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【Galactic Romantica】 ホップスター 20/12/23(水) 0:06

第1章:この広い銀河の片隅で ホップスター 21/1/2(土) 0:06

第1章:この広い銀河の片隅で
 ホップスター  - 21/1/2(土) 0:06 -
  
…再び意識が戻った。本日3度目である。
【オリト】「ん…えっと確か…入学式で倒れて…それから…」
オリトは今日一日の大体の流れを思い出していた。
入学式が行われていた第一講堂でまずめまいで倒れる。これが1回目。保健室らしき部屋を出た後、第一講堂に戻ろうとするも迷った末に、自分のいた建物が突如浮上する。その衝撃で2回目。空中に浮いたその建物が急加速して、その衝撃で3回目。そして現在に至る。
【オリト】「と、いうことは…ここは…」
恐る恐る、窓らしき場所を再び覗いてみる。案の定、外は黒一色の中に数々の光点が瞬き、その中に1つ大きな青い星が視界に入ってくる。それはまさしく、自分達が住んでいる、惑星同盟の首都惑星であるアレグリオそのものだった。

…そう、意図せずしてオリトは宇宙へと飛び立ったのである。


        【第1章 この広い銀河の片隅で】


一方、未だそんな同乗者がいるとは知らない、クロスバードのクルー達。
【女生徒A】「各種システム、問題ありません!」
【女生徒B】「それじゃ、次のシークエンスに入るわ!」
リーダーらしき女生徒の掛け声で、次のシークエンスに入る。
【女生徒A】「了解!超光速航行シークエンスに入ります!」
【男生徒B】「両エンジン共に稼働率95%、超光速モードスタンバイOK!」
【男生徒C】「座標、惑星バルテア付近の宙域にセット完了!」
【女生徒B】「オッケー、超光速航行…スタート!!」
彼女がエンターキーを叩くと、室内にキュウウン、という独特の音が響き渡り、先ほどよりは軽い衝撃の後にドン、と一度だけ大きな音が響く。
【女生徒A】「超光速航行モード、入りました!」
超光速航行に突入する様子を外から見ると、クロスバードが「消えた」ように見えるのだが、それを見る者はいない。

知的生命は自力で光速を超えることができなければ、銀河への進出はあり得ない。光の速さで移動したとしても、隣の星まで数年から数十年、銀河の隅から隅まで行こうとすれば数万年かかってしまうのだから。この時代の技術では、それを超光速航行により1週間程度にまで短縮することに成功しており、将来的にはさらなる短縮が期待されている。
ちなみにクロスバードで目標地点である惑星バルテアまでは、およそ丸1日。

【女生徒B】「…ふーっ、問題なさそうね。
       それじゃあ30分後にミーティングを開くから、それまで休憩にしましょう!みんな、ここまでお疲れ様!」
その掛け声で、それぞれのクルーがベルトを外す。久しぶりの自由行動である。
ちなみにこの時代の宇宙艦船内では基本的に擬似重力を発生させているので、別に宇宙だからといって体が浮かぶ、ということはない。

【男生徒C】「いやー、さすがに緊張しましたねぇ」
【男生徒A】「だなぁ、でも重力あるし、宇宙にいるって感じがあんまりしないよなぁ…」
【男生徒D】「まさかの夢オチだったりして」
【男生徒A】「いや夢ってことはないだろうけどさ」

