●週刊チャオ サークル掲示板
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
10 / 265 ツリー ←次へ | 前へ→

【Galactic Romantica】 ホップスター 20/12/23(水) 0:06
プロローグ:交差する運命 ホップスター 20/12/23(水) 0:06
第1章:この広い銀河の片隅で ホップスター 21/1/2(土) 0:06
第2章:果てのない世界の果てまで ホップスター 21/1/9(土) 0:07
第3章:伸ばした腕の先に見えるもの ホップスター 21/1/16(土) 0:05
第4章:はじまりと、その終わり ホップスター 21/1/23(土) 0:04
第5章:血の意味、魔女の目覚め ホップスター 21/1/30(土) 0:20
第6章:すれ違う光と想い、振り返った先 ホップスター 21/2/6(土) 0:07
第7章:巡り巡る思惑と甘い夢 ホップスター 21/2/13(土) 0:04
第7.5章:人の理由とチャオの理由 ホップスター 21/2/20(土) 0:03
第8章:ただ大気の底を眺めて ホップスター 21/2/27(土) 0:03
第9章:塵の中でもがくように ホップスター 21/3/6(土) 0:02
第10章:閃光の果ての咆哮は聞こえるか ホップスター 21/3/13(土) 0:05
第11章:思惑が渦巻く銀河の中へ ホップスター 21/3/20(土) 0:03
第12章:流転の渦を飲み込むように ホップスター 21/3/27(土) 0:44
第13章:その最中で何を思わざるか ホップスター 21/4/3(土) 0:03
第14章:迷路の果てに掴む未来で、瞳は灯る ホップスター 21/4/10(土) 0:04
第15章:小さな世界の果てで嘘と踊る ホップスター 21/4/17(土) 0:04
第16章:嘲笑い、交差して、そして瞬く ホップスター 21/4/24(土) 0:03
第17章:深淵の爪先で踊る人形達よ ホップスター 21/5/1(土) 0:06
第18章:その寓話のあっけない終焉 ホップスター 21/5/8(土) 0:04
第19章:意思はまだ、彼方にありて動かず ホップスター 21/5/15(土) 0:03
第20章:英雄への道程は道半ばにて ホップスター 21/5/22(土) 0:02
第21章:煌めきは決して届かぬ御伽噺 ホップスター 21/5/29(土) 0:03
第22章:8つの灯と、11の魂 ホップスター 21/6/5(土) 0:02
第23章:天秤にかけるは、ただ星一つ ホップスター 21/6/19(土) 0:05

【Galactic Romantica】
 ホップスター  - 20/12/23(水) 0:06 -
  
※連載です
※何がやりたいかってーと要するに長編スペオペロボアニメです
※次回は2021年1月2日掲載予定。以降、週1回土曜日更新予定
(天変地異感染症作者急病PSO2その他の事由により休止・変更になる場合があります)
※別途立てている感想用ツリー内でエルファと解説(兼漫才)をしていますので、「わけわからん!」と思ったら併せてそちらもどうぞ
※長編なので作者が設定や名称等を忘れてどっか破綻してるかもしれません。ゆるしてね。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

プロローグ:交差する運命
 ホップスター  - 20/12/23(水) 0:06 -
  
遥か未来、人々は、そしてチャオは銀河を自在に駆け巡る。
だが、そんな時代でも、いや、そんな時代だからこそ、彼らは争うことを止めなかった。


        【プロローグ 交差する運命】


…どんなに時代が変わっても、変わらないものがある。
人々の争いが終わらないこともそうだが、例えば色恋沙汰の微妙な距離感だとか、あるいは未知の領域へと足を踏み入れる時の表現し難い緊張感とかもきっとそうだろう。
そして、ここに立っている、この物語の主役になる1匹のチャオも、そんな緊張感に襲われていた。

【チャオ】「こ、ここが…」

彼の名前は、オリト。
オリトが立っているのは、惑星同盟軍の士官学校の正門前。そして今日は、その入学式の日。
そう、彼は士官学校の新入生である。

周囲には、彼と同じ新入生の少年少女とその両親と思しき姿が多い。
だが、彼は1匹。彼は、両親を知らない。
物心ついた時はスラム街のようなところで、似たような境遇の人間やチャオと共にいた。

