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それは一瞬の出来事だった。
きいんとした、耳をつんざくような音が体の芯を揺り動かし、震わせる。強い衝撃。地面に足をつけているのが、やっと。
衝撃波、ともいえるだろう。
その一瞬は――体感的に――長い時間であった。
例えば、盆踊り。例えばライブハウス。例えば花火会場。大きな音の感覚を、知っている人は多いだろう。
その、数十倍。
衝撃である。
体の内側から、どん、どんと叩かれているような、あの感覚が、連続する。
爆音というレベルではなかった。
爆発の衝撃が、直に伝わって来たようだった。
「ねえ」
――聞こえなかったのだろうか。
あの大きな音が?
すぐ傍にいたのに?
そんなはずはない。恐らく、素人目に見ても、あの爆音がとてつもない大規模な爆発によって生み出されたものであることくらい、分かる。
分かってしまう。
誰にでも分かるだろう。
爆発、なのだ。
「ねえ、聞こえてる?」
やがて轟音が鳴り響いた。
それは音となって、耳から脳へ伝達される。
耳元で響いているようだった。
衝撃は無い。
けれども、不快だ。
ただ、不快だった。
「ねえってば」
そういえば。
どうして、彼女には聞こえないのか。
幻聴、ではないはずだ。
悲鳴が聞こえた。喧騒が聞こえた。
幻聴、ではないはずだ。
だとしたら、どうして、彼女には。
――隣にいる彼女にだけは、聞こえていないのだろう?
「聞こえていないの?」
うまく声が出せなかった。
口を開いても、金魚のように、ぱくぱくと開閉するだけ。轟音の影響か何かか、声が出なかった。
あれだけ大きな音の後なら、もしかすると、当然なのかもしれない。
だとしたら、どうして、彼女は。
彼女だけは。
「どう、して、お前は」
なんとなく、ぼんやりとした印象が、明確な言葉となって文字列を作り出す。
爆発があったのは、まず間違いなく、さきほどまでに居た場所だ。
そんなに時間が経っているはずもない。
ならば、遥か背後で爆発が起こったのは間違いなかった。
遥か背後。
遊園地、である。
「ああ」
――笑った。
彼女はこの状況下で、笑った。
かつては、素敵だと思っていた笑みも。
笑みでさえ。
今にして見れば、邪悪なものにしか見えない。
「なんだ、ちゃんと聞こえているじゃない」
思えば、最初から何かがおかしかった。
彼女の来た時間。
彼女のいなかった時間。
彼女の帰る時間。
全ては計算通りだったのだ。
「だからあれほど言ったのに」
警鐘が聞こえた。
いい加減煩わしくなり、僕は耳に栓をした。大型スーパーのオススメ品である。効果はあった。喧騒も、悲鳴も、警鐘も。
まわりから音は、全て消えた。
「やめて置いた方がいいんじゃないか、って」
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