それぞれ雑談をしたり、軽くお菓子をつまんだり、あるいは本を読んだりと、よくある10代の学生の休み時間の光景である。それは彼らがいくらエリートだろうと、場所が宇宙空間だろうと変わらない。
そんな中、休憩時間も席を立たずに目の前のモニターをチェックしながら仮想キーボードを叩いてた女生徒が、あることに気がついた。
【女生徒A】「…あれ?」
その疑問の声に、リーダーらしき女生徒が反応する。
【女生徒B】「どうしたの?」
【女生徒A】「念のため艦内をスキャンしてみたんですが…生体反応があるんです、ここ以外に」
休憩時間ではあるが、この時点でクロスバードのクルーは全員このブリッジにいた。つまり、今このブリッジ以外には誰もいない『はず』である。以下、具体像を絞りつつのやり取りが続く。
【女生徒B】「ネズミとかが迷い込んだんじゃないの?」
【女生徒A】「いえ、明らかにそういうのじゃないんです。ただ人間よりは反応が小さいので、このサイズだとまさか…チャオ?」
【女生徒B】「まさか、チャオの一般生徒が迷い込んだのかしら?」
【女生徒D】「でも今日は一般生徒がX棟に立ち入らないように制限されてたはずだし…」
クロスバードには生体スキャンシステムがあるので、システムを起動させている限りは「こっそり侵入」という行為はすぐにバレる。つまり一般生徒という線も薄い。
彼女たちが首を傾げていたところに、突如あの保健の先生が「あーっ!」と大声を上げた。

【男生徒C】「ど、どうしたんですか先生?」
【先生】「そのチャオ、ひょっとしたら…」
【女生徒D】「心当たり、あるんですか?」
【先生】「ほら出る前に、入学式で倒れた新入生のチャオを保健室に運んだって話したじゃない?」
【女生徒B】「まさか、その子が?」
【先生】「恐らくねー…」
先生がオリトを保健室に運ぶ際は生体スキャンシステムが機能していたが、X棟が浮上してクロスバードに変形する際はエネルギーを節約するためにシステムを切る必要があった。そのため今の今までオリトを捕捉できなかったのである。

【男生徒B】「いきなり想定外の事態発生じゃねぇか!どうするんだよ!?」
【女生徒B】「落ち着いて!何もかも想定通りに行く物事なんてないわ」
ざわつくクルーをリーダーの女生徒が落ち着かせる。
【女生徒B】「とりあえず、今の状況を確認しましょう。まず今は超光速航行中だから、余程のトラブルがない限り止める訳にはいかないわね」
超光速航行は安全上の理由で、緊急事態が発生しない限り目標地点到達まで解除することはできない。「はぐれたと思しきチャオが艦内にいる」という程度では止める訳にはいかない。
【女生徒D】「現在時刻は銀河標準時で15時41分。入学式は午後からでしたので、昼食は食べているはず。であれば、緊急に保護を要する、という訳でもなさそうです。もちろん、早めに保護するに越したことはありませんが」
【男生徒C】「問題は、保護した後ですね…バルテア到着後すぐに第4艦隊の演習に参加するスケジュールですから、そのチャオを学校に帰している余裕はありませんよ?」
と話が続くが、先生が身を乗り出してその話を切った。
【先生】「…とりあえず、あたしが拾ってくるわ。面識あるしねー。保護した後のことはその間に皆で決めておいて。座標もらえるー?」
【女生徒A】「あ、はい!個人端末に転送します!」
彼女が仮想キーボードを操作すると、先生が持っていた個人用の端末がピコン、と電子音を鳴らす。端末を確認した先生は軽く手を上げて、部屋から出て行った。


【オリト】「星が見えなくなった…超光速航行ってことなのかな」
途方に暮れていたオリトは、ただ何となく窓の外を眺めていた。
超光速航行では、移動中の船の窓から外を見ると真っ暗になる。そのことはオリトも知識として知ってはいるが、当然実際に見るのは初めてだ。
【オリト】「でも、これからどうしよう…明らかにマズイよな…」
色々考えを巡らせようとするが、衝撃で何度も気を失っているせいか頭がクラクラし、考えが出てこない上にまとまらない。
結局、ただ真っ暗になった外の景色を見ていても仕方が無い、という結論には何とか達し、通路を歩き出した。彼自身は気付いていないが、かなりフラついている。


【先生】「座標はこの辺みたいだけどー…」
一方の先生も端末と周囲を交互に見回しながら、通路を歩く。
正面は突き当たり、T字路のような場所に着く。まず左を見る。誰もいない。続いて右を見る。…いた。

