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爆誕!次世代チャオブリーダー! 〜それがしの実家編 それがし 13/12/29(日) 9:22

本編 それがし 13/12/29(日) 9:22
其の一 それがし 13/12/29(日) 9:24
其の二 それがし 13/12/29(日) 9:26
其の三(終) それがし 13/12/29(日) 9:27

本編
 それがし  - 13/12/29(日) 9:22 -
  
本編です。
繰り返しますが初めての投稿です。
どうかよろしくお願いします。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)@p6042-ipngn100104fukui.fukui.ocn.ne.jp>

其の一
 それがし  - 13/12/29(日) 9:24 -
  
※この話に出てくる個人名はすべて仮名です。

――12月22日、朝。

若干側溝に雪が残る田舎道を車で走らせてきた俺は、息を白くさせながら父方の実家の裏口を叩く。間もなく鍵が開いて、半開きの扉から祖母がぬっと顔を出す。
「いらっしゃい。寒いから早く中に入りんしゃい」
「お邪魔します」
昔ながらな平屋の、昔ながらな裏口は相変わらず段差が高い。久々なもので靴を脱ぐのにも若干手こずる。木造家屋の廊下は独特の冷気が漂う。この時期は屋外よりも屋内のほうが寒いのだ。俺はとりあえず温い部屋で一服しようと、入ってすぐの台所の扉を開ける。ダイニングテーブルで一人、雑煮の餅をすすりながら、従姉の娘(つまり姪)が朝のテレビアニメを見ていたが、俺に気づいてこっちのほうに顔を向けてくる。
「こんにちは、それがし!」
「こんちゃ、ユズちゃん」
元気のよい挨拶が返ってくる。御年6歳の少女に呼び捨てにされるのは――、オジサンと呼ばれるよりはマシかもしれないが。きっと従姉を真似ているのだろう。
俺はひとまず荷物を隅に置き、彼女の隣に座り、途中コンビニで買ってきた朝食を広げる。鮭のおにぎりと、から揚げ、それから500mlの緑茶を一本。
「からあげクン!」
 ユズちゃんは嬉しそうにそう言う。実は、ファミマの和風から揚げ(5個入り)である。彼女にとってコンビニのから揚げ=からあげクン。固有名詞と名詞の区別がつかないのは子供によくあることである。
「いっこ、ちょーだい」「3個あげるよ」「まじで?」「マジで」
 大人も子供もそしてユズちゃんも、から揚げは大好きだ。そういえば、彼女とは今年で3年目のお付き合いだが、初めて会った時もお土産でから揚げを買ってきて、たいそう喜ばれた覚えがある。
「お母さん(従姉)は、ユズちゃんを買い物に連れて行かなかったのか?」
「わたしは、それがしと買い物行くっていってたじゃん!」
「おう、約束してたからな。あとから一緒に太鼓の達人買いに行こうな」
「うん!」
そうして嬉しそうにから揚げを頬張るユズちゃんの後ろから、いつの間にか台所に戻っていた祖母の、ため息交じりぼやきが聞こえる。
「髪の毛また金髪だったよ、リサ(従姉)はいったい何を考えているんだか……」
「まーだ言っとるんかいな、ええ加減慣れなさいな」
「できんよ、私にゃ。孫世代で子供持ってる人はみんなこんなものなんかいな」
「知らんよ、俺独身だし」
 従姉とは長い付き合いだ。金髪ではあるが、個人店の店長に信頼を得て色々やってると聞くし、しっかりしている人ではあるんだろう。ただ、実家で会う彼女は至って適当な人だから、その行動規範の真意はよく分からない。
ちなみに今日は、ユズちゃんが妙に俺に懐いているのをいいことに、俺に彼女の今日一日の世話役を押し付け、地元の友人と買い物に繰り出している。
「……雑煮食うかい?」「もらう」「餅は何個?」「二個」
 湯気の立った雑煮がごとんと目の前に置かれる。なんだか、正月にでもなった気分だ。
12月もあと1週間。世間では明後日がクリスマスイヴ。でも、この家にとって、この時期は正月を迎える準備期間だ。祖母はおせちはよく作るが、なにぶんテレビはNHKしか見ないような人なので、自分自身にクリスマスとかそういった習慣がないのである。
「おばあちゃん、おかわり!」
 俺もユズちゃんも餅は大好きなので、それは一向に構わない。
「ああ、それで某(仮名)、ユズと一緒に出掛けるついでに、夕飯の買い物行ってきておくれ。これで足りるかな」
 祖母が財布から2万取り出し、俺に手渡す。買い物の内訳には灯油代も含まれているとはいえ、やはりこの時期のスーパー、なかなか刺身やら焼き肉やら美味しそうで、全体的に高価なものが多く売られているので、2万くらいは毎回すぐに無くなってしまう。
「十分だ。ユズちゃんはもういいかい?」
「まだ食べてる!」
「おっけー、じゃ、10時回ったら出よう」

