●週刊チャオ サークル掲示板
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1517 / 4005 ←次へ | 前へ→

第7.5章:人の理由とチャオの理由
 ホップスター  - 21/2/20(土) 0:03 -
  
クロスバード・ブリッジ。
魔女艦隊に曳航され、フレミエールへ移動中である。
そのブリッジでは、艦長であるカンナが1人、システムチェックをしていた。他のクルー、それにアンヌは別室で作業中か、休憩中である。

【オリト】「…失礼します」
そこにオリトが入ってくる。
【カンナ】「お、来た来た。いらっしゃい」
【オリト】「で、用事というのは…?」
オリトが尋ねる。他でもない、カンナがオリトを「用がある」とブリッジに呼び出したのだ。

【カンナ】「…ちょっと、話が聞きたかったのよ。オリト君について」
【オリト】「俺について、ですか?」
オリトが首を傾げる。
【カンナ】「ええ。そういえばオリト君のことよく知らないな、って思ってね。どうせしばらく一緒に行動するんだしさ」
そう言いカンナは、仮想キーボードの操作を止め、椅子を回してオリトの方を向いた。


        【第7.5章 人の理由とチャオの理由】


【カンナ】「まずこれはだけは聞いておきたかったんだけど…オリト君は、どうしてここにいるのかしら?」
【オリト】「え?」
突然の質問に対して、オリトは戸惑い、こう答える。
【オリト】「それは、入学式の日に迷い込んで、気が付いたらクロスバードに…」
そこまで言ったところで、カンナが慌てて訂正する。『それ』は、カンナも既に大まかにではあるが聞いている。
【カンナ】「あーごめんめん、違う違う。どうして士官学校に入ろうって思ったのか、ってことよ」
【オリト】「あ、そういうことですね」

それを聞いたオリトは、こう答えた。
【オリト】「俺みたいなスラム育ちには、勉強ができても士官学校ぐらいしか選択肢がないですし…今の時代、いい学校はそれに見合ったいいお金を払わないと入れないんですよ」
【カンナ】「確かにね…」
カンナはそれを頷きながら聞いていた。

そこで、今度はオリトがこう返す。
【オリト】「艦長さんは、どうしてですか?」
【カンナ】「えっ!?」
予想していなかった『逆質問』に、思わず聞き返すカンナ。
【オリト】「あ、えっと…艦長さんのご実家は政治家一家ですよね?士官学校じゃなくて普通の学校でそういうことを勉強するっていう選択肢もあったんじゃないのかな、って…」
そうオリトが説明する。確かにカンナの父親は同盟では有力な国民議会議員であり、他の家族もほぼ全員が政治家であることで有名である。カンナも当然、将来はそういう道に進むのだろうと、少なくとも周囲は思っている。
【カンナ】「あー、それね」

カンナはそれを聞き、こうつぶやいた。
【カンナ】「そうね…確かにそうする選択肢もあったかも知れないわね…」

そして、少し考えて、こう説明した。
【カンナ】「小さい頃から、つまらない大人の都合で国ごと振り回されるのを散々見てきたから…ならいっそ、自分の手でこの戦争を終わらせてみたい、って思っちゃったのよ」
【オリト】「なるほど…」
【カンナ】「ま、つまりはただの反抗期ってやつかしらね。家族みたいに政治の力じゃなくて、自分は実力でみんなの役に立ちたいって。…結局、血は争えそうにないけどね」
そう言い、カンナは苦笑いした。


それからしばらく、カンナとオリトはブリッジから、何もない外の景色を眺めていた。超光速航行中なので、外は星空もなくただ漆黒が広がるのみである。

そして、ふとオリトが思い出したようにこうつぶやいた。
【オリト】「あ、そうだ。もう1つ、ここにいる理由があるんです」
【カンナ】「何かしら?」
【オリト】「これは半分後付けなんですけど…士官学校に入るって決まった時に、すごくスラムのみんなから祝福してもらえて。そんなみんなの希望になれたら、って思うんです」
【カンナ】「へぇ、素晴らしいじゃない!後付け結構よ!」
カンナがそう笑顔で返す。
【オリト】「いや、そんな大したものじゃ…」
【カンナ】「ううん、後付けでも何でも、そういう思いを持ってるのはいいことよ。結局自分のことしか考えてないあたしとは大違いよ」

カンナはそう言い、こう続けた。
【カンナ】「これからクロスバードがどうなるか分からないけど…将来もし何かあった時は遠慮なく頼ってくれていいわ。もちろん、あたしにできることには限りがあるし、そもそも誰かに頼られるほど人間出来てないけど…それでも、オリト君の助けになりたいから」
【オリト】「そ、そんな…ありがとうございます」
オリトは遠慮がちに一礼した。


【カンナ】「…あ、そうだ!もう1つ頼みたいことがあるんだけど…いいかしら?」
改めてカンナがそう尋ねる。
【オリト】「いいですけど…何でしょう?」
【カンナ】「ちょっと言いにくいんだけど…」
そこまで言って、カンナが少し口ごもるが、こう続けた。

【カンナ】「艦長室の掃除…頼めるかしら?」
【オリト】「艦長室…ですか?」
思わず聞き返すオリト。そう、クロスバードに迷い込んだ時に最初にカンナと話した、あの散らかった艦長室である。
【カンナ】「ええ…さすがにいい加減片付けようってずっと思ってたんだけど、こんな状況になっちゃったでしょ?…やるにやれなくなっちゃって…」
そう説明するカンナ。しかし、要するに面倒事の押しつけである。
【オリト】「わ、分かりました…」
オリトは安請け合いするんじゃなかった、と内心思いつつ、渋々承諾することにした。