【オリト】「うわああっ!?」
オリトにしてみれば、ただでさえ度重なる衝撃のせいでボーっとしてるところに、いきなり自分より数倍大きい人間の女性が現れた訳で、驚かないはずがない。
その上さらに、「本来いてはいけない場所にいる」という罪悪感も相まって、この瞬間オリトがとった行動は…逃げた。

【先生】「あ、こら!待ちなさい!」
当然先生は追いかける。しかし、この辺りは通路が入り組んでおり、小部屋もいくつかあることから、すぐに見失ってしまった。


思わず逃げてしまったオリトは、そんな小部屋のうちの1つのロッカーのような場所に隠れるように転がり込んだ。
【オリト】「はぁ、はぁ…」
息が上がっている。ここでようやく、自分がかなり疲れていることに気がつく。
何度も気を失っているせいだ、ということまでは考えが回ったが、そこから先へは回らない。気がつかないうちに体力を使っていた、ということを自覚した後、いずれにせよここでしばらく休もうか、と思った瞬間、
【先生】「みーつけたー。かくれんぼ終了!ん、この場合は鬼ごっこかしらー?」
見つかった。

…といっても、彼女は自力で探し出した訳ではない。ブリッジと連絡を取って生体スキャンの結果を随時更新してもらったのだ。そして彼女は、再びブリッジに通信を入れる。
【先生】「あー、もしもし?無事保護したわ、ありがとう!
     …とりあえず連れて行くから、そこで処遇を決めましょう」
そう話してブリッジからの返事を確認すると通信を切り、オリトの方を向きなおし、
【先生】「…立てるかしら?」
と軽く尋ねる。
【オリト】「は、はい、歩けます」
オリトは多少強がって、聞かれてもいないことを答えるが、答えた途端にフラついてしまう。それを見た彼女は、やや呆れたようにオリトを抱え上げる。
【先生】「チャオは専門外だけど、さすがにその様子じゃ無理そうだって分かるわよ、まったく…」
【オリト】「す、すみません…」
そのまま彼女はブリッジへ向かい歩き出した。


オリトを背負って歩きながら、簡単な自己紹介と状況説明をする。
【先生】「ミレーナ=ジョルカエフ。ま、いわゆる『保健の先生』ね。X組のことはご存知?」
【オリト】「い、いえ…」
それを聞いて、X組のこと、クロスバードのことを説明するミレーナ。
【ミレーナ】「あたしも一応軍人で医師免許持ってる、軍医さんなんだけどねー、ちょーっと昔ドジやらかしちゃってねー。まぁいわゆる左遷って形で、士官学校で保健の先生とX組の担任をやってるの。X組はエリート集団だから、そういうとこの担任は逆にダメな人間の方がいいみたいよ、あたしみたいにね」

そうこうしている間に、カードキーを通してドアを開け、ブリッジへ到着。
【ミレーナ】「はーい、無事連れてきましたよー」
すると10人ほどのクルー、X組メンバーの注目が一斉にオリトの方へと向く。
【オリト】「え、あ、あの…」
すると艦長席に座っていたリーダーの女生徒が立ち上がり、ミレーナと少し話をする。その後ミレーナから背負っていたオリトを貰い受け、オリトに対しこう自己紹介した。
【女生徒】「あたしはカンナ=レヴォルタ。一応X組のリーダーで、クロスバードの艦長。以後よろしくね。
      正直こういうことはあんまりやりたくないんだけども…とりあえず事情だけは聞いておかないといけないから、ちょっと付き合ってもらえるかしら?」
【オリト】「あ、はい」
オリトはあまり考える気力も残っていなかったこともあり、軽くうなずく。
【カンナ】「それじゃ、ちょっとの間留守番お願いね」
そう言い残し、ミレーナと入れ替わるようにカンナはブリッジから消えた。


