●週刊チャオ サークル掲示板
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十ニ月二十二日 二十三時二十四分
 冬木野  - 09/12/24(木) 21:28 -
  
 月夜に映える湖。とても綺麗だ。その時の僕は、自分の置かれている状況の事も考えずにそんな感傷に浸っていた。
 湖というわりにはなかなかに大きく、ここを泳いだら気持ちいいだろうなぁと思う。寒中水泳になるが。
「あてててて。ボクオモチャオで良かったチャオ。普通のロボットだったらとっくに装甲がガタガタチャオ」
 そんな僕の気分をガタガタにしてくれたロストは、めんどくさそうにゼンマイを回しながら愚痴を呟いていた。
 結局、僕等を襲ったGUNのロボット達はロストが一掃してくれた。噂に聞いてはいたが、体当たりだけで敵を殲滅する事の出来る装甲は正しく伊達じゃなかった。かのマリオやソニックなどが無敵状態で相手に突っ込む様は、まさしくオモチャオみたいな物なのだろう。……とすると、オモチャオって最強だな。そんな考察はさておき。
「さて、これからステーションスクエアへ急がないといけないんだけど……みーちゃん、ひょっとしたらもう待ってないかもしれないチャオ」
「待ってない、って?」
「だって、GUNのロボットに囲まれて見事に一ヶ月経っちゃったチャオ。すぐ帰るって言ったのに、約束破っちゃったから……」
 ……あれ?
「ねぇ、今日って何日?」
 ロストは電波時計でも確認しているのか空を見上げる。そして五秒くらいで結果を割り出した。
「十二月二十二日、二十三時二十四分二十五秒。いいタイミングで聞いたチャオね」
 いや、その五秒は明らかに調整しただろ。
 ……十二月二十二日。つまり聖誕祭前日。ちょうどボクが旅に出てから一年が経ったという事になる。意外に短かったものだ。
 そして、僕も約束を破ってしまう事になった。この調子では、とても明日ミスティと再会する事は不可能だ。
 一体、どこで狂い始めてしまったのだろうか。カオスに出会ってから? いや、もっと前から狂っていたのかもしれない。僕が生まれた頃からか、それよりも前か。
「……嫌だ」
「え?」
 想いが、口から出た。人生初めての約束。僕はそれを破りたくはない。
「行こう。こんな所で諦めちゃいけない」
「おーっと、誰が諦めるって言ったチャオ? 全部GUNのせいにでもして、さっさとみーちゃんの所へ急ぐチャオ!」
 僕とロストは勢いよくハイタッチした。いつの間にこんな仲良くなったかは知らないが、その場のノリという奴だろう。相棒はすでに準備が出来ているようであり、僕が乗り込んでくる事を待ち侘びていたかのようだ。
「随分と遠回りになったけど、さっさとこの山を降りるチャオ! 聖誕祭が街で待ってるチャオよ!」
 力強く頷き、相棒の元へ飛び乗ろうとした時。

 湖の水が、揺れた。
「え?」
「ん? どしたチャオ?」
 ロストの気に掛かったような声には何も言わず、僕は湖の近くへと駆け寄った。湖は揺れ続けている。
「え? これ、どういう事チャオ?」
 僕にもわからない。見た感じ、ここにアヒルやカモが泳いでいる様子は無かった。
 そして、その理由はすぐにわかった――いや、語りかけてきた。

 ――基 ノ 元 ヘ

「……カオスだ」
「な、なんですと!?」
 ロストも慌てて僕の所へと駆け寄ってきた。彼にもわかるように、僕はカオスの言葉を辿った。


 我ト似テ非ナル者ヨ
 我ハ汝ノ運命ヲ救イタク思フ
 汝 我ニ会イタクバ基ノ元ヲ訪レヨ
 汝ノ帰リヲ待ツ者ト共ニ 我モ汝ヲ待トウ
 汝等ノ未来ノ為 我ハ汝等ト共ニ闘ワン