幸いなことに、彼は多少勉強ができた。
この時代、いや、いつの時代もそうかも知れないが、勉強ができるが貧乏な子供が目指すべき数少ない進路、それは軍に入ること。
士官学校の学費は格安で、しかも軍に入れば実力社会。才能さえあればいくらでものし上がることができるのだ。もちろん、1つ間違えれば即あの世行きというリスクはあるが、失うものが少ない者の場合、それは大きなリスクにはならないことが多い。

かくして、オリトも猛勉強の末、かなりの倍率を潜り抜け、士官学校に合格。そして、今この場に立っているという訳である。


【司会】「それでは、校長であるゲオルグ=ソラント大佐からの訓示です」
【ゲオルグ】「…コホン。皆さん、入学おめでとうございます。これから皆さんは将来立派な士官になるべく今ここに…」
緊張の中、入学式は進行していく。ここは士官学校なので、校長先生の講話は訓示という形で示される。最も、いわゆる「校長の話」が長くてかったるいのもまた、古今東西変わらない話である。

だが、緊張もあるのだろうが、オリトは真面目にゲオルグ校長の話を聞き続けていた。
【ゲオルグ】「…宇宙開拓時代が終わりを告げ、銀河全体の覇権を争う銀河戦国時代へと突入してからおよそ50年。皆さんもご存知の通り、現在我々の銀河は、我らが惑星同盟と、銀河連合、宇宙共和国の3大勢力による三つ巴の戦争状態にあります。既に戦争は泥沼化し、無駄に命を落とすだけとの批判も多く、争う意味を問う論調も数多く聞かれます。だからこそ皆さんには、この状況に終止符を打つ者になってもらいたい。つきましては…」

とはいえ、この時代を生きる者たちにとっては、この内容は常識中の常識。猛勉強の末難しい試験に合格した彼ら新入生には尚のことである。こっそりと手で隠しながらあくびをする新入生が後を絶たない。
【オリト】(いくらスラム育ちの俺でも、さすがにこれぐらいは知ってるけど…)
当然、オリトも然りである。あくびしそうなのを抑えつつそんな事を考えていたら―――記憶が飛んだ。


【オリト】(………あ…あれ…?)
気がつくと、視界は真っ白。どうやら天井のようだ。
【オリト】(俺……確か……校長訓示を聞いてて……)
どうやら、訓示の途中で倒れてしまったようである。すると、女性の声が聞こえた。
【女性】「あら、気がついたー?」
【オリト】「あ、はい。なんかすみません」
起き上がってみると、保健室のような場所にいた。隣には先ほどの声の主である人間の女性。
そして彼女は、恐らくはいわゆる保健の先生といったところか。
【先生】「軽いめまいみたいだから気にしないで。立てるかしらー?」
【オリト】「あ、はい…」
ゆっくりとベッドから降りる。多少ふらついたが、どうやら大丈夫なようだ。
【先生】「まだ入学式やってるから、第一講堂に戻れば大丈夫。無理はするんじゃないわよー」
【オリト】「分かりました、ありがとうございます」
最初はゆっくりと、やがてしっかりと歩けるようになり、彼は一礼をして保健室から出て行った。

それを見送った彼女だったが、少ししてあることに気がついた。
【先生】「って、あの子新入生よねー?第一講堂までの行き方、分かるかしら?ただでさえこの学校広いしー…」
彼女は一瞬彼を追いかけて道案内しようかと思ったが、止めた。ある外せない用事があったからだ。


オリトは案の定、迷ってしまっていた。
【オリト】「え、えっと、どっちだろう…誰かに聞こうにも入学式で誰もいないし、保健室に戻る道も分かんなくなってきた…」
キョロキョロと周囲を見回すが、さっぱり判らない


