●週刊チャオ サークル掲示板
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Half and Half 0 ろっど 10/1/29(金) 14:54
Half and Half 1<alone and all> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half 2<cry and delight> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half 3<try and result> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half 4<dark and lamp> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half 5<hope and despair> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half 6<winner and loser> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half 7<start and finish> ろっど 10/2/2(火) 2:02
Half and Half あとがき ろっど 10/2/2(火) 2:29
感想は午後2時2分に送ります チャピル 10/2/2(火) 14:02
お誕生日おめでとうございます ろっど 10/2/2(火) 14:32
じぃざむの8月もいれてやってください じぃざむらい 10/2/2(火) 19:44
8月もいらっしゃるとは。 ろっど 10/2/3(水) 12:15
感想です。 10/2/3(水) 2:14
お返事です ろっど 10/2/3(水) 12:26

Half and Half 0
 ろっど WEB  - 10/1/29(金) 14:54 -
  
「君の名前はエースだ。君の名前はエースなんだよ」

 光に目が慣れるまで、しばらくの時間が必要だったことを、覚えている。
 僕が生まれ落ちたその日から、僕がハーフチャオであることは、決まっていた。僕が捨てチャオであることも。全部、その時から決まっていたのだ。
 だから諦めるしかなかった。
 どっちにしろ、悪いのは僕じゃないのだから。

「さあ、お前も何か言ってやれ! 言いたい事くらいあんだろ!」
「え? え?」

 僕に何が出来たというのだろう。
 1人しかいない僕には、何も出来ないんだ。当たり前だろ?

「なんていうか、気持ちなの。家事を手伝うってだけで、感謝の気持ちは伝わってると思うわ」
 でも、やっぱりそれだけじゃ僕にとって不足なのだ。せめて僕の稼いだお金で、僕が選んだものをあげて、喜んで欲しい。そう思う。

 
『あの子、ハーフチャオだよ』
『暇で友達いないから、勉強してるんだろ。やりたくてやってるわけじゃねーよ』
『ちょっと珍しい肌の色してるからって、調子に乗ってるよね』
『どうせ何言っても無駄だよ』
『飼い主いないみたいだよ――捨てチャオなんだって』
『近寄らない方が良い』


 僕が味わった苦しみなんて、誰も分かっちゃくれないんだ。
 僕は何一つ、悪いことなんてしていないのに。

「失敗したっていいんだって。謝ればそれで終わりだ」
「本当にそうでしょうか」

 本当にそうなのか?
 本当のことを僕は知りたい。みんながどう思っているのか、僕は一体、どうすればいいのか――

 僕が、僕を捨てた両親と飼い主からもらったものは何もないのに、他のみんなは色々なものをもらっている。
 僕の方がずっと不幸なのに。

「どうして僕ばっかり、こんな目にあわなくちゃならないんだよ……!」

 他のみんなは、もっと悪いことをしているのに。
 僕が幸せになれないのは、どうしてなんだろう。
 僕が自由になれないのは、どうしてなんだろう。
 他のみんなも、同じ思いをすればいい。
 すれば、いいんだ。

「やっと、やっと見つけました」

 ――本当にそう思っているのか?

 逃げよう。
 それがいい。
 そうしなきゃだめだ。
 そうする他ない。
 急いで帰って、急いで出かけよう。
 僕のことを誰も知らない場所へ。
 走って行こう。

「もう、嫌なんだ」

 でも、僕は。

「逃げたいのなら、逃げてもいいのよ」

 それでも、僕は。

「だけど、全部中途半端で逃げるのだけは、許さないからね、エースちゃん」


 僕は、生きていちゃいけないのかもしれない。
 ここにいちゃいけないのかもしれない。
 楽しく笑っていたら、いけないのかもしれないけれど。
 だとしても、僕は、

 ――優しくしてくれた人たちに、恩返しがしたいんだ。

「なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ、エース!」
「ここにいたいからいて、それで悪いか!」


「友達になろう」
「は、今更何を」
「良い友達になれると思うんだ」

 コドモチャオはオトナチャオに勝てるだろうか?
 弱い僕が、強い相手に勝てるだろうか?

「勝算はあるの、レイ?」
「全てはお前にかかってる! 頼んだ!」

 僕は、1人なんかじゃないんだ。
 負けたりなんかしない。
 相手にだけじゃない。
 弱い自分にも、だ。


Half and Half birthday presents for Mr.Chapil


「行って来ます」


 Feb.2、公開予定。
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Half and Half 1<alone and all>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
 10年くらい前までは、こんなチャオが1人で残っている――なんてこともなかったらしい。
 昼間の騒がしさとは比べ物にならない寂しさを持つ校内の一室。僕はチャオサイズの布団にくるまりながら、まだ薄暗い窓の外を見てもう一度寝ようと思った。
 外では楽しそうに小鳥たちがじゃれ合って、遠くへ飛んで行く。小鳥たちにとって、空は自分たちの場所だ。誰にも邪魔されない、自分たちだけの。
 僕には、ここしか居場所がない。どんなに独り寂しくても、辛くても。ここにしか居場所がないのだ。
 今の、僕には。


 1クラスに40匹のチャオがいる。授業科目は社会科。2学年の1番はじめだからか、内容は1学年の復習。それと、久しぶり、なんてあいさつが教室でかわされている。
 もちろん、僕にはあいさつなんてないけれど。
 他のチャオ――必然的に僕以外のチャオということになる――は仲間内で楽しく話したり、春休みにチャオガーデンへ遊びに行ったとか、ミスティックルーインまで旅行したとか、こそこそと楽しげに話していた。

「さて、近年増加傾向にある捨てチャオ問題ですが……エース君、捨てチャオ問題の内容は分かりますか?」

 先生もそれを分かっているのだろう。他のチャオに聞いても喋っていて分からないから、僕に聞く。まるで晒し者だ。その先生と来たらしたり顔で『以前やりましたよね』なんて言い出した。
 ――分かるさ。勉強くらいしかすることがないもの。

「個人的な事情によって、人に飼われていたチャオが捨てられる事です」

 周囲から溜め息が聞こえる。答えられないくせに!
 僕がそんなことを思っていると、周りから『答えられて当たり前でしょ。だって自分のことだし』という声が聞こえた。

「そうですね、ただその個人的な事情というのは、お金の問題だったり、知識的な問題だったりします、そのために」

 先生は空中を飛びながら(社会科の先生はヒコウタイプなのだ)ホワイトボードに『義務教育』と大きく書いた。

「『義務教育』の導入が、一昨年なされました。それではもう一度エース君」

 また僕だ。周りのチャオは授業中に答えたがらないことが多い。やっぱり先生もそれを分かっているから、僕に聞くんだ。他のチャオのせせら笑いが聞こえた。
 以前よりも確実に、段々と、チャオの性格は人に似てきているという。ペットは飼い主に似る、というヤツだろう。というと悪いのは飼い主なのか、ペットの方なのか。それとも僕か。
 一番格好悪いのは、僕だろうけれど。

「『義務教育』の目的を2つ、答えられますか?」
「チャオが自分で的確な判断をするように、出来るようにすること……それから、捨てチャオを保護するためです」


 僕は飼い主を知らない。もしかしたら僕は国の繁殖場で生まれたチャオかもしれない。でも、タマゴのまま捨てられて、タマゴのまま学校に保護されて、そうして生まれた事は確かだ。
 水色ハーフ。人にとっては珍しくてすごいものみたいだけれど、チャオの中ではただ単にうとまれるだけ。最近では街中チャオで溢れかえっているせいで、僕みたいな捨てチャオは見向きもされない。
 その中でも、国の繁殖場で生まれた『商品』は売れ行きが増加し続けている。そして捨てチャオも。欲しがって、買って、飽きたら捨てる。人って、そんなもんでしょ?
 ふと目の前が真っ白になった。なんだ、と思うもつかの間、

「わっ」

 考え事をしていて歩いていたせいで、ぶつかった。思わず謝りながら相手に手を差し出す。見れば相手のポヨはぐるぐるマークになっていた。
 ――ピュアのヒーローオヨギタイプ、かな? ということは年上だ。2学年で進化している子はピュアだけどニュートラルチカラだもの。……性格のきつい人じゃないと良いけれど……。
 その子は僕の手をぎゅっと握って、おもむろに立ち上がった。ポヨが元に戻ったのを見て、ほっとする。よかった、怒ってはいないみたい。

「あの、本当にすみません。大丈夫ですか?」
「いえ、いいんです。こちらこそすみません」

 気が付くとその子が目の前に迫っていた。二、三歩後ずさって、僕はぎゅっと握られたままの手を離す。
 一瞬――彼女、ということになるのだろうか。僕はどっちかというと男だと思うから。その彼女のポヨがハートマークになったのを見て、僕は唖然とした。コドモチャオ相手に、というとなんだか卑猥だけど、まさにその通りだ。
 チャオにはちゃんと繁殖期、というものがある。実際に見た事はないけれど、チャオ同士のポヨがハートになって周りに花が咲くらしい。花は咲かなかった。
 冷静に分析しつつも、僕は自分のポヨが変化していないか気が気で仕方なかった。もしハートマークになってたりしたら、なんて罵られるか分からない。懸命にポヨが変化しないよう意識しながら、彼女が頬を朱に染めてぺこりとお辞儀をするまで、僕はじっと仁王立ちしていた。

「ほ、本当にすみませんでした。では……」

 その言葉に何も返せなかったのは、予想以上に僕が動揺していたからかもしれない。
 久しぶりに、先生以外のチャオとまともに喋ったから。


 図書室のドアの前で、僕は立ち止まった。しばらく図書室にも寄っていない。最近では昼休みなどの空いた時間は勉強に使っていたのだ。
 年齢が上がるにつれて、勉強はどんどん難しくなるらしい。実は義務教育の目的に、『チャオの知能計測実験』という面もあった。もちろん表沙汰にはされていないし、確証もないけれど。
 どんと、左手に衝撃。僕は床に倒れ込んだ。思った以上に床は冷たい。目を開けてみると、前には同じクラスのチャオが数匹いた。
 謝るでもなく、笑うでもなく、まるで物でも見るような目つきで、彼らは僕を見下して去って行く。

「なんであいつがここにいるんだろうね」
「死んじゃえばいいのに」
「近寄らない方が良い」

 反撃の機会はあった。走って、言い返せばいい。やらなきゃ僕の気がすまない。でも足が震えていた。心の表面だけ精一杯反抗している僕がいた。
 悪いのはあいつらだ。僕じゃないんだ。
 僕が捨てチャオだから。
 僕がハーフチャオだから。
 1人じゃ何にも出来ないくせに!
 彼らの話し声がすぎて、途端に辺りが寂しくなる。僕のポヨがぐるぐるマークになっているのが、自分でも分かった。今日はよくぶつかる日だな、なんて、頭の隅っこで考えて。
 図書室にそっと入る。中には誰もいなかった。なぜかほっとして、僕は本を探す。学校の図書室は生徒のリクエストで次々と新刊が入ったり、もう手に入らない昔の小説が手に入ったりする。暇を潰すには絶好の場所だ。
 ずらりと並ぶ新刊タイトルの中から、僕は金色の刺繍を施されたものを見つけて、手に取る。チャオ転生論。著者は千堂令。今日はこれを読もう。
 近くの椅子に座る。チャオの学校とは言っても、人がまったく来ない訳じゃない。そういうとき、全ての家具がチャオサイズだと人が困ることになる。こういう椅子だったり建物だったりは、ほとんどが人のサイズに合わせてあるのだ。
 だから椅子に座るときも、チャオはちょこっとだけ飛ぶ。柔らかい椅子に座って、表紙をめくった。

『チャオは愛なくして生きられない』

 定説だ。チャオは寿命を迎えると、普通なら死んでしまう。けれど生前(少し矛盾するが、あえてこの言葉を使う)愛されていたチャオは、死なずにタマゴになる。生まれ変わるのだ。
 最長寿のギネス記録は今のところ総計で43歳らしい。そんなチャオいるのか、と僕は思った。

『愛とは人からの愛に限らない』

 僕はこの一文に興味をひかれた。今までは――どこにもそうと書かれていなかったにも関わらず――チャオは『人から愛されなければ』死んでしまう、と思っていた。
 だけど、人からの愛に限らないということは、チャオからの愛情でも転生は可能、ということ……なのだろうか?

『精神的に限りなくヒトに近い成長をする現代のチャオに関しては、チャオ同士のコミュニケーションも可能である。故に、チャオ同士が愛し合ってさえすれば転生は可能なのではないか、と私は仮説を立てた』

 読みふける。本の中に入っているような気分だ。文字を読んでいるだけなのに、自分が文字の中にいる。本とは不思議なものだと思う。
 五時間目の始まりのチャイムが鳴ったのに、僕は気がつかなかった。
 初めて僕は、授業を欠席した。
 生まれて、初めて。
 そんなふうなことを考えていたからだと思う。


 目の前に誰かがいる、ということに気が付いたのは、本の後書きをじっくりと読み終わって、ぱたんとそれを閉じてからだった。
 人の髪の毛みたいな2本の角に、幾何学的な模様が付いている。肌は白。ピュアチャオの、ヒーローオヨギタイプの子だ。

「……読書が、好きなんですね」

 顔を俯かせながら、彼女(?)は消え入りそうな声で呟いた。昼休みにぶつかった子。僕は話し掛けて来てくれた事が嬉しくて、何度も頷く。
 その様子が滑稽だったからだろうか。彼女は優しく微笑んで、くすくすと笑い声をこぼした。
 余談になるが、この学校唯一の捨てチャオである僕は、学校の中ではちょっとした有名人だと言っても良い。もちろん悪い意味で。その捨てチャオに偏見を抱く人も、チャオも、たくさんいる。
 何より僕はハーフチャオだ。色がついているし、その上から模様も付いている。他のチャオとは違うチャオなんだ。
 彼女から話し掛けられた事は嬉しくても、その理由が全然分からなかった。僕は生まれてまだ3か月くらいしか経っていないけれど、短い間で『チャオは自分たちと違うチャオを生理的に嫌悪する』という仮説を立てている。
 例外があるのかな。
 彼女は何かを言いたそうにしていて、けれども口を開いては閉じ、口を開いては閉じ――ずうっとそれを繰り返していた。
 どうしたんだろう。
 なんだか僕は落ち着かなくて、ふと周りを見る。図書室の入り口に数匹、チャオが待っている様子だった。

「リース、早く行こうよ」
「あ、はいっ! ……あの、またお話しましょうね」

 僕に出来たことといえば、戸惑って何度も頷くだけだ。たぶん、ものすごく不自然な態度だったろう。
 恥ずかしくもあったけれど――それ以上に、嬉しかった。嬉しすぎて、だから忘れていたのだと思う。
 僕は、学校内の嫌われ者だってことに。
 図書室を後にした僕は、すぐにニュートラルチカラタイプのチャオに右手を掴まれた。体が固まる。地面に足がくっついたみたいに、僕の体は固まった。
 やめて。
 そう叫べたら何か変わるだろうか。
 どうせ何も変わらない。
 僕は1人で、いつだって僕が悪者扱いされるんだ。近寄っちゃいけない。言い返しちゃいけない。どうせこいつらは1人じゃ何も出来ないんだから。
 1人でいる僕とこいつらは違う。
 体が震える。
 言い返せない。
 動けない。
 その目が、視線が怖い。
 来ないで。
 僕に関わらないでくれ。
 お願いだから。

 チャオの拳が僕の顔に叩き付けられる。4匹のチャオに囲まれて、僕はひたすら殴られていた。ポヨのぐるぐるを抑えることなんてできない。
 最初のうちはやり返そうと思ったけれど、相手は4匹もいる上に、1匹はチカラタイプだ。勝てっこない。
 なんで、なんで、と繰り返し疑問に思っても、相手はやめてなんかくれないだろう。自分でどうにかするしかないんだ。

「お前があの人と話すなんて、100年早いんだよ!」

 ニュートラルチカラのチャオ。同じクラスのチャオ。僕に言う。殴られる。泣きそうになるのを懸命にこらえる。
 あの人。リースって呼ばれていた、ヒーローオヨギの子だろうか。そうか、僕は誰かと話す事ができないんだ。やっちゃいけないことだったんだ。なんて、本当は思いたくないのに、誰かに助けて欲しくて、思う。
 僕を殴る手が止まる。4匹とも集まって、地面に倒れる僕を見下ろす。

「こいつ、二度と学校来させないようにしてやろうよ」
「そうなるとセンコーがうるさいだろ。ぜってえこいつチクり入れるし」
「廃ビルに連れて行ってボコすか?」
「アホか。そんなことしたらバレんだろ」

 コドモチャオじゃどんなに頑張っても、チカラタイプのチャオには敵わない。分かっていたことだった。
 せめてヒコウタイプにでもなれれば、勝てるかもしれないのに。悔しさが溢れかえってきて、僕の心を内側からどん、どんと叩く。

「なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ」

 悪意。
 言葉にすることができる。
 それは悪意だ。

「なんでお前なんだよ」

 僕がいない方がいいって、思ってるんだ。
 どうして、僕ばかりが。
 どうして僕だけが、こんな目に遭わなくちゃならないんだ――ただ、話していただけなのに。嬉しくて、喜んで。たったそれだけなのに。
 みんなと違うチャオだからだ。僕は何にも悪くない。何一つ、悪くない。

「おい、お前! センコーにチクったらお前もあの人もただじゃ済まさねーからな!」

 みんなと違うチャオだから、僕はみんなと同じ事をしちゃ、いけないのかもしれない。
 しばらくして、僕を叩いていたチャオはみんないなくなっていた。空が暗い。どれくらいの時間が経ったのだろう。
 体中が痛かった。周りには誰もいない。屋上。誰も来ない。
 独りしかいない場所が、とてつもなく心地よかった。ここには僕を見下すあの視線も、僕を苦しめるあの言葉も、何もない。
 アイツラは他の人から色んなものをもらっている。ずるい。ずるをしている。正々堂々と生きている僕とは違う。飼い主がいて、友達がいて、笑っている。僕が勝てないのは当たり前で、何もおかしいことなんかじゃない。

「エース、君……?」

 頭の上の方から声がかかった。痛む体を無理に立たせ、僕はなんとか後ろを振り向く。

『お前もあの人もただじゃ済まさねーからな!』

 僕とは関わらない方が、彼女のためだ。なんて、臆病な気持ちをごまかす。
 それでも嫌われ者の僕に、こんなにやさしい彼女を、こんな目に遭わせる訳にはいかない。もしそんな簡単なことも分からない馬鹿だったら、それじゃあ、彼らと何も変わらない。
 彼女が僕のせいで笑えなくなるのは、絶対にごめんだ。
 表情は見なかった。どんな表情をしているのか分からなかったから。

「ごめん」

 まるで僕じゃない、別の誰かが、僕の体を勝手に使って喋っているみたいだった。
 謝る。どうして謝るのか。せっかく優しくしてくれたのに。話し掛けて来てくれたのに。それを裏切るようなことをするから?
 僕は捨てられたチャオだ。増加しているとは言うけれど、この学校には僕しかいない。僕はハーフチャオだ。他のチャオとは違うチャオなんだ。

「どうして謝るの? エース君は何にも悪いことなんて――」

 だから、彼女と話しちゃいけない。
 彼女は普通の子だ。僕みたいな欠陥品とは違う。普通に暮らして、普通に転生するんだ。そうじゃなきゃ僕は許せない。
 どうしてかは考えなかった。考える前に、体は動いていた。彼女の静止の声に見向きもせず、僕は校舎を駆ける。

 生まれたのは保健室だった。生まれた途端、僕には親も飼い主もいないと言われた。もらったものはたったの1つ、名前だけ。最初はどういうことか分からなかったけど、まわりの話とか、学校の説明とかを聞いて、理解した。
 クラスに入ったのは2月。僕が普通のピュアチャオと違う事に他のみんなが気が付いたのは、同じクラスにピュアの子がいたから。なんにもしらずに、僕は自分を水色ハーフだ、と言った。飼い主がいないことも言ってしまった。
 初めはあんなに喋り掛けてきてくれた子たちも、いずれ僕から離れて行った。
 みんなから向けられる視線の意味に気が付いたのは、3月の始め頃。放課後、楽しそうに遊ぶチャオたちを見ながら、僕はひたすら勉強していた。
 嫌がらせを受けるようになったのは、いつからだろう。もうそれが当たり前になっていて、思い出せない。思い出したくない。
 どうしてハーフチャオなんかに。どうして捨てチャオなんかに。僕は普通に暮らしたかっただけなのに。

 僕は割り当てられた一室に戻ると、人工の木から生えている木の実を3つ取ってリュックにしまいこんだ。チャオサイズの布団もその中に入れる。
 もう、こんなところになんかいたくない。
 リュックを背負う。ここには色々な思い出があった。けれどそのほとんどは嫌な思い出。心残りはない。いや、唯一あるとすれば、彼女の優しさに報いることができなかったことくらい。
 あと2か月もすれば夏だ。と言っても、まだ夜は冷える。僕は覚悟を決めて、走る。

「どこかにお出かけかい、エース君」

 門を出ようとした時、後ろから声が掛かった。チャオにしてはやや重い声の主。たっぷりと白いひげを生やしたピュアチャオだ。
 いつも朝礼や集会のとき、みんなの前に立って長い話をすることで有名な、校長先生。
 校長先生と個人的に話すのは、生まれて以来、二度目になる。

 僕は何も答えなかった。答えられなかった。
 先生に『あの事』を言えば、彼女が嫌な思いをするかもしれない。かと言って言わないでいても、連れ戻される可能性がある。連れ戻されるだけならいいけれど、どこにも行かないように監視されると抜け出せない。
 だから何も言えなかった。
 でも、校長先生は何も聞かず、穏やかな表情のまま、頷いた。

「気をつけて行って来なさい。ただ、忘れてはだめだよ。君の家はまだ、ここなんだ」

 驚かないでいられたのは、僕がもうここを出る決心をしていたからかもしれないし、校長先生が言う言葉を、あらかじめ予測できていたからかもしれない。
 けれど二度と帰って来る事はないだろう。
 帰って来たくもない。
 僕は何も悪くないのに、僕ばかりが嫌な思いをするこの場所になんて。
 それでも先生の優しさに答えるために、僕ははっきりと言った。

「……行って来ます」

 この逃避行は、僕のための、僕だけの、僕にしか出来ない、僕が綴る物語だ。
引用なし
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Half and Half 2<cry and delight>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
 僕は、学校の外に出かけた事がない。いつも屋上からちらりと見たり、門の近くから覗き込むだけだった。テレビの映像や雑誌では見た事があるけれど、本物を見るのは初めてなのだ。
 少し、新鮮な気分で街中を歩く。先ほどまでの鬱々とした気分はどこかなくなって、明日から学校に行かなくていいんだ、と思うと、見るもの全てが僕の中にすんなりと入って来る。
 自動車が実際に走っているところを初めて見た。GUNの警備ロボットを初めて見た。人と人が一緒に、笑いながら歩いているのを初めて見た。
 僕の知識は、全て本から得たものだから。家が学校で、学校の中でずっと過ごして来た僕は、すごく頭でっかちになっていたのかもしれない。
 明日から学校に行かなくても良い。すごく気が楽になった。これからどうやって生きて行くか、という不安はまだ拭えないけれど。
 人とチャオが一緒に歩いている。普通の光景なのだろう、あれが。『義務教育』は『転生していない生まれたてのチャオ』に限定して発生する義務なのだから、一昨年に出来たばかりの義務教育――それを受けていないチャオの方が多いに決まっている。
 あの子もそのうちの1匹なのかな、と、僕はぼんやり考えた。
 でも、義務教育を受けていないからと言ってそのチャオが学力的に劣るかと言えば、実はそうでもない。飼い主から勉強を教わるチャオはいるし、まともな人に貰われさえすればチャオはとてもまっすぐに育つ。
 ――というのも、やっぱり本の受け売りだ。思えば僕は僕の意見を言った事がないなと、初めて思った。
 本を読んで、読んだ事を言うだけ。それでも、読もうとさえしないような同じクラスのチャオたちよりは、数倍マシだけれど。

 だいぶ暗くなって来て、街灯が点く。暗さを自動で認識して明りを灯す技術。今では当たり前になっているこれも、以前はなかったもの、なのだろうか?
 想像力をはたらかせていると時々止まらなくなる。
 しばらく歩いて、河原に出た。水面に月明かりが映る。今では濁ってしまっているけれど、これも昔は綺麗だったとどこかの本に書いてあった。風が僕を撫ぜる。お腹が減って来た。
 木の実は3つ。ここで食べてしまうと、あとが辛そうだ。そう思って、僕は我慢することにした。河原に座る。初めて見る、本物の河。自然。
 見るもの全てが、新鮮だった。
 でも、やっぱり不安はある。これからどうすればいいんだろう。チャオの社会進出は可能だ。働く事も出来る。働き先など見つかるだろうか? そこでも、ハーフチャオは嫌われるんじゃないか?

『チャオは愛なくして生きられない』

 捨てチャオで住居もない、スキルも低いコドモチャオの僕を雇ってくれるところなんてあるのだろうか。だけど、やるしかない。じゃなきゃ生きられない。
 ぽちゃん、と音がした。

「っざけんな! あのクソ親父! なにが『お前は何をやっても中途半端』だ!!」

 本で読んだ事がある。それは水切り、という名前だったはずだ。回転を掛けた平べったい小石を水面に投げて、跳ねさせる遊び。
 投げているのは人だった。僕から見るととても身長が高く見える。男の人。詰め襟の黒い服を着ているから、もしかしたら学生なのかもしれない。
 彼は思いの丈を叫びながら、右手を思うがままに振るう。

「収入低いくせに調子乗ってんじゃねええええ!」

 段々と水面を駆ける距離が延びて行く。僕は呆気に取られて――ポヨがびっくりマークになっていることに、ようやく気が付いた。
 彼が僕の方に顔を向ける。その勢いと来たら、獲物を見つけた野獣のようだった。

「さあ、お前も何か言ってやれ! 言いたい事くらいあんだろ!」
「え? え?」
「俺は勉強ちゃんとやってるだろおおおおおお!! とかさ」

 ごくりと、人だったら生唾を飲み込むところだと思う。僕は平べったい小石を渡されて、河側を向いた。
 言いたいこと。

『おい、お前! センコーにチクったらお前もあの人もただじゃ済まさねーからな!』

 たくさんある。
 ここには、何かを言っても僕を殴るチャオたちはいないし、溜息をつくチャオもいない。隣にいる人以外は誰も、僕しかいない。
 今なら。
 僕にだって、我慢していたこととか、言いたいこととか、色々あるんだ。
 僕は彼の真似をして、右手をすっと横に振りかぶる。大きく息を吸い込む。段々腹が立って来た。頭に血が上る。叫びたい。思いっきり仕返ししたい。ニュートラルチカラタイプの僕を見下した表情が浮かぶ。
 全部、あいつのせいだから。
 僕のせいじゃないんだから。
 僕はおなかの底から、張り裂けるほどの声を出す。

「僕がハーフチャオで、何が悪いんだああああああああ!」
「もっと声出せ!」

 投げる。

「捨てチャオで悪かったなあああああああああああ!!」

 投げる。
 彼は僕の隣で小石を投げた。段々大きくなる石に驚きつつも、僕は彼が笑っているのに気が付いて、にっこりと笑い返す。

「化学は苦手なんだよおおおおおおおおお!!」
「友達いなくて悪かったなあああああああああああ!!」
「数学は苦手なんだよおおおおおおおおお!!」
「可愛いチャオの子と喋ってて悪かったなあああああああああ!!」
「英語は苦手なんだよおおおおおおおおお!!」

 あれ?

「全部苦手じゃないかあああああああああ!!」
「その通りだああああああああああ!!」

 石が水面を跳ねる。月明かりを反射する水面を裂いて、突き進む。僕はぜえぜえと息を切らしながらいつの間にか仰向けに寝転がっていた。
 自然と笑いがこぼれていた。お腹の底から笑う、というのだろう。とにかく大きな声で笑った。声はあんまり響かなかった。隣の人も笑っていた。
 体だけ起き上らせる。彼はもう1つ小石を拾って、振りかぶった。

「五木原は、いつまで俺を振り続ければ気が済むんだよおおおおおおおおお!!」

 9回跳ねた。

「ちょっとは俺の魅力に気づけええええええええええ!!」

 そう叫んで、彼も河原に寝そべった。明らかに倒れ込んでいたけれど、痛くないんだろうか。痛くないんだろうな、と、この時の僕にはどうしてか分かってしまった。錯覚だとしても、分かってしまったのだから仕方がない。
 彼も大きく笑っていた。肩を上下させて笑っていた。雨が降っていたら、口の中にたくさん水滴が入っているだろう。
 僕もつられて笑った。

「振り続けるって、女の子から!?」
「そうだよ! 3回連続だよちくしょー!」

 それは確かに悲惨だけれど。

「学校でいじめられてた僕よりマシだろ!」
「んな訳ねーだろ! お前は五木原のキツさを知らないから言えるんだ!」
「そっちこそ!」

 笑いながら罵り合うなんて、生まれて初めてだ。本でも読んだ事がない。そんなこと、普通はありえるんだろうか?
 この人になら、なんでも言える気がして。僕は何も考えていなかった。何も考えずにいられた。
 9回連続で恋してる子に振られる。僕自身、その経験こそないけれど、それが辛い事だってくらい、僕でも分かる。僕で例えるなら、何回も友達になって、仲間に入れてと言っても遊んでくれない、みたいな――そこまで考えて、僕は気づいた。
 そもそも僕は、何もしていなかった。友達になってとも、仲間に入れてとも。一緒に遊びたいとすら言ってなかった。黙っていた。
 悪いのは彼らだけだったのだろうか。黙って、みんなが友達になってくれるのが当たり前な訳がないじゃないか。
 だとしたら、悪いのは……本当に、彼らだけだったのだろうか。

「ちょっとは気が晴れたか?」

 僕の悩みの真ん中から、言葉が入って来る。優しさだ。
 この人は優しい人なんだ。
 そう考えて、僕は落ち着きを得た。

「……うん」

 きっと彼は、気づいていたのだろう。僕がここに1人でいる理由に。正確には分かっていなかったかもしれないけれど、何かがあった、ということくらいは分かる。

「よっこらせっと」

 彼はあんなに叫んだ後だというのに、何にもなかった風に立ちあがった。僕はまだ体がふわふわしているみたいだ。なんだろう、この感じ。
 いじめられていたと言う僕を見て、何も思わないのかな。かっこ悪いとか、ださいとか。学校にいる頃はよく言われた。ださいって。
 たぶん、なにも思わないんだろうな。そんな気がした。

「じゃ、遊びに行くか」
「まだ遊ぶの?」
「どうせお前行くところないんだろ?」

 彼はポケットから財布を取り出して、僕に見せつけるように言った。

「おごってやるよ」
「……あ、ありがとうございます」

 完全に不意を突かれた。捨てチャオは人からも嫌悪感を抱かれる。誰のだったとも知らないチャオを引き取りたい、なんて、思う人は少ないだろう。
 だけど、彼は僕の不安な思いを全部打ち砕いてくれた。
 飼い主になってくれというのは、たぶん、とても図々しい頼みなのだと僕は思う。ちょっとは期待していたけど、誠意を向けてくれる彼に対して、それはあまりにも失礼なことのように感じた。
 誠意には誠意で報いるべきだ、と、僕の中の誰かが叫ぶ。けれどももう1人の僕は、せっかくだから、もう二度と来ないかもしれない機会だからと囁く。
 どっちが本当で、どっちが偽者なのか。僕には分からないけれど。

「俺も友達いねーよ」
「え?」
「お互い友達いない者同士、仲良くしようぜ」

 にかっと笑う彼の表情は、月明かりに照らされた水面よりも、本に載っていたどんな景色よりも――とても、綺麗だったと思う。
 だって、少しのかげりもなかったのだ。


 UFOキャッチャーなるものに3回ほど挑戦して、見事失敗した彼はゲームセンターで膝をついていた。絶対に取るんだ、と意気込んで投入した100円玉は無残にも既に3枚散っている。
 狙っているのは腕時計だった。なんだか安っぽく見えるのは気のせいだろうか。
 ふと周りを見てみると、彼と同じ服装をしている人とか、帽子を被ったおじさんとか、色々な人がいた。女性とチャオの姿は非常に少ない。
 それにしても、100円玉をおしみなく使っちゃうんだなあ。僕はすごく驚いていた。安い木の実なら、100円で3つくらい買えると聞く。人にとっての100円玉は、あんまり価値のないものなのかもしれない。
 彼は4枚目の100円玉を投入した。

「あー、惨敗!」

 前髪を鬱陶しそうに払って、街灯が照らす歩道を2人で歩く。チャオと人では歩く速さが違うから、必然的に彼が僕にあわせる形になる。
 すっかり空は暗くなってしまった。今頃学校だったら、部屋で本でも読んでいるんだろうな、と僕は笑みをこぼす。こぼした笑みに驚いて、僕は彼から目を逸らした。
 自動車のライト。街を照らしているのは街灯だけじゃない。お店の看板もきらきらと光っている。学校にいるだけじゃ分からなかったこと、知らなかったことが、僕の目に映る。肌で感じる。廃墟のようなビルがあった。ニュートラルチカラチャオのあの子達が言っていた言葉に、廃ビルという単語があったような気がしたけれど、あれかな。近寄らない方がいいかもしれない。
 でも、すごいな、と思った。
 大自然の美しさはないけれど、それでもここには実感がある。生きているという実感。人が住んでいる実感。それら全てが合わさって、一種の芸術のようにある。
 信号が赤に変わったのに気づかない僕は、彼の手によって歩みを止められた。
 危ない危ない。

