●週刊チャオ サークル掲示板
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3:平日部
 問題式部  - 13/8/29(木) 6:58 -
  
 目覚ましが好きな人なんてそうそういないだろう。という理屈で、僕は目覚ましを使っていない。だが時間通りに起きれる人間でもないので、いつも彼女が僕のことを起こしにくる。
「ほらほら、もう朝ですよ」
 まだ6時にもなってないのに、朝食を作り終えて黒いスーツで決めた彼女だ。僕よりも年上で立派な成人の自称彼女。自分の家をほったらかして、僕の家に住み着いている。
「……10分あれば間に合う」
「その言い訳は聞きません。ほら、起きる起きる」
 彼女と本人は言うが、僕にとっては姉か母みたいなもの、はっきり言えば鬱陶しい身内みたいなものだ。
 そもそもなぜ高校生の僕が成人女性と付き合ってるかと言うと、中学一年の頃の下校中に一目惚れされたのだ。今どき一目惚れというのも珍しい話だ(個人的にはそう思っている)。当時彼女は高校三年生、歳の差で言えば五つか六つあるわけだ。大人になれば歳の差カップルなんて珍しくないだろうが、学生の内はなかなか聞かない。
 というか、まだ告白された覚えもないのにこの生活はおかしい。そもそも件の惚れた理由だ。一目惚れと言われたときは嬉しかったのに、その場面というのが車に轢かれて無事だったときとか言うのだ。そんな妙なキッカケでベタベタされても正直困る。
「ほら、早く起きないと上から順に脱がしますよー」
「ざけんな」
 諦めて起きる。外はまだ全然明るくない。
「せっかく朝ごはんもお弁当も用意したんですから、どっちもおいしく食べてもらわないと」
「お前いつも何時に起きてるんだよ……」
 ご丁寧に朝食も昼食も用意できる時間なんてよく確保できるなと思う。何が凄いって、今までこいつは作り置きをしたことがない。全部早朝に作っているのだ。ここまで尽くされると嬉しいを通り越して正直引く。
「そろそろ自分のお家に帰ったほうがいいんじゃないんですかね……」
「私のことそんなにキライですか?」
「いやそういうことじゃなくてね」
「大丈夫です、家賃諸々すっぽかしてるわけじゃありませんから」
 そういうことでもない。やっぱり何言っても無駄か。


 さて、こんな早朝に起こされて朝食を済ませてしまうと、やることが全然ない。10分あれば学校に間に合うというのは嘘じゃない。僕の通う高校はそれくらい近い場所にある。
 小学校も中学校はそれとは対照的に結構な距離を歩かされたもので、これまた対照的に僕が漫画やゲームを沢山持っていた時期でもある。当時は遊ぶ時間を確保するためにとにかくがむしゃらに勉強していた。その努力の成果か、成績はトップクラスをキープできた。
 そんな自慢の黄金期は過ぎ去り、今では高校生活を元気に過ごす体力なぞこれっぽっちも残っていない。昔は輝いて見えた漫画やゲームも色褪せて見え、全部実家に置き去りにしてしまった。とか言いつつネットやライトノベルを嗜んでいるあたり、昔と趣味が変わってない気もするけど。
「携帯ゲームはどうですか? 比較的手軽に遊べると思いますけど」
「それもそうだけど。なんていうか、つまむ程度にゲームするのも違うんだよなぁ。もっとしっかり遊べるゲームがしたいというか」
「またムラのある性分ですねぇ」
 それは自覚している。似たような理由で漫画も手を出していない。いちいち週刊雑誌で話を追いかけるのもまだるっこしいし、かと言って単行本をまとめ買いすると結構金がかかるし読むのも疲れる。でも中途半端な巻数にはしたくない。
「じゃあなんて小説は読んでるんですか? しかもライトノベル」
「んー……なんていうか、活字だけだとこの厚さでもボリュームがあるように思うんだよ。それでいてライトノベルは気負わずに読めるしちょうどいいわけ」
 ちなみにいま適当に考えた理由だ。実際のところはなんでライトノベルを読んでるのか自分でもよくわからない。面白いって理由だけなら漫画もゲームも面白いものがあるはずなんだけどね。
「というか、お前がゲームなんか勧めていいのか? 僕と過ごす時間が減って嫌なんじゃないのか」
「まあ! 私のことをちゃんと大事に想ってくれてるんですね!」
 やべえ失言した。
「いやあのそういう意味で言ったんじゃ」
 僕の言葉も聞こえないのか、彼女は諳んずるかのように週末の予定を組み立てだした。僕の貴重な休日が勝手に彩られていく。
「どこかレストランでも予約して、いやそういうタイプじゃないですよね。遊園地とか? いっそ千葉まで行って」
「……じゃあ僕そろそろ行くから」
「あれっ、まだ早いですよもう少しゆっくりしていっても」
「テスト期間なんだよ図書館籠もって少しでも成績上げる」
「先週終わったって言ったじゃないですかー!」