…そのオリトが道に迷っていた、そのちょうど真上にある部屋でのことである。
何やら司令室のような雰囲気の部屋に、10人前後の学生が集まっていた。
【女生徒A】「…ゴーサイン、出ました!」
座ってモニターを見つめていた女生徒がモニターに浮かんだ表示を見て合図を送る。すると、全員が一斉に動き出し、それぞれが用意されていた座席につくと、一気に慌しくなる。
【女生徒B】「もう一度確認するわ。各システム、問題ない?」
リーダーらしき女生徒がそう発すると、他の生徒が口々に「問題ありません!」と返す。全員の返答を確認したら、さらに指示を出した。
【女生徒B】「オッケー、それじゃあ浮上シークエンス、準備開始!」
【男生徒A】「了解!浮上シークエンス、A−1からB−3まで発動!」
【男生徒B】「エンジン起動っ!…カストル、ポルックス共に出力30%まで上昇、ここまでは安定してる!」
【女生徒B】「そのまま80%まで上げて!くれぐれも慎重にね!」
【女生徒C】「…こっちも、準備、できました、いつでも、いけます」
【女生徒D】「それじゃあ、あとは指示が出たらB−4から最後まで、ってことね」

その頃第一講堂では、ゲオルグ校長の訓示がまだ続いていた。さすがに飽きてきた様子の新入生が目に見えて増えてくる中、職員らしき人が静かに壇上に上がり、ゲオルグ校長に小声で耳打ちをする。それを聞いたゲオルグ校長は、コホン、と軽く咳払いをし、こう話題を変えた。
【ゲオルグ】「…さて、ここで新入生の皆さんに、先輩の皆さんからのプレゼントがあります。皆さん、回れ右をして後ろのスクリーンに注目して下さい」
新入生が軽くざわつきながら、後ろにある巨大スクリーンに目を向ける。するとそこには、校内のある建物が映し出されていた。
【ゲオルグ】「ご存知かも知れませんが、我が校にはエリートのための『X組』と称される特別クラスが存在します。彼らは3年になると、練習艦『クロスバード』で練習航海に向かうことになります」
ゲオルグ校長がそう説明している間に、講堂にゴゴゴゴゴ、という大きな地響きが響き出す。すると、スクリーンに映し出されていた建物が土煙を巻き上げながら浮上しだした。そう、この建物、通称『X棟』と呼ばれるX組専用の建物こそがクロスバードなのである。新入生たちの軽いざわつきが、大きなどよめきに変わる。
【ゲオルグ】「確かに彼らは学校内では特別な扱いになります。また卒業すれば皆さんよりは高い階級で軍に入ることになります。しかし軍は完全な実力社会。入隊後はもちろん、在学中からしっかり努力すれば彼らより昇進することも夢ではありません。現に現在の同盟軍高官にはX組出身でない者も多数います」
そしてクロスバードがある程度の高さまで浮上すると、下部の窓が空き、「入学おめでとう」と書かれた巨大な垂れ幕が現れた。さしずめ巨大なアドバルーンといったところか。
クロスバードはしばらくの間その場で高度を保ちつつ垂れ幕を出した後、垂れ幕を切り離して下部の窓を閉じる。

【女生徒A】「新入生歓迎、成功しました!」
【女生徒B】「まず最初の山場をクリアね。でもまだ気は緩めちゃダメよ!」
その時、彼女たちがいる部屋に、1人の女性が入ってきた。先ほどの保健の先生である。
【男生徒C】「あ、先生!遅かったじゃないですか、ギリギリですよ」
【先生】「ごめんごめん、入学式で倒れた新入生がいてねー」
そのまま彼女も空いてる席に座り、ベルトを締めた。
【女生徒B】「それじゃ、変形シークエンスに入るわよ!」
【女生徒A】「了解!クロスバード、変形します!」

その掛け声と共に、空中に浮かんでいた巨大な建物がガシャン、ガシャンと音を立てて、変形していく。まるでCGのような光景に、スクリーンを見ていた新入生は大きな歓声を上げる。そうしてクロスバードは『建物』から『戦艦』へと姿を変えた後、さらに高度を上げていき、やがて地上からは見えなくなった。

【ゲオルグ】「…それでは皆さん、よい学生生活を送ってください」
ゲオルグ校長は壇上からそれを見届けると、こう締めくくって一礼をし、校長訓示を終わらせる。拍手を送る新入生。…だがそこに、『彼』の姿はなかった。


