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振り返れば、あの日と同じ坂道 チャフカ 10/3/25(木) 23:19

Re(1):振り返れば、あの日と同じ坂道 第0話 チャフカ 10/3/28(日) 10:29
Re(2):振り返れば、あの日と同じ坂道 第1話 チャフカ 10/3/28(日) 10:34
Re(3):振り返れば、あの日と同じ坂道 第2話 [no name] 10/3/28(日) 10:37
Re(4):振り返れば、あの日と同じ坂道 第3話 チャフカ 10/3/28(日) 10:39

Re(1):振り返れば、あの日と同じ坂道 第0話
 チャフカ  - 10/3/28(日) 10:29 -
  
「ここが…チャオガーデン…」
「そうでございます。坊ちゃま」

その日、僕は初めて、あいつに出会った。


『振り返れば、あの日と同じ坂道』


彼の名前は、伊藤啓作。中学3年生。特技はピアノ。

一見すれば、どこにでもいるごく普通の中学生だが…


何なんだ。僕のいる世界、僕の周りの環境、状態は。
だれもかれも、毎日毎日、つまらない話しをして、つまらない一連の動作。そんな毎日の繰り返し。

学校に行けば、少しは気も晴れるが。
僕だって、友達がいない訳ではない。
だけど、最近になってそいつらにも、うんざりする。
友達−今の僕に、彼等にこんな感情を抱いている僕には、そう呼ぶ資格はないのかもしれないが−の誰もが、受験を迎えている。

やれ順位だの、やれ偏差値だの、と。

どうして、そんなに心配するんだ?

そんなことを、もう、何回彼等に聞いただろう。

だが、そんなことを言うと
「当たり前だろ?お前はバカか?」

毎回の彼等のそんな返答に、うんざりしていた。


家に帰っても、うんざりする日々。


「ただいま…」

少し遅れて返事が返る。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま」

更に遅れて、数々の返事。「お帰りなさいませ」「お疲れ様でございます」「お帰りなさいませ」……

いつもの光景。

当然僕も、いつものように
「ただいま」

さっきも言ったのに、つい、もう一度言ってしまう。
「坊ちゃま。今日は、6時からピアノのお稽古。9時から学習塾ですので、お忘れなく」

一番最初に返答した男。田中が、いつものように予定を読み上げる。

「うん。分かってる」

僕も、いつものように返事をする。


メイド達が、僕の鞄を、上着を、いつものように片付ける。


今日もまだ、長い一日は、終わりそうにない。


−−−続
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Re(2):振り返れば、あの日と同じ坂道 第1話
 チャフカ  - 10/3/28(日) 10:34 -
  
一人の少年は、今、黒と白の鍵盤が並ぶ楽器の上で、両手を動かしている。

「啓作君。そこは、リタルダンドです。ア・テンポではありませんよ」
「すみません」
「では、ここからもう一度」
「はい」


一つの曲を完成させるのに、今までこんなにも時間が掛かった事があったか?


彼は、指を忙しく動かしながら思った。


そういえば、これ、ドビュッシーの曲だっけ?


彼の指が、ドビュッシー特有の甘美なメロディーを奏で上げる。


確か僕、前にもドビュッシーで、引っかかってたな。

曲調が変わり、先程先生に注意された箇所に入る。


リタルダンド…だったな。


「良く出来ました」
「はい。ありがとうございます」
「では、次回はドビュッシーの音楽理論を学び、それを踏まえた上で、この曲を最後にしましょう」
「はい」
「では、また来週」
「ありがとうございました」
「はい。爪は切っておいて下さいね。さようなら」
「あ、はい。さようなら」

最後のは、先生の口癖だ。
でも、まぁ、そろそろ切ってもいい頃かな。


塾が始まるまで一時間ある。


「とりあえず、練習しとくか」

リタルダンドを忘れないように。


リタルダンド。
これ以降は、曲をだんだんゆっくり、滑らかに奏でるよう指示する音楽記号。


ドビュッシーの曲は、まるで啓作の今日一日を、まだ終わりを迎えそうもない長い一日を表すかの様に、彼の指によってゆっくりゆっくり奏でられていた。


−−−続
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Re(3):振り返れば、あの日と同じ坂道 第2話
 [no name]  - 10/3/28(日) 10:37 -
  
「坊ちゃま、塾のお時間です」
「えっ?あ、うん」


もうそんな時間か。


時計の針は、八時四十五分を指していた。


塾へと向かう、田中がハンドルを握る車の中。


「坊ちゃま」
「うん?」
「先程の曲は、ドビュッシーでございますか?」
「うん。そうだけど…田中、気づかなかった?もう、三ヶ月もやってるよ」
「すみませんでした。あの部屋は、大変な防音性がありますので」
「ふぅ〜ん」


気付か無かった。あの部屋に防音性があったなんて。まぁ、知ろうとしなかった訳だけど。

「大変、上手でしたよ」
「あ、うん。ありがと…」


そんな何気ない会話にも、車が目的地に到着すると同時に、終止符が打たれた。

「終わったら連絡するよ。多分、いつもより遅くなると思うから」
「分かりました。では」


「今日もか…面倒…」

この頃は、毎日のように塾続きだ。

受験って、そこまでしないと駄目なのか?


季節は初夏。
時折、蝉の鳴く声が聞こえる。


伊藤啓作その人は、数時間後に待ち受ける、出会いを知る由もなく、重い扉を開け放つ。


−−−続
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Re(4):振り返れば、あの日と同じ坂道 第3話
 チャフカ  - 10/3/28(日) 10:39 -
  
宿題…多過ぎる……。
また、土日が土日でなくなるよ。


「はぁ…」

彼は、ため息をついてケータイを取り出す。
その液晶は、開くと二十三時半を知らせている。
登録してある番号の一番上になっている人に、電話を掛ける。

二回目のプルルルで、出た。

「はい」


彼は、ふっと笑う。
「やっぱり二回目で出たね。田中」
「人様を待たせるのは、良くないですからね」
「そうだね。終わったから、迎え来て」
「かしこまりました」


七、八分もすると迎えが来た。

「あっ、田中。コンビニ寄ってくれる?」
「すみません坊ちゃま。今日は、旦那様より、すぐに帰らせるよう言われております」
「えっ、父さんが?」


なんだろ。
この前のテストはまあまあだったし、ピアノも練習してる。


彼には、父親に叱られる理由が思いつかなかった。

いや、父親に叱られるだろうという考えしかなかった。


車の中で、眠っていたのだろう。意識がぼんやりしている。


「坊ちゃま。着きました」
「う、うん……えっ?」
「遅かったな」


彼は、目の前に父親がいたから驚いたのではない。
ましてや、左手にある携帯電話の液晶が日を跨いて数分経ったのを知らせていたのに驚いたのでもない。


目の前に、周りの空き地には遠く似つかわしくない見るからに科学の結晶と思える装置があったからだ。


−−−続
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