カンナがオリトを連れてきたのは、艦長室。しかしその艦長室は、いわゆる一般的にイメージされるような艦長室ではなかった。
ぬいぐるみや人形、それにおもちゃ、漫画など、いわゆる私物で埋め尽くされているのだ。
それを見たオリトは呆然として言葉が出ない。カンナはとりあえずオリトをソファーに座らせると、自分は隣に座り、こう切り出した。
【カンナ】「そういえば、名前聞いてなかったわね?」
【オリト】「あ、オリトです」
【カンナ】「オリト君ね。…あたしらX組がいわゆるエリート集団、ってのはご存知?」
【オリト】「はい、その辺は先ほどミレーナ先生から聞いてます」
【カンナ】「なら話が早いわね。つまるところこの戦艦はあたしらX組の私物状態…という結果がこの部屋よ…出航までには片付けようとは思ったんだけどね…」
【オリト】「は、はぁ…」
この辺りでようやくオリトは少し落ち着いてきて、考えが巡るようになった。X組はエリート集団と聞いてどんな人たちなのかと想像を巡らしていたが、彼女達もまた普通の10代後半の少年少女たちなのだ、ということなんだと自らの中で納得した。オリトはスラム育ちでこれまでエリート集団とは無縁の暮らしをしてきたため、エリートに対する漠然とした恐怖感のようなものがあるのだが、それが100%とは言わないまでも、多少は払拭できた気がした。

その後、オリトがクロスバードに迷い込んだ事情を話す。
【カンナ】「なるほどねぇ…新入生だと迷うわよねぇ、そりゃ」
そう言いつつソファーから立ち上がると、棚からティーカップを2つ取り出し、机のポットでお茶を淹れる。
【カンナ】「あれ、そういえばチャオってお茶飲めるのかしら?」
【オリト】「あ、大丈夫です」
そんなやり取りをした後、カンナはソファーに戻り、目の前のテーブルにティーカップを置いた。
【カンナ】「ごめんなさい、正直今まであまりチャオと仲良くなる機会がなかったから…」
【オリト】「いえ、気にしないで下さい…慣れてますから」
この時代、全銀河における人間とチャオの比率はおよそ1:1、つまりほぼ同数。そして、惑星同盟に限らず、どの勢力も表向きは人間とチャオの権利の平等を謳っている。…が、特に人間側の意識というものはそうすぐに変わるものではない。現在でも各勢力の政府や軍、それに経済界など、いわゆる「偉い地位」のおよそ9割は人間で占められている。エリート集団であるX組も、別に「人間に限る」などという決まりはないにも関わらず、現メンバーはもちろん、過去のX組卒業生も全員人間である。
…そしてそのしわ寄せが来るのが他でもないスラムである。オリトがそうであるように、スラムにいる者は6:4でむしろチャオの方が多いのだ。

オリトとカンナはそれぞれお茶を少し飲んだ後、話を続ける。
【カンナ】「で、問題はオリト君の処遇よねぇ…スケジュール的にアレグリオにはしばらく戻れないし…」
1年間の練習航海に出る…といっても、1年間ずっと出ずっぱりという訳ではない。が、すぐに戻れるという訳でもない。バルテアに到着後すぐに1週間ほど第4艦隊に合流しての軍事演習があるため、少なくともそれが終わるまでは戻れない。現時点でオリトがとれる選択肢は、そう多くはなかった。
【カンナ】「…まぁ正直、今すぐ戻るのは難しいし、とりあえず演習が終わるまでは見学扱いということにして、その後どうするかは学校とも相談してその時決めましょうか」
【オリト】「はい、分かりました」
【カンナ】「それじゃ、みんなにも挨拶させたいから、もう1回ブリッジ行きましょう」
【オリト】「はい」

…そうしてカンナとオリトが立ち上がった、その瞬間。
オリトにしてみれば今日何度目とも知れない轟音と衝撃と震動が襲い掛かった。
引用なし
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