―――――――――――――――――――――――――


 家を出て猛ダッシュしたせいで、学校に着いた頃にはへろへろのくったくた。無駄に汗をかいてしまった。
 この時期は朝練している部活もないはずなので、早朝の学校はがらんとしていた。僕以外にほとんど生徒はいないだろう。似つかわしくない静寂を纏わせた学校の校門をくぐると、まるで別の世界へ足を踏み入れたような錯覚を覚える。
 小学生や中学生の頃も朝早く登校したことはあったし、そのときも同じような錯覚を覚えていた。なにより、その錯覚が楽しかった。今も少し楽しいと思うあたり、僕もまだまだ若い。
「朝早く起きるのも悪くないかもな」
 そう呟いて、すぐに首を振った。僕らしくない言葉だ。
 下駄箱で上履きに履き替え、普通教室を普通に素通りし、渡り廊下を渡り歩いて、図書館までやってきた。途中で誰ともすれちがうことなく。今日は僕以外に誰もいないなぁと思いながら図書館の戸を引いた。
 人っ子一人いない静かな図書館――と思っていたが、なにやら異音が耳に入る。かなり小さい音だ。音のする方向へ向かうと、少しずつ音の正体がわかっていく。これは物音じゃない、なにかの効果音だ。ゲームだろうか?
 なんだか聞き覚えのある気がする。何かを射出するような音。正解する音。引き分けの音。間違える音。これは……。
「……ジャンケンシュート?」
 ぽろっと口から言葉が漏れた瞬間、スタートボタンを押した効果音が聞こえた。本棚を挟んだ向こう側の読書スペースだ。やや足早にそちらへ向かうと、図書館にいそうな少女が、図書館で珍しいものを手にしていた。今は昔のゲームボーイアドバンスSPだ。
 あんまりにも懐かしいものを見つけてしまって、少女共々まじまじと眺めてしまう。表情の少なさそうな顔に眼鏡を乗っけた、髪の長い少女。SPの代わりに本を持たせれば文学少女と呼んで差し支えない。
 少女は僕に見つかったときこそ少し驚いた表情をしていたが、すぐに不機嫌そうな顔になる。こっちを見るなと言っているのだろう。
「ああ。ごめん、邪魔した」
 適当に謝って、適当な本を本棚から取り出す。それから適当に少女から離れた席に座り、適当に流し読みを始める。僕の意識はジャンケンシュートに傾いたままだった。
 ゲームはすぐに再開された。効果音しか聞こえなかったが、少女のジャンケンシュートの腕前は確かだった。
 そも、ジャンケンシュートとはいわゆるミニゲームの一つであり、その名の通りグーチョキパーを射出し、動く的に当ててリングを稼ぐゲームだ。手持ちにはランダムに配られたグーチョキパーのカードが三枚あり、これをぐるぐると動き回る的に当てる。その的もグーチョキパーになっており、当てたときにジャンケンに勝っていればリングがもらえ、また新たにカードが補充される。あいこだと的だけ消え、負けると的は消えずにプレイヤーの残りライフが一つ減る。五つあるライフが全てなくなるか、制限時間を迎えるとそこでゲームは終了だ。
 的は常に十枚ずつ補充され、全て消すと制限時間が十秒プラスされて再び十枚の的が現れる。なのでジャンケンに勝つことに固執せず、ひたすら的を消すことだけ考えてカードを射出していけば、制限時間もリングも勝手に増えていく。つまり一秒一枚のペースで的を消せるようになれば、獲得リングが簡単にカンストするのだ。
 少女の腕前は間違いなくそのレベルだった。的が補充されるタイミングで早撃ちしたり、徹底してあいこを狙いにいったりと、ジャンケンシュートというゲームをよく理解したプレイだ。とにかくモタモタせず、時にはわざと負けてカードをコントロールしている。
 僕も昔はリング稼ぎの為に散々プレイしたゲームだが、補充される手持ちのカードには何か法則があった気がする。どういう法則なのか自分でもよくわかっていないが、とにかく手持ちのカードのどれを飛ばしてもジャンケンに勝てない、みたいな事態を避けるために、ジャンケンの勝ち負けでカードをコントロールしていた記憶がある。この少女も同じことをしている。どうやらかなりやり込んでいるみたいだ。
 まさかこんな古いゲームをやっている人がいるとは思わなかった。しかも同じ学校の女子だ。かなり希少な人物なんじゃないだろうか、これは。
 僕と同じ趣味を持っているのだと思うと、無性に話しかけたくなった。だが当の少女はむすっとした表情を崩さず、話しかけんなと主張するオーラが漂っている気がして、本を読む振りしかできなくなる。
 結局、ホームルーム五分前のチャイムがなるまで何もしなかった。僕が慌てて本を戻して図書館を後にするときも、少女はちっとも動く気配がなかった。


