●週刊チャオ サークル掲示板
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適当に掌編をちょこちょこと。 それがし 10/1/12(火) 20:32
A System Dying (C&P) それがし 10/1/12(火) 21:23
A System Dying (C&P) 修正版 それがし 10/1/12(火) 22:26
あいなし。 (P) それがし 10/1/12(火) 22:29
ねぇ、あいしてよ。 (C&P) [no name] 10/1/17(日) 3:17
援助交際 (C&P) [no name] 10/1/17(日) 4:17
Sister Moon (C&P) [no name] 10/1/17(日) 4:55
Sister Moon (C&P) 修正版 [no name] 10/1/17(日) 5:32
あとがき 〜なぜ二度も投稿ミスをする それがし 10/1/17(日) 5:57
お便りを募集しています。 それがし 10/1/17(日) 6:01

適当に掌編をちょこちょこと。
 それがし  - 10/1/12(火) 20:32 -
  
前チャオBBSでそういう風なすれを何度も立てたくせに、
一度も達成したことが無い迷惑ものですので、
今更ながらに取り返していきたいなぁと。

あぁ、聖誕祭お疲れ様です。
自分は23日は酒に酔っていて半日記憶が残っておりませんが。

(P) only people
(C&P) CHAO and people
引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.0; Trident/4.0; GTB6; SLCC1; ....@131.212.12.61.ap.seikyou.ne.jp>

A System Dying (C&P)
 それがし  - 10/1/12(火) 21:23 -
  
 自分のすぐ隣に、妹は寝っ転がっている。

「どうだい、土のベッドはひんやりしていて、背中の抉られたような切り傷を癒してくれるだろう?」
「ウジ虫のお医者さんは、そのもぎ取られた左腕の、腐りかけた切り口をむしゃむしゃと食べてくれるだろう?」

 小さな妹にかける言葉は、適切なのか、などということは敢えて考えない。僕も、幾分か狂気の怪物に身体を喰われているのだから。そして、彼女もきっと、僕の言葉を皮肉とは受け止めないだろう。
 そんなことも考えている今も、彼女は、大丈夫だよ、と言わんばかりに苦しい笑顔を覗かせながら、じっと僕を見つめて、この心を慰めようとしている。
 愛しい、愛しい、たった一人の家族だった妹。
 でも、そんな健気な顔からも、だんだんと、色が薄れていく。

 ――あぁ、ついに、独りになるのか。
 空を見上げ、ふとそう思った時、彼女はもう瞬きをしなくなっていた。
 僕は黙って手を合わせると、彼女の顔にそっと触れる。柔らかい温もりが、まだかすかに残っていて、傷だらけのこの右手を癒してくれる。
 ――ありがとう。
 不思議と、涙だけは出なかった。

 僕はスコップを取り出すと、粘土質の地面に勢いよく突き刺す。武器になれば幸いだと思って思ってきたモノだったが、結局、人一人殺すことなく、本来の使用法を遵守することになった。
 ガツッ、ガツッと言って、地面が削れていく。午後2時のむわっとする暑さはあっという間に作業をする僕の全身を汗まみれにしていた。

「はぁ、はぁ……」

 数十センチ掘って、僕は勢いよく地面に倒れ込む。ダメだ、体力さえ、もう無くなりかけている。よく考えれば、数日間、ろくな食料も水も手に入らず、飢えをしのぎながら生きてきたんだ。
 妹のコトを考えすぎていて、逆に自分のいまの立ち位置をすっかり忘れていた。

「ずいぶんと頑張っているのね、将来は大工になりたいのかしら」
「……将来は妹と農家を経営する気でいた。それがどうかしたか、誰かさん」

 後ろを振り向くと、全身黒い軍服を身にまとった女性がいた。
 俺は特に危機感を抱くわけでもなく、彼女とそれ以上話すこともなく、作業を続ける。どうせ、彼女の狙いはヒーローチャオか、それを護ろうとする人々だろう。
 くだらない。そんな遊び、もっと別のところでやればいい。
 それか、いっそ、銃も兵器も捨てて、拳と拳で奪い合えばいい。

「その子は妹?」「あぁ、さっき死んだ」「将来の夢、ダメだったね」
 小憎たらしい女だ。
 僕は彼女の眼を見ないようにして、吐き捨てる。
「早く消えろ」
「あらどうして」
「ここはヒーローの人間の溜まり場だ、お前みたいなダークは見つかり次第、ズドン」

 人差し指と中指を伸ばして、銃を撃つふりをすると、あぁ、おっかないねぇ、と女性は冗談でも見たかのように笑う。
 そこには大した危機感もなく、ここを動いていこうとする仕草も見られない。
 ……俺が言っていることは、本気だ。

「こんな私に、心配してくれるのね。あなた、優しいって周りからよく言われなかった」
「知らない。生まれた時から僕は仲間外れだった」
「いじめられていたの?」
「周りなんて見てもいなかったから知らない。同士、妹だけで十分だった」
「同士?」
「ニュートラル」

 僕は
引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.0; Trident/4.0; GTB6; SLCC1; ....@131.212.12.61.ap.seikyou.ne.jp>

A System Dying (C&P) 修正版
 それがし  - 10/1/12(火) 22:26 -
  
 自分のすぐ隣に、妹は寝っ転がっている。

「どうだい、土のベッドはひんやりしていて、背中の抉られたような切り傷を癒してくれるだろう?」
「ウジ虫のお医者さんは、そのもぎ取られた左腕の、腐りかけた切り口をむしゃむしゃと食べてくれるだろう?」

 小さな妹にかける言葉は、適切なのか、などということは敢えて考えない。僕も、幾分か狂気の怪物に身体を喰われているのだから。そして、彼女もきっと、僕の言葉を皮肉とは受け止めないだろう。
 そんなことも考えている今も、彼女は、大丈夫だよ、と言わんばかりに苦しい笑顔を覗かせながら、じっと僕を見つめて、この心を慰めようとしている。
 愛しい、愛しい、たった一人の家族だった妹。
 でも、そんな健気な顔からも、だんだんと、色が薄れていく。

 ――あぁ、ついに、独りになるのか。
 空を見上げ、ふとそう思った時、彼女はもう瞬きをしなくなっていた。
 僕は黙って手を合わせると、彼女の顔にそっと触れる。柔らかい温もりが、まだかすかに残っていて、傷だらけのこの右手を癒してくれる。
 ――ありがとう。
 不思議と、涙だけは出なかった。

 僕はスコップを取り出すと、粘土質の地面に勢いよく突き刺す。武器になれば幸いだと思って思ってきたモノだったが、結局、人一人殺すことなく、本来の使用法を遵守することになった。
 ガツッ、ガツッと言って、地面が削れていく。午後2時のむわっとする暑さはあっという間に作業をする僕の全身を汗まみれにしていた。

「はぁ、はぁ……」

 数十センチ掘って、僕は勢いよく地面に倒れ込む。ダメだ、体力さえ、もう無くなりかけている。よく考えれば、数日間、ろくな食料も水も手に入らず、飢えをしのぎながら生きてきたんだ。
 妹のコトを考えすぎていて、逆に自分のいまの立ち位置をすっかり忘れていた。

「ずいぶんと頑張っているのね、将来は大工になりたいのかしら」
「……将来は妹と農家を経営する気でいた。それがどうかしたか、誰かさん」
「あら、名前はきちんとあるのよ。あたしは、――」
「僕はリグだ。お前の名前には興味が無い」

 後ろを振り向くと、全身黒い軍服を身にまとった女性がいた。
 俺は特に危機感を抱くわけでもなく、彼女とそれ以上話すこともなく、作業を続ける。どうせ、彼女の狙いはヒーローチャオか、それを護ろうとする人々だろう。
 くだらない。そんな遊び、もっと別のところでやればいい。
 それか、いっそ、銃も兵器も捨てて、拳と拳で奪い合えばいい。

「その子は妹?」「あぁ、さっき死んだ」「なら、将来の夢、もうダメじゃん」
 小憎たらしい女だ。
 僕は彼女の眼を見ないようにして、吐き捨てる。
「早く消えろ」
「あらどうして」
「ここはヒーローの人間の溜まり場だ、お前みたいなダークは見つかり次第、ズドン」

 人差し指と中指を伸ばして、銃を撃つふりをすると、あぁ、おっかないねぇ、と女性は冗談でも見たかのように笑う。
 そこには大した危機感もなく、ここを動いていこうとする仕草も見られない。
 ……俺が言っていることは、本気だ。

「こんな私に、心配してくれるのね。あなた、優しいって周りからよく言われなかった」
「知らない。生まれた時から僕は仲間外れだった」
「いじめられていたの?」
「周りなんて見てもいなかったから知らない。同士は、妹だけで十分だった」
「同士?」
「ニュートラル」

