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ユウヤは複雑な心情のまま、外を出た。
実の父であるハワードと…
何らかの関係があったと言った淑女。
リダが彼に見せた一つ一つの表情、しぐさに不自然な点がないか思い返していた。
そう。あくまでも公平な視点から。
私情に囚われることないように…。
―あいつは終始俺に対して無防備だった。
事件と直接かかわりのないなら、誰が来ようとも警戒心がないまま接することができる?
・・・いや。
あえてそう演じていたら。
武器も携帯せず、あくまでも無抵抗な一個人として振舞えば…。
証拠がなければあくまでも予想の範囲・・・。
確たるものがないのだから、後は疑惑のかからないようにするだけで完璧になる。
俺が犯人ならそうするだろうし、普段と同じ行動をする。
殺されないという保障があるのならそうする。
ハワードが俺の事をどれだけ奴に流しているかはわからないが・・・
俺の事を本当によく知る人間なら…その考えに達する。
殺さず、情報を奪い取ろうという考えをもって復讐に挑む俺の魂胆はよまれている。
後は…殺した動機だ。
過去に何かあったらしいが…はぐらかした。
今ある情報は・・・・それだけか。
これだけじゃあ無理がある。・・・・あいつに固執しすぎか…。
ユウヤの中ではそういう答えに至った。
その答えは一時的なものでまだ完全じゃない、あくまでも仮説にしかすぎない答え。
今はまだ足りない。
頭のなかではわかっているはずなのに、あせって結論を出したがる心がある。
考えがまとまらない・・・。
何すればいいのかもわからなくなってくる!
「ちょっとさっき会っておいてシカトはないでしょ?」
「アオイか…。」
「何か考え事でもしてんの?」
「…まぁそんなところだ…。」
「ESPで心の中のぞいちゃおうっかな〜♪」
「やめとけ」
「どうして?」
「考えがごちゃごちゃしてて、とても覗けたものじゃない」
そう言うと調子に乗りかけていたアオイに静止がかかった。
油断しているといつか本当に心を読まれそうだ。
機嫌も悪そうで、実力行使に回られるとあとあとめんどうだな。
「なぁ…アオイ。」
「…何?」
「さっきいたあの…リダとか言う奴がお前のパートナーだろう?」
「そうよ。」
「どれくらいのつき合いだ?」
「…2年とちょっとかな? それが?」
「お前…15歳でSEAに入ったのか!?」
「まぁね。私優秀だったし!」
「…辛くないか?」
「ぜんっぜん!!ちゃんと今高校にも行ってるし、お金もなかなかもらえるし。
何よりリダがいろいろと私の面倒見てくれるし。 本当の親みたいに…」
「なぁ…。お前は自分の上司の事・・・・信じているんだな?」
「当たり前よ!!」
その言葉はなかなか大きかった。
語勢も強く、何よりボリュームが大きい。
辺りを通っていた人々が皆、こっちに振り返る。
アオイは恥ずかしそうに顔を赤らめている中、ユウヤはそのことばで今までの考えが吹き飛んだ。
「そうか…」
「…なに?」
「…大切にしてやれよ。」
「ちょっと!聞こえなかったからもう一回言ってよ!!」
再び騒ぎ出したアオイをよそにユウヤはさっさとその場をやりすごそうとした。
あのままだといつまでも騒がれるからな・・・
そう思っていた矢先。
彼女のうるさい声が聞こえなくなった。
「あっ…」
彼女はそう呟いて空を見ていた。
ユウヤもアオイに倣って自分も同じ方向の空を見る。
何に見とれているのかすぐに理解できた。
「……珍しいな……。久しぶりだ。」
その頃。
「ゼル!あれってテレビでやってたよね? すごく綺麗だよ!」
「虹…初めて見た。」
「あれってどこから乗れるのかなぁ?」
「乗れないよ…見えてるだけ・・・・。」
「そんなことないよぉ!ちゃんとお空にあるもん!!」
「そんなことより早く…お父さん…探しにゆこうよ…」
「お家の中に居ないとだめ!!」
「…そんなことない。」
彼らがムキになって言い争いをしている間に、一台の車が近づいてきていた。
中からは数人の男が子供たちを見つめている。
用意してきた武器を使わなくてもよさそうだし、楽な仕事だ。
「いけ」
その合図と共に車から二人が飛び出していった。
その十数分後。
病室でナース相手を口説こうと試みるもいまだに成功例もなく。
若干ふて腐れながらベッドで横になっている男が居た。
暇そうにしていたその時だ。
彼のベッドの中からある端末が転げ落ちた。
それを拾った、レイヴァンは画面を見て、血相を変えた。
急いで携帯を取り出し相手を呼び出すも返事が返ってこない。
そのことにまた腹をたてて彼は声を荒げる。
「どうなってんだ!!」
彼が思わず投げつけた端末。
その画面には二つの点が表示されている道路の道をなぞるように高速で移動している。
時間がない。
だからこそ彼は必死になって何度もリダイヤルをする。
その傍ら、投げつけた端末をもういちど拾い上げ画面を見る。
だがそこが示す場所はUSAと表示されてはいなかった。
「くそ!何で盗られやがった!!」
その時だ。
ようやく相手が応答してくれた。
「やっと気づきやがったか・・・緊急事態だぜ・・・」
「悪い・・・俺も今気づいたところだ。」
「あぁ・・・。
子供たちが・・・いない。」
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