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Duplex 表紙 キナコ 10/3/22(月) 1:32

Duplex 一章 キナコ 10/3/31(水) 3:22
Duplex 一章 キナコ 10/3/31(水) 3:26
Duplex 一章 キナコ 10/3/31(水) 3:30
つたない感想を。 チャフカ 10/4/3(土) 15:48
感想ありがとうございます キナコ 10/4/10(土) 0:25

Duplex 一章
 キナコ  - 10/3/31(水) 3:22 -
  
最近の夕焼けは変わったという年寄りの台詞をよく聞く。汚くなった…というニュアンスを含んでいるそれは大概、昔を惜しんで口ずなさまれている。
確かにこの世は多くの変化に満ちあふれている。その規模もまた様々でマクロなものからミクロなものまでと幅広い。
若者の俺でもこの変化に慣れない、本屋の配置が昨日と変わっているだけで戸惑うし、めんどくさいと感じてしまう。
世界はこのような変化にさらす機会をこれでもかと盛り込んでいる、というのも人類がそのシステムの基を作り上げたのだから自業自得だが。

 しかし目まぐるしい変化が当たり前になりつつある世界で、不変のものの需要が高まっている。そもそも変化をするためには必ず基準となるものがなくてはならない。
基準とはいかなる時も同じ意味、価値を維持し続けるものが理想なのだが現実にはそう上手くいかないものだ。
だからこそ誰しもが持つ欲求の根源は「確か」となるもの、言い換えれば「安全」を基軸に形を整えたものでしかない。物語のエンディングに主人公が手にするのは永遠の〜といった形容詞が省略されているにすぎないように。
逆にいえば変化を恐れる傾向が誰にしも存在する、根源的な恐怖である。というのも人間は肉体的にも精神的にも不安定だから…と私は考えている。


  2014年 4月15日

桜の花が街を彩る今日、風も穏やかで外出するにはもってこいの季節である。河川敷は今日もたくさんの人で賑わっている。
そんな彼らを見下ろしつつ、この温かく心地よい春の陽気を身体で味わいながら散歩をするのは季節行事のようなものだ。
楽しそうな声がどこからも聞こえるが、その中でも一番だ!と人一倍はしゃぐ声が聞こえてくる それも聞きなれた声だ。

「7枚、8枚。…9枚!、やったぁ!新記録達成!!」
俺から三歩後ろの場所で花びらとじゃれている彼女、手には桜の花びらが何枚も握りしめているらしい。

「おしかったな。二桁はもうすぐだったのに」
そう言うと、彼女はまた空に舞う花びらに視線を移した。そしてそれを目で追いかけるのを見てから俺はまた進行方向へと向いた。
すると後ろから髪の毛を触られる感触がした。二度もだ。

「これで大丈夫だよね!」
彼女の両手には全部で11枚の花びらがあった。追加の二枚は俺の髪についていたものらしい。
すると一度両手を固く閉じ、それを勢いよく上で開いた。
花びらは風にのり、俺らの場所を離れて見えなくなっていく。その様子を二人で見届けた。

「桜ってどうしてすぐ散るんだろうね?」


「すぐ散る位儚いから綺麗なんだよ。」


「桜は散らなくても綺麗だよ!」


「散ることで印象深く映るんだって。」
そう言うことで事を切り上げて先へと進む、しかし彼女は何を思っているのかその場から動こうとしない。
気づいていない彼女に充分に聞こえる大きさで叫んだ。

「まみ!置いて行くぞ!!」

「あ!待ってよ!! ろー!」


 後ろからまみが走って追いかけてくる、このアングルからの映像を昔も見た。
色々と景色の様子は異なっていた、あれは11月の夜更けのことだ。
初めて会った時、彼女まみは家出少女だった。