   …   …   …

車で近くの街に繰り出した俺とユズちゃんは、まず最寄りのBOOK-OFFに立ち寄る。ユズちゃんが前々から目をつけていたWiiのソフト(太鼓の達人の一番新しいやつ)を俺のクリスマスプレゼントという名目で買うためだ。
せっかくのプレゼントを中古屋で済ませるなよという話だが、ユズちゃんにとってゲームを買う=BOOK-OFFなので、これで良いのだ。……従姉夫婦の経済面を推し量ってしまうのはさすがに下衆な妄想なので止めておこう。
「それがし、こっち!」
「あー、ちょっと待ってくれよー……行っちゃった」
 店に入ってすぐに駆け出したユズちゃんは、俺が追いつく間もなく、お目当てのソフトがある棚のスペースに消えて、すぐに商品を胸に抱えて俺のほうに駆け寄ってくる。
俺も子供の時はこんな風に親からゲームを買ってもらったのかなぁ、と思いつつ、テンション最高調なユズちゃんと一緒にでレジへ向かう。
「毎度ありがとうございましたー」
 会計を済ませ、何の気なしにしばらくBOOK-OFF店内を散策する。白い子供用コートに身を包んだユズちゃんは、右手でゲームの入った袋、左手で俺の手を握りながらご機嫌だ。
「太鼓好きかい」
 買ったソフトがそんな感じのものなんで、そんな感じの話題を振ってみる。
「大好き!うち、おんがくのじかんはいつもタイコたたいてるんよ」
「楽しいもんな、太鼓叩くの」
「うん、めっちゃ楽しい!それでな――」
 音楽の時間はいつもみんなで演奏すること、木琴と鉄筋とシンバルの係はいつも取り合いになること、友達のあやちゃんがピアノごっつい上手いこと、先生に太鼓上手いとほめられたことなど、いろんなことを話してくれる。
 ああ……、こんな感じで子供がいろんなこと話してくれるのを聞くと、娘と話するのは本当に楽しいと言っていた従姉の気持ちがよく分かる。
「お?」
 そうやって、話に花を咲かせつつ、Wiiソフトの棚を一通り見て、よし次スーパー行こうか、と出口に向かう途中、俺はふと視界に懐かしいあるものを発見する。今は昔となってしまったゲームキューブのソフトが陳列された棚、そのまた端っこの裸売り(箱なし、説明書なし)されたソフト群。
「おお、懐かしい……」
「何? それがし、何?」
 俺の目線に一緒になって、ユズちゃんも目線をそちらの方向へと向ける。先頭に立てかけてあったソフトは、忘れもしない、ソニックアドベンチャー2バトルのそれだった。
買う気はなかったが、値段は確認する。巷で聞くところによると、相当なプレミアものだということだが――あら、なんと525円。さすが田舎のBOOK-OFF。安い。
「ほぼワンコインで買えてしまうのかぁ……」
 新品買ったときは、お年玉から6800円も崩して使ったのになぁ……。
とはいえ、今ユズちゃん世代が夢中になっているWiiが、当時の俺たち世代にとってのゲームキューブやPS2だったわけで、今姪と同じ世代の子がこんな棚の、こんな僻地に裸に向かれたソフト群に目をつけることはないのだろう。だからこその低価格。
「それがしもゲーム買うの?」
「うーん……どうしまひょ」
 実際、うちのゲームキューブは当の昔にドナドナされたが、実家には生前祖父が買ってくれた、従姉弟用(俺は父に買ってもらった)のゲームキューブが備え付けてある。だから、遊べないことはない。年に数度しか実家にはいかないので稼働率はひどく悪いが。
まぁ、でも、そこは525円だ。すぐペイできるだろう。それに――
「……よし決めた」
「うん?」
「購入します」

   …   …   …

「あら、懐かしい。ソニックじゃん」
 台所の向かいにある和室で胡坐をかきながらソニアド2を早速プレーしていると、ガラッと引き戸が開いて、従姉のリサちゃんがぬっと顔を出した。
「おう、リサちゃん。ソニアド2がBOOK-OFFに売ってたからさー、ユズちゃんにプレゼント買うついでに衝動買いしちゃった」
「いくらしたのー?」
「525円」
「安っ、昔あんなに高かったのに」
「ホントにね」
 リサちゃんは隅に重ねてあった座布団を一枚持ってくると、俺の隣にどすっと座る。ちなみに反対側ではユズちゃんが俺のまねをしてぎこちない胡坐をかいている。
7時ごろフラッと帰ってきた彼女は、さっきまでお風呂に入っていたのか、ジャージ姿で頭にはタオルを巻いている。ベージュ色のそれからはみ出た髪の毛は本当に見事なくらいの金髪だ。
「その金髪。……お祖母ちゃん、うるさかったやろ?」
「だからここに逃げてきたんじゃん。見たいドラマ終わったし」
「アハハ、なるほど」
「もう本当に勘弁してほしいわ。もう26の女に髪の色言ってどーすんねんって話。そう思うよなぁ、ゆずちんも、……あれ、ユズちん?どしたん」
ユズちゃんが無言でブスッとしていることに気づいたリサちゃんが首をかしげる。
「ああ、拗ねてんのさ。ほら、自分の買ったゲームは家に帰るまでお預けで、俺だけが買った当日にゲームできてるから」
「あー、なるほど」
 Wiiなんていうナウいものはさすがにこの家にはない。あるのは、俺が置いたままにしてた64と、生前祖父が従姉弟に買ってあげた、銀色のゲームキューブ(となぜか紫色のコントローラー)。和室に置きっぱなしだったので勝手に使わせてもらっている。
「来週にはできるんやから、そんなに怒らんでもええやろー」
 頭を撫でようとして伸ばした俺の手を、ユズちゃんが無言でパシィッとはたく。なんだか妙にいい音が出てしまったので、一瞬ユズちゃんも俺の目を申し訳なさげに見るが、すぐにぷいっと顔を反らせてしまった。
「あら可愛い」
「ホントにな。でも、ゲーム買ったときはめっちゃお話ししてくれたんよ。学校のこととか、音楽のこととか。……それはもう、すごい地元弁で」
「あはは。私が地元弁まったくとれんからなー。ユズもそうなっちゃうんだよねー?」
「……ぶー」
 従姉の振りにも構わず、じーっと太鼓の達人のパッケージを見ながら不機嫌顔を崩さずにいるユズちゃん。俺と従姉からすれば、これはこれで可愛いワンシーンだ。なので、あまり目いっぱい構わずに、そのままにしておくことにした。
「なあ、次、そこの64出してきてスマブラしよーや」
「待ってくれよ。今からチャオに会いに行くんだから」
 俺のふと漏らしたチャオという言葉に、従姉が反応する。
「チャオ!懐かしすぎるやろ」
「知ってんの」
「そりゃ知ってるわ、昔弟に育てさせたし、ソニックチャオとか」
 さりげなく語られる姉特権な一面。今でこそ野球で筋肉ついた従弟も、昔は小柄で姉にべったりな末っ子らしい男の子だった。姉の命令のために必死こいて小動物やドライブを集めている姿が目に浮かぶ。
「そんなのいたなー、どうやるんだっけ」
「あー、確か――」
 時計は8時過ぎ。ソニックチャオの話で色々と思い出したらしい従姉はちょうど俺がプレイしてたソニックのコースを、あーこれむずかったわー、なんて言いながら画面を見ている。
「ぶー……」
反対サイドからは相変わらずの可愛いうなり声。
でも、なんだかんだ画面を見ている限り、少しは興味もあるのかもしれない。
「よーし、やっとたどり着いたー」
「下手くそやん」
 Dランクをとって〈OH...No problem.〉とソニックが言ってるのを聞いて、従姉がダメ出しをする。数年前従弟が辿った道と、なんだか同じ道を通っている気がした。
「あれ、階段とかなかったっけ」
 俺も数年ぶりとなるチャオロビーを見ながら、従姉が首をかしげる。
「メモリーカード、ソニアド2のデータなかったし、初めからやってんのさ」
ちなみに、ある程度進んだコースになるまでチャオワールドに行けなかったのは、チャオキーを手に入れないといけないということをすっかり忘れていたからである。
「マジで。めんどくさー。卵投げ割るとこから始めないとアカンやん」
 俺は思わずオイと突っ込みそうになったが、百聞は一見にしかずということで、黙ってソニックで卵をあやしてみせる。
「え、嘘、こんな方法あったの!?」
「知らんかったん?」
「うわ、やば、いつも壁に叩きつけてたわ」
「性格が窺い知れますな」「うるさい!」
 俺がバシッと背中に一発もらう一方で地面に『優しく』置かれた卵は、数秒して、ピキピキとヒビを作り、次の瞬間ぱかっと割れる。中から飛び出てきたのは懐かしい面影。
「かわいい!」
 と、その姿が目に入った瞬間、隣でずっと不機嫌面をしていた姪が弾んだ声色でその水色の面影――チャオの映っている画面を指さす。
「お、興味あるか。こいつはチャオって言うんだよ」
「チャオ?すごい、めっちゃかわいい!」
 さっきまでの態度はなんだったのかという感じで、ユズちゃんは俺の袖を引っ張りながら矢継ぎ早に質問を浴びせかけてくる。とりあえず、小動物つかんでキャプチャさせてみた。ちょうどユズちゃんの興味を引く感じでクマ耳がくっつく。
「かわいい!ねぇママ、クマみみかわいい!」
 いつの間にやら従姉の膝に移動したユズちゃんがまたもや感嘆の声を上げる。
「そうだねー。ユズちん、クマモンだいすきやもんなー」
「ううん。ママ、これクマモンよりかわいいよ!」
「……おろ。思った以上に、チャオ、娘にどストライクみたい」
「せやね」
 というわけで、ユズちゃんにコントローラを貸して、チャオに餌やりをさせてみることにする。おぼつかない感じでBボタンで餌をつかむ姿に、かつて、餌とろうとして攻撃してチャオの機嫌を直すためにチャオの頭が擦り切れるくらい撫でまくったことを思い出す。
「うわぁ!ねぇそれがし、しっぽついたよ!しっぽ!かわいいー!」
 かわいい連呼のユズちゃんの気持ちが俺にはよく分かる。かつていやというほど聞いたキャプチャのSEすらとても懐かしい。数匹小動物与えて、だんだん見たくれがカオスになるのはご愛嬌だ。
「ねぇ、ママ。これぶどうシロップ?おいしそー」
 ドライブをつかんだだけなのに、ユズちゃんはニコニコ顔である。
「アハハ、そうそう。で、それがレモンシロップで、メロンシロップ。イチゴシロップもあるんよー」
「おいおい、ずいぶんと甘そうだな」
「ドライブゆーても分からんやろうし」
「まぁ、なぁ」
 ぶどうシロップなんてもの、見たこともないけど。あるのだろうか?
 ……と、あー!という声が聞こえてきたので、再び画面に目を戻す。止まる画面に〈セーブしています。メモリーカードを抜かないでください〉の文字。逃げてく小動物を追いかけてたら、入り口のところに足を踏み入れてしまったようだ。
――うん、これはよく見た光景である。