―――――――――――――――――――――――――


 期末テストが終わると、来るべき長期休暇を前に教室がざわめきだす。小学校で六回、中学で三回も体験した同じ休暇期間なのに、よく飽きもせずに騒げるものだ。僕だって嬉しくないわけじゃないが、個人的には予定なんてない。あいつは僕とのデートの予定でいっぱいにするつもりだろうが。
「よっ、優等生! 夏休みの課題写させてくれ」
「……誰だお前」
 急に知らない生徒が僕の席にやってきた。時は昼休み、目の眩みそうなほど愛を歌った彼女の恥ずかしい弁当を大急ぎでかっこみ、朝に削られた睡眠時間を取り戻そうとしていた矢先のことだ。
「誰ってオマエ、同じクラスメイトだろ。普通顔覚えてるだろうが」
「いや、全然……」
「はぁー? オマエ酷い奴だなぁー!」
 いちいちうるさい奴だ。なんで若い連中はどいつもこいつも落ち着きがないんだ。僕も若い連中だけど。
「とにかく他あたれよ。僕だってそんな暇じゃないし」
「ほんと頼むよそんな冷たいこと言わずに。課題すっぽかしたら小遣い減らされんだ」
「いや、そんなこと知らないし……だいたい僕が課題写させてやるメリットがないんだけど」
「なんだよオマエ、クラスメイトを助けるのにメリットがどうとか言うのかよ!」
「言うよ。だってお前のこと全然知らないし」
「はぁー? オマエ酷い奴だなぁー!」
 同じ言葉繰り返すな、鬱陶しいしうるさい。だいたいなんで面識のない相手に課題見せろとか図々しいことが言えるんだ。
「なぁ頼むってー! ほんとなんでもするからさ! この通り!」
 中身のなさそうな頭を下げるそいつを無視して、僕は次の授業の準備を始めた。相手をされていないことに焦って言葉を重ねたそいつだったが、僕にとっては良いタイミングで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
引用なし
パスワード
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つづきから 問題式部 13/8/29(木) 6:31
1:導入部 問題式部 13/8/29(木) 6:39
2:移動部 問題式部 13/8/29(木) 6:51
3:平日部 問題式部 13/8/29(木) 6:58
4:探索部 問題式部 13/8/29(木) 7:10
5:休日部 問題式部 13/8/29(木) 7:20
6:考察部 問題式部 13/8/29(木) 7:34
7:忌日部 問題式部 13/8/29(木) 7:38
8:帰宅部 問題式部 13/8/29(木) 7:50
9:変調部 問題式部 13/8/29(木) 8:06
10:結末部 問題式部 13/8/29(木) 8:23
11:再開部 問題式部 13/8/29(木) 8:28
12:再会部 問題式部 13/8/29(木) 8:40
13:起床部 問題式部 13/8/29(木) 8:48
おわり 問題式部 13/8/29(木) 9:36
感想です スマッシュ 13/8/30(金) 23:59
感想 ダーク 13/8/31(土) 23:23
乾燥です(爆) ろっど 13/9/4(水) 20:54

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