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免疫が欠けている。
だからずっと潜っていた。
免疫のいらない世界。
物語の世界はまるで海のよう。
陸地とは異なる呼吸で生きる世界。
ここでなら私はうまく呼吸ができる。
小説は、書けば書ける。
そうだったのに。
私は陸地の世界を見てしまった。
私の物語が少しも届いていない世界を直視してしまった。
それからだ。
書けば書けるはずだったものが、書けなくなったのは。
もう小説を書くことはできない。
陸地を見つめてしまったから。
もう海の中でも呼吸がうまくできなくなってしまった。
書けば書けたのに、もう書けない。
私はもう小説を書くことができない。
だから私は――
だから私は小説を書いている。
書けば書けたのに、もう書けないけど、書いている。
呼吸のやり方がわからないまま、物語を紡ぐ。
なんて息苦しいのだろう。
あれほど簡単だと思っていたのに。
ひたすらに苦しい。
だけど楽になる方法をこれ以外に知らないから苦しみながら息を吸う、息を吐く。
列は見えない。
どこに私の並ぶ列があるのだろう。
今度こそ私は列に並べるだろうか。
思い描いてみる。
おそらく無理だ、と思う。
なのに列を探している。
ずっと列の向こうに行けなかった。
並べる自信はない、無理だと思う、だけど列の向こうに行かなきゃと思う。
そこまで行けたらちゃんと息ができるようになるのだろう。
列はどこにも見当たらない。
うまく息ができない日々が続く。
いつまで苦しめばいいのだろう。
でも、まだ血は吐いていないみたいだ。
だからまだ、息をしていられる、たぶん。
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