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「シオちゃん、遅すぎだよ」
疲れ果てて歩いている少年に、少女は笑いかける。
昼休み、クラスで鬼ごっこをしていた。
少年は鬼で、少女は逃げる側だった。
「僕が遅いんじゃなくて、アキラが速すぎるの」
「どっちでもいいけど、速くならないと一生鬼のままだよ」
「そんなあ」
少年はしょげた。
疲れ果てていて、言い返すことも突然に全力で走って少女を捕らえることもできない。
少女はそんな少年を笑った。
そしてその後に言った。
「じゃあ私がシオちゃんを速く走れるようにしてあげる!」
あの鬼ごっこが、全ての始まりだった。
「お前よう、陸上部入った方が絶対いいって。それか野球部かサッカー」
「きつい練習とか面倒で無理。そんじゃな」
俊足の帰宅部、滝田詩音。
彼は誰にも縛られず通学路を自由に走っていた。
「シオちゃん、明日大会だからビーム連れて応援に来てね」
「なんで行かなきゃいけなんだ。行ってやるけど」
「私、めちゃくちゃ速いから。応援、よろしっく」
なにもかも抜き去る天才少女、羽山晃。
彼女はより高みを目指して走り続けていた。
「シオちゃん今日もビームのお世話ありがとー」
「お前のためじゃない。ビームのためにやってるだけ」
「ツンデレお疲れでーす」
「俺がデレてるのはビームに対してだから」
「チャオ〜!」
「ビームはシオちゃんにデレデレだねえ」
二人に愛されているチャオ、ビーム。
チャオもまたレースという舞台で頂点を目指している。
WITH
「詩音、本当に部活入らなくていいの?」
「俺は学校の帰り道走ったり、チャオと追いかけっこしたりするのがいいんだよ。だから今のままが一番いいの」
「詩音のおかげでビーム君速くなったって晃ちゃん言ってたし、帰宅部も悪くないか」
「そう。むしろいい」
気楽に走る詩音。
少年との追いかけっこがビームをチャオレース選手として成長させていた。
そしてビームの飼い主の少女はある決断をする。
「シオちゃん、私陸上部やめる」
「は?」
「私、ウィズやりたい。チャオレースウィズヒューマン」
チャオレースを発展させて生まれた新競技。
走るのは、チャオと、人間。
それがチャオレースウィズヒューマン。通称ウィズ。
「だからシオちゃん、練習手伝って」
「はああ?」
二人と一匹に立ちはだかるのは、元陸上選手の男、立花。
「重要なのはフォームだ。約五キロのチャオを背負って走っても体に負荷がかからないこと。そして背中で休憩しているチャオがゆっくり休めること。その二つを実現する美しいフォームを会得することが勝利につながる」
ウィズ最大の特徴。
それはレース中盤、人間がチャオを背負って走るヒューマンコースだ。
チャオは人間の背で休息を取ってスタミナを回復することで、従来のチャオレースを超える長距離レースが展開される。
いかにチャオが休める安定した走りをしながら速く走るか。
それが勝負を左右する重要ポイントだ。
そして立花と組むのはチャオレース界のサラブレッド、ディーバ。
「ビームは走るスピードとスタミナだけならディーバに近いものがあるけど、飛行能力とパワーが全然足りてない。これまでのチャオレースと同じ感覚でいると、確実に負ける」
ショービジネスとしてのスポーツを意識されて設計されたウィズのコース。
人間とは全く別のレースを演出するために、チャオの小さな体に似合わないパワーや飛行能力を求めるコースになっていた。
大きな翼を持つヒコウチャオのディーバは華麗にコースを攻略していく。
人々を魅了する走りで衆目を集め、チャオレースを盛り上げる。
チャオレース界の希望の星だ。
「私がウィズをやりたいと思ったのは、一人で走るのに疲れたから。ううん、ずっと前から走るうちに一人になっちゃうのが嫌だった」
少女が夢見た舞台、ウィズ。
誰かと共に風を感じられるレース。
そのウィズを通じて二人の距離は変化していく。
「疲れるんだよ! お前といるとどんだけ疲れても全力疾走し続けなきゃいけない!」
「ごめん」
「ごめんじゃないんだよ!」
勝負から逃げてきた少年と、
孤独を感じていた少女と、
選手としてあまりにも未完成なチャオ。
少年と少女とチャオは走り続ける。
走り続けるしかない。
WITH
2018年公開予定
どこよりもラブラブな、チャオレース。
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