「ところでお前、名前は?」

 そういえば名前を言ってなかったことに、ようやく気付いた。それは彼も同じだったようで、見ると困ったような笑みを浮かべている。

「エースだよ。あなたは?」
「レイっていうんだ。で、これからなんだけど、お前家出して来たばっかりで、まだ住むところも、働くところもないんだろ?」

 頷く。働くところがないとは言っていないけれど、あったら河原で1人たそがれる暇なんてないだろうし、漠然と察していたのだろう。それに、捨てチャオが『義務教育』を受けながら学校に保護されて飼い主を探しているなんてこと、常識だ。
 レイはうーんと顎に手を当てて、考え込んでいる様子だった。

「ちょっとは空飛べる?」
「そんなに長い時間は飛べないけれど」
「じゃ、俺のバイトしてるとこ……ファミレスだけど、そこでやってみるか?」

 願ってもない提案に、僕は口をぽかんと開けてしまった。働けるのなら、ぜひ働きたい。お金を稼がないと生活できないし、木の実も3つしか持っていない。
 そういえば、僕はお腹が減っていたんじゃなかったっけ。ぼーっとする頭の中で、そんなことを考えた。いつの間にかお腹が減っていることすら忘れちゃっていたんだ。
 だけど、僕に出来るだろうか。いくらチャオの社会進出が順調だと言っても、それはオトナチャオの話。転生もしていないコドモチャオを預かるアルバイト先があるとは思えない。それに僕は捨てチャオだ。それを隠したとしても、住居もないし飼い主もいない。不自然だと誰でも思う。
 僕の不安を察してくれたのか、レイは口の端を吊り上げた。

「俺が飼ってるって事にしとくよ。当分は俺の家で生活すればいいし。実際に飼う事は出来ないけどな」
「でも、そこまでお世話になる訳には……」

 それにレイには理由がない。ちょっとした親切で、たそがれる僕を気遣ってくれて、ゲームセンターまで遊びに連れて行ってくれて。
 その上、働く場所まで紹介してくれ、家まで用意してくれるという。思わず頷いてしまいそうな条件だけれど、だからこそ安易に頷けなかった。

「本当は飼いたいんだけどさ、親父がチャオ嫌いなんだよ。だから親父のいない1か月くらいなら、平気平気」
「そういうことなら……」
「ま、五木原がチャオ好きだから、ダシに使わせてもらうって理由もあるんだけどさ」

 彼らしい理由に思わず吹き出す。ギブアンドテイク、という訳だろう。五木原さんが来た時に精一杯彼女をもてなすことが条件だという。
 まだ少し気が引けるが、この際だし、乗ってみようと思った。どちらにしても行く宛てなんかない。おいしい条件だ。

「それじゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくな」

 がしっと握手する。初めて握った人の手は、思ったよりもずっと大きかった。


「……という訳で、親父には内緒で飼いたいんだ。頼む!」

 レイは祈るように合掌して、母に頭を下げた。僕もそれを見て頭を下げる。といっても腰がないから本当に頭を下げるだけだけれど。
 見るからに厳しそうなお母さんで、僕はちょっと緊張していた。いや、怖がっていた、と言っても良い。やっぱりやめようかな、といまさらになって考え始めた。
 するとお母さんの腕が僕を抱きすくめ、頬をつねられた。痛くないけれど、なんだか恥ずかしい。ちらりとお母さんの顔を見た。満面の笑みである。

「いいわよー、もちろん! ああ、可愛いなあ、もう! うう、可愛い! すっごく可愛い!」

 いくら僕でも、そう何度も可愛いって言われて照れない訳がない。でもこの場合、お母さんのあまりの剣幕に僕は圧されていた。頬ずりまでしてくる。嫌じゃないけれど、嫌じゃないんだけれど……。
 その息子をちらりと見ると、下の方で小さくガッツポーズを作っていた。今頃心の中ではほくそ笑んでいることだろう。

「あの、エースって言います。よろしくおねがいします。ちょっとの間ですけれど」

 ――捨てチャオだと言わなかったのは、フェアじゃなかったかもしれない。
 ハーフチャオは人から好かれる事が多い。だけど捨てチャオは違う。何度も言うように、捨てチャオは別の誰かが持っていたチャオなのだ。
 だけど、このお母さんなら気にしなさそうだとも思う。だってレイとそっくりだもの。

「お腹すいてない?」
「大丈夫、です。持って来てます」

 ごそごそとリュックから木の実を取り出していると、頭を撫でられた。ポヨがハートになるのが自分で分かる。
 そっか、ポヨの変化はなんとなく自分でもわかるんだ。どうして今まで気が付けなかったのかな。
 お母さんはと言えば、にへらっと嬉しそうに笑っていた。チャオだってだけでこんなに人に愛されるものなのか。でもこれはちょっと恥ずかしい。なんとかして、という視線をレイに向ける。
 息子はお腹を押さえて笑っていた。覚えてろよ。

「じゃ、部屋行くから。あとはお好きにー!」
「そう? じゃ、遠慮なく!」


「なんで放って置いたんだよ……」

 木の実を食べながら、僕は呟いた。テレビゲームに熱中しているレイと、その母親はとても似ている。人との壁をすんなりと通り抜けるところとか。
 しかし、こうしてみると、レイも僕とあんまり変わらない子供に見えるんだけれど。
 あの時、河原で笑った少年は、どう見ても年相応じゃなかったと思う。すごく大人に見えたのだ。だから安心できる、という側面もあるのだろう。だから一緒にいても平気なのだろう。不安にならないのだろう。
 学校じゃないところで、初めて食べる木の実。おいしい。どうして僕は人の家で木の実を食べているのだろうか。僕の居場所は学校で、それ以外なかったはずだ。
 結局、悪いのは彼らだったのか、僕だったのか。確かに僕から歩み寄っていれば、また違ったかもしれない。でも、だからと言って彼らがしたことは絶対に間違っている。許されることじゃないと思う。
 それにしても、今日は疲れた。彼女……リースさんは大丈夫だろうか。彼女の優しさも無下にしてしまった。どうしようもなく後悔している。だけども他にどうしようもなかったんだ。僕じゃあ絶対に彼らには勝てないし――

 自分の世界に浸る。
 僕は今、絶対に勝てないと言った。
 数が違いすぎるし、コドモチャオとオトナのチャオじゃあ、勝負にもならない。
 けれども。
 本当に勝てないのか。

「エース、ゲームやるか?」

 本当に、どうしようもなかったのか?

「おい、エース?」

 本当に、僕は……。

「……ったく、寝るときは寝るって、ちゃんと言えよな」


 
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Half and Half 3<try and result>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
「い、いらっしゃいませー」

 土曜日。昼間。ファミリーレストラン。
 レイが働いているところで、僕はウェイトレスの格好をしていた。フリフリが付いた紺色と白色で彩られたドレス。どうしてウェイトレスなんだろう――おまけによくチャオサイズの服装があったな、と思っていたら、僕以外にも働いているチャオがいるらしい。
 ファミレスの取締役――とでも言うのだろうか――みんなから店長と呼ばれ親しまれる女の人が、レジからニコニコとこちらを見ている。

「わー、チャオだー」

 お店に入って来た小さな女の子が真っ先に僕のところに来て頭を撫で出す。ついうっかりポヨがハートマークになるけれど、厨房から顔を覗かせたレイがにやにやしているのを見て、すぐに丸い状態に戻した。

「いらっしゃいませ。4名様でよろしいでしょうか?」

 僕に出来る最大限の笑みで家族を迎える。店長が言うには、笑顔も仕事のうちらしい。だからってウェイトレスの服装は無いでしょう。僕、たぶん人で言ったら男ですよ。
 家族を空いている席まで案内して、御注文お決まりになりましたらお呼び下さい、なんて言って。すごく緊張する。でも、頑張らなきゃ。せっかくレイがおぜん立てしてくれたのに、それを無駄にする訳にはいかない。

「飲み込み早いねえ、エースちゃん」
「ま、俺が仕込んでやってっからな」

 という自信満々な言葉と共に出て来たのは、このファミレスで働いている先輩――黒いダークノーマルタイプのマトさんだ。彼はちゃんとしたウェイターの正装である。
 長年勤めていると自慢げに話していた彼は、開業の頃から店長と一緒にお店を支えているらしい。厨房で働くレイも俺が仕込んだ、と言っていた。レイは否定していたけれど。
 ハーフチャオの僕を見ても嫌な顔一つせず、ちゃんと仕事を教えてくれるマトさんは良い人なのだと思う。チャオというチャオが全員ハーフチャオを嫌っている訳じゃないんだ。なんだか不思議な感じだった。今までハーフチャオは嫌われるのが当たり前だと思っていたから。

「元々優秀なんでしょ。カレ、頭よさそうだし」
「俺の教え方がうまいんだっての」

 店内スピーカーから鉄琴を叩いたような綺麗な音が流れる。お店の上にある電子文字盤が、32番テーブルからの注文を報せていた。
 さっきのテーブルに駆け寄って、お客さんの目線の高さまで飛ぶ。注文電卓を手に持って、僕はにっこりと作り笑顔を見せた。

「ご注文はお決まりでしょうか」


「ふう」

 休憩時間。朝から夕方までの実働8時間に、休憩が30分。時給は850円。チャオのアルバイターの最低賃金は国によって保障されているから、それよりも若干多めの金額だ。
 緊張で息が詰まる。なんとかやっていけそうだと思った。周りの人もチャオもみんな優しいし、仕事も今はそれほど難しいと思わない。さっき注文の番号を間違えてしまったけれど……。
 最も、伝票には合計金額しか入力されないから、注文の番号をミスしたくらいじゃあ、あまり業務には響かない。食材が無駄になるくらいだろう。自己嫌悪はするけれど、いちいち悩んでいても仕方がない。

「初勤務はどうだい、エース君」

 その言葉に僕は微笑みと溜息で答える。無言で休憩室の席を詰めると、レイは僕の隣に座った。休憩室は狭い。テーブルがひとつと、ベンチみたいな椅子が両脇に置いてある貧相な場所だ。でも、僕はなんだかこの空間が好きになりかけていた。
 ここは学校のように広くは無いけれど、人がいて、チャオもいて、僕は彼らと話す事が出来る。そんな当たり前のことが、これほど嬉しいなんて、知らなかった。
 どうやって友達になるかも知らない僕が。
 こうして、他の人の、チャオの、輪に入れるというのは。

「ま、失敗は誰にでもある。気にするなよ、あんま」
「そうかな」
「失敗したっていいんだって。謝ればそれで終わりだ」
「本当にそうなのかな」

 そうだよ、とお弁当箱を広げるレイ。お母さん特製のお弁当には、見るからにたくさんの愛情が詰まっていた。最も、それは僕も同じなんだ。
 リュックから木の実と小さなお弁当箱を出す。念入りに断っておいたのに、お母さんが僕のために作っておいてくれた。両親も飼い主もいない僕にとって、初めての、『お弁当』だった。
 そこに込められたものは何なのだろうか。愛情? それとも同情? そうだ、この『お弁当』は単なる『お弁当』じゃない。僕のためだけにつくられた、僕だけの『お弁当』だ。
 胸のあたりが温かくなる。ポヨが変化していないかとても気になる。いったい誰が僕を思ってくれただろうか。いったい誰が僕のために、僕のためだけを思ってくれただろうか。お母さん。もし僕に飼い主がいたとしたら、こんな感じなのかな。
 レイはがつがつとご飯を喉の奥に流し込みながら、うまいなこれ、と独り言をもらしつつ、黙ってお弁当箱を見る僕に何も言って来なかった。彼なりの気遣いか。彼は時々、何を考えているのか分からないような表情をする。本当に何も考えていないのか、何か考えてそれを隠しているのか。
 僕には分からないけれど。それでも彼が、彼なりに僕を思いやってくれてることくらいはいくら僕でもちゃんと分かっていた。

 ゆっくりと味わって食べ終え数分。僕はマトさんに教わった仕事を反すうしながら、休憩時間の終わりに近づくにつれて戻ってくる緊張をなんとかごまかしていた。
 今朝はあんな感じにふざけていたマトさんだが――仕事はしっかりしている。むしろ開業時からいるだけあって、本人たちは冗談めかしていたけれど、教え方は実際、上手だと思う。

「休んでなくて大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」

 緊張はほどけない。けれど休んで立ち止まっていたら、お世話になっている人に対して、何よりおいしいお弁当を作ってくれたお母さんに対して失礼と言うものだ。
 がんばって、恩返しをしなきゃいけない。
 別に誰に言われたことでもない。だけど絶対にしなきゃいけないって、僕は思う。捨てチャオだってことを黙っている後ろめたさも確かにある。でも、それだけじゃない。良い人たちに恩返しをしたいっていう気持ちに、チャオも人も、捨てチャオだって関係ないはずだ。
 レジの前にお客さんが並んでいた。いけない、急がなきゃ。僕は他に従業員がいないことを探して、少し不安だったけれど、急いでレジに駆け寄った。

「お待たせいたしました、それではお会計の方、598円になります」

 すばやくレシートに注文伝票に目を通して、読み上げる。レジの入力はチャオでも簡単に出来るから、たぶん、これで問題ないはずだ。
 お客さんはちょっとだけ戸惑ったように見えたが、すぐに財布の中から100円玉を6つ取り出して、カードをすっと置いた。

「ポイントカードお預かりいたします」

 レジ脇にあるカードリーダーに会員制のポイントカードを通してから、僕はそれとレシートと1円玉を2枚、一緒にまとめて渡す。
 大丈夫だ。出来る。
 もっと、ずっと頑張らないと。
 僕に優しくしてくれた人たちのためにも。
 もっと。

「ありがとうございました。またお越しください」


「お疲れ様。初日はどうだった? 大変だろうけど、がんばってね」
「はい。ありがとうございます」

 1日目が終わった。飛んだり着地したり、走ったり持ち運んだりしたせいで、体中が倦怠感に支配されているみたいだった。
 はたらくって大変なんだなあ、と思いつつも、頭の隅では意外と出来るもんなんだと考えている自分にあきれる。たまたま上手く行っただけかもしれないのに。そう思おうとしても、不安なんて出てこなくて、嬉しさが溢れて来る。
 ずっとこうして頑張り続けてさえいれば、いつかは。あの子の姿が浮かぶ。無事かどうか、気にならないと言えば嘘になるだろう。だけどどうしようもなかった。僕はみんなとは違う道を行くんだ。

「明日もよろしくおねがいします」
「おーう。気いつけて帰れよー」
「じゃ、また明日」

 最後の言葉はレイのものだ。お店を後にした僕たちは、外の生ぬるい空気を思いっきり吸い込んで、はきだした。
 ぐー、と、どちらともなくお腹の虫が鳴る。おまえだろ、という視線を投げかけられて、投げ返す。チャオは腹の虫なんて鳴るのかな……お腹は確かに減っているけれど。
 仕事が出来た。その事実が僕を何倍、何10倍にも膨れ上がらせる。きっと今の僕に出来ない事なんてなかった。そう思えるほどに。

 家に着くまでの会話はいつもよりちょっと静かで、それでも2人して笑えることが出来たんだ。
 だから大丈夫だと思った。
 もう僕はずっとがんばっていけると思った。
 独り、たまらなく辛く、寂しいあの部屋。1人でご飯を食べて、1人で勉強して、1人で寝て、1人で帰る。1人が当たり前だったけれど。今の僕は1人じゃない。僕を助けてくれる人たちがいるから。
 今日から、今、この時から――たぶん、昨日からそうだったのだろうけれど――ようやく僕は、ここを自分の家だと言えるのだ。厚かましいかもしれない。でも、お母さんは優しいから許してくれるだろう。
 許してくれるなら、僕は甘えてしまってもいいのだろうか。
 1人じゃないと、安心してしまっても、良いのだろうか。


 『もしかしたら、義務教育を受けていないせいで学校から呼び出されるんじゃないか』という不安はあったけれど、意外にも運が良かったのか、僕は1週間とちょっとを何事もなく過ごした。
 週払いのお給料を手渡しで受け取って、歓喜したのが昨日。お世話になっている恩として、お母さんにお金を渡そうと思ったのが昨夜。拒否されたのがそのあとすぐだ。
 ところでレイは学生である。朝から夕方までは平日を、学業に励まなければならない。お母さんはお仕事で、僕はだいたいがバイトだけれど、この日、僕はお休みだった。

