげ、古風な武器を構えて突進してきた。ますます古臭い。
「民間人には手を出すな、だって」
「努力するさ。リム、頼む」
「わかりました。動かないでくださいね」
 そういってリムは構えを取り、目を瞑って息を静めた。思えば、俺達の力を遠慮なく使う機会も随分と久々だ。俺達にはやはりこういった世界の方がお似合いなのかもしれない。
 長居する気は、起きないが。

「せー……のっ!」
 リムが地面を叩いた。
 そして地面は水を噴き出した。
 太陽目掛けて、天高く。
「な、なんだ!?」
 猪突猛進してきた衛兵達の何人かは吹き上げられた水に飛ばされ、それを見かねた他の衛兵も怯んで足を止めた。俺達を囲むように吹き出した水の壁は、俺達に退路を確保する為の猶予をくれた。敵さんの手薄なところは……あった。
「リム、あそこだ」
 俺の指示した方向の水が止んだ。衛兵が怯んでいる隙に、俺達は一目散に駆け出した。
「逃げたぞ!」
「追え! 逃がすな!」
 俺達が逃げ出したのを見かねた衛兵達はすぐさま後を追いかけてきたが、追いつけやしない。
 イメージするのは、俺達を背中・足元から押し上げてくれる追い風。地面を蹴れば、普通より遠くへと伸ばした足が届くように。向かう先に抵抗する風は無いように。傍から見れば、ただ速く走っているように見えるだろう。
「くそ、逃げ足の速い奴らめ!」
 御覧の通り。
「この先の道を封鎖しろ! 絶対に逃がすな!」
 思った以上に向こうもテキパキと動いてくる。指示した頃には俺達の走る道の先には沢山の衛兵達が通せん坊をしていた。
「退路を断つつもりらしいね」
「退かせばいいんだろ? 頼む」
「やれやれ。周囲に被害は出さない方針じゃなかったっけ? リム、消火はお願い」
 リムが頷くのを確認したパウは走る勢いを少し殺してホップ、サッカーボールを蹴るような動作で地面に衝撃――火柱を走らせた。
「うわああっ!」
 それに驚いた衛兵は咄嗟に火柱を避け、俺達はあっさりと封鎖を突破した。振り向きざまリムがパウと同じように地面を蹴り、今度は水柱を走らせて火柱を綺麗に消火してみせる。立つ鳥跡を濁さず、というやつだ。
「なんだ、いったい何をしたんだ?」
「馬鹿者! ボサッとしてないで追うんだ!」

「やっぱりああやって驚いてくれるとマジックも披露し甲斐があるよね」
「暢気な事を言ってる場合じゃありませんよ。向こうは数が多過ぎます。このまま悠長に走り回ってたら振り切れません」
「そうだね。相手しようにも、町には損害を出したくないし、かと言って手加減してると状況は泥沼だ」
「悠長に走り回らなきゃいいんだ。上に逃げて撒くぞ」
 ちょうど良いタイミングで曲がり角の場所までやってきた。俺は目の前に立ち塞がっている建物目掛けて迷い無く走る。パウとリムもちゃんと付いてきている。
 段々と距離を縮め、最適なジャンプポイントに差し掛かった俺は力強く跳んだ。と、同時に風向きを変える。果てしなく強く下から吹く風に飛び込み、体は高く舞い上がる。そして俺は軽々と天井へ着地した。後ろの二人も問題無く付いてきている。
 俺達の後を追っていた衛兵達は、軽々と飛び移ってみせた俺達とは対照的に足を止めてしまったようだ。この隙に俺達は更に天井から天井へと飛び移り、目に付いた最も高い場所へと移動した。
「おー……広いな」
 俺の想像していた町よりは二、三倍程は広く、そして立派な町の光景がそこには広がっていた。具体的な面積はわからないが、一般的な市町村くらいの大きさはあるんじゃないだろうか。

 そして、俺達の視線を掻っ攫った立派でドデカい建物が一つあった。
 ――城。
 そう形容するしかないくらいの建造物が陽に照らされていた。
「……ファンタジーだな」
 感想としては、それが最適だろう。
 古風な町、古風な人々、そしてこんな城を見せられちゃ、他に感想は思いつかない。中世を思わせる町並みは間違いなく幻想的に見えた。
「逃げようって言っても、ちょっと苦労しそうですね」
「ボク達が町の外への出口に着く頃には、とっくに包囲網ができてそうだね。多分」
「そうだなぁ……」
 これだけの規模ならあの数の衛兵も納得がいく。ここは町というよりも、一つの王国と言った方が通りの良い場所のようだ。とすると、何も考えずに逃げるのは困難だ。ここはどこかに姿を隠して、警戒が弱まる頃を見計らった方が良さそうだ。問題はどこに身を隠すかだが……
「ゼロさん、あの森なんかどうです?」
「森?」
 リムの指差す方角を見ると、なるほど確かにそこには森があった。王国の敷地内に森ね?
「本当に人がいないかは甚だ疑問だが、まぁ妥当だな。行くぞ」
 衛兵達が集まってくる前に急がなくてはならない。俺達は再び風に身を任せ、建物と建物を軽々と跨いで走り出した。民間人が何気なく上を見ないことを願いつつ。
引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.1; Trident/4.0; GTB7.2; SLCC2;...@p4151-ipbf1508souka.saitama.ocn.ne.jp>

No.2
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:22 -
  
 結果的には、衛兵達はうまく撒けた。果たして住民には見つからずに移動できたかというと疑問が残るが、しばらくは追っ手は来ないものと考えてもいいはずだ。
 辿り着いた森には確かに人の姿は無かったが、それでも人が頻繁に出入りしている森だということが見て取れた。思ったよりも草が茫々としておらず、地面があちこち踏みならされている。どうやら身を隠すのには向かないようだ。
「さて、これからどうしようか?」
「さあな」
「困りましたねー」
 そういう割に危機感が無いのは、こういった状況を懐かしむくらいには慣れているせいだろう。

 一度状況を整理してみよう。
 ここは俺達の知らない異世界だ。どうやってここに来たのかはわからない。住民達は俺達を見るなりバケモノ扱いする。これだけで状況は絶望的だ。
 元の世界に帰る方法を探すにも、まずは身の安全の確保をしなくてはならない。町の外までは追われないだろうが、向こうさんにも被害を出さないようにして脱出するのはちと面倒だ。向こうの警戒が緩むの待つ為に、しばらく身を隠す必要がある。
 だがこの森は人の出入りが多そうだ。身を隠すのには向かない。ということはまた別の場所へ移動しなければならない。それも誰にも見つからずにだ。こいつは少々厳しい。
 方法は二つある。向こうさんのことはこれっぽっちも気にせずごり押しで逃げ切るか、戦うつもりがないことをなんとか示してみるか。……ううむ、後者は俺の性に合わない。ごり押しで逃げちまおうかな。

