●週刊チャオ サークル掲示板
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【魔法少女になれなかった日】
 ホップスター WEB  - 12/12/23(日) 0:04 -
  
『…ほ◎らちゃん、ごめんね。あたし、魔法少女になる』
『ま◎か…そんな…!?』

巨大な魔女を前にして、廃墟となった街。
その一角で、2人の少女が対峙する。1人は、傷つき血を流しながら横になっている。

『あたし、やっと分かったの。叶えたい願い事を見つけたの。だからその為に、この命を使うね』
『やめて…!それじゃ…それじゃあ私は、何の為に…っ!』

…もちろん、これは画面の中の話である。現実には魔法少女は、(たぶん)存在しない。


       【魔法少女になれなかった日】


「…はいはい、そろそろ部屋掃除したいからどいてー。っていうか何回見るのよそれ…」
緊迫したシーンを遮り、部屋の主である女の子が掃除機を持ち出す。
テレビを熱心に見ていたチャオは不満そうにしながら、しぶしぶリモコンの停止ボタンを押し、そのままテレビを消した。
「折角いいところだったのに、酷いチャオ〜…」
と愚痴のようにこぼしながら。

「まったく、まどかだかマギカだかマジカだか知らないけどさぁ…それにしても魔法少女ねぇ…そりゃ私も小さい頃は憧れたけども、もうハタチだよ、はぁ…」
掃除機をかけながら彼女はぶつぶつとつぶやく。
かつての少女も、既に大学生。講義、レポート、ゼミ、サークル、友達付き合い、趣味、バイト、コンパ、その他いろいろ…更にもう少しすると、「シュウカツ」という名の魔物が待っている。
大学生ほど自由を謳歌できる頃もない、と一般的には言われてはいるが、これはこれで忙しいのである。少なくとも、魔法少女に熱狂している暇は無い。

「チャオ〜…」
チャオは不機嫌そうに、買ってもらった某魔法少女アニメに登場する杖(のおもちゃ)をベッドの上で振り回した。これも元はといえば彼女のなけなしのバイト代である。
「掃除終わったら買い物いくわよ!休みのうちに色々やっとかないといけないんだから!」
掃除機を止め、今度はテーブルの上を片付けながら彼女は言った。この日は大学もバイトもなく、珍しくその他の予定もない完全な休日だが、だからこそやることは多い。
なお、それを聞いたチャオはある思惑を走らせるが、
「お留守番…」
「だめっ!」
口にした瞬間、即座に否定された。


…という訳で、買い出しの為に近くのスーパーに寄る。
収入が少ない割に何かと支出が多い大学生にとって、真っ先に削るターゲットになるのは食費が多い。彼女もまた例外ではなく、1人で食事をする時はギリギリまで切り詰める。その代わり、友人と食事に付き合ったりする際には(当然限度はあるが)惜しまない。
「お、特売発見!ちょっとカート持ってて!」
とつぶやくと、彼女はカートを置き去りにして小走りで特売コーナーへ向かう。チャオはというと、ショッピングカートの子供/チャオ用椅子に座りっぱなし。持つというより乗ってるだけである。
で、当のチャオはというと、
「相変わらず、チャオ使いが荒いご主人様チャオね〜」
と愚痴りながら、やっぱり魔法少女の杖を振り回していた。
(※あぶないのでよい子、よいチャオのみんなはマネしないでね!)

「ふーっ、これでしばらくは大丈夫かな」
と、カートに特売品を入れて、レジへ向かう。
「い、い、いらっしゃいませっ!」
偶然並んだレジに立っていたのは、明らかに自分より年下、高校生ぐらいの女の子。素人目に見ても慣れない手つきで商品をレジに通していく。
(大丈夫なのかな、この子)
と飼い主・チャオ共々思ったところで、バイトの女の子の手が止まった。

「あ、あ、あれ…?」
バイトの子は商品であるペットボトルのジュースをくるっと回しながら見回す。どうやら、バーコードが見当たらないらしい。
彼女はしばらく黙って見ていたが、さすがに見かねて、
「あの、ここですよ」
と、バイトの女の子が右手でペットボトルを持っている、まさにその場所を指した。
彼女はいつもこのジュースを飲んでいるので、バーコードの位置も(なんとなくではあるが)把握していたのだ。
それを指摘されると、バイトの子ははっと気付いたように慌ててペットボトルを左手に持ち替え、
「あ、あ〜っ!ご、ごめんなさい!」
とほぼ素の状態で謝りながらジュースをレジに通した。

…が、飼い主とチャオがほっと一安心した、次の瞬間。
ジュースのペットボトルをレジを通した後のカゴに入れようとした瞬間、ペットボトルが彼女の手から滑り落ち、さらにカゴの当たり所が悪かったのか、カゴごとひっくり返り、商品が辺りに散らばり、周囲に「ガッシャーン」的な大きな物音が響き渡り、周囲の客やレジ係が一斉にこちらを振り向く。
何もしていないのに、何か物凄く悪いことをしでかした気分になる飼い主とチャオ。