   …   …   …
引用なし
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其の二
 それがし  - 13/12/29(日) 9:26 -
  
 ――翌日、朝。

 世間ではクリスマスイブイブよーなんて言いながら早速彼氏彼女といちゃいちゃしている日を迎えて、俺のテンションは上がりも下がりもしない。この場所は、自然に囲まれた、実にゆったりとした空間である。
「おはよう!それがし!」
 10時ごろ目が覚めて台所に入った俺に、ダイニングテーブルで餅をすすっていたユズちゃんが元気よく声をかけてくる。相変わらずの呼び捨て。せめて、クン付けしてほしいものだけど、……。
「なぁ、リサちゃん」
「何?」
 ユズちゃんの隣でポリポリ漬物を食べているリサちゃんが、テレビに目線を向けながら、やる気のない返事をしてくる。
「俺のことこれからそれがしくんって呼んでよ」
「……えぇ?」
 驚いた表情でこっちを見やる。
「え、なに、俺そこまで変なこと言ったか?」
「いやぁ、何と言うか。うちの夫に昔そう言われたことをふと思い出した」
「やめんかい、返答に困るわ!」
「その言葉、そのままそれがしに返すわ。何を突然言い出すのかと思えば……あ、雑煮はその鍋にあるから」
「あぁ、ありがとう……いやさあ、――」
 俺は自分の分の雑煮をお椀にとりつつ、ユズちゃんにずっと呼び捨てされているから、何とかならないものかという話をする。リサちゃんが俺をクン付けすれば、ユズちゃんもクン付けしてくれるんじゃないのか、なんて推測をしていたんだと。
「そりゃ、無理だ」
 リサちゃんにバッサリ切られる。
「なんだよ。昔はそれがしクンだったじゃん。それとも何か、クン付けは旦那様の特権になっちゃったんですかー?」
「やかましいわ。まぁ、そうだけど!」
 俺に軽口に突っ込みを入れつつも、律儀に認めるリサちゃん。うん、親子そろって実に萌え要素が多い。(いや、実のところ、予期せず従姉のプライベートなことを知ってしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだった)
「ユズちゃんは……頑固なんよ」
 雑煮を咥えるユズちゃんの頭を撫でながら、リサちゃんが苦笑いを浮かべる。
「そりゃ呼び捨てするのは、私がそれがし呼びするからだろうけどさ。でも、それ以上にユズちゃんは自分が気に入ったことはトコトン突き通す性格なんよ。だから、それがしをそれがしと呼ぶのは、ユズちゃん自身がその呼び方を気に入ったからなんだろうね」
「そうなのか?」
「そうなんよ。だから、家にはクマモンのグッズがあふれてるし、ふなっしーはキモイ言うてまったく興味もたんし……チャオは、ここにいる間はずっとやるって」
「ごちそうさま!」
 お雑煮を食べ終わったユズちゃんが、勢いよく台所を出ようとして、リサちゃんがそれを止める。
「お椀片付けなさい!」
「うー、早く和室行かせてやー」
「和室言って何するの」
 俺の言葉に、ユズちゃんは実に楽しげな表情でこちらにくるっと振り返る。
「チャオする!」

