●週刊チャオ サークル掲示板
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テスト
 スマッシュ  - 11/12/23(金) 0:06 -
  
 六月は一足先に去った梅雨を追って過ぎ去ろうとしていた。快晴の六月最終日は木曜日だった。雲を退けて顔を出した太陽は気温を急上昇させている。教室は電気を点けずとも明るい。思わず体を外へ向かわせたくなる日だ。余計能動的になっていてもおかしくない通は前の週と同じくチャオガーデンに行くと祐介を誘わなかった。今度は「チャオガーデンに行かないのか」と尋ねることはなかった。
「明日さえ乗り切ればなんとかなるな」
 明日から期末試験であるからだ。チャオガーデンに行く余裕はない。成績にも関わる。なるべくいい点数を取りたいと思う二人だ。祐介の出す話題もこればかりになる。土曜日曜は休み。初日をどうにかやり過ごせば二日間の休日が勉強をするゆとりをくれる。
「土日にどれだけ勉強するかだよな」
 二人で予定を話し合う。試験期間中は半日で終わり。午後を勉強に使うとして土日にどの教科を勉強するのが利口なのか。通は金曜日の午後から日曜日までを使って二日目三日目の対策をしてしまうと言う。祐介は苦手教科の補強をしようという狙いでいた。しかしおそらく遊んでしまうだろうと自虐して二人は笑った。ともかく問題は明日だと真面目に戻る。
「勉強してる?」
 全然やっていないと通は答える。「チャオガーデンで英語やったくらいだな」丁度初日の教科だ。それ以外何もやっていないと述べる。
「それまずくないか」
 もう余裕は半日もない。しかし徹夜で何とかすれば、と楽観している。その次の日が休日だから負担が少ないとのことだ。その調子で作戦通り試験二日目以降の対策をやれるのか怪しいところだ。通の成績が低落する兆し。ここで見えてしまった以上自分も同じようにはなるまいと思う祐介だ。

 試験一日目。外に出て学校へ向かわなくてはならない。憂鬱である。天気は快晴。世界は急に明るくなってどうしようと言うのか。悪天候の名残のような体。日光を遮ってアスファルトを黒くしながら歩く。晴れの日だからといい気分になれるわけがなかった。誰にとっても空は遠いものだ。気分の雨雲はそれより自分に近い場所に発生する。となれば目に見える分地上に熱を照射している太陽が鬱陶しく思うこともある。最高気温が三十度を超えるだろうという天気予報がその気持ちを加速させる。いつもより早く帰ることができる利点を考慮してもテストは学生のテンションを大きく下げてくれる。ここを突破すれば夏休みは目の前。それだけを推進力にして惰性で進んでいるような時間と共に進んでいくのだ。
 祐介が教室に入ると教科書をむさぼるように見ていた通が開口一番「やべえ」と言い放った。
「いきなりどうした」
「聞いてくれよ。昨日ついゲームやってたら寝る時間になっていたんで寝たら朝になってた」
 つまりどういうことなのかと聞くとゲームと睡眠で勉強する時間の全てが潰れたのだと言う。「あほだお前は」それともわざわざ勉強するまでもないという自信の表れなのか、とからかう。
「違うんだ。聞いてくれ俺の果てのないかと思われた壮絶な戦いを」
 それよりも勉強をした方がいいと指摘してやっと通の目は教科書に戻る。やれやれと祐介。自分まで残り少ない時間を雑談に食われるはめになるのはごめんだった。最後の抵抗を続けるがまだ足りないと思うところで担任が入ってくる。自信のなさを拭えないままテスト用紙が目前に迫ってくる。通の様子をうかがうと既に灰のようになっていた。
 英語の試験。日本語とは違う形の文字が連なって文章となっている。集中しないとわけのわからない記号の羅列に見えて頭が理解しようと動かない。慣れ親しんでいないものを理解するのは難しい。今まで知っていたルールが適用できるとは限らないからだ。似ているようでも別のものなのだ。茜が答えられなかった問題を見つける。教科書からの出題であるため通の出した問題がそのままテスト用紙にある。だから祐介はすんなりと答えを書き込むことができた。茜も今頃この問題と直面しているのだろうか。あの時のおかげで答えられただろうか。それとも思い出せなくてもどかしい思いをしているのか。彼女のことが気になる。チャオを慈しむ姿が記憶から浮かぶ。あの姿も過去の自分と重なるようで重ならない。チャオを飼っている点では共通するもののそれ以外は大きく違っているように思う。僅かな一致と深い差異が祐介に興味を持たせる。しかし今は試験中。彼女のことを考えて時間を失うのは痛い。試験に集中しようと目が机に近づいた。それでも離れるまでに少し時間がかかった。
 一つの教科が終わるごとに肉体と意識の連結がカットされていた通も放課後になって復活した。打ち捨てられた人形のような感じはなくなった。その一方で「今日から勉強頑張る」と改心したのかそうでないのかわからない。家に帰ればすぐにゲーム機に飛びつきそうで成績の三途の川を行ったり来たりしている。舟には彼の心情も乗せられている。月曜日にはまた彼の精神的大出血を見ることになるかもしれない。それはそれで面白いかもしれないと祐介は思う。他人の心配はあまりしないタイプなのだ。昼間の真上から刺すような日射の方が深刻だ。汗が少しずつ浮かんできているのを感じていた。それに合わせて焦燥感もにじみ出てくる。自分は何に焦っているのだろう。そう不思議に思いながら帰宅した。