【オリト】「痛っ…一体何がどうなってるんだ!?」
第一講堂に戻るために廊下を歩いていたオリトだったが、突然轟音と振動、そして衝撃に見舞われ、彼の小さいチャオの体は吹っ飛び、一度意識が飛んだ。ようやく気がついたところである。
彼はよく分からないまま辺りを見回す。一応さっきまで歩いていた廊下のようだったが、微妙に様子が異なっている。さらに状況を把握するために、窓を見つけて軽く飛び上がり外を覗いたが、そこから見える景色に彼は呆然とする。
【オリト】「えっ…空…!?」
そこから見えたのは、遥か遠くに小さく見える、学校の敷地とその周辺の街。その景色を見ただけで、自分が空にいるということは理解できたが、ではなぜ今自分が空にいるのか、それが皆目見当も付かなかった。

…そう、彼はX棟へ迷い込み、そのままクロスバードの発進に巻き込まれたのである。


そんな同乗者がいるとは露知らず、クロスバードのクルー達は次のシークエンスに入る。
【女生徒A】「変形シークエンス完了!ここまで全て順調です!」
【女生徒B】「オッケー!でもまだ気を抜いちゃダメよ!大気圏抜けなきゃいけないんだから!」
【男生徒B】「カストル、ポルックス共に出力90%!問題なしだ!」
【男生徒A】「それでは…大気圏脱出シークエンス、始動!」

するとクロスバードは垂直に向きを変え、しばらくするとブースターに火が点き、一気に加速。宇宙へと飛び立った。

【オリト】「…うわあああああっ!!」
その際の衝撃で、オリトは再び吹き飛ばされ、意識を失った。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第1章:この広い銀河の片隅で
 ホップスター  - 21/1/2(土) 0:06 -
  
…再び意識が戻った。本日3度目である。
【オリト】「ん…えっと確か…入学式で倒れて…それから…」
オリトは今日一日の大体の流れを思い出していた。
入学式が行われていた第一講堂でまずめまいで倒れる。これが1回目。保健室らしき部屋を出た後、第一講堂に戻ろうとするも迷った末に、自分のいた建物が突如浮上する。その衝撃で2回目。空中に浮いたその建物が急加速して、その衝撃で3回目。そして現在に至る。
【オリト】「と、いうことは…ここは…」
恐る恐る、窓らしき場所を再び覗いてみる。案の定、外は黒一色の中に数々の光点が瞬き、その中に1つ大きな青い星が視界に入ってくる。それはまさしく、自分達が住んでいる、惑星同盟の首都惑星であるアレグリオそのものだった。

…そう、意図せずしてオリトは宇宙へと飛び立ったのである。


        【第1章 この広い銀河の片隅で】


一方、未だそんな同乗者がいるとは知らない、クロスバードのクルー達。
【女生徒A】「各種システム、問題ありません!」
【女生徒B】「それじゃ、次のシークエンスに入るわ!」
リーダーらしき女生徒の掛け声で、次のシークエンスに入る。
【女生徒A】「了解!超光速航行シークエンスに入ります!」
【男生徒B】「両エンジン共に稼働率95%、超光速モードスタンバイOK!」
【男生徒C】「座標、惑星バルテア付近の宙域にセット完了!」
【女生徒B】「オッケー、超光速航行…スタート!!」
彼女がエンターキーを叩くと、室内にキュウウン、という独特の音が響き渡り、先ほどよりは軽い衝撃の後にドン、と一度だけ大きな音が響く。
【女生徒A】「超光速航行モード、入りました!」
超光速航行に突入する様子を外から見ると、クロスバードが「消えた」ように見えるのだが、それを見る者はいない。

知的生命は自力で光速を超えることができなければ、銀河への進出はあり得ない。光の速さで移動したとしても、隣の星まで数年から数十年、銀河の隅から隅まで行こうとすれば数万年かかってしまうのだから。この時代の技術では、それを超光速航行により1週間程度にまで短縮することに成功しており、将来的にはさらなる短縮が期待されている。
ちなみにクロスバードで目標地点である惑星バルテアまでは、およそ丸1日。