   …   …   …

「うー、……むずかしい」
 昨日のうちにストーリーモードを走破したので、今では適当なステージで小動物やドライブを集めながら、チャオと戯れることができる。が、アクションをてんでやったことがないユズちゃんにとって、シティエスケープも至難の業のようだった。
「たきのうらの穴に入ったら、レースとか空手とかできたんよ……」
 画面にくぎ付けになりながら、隣に座った俺に話しかけてくる。新しい発見にはうきうきして知らせるユズちゃんだが、その口調は重い。
「ぼろ負けした?」「うん……」「だろうね」
ホントは昨日ユズちゃんが寝た後、一匹くらいレースや空手に参加できるレベルにしておこうかと思ったのだが、途中で無理やりスマブラをやらされた。卑怯なことに、ネスばっかり使う従姉のPKサンダーに何度吹き飛ばされたことか。
「すっかりチャオにはまっちゃったみたいで。どうしよう、このゲームキューブ持って帰ってもいいかな」
 ダウナーになってるユズちゃんの後ろで、続いて和室に入ってきたリサちゃんが呑気にゲームキューブの本体をコツンと爪で叩く。
「いいんじゃないか。でも、この調子じゃあ、帰ったらチャオ三昧になるだろうけど」
「まぁね。でも、持って帰らなかったら、それはそれで――ギャン泣きされてさぁ。挙句、あっちで同じの買わされるだろうなぁって」
「実はソニアド2、プレミアもんだからそう安く買えないしな」
「マジで。……あーあ、今でさえ毎日ゲームは1時間って怒らんと聞かんのになぁ」
「がんばれよ、お母ちゃん」
「なんかそういわれると老けた感じでヤダなぁ。私まだ26なのに」
「――ママ!」
 と、ゲームに熱中していたユズちゃんが、突然リサちゃんの袖を引っ張る。
「これやって!どうすればいいかわからない!」
コントローラーをグイッと彼女に押し付ける。画面では〈OH,No…〉とトラックにつぶされたソニックの哀れな姿が映し出されている。昔、俺もリサちゃんにカスミのスターミーが倒せなくて、泣きついた覚えがある。ナゾノクサをそこらで捕まえてきて、あっさり倒してしまったその姿は、子供ながらに素敵なお姉ちゃんと思ったものだ。
「もうこれ難しい!ママやって!」
「あらら、うーん……それがし〈クン〉、やって!」
「俺かよ」
 紫色のバトンが、あれよあれよという間に俺に渡される。昔みたいに、自分がやってやる、というよりは、ほかの人に丸投げする癖が身についたのだろう。皆、大人になってしまうのだ。……というか、さりげなくクン付けされた。こういうタイミングで。
「それがし、出来るの?」
 もとより頼まれたら断るつもりは無かったが、ユズちゃんのウルウル目は破壊力抜群だ。
「わかったよ。やるよ。でも、その代り……」「なに?」
「それがしクンって……呼んで?」
 コンテニュー画面から再びステージに戻ってくる。
ユズちゃんが俺の腕を強く掴んだ。そして、ついに――
「がんばれ――、それがし!」
「……はいよ」
 ユズちゃんは頑固だ。今、この時、俺もはっきりとそれを確信した。

