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書けば書けたけど書けない スマッシュ 21/4/22(木) 20:49

日が沈めば空は赤く、沈まずとも赤いもの スマッシュ 21/4/22(木) 20:50

日が沈めば空は赤く、沈まずとも赤いもの
 スマッシュ  - 21/4/22(木) 20:50 -
  
文章を書くことが好き。
パソコンとキーボードでなくてもいい。
紙に書くこともよくある。
たまには原稿用紙を使ってみる。

文章を書くことが好き。
寝る前に思い付いたワンフレーズを、きっと目をつぶったら忘れてしまうから、デスクライトをつけてシャープペンを手に取りノートに書きこむ。

シャープペンから押し出される細い芯は注射針に似ている。
小さな明かりに照らされて黒鉛の先端は滴っているようだった。

物語はワクチンだろうか。
人は架空の物語にも心を動かされる。
物語は血液を巡り、喜んだり悲しんだりして心は潤い、興奮は翼に変わって明日へ向かう。

その感覚が好きで、好きなあまりその好きな気持ちの行方に困って、いつの間にか物語を書き始めていた。

これって劇薬の副作用なのかも。
だとしたらこの薬、副作用の方が強いじゃんって思う。

いつか好きだった物語はもうその効き目を失って今日と明日の元気にはなっていないのに、生まれてしまった衝動はいつだって力強い欲求として根付いている。

文章を書くことが好き。
たまに……本当にたまに、自分はこの世界ではなく物語の世界に生きているのではないかって思う時がある。

それはすごく嬉しい錯覚で、ずっとその錯覚の中にいたくなる。

だってこの世界での思い出は少ない。
自分の歴史をたどるために回想してみる。
思い出に時刻はない。

朝とも昼とも夜ともわからない、部屋の中。
ただ好きな漫画のページをめくっている。
何度も何度も同じ漫画を読んでいる。

何度も読んだ本なのに、それを読むことが一番楽しいことだって思っていた。
だからずっと物語の中にいた。
そのことばかり覚えている。

他にどんな出来事が幼い自分にあったのか思い出せない。

記憶は印象が作るものだから、どうでもいいと感じたことは忘れてしまう。
きっと幼い私にとってこの世のことはどうでもよかった。

ただ物語の世界を愛していた。

幼い時に限ったこと?
そうじゃないよね。

幼少期に身に付いた偏った好みは矯正の機会を逸し、残り続けた。

だから私はこの世界のことが――
だけど私は物語の世界を愛していて。

ここじゃないと呼吸がうまくできないって言い訳してもっと入りびたるんだ。

文章を書くことが好き。
ここでならうまく呼吸ができるから。
ずっとここにいたいと思う。

だってほら。
こんなにも上手に息ができるんだよ。
こんなにも軽やかにステップが踏めるんだよ。
すごいでしょう?

私はこっちの世界にいてもいいよね?
そのことをみんなは許してくれるよね?

期待を胸に私はシャープペンシルを手に取った。
カチリ、カチリ。
ノックボタンを押すごとに針は伸びる。
そして書くほどにすり減り、また伸ばす。

書く手は止まらない。
どこまでも、いつまでも、書き続けられる。

喜んだり、悲しんだり、読後の興奮のために、物語は進む。
文章を書くことが好き。

でもね。
最近、私は理解した。

私の物語は、


誰の血管にも届いていなかったんだってこと。
引用なし
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