 街中で一人ただずんでいる少女はさみしそうな表情を浮かべながら動こうとしなかった。
後になって行くあてがなかった…と彼女は笑い話にする。実際に笑えないパターンも多く存在するので俺なら冷や汗ものだが。
とにかく彼女は目的もなしにここへ来た、お金も連絡手段も手荷物一切なし身一つの状態、いわゆるNAKED(丸裸)だ。
それで途方に暮れていたところ、たまたま俺と話す機会があった。(やらしい意味じゃなくて)
それが初対面で、まみにとっては唯一できた接点であった。

 それで今日に至る。 三年前の話だ。


「ろー、今日もお店行くんだよね?」

「行くよ。」

「最近ろーはあの店に毎日行くけど何かあったの?」

「…仕事だよ。」

「本当に〜?」

「…飯ぬきにするぞ。」


 そういうと彼女はごめんごめんと笑う。
三年前の記憶でもまみはこの調子で俺についてきていた、あの時は変な拾いものをしたという気持ちもあったが…。
今はずっとついてきてほしいと思っている。恥ずかしいから言えないけど。

 そんな調子で俺たちはお店へと向かうのだった。


STONEBACKS COFFEE、通称ストバに俺とまみはいた。
とあるビルの一角にあり、河川敷の風景を楽しめる穴場スポットである。
大通りからは少し外れているため静かで、客入りも多すぎず少なすぎず雰囲気も壊さずでいい感じの店だ。
カフェとしての利用もだが、待ち合わせとして利用されることも多いストバ。俺たちも今日は待ち合わせのために来た。

 「ろー、ごちになりま〜す♪」
お茶をしにきたわけではない、決して。

「よぉ 呂!今日はまみちゃんも一緒か。」

「いしごさん!」
 
会話に入ってきたのは、中富 石悟(なかとみ いしご)。こいつとはもう5年の長い付き合いがある。
俺が独りの時から何かと絡んでいた。もちろんまみのことも知っているし、二人の出会いから今日までのエピソードを語れる友人だ。(結婚式の仲人はするとしたらこいつだな。)
特徴はいつも黒のテンガロンハットを被っていること。後この店のオーナーである。

「まみちゃんは久々だろ、奢るよ?」

「ごちになりま〜す♪」

「呂はいっっちばん安いのでいいよな?」

「いいけど強調しすぎだろ」
引用なし
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Duplex 一章
 キナコ  - 10/3/31(水) 3:26 -
  
ほどなくして注文したメニューが届いた。まみは注文した桜風味のフラペチーノと豆乳とラズベリーのパンケーキに舌鼓をうっている間、俺といしごは席から立ちテーブルから距離を開けていた。
というのも彼女に聞かせる話ではない、今日ここに来た目的はいしごが持ってきた情報なのだから。いしごの奢りというのもまみに聞かれないための配慮だろう。

「で…前から頼んでいた情報だけど…」

「情報自体はネットで検索するだけだから簡単だ、といっても呂みたいな奴は大概ウソの情報にだまされるけどな。」
俺の家にはインターネットをする環境はなく、パソコン自体持ってない。その点いしごは仕事用にとパソコンを所持していて、よく情報を教えてもらっている。

「病院は別にでかけりゃどこでもいい、一番安いのはここ。」
いしだからもらったプリントには調べてもらった情報がそこに記されていた。病院の場所から医者の名前、料金やアクセスマップ等も。
初めて聞くような場所であったが特に不安はない、というのもいしだは情報収集する力が優れているからだ。
プリントを折りたたんでいる間、目でまみのいるテーブルを見た。彼女は手鏡を覗き込みながら、黒いセミロングの髪を整えている。
こちらの行動に気づく様子はない。大丈夫だ。

 
 「その病院の件だが、まみちゃんの偏頭痛のためなんだろ?」
あまりまみの名前をだしたくないので、静かにうなずいた。彼女は残りのパンケーキを堪能しているので気づきそうにはないが一応だ。