「――誰か来ます」
 突然、リムが手をあげて木々の向こう側を見据える。草の揺れる音が聞こえるのが俺にもわかった。
 音のする方向を睨む。草の揺れは次第に大きく不規則になり、かなりの数がこちらに迫っているのがわかる。ひょっとして、もう見つかったか?
「いや……」
 違う。おかしい。
 草の揺れが近付いている。目に見えるところまで来ている。それなのに、相手の姿が見えない。草むらに隠れている。
 近付いてくるのは人間じゃない。
 俺達は身構えた。草の揺れが近付くにつれ、だんだんと静かになっていく。どうやら向こうは俺達を追い詰めているつもりのようだ。
 一度、場が完全に静まり返り……そいつらは草むらから飛び出し姿を現した。
 俺達ほどではないが小さく、それでいて妙に手足がでかい。草木や根っこで構成されているらしく、顔の部分にある目と思しき花二つが異様にギョロギョロと動いていて、なるほどこいつはバケモノだとわかる。
「ひょっとしたら俺達は、こいつらと同類に見られたのかもな」
「こいつらと? 冗談じゃないよ」
 確かにこのバケモノと比較すれば、俺達はどう考えてもバケモノ扱いされる理由がない。逆に考えれば、ここでは俺達のような人外がよほどメジャーではないということか。
 などとぼんやり考えているうちに、その数は2、4、8と増えていく。物言わない連中だが、どうも友好的って感じではなさそうだ。
「そういえば私達、こういう見慣れないバケモノとやりあうのは初めてですね」
「そうだったか? どこが弱点かわかんねえけど、とりあえず燃やせるよな」
「ボク、火事は起こしたくないよ。リム、サポートお願い」
「文字通り火消し役ですか。……ゼロさん、来ます」
「ああ」
 いよいよ飛びかかってきた一体を、俺は片手で受け止めた。意識の中で目標を定める。狙いはこいつの体の中。そのイメージ通り、内側から風で切り刻んだ。案外脆い。本気を出せば簡単に一掃できるが、誰にも悟られないようにしなきゃいけない。
 なだれ込むように押し寄せる敵を、最も手際良く相手していくのはやはりパウだった。適当に狙いを定めて焼却処理しては、森に燃え移る前にリムが手早く消化作業を行う。良いコンビだ。そういえばこの二人、幼馴染だったかなとなんとなく思い出に耽る。
 しかし、状況はどうも優位になってくれない。効率的だなと感心すら覚えるほど敵を処理できるのに、向こうの数は減るどころかどんどん増えていく。
「おい、なんで減らねえんだこいつら」
「さてね。ひょっとしたら、ここが奴らのホームグラウンドなんじゃないかな」
 なるほど。見て呉れの通り草や木で構成された連中なら、この森で生まれてるのかもしれない。
「じゃあなんだ、勝手に入ってきた俺達が悪いのか」
「かもしれないね。どうする? 謝って帰る?」
「でも、ここから出たら今度は衛兵に追われますよ」
 起きてからずっと踏んだり蹴ったりじゃないか。どれだけ嫌われてるんだ俺達は。何か罰当たりなことでもしたか?
「話の通じねえ奴の相手してるよりは人間様の方が何倍もマシだろ」
「賛成」
 攻撃を早々に切り上げ、俺達は躊躇無く逃げ出した。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 だが、俺達の目論見はまたしても外れることとなる。
「……おい、今日は厄日か」
 俺は目の前の光景が些か信じられなかった。
 確か俺達は、道行く人という人にバケモノ扱いされながら森まで逃げてきたはずだ。それがなんだ? ちょっと時間を潰してまた戻ってきてみれば――誰もいないとは。
 息も吐かせぬ事態の数々に、だんだん頭が追いつかなくなってくる。これはいったい何がどうなってるんだ。どうして誰もいない? それどころか町も荒れているように見える。森にいる間に2世紀くらい経って廃墟にでもなったか?
 何はともあれ状況が見えない。情報が少なすぎる。
 さらに厄介なことに、さっきのバケモノが追いついてきた。考える余裕もなさそうだ。
「でも、向こうのホームグラウンドからは離れたし、今なら本気も出せるね」
 確かにこの状況は今までよりマシだ。ようやくツキが回ってきた――そう思った矢先、いきなり出鼻を挫く声が聞こえてきた。
「いたぞ、あそこだ!」
 思わず天を仰いだ。バケモノの裏側から衛兵の声と足音が近付いてくる。誰もいないとか言ったらこれだよ。なんかに憑かれたかな、俺?
「ゼロ、どうするの?」
「知らね。もう知らね。俺知らね」
 あまりにも悪運続きが過ぎる。もうどうでもよくなった俺はその場に寝転がった。向こう側では衛兵とバケモノが戦いを始めている。結構なことだ。そのまま共倒れにでもなってくれ。
「ちょ、ちょっとゼロさん! ダメですよ、敵がいるんですよ!」
「あとは任せた。俺は寝る」
「リム、行こ」
「で、でもっ」
 パウは察しが良くていい。他人想いの友達を持って俺ぁ幸せだ。何かが燃えたり斬れたりする音を子守唄に、俺はゆっくり目を閉じた。


 ま、結局10分もしないですぐ目を覚ますことになったわけだが。
「動くな!」動いてねえよ。
「ま、待ってください! ボクら別に敵ってわけじゃあ」
「黙れ! そんなこと信用できるか!」
 気付けばここに来た時のようにぐるりと包囲されている。結局これに逆戻りってわけだ。
 馬鹿馬鹿しい。
「あのさあ」
 体を起こしただけだっていうのに、衛兵達は必要以上にビクつく。なんて情けない奴らなんだか。俺はさっきから溜まっていた恨み辛みでも吐くように言葉を並べてみる。
「最初に会った時のことは悪かったと思うけどよ、今回は助けてやったってのになんだのこの待遇は?」
「何をごちゃごちゃと、このバケモノめ」
「バケモノ? バケモノっつったかてめえ俺んとこのバケモノなんざもっとひでぇぞ人の首噛むんだぞ」
「それ誰の話?」
「ええい、いちいち口うるさい奴らだ。そもそも貴様らはなぜこの町に現れた?」
「それがわかりゃ苦労しねーよ、なんだったらお前どうして自分の家が代々ビンボーなのかわかったりするのかお前」
「な、なぜそれを知っている!?」
「え、なんだお前図星かよ悪いなんか酷いこと言った」
「ふざけるな! なんて奴だ、ずっと気にしてたのに!」
「いやだから悪かったってほんと。どうせ学校も行けなくて文字も書けないわ掛け算もできないわで大変なんだろ?」
「バカ言え掛け算くらいおれにだってできる!」
「じゃあ割り算は?」「う、で、できるに決まって」「30÷2は?」「に、にじゅうはち」「15だバーカ引き算じゃねえよ」「く、くそお! 18782×2はなんだ!」「37564だろ?」「な、なんだと」「音速で解きやがった」「バケモノだ」「だからバケモノじゃねーっつってんだろが!」
 その時、俺の肩をリムがぽんぽんと叩いた。気付くと俺は衛兵の一人と顔を突き合わせてお互いに唾を飛ばし合っている最中だった。周囲の人間も構えを解いて何やらざわついている。
「あの、バカみたいですよ?」
 この一言で、場の空気が一気に寂しくなった気がした。


「……では、信用していいわけだな?」
 想定外の漫才(?)によりお互いの距離が縮まり、ようやく話をここまで漕ぎつけることに成功した。なんてったってこいつら、救いがたいバカばっかでなかなか事情を飲み込んでくれず、噛み砕いて説明するだけで酷く疲れた。結局俺達のことは、先祖代々魔法を受け継いでるチャオという種族で、何者かの陰謀によりここに飛ばされたという設定にしておいた。
「その何者かとはいったい誰だ?」
「わかんねーから何者かって言ってんだろ」
 言いながら、俺もちょっと疑問に思わないわけではなかった。どうして俺達はこの世界にやってきたのだろうか。ずっと昔も何度か異世界へ渡ったりすることはあった。だが、それら全ての理由は今でもわからずじまいだ。その時出したのは、ここで何かやるべきことがあるからという青二才も良いところの結論だったっけか。
 それが正しいとして、俺達はここで何をすべきなんだろうか。バケモノ退治でも手伝えばいいのか?
「すみません。ちょっとお尋ねしたいんですけど、あの草っぽいバケモノのことについて何か知りませんか?」
 俺の考えでも見越したか、リムが一歩出て衛兵と話を始める。
「おれたちにもわからないんだ。おまえらと一緒で、今朝突然現れたんだ。住民を城に避難させるのに必死で、まだ詳しいことは何もわかっていない」
 なるほど、住民は城に避難していたのか。頭は悪いが行動は早い。
「おい、こんなところでいつまでも油を売ってる暇はない。早くしないと、姫様が危ないぞ」
「姫様?」
 如何にもな単語が出てきて、俺は内心うへえと舌を出す。大したことではないのだが、俺はおとぎ話色の強いファンタジーはあまり好きではない。
「情けない話なのだが、国王の娘が行方知れずなのだ。バケモノたちの手にかかってしまう前に見つけ出さなくてはならないのだが、一体全体どこにいるのか」
 なんとわかりやすい話か。チャチな話ならば、姫を助け出した勇者は最終的に姫と添い遂げたりするんだろう。俺だったら丁重にお断りする。
「ボクたち手伝ってあげようか?」
「本当か!」
「最初に会った時のお詫びだよ。どうせやることないし」
「待った待った、パウくんちょっとこっちに来なさい」
 何やら勝手に話を進めようとするキツネもどきの腕をずるずると引っ張る。
「なんでよそ様んとこの姫を捜さにゃなんねーんだ。そういうのは勇者の役目だろ」
「そうは言うけど、案外ボクたちが勇者なのかもしれないよ?」
「んなわけあるか」
「それにここはこの人達に良い顔しておいた方が後々楽だし。なんだかんだ言ってボクたち孤立無援だよ?」
「う」
 イタイ事実を突きつけられた。考えてみりゃ俺達はたったの三人。他に知り合いも見当たらない。確かにここは現地の人間と目的を共にした方が得策か。
「では、おれが一緒に付こう。よろしく頼む」
「……ああ」
 名乗り出た一人の衛兵に、俺は苦々しい声で応えた。
引用なし
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No.3
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:28 -
  