「あ…あ…あ〜っ!!」
そして、バイトの女の子の声にならない声の後、上司と思われる店員の怒鳴り声が響いた。


「はーっ、えらい目に遭った…」
帰り道。あんなトラブルがあったせいで、既に真っ暗である。
結局、お詫びとして値下げしてもらったので、なんだかんだでラッキーな出来事ではあったのだが、彼女の表情はやや暗い。
「あれがいわゆる『どじっこ』チャオね!アニメにはたくさんいるけど、現実では初めて見たチャオ!」
その飼い主とは正反対の明るい表情で、チャオはおもちゃの杖を振りながら話す。それに対し飼い主の女の子は、相変わらず溜息混じりにこう返した。
「私だって初めてよ、あのレベルの本物は…」

彼女は20年間というそれまでの人生の中で、様々な友達付き合いをしてきて、いわゆる「どじっこ」に分類される『キャラ』を『演じている』女の子を何人か知っていた。
だがそれは結局、同性・異性に関わらず、他人に好かれようとやっている『演技』。それが『本物』であったことは、一度たりともなかった。
ある程度親しくなってから「ここだけの秘密」などと言って打ち明けてきたケースもあれば、傍から見ていても明らかに演技だと分かるケース、酷いものだと好意を寄せる男性相手にだけ演じているというケースもあったのを覚えている。
最も、人間であれば誰しも多少なりともヘマをするものではあるが、その範疇を超えた「本物のどじっこ」は、今日スーパーのレジで出会うまでは見たことがなかった。

(ったく、バイト中に客の前でドジを踏むメリットがどこにあるのよ…)
どこにも無い。それが彼女がバイトの女の子を「本物」と見た理由である。

「とにかく、帰ってご飯食べたら掃除の続きするから、くれぐれも邪魔は…って、あれ?」
その瞬間、世界が止まった。世界が歪んだ。世界の色が、黒と白になった。


「ここ、なんかちょっとおかしいチャオ〜…」
「ちょっとどころじゃないわよ!」
状況が飲み込めずにうろたえていると、目の前の空間がさらに少し歪み、やがて白と黒の大きな怪物、人のような形をしながら、明らかに人ではない怪物が現れる。そのサイズは、目測でおよそ10mぐらいだろうか。
「………っ!」
あまりの衝撃に、言葉を失う1人と1匹。

そして、その怪物がその右手(のようなもの)を振り上げ、1人と1匹に対し振り下ろそうとした瞬間、目の前で光が走った。
すると怪物は腰のあたりから上下に裂け、うなり声のような、かつ叫び声のような音を立てて、粉々になっていき、崩れ落ちるようにして消えていった。

「た、助かった…」
そして、怪物の代わりに1人と1匹の目の前に現れたのは、1人の少女。それも、
「魔法少女チャオ!!」

日常ではあまりお目にかからないようなヒラヒラの服を着て、チャオが持ってるおもちゃのそれとは全く違う、独特の質感が溢れる杖を持つ。紛れも無い、魔法少女だった。

「だ、大丈夫ですか………って、あああーっ!?」
そして魔法少女が、1人と1匹に対し声をかけて、目を合わせた瞬間、全員一斉に驚きの声をあげた。

その魔法少女とは、ついさっきスーパーのレジでドジをやらかしてた、あの女の子だったのだ。

「え、えっと…コスプレイベント?」
あまりの混乱で、微妙にツッコミが入りそうなセリフを発してしまう飼い主の女の子。
「あ、いえ、えっと、これは、その、うーん…」
それに対し説明しようとするも、どこから説明すればいいのかという迷いとその天然っぷりでセリフになってないセリフを発してしまう魔法少女。
「えっとつまり、あの怪物を倒すために魔法少女をやってるってことチャオね!」
この状況で一番冷静なのがチャオだったりする。

「う、うん!世界の歪みがあぁいう形で現れるらしいんだけど、とにかく、…!まだ来る!下がってて!」
何かを感知したようで、魔法少女は話を遮り前方に飛び込む。
そして間を置かずに、先ほどの怪物が10体程、次々と現れた。

「なんというか、夢…じゃないよね…?」
怪物相手に(たまにずっこけながら)立ち回る魔法少女を遠めに見ながら、飼い主の女の子は頬をつねっていた。痛い。夢じゃない。
そしてふとチャオの方を見ると、魔法少女が戦っている様子を食い入るように見つめていた。さっきまで大事そうに握っていたおもちゃの杖は、地面に転がっている。
あれだけ憧れていた(?)魔法少女が、目の前に本当に現れて戦っているのだ。当たり前といえば当たり前である。

戦う魔法少女と、それを食い入るように見ているチャオ。
1人と1匹を見ながら、彼女はなんとなく過去のことを思い出していた。
(私も小さい頃は、あんな風に魔法少女に憧れてたんだよねぇ)


