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☆★☆週刊チャオ第339号【隔週刊化中】☆★☆ チャピル 08/9/20(土) 0:00

☆★☆読みきり作品☆★☆ チャピル 08/9/20(土) 0:00
サテライト=ムード 08/9/28(日) 23:22
サテライト=ムード 08/10/4(土) 12:51

☆★☆読みきり作品☆★☆
 チャピル  - 08/9/20(土) 0:00 -
  
一回限りのお話、詩、短歌、歌などの投稿はこちらへどうぞ。
詳しくは、週刊チャオ表紙の「作者の方へのお願い」を、ご覧下さい。
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サテライト=ムード
   - 08/9/28(日) 23:22 -
  
電車の中で俺は固まっていた。

固まっていた…というより、
彼女が俺の開いた足のスペースにすっぽりと身体を入れ込んで、
ナントカのファッション雑誌を開いていたのだった。

相手にしてみれば暖かい椅子なのだろうし、
こっちからすれば暖かいクッションのようなモノだった。
(口には出せないが、少々暑苦しいけれど。)

彼女をこうしていても特に何も思わない。
それは全部には当てはまらないかも知れないけれど、俺の場合は、
彼女から訳の分からなくなるくらいメッチャ良いにおいがしてきて、
そんな暑苦しさが全然気にならないのだ。
(シャンプー?トリートメント?)

10月に入りそうな季節。
去年の今頃、つまりは失恋時にくっついた。
一周年…って事になるのだろうか?
結局、男のサガの一環で恋人記念日は忘れたけれど…。
…もしかしたら、他愛もない告白だったので、
相手もすっかり忘れているのかも知れない。そうでありたい。

「よっさーん。」
「はい?」
「恋人記念日、今日って知ってた?」
「…(いきなりかい!!)」
「…。クレープ一枚で許したげる。」「はい…。」

頭の中でむやみに色々想像しない方が良い。
最近だと家の中を想像して、
部屋に誰かがいたらそこに幽霊が…とかは聞いた。
だから、こういう心配事も、考えないのが良策なんだろう。

でもまぁ、ばれたことは仕方ないか…。

俺はケータイのメールが来ないので、
来た素振りでぱかっと開けてみる。
誰も来てないので待ち受けをしばらくぼーっと見て、しまった。

「それって癖?」

彼女が俺に話しかけてくる。
雑誌には「冬到来!〜」と書かれて、最新のファッションが並ぶ。
聞いたこともないブランドばかりだ。
まぁ、最近まで「リズリサ」を服の種類(キャミとか…)と考えていた俺だから、
こういうのはめっぽう分からない…と結論づければいいだろう。
(ちなみにリズリサはブランド名だとか。)

「そう、ケータイってたまに開かないと落ちつかなくね?」
「んー。まー…分かる気はするけど。」
「あー、あと待ち受け変えた。」
「えーっ!?あの待ち受け消しちゃったん?」
「デザインはわれながらに良いと思ったけど…なんかなぁ」
「うそぉ、アレ、ウチが貰おうと思ってのに。」
「悪い悪い、また良い奴作るからそれまで待て!」

俺はVサインを彼女に送る。
待ち受けのデザインを作り始めて2年が経つ。
こいつよりも長いつきあいだ。
始めた経緯は良く覚えていない。
ただ、いつの間にかはまっていた。
これをしていたから彼女に会えたとか、そう言うわけでもない。

彼女は相変わらず雑誌を読んでいる。
所々折り目が付いている。
お小遣いを貯めたら買うらしい。
彼女の誕生日は8月23日。
残念ながら俺の誕プレ支援は当てに出来ないと言うわけだ。

大学一年生。
まだまだガキなんだけど、もう大人。
つきあい始めたときは青かったけど、今はもう大人。

そういえば、18歳で初めての彼女って珍しい。

周りからは遅いとか言われそうだったから、「二人目」と強がっていた。
でも彼女だけには「初めてなんだよ」と言ってみた。
「私も…」と言ったときは、
多分大学の合格掲示板に自分の名前があったときより、嬉しかった。
むしろ、ほっとしたのかも知れない。

かたんかたんと電車が揺れる。

相変わらず俺の足を開いた状態が続く。
そこにすっぽりと、彼女がもたれるようにして入ってきている。
端から見れば、何とも面白い姿。
でもこれで良いんだ。これでお互い暖かいなら。