【女生徒B】「…ふーっ、問題なさそうね。
       それじゃあ30分後にミーティングを開くから、それまで休憩にしましょう!みんな、ここまでお疲れ様!」
その掛け声で、それぞれのクルーがベルトを外す。久しぶりの自由行動である。
ちなみにこの時代の宇宙艦船内では基本的に擬似重力を発生させているので、別に宇宙だからといって体が浮かぶ、ということはない。

【男生徒C】「いやー、さすがに緊張しましたねぇ」
【男生徒A】「だなぁ、でも重力あるし、宇宙にいるって感じがあんまりしないよなぁ…」
【男生徒D】「まさかの夢オチだったりして」
【男生徒A】「いや夢ってことはないだろうけどさ」

それぞれ雑談をしたり、軽くお菓子をつまんだり、あるいは本を読んだりと、よくある10代の学生の休み時間の光景である。それは彼らがいくらエリートだろうと、場所が宇宙空間だろうと変わらない。
そんな中、休憩時間も席を立たずに目の前のモニターをチェックしながら仮想キーボードを叩いてた女生徒が、あることに気がついた。
【女生徒A】「…あれ?」
その疑問の声に、リーダーらしき女生徒が反応する。
【女生徒B】「どうしたの?」
【女生徒A】「念のため艦内をスキャンしてみたんですが…生体反応があるんです、ここ以外に」
休憩時間ではあるが、この時点でクロスバードのクルーは全員このブリッジにいた。つまり、今このブリッジ以外には誰もいない『はず』である。以下、具体像を絞りつつのやり取りが続く。
【女生徒B】「ネズミとかが迷い込んだんじゃないの?」
【女生徒A】「いえ、明らかにそういうのじゃないんです。ただ人間よりは反応が小さいので、このサイズだとまさか…チャオ?」
【女生徒B】「まさか、チャオの一般生徒が迷い込んだのかしら?」
【女生徒D】「でも今日は一般生徒がX棟に立ち入らないように制限されてたはずだし…」
クロスバードには生体スキャンシステムがあるので、システムを起動させている限りは「こっそり侵入」という行為はすぐにバレる。つまり一般生徒という線も薄い。
彼女たちが首を傾げていたところに、突如あの保健の先生が「あーっ!」と大声を上げた。

【男生徒C】「ど、どうしたんですか先生?」
【先生】「そのチャオ、ひょっとしたら…」
【女生徒D】「心当たり、あるんですか?」
【先生】「ほら出る前に、入学式で倒れた新入生のチャオを保健室に運んだって話したじゃない?」
【女生徒B】「まさか、その子が?」
【先生】「恐らくねー…」
先生がオリトを保健室に運ぶ際は生体スキャンシステムが機能していたが、X棟が浮上してクロスバードに変形する際はエネルギーを節約するためにシステムを切る必要があった。そのため今の今までオリトを捕捉できなかったのである。

【男生徒B】「いきなり想定外の事態発生じゃねぇか!どうするんだよ!?」
【女生徒B】「落ち着いて!何もかも想定通りに行く物事なんてないわ」
ざわつくクルーをリーダーの女生徒が落ち着かせる。
【女生徒B】「とりあえず、今の状況を確認しましょう。まず今は超光速航行中だから、余程のトラブルがない限り止める訳にはいかないわね」
超光速航行は安全上の理由で、緊急事態が発生しない限り目標地点到達まで解除することはできない。「はぐれたと思しきチャオが艦内にいる」という程度では止める訳にはいかない。
【女生徒D】「現在時刻は銀河標準時で15時41分。入学式は午後からでしたので、昼食は食べているはず。であれば、緊急に保護を要する、という訳でもなさそうです。もちろん、早めに保護するに越したことはありませんが」
【男生徒C】「問題は、保護した後ですね…バルテア到着後すぐに第4艦隊の演習に参加するスケジュールですから、そのチャオを学校に帰している余裕はありませんよ?」
と話が続くが、先生が身を乗り出してその話を切った。
【先生】「…とりあえず、あたしが拾ってくるわ。面識あるしねー。保護した後のことはその間に皆で決めておいて。座標もらえるー?」
【女生徒A】「あ、はい!個人端末に転送します!」
彼女が仮想キーボードを操作すると、先生が持っていた個人用の端末がピコン、と電子音を鳴らす。端末を確認した先生は軽く手を上げて、部屋から出て行った。