『あたしね、おーきくなったらね、まほーしょーじょになる!』
…幼稚園ぐらいの頃だったろうか。チャオみたいにおもちゃの杖を振り回しながらそんなことを言っていたのを、彼女はかすかに覚えている。

いつからだろう、魔法少女に夢を見なくなったのは。
いつからだろう、現実しか見えなくなったのは。

誰しも、魔法少女になれないと悟る日がやってくる。
それは悪いことじゃないし、むしろ必要なこと。
でも、それを悟ると同時に、人は何か大切なものを忘れてしまうんじゃないか―――

彼女はそんなことを考えながらふと前を向くと、既に怪物は全て消え失せて、前方では魔法少女がただ1人、息を切らしていた。
こちらに戻ってこようとするが、足取りが覚束ない。

「だ、大丈夫?」
飼い主の女の子が駆け寄り、魔法少女を軽く支える。
すると魔法少女は、肩で息をしながら、小声で語り始めた。
「…あたしさ、何をやってもうまくいかなくて。…勉強も、運動も、バイトやってもあぁだしさ。…でも、こんなあたしでも、できることがあるんだって。人知れずだけど、みんなの役に立てるんだって。それを、魔法が教えてくれたの…」
「………」
無言で聞く飼い主の女の子。
やがて世界は元の色と形を取り戻し、世界が動き出した。魔法少女も、気がつくと変身が解け、普通の私服を着た、普通の女の子に戻っていた。
飼い主の女の子は、思わずその「普通の女の子」を、ぎゅっと力強く抱きしめた。
「ありがとう…本当に、ありがとう…!」
そんなつもりじゃなかったのに、気がつくと、涙が溢れていた。


あれから数週間。
休日の午後、飼い主の女の子は自室のPCでレポートを執筆中。
チャオは隣でアニメを観ている。但し、魔法少女のそれではない。

『エ◎シア、目標を破壊する!』

「…で、何で今度はロボットアニメなの?」
「この前のアレで気付いたチャオ。チャオは魔法少女にはなれないチャオ。」
「…だから今度は巨大ロボットのパイロットってこと?」
「よく分かったチャオね!」
ポヨをハートマークにして、ニッコリと笑うチャオ。

彼女ははぁ、と半分呆れながら溜息をついた。
そして立ち上がり、あの日以来無造作に置かれていた魔法少女の杖のおもちゃを取り出して、
「アンタはもうちょっと現実を見なさいよ…という訳で、」
「どういう訳チャオ?」
「少し…頭冷やそうか…?」
杖をチャオに向けて、冷たく言い放った。

「ひいいいいっ!それだけは勘弁チャオ〜!!何枚隔壁があってもブチ抜かれるチャオ〜!」
狭い部屋を逃げ回るチャオ、追いかける飼い主。
しばらくの間、彼女のレポートは完成しそうになかった。


                          おしまい。

===

こちらが前々から聖誕祭に向けて準備してた作品です。今回のテーマは魔法少女。

魔法少女といえば冒頭でも引用した最近話題のあれに始まって古今東西色々ありますし、チャオ小説界でもいくつかありますが(私の作品でいえば魔術師狂想曲の女性キャラとかも広義での魔法少女になるのかな?)、今回の魔法少女は特に細かい設定は考えてません。
(冒頭のあれに影響を受けていることは否定しませんが…)
#ちなみに冒頭のシーンはTV版最終話(私が本放送を録画していたもの)からの引用です。

さて、聖誕祭にお話を投稿するのはなんと3年振り。
ここ数年は短編をほぼ年1ペース、になってますが、正直今の私ではこれが限界っぽいです。
(ちなみにこのネタを思いついたのが今年の8月、完成が1ヶ月ぐらい前なので、たったこれだけ(本文は10KB弱)の文章の執筆に3ヶ月ぐらいかかってます)
まぁそれでも、想像力と文章力と時間が許す限りはこれからも投稿していきたいと思っています。今年みたいに咄嗟の思いつきでもう1作できちゃったりしますし!
#なんか某所でフラグも立てちゃったし!w

それでは、何かあればレスにてどうぞ。詩とか崖とかの感想をまとめて書いてもらっても構いません!
引用なし
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【魔法少女になれなかった日】 ホップスター 12/12/23(日) 0:04
感想です スマッシュ 12/12/23(日) 3:32
ありがとうございます ホップスター 12/12/23(日) 12:16
感想です ろっど 12/12/23(日) 22:21
ありがとうございます ホップスター 12/12/23(日) 23:13
感想 ダーク 12/12/23(日) 22:24
ありがとうございます ホップスター 12/12/23(日) 23:29
かんそうです ぺっく・ぴーす 12/12/24(月) 0:40
ありがとうございます ホップスター 12/12/24(月) 1:05

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