「確かにあの子は保険証ないから高額になるし、お前の財布事情を考えたら一発で治したいよな」
ここ最近の悩み、それがまみの偏頭痛だ。週に2,3回のペースで彼女は夜、痛みに苦しめられていた。
本当はすぐにでも彼女を病院に連れていくことが最良だった、しかし病院を行くことを拒んでいた。理由は治療費という金銭の問題。
元々転がり込んできた上に豊かではない生活なので、病院に行く余裕はない。それは彼女の良心にとって許すことのできないことだった。
また日中はその偏頭痛に襲われることはなかった。それ故に耐えれる程度にまで身体を休めることができる為、彼女の病院へ行く決心を削いでしまう。
しかしその疲労は確実に溜まっているはずだし、なにより毎回痛みに耐える姿が痛々しくて見るに堪えなかった。

 だからこその決心だった。しかし石悟は俺の決意とは裏腹に微妙な表情だった。

「ネックなのは彼女のもう一つの持病、記憶喪失な。」

持病…というのもひっかかるが、まみは記憶喪失であることは確かだった。
三年前、街でひとりただずんでいたこと、行く当てがないといって笑っていたのも全てはこれが原因だった。
自分が今まで生きてきた痕跡がその場になかった。今の状況がどういうものなのか比較する対象が彼女の中に存在せず全てが初めてであった。
だから恐怖や不安の感情を持たなかったのだろう。だが…今は違う。
この三年間で彼女の中に規範となるものができた。何も知らない赤子ではなく知恵をつけているのだ。
 

 それを俺は言葉にした。 記憶喪失よりもまず偏頭痛だ。それにまみ自身過去の記憶に興味がないことや記憶喪失による体調不良はないことからだ。
だが彼、石悟の返事は俺の見当と異なっていた。


「まず、まみちゃんの偏頭痛の原因の記憶が失われていること。CTスキャンとかで物理的に原因が分かればいいが、精神的なものだと途端にその姿をくらます。
ストレスが痛みの元だとしたらストレスを作った原因を暴かない限り治療は望めないってこった。」


そしてストレスが原因だった場合、カウンセラーの診療代も別途かさむ。
原因を突き止めるために手探りのまま治療を継続するので、治療費が膨らむという旨だ。


「第二に、まみちゃんにもし他の持病があっても当の本人の記憶もなければ正式な医療記録もねぇ。治療方法と持病によっては命の危険もある。」
石悟の見解では命の危険の可能性は限りなく低いが、不要に負担をかけてしまう可能性は十分にあるとのことだ。


「それでも…いつ深刻な症状になるか分からないから…消せなくても和らげればいい。金はどうにかする。」


「違う!問題なのはここからなんだよ。」


石悟の第三の仮説は絶望的なものだった。
引用なし
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Duplex 一章
 キナコ  - 10/3/31(水) 3:30 -
  
 あの後俺とまみはすぐに店を出た。
野暮用を終えて、食事を友人宅で済ませ家へ帰った。
彼女は久々に充実したと満足していたようだが俺にはその記憶さえ曖昧だった。
あの石悟の仮説があまりにも衝撃的すぎて…。
 
 第一の仮説は偏頭痛の原因が記憶喪失によって認知されていない場合。
状況的には記憶を失う前からも痛みが継続されている場合だ。
彼女の痛みが物理的なものか精神的なものかを検査してもらわねばならないのだが医学的に異なる分野だ。
前者は外科医、後者はカウンセラー。
外科医の方は程度にもよるが入院をするために莫大な費用がかかるし、カウンセラーは長期にわたって払い続けなければならない。

 第二の仮説は治療に踏み込もうにも彼女の体質は認知されていないこと。
家出少女である彼女の身元は不明なので本来ならデータベースにあるはずの情報を引き出せない。
つまり治療方法を選ぶことから一種の博打となってしまうこと。
死ぬ可能性もあるというのはこれの過剰表現だ、ただ楽観視できる要素はどこにもない。


