●週刊チャオ サークル掲示板
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おやすみ、君が泣かないうちに。 08/12/30(火) 4:21

blindness chao life 09/1/2(金) 1:46
blindness chao life 09/1/2(金) 3:18
後書き。(感想は上の後書きに。) 09/1/2(金) 3:23

blindness chao life
   - 09/1/2(金) 1:46 -
  
きよしこの夜が、また、どこかから聞こえてきた。
クリスマスという日を過ごすのはこれで25回目になる。


―どういう想い出があっただろう?


―どういう辛い日々があっただろう?


今となってはもう昔の話で、ほとんど何も覚えてはいないけど、
何か楽しい夢を毎年見ていたような気がしていた。


俺は今年、結婚することにしている。
相手の親も、俺の親も、賛成してくれた。
…ただ、俺の婚約者は俺の親の顔を知らない。
「声」は知っている。「顔」は、知らない。


彼女は俺の今の顔さえも、知らない。何も、見えない。


こんなに綺麗な顔をしているのに、彼女は自分を見れない。
頑張って整えている俺の髪型も、彼女は知らない。
彼女は俺の声だけをしている。
声という名前の世界の中で、生きている。
俺にはとても想像できるような世界ではなかった。
想像できて、本当に満足がいく、納得のいく世界かさえ知らなかった。


でも、俺には一つだけ分かっていることがある。
彼女を俺が裏切ったら、彼女は俺の姿を見なくとも、
その空気だけで絶望感に陥ってしまうこと。


二人がまだ小さいとき、俺と彼女はお互いを見ていた。
「結婚しよう」なんて約束して、
やっとそれが本当の夢になると思ったとき、
彼女は既に6年前、突然の病気で光を失っていた。


でも、3年前、彼女は笑って俺の声を、俺の事を思い出してくれた。
そして、こうやってつき合っているのだ。
そんなかすかな幼いときの想い出を覚えている人が、
俺のささいな裏切りなんてすぐに分かると言うことは、
明白かもしれない。


俺は事業が成功し、マンションの一角に引っ越して、
彼女も呼んで二人で暮らしていた。
今日はクリスマス。
彼女はソファーに座ってそわそわと俺の方を向いていた。
さすがに目と目を合わせられはしないが、
俺という存在がどの方向にいるかは「二耳」瞭然だった。


「ねぇ、今年は何くれるの…?」
「…んー、何あげよう?」
「何かちょうだい!」
「…なら、クッションとか?」「あ、それ良い!柔らかくて大きいの!」
「わかった。じゃ、それ買ってくるわ。」
「はーい。」


俺は丈の長いコートを着て外へと出た。
たった今、オーダーが入った。
クッションを買ってこい。でかくて、柔らかいヤツを。
俺はガキっぽいなと、ちょっと思ったが、
それが彼女なんだと思うと少し可笑しくなった。
彼女バカなのかな?
どうなんだろうな。


…。…もしかしたら、
心のどこかで“罪の償い”が有るのかも、しれない、な…。


…。


…ちょうど15年前。


ガキの頃の俺は、この場所を別の物を買おうと疾走していた。
その商品名は、「チャオ」といった。
黄色と白と水色のタマゴがペットショップで10万円で売っている。


「転生もするし、その値段は見ため以上に高くはないんだ。」


そう家族を説得して、
クリスマスの夜、発売が開始されたチャオをあわてて買いに行っていた。
そして結局、超長い行列に並んだ末、俺は一つのタマゴを手に入れた。


俺はそれをマニュアル通りに優しく孵した。
パカンと割れて生まれて出てきたのは、やはり普通のチャオで、
なんの変哲もないチャオであった。…「その時」は。
…それでも俺はやはり何も気付かずに、嬉々と名前を付けた。
「ダブル」だったような気がする。


その当時はチャオレースが熱狂的に受け入れられていた。
主役はいつでも子供だった。


どこかの小学生が、レースで優勝していた。
どこかの幼稚園児が、驚くような強いチャオを持っていた。
どこかのお姉さんが、可愛いチャオの服のデザインをしていた。
どこかのお兄さんが、最強のチャオや透明のチャオを作っていた。
どこかの…。


…そう、俺は憧れていた。


俺が買った理由は、チャオが可愛いとか、そう言う理由じゃなくて、
単に、名声と賞賛の声を聞きたかっただけなのだった。
友達から、先生から、ちょっぴり好きだった女の子から、
凄いとか、格好いいとか、そんな言葉を手に入れたかったのだ。


でも、それが上手くいくことはなかった。


「失明ですね。レースは諦めましょう」


………は?


俺の一番最初の反応はそんな感じだった。
何かが変だと思い始めてきたのは、買ってから3ヶ月後の時。
いつまでたっても俺の居る場所に来ない。
口笛を吹いても、ハートを出して走ろうとするが、
どこか変な方向に駆けていき、壁にぶつかり、泣き出す。
そう、それは、まるで俺が見えていないかのように。


でも、医者の言葉を聞いた瞬間、それは「まるで」でなく「本当に」だった。
そして、次の言葉が一番辛かった。


「レースは諦めましょう」


…。その日から、俺のチャオに対する反応は変わった。
俺はまるで動くサンドバックかのようにチャオを何度も蹴りつけ、
壁にたたきつけた。
チャオは泣こうとするが、それだと母親にばれるので、
泣くなと思い切り口を塞いで、そして、殴った。殴った。殴った。