 その一言で、彼女の顔は先ほどとは全く違う様相に変わっていた。

「気持ち悪い」「なんとでも言えよ」
「アナタは、仲間外れにされて当然じゃない」
「そうだ、だから、どっちかの仲間なんて思われたくない、今すぐ失せろ、消えろ、こんな気味が悪い人間のところにいたって、意味がないだろう」
「……チッ」

 彼女は、小さく舌打ちをすると、立ち上がって藪の向こうへと消えていった。
 あぁいうのは、大抵、農家上がりの人間を上手く丸めこんで食料を得ようとする類の人間だ。……まぁ、殺されなかっただけでも良しとしよう。

 僕は黙って立ち上がると、黙々と作業を再開する。


   *   *   *


「ヤダ、気持ち悪い」
 ヒーロー側の村に行って、米をもらおうとしたら、ニュートラルだからと言って、断られる。 

「うわ、近づくな、ニュートラルがうつる」
 ダーク側の街に行って、食料を分けてもらおうとおもぅったら、ニュートラルだからと言って、断られる。

 ――ダーク、ヒーロー、……ニュートラル。
 用法はいくらでもあるだろうが、ここでは全部、「その人が育てているチャオ」という位置づけになる。

 愛玩用として売られていたチャオは、いつの間にか、人の格付けをする役割の生物になり変っていた。
 一般的に、白――ヒーローチャオは倫理や道徳に忠実で、禁欲的な考えを持つ人間が撫でると出来て、黒――ダークチャオはその逆の犯罪に手を染める人間が撫でると出来る、と言われている。
 そんなのはきっと嘘だ。
 他の偶然の要素が重なって、個々人で黒か白に分かれるのだと想う。もし、上の一般論が正しければ、みんな黒になっているはずだから……。
 しかし、白色に進化させた人間は、いつしか黒色にしか育てられなかった人間を軽蔑するようになっていた。黒は、悪い奴、ひいてはダメな奴だと、その存在を否定し、追いやるようになった。
 黒は、黒で、どうせ俺たちは犯罪者予備軍だよ、と言わんばかりに凶行に走る人間が増え、白と一層対立するようになった。
 この僕が住んでいる地域はその一端。
 人間は集団になった瞬間、傲慢になり、いつしか、この問題に関しても、暴力で解決しようと互いが行動するようになってしまった。

「クソ、理不尽……ダっ!!」

 ただ、僕はその戦いを憎みはしない。
 その戦いに混じれない自分を、一番憎んでいた。

 ヒーロー軍もダーク軍も、俺にとってはどうでもいい。ただ、妹と一緒に暮らせる安住の地が欲しかっただけだ。だが、その妹も、結局、戦いに巻き込まれ、重傷を負った、そして、死んだ。
 怒りを鎮める場所もなく、夜になっても、僕は淡々と土を掘り返していた。
 左手の豆が破れ、血が噴き出している。痛くないといえば嘘になる。しかし、その痛みは僕の記憶を飛ばしてくれそうで、かえって心地が良かった。
 全て忘れたかった。

 ザクッザクッ

 彼女が育てたチャオがニュートラルにかならなかったことを。

『兄さんと、お揃いですね』

    ザクッザクッ

 自分の育てたチャオもニュートラルにしかならなかったことを。

『良いじゃないですか、私は蒼色が一番好きです』

   ザクッザクッ

 ある夜、妹に知れぬように二匹を殺して山林に捨てたことを。

『リオ、トール、どこに行っちゃったのでしょう……?』

  ザクッザクッ

 妹には「チャオはどっかに遊びに行っているよ」と言ったことを。

『そうですね、チャオも自分の好きなように、生きたいんでしょうから』

                ザクッザクッ

 妹に結局、チャオが本当はどうなったかを言わなかったことを。

『仕方ないですよね、うん、仕方ないですよ……兄さん……』

         ザクッザクッ


『兄さん、一緒に暮らせるところが見つかって、この世界が平和になったら、あの子たちを探して、みんなで暮らしましょう?』


 その妹も、さっき、死んでしまったことを。


「あッ……」

 がチッ。と音がして、ついにスコップで掘れない場所まで到達していた。
 深さは1m以上あるだろうか。
 ……とにかく、これで、妹を埋めることができる。
 俺は妹の体を抱き上げて、ウジ虫を払い落す。そして、優しく、穴の底へと、彼女の体をおいた。
 小さかった彼女が、一層小さくなったように、一瞬、錯覚する。
 可愛い妹。一緒に添い寝した妹。手をつなぎ続けていた妹。

「僕は、ニュートラルにしかできない自分が大嫌いだったけど。
 ニュートラルにしかできないキミが一番好きだった」

 行くところまで、行ってしまった。でも、どんなに軽蔑されても、怖くない。
 あぁ、そうだ。
 今、俺は独り、チャオも持たず佇んでいるこの瞬間が、たまらなく怖い。

「僕も一緒に、死ねばよかった」

 だけど、妹の前で、弱音は吐かない約束だから。

「おやすみ、明日も良い日でありますように」

 穴の中は、誰もいない、誰も来ない。
 僕ら以外、何もない世界。
 何故か、熱にうなされそうになるほど、暑かった。


   *   *   *


「キミが、リグくんかね?」
「はい」

 その朝、穴から這い出て、俺は僅かな水を飲んでいた。
 人間の腐臭が穴を覆い尽くして、寝てられもいられなかった。最初は、これは妹だと我慢していたが、ついに我慢が出来なくなって、何とかほら穴から脱出したのだ。
 そして、外できに寄りかかって涼んでいたところを、何故かヒーローの一団に取り囲まれていた。

「キミが、昨日、ダークの人間と話していたという目撃情報があるんだが」
「……あ?」
「ちょっと、来てくれるかい」

 人間ってのは、傲慢で、疑り深い。


   *   *   *


「そこの壁に手をつけ!」

 その後、ヒーローの村に連れて行かれた僕は、何故かダークの人間だという触れ込みがされていた。
 いまから、その確認をするというのに、なぜ最初から、この人間どもは勝手に僕の立場を決めてしまうのだろうか?

「さぁ、そこのダークのスパイ、服を全部脱いでもらおうか」

 にやにやとしながら、男が煙草を口にくわえて、僕の服をはぎ取る。
 力が無く、あっさりと地面に素っ裸で転げてしまう。それを見た周りの住人が、見世物ショーでも見るかのように僕を嘲笑っていた。
 こんなのが、ヒーローチャオを作るなんて、一般論は嘘もいいところだ。
 どうせ、ちょっとした噂から、あっという間にこの国中に広がってしまったのだろう。馬鹿げている。けれど、今僕がそれを説明したところで、誰も信用してくれないことなんてわかっている。
 ウェゲナーの大陸移動説は彼の死後一世紀後に認められ、メンデルの功績が認められたのも彼の死後だった。現代人は、それを常識だと言わんばかりに語っているが、昔は同じ種類の猿どもによってけなされていた仮説だった。
 どうせ僕も同じだ。
 いつか、きっとニュートラルも認められていくのだろう。ただ、今は、そんなことなど気にせず、ただ、自分の集団から離れるのが、怖いだけだ。

「さて、最後に言いたいことはあるか」

 裸にするだけしておいて、どうやら僕は死刑になることが確定したらしい。
 改めて全裸にされたまま、壁の方に手をつけと命令される。力なく、僕はそれに従っていた。

「さっき、僕を捕まえたところに穴がある。
 僕の恋人を埋めたところだ。そこに、僕も埋めておいてほしい」
「……そうか、判った。他に言うことはあるか?」

 威勢のいい初老の男が僕に言葉を求めてくる中、ピストルを構えた若い男がそっと近づいてくる。僕の最期に付き合ってくれる人間だろうか、いくらか僕に対して、同情を抱いていたらしい。
「実はさ、俺、人を殺すのが嫌いなんだ。お前かって、ホントはダークじゃないんだろ? 今ならまだ間に合う、お前のチャオを俺が取ってきて、見せてやろう」
 小声で、そうつぶやく。
 でも、僕はそれに飛びつかず、彼に返答するような、小さな声で、
「ありがとう」
 とだけ言った。

「おい、男! 他に言うことはないか!」
「……ヒーローの方々の軍服」
「ん、それがどうかしたか?」

「すごく、ダセェ」


 ――乾いた音が、無情な世界の空いっぱいに響き渡った。


(了)
引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.0; Trident/4.0; GTB6; SLCC1; ....@131.212.12.61.ap.seikyou.ne.jp>