 しかし、一口で人を捜すと言っても容易なことじゃない。
 なんとも不都合なことに、そのお姫様の写真もなければ絵も描けた状況じゃない。特徴を聞いてみても、やけに誇張されるし抽象的だし参考になりゃしない。だから俺達ができることは、アテというアテを虱潰しにあたる衛兵達を護衛することくらいだ。
 しかもそのアテとやらの数が多過ぎる。どうもこの国のお姫様という奴はかなりのおてんばらしく、しょっちゅう城を抜け出しては国中あちこちを闊歩しているようだ。王家の者の中では一番民衆と仲良くしていると言っても過言ではないらしく、一度城を抜け出されるととにかく見つからないらしい。なにせ聞き込みを行ったところで誰も彼もが「見てない」「知らない」「会ってない」と、決まってお姫様の味方をするんだとか。
 それに加えてこの非常事態だ。ちょくちょく邪魔してくるバケモノもあしらわなければならないから、とにかくはかどらない。捜索を始めてまだ数十分も経ってないのに、もう7回はバケモノの大群と出くわした。
「大体なんなんだよあいつら、お前らの近所付き合いどうなってやがる」
「ああ、なんだ。その、すまない」
「そこ謝るとこじゃないですよ」
 流石に衛兵も参っているらしい。顔に疲労の色を溜めている。
「我々もなにがなんだかわからないんだ。あんなバケモノを見たのは本当に初めてなんだ」
「そうなの? ボク、てっきりあんなのが出てくるのが普通なのかなって」
 まったくだ。ああいったバケモノ相手に修行とかしてる連中がどの町にも4、5人はいる世界かと思っていたが、どうやら違うらしい。
「バカ言え、あんなのが日常茶飯事だったらこの世界はお終いだ」
 確かにそうだ。冷静に考えて、ゲームであれだけ魔物と出くわすのは、魔王なりなんなりが現在進行形で世界を征服してるからなわけだ。本当に世界が平和なら勇者は必要ない。
「じゃあなんだ。この世界は今、魔王やらに征服されようとしてるってか」
「あながち冗談じゃなさそうだからタチ悪いよそれ」
「ひょっとしたらお姫様もとっくにさらわれてるかも」
「おいおまえら縁起でもないことを言うな! もし本当だったらどうする!」
「どうするよ?」「な、なんだ、おれがどうにかするのか?」「うーん、あまり勇者って感じしないね」「わたしだったら助けに来られてもあんまり嬉しくないかも」
 女性陣の集中砲火により、衛兵は倒れた。
「……そうだよな、どうせおれは誰かにモテた試しなんてないさ」
 なんだこいつ、どっかの誰かを思い出すな。
「それに姫は既に意中の人がいるからなぁ」
「え、そうなの?」
「わあ、どんな人なんですかそれ?」
 二人ともここぞとばかりに食いつきやがる。俺はこういう話は特に好きじゃないので、二、三歩離れて適当に町並みに目を向ける。
「国王直属の騎士団の団長さ。まだまだ若いが、この国で一番腕が立つ。それに容姿も良いときたもんだから、団長目当てに城で働きたいっていうメイド志望が多いんだ」
「へええ。なんかありがちな話だけど、いるもんだねえ」
「で、その人どこか鈍感だったりするんですよね?」
「よくわかるなその通りだ。団長にフラれたことを理由に仕事をやめて実家に帰るメイドも多くてな。おれたちもいつ姫様が振られるかと冷や冷やものだ」
「わー! 凄い罪作り!」
「やだぁ、そのメイドさんたちの代わりに一発ぶん殴ってやりたいです」
 よくもまあそんなキャッキャ騒げるもんだ。俺には何が面白いんだかよくわからない。群がる女達をばっさばっさと斬り捨てる団長殿の手腕に拍手でも送ればいいのか?

「た、助けてくれ〜っ!」
 そんな退屈な俺を救ったのは、情けないことこの上ない男の声だった。
 待ってましたとばかりに(別に待っていたわけではないが)颯爽と声のした方へ駆けつけてみると、商人のような奴がバケモノに襲われていた。逃げ遅れだろう。
 しかし、バケモノの方は何かが違った。俺達が出くわしたバケモノよりも明らかに大きい。巨人と言っても差し支えないゴーレムの一種みたいな奴だ。変わらないところと言えば一目見てわかる草木の体と目の役割をした花か。
「な、なんだあいつは」
 後からやってきた衛兵も、異様な大きさを誇るバケモノを目の当たりにして腰が引けていた。
「あれも初めて見るのか」
「あ、ああ……」
「早く助けてあげないと」
 そう言って一歩踏み出したパウを、よく通る声が遮った。
「待て!」
 俺達の横を誰かが通り過ぎた。西洋風の軽装な鎧を纏い、マントをたなびかせたその男は、ああこりゃ勇者っぽいなあと思わせるに足る青年だった。チラと見えた横顔はかなり優等生面をしていた。
「だ、団長!」
 衛兵が反射的にビシッと姿勢を正す。そんな気はしたがやっぱり団長だった。噂をすればなんとやらだ。
 青年は腰に差した剣を引き抜き、ドデカいバケモノ相手に気丈な構えを取る。その姿に衛兵は敬礼し、襲われていた商人は希望の眼差しを向ける。俺達はと言えば一人で大丈夫なのかと顔を見合わせていたが、なんとなく邪魔しちゃいけない気がして手出しはしなかった。
 剣を構えた青年の姿を認め、バケモノが咆哮する。怯まぬ団長に向かってバケモノはゴリラみたいに襲い掛かる。だが団長は振り下ろされた巨大な腕をひらりとかわし、懐に潜り込んで相手の腹を掻っ捌いた。それを受けたバケモノは手を薙いで払おうとするが、冷静に股下を潜り抜けて背後を斬りつけた。
 その見事な立ち回りに俺達は感嘆の息を吐く。自分の何倍もデカい相手に怯んでいる様子が全く無い。バケモノの怪力任せの攻撃を、ひらりとかわしては斬る団長。それを何度か繰り返し、やがて力を失い地に膝をついたバケモノの顔面に剣が突き刺される。それがとどめだった。バケモノは咆哮を響かせ、バラバラに崩れ去った。
「団長、見事な戦いでした!」
 剣を鞘に納める団長に駆け寄る衛兵。それに頷きだけ返し、団長は腰を抜かしていた商人に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、平気だよ。さすが団長さんだ」
 その一部始終を見終え、パウとリムもまた口々に団長殿を称賛する。
「こりゃお城で働きたくなるのもわかるなあ」
「全国の乙女が考える理想系ですよねえ」
「……へえ」
 まあ確かにこっちの鼻がひんまがるくらい王道的な青年だ。子供の頃に誰もが考える勇者の典型例と言える。
「町の状況はどうだ」
「はっ! 今のところ逃げ遅れた住民は見当たりません」「おい私は住民じゃないのか!」「ですが、バケモノは依然として増え続ける一方であり、どうしたらいいかわからない状況であります!」
 なんて情けねえ報告する衛兵なんだ。しかし団長殿はそれに対して涼しい顔で返答する。
「そのまま逃げ遅れた住民の捜索を続けるんだ。それと併行して、バケモノが発生している原因も突き止めろ」
 言いながら、団長はチラとこちらに視線を向けた。
「……ところで、あれは?」
「ああ、あれですか」
 あれ扱いかよ。
「ご安心ください、バケモノではありません。我々の捜索に手を貸してもらっている者です」
 珍しいものを見る目で団長がこちらに歩み寄ってくる。それに気付き、二人が慌てて姿勢を正す。
「はじめまして。僕はミレイ、この国の騎士団の団長をしている」
 身を屈めて手を差し出してきた。なにやら女みたいな名前の団長と握手を交わす。
「ゼロだ。こっちはパウとリム」
「はじめまして」
 ちゃんと握手と自己紹介に応じ、お辞儀までするリムに団長は多少なり驚きを含んだ顔になる。
「驚いたな。姿こそ妖精みたいだが、僕ら人間となんら変わりない」
「いえそんな。ミレイさんこそ、凄く強かったです」
 称賛を受けて団長は軽く笑顔で返す。こいつはわざとやってんじゃないなら敵う奴はあんまりいないだろうな。ウチの女性陣が軽くときめいてる。
「ところで、衛兵達に協力してくれているという話だが」
「ああ、成り行きでな。おたくのお姫様捜しを手伝ってやってんだ」
「む?」
 それを聞いた団長が僅かに難しい顔をした。
「そうなのか。それはとてもありがたいが……実は姫様なら既に見つかってるんだ」
「え」
 驚いたのは衛兵と、それとなぜか商人だった。
「も、もう見つけていたのですか。いったいいつの間に」
「このバケモノ騒ぎが始まった頃には」
「団長さん、そりゃ本当ですかい?」
「ああ」
 衛兵は情報伝達の悪さに頭を掻いていたが、不思議なのは商人の方だった。表情の上では押し隠していたが、なにやら納得の行かないような態度が見え隠れしている。団長殿は気付いてないみたいだが。
「おいあんた、どうした」
「ん? いや、なんでもございませんよ」
 試しに問いかけてみてもはぐらかされてしまった。……と、商人が俺達を見てまた表情を変える。
「失礼。あなたがたはひょっとしてチャオって種族じゃありませんか?」
「えっ」
 思いがけない言葉に、後ろにいた二人も過敏に反応した。
「あんた、俺達を知ってるのか?」
「まあ……そうだ、あなたがたにゃ人間の知り合いがいませんか。そうだな、四人組の子供なんですが」
「あいつらと会ったのか!」
「今どこにいるんですか!」
「お、落ち着いてください」
 詰め寄る俺達に気圧され後ずさる商人。なぜか団長のことを横目で気にしながら話す。
「あっしはお客人に一泊の宿を貸した者です。彼らは今、あなたがたを捜しています」
「ボクたちを?」
「ええ。あいにくと、どこに行ったかはわかりかねますが」
 こいつは厄介なことになった。あいつら戦えるってわけでもないだろうに、どうして身を隠すとかしないで俺達を捜しまわるんだ。
「おい」
「うん」
 それだけで俺達は通じ合った。何か面倒が起こる前にあいつらを捜さなきゃいけない。
「待て。僕も一緒に行こう」
 そこへ団長が協力を申し出た。
「その四人というのは、君らの友達なんだろう。この国の為に協力してくれた君らに、こちらも力を貸したい」
「いいんですか?」
「救助活動の延長線みたいなものだ。それにこの国のことはよく知らないだろう?」
「……ああ、助かる」
 商人の気難しい顔を尻目に、俺は団長の協力を受け入れることにした。
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No.4
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:32 -
  