「糞チャオめ!死んでしまえ!」


そんなことも、言ったような気がする。
ひどい話。
自分の都合の悪いことが見つかった瞬間、それをすぐに裏切る。
子供が残酷と言われる所以は、そこにあるのかもしれない。


そうして、最後には…捨てた。


さすがに心配したので、段ボール箱に入れて、人気の多い道においていったが…
でも、あのチャオは目が見えない。
多分、段ボールから出て、どこか飛ぼうとして、そして、ぶつかり、
川に落ちて溺れて、そして、おそらくは…。


…。


俺はそれ以来そのチャオと会っていない。
今は多分死んでいるだろう。人の愛を受けられなかったために。


流行は怖い。
もしも、チャオレースなんて、競う物がなければ、
俺はあんなにもチャオをいじめたりはしないだろうし、
そもそも買わなかったのかもしれない。


でも、…それでも、俺がやったことは罪なのだ。
何かのハンディを自分の都合に合わないと拒否したという、重い罪だ。
そして、今も俺はあのチャオのことを、後悔、している。


ガーッと自動ドアが開き、
一面クリスマス一色のデパートのにぎやかさが俺を受け入れる。
ふと左の方向を見ると、チャオのコーナーがあった。


そして、そのはじっこに、白い小さなチャオが居た。


俺はどうしたんですか?と店員に聞く。
彼によると、羽が折れているからと男から返品交換を要求されたという。
男はレースに役に立たないからと、投げ捨てるようにこのチャオを連れてきた。
と言うことだ。
普通ならひどい話になるところだが、俺は思わずシンパシーを感じていた。
そうだ、そういう気持ちだ、と心で強く感じた。


…昔の俺の買ったチャオの姿が思い浮かんだ。


…俺はこのチャオを買わなきゃいけないのか…?


償いのために。そして、言い訳のために…。


俺はそのチャオに手を伸ばそうとした…瞬間。
「ねぇママ!あのチャオが欲しい!!」と、
1人の少女がたたたたっと俺の見ていたチャオの所に近づいてきた。
引用なし
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blindness chao life
   - 09/1/2(金) 3:18 -
  
その母親が近づいてくると、彼女は、
子供に諭すかのように言う。


「ダメよ。羽が折れてるじゃない。」


でも、子供は言った。


「だって可愛いもん!飛べなくても良いもん!買って!!」


「うーん…。…店員さん、何円ですか?」
『3万円です。』
「…?あら、安い。じゃ、買ってあげようかな。」
「ホント?やったあ!」


俺が目の前でそれを見ているうちに、
その白いチャオはあっという間に引き取られていった。
店員は笑う。「あぁ、余計なのが消えた。」
母親も笑う。「良かった7割引で。」
娘だけは大喜びでチャオを見る。


いつの間にか涙を流していた。
俺のやろうとしていたことは結局あの大人達程度の事なんだ。
軽いことなんだ。
チャオのこと何てちっとも考えていなかったんだ。
バカだ。
俺はあのチャオから何も学んでいなかったんだ…。


…俺は涙を拭くと、予定通りの品を買って、家を出た。


帰り道。
昔、段ボールにチャオを入れ、置いた道。
俺は複雑な心境でそこを歩いていた。


罪とは結局、困難で踏み込めない領域にあった。


結局、あのチャオに対する罪を何らかの方法で償っても、
彼は戻ってこないし、許しはしないだろう。
…あのチャオは求めていたのだ。
最後の最後まで、俺が最初の時のように、
笑って、笑って頭を撫でてくれることを願っていたのだ。
何万円払って、障害のチャオを助けることでもなく、
今、目の見えない彼女と婚約することに謝罪の意を込めることでもなく、


ただ、ひたすらに、何かに愛されていることを願っていただけなのだ。


…気付いてしまった。
もう、あのチャオに謝罪をすることはできないと。
罪を償うことは、できないということを…。


でも、逆に気付いたことがあったのだ。


俺は決して、今の彼女を罪悪感から好きになったわけではないことを。


こんなにも罪を償うことの不可能を悟ったにもかかわらず、
俺はやっぱり、彼女を好きでいてあげられるのだ。
…こうやっておっきな柔らかいクッションを持って、
歩いている俺が居るのだから。
俺は結局15年前にここでバッドエンドを与えたチャオから、
ハッピーエンドへとつながるものを与えられてしまったのである。


…ゴメンな。でも、もうお別れだ。


ありがとう、チャオ。


もうすぐ忘れるだろうけど、絶対忘れないからな。


俺は道を抜け、いつもの小道へとはいる。
もうすぐ、マンションにつく。
俺は彼女を待たしているだろうナァと言うことに気付き、
少し駆け足で、マンションに駆けていった。


それは口笛に反応してすぐに駆けた、
あのときのチャオのように…。       fin
引用なし
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後書き。(感想は上の後書きに。)
   - 09/1/2(金) 3:23 -
  
チャオを出してみた。
深いねぇ。自分で書いた小説にいうのも何だけど。


ずっと古い小説の話をリメイクしようと思っていたんですが、
あまりにクソだったので、タイトルと主題だけ残して、
後は全部書き換えてしまいました。


どうでしょう?皆さんは罪を償うとはなんだと思いますか?


この話でのチャオは結局何を求めていたんでしょう?


どうして、この話で男は少女のチャオを買うシーンで泣いたんでしょう?


最後に、バッドエンドにした物が、
ハッピーエンドをくれるとはどういう事でしょう?


国語の問題のようですが、考えてみてください。ではっ。
引用なし
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