【オリト】「星が見えなくなった…超光速航行ってことなのかな」
途方に暮れていたオリトは、ただ何となく窓の外を眺めていた。
超光速航行では、移動中の船の窓から外を見ると真っ暗になる。そのことはオリトも知識として知ってはいるが、当然実際に見るのは初めてだ。
【オリト】「でも、これからどうしよう…明らかにマズイよな…」
色々考えを巡らせようとするが、衝撃で何度も気を失っているせいか頭がクラクラし、考えが出てこない上にまとまらない。
結局、ただ真っ暗になった外の景色を見ていても仕方が無い、という結論には何とか達し、通路を歩き出した。彼自身は気付いていないが、かなりフラついている。


【先生】「座標はこの辺みたいだけどー…」
一方の先生も端末と周囲を交互に見回しながら、通路を歩く。
正面は突き当たり、T字路のような場所に着く。まず左を見る。誰もいない。続いて右を見る。…いた。

【オリト】「うわああっ!?」
オリトにしてみれば、ただでさえ度重なる衝撃のせいでボーっとしてるところに、いきなり自分より数倍大きい人間の女性が現れた訳で、驚かないはずがない。
その上さらに、「本来いてはいけない場所にいる」という罪悪感も相まって、この瞬間オリトがとった行動は…逃げた。

【先生】「あ、こら!待ちなさい!」
当然先生は追いかける。しかし、この辺りは通路が入り組んでおり、小部屋もいくつかあることから、すぐに見失ってしまった。


思わず逃げてしまったオリトは、そんな小部屋のうちの1つのロッカーのような場所に隠れるように転がり込んだ。
【オリト】「はぁ、はぁ…」
息が上がっている。ここでようやく、自分がかなり疲れていることに気がつく。
何度も気を失っているせいだ、ということまでは考えが回ったが、そこから先へは回らない。気がつかないうちに体力を使っていた、ということを自覚した後、いずれにせよここでしばらく休もうか、と思った瞬間、
【先生】「みーつけたー。かくれんぼ終了!ん、この場合は鬼ごっこかしらー?」
見つかった。

…といっても、彼女は自力で探し出した訳ではない。ブリッジと連絡を取って生体スキャンの結果を随時更新してもらったのだ。そして彼女は、再びブリッジに通信を入れる。
【先生】「あー、もしもし?無事保護したわ、ありがとう!
     …とりあえず連れて行くから、そこで処遇を決めましょう」
そう話してブリッジからの返事を確認すると通信を切り、オリトの方を向きなおし、
【先生】「…立てるかしら?」
と軽く尋ねる。
【オリト】「は、はい、歩けます」
オリトは多少強がって、聞かれてもいないことを答えるが、答えた途端にフラついてしまう。それを見た彼女は、やや呆れたようにオリトを抱え上げる。
【先生】「チャオは専門外だけど、さすがにその様子じゃ無理そうだって分かるわよ、まったく…」
【オリト】「す、すみません…」
そのまま彼女はブリッジへ向かい歩き出した。


オリトを背負って歩きながら、簡単な自己紹介と状況説明をする。
【先生】「ミレーナ=ジョルカエフ。ま、いわゆる『保健の先生』ね。X組のことはご存知?」
【オリト】「い、いえ…」
それを聞いて、X組のこと、クロスバードのことを説明するミレーナ。
【ミレーナ】「あたしも一応軍人で医師免許持ってる、軍医さんなんだけどねー、ちょーっと昔ドジやらかしちゃってねー。まぁいわゆる左遷って形で、士官学校で保健の先生とX組の担任をやってるの。X組はエリート集団だから、そういうとこの担任は逆にダメな人間の方がいいみたいよ、あたしみたいにね」