   …   …   …

「そう、それやると、flyって上がったやろ。これが上がるとな、飛べるようになるんやで」
「飛べるの!?」
「そうそう。だから、ユズちゃん、そろそろ自分でステージやってみない?」
「それがし、餌全部あげたから次やってー!」
 チャオに夢中な彼女は、俺の話なんて聞くこともなく、コントローラーを返してくる。そして、俺はそんな彼女に従順なしもべである。従姉も何かしにかつての自分の部屋に戻っていったし、他に誰かに頼めるものでもない。祖母が昼ごはんか雑用で俺を呼ぶまでは、俺はきっとこのままの状態だ。そして、こういう時に限って雑用が無い……。
「おー。すごい、この赤い兄ちゃん、空飛んでるよー」
「こいつ、モグラなんやで」
「マジで? へー、モグラって空飛べたんだ」
 ユズちゃんの疑問に一言一句返答しながら、俺は小動物集めに精を出す。
今集めているのは骨犬。どうもユズちゃん、ようやくチャオのカオスな容貌に気が付いたようで、それを取り外して欲しいのだという。俺も知識はほとんど抜け落ちたが、骨犬のことは覚えていたので、今はそれが一番いそうなパンプキンヒルを探索している。実際、いるかどうかという知識は、もう覚えていないのだけど。
「お、がんばってるねー。君たち」
「がんばっているのは、俺だ。どこ行ってたんだよリサちゃん」
「まぁまぁ、というわけでジュース。それから……ユズちゃん、かもーん」
 ユズちゃんを手招きしたリサちゃんは、何かをプリントアウトした紙を彼女に見せている。そして、ぺらぺらとめくるたびに、すごーいとかかわいいと驚嘆する声が聞こえる。何となく想像がつく。そして、次にユズちゃんがしてくるのはきっと俺の予想通りなんだろうなぁと創造を巡らせて、やな気分になる。
「すごーい!これめっちゃかわいい!」
 一際大きな声を上げたユズちゃんが、案の定、タタタとこちらに駆け寄ってくる。
「このチャオ作って、それがしならできるでしょー!」
「ん、……ハァ。リサちゃん。なんてものを見せてしまったんだい」
 そこにはA4サイズででかでかとプリントアウトされた――ヒーロー進化形のカオスチャオが、無表情な面をして佇んでいる。
「行ける行ける、それがしならいけるよー」「いけるよー」
 ユズちゃんがお母さんの言葉を真似っこしながら、俺の腕をゆする。昔々の俺ならこんなもの楽勝とか言って作っていたかもしれないが……、忘れた。全部忘れてしまった。そりゃ、チャオキーの存在すら記憶のかなたにあった俺だ。カオスチャオの作り方なんてもうすっからかんである。
「……なぁ、カオスチャオって、どう作るんだっけ?」
 リサちゃんに耳打ちする。
「知らない、こんなチャオ」
 根本からバッサリと切られる。
「カオスチャオって知ってるんなら、思い出せば分かるでしょー」
「思い出しても分からないから、聞いてるんだろうが」
 昔チャオの知識でみんなに問題配って、中坊のガキにドヤ顔でもっと頑張れよとか不合格通知突き付けていた俺が、何とも情けない姿である。チャオ検定を受ければ多分過去の俺に憎ったらしい顔で不合格通知を突き付けられることだろう。
「なら、上のパソコンあいてるから調べてくればー?しゃー無いからそれまでは私が代わりにやっとくけど、早く帰ってきてよね」
「……ハァ。やれやれだ。じゃあ――」
「あ、そのジュース、私が飲むことにしたから。じゃあねー」
 なんて奴だ!と思いながら、俺は昔ながらの段差が高い階段を上って彼女の部屋に入る。小学生から高校になるまで住んでいたらしいその部屋は、小学生女子らしく、いろんなポスターやシールが所狭しと張りつけてある。昔の女子向け雑誌の付録が服掛けにプラプラと浮いているのが物悲しい。
 パソコンは今は昔のVista。でもまぁ、使えないことはない。横に刺さっているのは従姉が持ち込んできた無線LANのカートリッジだ。
(あー、でも、重たいな……)
 デスクトップ画面が移るまでの待ち時間にやきもきしつつ、インターネットを開く。
久々にチャオのことを調べるものだから、どんなサイトがあったかも思い出せず、とりあえず、ググることにする。すると、ヤフー知恵袋が連なって検索結果に反映される。で、揃いもそろってみんな同じこと聞いてる。まぁ、あれだけやりこんでいた俺も忘れるのだから、なかなか手の込んだ方法なのだろう。
(ってか、2013年の質問が!)
チャオの人気はいまだ健在なのか。それとも、新しいチャオゲーが――いや、ソニアド2のって書いてあるから、それは無いのだろう。これだけ人気が長く続くキャラなら、またチャオのシステムも入れて発売すればいいのに、なんてよく言ってたことを思い出す。
(実際、チャオの原画担当か、チーム全体かが会社から独立して著作権がそっちに移ったものだから、出したくても出せないというオトナの事情があるのかもしれない――)
 とりあえず、一番わかりやすく書いてた答えを印刷して、すぐに戻るのも面倒なので、しばらくネットサーフィンを続ける。そういえば、週刊チャオなんてやってたなぁと思い、それもやっぱりググる。出てきた、以前はお世話になった編集部だ。
(とはいえ、何を言っても本元がつぶれてしまったから、客足はすぐ遠のいてしまったよなぁ。俺も……。……今でも誰かいるのかな)
 投稿コーナーをそっと覗く。最初はその単独投稿はスパムか何かと思ったが、違った。
(何とまぁ)
律儀なことで、チャオが生誕した本日、天皇誕生日を記念して、小説家何かの投稿が行われている。中を見る。文章がいっぱいだ。すぐにブラウザバックする。
(よくやるよ……)
そう思うのと同時に、一瞬俺も何か投稿してみようかなぁと考える。
(でも、ネタなんて考えもしなかったし……昨日BOOK-OFFに行くまで、チャオの存在自体忘れかけてたし……)
 せっかくなので、過去のチャオ検定の問題でも解こうかしらと、チャオBBSのページを開こうとする。それで、すぐに、ああもうNOT FOUNDだったことを思い出す。
(いろいろやらかしたよなー)