 そして夕刻。状況、進展せず。

 ミレイ団長殿の協力をもらっても、人捜しは一向にはかどらなかった。それどころかバケモノと遭遇する確率ばかりが増え、とにかくこちらの望まないことばかり起こる。
「本当にみんな、ここにいるんでしょうか?」
 そろそろ町を一周しようという頃に、リムがぽつりと懸念を漏らした。ちょうど同じことを考えていたところだ。
 夕陽に照らされた城下町は既に結構な被害を受け、一口に成り立ての廃墟とでも言った方がまだ通じるレベルにはなっていた。こんな物騒なところで身を隠し続けるというのは、俺だったらご免被りたい。
「ひょっとしたら外に逃げたのかもしれないね」
「それはない」
 パウの予想を、団長殿は軽く一蹴した。
「外へ出るには防壁の門を通らなければならない。もし外へ行こうとしたのなら見張りに止められる」
 なんだかあいつらが逃げまわってるみたいな言い方だ。まあ何かと後ろめたい連中なのは確かだが。
「案外そうなのかもしれないね」
「はあ? なんで保護してくれようって奴から逃げるんだよ」
「バケモノに目をつけられて逃げてるって意味だよ。それで思い通りに動けなくて、ボクたちとすれ違ったり離れたりして」
 それ以上言わすとこっちの気が重くなるのでパウの口を押さえた。幸運の女神様がいるっていうのにどうしてそこまで運の悪いことが続くんだよ。
「私のせいじゃありませんよ?」

 やがて、俺達が昼間逃げ込んだ森が見えてきた。とうとう町をぐるりと周ったようだ。
「なあ、あの森っていったいなんなんだ?」
 ふと最初に森を見た時に浮かんだ疑問を思い出し、団長に投げかけてみた。
「というと?」
「普通はああいう土地は建物とか作っておくもんだろ。森のままにしとくのはもったいねえよ」
「ああ、そのことか」
 指摘されて、団長は困った顔で頭を掻いた。どうも悩ましい事情があるらしい。
「バカバカしいとは思うだろうが……確かに一昔前、あそこは子供達の憩いの場にする為に手を加えようとしたんだ」
 どっちみち何か建てようと思うほど切羽詰まってはいないらしい。結構なことで。
「ところが、いざ邪魔な木を切り倒そうとしても、切ることができなかった」
「ああ? どういうことだ」
「そのままの意味さ。切れないんだ、いくらやっても。挙句火を放ってみても、燃えることはなかった」
「え、え?」
 一番それを懸念していたパウが肩透かしをくらって、鳩が豆食らったみたいな顔をする。
「どうして燃えないの?」
「それがわかれば放置したりはしないさ。得体が知れないから子供達には立ち入らないように呼びかけていたんだが、かえって面白がらせてしまっただけになった。最初の頃は肝試しに使われていたものだが、今ではただの遊び場だな」
「……ひょっとして、団長さんもその子供の一人だった?」
 懐かしむような顔で語る団長を見て、パウが何気無くそう言ってみると、団長は照れくさい顔をして頭を掻いた。しかしすぐに優等生面に戻り、不動の森を見据えた。
「やはり、あの森がこの騒ぎの原因なのか……?」
 町に突如現れた草木のバケモノ。切っても焼いても消えない森。確かに傍から見ても無関係とは思えない組み合わせだった。事実、あそこに逃げ込んだ俺達は絶え間なく湧いて出るバケモノの群れに襲われた。
 だが、それはそれでわからないことが一つある。バケモノの発生源があの森だったとして、なぜ今になって奴らが現れた? 何か特別な目的意識を持っているほど知能は無さそうだし、今日という日を狙って奴らが現れる理由は見当たらない。森を切ったり焼かれたりしてるタイミングで現れていない方が納得できない。やっぱりどこぞの魔王が世界征服を始めたとでも考えた方がまだ筋が通る。
 まあ、もしそんなバカげた話になるのだとしたら、俺は連中を置いて一足先に元の世界へ戻るのも辞さないが。

「団長ー!」
 背後から声が聞こえた。振り向くと、重そうな甲冑姿で走ってくる衛兵が一人。
「どうした?」
「大変です! 姫が、姫様が城を抜け出しました!」
 何かがみしっと軋むような音が聞こえた。それが俺の眉間が険しくなる音だというのにはしばらく気付かなかった。なんでまた捜索対象が増えるんだよ。
「申し訳ありません! 我々が目を離した隙に……」
「あれほど城を出てはいけないと言ったのに……」
 どうやら団長殿もおてんば姫の奇行にはほとほと困らされているようだ。額に手を当てて首を振っている。
「今、城には住民達が詰めているだろう。誰か見ていないのか」
「それが、誰も姫様の姿を見ていないと」
「町がバケモノだらけになっているのを知っていて隠すのか!」
「そう言われましても、本当に誰も知らないみたいなんですよ……」
 衛兵の声がどんどんか細くなっていく。
「何を考えているんだ彼女は……この状況がわからないワケがないだろうに」
 団長の顔もつられてどんどん気難しくなっていく。状況が違えばホームドラマにはなったろうな。
「とにかく、団長もすぐに城へ来ていただけますか」
「そうは言っても、住民が詰め寄っている場所へ彼らを連れて行くのは難しい話だ。かといって置いていくのも」
「ああ、大丈夫大丈夫。ボクたちのことは気にしないで行っておいでよ」
「……そうか。すまない」
 軽い笑顔に背を押され、団長は衛兵と一緒に城へ向かっていった。
 身の毛立つような静けさの中、俺達はあの森を見据える。何かあるのは間違いない。だが、どうやったらその正体に辿り着けるのか。
「何はともあれ、行ってみるしかないね」
 俺達は意を決して歩を進めた。何かが眠っている不思議の森へ。