あいなし。 (P)
 それがし  - 10/1/12(火) 22:29 -
  
 私は狼狽していた。

 そう、数分前、黙って歩き続ける彼を交差点の角で見つけた。
何の連絡もよこさず、しばらくの間会っていなかったので、私は人ごみをよけつつ、思い切って彼に声をかけた。でも、何の反応も見せないどころか、ただただ、無言で歩を進めるので、私は小走りになって彼を追いかけていたのだ。
 そして、今。
目的地らしきところに、着いた所である。正直なこと言うと、
「ウソでしょ?」
 確かに、以前女の子ばっかりの喫茶店や雑貨店に悪戯心ながらに彼を何度も連れまわしたことはあったけれど、こんな仕返しをされるとは思わなかった。
 18歳以上禁止のロゴがプリントされたピンク色のカーテンを、抜けた先は、不思議な世界でした。ってね。
またの名を、AVコーナーともいうけれど。
ここも、女の子ばかりといえばそうだけど、意味がまるで違う。
 しかもこれが個人店じゃなくて、TATSUYAというのがまたいやらしい。
毎日のように連絡していたのを急にブッチして、こちらを心配させて、まるでおびき寄せるかのようにこの場所まで連れ込んでくる。そうして、後から私を責めようとしても『え? だってお前が勝手に付いてきたんだろ?』と言えば、それでOKだ。
大衆の前で、自分に責任が来ることなく、彼女に恥をかかせるとは、なかなかうちの彼氏も不甲斐ない中にキラリと光る才能をお持ちである。
「ふ、ふん、こんなことでヨゥちゃんに屈して溜まりますか!」
「あっれ〜、いつになったら返ってくるんだよ? あの女優、結構気に入っていたのに」
 私の小言を鮮やかに無視して、彼はガサガサとAVの陳列棚をあさり始める。
 そんな様子を見ていて、私も少し気になり、適当に周りを見渡してみる。
タイトルは、昔ながらの「家庭教師」とか「女子校生」とかいうオーソドックスなモノから、「世界ブルルン滞在記(洋モノらしい)」とか、「ガキの援交やあらへんで!(関西弁ギャルのテクが上手いというコンセプトらしい)」など、明らかに焚書坑儒(?)しても怒られないモノまでバリエーションが豊富である。
ヨゥちゃんはその中で、ただただ自分の欲しいAVが見つからずに、気になったものを出しては入れ、出しては入れを繰り返していた。
最近はフォトショ加工とかも精密になっており、ジャケ買いすると痛い目にあうと、彼が前、豪語していたことを覚えているが……。
――そういう問題以前に。
「ごめん、謝るから! もういい加減に帰ろうよ! 恥ずかしくて私、周りが見れない」
「駄目駄目。こんなんじゃぁ、俺の気が収まらない」
 やっと言葉だけは返してくれるが、それだけで、私の話を聞く気は一切ないらしい。
 しばらく逡巡した後、今度は語気を強くして、彼に迫る。
「ヨゥちゃんの気はどうでもいいんだよ、私がここにいると辛いの!」
「ハハ、やるだけやっておいて、逃げてばっかりじゃあ、俺の好みになれないぞぉ?」
「うっ、……」
たまにこうはっきりとモノを言うときがあるので、私の彼氏は侮れない。
あー、こりゃ完全に仕返しされてるなぁと、思わずベロを出して見る。
 ……だけれども、このいかがわしい場所で、いかがわしいAVのジャケを見ながらで、それを言うのはどうかしている。
 結局、その後も、彼は一人で淡々とAVコーナーを回っては物色し続ける。
 そして、それに黙んまりとしながら追従するうちに、いつの間にか先ほど彼が初めて見た戸棚の所まで戻ってきていた。
 彼ははあ、と、溜息をついて、やれやれとするかのように両手をひらひらさせる。そこには一枚のDVDも握られていなかった。
「まぁまぁ、そんな落ち込まないでさ、また、良いの見つかるって!」
「……ハハ」
それ以前に私のことはどうしたー!! と一言突っ込みたかったが、あまりにもその雰囲気が陰鬱としていたので、思わず文句を殺して、慰めの言葉をかけていた。
 彼が、見ていたのは人気AV女優のコーナー。
 そう言えば、先ほど、お気に入りの女優がいると言っていた気がするが、……って、だから、これは、絶対私に喧嘩を売っているんだってば!
――突っ込みたい、しばきたい。
もうそろそろ、口を割らせよう。前のことはごめんね、と謝るのさえ癪になってきたので、私は思い切ってその右腕を振りかぶった。
「愛が、無いんだよなぁ」
「へっ?」
スカッと言って、腕が空を切る。
 彼の顔をじっと見てしまったせいで、どうやら外してしまったらしい。
 ヨゥちゃんの顔はいつもは絶対に見せることのない苦虫を噛んだような表情をしていて、私はあっけにとられたまま、その理由の在るところを探す。
 その答えは、すぐに分かった。
「中谷、愛……」
「もう、かえって来ない事くらい、俺かって分かっているんだけどな」
「あぁ、なるほどね……」
噂では聞いたことある、最近のAV界でその名をとどろかせている、仲谷愛。
そのウェスト=バスト間の高低差が30以上あり、驚異の美乳と美尻を持つ、白肌の黒髪の、目がくりくりした、究極の女性は――TATSUYAの宣伝にそう書いてあっただけで、私がそういう評価をしたわけじゃないけど――ヨゥちゃんのストライクゾーンに5ストライクしていた。
ただ、その横の注意書きによると、そのストライクゾーン多し魔女のDVDは彼女が即引退を宣言して新作が出なくなってしまったためか、ここTATSUYAでも、大量に借りパクされているようで、いろいろと問題になっているそうだ。
ランキング一位に輝く彼女の棚は、まさかの空虚と化していた。
「あららァ……」
 同情をこめて、残念そうに私は声をあげる。
友人いわく、彼女持ちでもAVは見たくなる、とのことなので、別に本気になるほど怒るつもりはなかった――彼がAV女優を名前で呼ぶのにはちょっと引いたけど――
私は、その大人気な美顔を一瞥して、舌打ちをした。
あ、いや、……別に、AVに嫉妬しているわけじゃないんだからね!

AVコーナーから出てきて、ついに手持無沙汰のままだったヨゥちゃん。彼は、軽くため息をつくと、白い蛍光灯が縦横無尽にめぐらされている天井を見上げた。
「あーぁ、今日は、何もせずに寝るか」
「そうそう、それが一番だよ、ヨゥちゃん」
 やっと仕返しから解放されて、私の声も上ずっている。
「今日は、もう、何もせず、に……」
突然、その声が良く聞き取れなくて、ひょいと、彼の顔を確認する。
いつの間にか、ぽろっぽろっ、と彼の目から涙がこぼれ始めていた。
「え、ちょっと……」
 ――何故か、それを見た瞬間、言いようもない痛みに一瞬駆られたが。
そんなバカな、と、あわててカバンから、ハンカチを取りだす。
「あぁ、あくびだよ、気にしないで」
「え、あ、そうなんだ……」
 でも、私がそれを渡す直前になって、彼は既にその袖で涙を拭き取っていた。
小さい女の子が心配そうに彼を見ながら、こちらを通り過ぎていく。
「もう、あんな小さい子まで心配させて、そんな顔で涙なんか流すから! 紛らわしいなぁもう!」
直接関係はないのだが、少し恥ずかしさを感じた――もしかしたら、別の何かを紛らわしたかったのかもしれない――ので、怒り調子で彼をたしなめる。
「でもさ、愛が無いって、結構辛いんだぜ?」
「あー、うるさい! そんなしょうもないこと、いつまで引きずってんのよ、バカ!!」
 目的のAVが無かった、だなんて、理由が本意であるとは思えなかった。
何となく、私と彼の態度が、急に、隔離されてしまったというか、違和感が生じたように思えた。さっきまでは、普通に会話をしていた――そうだっけな?――のに。
……それにしても、自分から仕返しをしておいて、自分だけテンションだだ下がりとは、良い迷惑だ。
「でも、ま、今日だけは、仕方ないか」
 そうやって、納得させるようにして、呟く。
「……ありがと」
 感謝の言葉は、仕返しにノッてくれてありがとうか、他意があるのかは分からないけれども。
 いつもは沢山優しくしていてくれるから。
 たまには、こういう日もあるということで。