 そして…これがある意味一番最悪の結果になる可能性。


*****

「いいか呂。3つ目はもし偏頭痛の原因が記憶喪失であった場合だ。」

「記憶喪失が?」

「記憶を失うといっても情報が脳から出て行くわけではない。情報が封じ込められているといったほうが合っている。
まみちゃんはこの古い記憶の上に新しい記憶を作り上げているわけだ。痛みの原因はきっとこの古い記憶と新しい記憶との【ずれ】だ。
痛みを取り戻すにはこのずれをなくしてしまえばいい。」

「どうやって」

「催眠術、心理カウンセラー…それでまみちゃんの眠っている記憶を呼び戻せばいい。それで痛みからは解放される。」

「痛みから…?」

「別の苦しみに襲われる。」

「どういう意味だよ。」


*****

 第三の可能性。
それは記憶の修正による人格の崩壊
人格を形成することとアイデンティティの事柄は切り離せない関係である。
そしてアイデンティティ、【自分】というものを説明するには記憶が必要不可欠なのである。
親、兄弟、友人やコミュニティの所属といった【人との繋がりの記憶】が自分の性格や趣向に大きく影響する。
彼女の記憶は眠っている。もし彼女が18歳だとしたら15年もの記憶がある。
比率からみても、まみから見た彼女の真の人格は封じ込められたままなのだ。
そしてこの三年間は偽りの人格を演じていた ともとれる。
本当の自分を隠し、偽りの自分を演じなければならないストレスが痛みの原因であると石悟は仮説をたてたのだ。

 もし眠った記憶を呼び起こしても、今の記憶と上手く結び付くかどうかは分からない。
彼女の記憶が目覚めた時、その時点から彼女は15年目から記憶を継続していくかもしれない。
三年間の記憶(つまり俺とまみが友人として恋人としていた時間)がまみの中ではある種の夢として認識される可能性もある。
次からは赤の他人として接する可能性もある。
仮に上手く結び付いたとしても、彼女が今まで通り俺を好いていてくれるかどうかも分からない。

 最悪の場合は彼女の前の記憶と今の記憶が互いに反発した場合だ。
元の性格と今の性格が全く異なった場合、彼女は自分を見失う。
自分を見失って精神が壊れる可能性もある。


 「まみ…。」

布団の上で呟いたが返事はない。
偏頭痛は今日は襲ってこなかったらしい。
けど、このままでは終わらない。
不意に訪れる痛みにまみは苦しまなければならない。
救うための治療が逆にまみの首を絞めることになるのかもしれない。
彼女を殺すかもしれない。

「どうしたらいい…。」


*****
 あの時の優柔不断な自分を呪った。
あの夜、悩みに悩んでも答えは見つからなかった。
…見つかるわけがなかった。
関わっているのは俺とまみの二人だ。
独りで納得いく答えを導き出すのは不可能だったのだ。
必死で答えを探そうにも現状が変わるわけではない、それを認めずにいた俺は疲れて寝てしまっていた。

 翌朝、寝過した俺はその異変の予兆に気付くことはなかった。
だが、目を覚ました時に絶望するしかなかった。

配膳しかけのテーブルの皿。
流れ続ける水道。
そして開けっぱなしの玄関。

意味することは一つだった。

「まみが…いない。」


一章 END
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つたない感想を。
 チャフカ  - 10/4/3(土) 15:48 -
  
チャオ小説とは思えない雰囲気で、飲み込まれそうになりました。

呂とまみを取り巻く環境・状況が今の自分に少なからず似ていて、呂の心にある複雑な気持ちを感じられたような気がします。

これからチャオの登場によって、どのように話が展開するのか楽しみです。

では、また。
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感想ありがとうございます
 キナコ  - 10/4/10(土) 0:25 -
  
まず初めまして キナコです。
次に返信が遅れてしまって本当に申し訳ないです。

話にのめりこんだ、というより共感されてもらえて正直ほっとしています。
一章というスタートからいきなり長文とか哲学的な話で不親切かなと思いましたが…今となっては幸いですね。

今週中に次章を投稿予定なのでぜひともよろしくお願いします

感想ありがとうございます 励みになります。
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