 ̄ ̄ ̄ ̄


「いやあ、団長様が一緒だったら放火とかできないもんね」
 燃える木々を眺めながら、パウがずいぶんと軽いノリで言った。どうやら試しに木を燃やしたくて団長を追い払ったらしい。
「それにしても、燃やせるじゃねえか」
 木は易々と燃え盛った。聞いていた話とはまるで違う。何が不思議の森だと鼻で笑うが、すぐに何かがおかしいことに気付いた。
 確かに木は燃えている。燃えているのだが――どういうわけか、灰だけはどんどん増えるのだが、葉っぱが一向に減る様子がない。木も変わらぬ姿のままだ。
 切れない、燃やせないとはこういうことだったのか。ここの木は圧倒的な速さで再生している。だから切り倒そうにも普通の方法ではすぐに再生されてしまう。
「どういう仕掛けだ……?」
 睨んだところでわかるわけはないのだが、睨むしかなかった。外宇宙からの生命体でもない限り、不死身の生き物って奴は存在しない。必ず何か理由がある。ウチの不死身だってそれなりの経緯ってもんがある。こいつにも何か仕掛けがあるはずだ。オカルト的だろうがなんだろうが、こいつに生命力を供給している何かが。
「……それにしても、出てこないね」
 パウの言葉に、そういえばと周囲を見回した。発生源と睨んだこの森でこれだけのことをやらかしているというのに、奴らが現れる気配がない。
「打ち止めでしょうか?」
 あるいはアテが外れたかだ。敵が出てこないのはありがたいが、状況が進展しないのはよろしくない。だが俺達に打てる手があるというわけでもない。どこか別の場所が敵の本拠地なのだとしても、土地勘のない俺達にそれを探す術はあんまりない。
 簡潔に言っちまえば、手詰まりってやつだ。
 未だぼうぼうと燃え盛る木を眺めながら、俺は別の木に背を預けて腰を降ろした。
「起こさないでくれ」
 眼鏡を外して帽子を目深に被りなおし手を組む。
「寝るの?」
「ああ」
「もし敵が出てきたらどうするんですか?」
「お前らでなんとかしてくれ」
 思えばずっと歩き通しで疲れていた。瞼もちと重い。すぐに眠れそうだ。
「そうやって手詰まりになるたびに寝るの、やめなよ」
 悪いかよ。……とは言い返さなかった。
 自分でも悪い癖だというのは重々承知している。だが、何か手はないかと模索するたび無力感に苛まれるのはもっと嫌だ。
 だから、寝る。
 せっかく目を逸らすなんていう理性的なことができるんだから、現実逃避くらいさせてくれよ。
「――おやすみ」
 その言葉に促され、俺は暗闇の中へ落ちていった。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 ふと、俺の視界が開けた。
 見慣れた場所だった。小説事務所の所長室だ。すっかり暗くなっているのだが、窓から妙な光が差し込んでいた。
 体を起こそうとしてみたが、あまりにもかったるくて動けない。仕方ないので、俺はもう一度瞼を閉じた。
 それでも部屋の光景がよく見える気がして、不思議なこともあるもんだなと思った。
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No.5
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:39 -
  
 帽子のつばを叩く音で目を覚ました。
 気付けば夕焼けの空は暗い雨雲の色に取って代わられていた。周りにはパウもリムもいない。俺を置いてどこかに行ってしまったらしい。
「……あれ」
 すぐ近くに置いといたはずの眼鏡を手探りで探すが見つからない。おかしいなと思って目線をそちらに向けると、なぜか眼鏡は俺が置いた場所から二、三歩ほど歩いたかのように離れていた。しかもどういうことか割れてる。
「何ゆえ?」
 手に取って見てみると、どうも誰かに踏まれたようで見事にひしゃげている。誰がやったんだろうか。
「ゼロ!」
 ふと、団長の声が聞こえてきた。キリッとした優等生面をぶらさげてこっちに駆け寄ってくる。いつの間にか呼び捨てされてるのはどういうことだろうな。
「どうかしたのか?」
 何か用件があってきたのだろう。俺の問いに団長は口早に説明した。
「敵襲だ。城門で奴らが暴れているんだ。僕も今から向かう」
「城門……外からってことか?」
 なんだ。やっぱり俺達のアテは外れか。俺が寝てる間も襲われなかったみたいだし、これは別のところから湧いて出たバケモノどもの侵攻だろう。どこか納得は行かないが……
「付き合えってんだろ?」
「頼めるか」
「まあな。どうせやることなんてねえし」
「感謝する」
 駆け出した団長を、俺は重い足取りで追いかけた。意識がまだ、あの森の中にある。