 彼氏の何とも間抜けで奇怪な仕返しショーに、私はすこしはにかみながら、呟いた。

 ――もう、どうしようもないんだから。


   *   *   *


「あっれ〜、いつになったら返ってくるんだよ? あの女優、結構気に入っていたのに」
 強がって、あっけらかんな調子を装ってみる。
 女優、と言うのはAV女優の事で、俺はまだ「あのとき」から数週間もたっていないのに、この場へ足を運んでいた。性欲とは恐ろしいもので、時間がたてば容赦なく俺の衝動を駆り立てていく。
 最初は我慢した。自分だけがこんな欲求に絡まれちゃ申し訳が立たないと。
 でも、いつの間にか、俺はここにいた。
ネットの動画は質が悪いし、書籍系の奴は全部廃品回収に出してしまった。彼女との「あれ」を考える、と言う手もあったけど中学生臭くて、途中でほっぽり出してしまった。
そのとき、中途半端に刺激してしまったから、もはや、俺の頭の半分からは理性が消えているのかもしれない。
AVコーナーに入って、最初に思いついた名前は「中谷愛」だった。
それで、TATSUYAの人気女優コーナーの所を一番にのぞいてみたのだが、どうも棚の中はガラガラで、あてにしていた「中谷愛」のコーナーには一枚もDVDが置いていなかった。クリスマス、正月と、年末年始を一人で過ごすためのお友達ってやつか。畜生。
 仕方ないので、その他のAVが陳列されている棚の方を漁ることにする。なんだか情けない姿だ。彼女がここにいたらきっと恥ずかしくて帰りたい、とか言いだすに違いない。
「駄目駄目。こんなんじゃぁ、俺の気が収まらない」
 独り言をつぶやきながら、なおも良いAVを借りようと血眼になる自分は、はたから見てもおかしい人間だ。
でも、こうやって女性を自分が選んでいるような優越感に浸っていると、彼女と付き合っていたことに対して罪悪感が湧いてくる。その感情が、なんだか彼女の事を自然に忘れられる気がしてきて、かえって心地良かった。
――無数のDVD入れの中から、とある一つに目が行く。
エロゲじゃあるまいし、AVにしては珍しく、しっかりとしたストーリーがあるAVだった。どうせ、男は性交していることしか考えていないのに、この女優は良くやると思った。
女は真面目な高校に通う優等生な女の子。母親からそのことについてうるさく言われ、家出。そうして、街で出会った、軽そうな男と……という設定。でも、だんだんと態度がエスカレートしてくる男に愛想を尽かして、また家出。今度は妻子持ちのサラリーマンに目を付ける。でも、それも奥さんが乗り込んできたことで……、以下、エンドレス。
 借りてみようか、と思ったけれど、こう言う尻が軽いというか、打たれ弱いというか、自分から逃げておいて、たぶらかしておいて、すぐ乗り換える、と言う主人公に感情移入が出来なかった。
「ハハ、ヤるだけヤっておいて、逃げてばっかりじゃあ、俺の好みになれないぞぉ?」
 相変わらずの独り言を漏らして、DVDの中の主人公に突っ込みを入れると、それをまた裸が姦しくせめぎ合っている棚の中に押し戻す。
……俺の彼女は、この主人公とは違って、あっけらかんとしていた。
後、変なところで粘りが強くて、俺も良く女の子ばかりの店にひっぱりまわされた揚句、おごらされたこともある。
でも、俺が一度決めたことは、あっさり了承してくれて、そしていつでも味方でいてくれた。恋人だからか、と聞いた時には、いや、ただ応援したから、とあっさり答えられてしまったことも、良い想い出だ。
「……ハハ」
 結局、好きになれそうなDVDは一枚も見つからず、さっきと同じように、カーテンの入り口近くの所へと戻ってきてしまう。
 なんだ、駄目じゃないか、俺。
早く忘れてしまえよ、股広げて商売するっていう女だけでもこんなにたくさんいる。大学とかでいくらでもいるだろう、近場で女見つけるのが嫌ならバイト先でも、近くの高校でもいいじゃないか。友達からも慰め半分で合コンとかに誘ってきてくれるだろ? それいいだろ? こんなに性欲だけ有り余っているくせに、頑固な奴だ。
新しい恋が生まれたら、万々歳だ、ハッピーエンドだ、俺は――
「愛が、無いんだよなぁ」
 ――何故に、そんな陳腐な理由を盾に、拒み続けるんだろう?
 彼女が忘れてほしくないと、天国から手紙が届いたんだったらそうする。でも、もう会えない人に対して、その記憶を強くとどめておくのは、正しいことなのか。
 切ないだけじゃないか。
情けないだけじゃないか。
「もう、帰って来ない事くらい、俺かって分かっているんだけどな」
 カーテンをくぐり、今度は子供に見せても安心な恋愛映画やSF映画のDVDが所狭しと並んでいる。
後から、HR/HMのCDでも借りて帰ろうか。とも、想ったけれど、他人の間をかいくぐってまで、目的の陳列棚まで行く気もなく、足は自然と出口の方へと向かう。 
「あーぁ、今日は、何もせずに寝るか」
 つよがりな俺が頭の中に出てくるのを抑えられない。
 一人になろう。独りになろう(嫌だ)
 そうすれば、俺がいなくなるだけだ(嫌だ)
 誰を失うこともない。それは、とっても楽な生き方だ(嫌だ、嫌だ)
 楽な、生き方だから――
「今日は、もう、何もせず、に……」
 頬と目元の間に、じんわりと水分が満ちていくのが分かる。人肌の暖かさまで熱せられたそのダムは、やがて決壊し、頬を流れていこうとする。
 ふと、下の方に人の存在を感じて、目線を映す。
小さな女の子が、何か心配そうな目で俺の方をじっと見つめていた。
……こんなコに心配されるようじゃぁ、俺もまだまだ、ガキなんだな、と。
「あぁ、あくびだよ、気にしないで」
 絶対に信じてもくれなさそうな言い訳を、情けない声で朗読して、俺はそれ以上その女の子の目を見ることはできなかった。
 信じたのか、呆れたのか、少女はそのあと何も言わずに俺の足元を通り過ぎて行った。
 出口の方に、彼女の両親らしき人物が二人いる。まるで、並行世界――もしも、俺と彼女が結婚していたら、なんて自惚れかもしれないけれど――を見ているようで、胸がギュッと締め付けられる。
「でもさ、愛が無いって、結構辛いんだぜ?」
 誰に言うでもなく、言い訳を口に漏らす。
 この目に見える世界は、いつでも残酷なモニターだ。

 からりと乾いた外の空気は相も変わらず冷たい。
街はただ、新しい年を迎えようと、テンションをあげる人々に包まれている。
 手を繋いで、笑いあって、B級バンドの考えそうな歌詞の中身は全部やってきた。
今考えると、やっぱりB級から抜け出せない二人だったんだろうけど、そんな偉そうな立ち位置にいる方がよっぽどかわいそうな人間だと言うことに、気付いた。
 ――数日前だった。
突然、俺の目の前から、その姿が消えたのは。
 激しい衝突音、雪でスリップしたトラックが交差点角の歩道にのめりこみ、プスプスと情けない音を発して黒煙を吹いていた。
 だから、俺はその時、別れ際走り去るその姿が、それに巻き込まれたんだと知った。
 そして、その姿が、自分の目の前に現れることは、二度と、無い。
 本当はそばにいるのかもしれない。幽霊なんて一度も信じたことはないけれど、今でも隣で笑っていてくれる気がしてならない。もしも、本当に幽霊になれるのだとしたら、あの性格だ、きっと、こんな甲斐性のない俺を心配して、付き添ってくれることだろう。
空は水色に灰色がかった、寒色の色に覆われている。
そんな空を見たからだろうか。心なしか、俺の周りを温かい何かが動きまわっている気がする。
温かい何か……いや、もしかしたら……もしかするかもしれない。
「……ありがと」
でも、それだけ。
それ以上は、考えないでおこう。

――もう、どうしようもないんだから。


(了)
引用なし
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ねぇ、あいしてよ。 (C&P)
 [no name]  - 10/1/17(日) 3:17 -
  
 ――チャオガーデン内にて。


「ふぅ……」

 あたしは寝っ転がりながら、どこまでも続く青空を眺めていた。
 夢にまで見たチャオブリーダーの仕事を始めて、もう一年になるくらいだろうか。何とか、自然環境の良いガーデンを作ろうと、かなり田舎の方まで引っ越してきてしまったけれど、相変わらずのチャオの可愛さに骨抜きにされてしまったあたしは、たいして苦には思わなかった。
 広い空が見えて、傍には海が見える崖もある。滝も天然のがあって、なかなかに見栄えの良いところだ。
 ふわふわとした草は寝心地が良く、この場所は常に温かい。
 最近は、家にさえも戻らず、このガーデン内で過ごすことが多くなっている。