『初めての給料なんだから、好きに遊んで来い』

 というのはマトさんの言葉。もともとそんなつもりはなかった。稼いだお金は貯金にあてて自立するつもりだったし(元々レイの父親が帰って来るまでの1か月間だけかくまう、という約束だ)その他のお金はお母さんにいつもお弁当を作ってくれたりする世話賃として渡すつもりだったのだから。
 それにしても、最近飛んだり走ったり、重たいものを持ったりしているせいか、だいぶこなれて来た感じはある。もしかするとスキルが上がってたりするかもしれない。
 そうでなくとも、僕は1月に生まれたばかりでスキルが低いのだから、このあたりでスキルを上げる必要はあるだろう。
 チャオのスキルを上げる方法は3つある。1つはトレーニングだ。人と一緒で、チャオも極わずかだがトレーニングでスキルが上がる。それからカオスドライヴ。安値で売られている栄養剤のようなものだ。最後の1つに小動物がある。
 まんべんなくスキルを上げるなら、やっぱり小動物の――フェニックスの類を買うべきなのだろう。だけど残念なことにフェニックスは高価だ。今の所持金で買えない事はないけれど、そんなに多く買う事はできない。

 そもそも、小動物だって一応、生き物だ。買うとかそういうのは、倫理的にどうなのだろうか。と、今さらな事を考えてみる。
 チャオにキャプチャーされてしまえば、小動物は消えてしまう。触れるだけで。跡形もなく。いくら国が管理して小動物を繁殖させているとしても、それに罪悪を感じられずにはいられない。
 だけど、生きるためには仕方のない事なのかなとも思う。
 それに何より、フェニックスの羽はとても綺麗だ。
 そうと決まれば。僕は家の鍵を首から提げて(お母さんが出かける時の為に紐を付けておいてくれたのだ)さっそく買いに行くことにした。

「わあ……」

 ショッピングモールは一昨年出来て間もない場所らしい。そのころには生まれていないし、なにより学校の外に出た事のない僕にとって、こういった物が雑多にある場所、というのは生まれて初めてだ。
 お母さんの話だとか、地域限定の新聞にだとか、学校の先生の話だとかによく出て来たから、きっちり憶えている。『小動物やカオスドライヴの専門店』があること。
 どこだろう。あたりを見回す。男の人と女の人が手を繋いで歩いていた。その横でチャオと人が楽しそうに談笑している。ショッピングモールの入り口にはアーチのようなものがあって、そこから人が出たり、入って行ったりしていた。
 もちろん、少数だけれどチャオだけの子もいる。それでもチャオは人に連れられて行っている方が断然、多い。
 賑やかな場所だなあ、と思うと同時に、なんだか不安になって来た。僕1人で小動物やカオスドライヴの専門店を見つける事が出来るのだろうか?
 悩む。思い悩む。どうしよう。どうやって探せばいいんだろう。学校では教えてくれなかった。本にも『お店の探し方』なんて書いてなかった。こういうときは案内板みたいなものがあってもいいものだけれど。

 とりあえずささっとモールの中に入る。とは言え仕切りなんてなく、アーチがどしんと構えているだけ。その線を踏み越えて、僕は周りを見回しながらゆっくりと歩いて行った。傍から見ればとても挙動不審だろうと思う。
 それにしても、なんだか注目を浴びているような気がする。気のせい、かな。捨てチャオだって分かるわけない。他にも1人でいるチャオはいる。
 ハーフチャオ、だからだろうか。その可能性はある。チャオのタマゴはとても高価だ。ハーフチャオとなると、必然的に『2世代目』となる。チャオの養育費自体はそれほどかからないけれど、タマゴから生まれた直後に色々な検査を受けなければならない。その検査費が高いのだ。
 だから、余裕のある家庭でしか2匹もチャオを飼う事は出来ない。
 『なら、捨てチャオはタダだから人気なんじゃないの?』という疑問は僕の中にもある。でも、チャオは話せるし、他の動物と違って知能があるんだ。それに、誰だって他の人のものだったものを欲しいとは、あまり思わないだろう。
 もちろん、ほかの人のものだけを欲しがる人も中にはいるかもしれないけれど。
 右を向いた。わずか離れたその先に、『ChaosDriver』とまだ日中だというのにネオンサインで輝かせた看板が目に付く。
 たぶん、そこだ。僕は周りから感じる奇異の視線を気にしながら、そおっとお店の中に入った。店員さんは1人だけ、いや、この場合1匹だけと言うべきか。
 僕はシャークマウスの彼(?)にさり気なく近寄って、どう声をかければいいかしばらく悩んだ。お店の雰囲気はそこそこ綺麗で、雑多に並ぶチャオのカオスドライヴと小動物の檻とは別に、おもちゃが数十個あった。
 お客さんはいない。平日の昼間だからというよりは、このお店の規模があまり大きくないせいだろう。
 そんなふうに考えたことをしたせいではないのだろうけれど、僕の目の前にいつの間にか店員さんがいた。

「何か欲しいものでも?」
「あ、えっと……小動物のフェニックスが」

 ああ、と店員さんは頷いた。シャークマウスの割には妙に低いテンション――というのは僕の偏見だろうか。
 店内を見回して、どうやらフェニックスはいないということに気づいた僕は気まずさを感じて店を後にしようと踵を返す。

「予約しておくかい?」


 生体認識、なんてものがあるらしい。
 それを使って認識させておけば、小動物はほかのチャオにキャプチャーされることなく、僕の住所まで届くとか。始めは半信半疑だったけれど、あまりに店員さんがお勧めするのでつい流されて。
 バーコードリーダーのようなものに通されて、お金を払って、僕はショッピングモールに戻って来た。
 詐欺じゃないと良いけれど。お店の規模的に信用できたものじゃない。でも、貴重な小動物がキャプチャーできると思うと楽しみだった。
 学校だったら、カオスドライヴをちょっとキャプチャーさせてもらえるくらいだもの。
 ――それにしても、お腹減ったなあ。
 お金はちょっと余ったから、どうしよう、お母さんに何か恩返しがしたい。
 何か買っていこうかな、と思った、そのときだった。

 チャオの集団が、じろりとした目つきで僕を見る。
 最初は気のせいかと思ったけれど、それは間違いなく僕を見ていた。
 不安、恐怖、焦り。そういったものが僕の体を駆け巡って、暴れ狂う。
 逃げなきゃ。
 逃げなきゃダメだ。
 そう思っているのに、足は動かなくて、地面に張り付いているようで、僕はその場で立ち止まっていた。

『なんでお前みたいなやつが』

 チャオの集団は顔を寄せ合い、ひそひそと重たげに話している。
 僕を見ながら。
 僕を指差しながら。

『ここにいるんだよ』

 僕が何をしたって言うんだ。
 一体僕がどんな悪いことをして、何を気に障ることをしたのか。
 どうして。
 お願いだから、やめて。
 僕は、せっかく、ちゃんと生きていけるって、思ったのに。
 逃げなきゃ。
 ここにいたって、僕が傷つくだけで、誰も助けてなんかくれないんだ。

 はっとする。

 チャオの集団はいなかった。いなくなっていた。幻覚か、と考えたけれど、それにしてはいやに現実的な映像で。
 体中に疲労感があふれる。重たい。
 ……帰らなきゃ。
 戸惑う中で、僕はただそれだけを思い、走った。さえぎる物は何もなかった。ただひたすら、僕は脇目も振らず、駆ける。駆け出す。駆け抜ける。
 逃げるために。
 いやなことから、逃げるために。
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Half and Half 4<dark and lamp>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
 冷たい暗闇の中に、僕はいた。声を出そうとしても出せなかった。逃げようとしても逃げられなかった。
 もがいても、あがいても、手を伸ばしても、何も掴めない場所に、僕はいた。そこがどこだかはよく覚えていない。けれども、僕はそこにいたんだ。
 ずっと。
 これからも、ずっと。
 そんな場所に、僕はいる。


「ありがとうございましたー、またお越しください!」

 学校から脱け出して、2週間が経過した。ここ最近のアルバイトラッシュのお陰か、僕のスキルは――チャオの能力的な意味でも、仕事的な意味でも――着実に上がりつつある。と、思う。
 ついこの間マトさんに褒めてもらったばかりだ。
 若いのにしっかりしているらしい。
 若さに助けられている部分ももちろんあるのだろうけれど、褒められるとやっぱり嬉しかった。勉強が出来ても、何をしても。学校だったら誰も褒めてくれないのだから。まるで僕の努力じゃないように扱われる。
 でも、ここは違う。
 僕のやったことは、僕の努力。僕の出した結果も、全て。努力が全て報われる場所なんだ。

「次の給料は明日ねえ。何買うの、エースちゃん」

 店長は相も変わらず僕をちゃん呼ばわりする。ウェイトレスのドレスも相変わらずだ。2週間も、正確には1週間くらい働いているのに、まだウェイターのスーツが手に入らないみたい。
 何か陰謀めいたものを感じる。

「特に決めてないです。お母さんに恩返ししたいんですけれど」
「ああ、レイのお母様?」
「はい。何か良いものありますか?」

 出来た料理を客席まで運んで、すばやくレジ近くに戻る。土曜日の3時。この時間帯は毎回お客さんが少なくて、正直、暇だ。

「そうね、家事を手伝っているんでしょう? なら、それ以上はお母様も求めていないんじゃないかしら」
「そうでしょうか……」

 実は。
 ここで働いている人たちは、僕が捨てチャオだということを知らない。レイが飼っているチャオ、という認識なのだ。
 だからだろう、恩返しは必要ないと言う。かと言って詳しい事情を説明するわけにはいかないし、ほかに相談できそうな人もいないし、どうしよう。

「どうしてもって言うなら、やっぱりお花かしらねえ。無難なところで」

 と、店長が厨房から出て来たマトさんと目を合わせながら言う。

「プレゼントだろ? 直接聞いた方が早いんじゃないのか?」

 不器用なマトさんらしい提案に、僕と店長は目を合わせる。

「生活費も支払おうと思ったんですけれど」

 断られました、という言葉を飲み込んだ。

「恩返しって言うのは、お金とか、そういうんじゃなくてね、エースちゃん」

 店長がほんわりと微笑む。
 恩返し。単に僕は、『お世話になっているから、そのお返し』のつもりだった。だから最初はお金で、次は家事を手伝うことでそれを表現した。
 でも、やっぱりそれだけじゃ僕にとって不足なのだ。せめて僕の稼いだお金で、僕が選んだものをあげて、喜んで欲しい。そう思う。
 色々理由や理屈を付けようと思っても、出来なかった。
 それこそ、

「なんていうか、気持ちなの。家事を手伝うってだけで、感謝の気持ちは伝わってると思うわ」

 もっともだ。僕の読んだ本の中にも、同じような言葉はたくさんあった。気持ちを伝える方法。それでも僕はいまいち納得できない。

「そうね、そうだわ。エースちゃんが可愛い服を着てあげる、っていうのはどう? とても似合いそうなの見つけたのよ」
「あまり期待の新人を困らせないでくれよ、店長」

 マトさんが苦笑いして、僕が笑って、店長が微笑む。学校にいた頃とはもう違うんだ。僕は独りじゃない。
 願わくば、この日々がずうっと続けば良い。僕は誰かに祈った。出来れば、じゃなくて。どうしても。この日々が続いて欲しかった。
 だって、ここには学校にはない、暖かさがあったから。

 お腹の虫がぐうっと鳴った。


「チャオガーデン?」

 アナウンサーは東大の大学教授団が英国のチャオ科学会議に参加していることをテレビ越しにうったえていた。
 ある日の夜。お給料の入った僕は何を買おうか、お母さんにどう恩返ししようかずっと迷っていて、結果として未だ何も思いついていない。けれどその最中、レイは僕に『チャオガーデンへ行こう』と提案して来た。

「親父が帰って来るまで、もう少ししかないから。チャオガーデンなら他のチャオもいるかもしれないし、昔流行った――なんだっけ、名前」
「引き取り活動?」
「そう、それだ。が、しやすい」

 チャオガーデンはチャオたちの憩いの場として解放される、いわば無料のホテル、のようなもので。
 一昔前に流行し名を馳せた『引き取り活動』の拠点として知られる。もちろん僕がこれを知っているのは学校の授業で習ったお陰なのだけれど。
 飼い主のいないチャオは、いわば人から愛されなかったチャオは、転生できないことが多い。チャオからの愛でも果たして転生できるのかは、分からない。
 だから、チャオガーデンで引き取り活動をする。
 魅力的な提案に思えた。
 内容は知っているのだけれど、少し怖い。自分から飼って下さい、と言いに行くのだ。

「どうだ、明日は祝日だし、ちょうど良いと思うんだけど」
「……うん、行ってみたい」

 本当は行きたくない。

「よし、じゃあ明日朝早くから出かけるとするか」

 だけど、このままじゃいけない。
 居座る、っていうのはずうずうしい。
 ちゃんと別の場所で生きていけるように、がんばらなきゃいけない。
 本当は行きたくない。
 望まない現実が、刻一刻と迫りつつあった。


 チャオガーデンへは、バスでしばらくだ。
 もともとはステーションスクエアなどにあったチャオガーデンの技術を解析して、世界中に憩いの場としてその規模を広げたチャオガーデン。地形は地域によってさまざまだから、公園、一種のテーマパークとしても利用される。
 さて、チャオガーデン。そこはチャオの保護所と言っても良い。義務教育を終えた捨てチャオの最終的に行き着く場所。

 バスの中で、僕は懸命に不安と戦っていた。正直に言うと、行きたくない。僕はハーフチャオだから他のチャオから疎まれることもあるだろう。学校と同じような目にあうかもしれない。
 だけど、レイたちに依存したままでいるのは、だめだと思った。僕は自分で、独りでもがんばれるようにならなきゃいけない。それが恩返しにも繋がる。
 そう思い込もうとしても、怖かった。
 怖いものは怖くて、必死で何でもない振りをし続けた。
 バレてないだろうか。

「俺もチャオガーデンに来るのは初めてなんだけどさ」
「そうなんだ」
「ま、ちょっとした遠足気分だな」

 と、レイが子供みたいにきょろきょろしながら言う。
 思っていたよりも広くて。空には青空が広がっていて、池が広がって、山から滝が流れ落ちている。ボールが転がって行った。数匹のチャオが駆けて遊んでいた。
 ちらり、ちらりと僕を見て。
 目を逸らされる。
 僕は両手を重ね合わせた。
 ――怖い。
 足が震えそうで、震えているのか分からなくて。
 みんなで一緒に、楽しそうに、遊んでいる。
 ぎゅっと、自分の手と手を重ねる。

 何匹かのチャオが、興味深そうにこちらを見て、逸らす。
 胸が痛んだ。
 足が竦んだ。
 記憶が、嫌な記憶ばかりが思い浮かぶ。
 良い記憶は嫌な記憶に塗りつぶされて。
 それでも、頑張らなきゃならないと思う。

 でも、友達の作り方を、僕は知らない。どうやって話しかければ良いのだろう。一体、どうやって? 友達は作るものなのか。自然になるものじゃないのか。僕には分からない。理解できない。
 引き取り活動も同じだ。方法は知っているけれど、どうすれば出来るのかを、僕は知らない。何も知らない。
 僕は、何をするために、ここに来たんだろう。
 何がしたくて、ここに来ようと思ったんだろう。

 向こうで、チャオが何匹か集まって、こちらを見る。ひそひそと話す。
 ぞくりと、体が震えた。

『あの子、ハーフチャオだよ』
『暇で友達いないから、勉強してるんだろ。やりたくてやってるわけじゃねーよ』
『ちょっと珍しい肌の色してるからって、調子に乗ってるよね』
『どうせ何言っても無駄だよ』
『飼い主いないみたいだよ――捨てチャオなんだって』
『近寄らない方が良い』

 声が聞こえる。繰り返し、繰り返される。
 たぶん、それは彼らの声じゃなかったのだろうけれど。
 いや、彼らの声だったのかもしれないけれど。
 どんな形にせよ、僕には確かに聞こえた。
 僕のすべては学校にあって。その学校で。2月。最初。何も知らない僕。聞かれたことに答えて。馬鹿正直に信じて。
 もし僕に心臓があったとしたら、今、それは深刻なほどに鼓動しているだろう。
 彼らは僕がハーフチャオだと気づいている。
 彼らは僕が捨てチャオだということに気づいている。

『あいつ、捨てられたんだよ』

 僕は捨てられたんだ。生まれずして道端に。誰からも分かられずに。いつの間にか生まれて、学校で育って来た。
 飼い主も、両親も、僕には何も残してくれず、友達すら僕を見放した。
 僕は他のチャオとは違う。
 同じにはなれない。
 いつまでも、独りなのだ。

「エース!」

 ほうっと、光が目に入る。少し眩しい。ガーデンのチャオは各々に走り回っていた。
 レイの手が僕の手を握る。
 すぐ側に、傍にいるはずなのに、そこにはいないようで、僕は独りになった。世界中で僕は独りだけだった。独りしかいなかった。
 呼吸の音しか聞こえない。誰の呼吸だろう。僕? 僕を嗤う誰か? お願いだから、やめてくれ。何も聞きたくないんだ。
 ――いやなんだ。