ピアノなんて見たことないのに、覚えさせたとかほら吹いて。そのくせほかのガキンチョには画像データあげろよーとか責め立てたり(ちなみに、その時俺は画像データの上げ方など知らないPC素人だった)、……なぜだか、情けなくも恥ずかしい記憶なのに、しんみりとした気分になった。
 バタンと閉じて、プリントアウトされた紙をぺらぺらさせながら、和室に戻る。途端、ものすごく興奮したユズちゃんが俺の腕を引っ張り、画面の前まで連れてくる。
「それがし!聞いて聞いて!今な、チャオがチャオの頭に包まれて、すごいことになったのよ!ほら!」
 見ると、真っ白……になったチャオがニコニコ笑顔(おそらく、あやしてふ化させたおかげだ)で庭を闊歩し始める。ヒーローカオスチャオに惹かれる彼女なので、おそらく、真っ白なその姿も気に入ったのだろう。
「ほえー、そういや、こんなことなるんだったなぁ。一瞬何がなんだかよくわかなかった」
「前兆で、体が白っぽくなっていただろ?」
「あー、バグだと」「おいおい……」
 コントローラーを受け取り、俺は再び素材集めの旅に出る。とりあえず、ソニックのステージが一番爽快なので、そこら辺を中心に攻める。そのうち全小動物を集めないといけないのだろうけど、2度転生させないといけないので、それまでは適当でいい。
「へー、チャオの質問がつい最近にねぇ」
 さっきの話をリサちゃんに振ると、彼女もそこは予想外だったようで素直に感嘆の声を上げる。ユズちゃんは相変わらずチャオの画像集をぱらぱらとめくっている。
「俺も懐かしくなってさあ。思わず週刊チャオのサイトも除いちゃってさー」
「週刊チャオ?」
「なんか、みんなでチャオの小説書いてたんだよー。ほら、掲示板からチャオBBSって行けるだろー。あそこで、いろいろ書いてたんだよ」
「へー、それがし小説書くのかぁ。ふーん」
「あ……」
 ここまで来たところで、俺はようやく自分がとんでもないことをばらしてしまったことに気づく。すっくと立ち上がるリサちゃん。
「ねぇ、ユズちん。一緒に二階いこ?」
「なんでー?」
「とっても、とーっても、面白いもを見せてあげるから」
「マジで!?行くー」
 そうして、フフッと目配せをしたリサちゃんがユズちゃんを連れて二階へあがって行ってしまった。匿名だから、匿名だから大丈夫だ。と言い聞かせつつも、もし書き方如何でコイツが俺だとばれたらどうしようかと、思考がそっちに行ってしまう。
もしばれたら、煮ても焼いても食えるものではない雑多な恥ずかしいポエムが全部、彼女に晒されることになってしまうのだ。嫌だ、それだけは嫌だ。一生脅しのタネにされる。そうでなくても、きっとこれから従姉の顔をまともに見ることはできないだろう。なんとかばれませんように――俺はヒーローガーデンの像に祈りをささげた。
「ただいまー」「……ただいま、フフ」
そして、数十分くらいして、なぜか目を腫らした従姉と、それからはて?と首をかしげたままの姪が和室に戻ってくる。
「チャオBBS……、つぶれてて見れなかったわー」
 それはよかった。ついにあそこは存在すら消えてしまったのだ。俺の記憶もデータの海に沈んで消えてしまったのだろう。そして、何でリサちゃんはこんなにテンションあがっているのだろう?
「週刊チャオのリンクで、ライブラリーがあったから、そっちを見てきた」
 なるほど。わが従姉ながら、憎らしくも素晴らしいネット探索能力である。俺もそれくらいの能力があれば、WEB上で論文サーベイするのがずいぶん楽になるんだろう。ま、あそこを見つけりゃそりゃあもう中二病の宝庫だ。笑える話が一つはあるかもしれない。
「で、俺はいたかい」
 そして、問いかける――俺の運命を。先ほどから妙に声が浮ついているリサちゃんに、とてつもない嫌な予感を感じながらも、俺は至って平静さを保ちつつ、その問いを彼女に投げかける。
「さぁ、分からなかったよ。みなさん匿名でしたし」「でしたしー」
「そ、そうか」
「たださぁ」「たださー」
 呑気に口真似をするユズちゃんに萌える余裕もなく、俺は真顔で次の言葉を発そうとする従姉の顔を見つめる。
「……ぶっ」
瞬間、プッと従姉がもうこらえられないという感じで噴き出した。
「お、おい、俺の顔そんなに面白いもんじゃないだろ!」
「フフッフフフフッ……、フゴッ」
「あ、鼻豚……じゃない!何見たんだ、何見たのかくらい教えてくれよ!」
「悪魔攻略戦線」
「ブッ」
 今度は俺が噴き出す番だった。ここでポーカーフェイスを保てれば、俺もバレることはなかったが、そのすさまじいピンポイント爆撃ぶりに、俺の腹筋は耐えられなかったのだ。
「お、おいおい、ちょっと待て、タンマ――」
「悪魔攻略戦線――リメイク」
「ぶふっ。や、やめて、止めてくれ……俺の腹筋壊れちゃう……」
「フフッ、私の腹なんてとっくにズタズタだって。もう、よーく分かった。それがしの過去。趣味。それから、好きな女の子のタイプ、大人しくて、小っちゃくて、ボブカットで、……なんかもう、ザ・女の子が大好きなんだよねー」
「やめてー!」
「でも、さすがに援助交際とか、だめだよー、それがし〈クン〉。そんな女の子好きになっちゃあ。でも、それがしが好きなタイプは、多分そんなやつも多いと思うけど」
「さ、さいですか」
「ああ、後、一番のツボは、ブッ。フフ……ねぇ、あいしてよ……フフフ」
「やめてー!」
「私はそれがし〈クン〉のこと愛してるよー」「うちもそれがしのことあいしてるよー」
「おう、せんきゅー……ぶふっ」「フフフフフ……!」
 とりあえず、大人たちがそろいもそろって子供になった瞬間であった。
同時に、ええい、ままよということで、この近辺のエピソードを全部週刊チャオに丸投げにしてしまえと思ったのである。
 ちなみに、俺だとばれた理由は、俺が高校のころ無類のB'z好きであることを知った姉が、その曲タイトルを妙に使用している〈それがし〉にあたりをつけ、それとなく振ってみたら、見事に俺が釣れたということだ。
何とまぁ、俺がばらしたものだ。でも、あれでポーカーフェイスは無理だよ。誰とは言わないが、クリスマスデートの最中、チャオに全く精通してない彼女が「パカッ!生まれ、……ました!?」とか言ったものなら、キミも多分正気の沙汰ではいられないだろうさ。