 町を守る城壁、その門に近付くにつれ、喧しい怒声が聞こえてくる。
「団長!」
 衛兵の一人が団長に気付き、駆け寄ってきた。肩で息をしていてヒーコラ言ってやがる。状況は芳しくないようだ。
「後は任せろ」
 それだけ言って、団長は城壁の階段を駆け上がる。俺も後を追い、外の光景を目の当たりにする。戦争、という二文字がチラと浮かぶ。
「なんて数だ……」
 外に群がる草木のバケモノの群れに団長は戦慄を覚えているようだ。だが、目に映ったその群れが突然燃え上がる。パウだ。あいつ、町の防衛に参加してたのか。それでも捌ききれなかったか、バケモノの何匹かが防壁の門に強行する。それを突如湧いて出た背の低い洪水で押し戻すリム。二人とも俺の寝てる間に好き勝手暴れてやがる。
 だが、もっと信じられないものを見つけた。見覚えのある子供達が刃物握って戦ってるのを。
「あいつら……なんで」
 間違いない。ウチで抱えてる奴らだ。目を引くのが女性連中だった。ヒカルがやけに慣れたように日本刀のような剣でバケモノたちを切り捨て、ハルミなんかナイフ一本で忍者かってくらい動き回って敵を潰してる。
「どっせーい!」あとヤイバ。
 ――と、ローブみたいな見慣れない服装をしていて気付かなかったが、ユリもいた。なぜか肩にコドモチャオをしがみつかせて、慣れた様子で剣を振っている。他の奴らにしてもそうだが、剣なんか扱えたのか。
「姫っ!」
 ひめ?
 突然叫んだかと思いきや、団長はいきなり防壁から外へ飛び降りた。俺も慌てて後を追う。姫とか言ったが、しかしそれらしい人物は見当たらない。だが団長はどういうわけかユリの元へ走っていく。
「姫、こんなところで何をっ」
「は?」
 目と耳と団長殿を疑った。こいつ何抜かしてんだ? どうしてユリがお姫様なんだ?
「ミレイ?」
 んでもってなんでユリも普通に受け答えしてんだ。しかも名前を知ってる?
「どうして姫が戦っているのですか! それにその背中の」
「話は後よ。ミレイ、早く剣を抜きなさい。バケモノたちを倒さないと」
「いけません! 姫の身に何かあっては」
「そんな場合じゃないのよ! お願いミレイ、今は聞き分けて」
 なんで会話が成立してるのか甚だ疑問だが、とにかく団長も剣を抜いて交戦を始めた。意味がわかんねえ。
「おい、どういうことだ」
 堪えかねて俺はユリに詰め寄った。
「あなたもみんなのお友達?」
「ああ?」みんなってなんだ。ウチで抱えてる奴らのことか?
「ごめんなさい、説明は後。今は奴らを」
 飛び掛かってきた敵をこれでもかってくらいの強風で吹き飛ばした。
「いいから答えろ」
 ユリ――らしきそいつは構えは解かなかったが、こちらを見ずに口を開いた。
「私は、あなたの友達のユリって人じゃないわ。この世界の人間よ」
 なんだこいつ。俺達が異世界の奴だって事情も知ってるのか?
「姫、なのか?」
「ええ。私はクリスティーヌ。アンリ国王の娘よ。……これでいいのかしら?」
 冗談だと思った。チャオでもなし、そう都合よく瓜二つの人間が異世界で姫なんかやってるかよ。だが、ああも自然に団長と会話してるのを見ちまったら頭ごなしに否定できない。
「……そいつは?」
 肩に留まったコドモチャオが俺をじっと見つめてくる。生まれたばかりの子のように見えるが……。
「森で独りぼっちになっていたの。そこにあいつらが現れて」
「そいつを狙ってるのか?」
「わからないわ。でも、守らなくちゃ」
 そういうこいつがどうしてもあいつと被って見えて、俺はやっぱり姫だというこいつのことが信じられなくなる。
「……もし奴らの狙いがそいつだったらどうする? お前は姫って立ち位置のくせに国一つを危険に晒してるんだ」
「構わないわ。私、姫なんて柄じゃないし。この子の方が大事よ」
「会ったばっかなんだろ? なんでそんな肩入れするんだ」
「独りぼっちだったからよ!」
 俺の方を振り向いて怒鳴る。このお人好しっぷりは、あいつと同じだ。めまいがするくらいに。
「――危ないぞ。下がってろ」
「何を言ってるの、私だって」
「俺に殺されたいのか、って言ってるんだ。いいからこの場の全員城壁まで下がらせるんだ」
 多少語気を強くして言ってやると、姫は剣を降ろした。聞き分けのいい娘で助かる。
「ミレイ! 一旦みんなを壁まで下がらせて!」
「総員下がれっ!」
「パウ! リム!」
 呼ぶ頃には、俺は既に風を吹かせていた。面倒なことは考えない。ここから先にいる奴らを全員吹き飛ばしてやろうってくらいの強風を吹かせる。
 それを察して、パウも手をかざして目を閉じた。心なしかパウの周りに熱気を感じる。
「ゼロ、どこまで?」
「気にするな。ドデカい壁を作ってやれ」
「また火消し役ですか」
 そして、開眼する。甕覗(かめのぞき)色の雨が炎に溶け、炎は際限なく広がり巨大な壁となる。後は簡単な話だ。比喩ではなく体が浮いてしまうほどの風で、炎の壁まで案内してやるだけ。数え切れないほどのバケモノたちを、一匹残らず焼却処理する。一分もせずに残らず燃えきった。残った炎に、度肝を抜かすような大波が覆い被さる。雨如きでは消えなかった炎は簡単に消え去り、波は南の海へと帰っていった。
 戦場が、嘘のように静かになった。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 今宵、城に奇妙な集団が来訪した。
 騎士団の団長に率いられ、武器を携えた一国の姫と見慣れぬ子供達。そして不思議な小動物。
「おい、なんだあれ」「あんな服の子供いたか」「あれ見て、今朝の騒ぎの」「団長と一緒に歩いてるぞ」
 城に避難してきた住民達のざわめきがよく聞こえる。それらを全て聞き流し、不必要に段数の多い階段を登り、最上階の一際大きな観音開きの扉の前まできた。
「団長」
 扉の前の衛兵二人が、俺達の姿をチラと見て怪訝そうな顔をする。
「大丈夫だ。通してくれ」
 衛兵は会釈し、大きな音を立てて扉を開いた。中には二列に分かれた兵達が並び、その奥の立派な椅子に風格を感じる老人が一人座っていた。
 横からの兵の視線を感じながら俺達は部屋に立ち入る。
「ただいま戻りました」
 肩膝をついて頭を下げる団長。どうしたものかと顔を見合わせる俺達を認め、老人が口を開く。
「その者達は?」
 静かな威厳を声に感じ、ほうと溜め息が出る。こりゃ国王と言って誰もが納得する人物だ。
「この町の防衛に協力してくれた者です」
「そのチャオもか?」
 はっとして、国王の顔を見た。国王は渋い顔付きでこちらを見ている。
「……は。この度の襲撃を乗り切ったのは彼らの功績です」
 一瞬なんのことかと言葉を詰まらせた団長。周りの衛兵も僅かに「んっ?」という顔をしていた。どうやらこの辺でチャオという存在を知っているのは国王や姫くらいのものらしい。
 団長の報告を聞き、国王はやや複雑そうな表情でこちらに向き直った。
「客人よ、此度の事は感謝する。わしはアンリ。この国の王を勤めている」
「あれか。どうのつるぎと50ゴールドでお馴染みの」
 ヤイバのしょうもない言葉がぼそっと聞こえる。なんの話かわからんが、とりあえず一国の王にしちゃさもしいラインナップだなと思った。まさかそんな薄情な国王ではあるまい。
 ――そう思っていた。
「だが、無礼であるのは承知で言おう。どうかこの国から立ち去ってくれぬか」
「は?」
 誰かの声が裏返った。
「王様?」
「お父様っ!」
 他の面々も予想しなかったその言葉に、団長が目を丸くし、姫が食ってかかった。場がにわかにざわつく。そんな中で、言われた当人である俺達は不思議と冷静でいられた。予めアウェーであることをわかっていたからかもしれない。肩を怒らせて親に詰め寄る娘を、別にいいよと止めてやろうとも思った。
「どうしてそんな酷いこと言うの! みんなこの町を守るために戦ってくれたのよ!」
「それは重々承知しておる」
「だったらっ」
「そのコドモは生まれたばかりの子か?」
 ふと、王は話の的をずらした。ぱっと見でわかるあたり、チャオにはなかなか詳しいようだ。
「……うん」
「どこで拾ってきた」
「森よ。……外の」
 勝手に外まで出た事実を言い難そうに捻り出す。
「他にチャオはいなかったな?」
「うん。どうして?」
 王は、何かを諦めたような顔で息を吐いた。やっぱりとか、そうだよなとか、そういう聞きたくなかったみたいな顔で。
「……クリスティーヌ、よく聞くのだ。今回のバケモノ騒ぎを引き起こしたのは、その者達なのだ」
「ちょ、ちょっと待って」
 脈絡がないとすら思える王の言葉に堪えかねたヒカルが声をあげた。
「あたしたちが、あのバケモノの仲間だって言いたいんですか」
「そうとは言っていない」
「じゃあっ……」
 ヒカルが語気を失う。王が視線を逸らしたからだ。娘に向けて。
 俺もその視線を追ってみると、姫はチャオを抱きしめ、顔を俯かせて震えていた。
 どこかで見たこともある。ずいぶん前に。姿こそ人間じゃなかった頃だが、雷雨を前に足を止めたあいつの姿に。ちぐはぐな言葉で気休めを言ってやったあいつとよく似ていた。
「……く……いのに」
 泣いている。あの時のあいつは泣いていただろうか。よく覚えてない。
「この子は悪くないのに」
「知っておる」
「悪くないのに、どうして」
「わしが国王だからだ。国王は、この国の者しか守れぬ」
 その言葉を聞くなり、姫はチャオを抱きしめたまま、弾かれたようにこの部屋から出ていってしまった。
「姫っ」
 団長が慌てて後を追い、部屋がふっとに静かになった。
 残ったのは国王と俺達と、団長の後を追わなかった数人の衛兵のみ。
「説明してくれ」
 親子だけで勝手に納得されても困るだけだったので、俺は向き直って国王に言葉を投げかけた。
「少なくとも俺達はみんな、あんなバケモノとは今日が初対面だ。それがどうして、俺達のせいでバケモノが現れたって話になる?」
「おいおまえ! 口の利き方を」
「よい」
 衛兵の一人を黙らせ、国王は改めて言った。
「知らぬのならばそれでよい。今は友人を連れて一刻も早く国を出よ。それがそちらの為でもあるし、我々の為でもあるのだ」
「……そうかよ」
 説明できない、と。そういうことらしい。俺は手振りでみんなを促し、早々に立ち去ることに決めた。
「……すまない」
「別に長居する気なんてなかったんだ。謝ることじゃねえよ」
 曖昧な顔で俺達は踵を返した。これほどうら寂しい親切はない。だが、お人好しな俺達にとっては他に善い手が思いつかなかった。
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No.6
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:45 -
  
 城の外に出ると、団長殿とお姫様の姿があった。姫の肩を掴んで何やらお説教でもしているみたいだ。
「あ……」
 俺達の姿を見つけた姫が声をあげる。その腕の中には未だコドモチャオを抱いたままでいる。ずっと塞ぎ込んでいるようで、されるがままの人形みたいだ。
「ちょうど良かった、君達も言ってやってくれ。外に行くのは危ないと」
「外?」
 姫は決意を固め、断固譲る気はないという表情をしている。これに何をどう説得しろと言うんだか。
「外って、なんか用があるのか?」
「お友達を助けたいの」
「友達っていうと、お前のか?」
「ううん。あなたたちの」
 どういう意味だ。振り返って子供連中の姿を見ると、ヒカルとハルミが姫と同じような思い詰めた表情をしていた。ヤイバが苦い顔で頭を掻く。
「実はそのぉ、カズマが町の外の森でドロップアウトしまして」
「ああ……」
 なんか物足りないと思ったら、あいつがいなかったのか。都合よく来てなかったものと思ってたが違ったらしい。
「なんで置いてったんだよ?」
「えーなんと言いますか、一丁前に死亡フラグ建てやがったもんだから、ねえ?」
「もっとわかりやすく言え」
「高台から足踏み外してバケモノに取り囲まれたあいつに行けって言われました」
「ちょっとそれっ」
 フタを開けたら大惨事だった。パウとリムが二人慌てて先走ろうとするのを、腕を掴んで止める。まだ話が終わってない。
「なんでお前が付き合う必要があるんだ」
「だって、彼があんな目にあったのも、元はと言えば私のせいだもの」「よしわかった」「おい何を言ってるんだ!」
 外出を軽く認めた俺の言葉に、団長が泡を食う。
「危ないからダメだと言って」
「筋通すっつってる良い子を止めるのは人間的に危ないけどな」
「そ、それとこれとは話が」
「なによ、ミレイのばか!」「堅物!」「朴念仁!」「弱虫!」「臆病者!」「団長ビビってる! ヘイヘイヘイ」「むぐぐ」
 息の合った総スカンをくらって、団長の顔がグラデーションのように気難しくなっていく。どうでもいいがお前らなんだかんだ余裕あるじゃねえか。カズマがかわいそうになるくらいだ。
「そんなに心配だっていうんなら一緒についてってやりゃいいじゃねえかよ。別に一人で行かせろって言ってるんじゃねえんだ」
「しかし、それで王様が納得するわけが」
 ああ、だめだこりゃ。こいつは根っからの優等生らしい。いけないことは絶対にやっちゃいけないと思ってる。ルールを守るその姿勢は確かに上司には気に入られるだろうが、同僚や仲間からはあまり良い目で見られないタイプだ。
「情けねえな。お姫様の為に泥を被る度胸もねえのか」
「むっ……」
 この言葉がどうやら効いたらしい。改めて姫の顔を見つめ、諦めの溜め息と吐いてから覚悟を決めた顔で言った。
「……今回だけですよ」
「やったあ、ミレイ大好き!」「いよっ、男前!」「惚れるぅ!」「かっこいい!」「素敵!」「爆ぜろ!」こいつらは何がしたいんだ。