(ホン……ハ、モ…オ……、モド………ロナド…イ)

 親は最初はそんな生活に反対したけれど、積極的にお金を出してくれたのは、私の婚約者であるタクマくんだった。
 彼だけは、何故かこんな突拍子もない計画に、ガキの頃からの憧れだったんだ、と大賛成して、ぽいっ、とどぶに捨てるような感じであたしに資金援助をしてくれた。
 現在タクマくんは海外に出張中だ。来週くらいに帰ってくる予定だと言っていたが、どうも最近外国での仕事が忙しいらしく――最近不景気なモノだから――帰る日が先延ばし、先延ばし、になっているので、今回ももしかしたら無理かもしれない。
「あーあ、タクちゃん、早く帰ってきてくれないでしゅかねー?」
 子供をあやすような言い方で、あたしは隣のほうに真似して寝転んできた紫色のチャオに手を伸ばす。彼の頭はあたしの手にすっぽりと収まり、撫でられると、気持ちよさそうな顔をしながらハートマークを浮かべた。

(…ク……ン…、シ……ヨ。ソ………オタ…ハ………ャジ………カ)

 このチャオガーデンでは様々な種類のチャオをそろえている。
 ドラゴンのような頭の形をしたダークチャオ。河童の様な見た目の、泳ぎタイプのチャオ。頭の先っぽがとんがっているヒーローチャオ。全身をクマのパーツで固めた茶色いチャオ。
「このチャオには小動物代がすごくかかったんだよなぁ」
 思わず口に出して文句を言ってみたりするが、自分の無意識に悪意が存在しないのか、言われた当の本人はあたしの言葉に笑顔を浮かべている。
 あぁ、ここにいるチャオたちはみんな良い子たちだ。
 誰もあたしのコトを咎めたりしないし、否定もしない。
 みんな、良いコ、良いコ。

 と、寝っ転がりながらチャオともふもふするあたしに、他のチャオとは雰囲気の違う、冷たい感じを持っているチャオがゆったりと近づいてきた。
「あ……」
 それは、何かが足りなかった。他のチャオと同じような高さに目があり口がありぽよがあり羽根がある。
 だが、何かが無い。
「ふふ、今日ははじめて会うね、シースルー」
 そう、答えは全身の「色」。
 彼は、正真正銘の「透明な」チャオなのである。
 もちろん触ることは可能であるが、視覚的にはそこには一瞬何もないように思えてしまう。昔は彼を探そうとそこらじゅうをかけずり回ったけれど、ある日、そんなことしなくても、彼は、何故かあたしが会いたいときにやってきてくれることに気付いた。
 今は、あたしも自分から探すなんてことはせずに、偶然目に着いたときだけ、彼を可愛がることにしている。
「おー、よしよし」
 撫でる手にも思わず力がこもってしまう。
 別に、チャオに対する愛情が偏っているわけではないが、彼だけは常に高い高感度を維持させようと頑張っている。
 珍しいチャオだ、とタクマくんが教えてくれたこともある。
 けれど、本当の理由は……

(アハハ、見える見える)

 あたしが万華鏡のように、太陽の光にかざすと、彼の体越しに、映る人影があった。
「うふふ、タクマくん、やっほー」
 そう、その人影は、さっきからずっと考えている人物、タクマくん。
 最近はずっと帰ってこないからなのか。あたしは、そんな彼との想い出の風景や、彼の顔や体、彼と一緒にいるあたしを映すその想い出とも言える身体を溺愛していた。
 どうしてそう言うことが実現できるのかはわからない。透明なチャオには飼い主の思念を実像化出来る能力でも備わっているのかもしれない。あえて、これ以上何かを詮索しようとは思わないが。
「ふふふ、タクマくん、あたしは相変わらず頑張っているよそっちの調子はどうちゃんと外国で仕事しているのかなぁあたし寂しいよ早く帰ってきてほしいしいしいしてでふ……あぁ、だめだ、落ち着け、あたし」
 偶然目に付けたときだけ愛でる、と言うのは彼が必要な時に来てくれるからだけではない。あたしも、彼が四六時中そばにいると、タクマくんがいない寂しさで狂ってしまいそうになるからである。
 あたしも、自分で理性を保とうとはしているが、いつ頭のネジが取れてしまうか心配だ。チャオたちの前で、あたしのみじめな姿をさらすわけにはいかない。
 せっかくハートマークで埋めて、みんなあたしの仲間になってくれているのに。

 ――またいなくなっちゃうよ。


         ―― ま た ? ――


「あ、あははヒュつスジュェスははは……ううん、駄目駄目、おちついて、あたし」
 一瞬、変なことを思い出しそうになったが、すぐに気を取り直して愛しのシースルーチャオに顔を合わせる。透明で純粋な彼や、周りのみんなが、何があったの、と心配そうにこちらをじっと見つめていた。
 チャオに心配されるようじゃあ、まだまだあたしも半人前だ。
 あたしは深呼吸をすると、彼の体に焦点を合わせていく。ぼやけていた先ほどの映像たちが、ぽつぽつと、また彼の体越しに3Dで浮かんでくる。
 そこから見える透明の景色――あたしがこれまで浸かってきた数々の彼との想い出がシアター上映される様は、見ていて綺麗だ。
 呆然と彼を両手に抱え上げながら、その景色と自分の意識をシンクロさせていく。
 今日は特に、嫌な気分になったから、深く、深く、シンクロさせて――


 ぱりぃん


「ほえ?」
 空想の世界から強制的に追い出され、素っ頓狂な声を出して、あたしはチャオガーデンを見渡した。
 今確かに、ガラスの割れる音が聞こえた。
 しかし、そもそも、そんなものをガーデンにおいているはずがない。チャオが怪我でもして、泣いたら大変――彼らの好感度が下がって、死んでしまったりでもしたら大変――だから、そういうワレモノは置いておこうとはしないのだ。
 あたしは何だか変な気分に襲われたが、すぐにまた空想の世界へトリップしようと、透明な彼の体を抱こうとする。
「……あれ、無い」
 あたしは、さっきまでいた所に彼がいないことに気付いた。いや、でも、ここから歩き去るような音はしていないし、とすると、あぁ、飛んで行ったのかもしれない。
 すっと立ち上がって、彼を求めるようにあたしはガーデンをさまよい始める。
せっかくうつ状態から抜け出そうとしていた矢先にこれだ。早くしないと、自分の気がくるってしまいそうで怖い。
「ねぇ、早く、シースルー、しーするー、透明なアタシのフォトグラフ。もどってきてよねぇおねがいだから」
 だが、ガーデンのすみっこ、滝の周辺、木陰、チャオの好きそうな場所にはどこにもおらず。仕方なくあたしは手掛かりを探そうと、元いた場所に戻ることにした。
 戻ろうとした、――その時。
「痛いっ」
 あたしは反射的に右足をあげた。
 何かが刺さった。
 冷たくて、とがっている、何かが。
「何があったのかは知らないけど、……足の裏を見てみよう」
 正直、血を見るのは嫌いだが、何が起こったのかを知りたくて、あたしは地べたに座り込むとよいしょ、とその足裏を顔のもとにあげた。

 ――目が刺さっている。

 そう、それは目。目、目、めめめめめめめめめめめめめめめめ……
 あぁ、誰のかは大体想像がつくけど信じたくないいやこれはウソだこれはまやかしだあたしの幸せを邪魔する何かがあたしのこころを壊そうとしてこんなことをしているんだ一体誰だよ出てこいよまた殺してやるまたころしてやる
「アハハハハハハシースルーの目じゃんアハは、シーするーのメじゃない、いつもミテいるからきづいているはずなのにアタシハバカですねはいそうですねうん」
 バラバラだぁばらばら目も口も羽も全部バラバラのがらすの破片になってら。アタシはちょっと気になって一欠けらお日様にかざしたけど、てんで何も映らないね、残念だね、もうタクマくんを見れないじゃんみれないじゃん

(ホントウハ、モウオマエ、モドルトコロナドナイ)

(タクマクンハ、シンダヨ。ソノチャオタチハオモチャジャナイカ)

 本当はお前、もう戻るところなどない。
 拓真くんは死んだよ。そのチャオたちはオモチャじゃないか。

「うふふ、ちがう、違うのよ、あたし、これは現実、あれは夢だ」
 と、そこに突然オモチャオがやってくる。
 なんだあいつら、いつもいらねぇ、くだらねぇときばっかにきやがって、もし包丁があるなら殺してやりたいなぁ、ははは
「ま、真里菜さん、落ち着いてください!」
「中谷君、真里菜さんを一時的に端の方へ押さえておいて!」
「はいっ!」
 流暢に日本語をしゃべりやがる、全く不愉快な連中だ。でも、今のアタシは無力だから、彼らの思うがまま、身体を動かされる。なんだこの性奴隷みたいなあつかい、ははっ、アタシのこんなからだを屠ってもいいことないのにばかじゃないのかしらん
 はは、ははは、ハハハハハハ、ははは……


