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その母親が近づいてくると、彼女は、
子供に諭すかのように言う。
「ダメよ。羽が折れてるじゃない。」
でも、子供は言った。
「だって可愛いもん!飛べなくても良いもん!買って!!」
「うーん…。…店員さん、何円ですか?」
『3万円です。』
「…?あら、安い。じゃ、買ってあげようかな。」
「ホント?やったあ!」
俺が目の前でそれを見ているうちに、
その白いチャオはあっという間に引き取られていった。
店員は笑う。「あぁ、余計なのが消えた。」
母親も笑う。「良かった7割引で。」
娘だけは大喜びでチャオを見る。
いつの間にか涙を流していた。
俺のやろうとしていたことは結局あの大人達程度の事なんだ。
軽いことなんだ。
チャオのこと何てちっとも考えていなかったんだ。
バカだ。
俺はあのチャオから何も学んでいなかったんだ…。
…俺は涙を拭くと、予定通りの品を買って、家を出た。
帰り道。
昔、段ボールにチャオを入れ、置いた道。
俺は複雑な心境でそこを歩いていた。
罪とは結局、困難で踏み込めない領域にあった。
結局、あのチャオに対する罪を何らかの方法で償っても、
彼は戻ってこないし、許しはしないだろう。
…あのチャオは求めていたのだ。
最後の最後まで、俺が最初の時のように、
笑って、笑って頭を撫でてくれることを願っていたのだ。
何万円払って、障害のチャオを助けることでもなく、
今、目の見えない彼女と婚約することに謝罪の意を込めることでもなく、
ただ、ひたすらに、何かに愛されていることを願っていただけなのだ。
…気付いてしまった。
もう、あのチャオに謝罪をすることはできないと。
罪を償うことは、できないということを…。
でも、逆に気付いたことがあったのだ。
俺は決して、今の彼女を罪悪感から好きになったわけではないことを。
こんなにも罪を償うことの不可能を悟ったにもかかわらず、
俺はやっぱり、彼女を好きでいてあげられるのだ。
…こうやっておっきな柔らかいクッションを持って、
歩いている俺が居るのだから。
俺は結局15年前にここでバッドエンドを与えたチャオから、
ハッピーエンドへとつながるものを与えられてしまったのである。
…ゴメンな。でも、もうお別れだ。
ありがとう、チャオ。
もうすぐ忘れるだろうけど、絶対忘れないからな。
俺は道を抜け、いつもの小道へとはいる。
もうすぐ、マンションにつく。
俺は彼女を待たしているだろうナァと言うことに気付き、
少し駆け足で、マンションに駆けていった。
それは口笛に反応してすぐに駆けた、
あのときのチャオのように…。 fin
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