 そういうわけで、渋い顔の団長を先頭に置いて楽しげな遠足が始まった。というとカズマに対して不謹慎かもしれないが、なぜかこいつら雨に降られてるというのに真剣さが足りてないので他の表現では形容し難い。団長に同情するというわけではないが、この有り様に俺も溜め息を吐かざるを得なかった。
「そういえばゼロ、眼鏡はどうしたの?」
 俺のちょっとした異変に気付いたパウが隣に寄ってくる。
「ああ、なんか知らんが寝てる間に壊れてた」
「壊れてたって?」
「なんか誰かに踏まれたみたいなんだよなあ」
「そういや先輩、眼鏡ないっすね。前見えるんすか?」
 軽く頷く。別に目が悪いから眼鏡を掛けているわけではない。
「じゃあなんで眼鏡掛けてるんすか」
「それはね、あの眼鏡はボクが昔お遊びで作ったウェアラブルコンピュータだからだよ」
「うぇあらぶる……って、体に装着するパソコン? え、あれが?」
「そうだよ。まあ電波の確保に問題があるから試作機止まりなんだけど」
 懐かしいもんだ。昔はパウにいろんな発明品の実験台――もとい試用を任されてた。なんで俺なんだっていう。
 そんな他愛もない話をしている中、ハルミが件の森の近くを通りかかって足を止めた。
「どうした?」
 森をじっと見つめるハルミに声をかける。他の連中も突然足を止めたハルミが気になって振り返った。
「気になってたんですけど、この森ってなんなんですか?」
「というと?」
「ほら、こういう森って普通、木を切り倒して何か建てておくじゃないですか」
 俺と全く同じ疑問を呈してくるもんだから、俺と団長はほうと感嘆した。そして団長は、俺達にしたのと同じ説明をもう一度した。子供連中三人はその話を聞いて顔を見合わせる。
「ひょっとして、この森がバケモノの発生源じゃないんすか?」
 ヤイバの口にした当然の疑問に、俺達は肩を竦めた。
「ボクがこの森を燃やしてもバケモノたちは出てこなかったんだ。せっかくのご馳走が目の前にあるのを含めて、出てくる理由は十分あったはずなのにね」
「なにっ、あの森を燃やしたのか? なんてことを」
 今さら気付いたのかよ。
 話を聞いたハルミは、ただ立ったまま森を見据える。ふと、その視線が足元や木々を行ったり来たりし始めた。
「どうかしたの?」
 ヒカルの声には何も返さず、ハルミは手近な木に寄り添って耳を当てた。小さな少女の奇怪な行動に、俺達はただ首を傾げるばかり。やがてハルミはその場でうつぶせになり、地に耳を当てた。
「ハルミちゃん、汚れちゃうよー」
 雨に濡れていて今さらな言葉をパウが投げた。ふとヤイバがその場に屈み込んだのを、ヒカルが目聡く蹴りを入れる。こんな時にも調子の変わらないことで。ハルミはと言えばそんなやり取りも意に介さず、顔をしかめたまま動こうとしない。試しに俺も近くに寄って同じように地面に耳を当ててみた。

 …………

「……おい、なんだこれ」
 説明を求めたが、ハルミは何も言わなかった。
「ゼロさん、何か聞こえたんですか?」
 気になって駆け寄ってきたリムに、俺は横になったまま頷きを返した。
「なんか動いてやがる」
「なんかって?」
「わかんねえけど、草っぽいんだ。根っこか?」
「本当にっ?」
 半ば好奇心で地に耳を当てようとした姫を、団長は慌てて止めた。……と、その時までずっとリアクションを見せなかったコドモチャオが、微かに震えているのに気づいた。
「ここを通りかかった時、その子の様子が変わったような気がして」
 ハルミがぼそっと言った。姫はどうやらそれに気づいていなかったらしく口を開けている。こんなちっこい女子供が、ただ一人これに気づいたっていうのか。
「それと、さっき鉄の軋む音みたいなのも聞こえたんです」
「なんじゃそりゃ?」
 ハルミの言葉に、俺は地面から顔をあげた。
「よくわかんないんですけど……あと、トンネルを歩く時に響くも」
「トンネルってどういうことだ?」
 ちらと視線を投げると、団長は首を横に振った。知らないようだ。その横で姫があっと声をあげた。
「それってもしかして――」

 突如の轟音が、姫の言葉を遮った。
「離れて!」
 ハルミの声に弾かれたように、全員森から遠ざかる。
 とんでもないものを見た。森の地が、殻を破るかのように亀裂が走る。生えていた木は盛り上がる土に埋もれ、生える山が、やがて形を成していく。
 巨人、だ。
 そいつは人の上半身に似た姿に変異し、天高く咆えた。その咆哮は風となって俺達に、そして町に容赦なく雨を吹きつけた。
「――な」
 その呻きが誰の声かはわからなかった。だが、思うところは皆同じだ。
 なんだ、あいつは。
「リム!」
 バケモノが手を振り上げたのを見て、俺は咄嗟に叫んだ。リムが瞬時に水の壁を俺達の頭上に作り出し、バケモノが振り下ろした拳の勢いを殺す。その隙に俺達はバケモノから距離を取った。
 そいつの全貌が見える。土や草木で出来た巨人の上半身、というのが一番適切な表現だ。どうやらそいつはその場から動けないらしく、手の届かない範囲にまで逃げた俺達を見るなり駄々っ子のように地面を叩く。その振動がとにかくバカにならない。周囲の建物が瓦解していくような嫌な音が聞こえる。このまま逃げの一手を取るわけにもいかない。
「おいお前ら! 早くここから離れろ! カズマを探して安全な場所まで逃げるんだ!」
「あなたたちはどうするのっ?」
「言うまでもねえな」
「そんなのダメよ! みんなやられちゃうわ!」
「いいから行けッ!」
「ラジャっす、先輩っ」
 俺が怒鳴ってすぐさま応と言ったのは、敬礼までしたヤイバくらいのものだった。ヒカルとハルミも流されるように頷く。
「クリスティーヌ、早く行きましょう」
「どうして!? ねえ、ミレイ!」
「……行ってください」
「ミレイっ!」
 泣きそうなほど張り詰めた顔をしたお姫様に、団長殿はこの状況をわかってないんじゃねえかってくらい優しい笑顔で言った。
「あなたには、守らなくてはいけない子がいるじゃないですか」
 そういって団長は、彼女の胸に抱かれたチャオを撫でた。恐怖で塗り固められたチャオの表情は剥がれない。それでも団長は笑顔のままだった。
「……ミレイは?」
「僕は騎士です。敵を前にして逃げることはできない」
「そんなこと言ってっ、死んじゃったらどうにもなんないのに!」
「安心してください。必ず帰ってきます」
「死体になってっ?」
「生きて帰ってきます。約束しますよ」
 団長は暢気なことに小指を出した。姫も今に涙を流しそうな――いや、もう涙の溜まった目尻を擦って小指を結んだ。
「さっ、早く」
 子供達は走り去った。その後ろ姿を見続ける団長に、俺は意地の悪い言葉を投げつける。
「なんだったら、お前も一緒に行けばよかったじゃないか?」
「さっきも言っただろう? 僕は騎士だ」
「騎士道精神ね。俺達は一応口は堅い。お姫様さえ内緒にしてくれりゃ、お前が逃げたなんてバレないぜ?」
「自分自身までは騙せないのさ。それが騎士道なんだ」
「騙してるじゃねえか」
 俺が一言そういうと、団長はこちらに振り返って目を丸くした。
「勝算なんかない。死なない保証なんてない。本当は怖い。そうは思ってないか?」
「やってみればわからないじゃないか」
「そんな剣一本でか」
「ああ。確かに勝てないかもしれない。だが、怖がるわけにはいかない」
「やっぱ騙してるじゃねえか」
 おかしい奴だなと笑うと、団長もまた困ったように笑った。
「そうだな。確かに僕は自分を騙しているみたいだ。騎士というのは皆、嘘吐きなのかもしれない」
「当たり前だろ。武士道だとか騎士道だとか、そんなの自分を騙し切る為のもんだ。普通の奴は自分を騙さないと良いヤツにも強いヤツにもなれない」
「君もそうなのか?」
「多分な。自分に嘘吐いてんのか吐いてないのか、自分じゃわかんねえけど」
「そうか……」
「ゼロ!」
 パウの声が飛んでくる。振り返ると、上半身巨人が地に手をつき、俺達のことをじっと見つめている。どうやら律儀に待っていてくれたようだ。
「どうやらこいつも“嘘吐き”らしいぜ」
「こんなバケモノでなければ、同志にでもなれたかもな」
 団長が剣を抜いた。俺達は見下ろしてくるバケモノを見つめ返すように見上げる。
「約束、破ってやるんじゃねえぞ!」
「努力するさ」
 開戦の合図のように、バケモノが高らかに吼えた。
引用なし
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No.7
 冬木野  - 11/12/23(金) 22:49 -
  