「しっかりしろ! エース!」

 世界に色が付く。何か遣り残したことがあるような、そんな焦燥に僕は追われていた。
 大丈夫だ。今は独りじゃない。今の僕は独りじゃないのだ。
 ――1人じゃ何も出来ないくせに。
 1人じゃ何も出来ないのは、僕も同じだったのか。他の子のことなんて言えないじゃないか。
 でも。だけど。だとしても。どうして僕が。僕ばかりが。疎まれ、蔑まれ、恨まれなければならないのか。
 悪いのは僕じゃないのに。悪いのは僕を捨てた人なのに。だってそうだろう? 僕に何が出来たというのだろう。生まれてさえいない僕に。
 ずるいんだ。飼い主がいるってだけで、他の子は色々なものをもらっている。
 僕を捨てた飼い主が僕にくれたものは、困難と屈辱と寂寥と痛み。
 嫌な思い出。
 僕のせいじゃない。
 僕以外の、全員のせいだ。

「大丈夫か、エース、大丈夫か!」
「……平気だよ」

 何が平気なのか。

「レイこそ、慌てすぎだよ」

 思いつめた表情をして。

「僕なら大丈夫だから。ちょっとぼーっとしちゃっただけだから」

 多分、ポヨは渦巻き状に変形していたことだろうとは思うけれど。
 今は、気づかない振りをしてくれるレイに……、レイが、ただ、ありがたかった。


 きっかけは、些細なことだったのだと思う。
 僕は回想する。
 1月の後半。とある日。僕は生まれた。水色のハーフ。名前をエース。アビリティは上からBCDDB。道端に捨てられたチャオだったらしい。
 学校が僕の居場所だと言われ、飼い主を探さなければならないと言われ、そうしないと転生できないと言われ、基礎的な知識は全て学校長から教わった。
 2月のはじめと中盤の境目。僕はクラスの最後のメンバーとして、編入した。義務教育はコドモチャオにのみ、転生までの6年、適用される。ただし最初の1年と最後の1年は個人差がある為――生まれる時期と転生時期の差――若干の融通は利くみたいだけれど。
 そして僕は、クラスの楽しそうな雰囲気に惹かれた。
『エース君は、ハーフチャオなんだ?』
 心を許した。
『捨てチャオだって、聞いたんだけど』
 答えた。
 その日から、徐々に、段々と、着実に、彼らと僕の間に溝が生まれた。深い溝が。きっと彼らにとって僕は、得体の知れないチャオなのだろう。
 僕には理解し得ない理由が、あったのだろう。
 もしかするとそれは僕のせいだったかもしれない。また同時に僕のせいではないかもしれない。今となっては分からないことだ。

「ごめんな、エース」

 眠った振りをしていた。聞こえない振りをした。
 深夜。空が窓から見える。レイの吐息が聞こえた。結局、お母さんへの恩返しは思いつかない。
 空は高くて、澄んでいた。
 チャオガーデンに、学校に。僕の居場所はなくても、この家に。僕の居場所は確かにあるんだ。
 だから、まだ頑張れる。
 まだ大丈夫。

「大丈夫だよ。僕、がんばるから」

 穏やかな気持ちになれた。お母さんのお陰でもあるし、レイのお陰でもある。マトさんや店長さんのお陰でもあるだろう。
 明日からまた頑張ろう。
 1つうまくいかなくても、別の1つで取り返せばいいんだ。
 目を瞑る。
 だから、まだ――

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』


「物語って、どうやって作られるのかな」

 レストランに向かう途中、僕はレイに尋ねた。
 彼は車道と歩道を分ける縁石の上を綺麗になぞって歩く。

「さあ? 俺は読書しないから、よくわからねえよ」
「そっか」
「エースは本が好きなのか」
「うん」

 僕は反射的に頷いた。
 本には、なんというか、他の人の世界がぎっしりと詰まっている。写真とか、そういったものでも他の人の世界を間接的に見ることは出来るけれど、本は別格だ。
 言葉で、文章で、世界が現れる。
 目に見えるも、耳に届くも、全て自由。
 自分の世界であって、他の人の世界でもあるのだ。

「へえ。作ってみたいってこと?」

 そういう訳じゃないけれど。本を読んでいると時々思うんだ。この本は、どういう経緯で作られたものなのか、と。
 物語一つ一つには伝えたいものがある。その一つ一つは、物語を綴った人が考えたもので、でも、作り方は、綴り方は、全員一緒とは限らない。
 要領を得ない言い方になったけれど、人の数だけ進む道は違う、ということ。
 他の人の方法が知りたいと思ったこと。
 説明したあとに、ふと、疑問が浮かんだ。

「僕は、何がしたいのかな」

 答えはなかった。
 レイは、チャオガーデンでの僕を気にしている。僕がああなった原因を知っていて、分かっている。けれども、レイも量りかねているのだろう。
 ハーフチャオで、捨てられたチャオであることは、誰にも変えられない。レイにですら変えられない。たとえ飼い主が現れたとしても、僕が捨てられていた事実は、不変のものなのだ。
 僕は他の子とは違う。同じにはなれない。
 他の子よりも優れているところはない。
 ただ、他のすることがないから勉強していただけだ。
 すごいことなんかじゃない。

 強いて言うとすれば、僕は自由になりたい。嫌なことを全部投げ出したいんだ。


「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「3人です」
「3名様ですね、ではこちらへどうぞ、ご案内いたします」

 手馴れたものだな、と自分のことながらに思った。
 ついこの間までは何も出来ないはずだったのに、今はこんなに余裕がある。
 意外にも、楽だった。仕事も板についてきている。この調子なら。
 大丈夫だ。
 僕はここでやって行ける。
 レジに戻った。

「いやー、上達したもんだなあ」
「何言ってるの、エースちゃんは最初からちゃんと出来てたでしょ。あ、休憩行って来ていいわよ」

 交わされる言葉も、耳に慣れたものだ。マトさんの乱暴な文句も、店長の皮肉も。やっぱり僕は大丈夫だ。
 ハーフチャオだけれど、捨てチャオだけれど、僕は生きていける。独りじゃないんだから。
 からんからん、と、店内スピーカーから鈴の音が響いた。お客さんだ。休憩に行く前に、一仕事終わらせてしまおう。
 余談になるが――ウェイトレスとかウェイター、いわゆるホールの仕事には、レジ近くの入り口まで行ってお客さんを案内することも含まれる。
 構造上、入って来たお客さんを確認することはできないのだけれど。入り口のところまで行って、初めて誰が来たか分かる。そういうお店のつくりになっている。
 だから、本当にそれは一瞬のズレだった。
 一瞬。
 僕が早く、休憩室に行っていれさえすれば。
 僕は、ずっと、このまま。

「ああん? エースじゃねえか、何してんだよ、こんなところで」

 ニュートラルチカラタイプのチャオが、1人の少年に連れられていた。
 ここで誤魔化すことが出来れば、良かったのだろうけれど。
 僕にそんな余裕はなくて。
 ひたすら同じ疑問を繰り返すばかりで。
 何を思って、何を考えているのかも、分からなくて。

 店内が騒がしくなっていることにも、注目を受けていることにも、気づかなかった。

「おい、何黙ってんだよ。は、捨てチャオのお前が働いてるなんて――」

 どうして、ここに。

「学校からいなくなったと思ったらこんなところに逃げ隠れてやがったのか――」

 どうして、ここまで。

「いつもの威勢はどうしたんだよ、エース」

 どこかでガラスの割れるような音が響いた。時間だけが過ぎていた。僕は立ち尽くしていた。
 レイが何か叫んでいる。彼はいつの間に厨房から出てきたのだろう?
 目の前のチャオの飼い主であろう少年は、いやらしい笑みを浮かべていた。どんな言葉が交わされているのか、僕には分からない。
 どうして僕ばかりが、こんな目にあわなくちゃならないのだろう。
 せっかく出来た居場所さえも。
 頑張って積み立ててきたものさえも。
 僕がハーフチャオであるという事実が、捨てチャオであるという事実が、僕の前から全てを奪い取って行く。
 なんで僕ばっかり?
 他の、もっと悪いことをしている子から奪ってよ。
 なんで僕ばっかりなんだ。
 頭の中を文字だけがぐるぐると回っていた。
 それだけ。
 何を考えて、何を思って、何をしたくて、何をしているのか。
 もう、何も分からない。
 分かりたくない。
 いつもいつもいつもいつも、全部、僕は奪われるんだ。
 僕以外、全員いなくなればいい――

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』


 
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Half and Half 5<hope and despair>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
「私も、本当はこんなこと言いたくないわ」

 僕は横たわっていた。休憩室にいた。失神していたのだろうか。チャオも失神するんだなあ、なんて、どうでもいいことが脳裏に浮かんで来た。
 店長の声と荒々しい声が聞こえる。マトさんの声もやや混じっていた。

「でも、あいつは良い奴です!」
「知ってる。だけど……!」
「お前も知ってるだろ。悪い噂ってのは、広がりやすいんだよ。前もそれで店に人が来なくなったことがあったじゃねえか」

 3人とも。店長とマトさんと、レイが声色を荒げて言う。たぶん、僕の話だろう。いくら鈍い僕でも分かる。
 辞めなくちゃならない。捨てチャオは偏見の目で見られても仕方がないのだ。お店に迷惑はかけられない。良い人たちに。
 優しくしてくれた人たちに迷惑はかけられない。

 ――どうせ気まぐれで優しさを振りまいて、それでおしまいなんだろ?

「だけど、なんで、あいつにはどうしようもなかったんですよ!」
「だから、言いたくないの。私だって、エースちゃんにはこれからも働いていて欲しいわ。でもね、どうすることも出来ないのよ」

 服を置いた。ポケットのメモ帳に謝辞を書いて、僕はこっそりと抜け出す。
 僕のせいで、お店に迷惑はかけられない。だから僕が出て行くしかない。

 ――僕を苦しめるやつなんて、いなくなれば良いのに。

 不思議と気持ちは落ち込んでいなかった。

 ――うそだ。

「なら、俺があいつの飼い主になります。それでいいでしょう!」
「一度広がった噂ってのは、撤回しにくいもんなんだよ。いや、嘘だったとしても、撤回なんてできねえんだ」
「あいつは1人なんです! 1人で頑張ってきて、今も1人でいる! それなのに、」
「私たちにも、私たちの生活があるのよ、レイ。客観的に考えてみても、噂の的のエースちゃんが働いてたら……」
「そんな下らないオトナの事情は聞いてない!」

 だって、店長もマトさんもレイも、良い人なんだ。僕を気遣ってくれてることくらい分かってる。
 だからこそ、僕は出て行かなくちゃならない。
 いつもレイと帰っていた道を走る。お母さんは仕事でいないはずだ。帰ってくる前に急いでリュックだけ取って出て行こう。どうせもうすぐ約束の1か月だ。
 曲がり角を最高速で曲がった。頭に衝撃が奔る。後ろにすうっと弾き飛ばされて、ポヨがぐるぐると渦を巻いた。

「すいません! 急いでて――」
「いえ、こちらこそ……すいませ、エース君!?」

 白い肌が目についた。頭の上に天使の輪みたいなポヨがある。ヒーローオヨギタイプ。どこかで聞いたような声。
 体中からあふれる様な気品が、彼女をまとっていた。
 見惚れていたといっても良い。
 彼女の一挙一動から、僕は目を離せなかった。

「リース、さん」
「やっと、やっと見つけました」

 え?

「ずっと心配していたんですよ」

 ぎゅうっと手を握られる。
 心配していた? 僕を? 何のために? 誰に言われて?

「一緒に帰りましょう、エース君。学校に」
「……どうして」

 学校には帰れない。僕は学校にいちゃいけない。みんなそう思ってる。僕はどこにもいちゃいけないんだと。死ぬべきなんだと。
 何より僕が行きたくない。そう思うとなんだか苦しくなって、僕はぎゅうっと手を握り返した。

「みんな待ってます」
「誰も待ってないよ」
「私が待ってます」
「ありがとう。でもいいんだ」

 まるで自分じゃない別の誰かが話しているみたいだ。
 早く行かなくちゃ。誰も知らないところに。僕のことを知っている人がいない場所まで。そうしなきゃ僕は、周りの人にまで迷惑をかける。

 ――周りの人がみんな同じ苦しみを味わえばいい。

「話したら容赦しねえって、言ったよな、エースう?」

 ぞっとした。おそるおそる後ろを振り向く。後を付けて来たのか。僕をいたぶるために。僕を絶望させるために。
 ニュートラルチカラタイプのチャオがこぶしを構えていた。殴られる。やられる。

 怖い――!

 コドモチャオの僕じゃあ、決して彼には敵わない。けれど、思い出せエース、彼は僕だけじゃない。彼女にまで危害を加えるつもりなんだ。
 でも、僕にはどうすることも出来ないじゃないか。
 そうだ、どうせ僕にはどうすることも。

「ひっ」

 情けない声があがる。

「は、なしてえっ!」

 後ろで悲鳴が聞こえても、僕は振り向けない。彼の目に吸い寄せられる。僕じゃあ無理だ。勝てっこない。スキルが違いすぎる。
 彼は右手にハート型の実を持っていた。まさか。強制的に繁殖させる実。思い浮かぶ。けれど動かない。体が動かないんだ。
 動かないとリースさんが。でも。だけれど。

「よーし、お前ら、行くぞ」

 リースさんの手が僕に伸びる。僕にその手を掴むことは出来ない。体が震えていることに気づかない。一歩も、少しも動けない。
 ふっと、彼女が微笑んだ気がした。けれど気のせいだろう。僕を哀れんで笑っているのだ。
 それは恐怖だった。
 暴力に対する。悪意に対する。
 それは恐怖。

「はあっ」

 どっと疲れが押し寄せる。
 もう嫌だ。
 逃げよう。
 それがいい。
 そうしなきゃだめだ。
 そうする他ない。
 急いで帰って、急いで出かけよう。
 僕のことを誰も知らない場所へ。
 走って行こう。
 もう嫌だ。

 いつ、家に着いたのか。僕の記憶にはない。ただ僕はレイの家にあがって、リュックを背負った。どこか遠い場所から、自分を見ている感覚。
 急がないとお母さんが帰ってくるかもしれない。走って家を出る。鍵を閉める。合鍵は壊して捨てよう。
 道路に出た。

「どこへ行くの、エースちゃん」

 ――かちっと、何かが響いた。

 僕のことをエースちゃんと呼ぶ人は2人いる。
 1人は店長だ。けれど店長がここにいるはずがない。だから必然、もう1人の方になる。
 そのもう1人は、いつもと変わらない笑みで、僕を見つめている。

「ちょっと、出かけて、きます」
「帰ってこないつもり?」

 どうして分かったのだろう。ポヨが変化しないように気をつけていたのに。

「何があっても、エースちゃんはうちの子よ。忘れないで。家出しても、最後は帰ってきなさい」
「でも、元々1か月って」
「それはそれ、これはこれ。お父さんは私が説得するから。いい? あなたはここにいなさい。いなきゃだめなの」
「僕は捨てチャオなんです!」

 言うしかない。ずっとだましていたことを。お母さんは悲しむだろうか。だけど言うしかないと思った。
 少し、驚いた表情をして、お母さんはふっと微笑む。
 どうして、笑ったの?

「知ってたわ。レイから聞いたもの」

 捨てチャオは人からも、チャオからも嫌悪される。人のものだったチャオを欲しがる人なんてほとんどいない。そのチャオが誰のものかも分からないのに。
 そのはずだった。けれども僕の考えは目の前にいるほかでもない、『人』によって否定される。
 捨てられていたとしても。
 それが捨てられたチャオだったとしても。
 お母さんは僕に『ここにいろ』と言った。涙が溢れそうになって、ぐっとこらえる。

「エースちゃん」

 僕の名前が呼ばれる。

「エースちゃんは、どうしてそんなに泣きそうなの?」

 ばれていた。

「行かなくちゃならないところがあるんじゃないの?」

 お母さんは、さっきのやり取りを見ていたのか――と思ってしまうほどに、的を射た物言いだった。
 やさしい顔をしている。僕はひどい顔をしているだろう。お母さんのようにはなれない。レイのようにもなれないし、マトさんや店長さんのようにもなれない。
 僕は、欠陥品だ。優しくはなれないし、卑小な性格をしていると自分でも思う。被害者ぶって、自分がしたことは省みず、他を見下す。
 自分の汚さが分かってしまったから。どれだけ卑怯なのか分かってしまった。自分だけが傷つかない場所で、必死で自分がいかに不遇かを訴えているだけだ。
 そうだ、僕にはもう、何もない。

「もう、色んな人から、色んなものをもらってるでしょう、エースちゃんは」
「……嫌なんです。逃げたいんです! 怖い! みんなが僕をどう思ってるのか、分からない! 僕は、いなくなった方が――もう、頑張りたくなんて!」
「本当に?」

 本当に?