「待ち受けさー。」
「ん?」
「新しいの早くつくってね。友達に自慢するの。」
「あぁ、近日中にな。」
「…早く。」
「分かったよ、あさってまでな。」

詳しい日時を言わないとOkを出してくれない。
いつものことなので、
まぁ、急いでやろうと意気込みながら、
さっと通り過ぎていく景色を見つめていた。

(続く)
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サテライト=ムード
   - 08/10/4(土) 12:51 -
  
電車がビルとビルの間を通り抜けていく。

電車の中では静かにしろと言うのに、
外からの電車の通る音はやけに大きくて、うるさい。

こういうジレンマは、誰しも持っている。

次の駅に到着した。
何度も駅の名前を告げる看板が窓を通過していく。
死んだ魚みたいな人間がどこかを見ている。
(電車を見ているんだろうけど、いまいち焦点が定まってない)

彼らもまた、友達とか恋人と一緒ならうるさいんだろう。
今俺かって1人ならあんな感じだ。
…こっそり、彼女に見られていたら、どう思うだろうか?

携帯の待ち受けは昨日までに新しく作っておいた。
でもいまいち見せる自信がない。
近日中とは言っているものの、それは「嘘も方便」。
もう出来ているし、これ以上新しいことは思いつきもしない。

最初の彼女への呼び方は「谷中さん」だった。
親しくなると「やなちゃん」とかそんな感じで、
恋人になると「あーちゃん(下の名前から取ってきた)」。

ぶっちゃけ、本当の名前で呼んだことはない。

別に恥ずかしいわけでもないし、たまに本当の名前を口走りもする。
でも、「あえて」そう呼んだ事はない。
呼びやすさってモノもある。
どんなに親しくても、ずっと名字から作ったあだ名で呼ばれる奴もいる。

最近、彼女の俺に対する呼び方が変わってきている。
昔から俺は名字でずっと呼ばれ続けた。
どんなに親しくとも、俺は名字の方が呼ばれやすかった。

こいつかって、最初はそんな感じだった。
でも、いつの間にか無理矢理に俺の名前を改造して、
発音しにくい呼び方をしている。

「よっさん?」「何?」

ほら、また呼んだ。

「待ち受け、もう出来ているんだったら途中の奴見せてよ。」
「あれ…何で分かったの?」
「だって、口に出てるって…。」
「…あらまぁ…。」

少し溜めて、おばはん口調でそう返す。
実際そう言う言い方が一番理にかなっていた。
たまに、独り言をする癖がある。
口に出てしまって、怒られたことも何度かは、ある。

「…あさってまで待てよ。途中は途中なんだし。」
「ダメ、見せて。」
「あさってにはどうせ見るだろ?」
「みっせってっ!」

俺が彼女の手をかわそうと手を振り上げると、
ちょうど電車のドアのバーに激突した。
視線が、一瞬だけ、こっちの方に向いてくる。
でもすぐに各々のケータイや雑誌や人間に目が向く。

「…ちょっとだけな。」
「いえい。」

俺は渋々それを差し出す。
iモードのインターネットにエロいサイトが登録されているが、
それが見られることをいつも心配していたりする。

友達曰く、彼女がいる方がエロいサイトを見たくなるらしい。
実際、間違ってはいないと思う。
ただ、たまに彼女が勝手にケータイを見ていることを考えると、
怖くて早々登録や履歴は残したいとは、思えない。

でも、こいつは単純だから、すぐに画像を見た。
新しく作った待ち受けを順々に見ていく。
まるで雑誌の服に色々言うみたいに彼女が口を開いていく。
3秒で思いついた奴を「あ、これ良い」って、
一番苦労したのを「あー、微妙ー」なんて。

「これ全部完成させるの?」
「いや、ボツはどんどん消していって3つくらい最後まで残す。」
「いまんところの候補は?」
「えっと、…これとこれとこれ。」
「えー?マジで?うちはこれが一番良いって思ったのにー。」
「…それ構想3秒、制作10分。」

「…へぇぇ。でも、時間は短いけど、これが一番好き。」

何故かは知らなかったけど、
その言葉を聞いて少しほっとした。

(また続く)
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