引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

【Galactic Romantica】 ホップスター 20/12/23(水) 0:06
プロローグ:交差する運命 ホップスター 20/12/23(水) 0:06
第1章:この広い銀河の片隅で ホップスター 21/1/2(土) 0:06
第2章:果てのない世界の果てまで ホップスター 21/1/9(土) 0:07
第3章:伸ばした腕の先に見えるもの ホップスター 21/1/16(土) 0:05
第4章:はじまりと、その終わり ホップスター 21/1/23(土) 0:04
第5章:血の意味、魔女の目覚め ホップスター 21/1/30(土) 0:20
第6章:すれ違う光と想い、振り返った先 ホップスター 21/2/6(土) 0:07
第7章:巡り巡る思惑と甘い夢 ホップスター 21/2/13(土) 0:04
第7.5章:人の理由とチャオの理由 ホップスター 21/2/20(土) 0:03
第8章:ただ大気の底を眺めて ホップスター 21/2/27(土) 0:03
第9章:塵の中でもがくように ホップスター 21/3/6(土) 0:02
第10章:閃光の果ての咆哮は聞こえるか ホップスター 21/3/13(土) 0:05
第11章:思惑が渦巻く銀河の中へ ホップスター 21/3/20(土) 0:03
第12章:流転の渦を飲み込むように ホップスター 21/3/27(土) 0:44
第13章:その最中で何を思わざるか ホップスター 21/4/3(土) 0:03
第14章:迷路の果てに掴む未来で、瞳は灯る ホップスター 21/4/10(土) 0:04
第15章:小さな世界の果てで嘘と踊る ホップスター 21/4/17(土) 0:04
第16章:嘲笑い、交差して、そして瞬く ホップスター 21/4/24(土) 0:03
第17章:深淵の爪先で踊る人形達よ ホップスター 21/5/1(土) 0:06
第18章:その寓話のあっけない終焉 ホップスター 21/5/8(土) 0:04
第19章:意思はまだ、彼方にありて動かず ホップスター 21/5/15(土) 0:03
第20章:英雄への道程は道半ばにて ホップスター 21/5/22(土) 0:02
第21章:煌めきは決して届かぬ御伽噺 ホップスター 21/5/29(土) 0:03
第22章:8つの灯と、11の魂 ホップスター 21/6/5(土) 0:02
第23章:天秤にかけるは、ただ星一つ ホップスター 21/6/19(土) 0:05
第24章:希望を廻して、未来へと繋ぐために ホップスター 21/6/26(土) 0:01
第25章:氷の果てで嗤う世界の渦 ホップスター 21/7/3(土) 0:04
第26章:魔女の咆哮、星を穿つか否か ホップスター 21/7/10(土) 0:19
第27章:運命が巡る時、翼は広がる ホップスター 21/7/17(土) 0:01
第28章:悪戯の果ての一つの結末 ホップスター 21/7/24(土) 0:17
第29章:悲しみの果てでも時計は廻る ホップスター 21/7/31(土) 0:01
第30章:答えの無い世界、答えを求める銀河 ホップスター 21/8/7(土) 0:04
第31章:地獄への入口と明日への出口 ホップスター 21/8/14(土) 0:05
第32章:神の悪戯、悪魔の微笑、そして流星 ホップスター 21/8/21(土) 0:22
第33章:悪魔の玉座に坐るべき者は、ただ一人 ホップスター 21/8/28(土) 0:03
第34章:その熱の残滓、頬を伝わって ホップスター 21/9/4(土) 0:16
第35章:機械の魂はその腕に宿るのか ホップスター 21/9/11(土) 0:14
第36章:祈りと願いが交差し、天に還る ホップスター 21/9/18(土) 0:02
第36.5章:操る者、操られる道化 ホップスター 21/9/25(土) 0:05
第37章:新たな剣は彼方で微笑み、刃を向ける ホップスター 21/10/2(土) 0:03
第38章:墓前に祈るは未来か過去か ホップスター 21/10/9(土) 0:03
第38.5章:その瞳の奥に映るは、星々の光 ホップスター 21/10/16(土) 0:29
第39章:4つの星と1つの希望、それは鼓動 ホップスター 21/10/23(土) 0:28
第40章:魂は此処に、弾丸は彼方へ、運命は銀河へ ホップスター 21/10/30(土) 0:13
第41章:その行方を眺める者達に、私は ホップスター 21/11/13(土) 0:33
第42章:迫る終焉、その楽曲の奏手たち ホップスター 21/11/20(土) 0:19
第43章:その先に心はあるか、その後に涙はないか ホップスター 21/11/27(土) 0:07
第44章:霞んだ光の果てで彼女は何を見る ホップスター 21/12/4(土) 0:02
第45章:語らざる者が語る、一つの答え ホップスター 21/12/11(土) 0:04
第46章:この狭い銀河の中心を ホップスター 21/12/18(土) 0:01
エピローグ:笑え、少年少女と共に ホップスター 21/12/23(木) 0:00
あとがき:AfterWords ホップスター 21/12/23(木) 0:01

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1517 / 4005 ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
56284
(SS)C-BOARD v3.8 is Free