「逃げたいのなら、逃げてもいいのよ」

 ――本当に?

 本当に逃げたいのだろうか。本当に体が動かないのだろうか。本当に無理なのだろうか。本当に勝てないのだろうか。本当に分からないのか。本当に僕は。
 僕がしたいことって、なんだっけ。僕がしなくちゃいけないことって、なんだっけ。
 お母さんの表情はどこまでも優しい。その全てを察するのは、いくら歴史に名を残す賢人であろうとも出来ない。そう思わせる。笑みの中に潜む厳しさ。
 僕の間違いを見透かす瞳。

「だけど、全部中途半端で逃げるのだけは、許さないからね、エースちゃん」

 中途半端。
 リースさんがさらわれたのは、誰のせいだろう。チカラタイプの、あの子のせいで、確かに僕のせいじゃないけれど、それでも僕が関わっている事は紛れもない真実だ。
 レイが怒っているのは、誰のせいだろう。もちろん、僕のせいだ。僕が捨てチャオだということをさらけ出せず、うじうじと悩んでいるから。
 店長やマトさんに言いたくないことを言わせ、悩ませたのは誰のせいだろう。僕のせいだ。ずっと騙していた。
 だとして、僕が学校で後ろ指を差されたのは。

『なんで生きてるんだろうね、あいつ』

 だとして、僕が学校で受けた言葉の暴力は。

『ちょっと珍しい肌の色してるからって、調子に乗ってるよね』

 それだけは、僕のせいじゃないと言い切ってしまいたかったんだ。だって、僕の受けた痛みも、どうしようも出来ないもどかしさも悲しみも寂しさも、全部、自分のせいだなんて、思えなかったから。
 中途半端。
 やり遂げられない。
 誰かを見下して、自分を保つ。悪いことなのだろうか? みんなやっていることだ。けして悪いことなんかじゃない。

 だけれども。

 だからこそ。

 僕はそうしちゃいけない――そうしたくないんだ。

「エースッ!」

 今度の叫びはしっかりと聞こえた。僕は思いっきり振り向く。
 過去。苦しみと戦ってきた過去。それは僕のせいだったし、別の誰かのせいでもあったし、僕を捨てた人のせいでもあった。
 他と違う僕。ハーフチャオで、捨てチャオで。学校だけが僕の居場所で、友達はいなくて。勉強は出来たけれど、読書もしていたけれど、他にすることもなくて、1人で寂しさをごまかして。
 他と同じ僕。優しくされるとうれしくて、木の実が好きで、お母さんの作る料理が大好きで、感謝の気持ちを伝えたくて、頑張りたくて。可愛いチャオに心を惹かれて。
 巻き込んじゃいけないと、リースさんを突き放した僕。あの優しさも嘘だったのだろうか。いや、違う。あれは僕の優しさで、僕だけのものだ。他の誰のものでもないし、他の誰にも否定はさせない。
 河原で叫んだ僕。鬱憤が積もり積もって、言いたいことを全部言ってしまいたくなるような不思議な少年と出会った。笑いながら罵り合った。あれも僕だ。
 お母さんの優しさに触れて喜んだ。初めてのアルバイトで緊張した。褒められて嬉しかった。失敗して恥ずかしかったけれど、みんな優しくて、もっと頑張ろうと思った。お母さんのお弁当。
 体が震えて、動けなかった。みんなが僕を否定しているような気がした。僕は他のチャオと違うから、ここにいちゃいけないんだと思った。捨てられたことがコンプレックスで。

『エース君は、ハーフチャオなんだ?』

 そうやって話しかけてきてくれた言葉に、悪意はあったのだろうか。勝手にそうと決め付けてなかったか。

『捨てチャオだって、聞いたんだけど』

 溝を作ったのは誰だったのか。本当に彼らの気持ちを分かっていたのか。分かっていたつもりになって、被害者を装っていただけだろう。

『あ、はいっ! ……あの、またお話しましょうね』

 裏切るわけにはいかない。
 いや、違う。
 裏切りたくないんだ。

「レイ、コドモチャオは、オトナのチャオに勝てないと思う?」
「……さあ? やってみなきゃ、わからねえよ」

 そうだ。
 本当に、そう思う。

「1人で大丈夫か」
「うん」
「本当に?」

 レイが口角を上げる。笑っているんだ、彼は。僕が大丈夫だと確信している。だから僕も笑う。
 同じように笑えているだろうか。
 きっと笑えている。僕はそう思うことにした。

「僕を捨てた人が、僕に残したものは、確かに嫌なものばかりだったけれど……」

 困難と屈辱と寂寥と痛み。捨てチャオだという事実を、飼い主は僕に残した。変えがたい事実。代えられない真実。
 だけど。

「それでも、この名前だけは、その人たちからもらったものなんだ」

 思い出した。
 エースって名前は、僕の飼い主だった人が、僕にくれたものだ。愛情の証。何か理由があって僕を捨てたのかもしれない。それは分からないけれど、飼い主だった人は、僕に名前をくれたんだ。
 僕だけの名前を。

「行かなくちゃ。僕に優しくしてくれた子が危ない目にあっているんだ。僕のせいで。だから行かなくちゃいけないんだと思う」
「分かってる。止めるなんて考えてねえよ」

 すうっと、レイは息を大きく吸い込んだ。

「行って来い!! 相棒!!」

 だから、僕も精一杯の大声で返す。

「行って来ます!!」

 ばささ、と紙のこすれたような音がした。次第に大きくなるその音に、僕たちは頭に疑問符を浮かべる。ポヨがあるのは僕だけだけれど。
 音もなく、その音は僕の目の前に降り立った。ポップ体で書かれた『ChaosDriver』のネームプレートをぶらさげた金色の鳥。
 翼に手を触れる。フェニックスの体が消えて行く。僕の中に何かが入り込んで、流れて、通っていく。
 きらきらとした光に包まれて、僕の足の形が変わった。鳥の爪みたいだ。ふと背中に違和感を感じる。金色の羽が、僕の背中に付いていた。
 キャプチャー能力。

「行ってらっしゃい、エースちゃん」
「……はい!」

 ぐっと、足に力を込めた。
 ずっと働いてきたから、スキルは多少なりともあがっているはずだ。本当は違ったとしても、今はそうでない訳がないんだ。そう思い込まなければならない。
 出来る。
 僕なら、絶対に出来ると。

 いや。

 僕にしか、出来ないって――!


 初めて会ったときから、気に食わなかった。
 俺の飼い主は、いつも周りのきれいな色をしたチャオを見る。ツヤツヤのチャオ、ジュエル、ハーフチャオ、そんなところだ。
 そいつは飄々としていて、飼い主がいないなんて言って、まるで自分が悲劇のヒーローであるかのように暗い表情をしていた。
 それがたまらなく、俺にとっては不愉快だった。
 飼い主がいないことだけが、不幸なのか?
 俺の飼い主は、俺がいくら頑張ったとしても、俺なんて見ちゃくれない。貴重なチャオばかりを見る。だから俺も好き勝手やってる。それで初めて対等だ。

「なんで、こんなことを……」

 攫って来たピュアチャオがつぶやく。こいつもそうだ。俺じゃなくて、そう、あいつじゃなきゃ駄目なんだ。
 どうして俺じゃいけない?
 間違ってると思った。だから俺は強制的に現実を正しくしようと思った。ハートの形をした実を無理やりにでも食べさせて、繁殖期にさせる。
 チャオ同士にも結婚はある。人間のそれと比べると些細なものだが、繁殖したチャオ同士、一緒にいるのは当然のことだ。
 これで俺は苦しみから解放される。

「それにしても、エースのやつ、かっこ悪かったな!」
「生きてるのが悪いんだよ、あんなやつ、ははっ」

 結局、人間社会もチャオの社会も力が全て。
 チカラタイプの俺に楯突こうなんてやつは誰もいない。ましてまだ大半がコドモチャオだ。スキルは一番俺が高い。力比べで負けるわけがない。

「もう、食べられない」
「うるせえ! 俺が食えって言ったら、食うんだよ!」

 殴る。ピュアチャオのポヨが不機嫌を表す。無理やり食べさせる。
 年上だからって、俺に敵うわけないんだ。チカラのスキルで俺に勝てるやつなんていない。
 じゃあ、俺が威張って何が悪いんだ? むしろそれが当然だろ? 俺は悪いことをしているわけじゃない。当然のことをしているだけなんだ。
 2匹のチャオが俺の怒りに萎縮する。こいつらも俺の強さにびびってるだけだ。
 どいつもこいつも、馬鹿ばかり。嫌になる。
 センコーは勉強しろってうるさい。なんで勉強しなくちゃいけねえんだよ。どうでもいいことだろ? 何の役に立つんだよ、勉強が。
 それよりもスキルをあげた方が役に立つに決まってんだろ?
 むかむかと腹が立ってくる。

「さっさと食えよ!」

 殴る。食べさせる。

「うっ、うえっ、もう、嫌あ!」
「うるせえ! 黙って食え!」
「エース君、エース君! 助けてえ、エース君!」

 エース、エース、エース。
 どうして俺じゃいけない? どうして俺じゃ駄目なんだ? あんな捨てチャオのハーフチャオがいいのか? おかしいだろ?
 俺の方が強い。俺の方が。俺の方が!
 黙らせてやる。
 黙らせて、もう二度とエースなんて呼べなくして――

「なんだ、なんだあいつ!?」

 部下の1匹が耳元で叫んだ。
 ばささ、っと、そんな音がした。ピュアチャオの声が沸き立つ。俺はゆっくりと後ろを振り向いた。
 二度と見たくない面が、あった。

「リースさんを、返せ!」
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Half and Half 6<winner and loser>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
 風が後ろへ通り過ぎ去って行く。
 僕の行く手を阻む障害物は何もない。街の喧騒が遥か後ろに聞こえる。
 空は僕の領域だ。
 金色の翼が大きく広がる。前へ、ひたすら前へ飛ぶ。飛んで、駆ける。道行く人が、チャオが、僕を見て、視線は遠く後ろ、その彼方へと置き去りにされた。
 廃ビル。場所は分かっている。ゲームセンターの帰りに、見かけた。偶然だったのだろうけれど、運命的なものを感じずにはいられない。
 頑張れ。
 頑張れ、僕!
 ビルの隙間を縫うように飛んで、僕はチャオを見つけた。降り立つと驚いた表情を見せる彼らに、僕は宣戦布告の意味を込めて、叫ぶ。

「リースさんを、返せ!」

 それは、勇気を振り絞って叫んだ、精一杯の言葉。
 チカラタイプのチャオは無表情、と言っても良かった。笑ってもいないし、怒ってもいない。その周りの2匹は、とても怒っていた。
 怖い。
 けれど、ここで頑張らなきゃならない。

「何しにきたんだよ、エース」
「僕は、リースさんを」
「何しに来たって、聞いてんだよ!」

 チカラタイプのチャオが憤怒の形相で僕を睨んだ。足が竦む。倒れそうになる。
 怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い――怖い!
 体が震えた。
 高ぶっていた気持ちが、一気に沈みこむ。
 逃げ出したい。
 もういい。
 どこかへ逃げたい。
 頑張れ。
 中途半端なまま、逃げ出すのはダメだ。

 ――勝てないよ。逃げればいい。

「エースの分際で、偉そうに!」

 2匹のチャオが走って来る。体が動かない。さっきまでは出来ると思ったのに、今は全然動かなかった。
 にらまれた瞬間、僕は体の震えが止まらなくなった。
 どうして、どうして、どうして? リースさんを助けなくちゃいけないのに、助けたいのに、それが出来ない。殴られる。蹴られる。倒れこむ。踏まれる。殴られる。

『お前があの人と話すなんて、100年早いんだよ!』

 僕がどうにかしようなんて思うことが、間違っていたのかな。

 ――その通りだ。

 気持ちが折れそうになる。実際、既に折れていた。睨まれた瞬間から、僕は竦んでしまっていた。殴られた痛みが、無視され続けた苦しみが、戻って来る。
 僕にはどうすることもできなかった。僕の意思に反して震える体を抑えることなんてできやしない。
 恐怖を感じていた。
 だから、何もできずに、ここで終わる。

『こいつ、二度と学校来させないようにしてやろうよ』

 立ち上がりたくない。ここで負けてしまえば、あとは逃げるだけだ。
 すごく魅力的な選択肢に思えた。
 負けてしまおう。
 逃げてしまおう。
 どうせ誰も僕を責められない。悪いのは僕じゃないんだ。
 悪いのは、僕じゃない。

『どうせ何言っても無駄だよ』

 そうだ、散々酷い事を言われ続けてきた。

『近寄らない方が良い』

 捨てチャオだからというだけで、ハーフチャオだからというだけで、僕は嫌われ疎まれ蔑まれ恨まれ暴力を受け、地獄をこれでもかというほど味わった。体感した。

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 どうして僕ばかりがこんな目にあわなくちゃいけないんだろう。
 僕がここにいちゃいけないというのだろうか。
 どうして他のみんなは良くて僕は、僕だけはだめなんだろう。
 もうやめてくれ。
 もう嫌だ。
 嫌だ、逃げたい、逃げ出したい、どうでもいい、傷つきたくない、苦しみたくない――なんで僕ばかりが、こんな目にあわなくちゃならないんだ!

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 ……そうだ、逃げてしまえ。

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 逃げれば苦しみからも解放されるんだよ。

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 それが一番、誰も傷つかないで済む方法じゃないか。

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 リースさんだって、僕なんかよりも彼の方が良いに決まっている。

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 僕はピエロか。

『なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ』

 僕は、ここにいちゃいけないんだ。
 全部、誰かのせいにしたい。マトさんが悪い。店長が悪い。お母さんが悪い。レイが悪い。学校のみんなが、今、目の前にいる彼らが、リースさんが――


 リースさんが、一体何をしたって言うんだ。
 マトさんも、店長も、レイも、お母さんも。
 みんな、僕に優しくしてくれたじゃないか。
 僕が独りでいると、手を差し伸べてくれた。
 学校のみんなだって、最初のちょっとだけだったけれど、仲良くしてくれた。
 だから僕は、ちょっとでいいから、恩返しがしたかったんだ。
 ほんのちょっとでもいいから、お返しがしたかった。
 もらったもの。
 支えになってくれたこと。
 優しい人たちに、みんなに。

『恩返しって言うのは、お金とか、そういうんじゃなくてね、エースちゃん』

 気持ちで、返したかった。

『俺の教え方がうまいんだっての』

 物でもなくて、お金でもなくて、ちゃんとした僕だけの気持ちで。

『ちょっとは気が晴れたか?』

 僕に優しくしてくれた人たちに、全部、その優しさを。

『だけど、全部中途半端で逃げるのだけは、許さないからね、エースちゃん』

 大丈夫。
 最後に背中を押してくれたのは、ほかでもないレイのお母さんの、言葉なのだから。
 いろんな人から、いろいろなものをもらって、いろんな気持ちをおぼえながら、僕は今、ここにいる。
 誰に言われたわけじゃない。
 きっと嫌なことばかりだろう。
 辛いかもしれない。

 けれども。

 僕は、優しくしてくれた人たちに、

『……あの、またお話しましょうね』

 ――恩返しがしたいんだ!