「むむむ、言い方は小難しいけど、内容がわかりやすくて助かったチャオ。まさかあのカオスが、ボク達と協力してくれるとは」
 一度は危害を加えられそうになった僕としては複雑なものがある。が、ここでこの誘いを断ると、僕達の未来は無くなってしまうかもしれない。
「でも、問題は待ち合わせ場所チャオ。基の元って、一体何処チャオ?」
「……マスターエメラルド」
 ポツリと、僕の口から言葉が出てきた。
「マスターエメラルド? つまり、エンジェルアイランドって事チャオか?」
 頷いて肯定した。そして僕は言葉を続ける。
「行うもの基は七つの混沌。混沌は力、力は心によりて力たり。抑えるもの基は混沌を統べるもの」
 聞き入っていたロストが、唖然とした表情をしている、ような気がした。
「……な、何チャオか、それ?」
「何だか知らないけど、僕達チャオは何故かこの言葉を知ってる七つの混沌のカオスエメラルドに――」
「なるほど! それを統べるマスターエメラルド! つまりそれのあるエンジェルアイランドに来いって事チャオね!」
 頷いて肯定した。でも、一つ問題がある。
「……今、エンジェルアイランドってどこに?」
 ロストが盛大にずっこけた。
「そ、そうチャオ。エンジェルアイランドと言ったら、お空に浮かぶ島チャオ。僕達にはそこに行く手段が……アレ?」
 そこまで言って、ロストが急に続く言葉を止めて空を見上げた。また時間の確認をしているのだろうか。
 気になって一緒に空を見上げてみる。勿論何がわかるわけでもなく、ただぼーっと空を見上げる。
「た、たたた大変チャオ!」
 急にロストが大声をあげたので、そのまま湖に落っこちそうになった。何とか体勢を立て直す。
「GPSで確認したら、エンジェルアイランドが降りてきてるチャオ!」
「ええっ!?」
 なんだって? また何かあったっていうのか? いや、それともカオスが島を降ろしてきたのだろうか?
「とにかく、ちょっと様子を見に行ってみるチャオ!」
 急いでスケボーの上に飛び乗り、緊急発進を促す。相棒は今までにないくらいのスピードで走り出した。


 長かった山の上の生活に別れを告げ、ようやく僕はレッドマウンテンを降りた。降りて、僕は目を疑った。
 本当に、目の前にエンジェルアイランドが下りてきていたのだ。
「どういうことチャオ……?」
 夜の暗闇の中に光る緑色の光。きっとマスターエメラルドの光だ。やはりエンジェルアイランドに違いない。
 そして、その光が影を落としているように見える。あれが僕達を待っている人達なんだろうか。
 橋を渡り、逆時計回りに回る。その子はずっと突っ立って、僕の事をずっと待っていた。約束通りに。
「ミスティ!」
「スナフキン!」
 スケボーから落ちた。
「あっ! だ、大丈夫!?」
 首を横に振った。ここ、ボケるとこじゃないよ……。
「みーちゃん! なんでここにいるチャオ!?」
「え、みーちゃん?」
 みーちゃんって、ミスティの事だったのか。僕の理解をよそに話が進む。
「あの、なんて言うか、カオスがね……」
「カオス!?」
 まさか、ミスティの事まで呼んでいたんだろうか? 彼女の事は関係無いハズなのに。
「あっ……」
 ミスティが驚いたように後ろを指した。その先を見ると、……今さら驚くのも億劫になってきた。
 カオスだ。いつの間に、とか、言う気も起きない。一応さっき会話らしき事をしたばっかりだし。問題はそこではない。
「何のつもり?」
 僕達をここに集めた理由。一体僕達に何を告げ、何を求めるつもりなのか。それが知りたい。
 だがカオスは何も答えず、空を見上げた。なんなんだ。空を見上げれば情報が手に入るのは常識なのか? 真似をするというわけではないが、僕も、ミスティとロストも空を見上げた。
 月明かりと共に輝く星の光。やはり綺麗だ。この旅で見慣れた景色。たがそこに、一際揺らめく光があった。いや、揺らめくというより、動いているような。それでいて、見覚えがあるような……。
「何、あれ?」
 二人もそれに気付いたらしく、揺らめき動き――こちらに向かってくるその光に目を奪われていた。……あ。
「ティカル?」
 頼んでも無いのに光になって去っていったあの人。あまりにも急だったのでよく覚えていないが、あの光は間違いなくティカルと名乗ったあの人だ。
 やがてその光は強さを増し、僕達の元へ降りてくる。その輝きは直視できないほどにまでなり――光が収まる頃には、いつかに見たあの人の姿があった。
 間違いなかった。どこか昔の香りがするハリモグラ、ティカルさんだった。この人が僕達を呼んだのか?
「今宵」
 挨拶も何も無い。彼女はただ、何かを読み進めるように言葉を続けた。
「異なる種族は交わり、皮肉な運命を辿って、一族は滅亡する」
 カオスの瞳が揺れる。ミスティとロストはわからないようだったが、僕にはなんとなくわかった。カオスは、今のこの世界で起こっている事を同じ事を知っているような気がする。
「力を求め続けた私達の一族と同じように、今度はこの世界の人々が、同じ運命を辿ろうとしている」
 哀しみに満ちた顔を上げ、僕達を見つめる。口先で言わずともわかる、僕達へ訴えるような瞳。
「今なら止められます。あなた達の手で、この輪廻に終止符を」
 この輪廻に終止符を。使命感が重く圧し掛かり、僕はごくりと唾を飲み込む。
 やりたくないと言っても、その使命は間違いなく僕達に困難を与える。僕は「やるしかない」というのが大嫌いだ。可能ならば、何事にも他人の振りをして知らん振りしてやりたい。でもそれができない。これがやるしかないという事なのか。……性質が悪い。
「光の示す方向へ。その先に、抑えるべき混沌が巻き起こっています」
 ティカルと、カオスが、腕を上げてその方角を指で示した。そしてそれと同じくしてマスターエメラルドの輝きが増し、同じ方角を光で示した。
 カオスエメラルドがあるわけではない。その先には僕達、人間とチャオが引き起こしてしまった混沌があるに違いない。僕達はそれを抑えなくてはいけないのだろう。僕達の進む未来に、同じ過ちが起きないように。