   …   …   …

「何描いているんだい」
「チャオ!」
 もはやチャオの虜になった彼女は、ヒーローカオスチャオに向けてせっせとチャオに貢物をする俺の傍らで、色鉛筆を取り出して、延々とチャオを描いている。そういえば昔、俺もチャオの絵書いてたよなーと思いつつ、口には出さない。もう学んだ。
「家帰ったら、これも作って、これも――」
「太鼓の達人はどうするんだよ」
「あやちゃんとかみくちゃんが来た時にやるー」
 昨日ふくれっ面をしていたのはいったいなんだったのかというくらいの、見事な手のひら返しである。
「いろいろチャオで作りたいなら、アクション慣れろって」
「帰ったらするー」「ほんとかよ」「ほんとだよー」
「……ま、ここにいる間は俺がするけどさ」
「おおー、ユズちんには優しいねぇ。やっぱり〈ボブカット〉だからかな?」
「やかましいわ」
「アハハ、怒った怒ったー」
 多分、ここにいる間はずっと言われて、帰った後も電話とかメール越しに数か月のネタにされるんだろうなぁなんて思いつつ、俺はコントローラーを置く。
「あとは、転生するのを待つだけだ」
「てんせい?」「チャオがまた赤ちゃんになるのさ」「へぇー」
 進化と転生に関しては正直待つしかない。
と、リサちゃんが、隣の部屋から運んできた小型テレビをつけて、大型テレビに64を、小型のそれにチャオをつなぐ。
「と、言うわけで、暇じゃん。64やろーや。3人で」
「なんだ、今日はだべりモードか?誰かと買い物には行かないのか?」
「え、なに、それがし付き合ってくれるの?」
「……スマブラしよ。スマブラ。ユズちゃんもやろー」
「チャオは?」「待つだけだからさ」「そっかー、ならやる」
 色鉛筆をいったんしまって、3人並んで座って、懐かしい、――ユズちゃんにとっては目新しいコントローラーを握って、久々のスマブラを始める。
「リサちゃん、相変わらず変わった持ち方するよなぁ、真ん中で片手とかやりにくいやん」
「あんたが変わってるんだよ。両側握って、左の親指きついっしょ、スティック動かすの」
「慣れた」「はぇー、手が大きいのがうらやましいわ」
 ユズちゃんはというと……なんと、とんがってるほうを前に向けていた。さすがにそれは違うだろ言うということで、俺たち二人でユズちゃんに正しい持ち方を教えようとする……が、途中で押し切られ、結局リサちゃん流の持ち方に強制された。
「でも、どうしてあんな持ち方だと思ったんよ」
「うん?だって、チャオの頭がそうじゃん!」
 ユズちゃんの回答に、大人二人は顔を見合わせ、クスリと笑う。なるほど、子供の想像力は偉大だ。俺たちも矮小な大人になってしまったものだ、なんて思いながら。
 そうして、しばらく、適当に遊んでいたのだが、ソニックみたいにくるくる画面が動かないのが幸いしてか、ユズちゃんも、だんだんと操作が板についてきたようだ。これが終わって、もう一度チャオをする頃にはうまく操作もできているかもしれない。
「にしても……、オイ、キミ女の子だろ、ピカチュウとか使いなさい!」
「えーなに、男尊女卑?ピカチュウ、うちの妹はうまいけど、私には無理やわー」
 ここまで言う機会もなかったので明かさなかったが、従姉弟は姉姉弟の3人である。ちなみに妹のほうは俺より年下なので、従妹である。彼女はバイト三昧ということで、こちらには帰ってこない。独りなので実家に帰ろうと努力することもないのだろう。
「ネスばっかり使いおって」
「ユズもそうやん」
「ユズちゃんは別にええのよ」「ぴーけーさんっ!」
 どごぉんと、俺のカービィ(すまん、俺も初心者用しか使えない)に命中したそれは桃色の球体をバックスタンド後方まで軽々と運んでいく。きらーん。俺ストック全滅。仁義なき親子バトルの始まりである。ちなみに、俺は従姉ばっかり攻めたので、彼女のライフは残り1、ユズちゃんは4ある。
「ぴーけーさんっ」「ほいな!」
 リサちゃんが雷電をかわし、背後から投げ技を食らわして、ハイラル城からユズちゃんネスを吹き飛ばす。容赦ない母ちゃんだ。ユズちゃんがむすぅーとして、すぐに攻撃にかかる。
「おーい、大人げないぞーリサちゃん」
「こういう機会に、ユズちゃんにも現実の冷たさを教えてあげないと……あれ?」
「ぴーけーさんっ!」
 俺との会話に気を取られてるうちに、再びユズちゃんネスの雷電をもろに食らった。そして、これが大人げなかったリサちゃんへの仕打ちか、トルネードにそのまま吸い込まれ上にズドン。俺と同じくバックスタンド一直線で会えなくKOされた。
「あー、負けたー。それがしのせいだー」
「ママ、おとなげなーい」
「お、ユズちゃん、それは正しい日本語の使い方だな」
「なんだよ二人してー、このやろー。……悪魔攻略戦線」
「ブッ」
 と、そんなタイミングで、ふと後ろを振りかえる。そして、同じように振り返ったユズちゃんが、これまた驚いたような顔で俺のほうを見る。
「さくらもち!」「ちゃうわい」「あうちっ」
 思わず凸ピンで突っ込みを入れつつ、ああ、案外早く転生してくれるものだなぁと思う。時計を見る。もう夕方を軽く回っていた。
「遊びすぎたねぇ……」
「だな。夕飯買い物、……俺たち担当だよな」
「うん」「行こうか……」「そだね」
 その日の夕飯は昨日が豪華だったということで、余った肉を焼きつつ、メインは水炊きになった。ちなみに、買い物中は5回くらい、その夕飯の場では10回くらい、リサちゃんに〈悪魔攻略戦線〉を耳元で吹き込まれ、そのたび噴飯しそうになったのを堪えた。
水炊きの具材はもはや記憶の隅にも残っていない。
――ただ、実に苦しい食事だったことは覚えている。

   …   …   …
引用なし
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其の三(終)
 それがし  - 13/12/29(日) 9:27 -
  