「俺に楯突こうとするから、そうなんだよ!」

 問、コドモチャオはオトナのチャオに勝てないだろうか。
 否、やってみなくちゃ分からない。
 やってもいないうちから、出来ない、勝てないなんて、言っていられるほど、僕はオトナじゃない。
 その通り。だってコドモだもの。
 素直に生きて、何が悪い。
 体中が痛むけれど。
 僕は足にチカラを入れて、飛んだ。

「う……わっ! わわわわわわ」

 1匹のチャオの尻尾を掴んで振り回す。振り回したまま、僕はそのチャオをもう1匹のチャオ目掛けて投げつけた。
 声にならない叫び声を上げて、2匹は倒れる。ポヨが渦を巻いているところを見ると、どうやら成功らしい。
 体がふわふわと浮いている感覚だ。
 河原でも、同じような感覚を味わった。何なのだろう。今ならなんでも出来る。そんな気がする。
 睨まれた。恐怖はある。でも、負けたりはしない。
 僕が戦っているのは、自分の中の恐怖だ。逃げたい心。好き勝手している彼に、僕が負けるわけがない。

「エースッ!!」
「リースさんに、これ以上乱暴してみろ……僕はお前を、ただじゃ済まさない!!」

 簡単だ。レイの真似をするんだ。
 気持ちを、思っている言葉を、ただ思った全てを、叫べば良い。あの河原でやったみたいに。
 彼は何が起こっているか、分かっていない様子だった。僕が、僕ではない何か別のものみたいに見えているのだろうか。
 単純に言ってしまえば、たぶん、彼は恐怖している。
 自分より弱いはずのコドモチャオが、自分に反抗していることに対して。

「てめえ、降りて来い! 卑怯だぞ!」
「卑怯なのはお前だ!!」

 頭の隅で、そんなことを考えて。
 僕は彼のポヨを掴んで、空中で旋回する。彼の体は思いっきり振り回される形になって、ただ悲鳴を上げていた。
 振り回したそのまま、投げ飛ばす。壁に激突する寸前、僕は彼の尻尾を引っ張って、反対側に投げ飛ばした。
 チカラは必要ない。遠心力と慣性と勢いで、簡単に投げられる。廃ビルの壁に激突した彼は、ポヨをぐるぐるにして倒れた。
 緊張がほどける。
 ゆっくりと降りる。
 ……勝った。
 僕は勝ったんだ。コドモチャオが、オトナのチャオに勝った。ハーフチャオの僕が、捨てチャオの僕が。
 勝てた。
 たぶん傍から見たらすごくシュールな光景だったとは思う。
 でも、僕は必死だった。
 チカラで劣る僕が唯一彼に勝てるのは何か。羽の大きさ。ヒコウ能力。ヒコウ能力はケンカに向かないけれど、頭を使って、僕は必死で戦った。
 その結果。
 コドモチャオの僕が、オトナのチャオの彼に、勝ったのだ。

「エース君っ!」

 ぎゅっと手を握られる。
 気の利く言葉なんて思いつかずに、とりあえずにこりと笑ってみたけれど、彼女は恥ずかしそうに俯くだけで、沈黙。
 なんて声をかければいいのだろう。
 もう大丈夫?
 怪我はない?
 全然分からなかった。さっきまで僕を包んでいた万能感は消えうせて、代わりに戸惑いが生まれて来る。
 今、思ってみると。この状況は結構というか、かなり恥ずかしい。
 チャオに性別はないと言われている。けれども実際、チャオそれぞれの人格、性格は人でいうところの性別のような差がある。
 僕は、人で言えば男。彼女は女の子なのだろう。
 とても恥ずかしい。
 手を握られたまま。頬を赤らめるリースさんと。間近で向き合う。

「あの、助けてくれて、ありがとう……ございます」

 声の最後の方は聞き取れないほどに小さくなっていた。
 たぶん、彼女も僕と同じ気持ちなんだ。
 こくこくとうなずく事しか出来ない僕は、何か言わなきゃという焦燥に駆られて、しかし何も思いつけない。
 どうしよう。
 どうしようどうしようどうしよう。
 一緒に帰ろう? どこに? 学校? でも僕、レイのところに、一緒にレイの家まで、でも彼女はレイと面識があるわけじゃないし。
 彼女に殴られた痕があるから、ひとまず体の手当てをしたいけれど、どう切り出せばいいのか。

「ふふ」

 口元に手を当てて、リースさんは笑った。そのしぐさにどきっとする。

「こうしてちゃんと話すのは……初めてですね」
「あ、うん。僕……」
「あの、もしよければ……私と、私と……お、お友達に、なって」

 顔が熱くなるのが自分で分かる。なるほど、チャオも恥ずかしいと顔が熱くなるんだなあ、なんて頭の隅でどうでもいいことを考えていた。
 リースさんへ、手を伸ばせば触れられる距離。
 少し勇気を出せば、どうとでも出来る距離。
 なんだか頭がぼうっとして来た。熱に浮かされたのかな、きっとそうだな、なんて考えて、ふらっと後ろへ倒れる。
 天井と、僕を不安げに覗き込むリースさんの表情が目にうつった。
 心配しないで、なんて、きざなセリフは喉を裂いても出ないけれど。
 ちゃんと助けたよと、みんなに胸を張って言える結末だったから、僕は――――


 目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。
 白い部屋。
 清潔な感じのする部屋。
 病院だ。
 隣にはリースさんとその優しそうな飼い主の女性がいて、レイはしどろもどろになりながらも談笑していた。
 起きた僕もそこに混ざって、レイは照れくさそうに憎まれ口をたたく。
 聞いた話によれば。
 僕が倒れてから、リースさんは僕をレイの家まで送り届けてくれたらしい。どうしてレイの家を知っているのか、という僕の質問に対してリースさんは頬を赤らめるだけだったけれど。その後1日中僕は眠っていて、こうなる訳だ。
 チャオ医学に精通しているわけじゃないからよくは知らないが、僕はどうやらとてもひどい怪我だったみたい。人で言うと骨が折れているレベルかな。
 でも、結果的になんだか幸せだったから、僕は笑っておいた。

「で、母さんが言うには、お前をうちで飼いたいって話なんだけど」

 リースさんを名残惜しくも見送って、2人になったところでレイが切り出した。
 表情は真剣そのものだ。お母さんが言っていたということは、ウソじゃないし、ちゃんと飼ってくれるのだろう。
 もちろん、その提案はやぶさかではない――どころか、むしろとても嬉しい提案だ。レイの家はとても居心地が良いし、アルバイトはまた見つければ良い。
 そう、そのアルバイトなのだけれど。
 ファミレスの店長が僕に戻って来て欲しい、と言っていたというのは、レイから聞いた。聞いたときはすごく嬉しかった。だけど、僕が行くと迷惑になるかもしれないから遠慮するという旨を電話で伝えると、

「籍は残しておくから、いつでも手伝いに来てね」

 という優しい言葉が返って来た。お店の事情は大丈夫なのかを聞いておけば良かったな。でもたぶん、大丈夫じゃないのだろう。それでも店長は優しいのだ。
 その店長さんの話によれば、マトさんは今回の騒動ですっかり意気消沈してしまったらしく、僕を呼び戻したいと言った理由はどうやらそれなんじゃないかと僕は睨んでいるのだ。
 でも、謝らないでくれてよかった。
 謝られたら、僕はどうすればいいのか、分からなくなるから。
 そのあたり、レイが根回しをしていたのではないかと思っている。
 話を戻す。
 とにかく僕は、その提案を丁重に断った。
 しばらくはリースさんに乱暴した彼らが懲りていないか監視していたい、というのもあるけれど、一番の理由はやっぱり学校が僕の家だということを校長先生に言われたこと。それから、全部、もう一度やり直してみたい。
 それに、

「レイは、どっちかというと僕のパートナーだと思うんだ」
「え? え?」
「友達ってことだよ」

 2人して笑いあう。

 満場一致(2人)で僕は学校に戻ることになった。
 僕の逃避行は、ここで1つの終幕を迎える。
 変わったものはたくさんあるし、正直言って、やっぱり学校に戻るのは怖い。でも、ここで逃げてしまったら、やっぱり格好悪いんだ。
 独りじゃないから、がんばろうと思える。
 僕を見ていてくれる、見守ってくれる人たちがいるから、がんばらなきゃいけないと思える。
 だから僕は、学校に戻った。
 先生からはこっ酷く叱られた上に、補習授業を受けさせられることになった。
 まあ、仕方のないことだと思う。
 久しぶりに帰って来た自分の部屋は、やっぱり誰もいなくて寂しかったけれども。
 まあ、これもやっぱり仕方のないことだと思う。

 ちなみに僕の背中に生えたフェニックスの羽のお陰で、クラスの子からちょっとだけ羨ましがられた。
 今度シャークマウスの彼にもお礼を言いに行こう。
引用なし
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Half and Half 7<start and finish>
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:02 -
  
 10年くらい前までは、こんなチャオが1人で残っている――なんてこともなかったらしい。
 昼間の騒がしさとは比べ物にならない寂しさを持つ校内の一室。僕はチャオサイズの布団にくるまりながら、まだ薄暗い窓の外を見てもう一度寝ようと思った。
 外では楽しそうに小鳥たちがじゃれ合って、遠くへ飛んで行く。小鳥たちにとって、空は自分たちの場所だ。誰にも邪魔されない、自分たちだけの自由な場所。
 少し彼らが羨ましくなって、僕は小さくため息を付いた。僕の居場所はやっぱりここしかなくて、どこへ行ったとしても、最後にはここへ帰って来ることになっているんだ、きっと。
 なんにせよ。
 夜明けが、早く来ると良いな。


 1クラスに40匹のチャオがいる。授業科目は社会科。内容はようやく2学年らしいものになって来たばかりで。それと、おはよう、なんてあいさつが教室でかわされている。
 もちろん、僕にはあいさつなんてないけれど。
 他のチャオ――必然的に僕以外のチャオということになる――は仲間内で楽しく話したり、先週の週末は飼い主と一緒にショッピングモールまで出かけたとか、小動物と友達になったとか、こそこそと楽しげに話していた。

「さて、最近になって注目を浴びつつある『免許制度』ですが……エース君、免許制度の概要を簡潔に説明して下さい」

 先生もそれを分かっているのだろう。他のチャオに聞いても喋っていて分からないから、僕に聞く。まるで晒し者だ。その先生と来たらしたり顔で『今朝ニュースでやりましたよね』なんて言い出した。
 ――分かるさ。テレビは見ていないけれど、今日の朝刊の一面ニュースになっていたもの。

「チャオを飼う際に免許の提示を義務付けすることで、捨てチャオ問題などの対策とする制度です」

 周囲から溜め息が聞こえる。
 それでも遥かに前よりは少ない溜息の数に、僕はちょっとだけ嬉しくなった。最も、何かが変わったのかといわれれば、そういうわけでもないけれど。

「そうですね、免許制度はチャオブリーダーとして最低限の資質を問われる制度だと言って良いでしょう。また、」

 先生は空中を飛びながら(社会科の先生はヒコウタイプなのだ)ホワイトボードに『チャオの悪質な売買』と大きく書いた。

「チャオの悪質な売買や、チャオの虐待などの問題もまた、表ざたになることが多いのですね、それではもう一度、エース君」

 また僕だ。周りのチャオは授業中に答えたがらないことが多い。やっぱり先生もそれを分かっているから、僕に聞くんだ。他のチャオのくすくすとした笑い声が聞こえた。
 以前よりも確実に、段々と、チャオの性格は人に似てきているという。ペットは飼い主に似る、というヤツだろう。でも、気持ちは分からないでもないし、結局のところ性格なんてものは周りから影響されるものなのだ。

「免許制度は、何に基づいているか、また、免許制度を取得する条件は何なのか、答えられますか?」
「チャオ国際法に基づき、戸籍情報を明確にした上で『一般的なチャオ飼育に関する知能試験』を設ける――それが条件です」


 僕は飼い主を知らない。もしかしたら僕は国の繁殖場で生まれたチャオかもしれない。でも、タマゴのまま捨てられて、タマゴのまま学校に保護されて、そうして生まれた事は確かだ。
 水色ハーフ。人にとっては珍しくてすごいものみたいだけれど、チャオの中ではただ単にうとまれるだけ。最近では街中チャオで溢れかえっているせいで、僕みたいな捨てチャオは見向きもされない。
 けれども、チャオは元来非常に高価だ。
 だからチャオの悪質な売買が問題になる。貴重なチャオを比較的安値で手に入れよう、という風潮があるのは確かである。 
 ふと目の前が真っ白になった。なんだ、と思うもつかの間、

「だーれだ?」

 ほんわりとした声に、僕の心が跳ねる。僕の友達はいかにも楽しそうにきゃははと笑いながら、僕の目をその小さな手で隠していた。
 ――リファイサ。愛称をリース。ヒーローオヨギタイプのピュアチャオ。1学年年上の可愛らしい子だけれど、実はとてもスキルが高い上に性格もまじめで厳しい。可愛らしい飼い主の人に育てられていたから、たぶん飼い主に似たんだろうなあ。
 その子は僕の手をぎゅっと握って、横から顔をひょいっと覗かせる。僕のポヨはハートマークになっていないだろうか。大丈夫だと思いたい。

「リースでした」
「うん、言わなくてもちゃんと分かってたよ」

 気が付くとその子が目の前に迫っていた。二、三歩後ずさって、僕はぎゅっと握られたままの手を離す。
 どうやら彼女は視力が生まれつき悪いらしく、近くないと僕の表情がうまく見えないみたい。だからって近すぎるのは、ちょっと僕の心臓(ないと思うけれど)に悪いと思うんだ。
 チャオにはもちろん視力や聴力などの機能がある。――と、されている。耳や瞳などの細かな分類は不明だが、先天性のもので五感障害を患うチャオも少なくはないようだ。
 生き物を飼うということをちゃんとわかっていない人たちは、そういう障害のあるチャオを捨てて、また新しくチャオを買う。それがたまらなく増えているのだ。免許制度が注目される時代というのは、同時に残酷な世情を表す。

「あの、どうしたの? 僕の顔、変?」

 変なのはいつものことか、とっさにそう思って、自己嫌悪。ここで変って言われたら立ち直れないだろう。
 彼女はふふ、と優しく微笑んで、僕の口に手を当てた。内緒という意味だろうか。それは自分の口に当てるんだよ、ということは分かっていたけれど、しばらくこのままでいたくて僕はあえて間違いを指摘せずに置いた。


 図書室のドアの前で、僕は立ち止まる。しばらく図書室には寄っていない。最近では昼休みなどの空いた時間はリースさんと話したりしていたから。
 もう寄る必要もないかな、と最近思い始めていた。図書室の本はほとんど読み終えてしまったし、何より本よりも大切なものが僕にはたくさんあるから。
 すると僕を見て、そそくさと通り過ぎていくチャオたちが数匹。チカラタイプの、ニュートラルチカラタイプの子に僕が勝ったというのは、いまや学校中で有名な話になっていた。
 単純な恐怖。今までのことを仕返しされるんじゃないかという恐怖が、彼らの中にはあるのだろう。得体の知れないものに対する恐怖。
 僕が捨てチャオだから?
 僕がハーフチャオだから?
 でもきっと、それも含めて僕なんだと思う。
 彼らの足音がすぎて、途端に辺りが寂しくなる。僕のポヨは変化していない。こういうポヨの自制も、オトナになれば自由自在に出来るようになるのだろうか。少し気になった。
 やっぱりきっと、僕はオトナにはなれないのかもしれない。だって、ポヨを自制できるときと出来ないときがあるんだもの。
 人とチャオは違うから、チャオは必ずしもオトナにならなくて良いのだけれど、僕としてはコドモのままでいることに、なんだか少なからずジレンマを感じてしまう。
 どうしてだろう。オトナになりたいなんて、今まで思ってもみなかったのに。リースさんだったり、レイだったり、お母さんだったり。そういう優しい人たちが、僕を変えたのだと思う。
 優しい人たちに囲まれて、優しい人たちの中にいて、僕も優しくなれたんだ。
 
 廊下をまったりと歩いているうちに、昼休みの終わりが近づいて来る。もうじき、チャオ界隈は夏休みだ。チャオの学校は義務教育といえど人のそれと比べて緩めで、春休みは4月から5月のゴールデンウィークまで。夏休みは7月から8月31日までなのだ。
 本当のところ、そこまで税金を割くことは出来ない、というのが主な理由だろう。結局、社会は人によって成り立っているのだから、チャオよりも人を重視するのは当たり前だ。
 ただ、チャオの知能実験でもあるこの義務教育というシステムが一応の成功を収めたとき、社会は少しだけ変わるかもしれない。
 今のところ、チャオは守られるだけの存在でしかない。法によって。世論によって。けれどチャオが本当の意味で自立出来たとき、チャオは社会の中で生きていくことが出来るのだろう。
 いつになるかは分からないし、そもそもそんな夢物語が実現するとは思わないけれど。

 なんとなく。
 本当になんとなく、僕は昼休みも終わりに近いというのに、屋上へ行ってみた。なかば無意識の行動。そこには、オレンジ色の肌をしたチカラタイプのチャオが座っていた。
 あの一件以来、彼はすっかり大人しくなった。僕を恐怖するクラスメイトとは違って、考え事をしているようでもあったし、かと言って生活態度が改まったかというと、そうでもない。
 ただ、そう。
 僕に対してしたような――暴力の被害者はもう存在しないということだ。

 無言で彼の隣に座る。ちらっとこちらを見て来た彼だが、すぐに目を逸らされた。
 無愛想だなあ、と呟く。舌打ちが聞こえた。仲がいいわけじゃないから、親しく話すことなんて、最初から出来るはずないんだ。
 けれど、僕たちはいがみ合っていた頃とは違う。
 僕が見下していたチャオはどこにもいないし、彼だって、彼にとってのいじめられていたエースはどこにもいないのだ。

「何か用かよ」
「別に、何も用はないけれど」

 そうだ。特に用なんてない。ただ気分がそっちに向いただけ。
 座ろうと思ったから座った。答えようと思ったから答えた。何もおかしいことなんてない。

「お前、……いや。あの子は元気か?」
「リースさんのこと?」

 こくりと頷いた彼の表情にはかげりがあった。きっと彼にも何か事情はあるのだと思う。だからチカラで強行したし、いろんなチャオを引き連れて大将を気取っていたんだ。
 少しいやみな言い方になってしまうのは許して欲しい。僕だって今までされたことの仕返しをしたくないと言えば、うそになる。けれどそれをしてしまったら、僕は彼と同じになってしまうから。
 昔の彼と。