 エメラルドの光が収まった頃。
 僕達が再び前へ向き直ると、すでにティカルとカオスはいなくなっていた。言いたい事はこれで全部、という事なんだろうか。
 二人の方を見るとき、僕はミスティと視線が合った。随分と間の抜けた顔をしている。僕も多分、同じ顔をしているに違いないが。向こう側にいるロストは、エメラルドの光が示した方角をじっと見ている。
「……セントラルシティ」
「え?」
「ステーションスクエアの近くの街チャオ! 駅から電車で行けばすぐチャオ! 急ぐチャオ!」
 オモチャオが飛び上がったが、僕達は動かず。
「何してるチャオ? 早くするチャオ!」
 そうやって急ぐロストを、僕達はただ冷めた目でじっと見ていた。先に口を開いたのはミスティだった。
「もう電車ないよ?」
「あ」
 ただいまの時刻、そろそろ零時。こんな時間に走る電車はいない。即ち、ロストは平気でも僕達には大問題だ。あっちにつく頃には寝不足まっしぐら。
「んー、困ったチャオー。せめて自動車とかの移動手段があればよかったのに……」
 あったところで、誰も免許を持っていない。ティカルとカオスも再び出てくる気配はないし、打つ手が無い。この相棒がもっと早く移動できればなんとかなったかもしれない。そんな目で見ていると、相棒が急にその場を勢いよく回り始めた。もしかして、やってやるって言ってるつもりなのか? 相棒のスピードは確かに早いが、所詮スケボー。自動車に対抗するのは難しいだろう。

 そう思った時、相棒の元から急に強風が吹き始めた。
「うわっ!?」
「え、きゃあっ!?」
 突然だった。相棒が宙に浮き始め、タイヤを格納した。ボディに厚みがかかり全体的にサイズが少し大きくなる。後部に穴が開き、そこから目に見えて色付いた空気が吹き出す。
「これ、本当にエクストリームギアチャオ!」
「え!?」
 えくすとりーむぎあ? これがそうだと言うのか?
 静かに風を吹かしてその場に低く浮き続ける、見た事の無い乗り物。

 ――こいつに乗ると風になったみたいな気分になってね――

 あの人の言葉を思い出した。ひょっとして、これがこいつの本当の姿なのか? 今までは板切れにタイヤをつけた、ただのポンコツだと思っていたのに。
「私が乗る!」
 ミスティの決意したような声。僕の元へ駆け寄って、リュックと僕を分離した。
「リュックの中に入ってて!」
「えっ?」
 何か言うのも待たずに僕をリュックに押し込め、僕は頭だけ出す形となった。
「落ちないでね!」
 ミスティが相棒に飛び乗る。その勢いか、宙に浮いていた相棒は慣性で揺れる。そっちが落ちないか心配だ。
「このまま線路沿いに行けばすぐチャオ! 急ぐチャオ!」
「うん!」
 相棒は一気に走り出した。今までにないくらいの風のようなスピードに、一瞬気を失いそうになった。
引用なし
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A−LIFE 冬木野 09/12/24(木) 21:21
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四月三日 冬木野 09/12/24(木) 21:23
六月五日 冬木野 09/12/24(木) 21:24
九月一日 冬木野 09/12/24(木) 21:25
十一月二十日 冬木野 09/12/24(木) 21:26
十ニ月二十二日 三時三十三分 冬木野 09/12/24(木) 21:27
十ニ月二十二日 二十三時二十四分 冬木野 09/12/24(木) 21:28
十二月二十三日 零時零分 冬木野 09/12/24(木) 21:29
十二月二十五日 冬木野 09/12/24(木) 21:30
ケーキの箱じゃないよ 感想を入れる箱だよ 冬木野 09/12/24(木) 21:35
南斗感想拳! スマッシュ 09/12/25(金) 0:33
はえぇよww 冬木野 09/12/25(金) 0:57

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