『僕にとって、君の考えは重いんだよ』

『昔は好きだった、本当だ、だから、そんなに怒らないでくれ』

『すまない……』

『や、止めてくれ、違う、僕は君から何かを奪おうとなんて思っていない』

『落ち着け、落ち着け真里nゴボゥォ……』


「メギァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 もういやだ、もうぜんぶキライだ、とおもったら手が勝手に動くのよあたしってば昔もおなじことになったのにきょういくがたりないね
 ヒーローチャオを殴りつけると首や手や足が吹き飛んで散らばったアハは楽しいタノシイ茶色いくまさんみたいなチャオはびりびりと音がすると中から白い肉片が飛び出してきて愉快だあーあみんな消えろ全部消えろあたしにはアタシの仲間だけいればジューニブンだウェぇンウワァァァァンワァァァァァァァァァン
 だれか仲間になって
 だれかあたしを助けて
 ねぇだれかあたしを愛してください
 タクマくんを殺してごめんなさい
 もうそんなことにどとしません
 だからあたしを愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください愛してください


 ねぇ、あいしてよ。


   *   *   *


「ごめん、シューちゃん、こんなめんどくさい仕事をさせて」
 中谷さんは苦笑いを浮かべ、シャラシャラといわせながら、箒とチリトリでわれた花瓶の回収を行っていた。当の本人である石倉真里菜は現在もっと厳重な部屋で待機をさせていところだ。
 ……と言っても、彼女自身が「待」機なんてありえないので、彼女の保護担当になったあの三人の看護婦さんたちはさぞかし大変な目にあっているだろう。
 それを考えるだけ、この部屋の清掃担当になった僕はまだ幸せな方だろう。
「はぁ、でも、院長、だから忠告したじゃないですか、患者の部屋にワレモノを置くなと」
「うーん、あれは石倉さんが肌身離さず持っていたモノらしいし、なんだか奪ってしまうと逆に病状が悪化しそうで怖かったのよ」
「あれ、彼女が殺した恋人からのプレゼントでしょう? こういう展開になると、俺だったら考えますけどね、……で、後は、なんだかガキっぽいおもちゃが目白押しですね」
「こう言うテの患者は年齢退行も起こりうるんだけれど、彼女の場合は、なんか仲間のような扱いをしていたわね、そこのテディベアとか、ガンダムのプラモデルとかは、特に……ふう。まぁ、とにかく――」
 彼女には私も結構まいっているんだけどね、と、院長は思わず本音を漏らしていた。

 散らばったガンプラ、綿が飛び出たテディベア、首が取れたゴジラ人形、細い腕がちぎられたケロロ軍曹のぬいぐるみ。
 彼らを抱いて、彼女は何を思っていたのだろう。
 彼氏からもらったビンを光にかざしながら「想い出なの」と笑って語っていた彼女は、どうして彼を殺してしまったのだろうか。
 本体もないくせに「彼氏とよくやっていたの」と見せてきたゲームは、一体彼女にとって何だったのだろうか。

 ――彼女にとって、幻想にないものは、全て嘘なのだろうか。

 俺には、彼女の想いが、未だに理解できずにいる。
 最近研修が始まって、精神病患者のための精神科医になることの現実と理想のギャップにいつも苦しんでいる俺。

 もしかしたら、彼女も同じような感情を抱いていたのかもしれない。


   fin
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援助交際 (C&P)
 [no name]  - 10/1/17(日) 4:17 -
  
 ――ホ別ゴム付きで4、ゴム無し外出しで5。

 上の言葉の意味、判るだろうか?
 ――ホテル代別で四万円、ヤるときはコンドームつけろ。
 ――ゴムなしで外出ししたいならプラス一万円。
 との、ことらしい。

 援助交際は昔売春の隠語表現として使われていたが、最近ではその言葉自体がもはや隠語としての意味をなくしてないくらい、その社会的認知が広まっている。

 JKが、JCが、JSが、自分のカラダを使ってお金稼ぎ。
 警察にさえ見つからなければ、自分は良い思いをするだけで、何ら苦労することなくお金を稼げる。
 いや、というより警察に見つかってやばいのは男の方だけ――児童ポルノ法だけならまだしも、13歳以下であれば合意非合意かかわらず強姦罪になってしまうのだ、と聞くと恐ろしい話だ――で、女性の方は無害、ともあれば保護されるという始末である。(その代わり、自分から援助交際などの募集をしているのがばれると、お縄頂戴になることも多々あるが)
 あぁ、今、13歳以下と言ったが、本当に13歳以下の援助交際の事例もあり、実際に11歳の少女の妊娠中絶を行った医師もいるくらいだ。(まぁ、コドモのコドモなんていう漫画も、趣向は違うけど、小5の子供が赤ん坊を産んでいるし)
 援助交際の問題は今は単なるエロ動画の世界だけでなく、実際に蔓延している青少年犯罪なのである。


   *   *   *


 ――というわけでですね、今日のインタビューは、チャオブリーダーの池田さんです!あの、チャオは非常に人の行動に影響を受けやすいというわけですが、あなたの行動を常日頃見ている、あなたのチャオはどういう仕草をしたりするんですか?

 ――う〜ん、あぁ、そうだ。仕事用のリュックに勝手に潜り混んで、仕事場や通勤中の俺を何度も見ている、まぁ、ある意味俺のコトを一番観察している――悪戯好きの子供チャオがいるんだけど。

 ――えぇ。

 ――そいつが最近、やけに俺にダンスをせがんでくるんだよなぁ。


 このインタビューが放映された翌日、池田さんは逮捕されましたとさ。


 fin
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Sister Moon (C&P)
 [no name]  - 10/1/17(日) 4:55 -
  
「見ろよ、今日の満月は格別だ」

 ゴミ捨て場、パンパンになった白色のゴミ袋が積もる場所を、俺はベッドの様にしてもたれかかっていた。気分が良い。人を殴って、金を奪って、汚い恰好して中華料理を食った後の、この侮辱されたような位置にいる俺は幸せだ。
 頑張れば、俺はもっとすごいことができるかもしれない。
 大量虐殺かって、やろうと思えばできるし、俺は死刑にならない確証がある。数学の勉強を今から必死にやって、将来すごい化学兵器を作ることかってできる。運動して鍛えて、オリンピック選手になろうとおもえばなれる。
 俺は、隣にいる、自分のパートナーの後ろ頭を撫で上げる。上からくしゃくしゃと撫でてあげたいところだが、炎が手に当たってしまうので止めておく。彼は撫でられようが、何されようが、決して表情を変えようとはしない。

「ハハ、お前は、いつになっても、変わらない奴だ」

 チャオと言う存在は、この人間界において異質な存在だ。彼らは一匹につき、誰か一人のパートナーとなり、撫でられると、徐々にそのパートナーの性格や寿命を克明に表わす。
 俺は小さいことは普通の人間だと想っていたが、それは彼が「ダーク」「カオス」チャオになることで、一気にその理想から遠ざけられてしまった。
 親とは絶縁状態になり、友人からもどんどん距離を置かれるようになった、付き合っていた彼女は別の男を作った。だが、そのような痛みしか残らない記憶もそろそろ俺の頭から消え始めている。
 ……俺が生まれたのは2211年、今は2561年。そう、俺は3世紀以上、この世界に身を置いている。若いままで、年老いず、そして、死なずに。

 周りの人間や街並みは、俺をおいてどんどんと消えていく。いつかは、この世界自体が消えて、人間も消えて、宇宙だけになって、宇宙も消えて、無になって。
 それでも、俺とこいつだけは、生きる。永遠に。
 だから、永遠なんて言葉は嫌いで、ただただ理不尽で、野暮ったい。

「お前だけが、俺の仲間だよ」

 ダークカオスチャオに対して倒錯的な愛情を向けようとした時期も、会ったような気がする。こいつと愛し合うことができれば、無のセカイになろうとも、怖くないはずだと。
 だけれども、悲しいかな、俺は人間として生まれてしまった。人間はどんなに人間を憎んだとしても人間しか愛することができない。結局、30年くらいかけて、いろいろと研究したが、何もできずじまいで、諦めることにした。