 部屋に入って寝転がる。きっと机に向かって勉強を始めればテストの点数が高くなるのであろうが体はベッドに吸い込まれた。布団の引力と教科書への反発によって大抵の人間はこうなってしまうのだ。テストが終わって学校から帰ってきてすぐに勉強に戻れる人間がどれだけいるだろう。昼食の後誰もが趣味や睡眠に引き寄せられるはずだと祐介は信じている。それを理由に自分も枠にはまっている。意思の強い人間はうらやましい。それほどまでに気分は理性を振り回す。頑なな人。茜がきっとそれだ。そう思ってはっとする。もしかしたら彼女はこの休日もチャオガーデンに行く気なのではないだろうか。そして勉強はろくにしない。そうだと仮定した時の祐介の彼女を見る目は通の時とは違う。憧れで瞳孔が開く。口元が緩む。そういう人間がいることに喜びを覚える。藤村茜は祐介にとって希望なのだ。そして自分もチャオガーデンに行きたいと思う。行こうかな、そう考えていると自発的にチャオガーデンに行こうとするのは随分久しぶりであることに気づいた。この一ヶ月自分から行ったことはない。だから三年前のことになる。チャオが死ぬ数日前に行ったのが最後だ。今祐介はチャオを飼っていない。それなのにチャオガーデンに行こうとすることに抵抗があった。流行していた時期は飼っていなくてもチャオを見るためにガーデンへ行く人はいたものだが。しかし好きでもないのに行くケースは少ない。ブームが廃れた今となればなおさらだ。チャオは好きだが近寄ることに抵抗がある。自分のせいで転生できなくなってしまうような気がする。だからこの一ヶ月、チャオと一切触れていない。死なせてしまった、と思っている。祐介は転生を見ることしか考えていなかった。そのために可愛がっていた。目当ては転生でチャオを愛しているからなでるわけではない。その行為に罪の意識がどこかにあった。だから卵が残らずに消えてしまった時不純な心を指摘されたように感じた。悪いのは自分。それが永遠はないという認識と共に脳に焼きついた。趣味もいつか興味が失せて終わってしまうもの。永遠ではない儚い行為。大多数の人間がそうだと祐介は確信している。しかしそれはその人が脆いからなのだとも同時に思っているのだ。趣味が頼りないものだから手に取らないわけではない。自分がいつかその趣味に飽きてしまうであろう人間だからできない。祐介は探している。自分を変えてくれる何かを。世界は面白さに溢れているのだと証明される日を待ち望んでいる。茜にはその素質がありそうだった。問題はそのためにチャオガーデンへ行って彼女の傍にいることの是非。チャオのための場所をそのような足で踏むことに罪悪感がある。しかし彼女の他に頼みの綱はない。迷い迷った祐介の脳裏に突如現れたのは通と紗々の顔だ。二人は自由気ままに動いている。チャオが好きでもないのにガーデンを頻繁に訪れては楽しんでいる。通がふざけて遊ぶように紗々が人と話して笑うようにやりたいことをすればいい。そう結論すればもう考える必要はない。チャオガーデンに行くことに決めるのであった。
引用なし
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