「うん、元気だよ。元気すぎるくらい」
「なら、いい」

 後悔、しているのだろうか。
 僕に負けたことによって、彼は『強いチャオ』ではなくなった。捨てチャオでハーフチャオのいじめられっ子、エースに負けた『弱いチャオ』のレッテルを張られたのだ。
 それから彼は独りになった。自業自得だと思うし、助ける義理なんてない。でも、気持ちは分からなくない。彼はみんなの中にいながら、独りだった。求められていたのは、彼の強さだけ。
 強い人に従わなくちゃ、自分がいじめられる。その恐怖に耐えられないから。だから強さにすがる。悪いことじゃない。みんなやっていることだ。
 僕は納得できないというだけで。

「俺はお前が羨ましいよ」

 唐突に切り出した彼の表情には、感情がなかった。そんなあいまいな表現になってしまうくらい、なんとも表現しづらい表情だったんだ。

「俺はお前みたいになれない」
「僕だって、君にはなれない」

 冷たい視線を向けられる。皮肉でも嫌味でもなくて、本音なのだけれど。
 別の誰かになろうとする方がおかしいと思う。
 僕はチカラじゃ彼には敵わないし、捨てチャオであることに変わりはない。だけれど、僕はこうして生きている。決して楽なことばかりじゃない。それでも。

「僕も、君が羨ましかったよ」

 僕と彼は、きっと同じなんだ。まったく違うものだとも言える。そういうもんでしょ?
 驚きの表情を見せた彼にふっと笑って見せた。
 色々言いたいことはあったけれど、僕の心の中には何もなかった。空が綺麗だなあとか、頭の隅で考えているだけで、優しい気持ちになれる。
 僕がいじめられていた原因が、僕にもあるように。
 僕がここまで来れたのは、彼のお陰でもある。

「友達になろう」

 唐突に言ったのは、僕だ。

「は、今更何を」
「良い友達になれると思うんだ」

 葛藤があったのだと思う。
 プライド。周りからの視線。そういうのも確かに大事だけれど、時として僕たちは忘れてしまう。そんなものよりも大切なものがあるはずだということを。僕はそれを手に入れることが出来た。
 理由のない人なんていない。チャオなんていない。
 だから、今度は僕から手を差し伸べてみようと思う。
 レイが僕にやってくれたように。
 リースさんが僕にやってくれたように。
 お母さんが、マトさんが、店長が、校長先生が、僕にしてくれたみたいに。
 僕は、優しいチャオになりたい。

「辛い事も、楽しい事も、一緒にやろう。僕たちみんなで、頑張って行こう。友達って、そういうものだと思うんだ」
「……生意気になったな、お前」

 鼻を鳴らして、彼は立ち上がった。
 去り際に彼の放った言葉を、僕は一生かかっても忘れられないだろう。
 うまく笑えているだろうか。
 笑えていないはずがない、と思った。

「エースー!」

 声が聞こえた。屋上まで届くほどの大きな声が。誰だろう。分かっているのに、僕は笑いながら思った。
 門からずかずかと入って来る人影に、僕は笑みを濃くする。

「お前の出番だ! 五木原をデートに誘いに行くぞ!!」

 これが僕の役回りなのか。
 苦笑いになっていないだろうか。なっているはずだ。なっているに違いない。
 約束だからね、仕方ないよ。
 金色の羽を広げて、僕は飛び立つ。たった1人の相棒の元に、走る。
 必要なときは呼んで。
 心の中だけでもいいから。
 僕は飛べることが出来るから。
 出来るだけ早く駆けつけるから。
 友達になろう。
 いや。
 そう思った時点で、もう既に友達なんだ。

「勝算はあるの、レイ?」
「全てはお前にかかってる! 頼んだ!」

 俯いて歩いていたあの日は、もう無い。
 だから、僕は笑顔で歩こうと思う。

 そうして、いつか帰って来る場所に、言うのだ。

「行って来ます」

 と。


 この物語は、僕のための、僕だけの、僕にしか出来ない――
引用なし
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Half and Half あとがき
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 2:29 -
  
チャピルさん、誕生日おめでとうございます!
誰かの誕生日に送るものが言葉以外ない、ならばいっそ小説を暇つぶし用にプレゼントしようということで始まった企画です。
お前の中でしか始まってねーよ、とツッコミを入れて置きましょう。自ボケ自ツッコミです。

ぶっちゃけノリとチャオラー集まった嬉しさで「書く」と言ってしまった以上は書かなきゃいかんなと思い、ネタの消化の意味でも、書くことにしたんですけどね。

そんなに長くしてもあれなので、ちょうど名作「チャオガーデン」の半分くらいの容量になっているかと思います。
推敲したので自信はないのですけど。

要約すると、この誕生日小説は、誰かの誕生日があるたび、
許可を得ず、
勝手に、
自己満足と分かっていながら、
投稿する暇つぶしのための小説です。暇があったら読んでください。

何はともあれ、チャピルさんお誕生日おめでとうございます。
今年も色々がんばってください(丸投げ)。
ああ不甲斐ない不甲斐ない。

以下、ネタバレを含みます。

《タイトルについて》
タイトルはとても悩みました。悩んだのですが、目標が「かっこいい僕だけのオンリータグを手に入れること」だったので、シリーズものとして作りやすいタイトルにしました。
ええ、今後もこの設定で書き進めて行くだろうとは思います。詳しくは下で。
half and halfには中途半端な、どっちつかずの、という意味があります。他にもhalfという単語とは色々絡めているので、気が向いた方は小説の隅々まで見ると意外な発見があるかもしれません。
以下、タイトル一覧。右側邦題です。

Half and Half 1<alone and all>-独りぼっちの外側に
Half and Half 2<cry and delight>-喜びと悲しみを
Half and Half 3<try and result>-努力が実るとは限らない
Half and Half 4<dark and lamp>-暗闇とかすかな明かり
Half and Half 5<hope and despair>-向き合うこと、そむけること
Half and Half 6<winner and loser>-勝者と敗者
Half and Half 7<start and finish>-行って来ます

《ストーリーについて》
主人公覚醒シーンが必ず入る僕の小説@ろっど。
やっぱり挫折から立ち直るときの、あの興奮は忘れられません。倒れても立ち上がればそれは弱者じゃないのですよ。
1章は本当に思い通り書けたと思います。思い通り思い通り。
だいぶカットしている部分もあるのですが、たとえば主人公がアルバイトで失敗するところの話とか。今でも入れようかどうか迷うのですけども、話のテンポが悪くなるので丸ごとカットしました。
前作コードCHAOがとある人に「伏線分かりにくい」と言われたので、分かりやすい伏線に気を配ってみました。
チャオカラテを見ていて思うのですけど、まわしげりよりもふつうのキックの方が発生が早いので、うまく調整すれば発生勝ちのチャオが出来上がると思うんですよ。そんなことからコドモチャオ≧オトナチャオもありえるということを分かりやすくするために、6章のようなことになったんです。
もともとお話が陳腐になるので、ああいった戦闘シーンは削除する予定だったんですけどね。

それでも出来る限り捻くれていて、主人公にトラウマを植えつけて置きました。
あんまり酷い事するとちょっと僕の情緒が狂うので、ある程度ですが。
ハーフチャオ差別とか、ツヤチャオ差別とか、ジュエルチャオ差別とか実際はもっと根深いところにありそうなものなんですけど、ここではあえて「他と違う」という点を強調しました。

実はこの作品、結構前に書いた作品の完全書き換えバージョンだったりします。
コードCHAOのあとにすぐ投稿する予定だった奴ですね。
パソコンのリカバリと共に消滅してしまったのですが、無念。

《キャラクターについて》
僕の好きなキャラクターはいません
それぐらい僕の趣味を度外視して設定を練りました。文豪であるチャピルさんも言っておられましたが、キャラクターの性格というのは他のキャラクターとの関連性だったり、そういった環境要因が主になると思うのです。
なので、似たり寄ったりな部分が結構あります。
登場していないキャラクターの設定も練っているので、機会があったらそういうキャラクターも登場させたいです。長いシリーズになるだろうことは明白なので。
……僕のモチベーションが続けばですがね!

それでは、これにて失礼いたします。
感想などありましたらここに返信する形でお願いします。
最後になりますが、

チャピルさん、誕生日おめでとうございます!
引用なし
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感想は午後2時2分に送ります
 チャピル WEB  - 10/2/2(火) 14:02 -
  
えーっと……どこから手をつければいいんでしょうか。とりあえず、誕生日おめでたいです。ありがとうございます。
一通り読ませていただいて、まず、第一に思ったのは、「チャオガーデン」が良くも悪くも影響を与えてしまったのかなあ、と言うところでした。
引き取り活動はもちろんですが、内面の葛藤をひたすらに書き続ける主人公像とか。
その上に、いつものろっどさんの話の作り方や、表現の形なんかが重なって、なかなかの作品に仕上がっていたと思います。
個人的に好きなのは第2章です。

内面をたくさん書く作風だと、作家の考えていることが強く出てくる物なのでしょうか?
主人公の、憂鬱そうな感じとか、勉強の捉えかたとか、なにげにモテているところなんかに、その影響を見て取りました。
それにしても、3〜4章にかけてのトラウマ描写は、すこしやり過ぎかなーとも感じたのですけども……あれがないと、前半部がだれるのも事実ですね。まさしくチャオガーデンの失敗ですね。はい。

最初の方は、いじめっこと可愛い女の子という、水戸黄門的な王道キャラ描写だなあと思って見ていましたが、あとの方になってくるに従って、そういうキャラたちにもきちんとした背景や、情緒があるんだなあということに気付いて……
ベタなプロットでありながら、うまいぐあいに感情移入させる形になっていたと思います。
ていうか、普通に燃え入りました。入らされました。なんか、すごい敗北感。

ろっど先生の次回作が出るのは……3月19日かな。それがしさんの誕生日ですね。
そして4月!5月!6月!7月!10月!12月!と、一年にこのボリュームを7本も!これはすごい。
自分も聖誕祭に向けて頑張りますので、ろっどさんも頑張ってください。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10.6; ja-JP; rv:1.9.2) Gecko/2010011...@ntttri018214.ttri.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp>

お誕生日おめでとうございます
 ろっど WEB  - 10/2/2(火) 14:32 -
  
>チャオガーデンパクリ疑惑
むしろ意識して書いた節があります。
あまり大々的に言うと先が読まれてしまう気がするのでこっそりと言いますが、誕生日の人の作品の作風を真似てみる、という試験的なものです。今回はちょうどチャピルさんの誕生日が一番近かったので思いつきました。
例えば内面の葛藤だったり、例えば飼い主とチャオの関係性、世界観、そういったものですね。世界観はこれから色々な方の誕生日がありますから、それらを統一して行かなければならないので、あえて風呂敷を広げないので置きました。
……なんか誕生日おめでとうヨイショで感想強制的な雰囲気になってましたね。すいません。


>内面
そうですね、僕の意見が半々くらいだと思います。
細かいところが僕と若干違っていたりしますが、おおまかな枠組みは大差ないでしょう。
モテてるっていうのは、違うと思いますけどね! けどね!
あと2章は一番チャオガーデンと違うところだと思います。元々ああいうノリを終始続ける予定だったんですけれども。

>前半部
もう少し物語の起伏を連続させようかな、とも考えました。
やりすぎると今後の世界観統一が次第に面倒なことになって行くので止めました。

>水戸黄門
構図を分かりやすくしました。コードCHAOが分かりづらかったので。

>燃え燃え
デフォルトです。標準装備です。搭載済みです。

>7本
……え?
え?
そんなにあるんですか。やばい。3月19日にあるとは思いませんでした。というかほぼ1ヶ月毎じゃないですか。やばいやばい。
今度正確な誕生日リスト下さいね(笑)

ではでは、感想ありがとうございましたー
22歳の誕生日おめでとうございます!
引用なし
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じぃざむの8月もいれてやってください
 じぃざむらい WEB  - 10/2/2(火) 19:44 -
  
感想です。はい。
こんな馬鹿がイケメンろっきゅんの作品に感想書いていいのかと思いましたが、じぃざむらいは後先考えないので気にしないでね!


>そんなに長くしてもあれなので、ちょうど名作「チャオガーデン」の半分くらいの容量になっているかと思います。
じぃざむの迷作「チャオの日記」の数十倍くらいの容量になってると思います。はい。

>要約すると、この誕生日小説は、誰かの誕生日があるたび、
>許可を得ず、
>勝手に、
>自己満足と分かっていながら、
>投稿する暇つぶしのための小説です。暇があったら読んでください。
じぃざむの誕生日である8月19日にも書いてくれえええ

>何はともあれ、チャピルさんお誕生日おめでとうございます。
本当に、ねぇ。
チャピルさん、お誕生日 おめでとうございます!
口で言うのは簡単ですが、その気持ちをうまく表すのもむずかしいです。
本文と、後書きを読んでそう思いました。

以下、ネタバレを含みます。


>パソコンのリカバリと共に消滅してしまったのですが、無念。
なんか親近感覚えるぜ。

なんか、主人公のエース君(君でいいよね?)の【エース】という名前が何かこめられてそうで気になります。
でも、じぃざむらいの低脳な脳には分かりませんでした。あぼーん。

なんかね、戦闘の後キザなセリフも言えなかったエース君が屋上であんなセリフ言うとは思ってもおりませんでした。
感動しました。全米が泣いた。
引用なし
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感想です。
   - 10/2/3(水) 2:14 -
  
Half and Half、拝読させて頂きました。読み応えある作品で、非常に楽しめました。
ろっどさんの作品と言うとSFやファンタジーの印象がありますが、「チャオのいるリアル」を描き切った今作は新鮮な気持ちで楽しめたとともに、主人公覚醒シーンへ向かっていく展開にメリハリがあり、非常にろっどさんらしいと感じました。

理不尽に対する怒りや悲しみに苛まれる様、決意の逃避の末に得た居場所すらも奪われようとする様……。
のそれらの描写が息苦しくなるほどに鮮明に描かれていたから、エース覚醒の際の盛り上がりはこれでもかと言うほど伝わりました。
静があるから動があり、ツンがあるからデレがある。昔、同じこと書いた気がしますが気にしない。

読み終わり、チャピルさんの感想へのろっどさんの返信を読んで「あぁ、やっぱりな」と、にやりとしました。似てると思いましたよ「チャオガーデン」に。
その人の誕生日に、その人の作風を真似た小説を贈るとか、もうね……かっこよすぎるだろ……。才能あるイケメンに嫉妬。

さて、そんなこんなで素晴らしい作品だったと思いますが、ハートの実があんな風に使われるとは予想だにしなかったづらぜよ。
王道的ヒロインピンチの展開に、オラ、わくわく……どきどきしたぞ!

と、いうわけで。こんな感じの駄文で感想とさせて頂きたいと思います。ろっど先生の次回作に期待してます!
そして、もう一日過ぎてしまいましたが、チャピルさんお誕生日おめでとうございますっ!
引用なし
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8月もいらっしゃるとは。
 ろっど WEB  - 10/2/3(水) 12:15 -
  
>イケメンろっきゅん
イケメンじゃないです><


>8月19日
8月はちょうど忙しいので出来るかわかりませんが、がんばってみます。

>誕生日
僕みたいに小説書くと気持ちが伝わると思うよ!


>リカバリ親近感
悲しいどころじゃないですよね。
ぶち切れますよね!

>エース
今後の展開に期待と言う事で、いいですか……?

>屋上
決め台詞のようなものです。
消極的、受動的なエース君が、自分から動く積極性を完全に習得した瞬間ですね。

ではでは、感想ありがとうございますー。
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お返事です
 ろっど WEB  - 10/2/3(水) 12:26 -
  
>主人公覚醒シーン
僕なりにこの覚醒シーンというのは様々なこだわりがあって、非常にチカラを入れたい部分でもあるのです。
やっぱり鬱々とした展開から悩みとかを振り切って勝利、っていう展開が大好きなのです。

>ツンデレ
下げて上げる、上げて落とす。非常に燃える展開です。
盛り上がりが伝わったのならとても嬉しいです。がんばった甲斐がありました。
自分で読んでると伝わっているのか伝わっていないのか、分からないんですよねー……(泣)

>才能あるイケメン
チャピルさんのことですね、分かります。
宏さんのお誕生日が公開されれば作品パクリますよ! 『わたあめ』とか!

>ハートの実
ハートの実の説明文、地味に(自主規制)だと思いませんか?


ではー、感想ありがとうございますー。
やっぱり尊敬する作家の方から感想をいただけると嬉しいですよね(よいしょよいしょ)
引用なし
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