 状況はとにかく悪い。
 あれから何十分経っただろうか、俺達は未だにバケモノを仕留め損ねていた。向こうさんには疲労ってもんがないのか、ただひたすら駄々っ子のように振り回す腕を止めない。俺達はその腕の届かぬ場所で身を隠すことしかできないでいた。
 なんてったって奴さん、ダメージを受けてる様子がない。いつまで経ってもこっちが優勢にならない。当たり前か、あのバケモノが正しくあの森だっていうなら、あいつは不死身ってことになる。いくらやったって俺達が勝てる見込みなんか無い。
「ゼロ、どうするの?」
「知るかよっ」
 疲労と苛立ちばかりが募る。
「諦めるな、何か弱点があるはずだ」
「どこにだよっ?」
「それを見つけなきゃいけないんだろう」
「じゃあお前が行けよ、俺ぁもう疲れたからさ」
「ああ、わかった」
 そう言って団長殿、本当にバケモノまで突っ込んで行きやがった。
「お、おい待て!」
 ただの冗談のつもりだった俺は当然慌てて止めようと思ったが、団長は躊躇いなく全力で突っ走っていく。どこまで優等生なんだよあいつ、普通真に受けるかそんなの?
「団長っ!」
 俺もその後を追いかけたが、突然バケモノがさっきまでよりも一際大きな咆哮をしてきて思わず怯んでしまう。なんだと思って見上げてみると、何やらバケモノが空を仰いで吼えている――いや、苦しんでる? 不思議そうにそいつを見ていると、そいつが音を立てて前のめりになろうとしているのがわかった。
「バカっ、危ねえぞ!」
 俺が叫んだ頃には既に遅かった。バケモノは団長のすぐ近くの建物に倒れ込み、団長は四散する瓦礫に巻き込まれてしまった。
「くそっ」
 全速力で団長の元へ向かった。団長は崩れた瓦礫の中に埋もれているわけでもなかったが、情けないことに頭を打ったらしい。血を流している。
 そこへ更に厄介事が重なった。倒れたと思ったバケモノが俺達の姿を見つけるや否や、その大きな二の腕を使って地を這い始めたのだ。
「っざっけんな!」
 巨体に見合わぬ猛突進を避ける為に、俺は団長を担いでとにかく追い風を強くした。バケモノは建物という建物をとにかく壊しまくる。
 下半身のないままのそいつは、とにかく二の腕で動き回り俺達を捉え続けていた。さっきまで地面に埋まったままだと思ったら急にこれだ。いったい何があったんだ。余計厄介になりやがって。
「ゼロっ、どうしよう!」
「知るかっつってんだよ! おい団長いつまでもへばってんじゃねえ!」
「あ……すま、な」
「うっせえ黙ってろ死ぬぞ!」
 さっきお姫様に対してここは任せろとかどうとか言ってたのはなんだったんだとぶっ叩いてやりたいくらいだった。このままほっとけば団長は間違いなく死ぬ。どっか安全な場所まで運んでやりたいところだが、あの巨体がロードローラーよろしく動き回っているこの状況でどこか安全な場所を探すほうが難しい。状況は最悪だ。こうなりゃあいつを黙らせるしかない。
 だが、どうやって? さっきからパウがしこたま燃やしてるが、全然死ぬ気配がない。どうして死なないんだ? あいつの手品の種はいったいなんだ?
「介錯はしねえからな!」
 団長を地面に寝かせ、半ばヤケにバケモノへ突っ込んだ。バケモノは俺の姿を認め、それに答えるように咆哮して突っ込んできた。後ろには団長だ。
「リム! 押し流せ!」
 俺が風に乗って飛び上がるのを確認してから、リムは建物の被害を抑えた指向性の津波を流すという器用な技を披露した。見た目以上の力にバケモノの進行が止まる。俺は建物を伝って数秒で距離を詰め、堂々とバケモノの背中に飛び移った。土や草で構成されたバケモノの上は足場の悪い地面みたいなものだった。
 振り落とされないようにしがみ付きながら、俺はこいつの体の内から無遠慮の突風を吹かせた。弱点探しの為だ。こいつに死なない秘密があるっていうんなら、現状それはこいつの中にあるだろう。コアでもなんでも出てきやがれと、俺はとにかくこいつの体を風で掘り起こしまくった。
 途端に足場がぐらつく。バケモノが寝返りを打つのだとわかって、俺は全速力で転がる方向と逆に駆け抜けた。仰向けになったそいつは、腹に止まった虫でも潰すように手で俺を狙う。それらをとにかくかわしながら、俺は人間で言うところの心臓を風で穿つ。何かあるとすりゃ基本そこだ。というかあってくれ。
 もはや意地でバケモノの体にへばりついて、とにかく人の心臓の位置を睨み続けた。とにかく掘りまくって、避けまくって、掘りまくった。そうして、何かが見えた。最初は土で汚れていて見えなかったが、肌色をしている何かだった。
 ――腕?
 信じ難いが、人の腕に見えた。バケモノの振り下ろす手を避けながら駆け寄ると、間違いなく誰かの腕だった。誰かが埋まってる。俺はそいつを掘り返そうとして風を起こすが、とうとうバケモノに隙を突かれて振り払われてしまった。
「がッ」
 宙に投げ出された俺は、それでも奴の心臓部を睨んだ。
 そいつの正体がわかったとき、俺は目を見開いた。頭の中を覆っていたものがパチンと弾ける。
 全ての謎が解けた。
 いや解けたなんてもんじゃない。“そいつ”という存在によって打ち砕かれた。地に打ち付けられた痛み以上の衝撃が、俺の中を駆け巡る。
「ゼロさんっ!」
 駆け寄ってきたリムに起こされて、ようやく痛みを認識して顔をしかめた。こんなにボロボロになったのはいつ以来だ?
 だが、表情だけはへこたれちゃいないのが自分でもわかった。
「ようやくわかった」
「え?」
「どうりで死なねえわけだよ、ふざけやがって」
 あれだけ暴れまわってるっていうのにまだ元気に吼えるバケモノの姿を見て、我ながら不敵な笑みのまま悪態をついていた。
 と、そのとき奴がまた地を這った。俺達がいるのとは別の方向へ。
「やべっ」
 とんでもない方へ向かいやがった。あいつの向かう先は元の森だった場所。その近くにはパウが。
「リム!」
「だめです、間に合いません!」
 駆け出した。頭でも間に合わないとわかるくらいバケモノとパウの距離が縮んでいる。逃げ場を失ったパウが足を竦ませている。
「うあっ」
 がむしゃらに風を吹かそうと考えた時、情けないことにけっつまづいて転んでしまった。
 ダメだ。
 地響きの音が残酷に刻まれる。バケモノはパウの体を吹っ飛ばすだろう。悔しさで歯を食いしばった俺は――ふと、途切れた地響きの音に気づいて顔をあげた。
「はやくっ!」
 団長だ。剣をバケモノの顔面に突き刺した団長が、痛みに怯んだバケモノを押し止めている。
「今のうちに、どうにか……」
 剣を突き刺されたバケモノは、上半身を僅かに浮かせた状態で動きを止めている。今がチャンスだ。
 俺は突っ走った。バケモノの体の下へと潜り込み、再び埋まり始めていた胸をもう一度抉る。出てきた腕を、俺は無我夢中で引っ張った。
「おいっ!」
 俺はそいつに向けて苛立ちをぶつけた。
「さんざ面倒な事態引き起こしやがって! 何がなんだか知らねえけどよ、これ全部お前のせいだってんならタダじゃすまねえぞ!」
 力強く踏ん張った。
 力強く引っ張った。

 俺は、力強く叫んだ。
「起きろよっ、ユリ!!」
引用なし
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