 今、俺は半ば狂っている状態に自分を仕立てあげ、この問題を片付けようとしてる。だから、何かに没頭することもなく、思うがままに動いてみようと考えているのだ。自分は狂っている、と想えば、俺は自分が正しいと想い込める。全てを狂気の沙汰に埋め込んでしまえば、記憶もすべて忘れてしまうだろうと。
 それは結構うまいこと言っているようだ。
 今日も、適当にルンペン生活を満喫して、人間としての飯もありつくことができた。こうやって、夜中になって満月を見て、今日という一日を顧みる。うん、悪くはない。決して悪くはない出来。

 これで、俺のこれからの絶望も安泰だ。
 誰も愛しないで、誰にも見られないで、独り孤独な狂気にさいなまされれば、無限など、ほんの一瞬にしかならない――


 ――すとん、と、ゴミ袋のベッドが微かに動いた気がした。


「お前、誰だよ?」
「んー、あとちょっとで病気で死にそうな女の子」

 その声は、どことなく哀愁に満ちた少女の声だった。女性から話しかけられるなんて、何年振りだろう。俺は、無視しようとも思ったが、気になって、思わず彼女の方を向いた。
 少女は、満月のほうをぼうっと見つめていた。何かうっとりするような表情で、その夜空に映る丸い窓ガラスを目に焼き付けようとしている。灰色の綺麗なストレートヘアーが、白い月の光に反射する様は、見ているこっちがほれぼれとするほどだった。

「綺麗ねー」
「……もう見慣れた」
引用なし
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Sister Moon (C&P) 修正版
 [no name]  - 10/1/17(日) 5:32 -
  
  「見ろよ、今日の満月は格別だ」

 ゴミ捨て場、パンパンになった白色のゴミ袋が積もる場所を、俺はベッドの様にしてもたれかかっていた。気分が良い。人を殴って、金を奪って、汚い恰好して中華料理を食った後の、この侮辱されたような位置にいる俺は幸せだ。
 頑張れば、俺はもっとすごいことができるかもしれない。
 大量虐殺かって、やろうと思えばできるし、俺は死刑にならない確証がある。数学の勉強を今から必死にやって、将来すごい化学兵器を作ることかってできる。運動して鍛えて、オリンピック選手になろうとおもえばなれる。
 俺は、隣にいる、自分のパートナーの後ろ頭を撫で上げる。上からくしゃくしゃと撫でてあげたいところだが、炎が手に当たってしまうので止めておく。彼は撫でられようが、何されようが、決して表情を変えようとはしない。

「ハハ、お前は、いつになっても、変わらない奴だ」

 チャオと言う存在は、この人間界において異質な存在だ。彼らは一匹につき、誰か一人のパートナーとなり、撫でられると、徐々にそのパートナーの性格や寿命を克明に表わす。
 俺は小さいことは普通の人間だと想っていたが、それは彼が「ダーク」「カオス」チャオになることで、一気にその理想から遠ざけられてしまった。
 親とは絶縁状態になり、友人からもどんどん距離を置かれるようになった、付き合っていた彼女は別の男を作った。だが、そのような痛みしか残らない記憶もそろそろ俺の頭から消え始めている。
 ……俺が生まれたのは2211年、今は2561年。そう、俺は3世紀以上、この世界に身を置いている。若いままで、年老いず、そして、死なずに。

 周りの人間や街並みは、俺をおいてどんどんと消えていく。いつかは、この世界自体が消えて、人間も消えて、宇宙だけになって、宇宙も消えて、無になって。
 それでも、俺とこいつだけは、生きる。永遠に。
 だから、永遠なんて言葉は嫌いで、ただただ理不尽で、野暮ったい。

「お前だけが、俺の仲間だよ」

 ダークカオスチャオに対して倒錯的な愛情を向けようとした時期も、会ったような気がする。こいつと愛し合うことができれば、無のセカイになろうとも、怖くないはずだと。
 だけれども、悲しいかな、俺は人間として生まれてしまった。人間はどんなに人間を憎んだとしても人間しか愛することができない。結局、30年くらいかけて、いろいろと研究したが、何もできずじまいで、諦めることにした。

  今、俺は半ば狂っている状態に自分を仕立てあげ、この問題を片付けようとしてる。だから、何かに没頭することもなく、思うがままに動いてみようと考えているのだ。自分は狂っている、と想えば、俺は自分が正しいと想い込める。全てを狂気の沙汰に埋め込んでしまえば、記憶もすべて忘れてしまうだろうと。
 それは結構うまいこと言っているようだ。
 今日も、適当にルンペン生活を満喫して、人間としての飯もありつくことができた。こうやって、夜中になって満月を見て、今日という一日を顧みる、そして、微かな妄想を思い浮かべては、にやりと笑う。うん、悪くはない。決して悪くはない出来。

 これで、俺のこれからの絶望も安泰だ。
 誰も愛しないで、誰にも見られないで、独り孤独な狂気にさいなまされれば、無限など、ほんの一瞬にしかならない――


 ――すとん、と、ゴミ袋のベッドが微かに動いた気がした。


「お前、誰だよ?」
「んー、あとちょっとで病気で死にそうな女の子」

 その声は、どことなく哀愁に満ちた少女の声だった。女性から話しかけられるなんて、何年振りだろう。俺は、無視しようとも思ったが、気になって、思わず彼女の方を向いた。
 少女は、満月のほうをぼうっと見つめていた。何かうっとりするような表情で、その夜空に映る丸い窓ガラスを目に焼き付けようとしている。灰色の綺麗なストレートヘアーが、白い月の光に反射する様は、見ているこっちがほれぼれとするほどだった。

「綺麗ねー」
「……もう見慣れた」

 俺はそこになるべく感情をこめないように言う。
 なんとなく、彼女に見とれていたということを悟られてほしくなかった。
 よく見ると、端正なのは髪だけでなく、その大きなやや垂れ目の瞳や、細い眉、小さな鼻と唇も全てにおいてバランスが整っている。

「女神……」

 馬鹿野郎、と即座に自分の心に突っ込んだが、思わず自分の考えたことを口に出してしまう。
 少女は、それが自分のコトだと気付いたのか、ゆっくりと満月を見ていた視線をこっちの方へと向ける。

「残念」「……は?」
「それ、あたしにとって、褒め言葉じゃないんだ」

 そうして、また満月の方へと視線をそらせてしまう。

「あたしはね、さっきも言ったでしょ? 病弱な女の子で、明日死んでしまうかさえも判らないコなの。だから、そんな永遠の命を手に入れたような言い方をしないでよ」
「けっ、なんだよ、永遠の命を手に入れたような口ききやがって」
「……永遠の、命、なーんて、ねぇ」

 満月の観賞を何度も邪魔されて彼女も腹が立っていたのか、いったん目をつむると、うあー、と気の抜けた声を上げて、ゴミ袋ベッドのさらに奥の方へと身体を突っ込ませていった。
 俺が突っ込めば間違いなく雪崩を起こすだろうが、彼女は体重も軽く、体格も俺に比べたら一回り小さいのか、ぽふんと言う間抜けな音を返すだけで、あっさりと彼女のカラダを受け入れていた。
 そこで、俺はようやく、彼女の影で見えていなかった、パートナーの姿を拝むことになった。

 白いボディと薄ピンク色の羽のような頭のびらびら。俺のパートナーと同じように無表情な眼。天使のリングが頭の上にふわりふわりと浮いていて、それはまるで、俺たちと同じよう――あるいは正反対な――雰囲気を醸し出していた。

「お前……このチャオは、なんだ?」
「ヒーローカオスチャオ。嫌に長ったらしい名前であたしは嫌いなんだけどね。そういう属性で生まれてきたんだからしょうがないじゃん」
「カオス……」
「そ。だからさ、あたしのコトを女神とか言うのは、止めて。あたしはこの世界を美しいモノとして見ながら暮らして、何とかこの世界から離れられない自分の絶望にピリオドを打とうとしているの」

 彼女はあおむけになりながら、また満月を見上げる。
 その格好は、今更ながらよく見うと、なんだかボロボロで、俺と同じように、もしかしたら自分の見た目なんて気にせず世界中を歩いているのかもしれない。

「この格好になってもう何年かしら? 臭いでしょ、あたし」
「いや、あまり臭わないけれども」
「ふうん、そう、ありがと。嗅覚が無い人で助かった」
「……ワキガな人間は、自分普段嗅いでいるにおいがあまりに臭いから、そのワキガにも気がつかない、ってよく言うだろ、多分あれの類だ」

 そう説明すると、彼女は嫌そうな顔をして俺の方を向いた。
 どうやら言っている意味がわかったらしい。

「汚い、早く川にでも行って身体流してくれば? たった一度の、人生、周りに恋人とか友人がいないと寂しくてしょうがないでしょ?」
「まぁな、それが何百年も続いていると、そうも思わないんだけどな」
「……?」

