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私は絵美(えみ)。
友達からはエミーって呼ばれている。
私には好きな男の子がいる。
「もしかしてエミーって、フシのことが好きなの?」
「なに、フシって」
「不思議ちゃんだからフシ。エミーって面食いなんだね」
「やめておいた方がいいよー。顔が良くても性格が変じゃあねえ」
「そうそう。続かないぞ」
不思議ちゃんだから、フシ。
なんて不名誉なあだ名なんだろう。
だけど私は二人を怒る気にはちっともならなかった。
だって、彼が不思議ちゃんなのは、私も認めるところなのだ。
彼――八千雄(やちお)くんは休み時間の時なんかによくシャープペンを持って、指揮者の振りをしている。
目をつぶって、聞こえるわけのない演奏に耳を澄ませている。
どうも吹奏楽部に憧れがあるらしいのだ。
でもこの中学に吹奏楽部は無い。
だけども近所には山がある。
山の中にある森は、どういうわけかチャオの森って呼ばれている。
なんでそんなふうに呼ばれているのかは誰も知らない。
チャオっていうお化けが出るっていう噂はあるけれど、それがどんなお化けで、どんな呪いをかけてくるのか、誰もちゃんとしたことは知らない。
でもね。
私は知っている。
たぶんお化けなんていないこと。
そして、そこで八千雄くんがトランペットを吹いていることを。
チャオ聖誕祭記念作品
チャオの森のエミー
2020年12月23日公開予定
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