 聖夜前日。世間ではいわゆる性夜。嬉し恥ずかしヤリスマス。とか、リサちゃんに突っかかって行ったら、割と本気で腹をド突かれたので、今は大人しく和室でユズちゃんとチャオブリーディングに勤しんでいる。
けれども、コントローラーはもはやユズちゃんの手に握られっぱなしだ。昨日のスマブラがあってか、妙にアクションが板についている。子供の学習能力、恐るべし。
「おらおらおらー」
 ナックルズが土をほる掛け声が妙にはまったらしい。が、今彼女が挑んでいるステージはシャドウのそれである。彼女もまた、ソニックやシャドウといった、びゅーんと行けるようなステージが大好きなようである。
「はーい、ミカン、鳥さんですよー」
 いつの間にかミカンとなずけられたチャオは今日もニコニコ元気に育っている。ちなみに、昨日一度転生した後、ユズちゃんが寝てから俺はずっとチャオを育て続けていた。暇つぶしのためにレースや空手に参加させ、レベルも無限キャプチャで爆あげさせて、転生ももう一度させて……今日に至る。
「よーし、これでこんどる、おっけー」
 ユズちゃんは、俺お手製の小動物チャックリストにチャックを入れていく。ぶっちゃけ転生前の小動物付与データも反映されるので、もうカオスチャオになる準備は整っているのだが、そこはユズちゃんの努力が実ったと言いたいので秘密だ。
「あとはー、どらごん!」
「おーう、レア小動物だな。がんばって探せよー」
「それがしやって」「ええー」
 努力が実ったと言わせるために、いろいろ手配してあげた俺の苦労はいったい……。しかし実家では、ユズちゃん>祖母>俺の両親、叔父叔母>リサちゃん>小屋に住みつく野良猫>夜中にたまに裏庭を荒らすイノシシ>俺、というヒエラルキーで支配されているので、俺は従わざるを得ない。
「このステージにいたよなぁ確か……」
 正直、ナックルズの操作も嫌いだし、水が増えたり減ったりするこのステージ自体は最も嫌いなものだ。何せ、水の神殿を思い出しては、64のコントローラーを壁に投げつけたトラウマがよみがえる。ボス鍵を探すのにどれだけ苦労したことか。
「あー、確か、奥の奥のほうにいたんだよなぁ……」
 俺も昔はドラゴン探しにひと苦労していた身なので、初めて見つけたこのステージでのドラゴンゲットの瞬間は頭の中にこびりついているのだ。とはいえ、あくまで瞬間、なわけだからそこに行くまでのルートはやっぱり手探り状態で始まる。
「あー、クリスマスイブなのにー、暇だー」
 ジュース片手にリサちゃんが和室にやってくる。どうも、店長の意向でクリスマス前後はクリスマス休暇なるものが与えられるらしい……経営的には、かき入れ時の聖夜によくやるよとは思うが。その代わりに、年末年始はアパレル業界のセオリー通り、超大忙しだと聞く。
とかく、預け先がないので、ユズちゃんは年末シーズンは当分ここにいて、彼女は年末年始までに東京に戻り、次は年明けに大阪から仕事帰りの旦那さんがユズちゃんをピックアップして東京に帰るというスケジュールらしい。
「旦那さんと一緒にいれば、とも言えないか」
「だね、旦那は大阪で、しかも今は仕事漬けだろうね。それに、……友達と遊びに行く約束のほうが大事だし」
「あーらまぁ」
 恋愛結婚だろうがなんだろうが、7年目の嫁の思考とは、こんなものなのかもしれない。おまけに、あの旦那さん、寡黙で良い人そうだから、余計にうちの従姉が増長しているところもあるのかも。でも、よくよく考えれば叔父もそんな人だ。
「血ってやつかー」「何?」「ん?あ、いや、本当に独り言。何でもない」
結婚相手なんざ結局ルーレットを回すようなものだ。どんな人間が嫁になるか分かったもんじゃない。結婚するのが憂鬱になる。……ま、俺の場合は、まず相手を探さないといけないのだから、そんなことを偉そうに言う資格なんてないけれど。
「それがし。後から○○○(近くの大型ショッピングモール)に二人で行かない?」
「あら、俺ご指名ですか。何、ユズちゃん誘わないの?もしかしてデートのお誘い?」
「デートならそれでもいいけど。おごってよ、3万くらい」
 旦那さん……本当に仕事が忙しすぎて、あなたは仕事場に向かっているんでしょうか。
「謹んでお断り申し上げます。学生に高望みするなよ。あ、それで、ユズちゃんは買い物苦手なのか?」
「そう。ユズは人ごみ苦手だから、いつも旦那と車の中でDVD見てんのよ」
「なるほどね。ついでに、俺も買い物は苦手だ。特に荷物持ちはご勘弁を」
「荷物持つほどたくさん買わないし。ただ、服とかたくさん見てもらうけれど」
「うわ、もっと行きたくねー」
 女子相手の、しかも服飾関係の仕事についているリサちゃんだ。きっと自分からこの服はどう思うとか質問しておきながらの、〈センスない〉とか、〈それだから彼女がてんでできない〉とか、ブレイクハートな言葉を次々とぶつけられるのだろう。肉体的よりも精神的なほうがきついんだろうなっていうのは、引っ越しバイトとコンビニバイトの両方したことのある俺にはよく分かる。
「かわいい雑貨屋さんにも連れてってあげるよー」
「やだー、ご勘弁をー」
「むー!ママだめ!今日はそれがし、うちがミカンを育てるの手伝うんだから!」
 隣でずっと動かぬナックルズを見ていたユズちゃんが、むっとした表情で俺の袖をつかむ。それを見たリサちゃんが、アハハと笑いながら、ジュースを一口飲んだ。
「人生一度くらい、何もしないクリスマスイブもいいってやつかね」
「俺は毎年そうだけど」
「あーら、それはそれはかわいそうに」「あ、ドラゴン」「話続けないんかい!」
 と、ゲームとは関係のないところで道草しつつ、ドラゴンを手に入れて、そのままチャオガーデンに直行。ぴょんと飛び出てきたところで、俺の手からコントローラーが強奪される。ユズちゃんが両手でがっしりホールド。美味しいところは私がやるということか、なんとも、お嬢様風を吹かす姪っ子である。
「将来が心配だ」
「そう?むしろたくましく生きてくれると思うけど」
「かもな。……なぁ、ユズちゃん、将来は何になりたいんだい?」
 話の流れついでに、そんな些細な質問を彼女に投げかけてみる。手の空く簡単なチャオガーデンでの作業なので、ユズちゃんもプレイ片手にうーんと考え込む。お花屋さん、服屋さん、お嫁さん……と、いろいろ呟きつつ、しばらくして、ふと思いついたという感じで俺の方を向くと、彼女は堂々とした口調でこう言った。
「チャオの飼育員さん!」
 予想外。けれど――
「微笑ましい、それでいて、ユズちゃんらしいな」
「えー、せめて時給700円はもらえる仕事しようや」
「お母さんのほうは、てんで夢がありませんがな」
 ま、本気で言ってようが、冗談だろうが、そうやって言ってくれるぐらいチャオの魅力にどっぷりはまってくれたということだ。かつてこのチャオにはまり、数年間チャオを研究し続けた俺からすると、たまらなく感慨深い気持ちになる。
 と、その時、白めに育っていたチャオが、ふわっと青い繭に包まれる。あっ、と声を上げたユズちゃんがじっと画面を見つめる。
数秒後、いつもとは違うSEが流れて、中から現れてきたのは――。
「やったー!ミカンちゃんがちょーかわいくなったー!」
 ユズちゃんが歓喜の声を上げる。
まぎれもない、ヒーローカオスチャオである。
「やったー、ママ、ハイタッチ」「ほい」パシーン。
「それがし、よくやった!」「扱いひどいな」パシーン。
 というわけで、これにてユズちゃんの目標は一つ達成されたわけである。きっと彼女はこの後もチャオを育て続けるのだろう。
それで、もうちょっとモノが考えられるくらい大きくなって、チャオの育て方がわかるようになってから、カオスチャオの育て方を知ることがあれば、彼女も今回自分が見ていた限りのことでチャオはカオスチャオにならないと気づくだろう。
その時、俺が陰で努力していたんだということに気づいてくれるだろうか……。もし気づいてくれたのなら、その時は無限キャプチャのやり方でも教えてやろう。でも、母が母だから、そんなくらいの情報はネットですぐに手に入れてるかもしれない。
ひょっとしたら、来年くらいには、俺がかつて廻ったサイト群を彼女も回っているのかも――。
「プレゼント!ミカンちゃんから、うちへのクリスマスプレゼントだー!」
「アハハ、そうかもな」
 俺にとっては――目の前で、かつて俺が楽しんできたゲームに再び目を輝かせてくれる子が目の前にいることがプレゼントだよ。なんて、口に出したら、リサちゃんにまーたポエムかと馬鹿にされるので心の声にとどめておくが。

 ――でも、ありがとう。きっと君は、次世代のチャオブリーダーだ。

「ねえねえ」
 と、そんな風に感慨に浸っていた俺に、いつの間にか耳元に口を近づけていたリサちゃんが、ニヤニヤしつつ一言漏らす。


「月と太陽の物語」
「……リサちゃん、それ違う人のや」「えっ」


〜完〜
引用なし
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