 いぶかしげな目で見る彼女に、俺は暗がりに潜んでいた一匹のチャオを見せつける。彼女はしばらくそれを観察していたが、やがてその真ん丸な瞳をさらに大きくさせてこっちの方へずいっと身体を寄せてきた。

「あ、やっぱり少しにおうな」
「そ、そんなことどうでもいい! そのチャオは……」
「ダークカオスチャオ」
「……あなた、今、何歳?」
「350歳」
「……あたしは、210歳」
「だな」

 彼女はぽかん、として、俺の方をずっと見つめていた。
 なんだか、今までやって来たことが、馬鹿だとか、やっと安心できるとか、道連れができた、とか、色々と考えていそうな顔だった。
 俺はそんな彼女を見ていて、思わず笑ってしまった。絶望から解放されたことに対する、悦びか、嬉しさか、なんだかが、色々混じっていて、やっぱり俺も無表情な顔でずっと彼女を見ていた。
 人間、急展開にはすぐには反応できないものだ。

 ――白い明かりの下、4つの影を、月がじっとのぞいている。


   *   *   *


 ゴミ捨て場、パンパンになった白色のゴミ袋が積もる場所を、俺はベッドの様にしてもたれかかっていた。気分が良い。人と働いて、金を稼いで、自分らしい恰好して二人でご飯を食った後の、この現実的にされたような位置にいる俺は幸せだ。
 頑張れば、俺はもっとすごいことができるかもしれない。
 大量虐殺かって、やろうと思えばできるし、俺は死刑にならない確証がある。数学の勉強を今から必死にやって、将来すごい化学兵器を作ることかってできる。運動して鍛えて、オリンピック選手になろうとおもえばなれる。
 ただ、俺は、隣にいる、自分のパートナーの後ろ頭を撫で上げる。上からくしゃくしゃと撫でてあげたいところだが、髪形をむやみに崩すと、彼女が怒ってしまうので止めておく。彼女はは撫でられると少し喜んだ顔をして、ちょっと前にも見たように満月のポートレートを白い汚いベッドの上から観察する。

 今日はそろそろ冷え込んでいく時期だ。洗濯物も乾燥機に入れっぱなしだし、明日も仕事があるから、早くアパートに帰りたい、とも思うが、俺はそのまま彼女の満月を見る仕草をポートレートにして楽しむことにした。
 寒いのが不満なのか、ダークカオスチャオが俺の裾をちょいちょいと引いている。俺はそんな彼の身体を無理やり両手で掴んで、月の方へと翳した。

「見ろよ、今日の満月は格別だ」


   *   *   *


 ――と言う妄想をするくらいだ。

 俺とダークカオスチャオは、相変わらずゴミ捨て場から満月を見る。
 今、俺は半ば狂っている状態に自分を仕立てあげ、この問題を片付けようとしてる。だから、何かに没頭することもなく、思うがままに動いてみようと考えているのだ。自分は狂っている、と想えば、俺は自分が正しいと想い込める。全てを狂気の沙汰に埋め込んでしまえば、記憶もすべて忘れてしまうだろうと。
 それは結構うまいこと言っているようだ。
 今日も、適当にルンペン生活を満喫して、人間としての飯もありつくことができた。こうやって、夜中になって満月を見て、今日という一日を顧みる、そして、微かな妄想を思い浮かべては、にやりと笑う。うん、悪くはない。決して悪くはない出来。

 これで、俺のこれからの絶望も安泰だ。
 誰も愛しないで、誰にも見られないで、独り孤独な狂気にさいなまされれば、無限など、ほんの一瞬にしかならない――


 フフ、フフフフフ――


 Sister moon will be my guide
 In your blue blue shadows I would hide
 All good people asleep tonight
 I'm all by myself in your silver light
 I would gaze at your face the whole night through
 I'd go out of my mind, but for you

 Lying in a mother's arms
 The primal root of a woman's charms
 I'm a stranger to the sun
 My eyes are too weak
 How cold is a heart
 When it's warmth that he seeks?
 You watch every night, you don't care what I do
 I'd go out of my mind, but for you
 I'd go out of my mind, but for you

 My mistress' eyes are nothing like the sun
 My hunger for her explains everything I've done
 To howl at the moon the whole night through
 And they really don't care if I do
 I'd go out of my mind, but for you

 Sister Moon ...
引用なし
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あとがき 〜なぜ二度も投稿ミスをする
 それがし  - 10/1/17(日) 5:57 -
  
*総評*

 みなさん、お早うございます。それがしです。
 途中名無しさんになっていますが、あまりお気になさらず。
 本当はまだあと3作品くらい投稿するかもしれませんが、キリが良いのでいったんあとがきを。

 今回のテーマは今更ですが『罠』。小説でしか味わえない、文章としての罠に、皆さんが楽しんでいただければ、幸いです。ただ、その性質のせいもあってか、マシなハッピーエンドが一つもないのはお許し願いたいところです。

 俺としては、全部の作品に愛情込めて執筆しましたが、「あいなし」は特にお気に入りです。チャオを入れることができ無かったのが残念で堪りません。ええ。


*作品評*


『A System Dying』

 死にかけのシステム。まぁ、深い意味はあってないようなものですので、語呂がいいと考えていただければ結構です。戦争と言う世界をただ、戦闘シーンに連ねるのではなくて、それ以外の醜い部分であらわせたらいいなぁと想いながら書いていました。どうでしょうか? 
 ……えぇ、全部の中で、一番俺の力量と知識の無さが目立つ作品ですorz
 ちなみに、俺は姉属性ですので、妹萌えを書き続けるためのカンフル剤にして、この小説を書きあげたわけじゃないんだからねっ!
 あと死体には興味ありません。


『あいなし』

 一番お気に入りの話。彼女から見たら二人でヘンなデート、と位置付けられるのでしょうが、彼からすれば、彼女を失った後の、後ろめたい行動でしかないというギャップがね、自分で書いていても面白い話だなぁと想っていた。
 え? あぁ、面白いとあまり感じられないのは俺の筆致力の問題です。どうかストーリーを責めないで上げてください……。
 ちなみに、愛とは俺の同級生の中で一番仲の良かった女子生徒の名前です。本人からは許可取っているようで取っていません(mixiで「お前の名前使うわ」「え?どゆこと」「フフ」)ので、あまりインターネットで調べてあげないでください。まー、まず特定はできないだろうけどなっ。


『ねぇ、あいしてよ。』

 これも俺はなかなか好きですよ。
 もうちょっと文章量増やして展開を自然に出来ればよかったかな、と今更ながらに反省していますが。あぁ、チャオとおもちゃの対照表は作らずもがなですよね。みなさんの見た目イメージで判断してくだされば多分全問正解かと想います。
 えぇ、だから、これも俺がヤンデレ好きというわけではけっしてなくてですねただこういうストーリーも書いてみると読者にも程よい刺激を与えることができて勝つ面白いんじゃないかなぁとおもっただけですよですデスデででででデスススすすすでうシデるつづでししあーところでアナタ嘘付きですね中に誰もいませんよ


『援助交際』

 ブラックジョーク。
 最後、どうして逮捕されたかの理由が判るまで、少々時間を要しますヨ?


『Sister Moon』

 言葉を使いまわすことを単なる字数増やしでなく、トリックとして使うことに重点を置いた作品。まず、最初に繰り返しの文章を中途半端な使いまわして、いかにもエンディングらしさを醸し出した……と、おもったらまさかの本当の使いまわし。これ、結構、俺の頭では良いアイディアだと思ったんですが、ただの日寝くれだったかもしれないですね、ごめんなさい。
 俺も永遠は生きていたくないなぁ。主人公の彼みたいに、やろうと想えば何でも突き止められるんだろうけど、でも、やっぱり無気力になって、あぁいうふうに狂気と妄想の世界で死んだように生きるんだろうなぁと思いました。
 みなさん、有限の命は大切に使いましょう。有限な分だけ、何かしらの価値があると想います。


 では皆さん、あけましておめでとうございました。


 10/01/16 それがし 未明の光がカーテンに差す賃貸マンションの一室より。
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お便りを募集しています。
 それがし  - 10/1/17(日) 6:01 -
  
なんか、言いたいことがあったら言ってください。
ちなみに、あと何作品か続けて書こうと想っているので、
それに関する「こんなネタを書いてくれ」とかあったら気軽にどうぞ。
妹(2D)には見せられないような下ネタを書いてくれても構いませんよ。
エロゲのお勧めとかの相談があったら、気軽に俺の友達が答えてくれます。
引用なし
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