そうこうしている間に、カードキーを通してドアを開け、ブリッジへ到着。
【ミレーナ】「はーい、無事連れてきましたよー」
すると10人ほどのクルー、X組メンバーの注目が一斉にオリトの方へと向く。
【オリト】「え、あ、あの…」
すると艦長席に座っていたリーダーの女生徒が立ち上がり、ミレーナと少し話をする。その後ミレーナから背負っていたオリトを貰い受け、オリトに対しこう自己紹介した。
【女生徒】「あたしはカンナ=レヴォルタ。一応X組のリーダーで、クロスバードの艦長。以後よろしくね。
      正直こういうことはあんまりやりたくないんだけども…とりあえず事情だけは聞いておかないといけないから、ちょっと付き合ってもらえるかしら?」
【オリト】「あ、はい」
オリトはあまり考える気力も残っていなかったこともあり、軽くうなずく。
【カンナ】「それじゃ、ちょっとの間留守番お願いね」
そう言い残し、ミレーナと入れ替わるようにカンナはブリッジから消えた。


カンナがオリトを連れてきたのは、艦長室。しかしその艦長室は、いわゆる一般的にイメージされるような艦長室ではなかった。
ぬいぐるみや人形、それにおもちゃ、漫画など、いわゆる私物で埋め尽くされているのだ。
それを見たオリトは呆然として言葉が出ない。カンナはとりあえずオリトをソファーに座らせると、自分は隣に座り、こう切り出した。
【カンナ】「そういえば、名前聞いてなかったわね?」
【オリト】「あ、オリトです」
【カンナ】「オリト君ね。…あたしらX組がいわゆるエリート集団、ってのはご存知?」
【オリト】「はい、その辺は先ほどミレーナ先生から聞いてます」
【カンナ】「なら話が早いわね。つまるところこの戦艦はあたしらX組の私物状態…という結果がこの部屋よ…出航までには片付けようとは思ったんだけどね…」
【オリト】「は、はぁ…」
この辺りでようやくオリトは少し落ち着いてきて、考えが巡るようになった。X組はエリート集団と聞いてどんな人たちなのかと想像を巡らしていたが、彼女達もまた普通の10代後半の少年少女たちなのだ、ということなんだと自らの中で納得した。オリトはスラム育ちでこれまでエリート集団とは無縁の暮らしをしてきたため、エリートに対する漠然とした恐怖感のようなものがあるのだが、それが100%とは言わないまでも、多少は払拭できた気がした。

その後、オリトがクロスバードに迷い込んだ事情を話す。
【カンナ】「なるほどねぇ…新入生だと迷うわよねぇ、そりゃ」
そう言いつつソファーから立ち上がると、棚からティーカップを2つ取り出し、机のポットでお茶を淹れる。
【カンナ】「あれ、そういえばチャオってお茶飲めるのかしら?」
【オリト】「あ、大丈夫です」
そんなやり取りをした後、カンナはソファーに戻り、目の前のテーブルにティーカップを置いた。
【カンナ】「ごめんなさい、正直今まであまりチャオと仲良くなる機会がなかったから…」
【オリト】「いえ、気にしないで下さい…慣れてますから」
この時代、全銀河における人間とチャオの比率はおよそ1:1、つまりほぼ同数。そして、惑星同盟に限らず、どの勢力も表向きは人間とチャオの権利の平等を謳っている。…が、特に人間側の意識というものはそうすぐに変わるものではない。現在でも各勢力の政府や軍、それに経済界など、いわゆる「偉い地位」のおよそ9割は人間で占められている。エリート集団であるX組も、別に「人間に限る」などという決まりはないにも関わらず、現メンバーはもちろん、過去のX組卒業生も全員人間である。
…そしてそのしわ寄せが来るのが他でもないスラムである。オリトがそうであるように、スラムにいる者は6:4でむしろチャオの方が多いのだ。

オリトとカンナはそれぞれお茶を少し飲んだ後、話を続ける。
【カンナ】「で、問題はオリト君の処遇よねぇ…スケジュール的にアレグリオにはしばらく戻れないし…」
1年間の練習航海に出る…といっても、1年間ずっと出ずっぱりという訳ではない。が、すぐに戻れるという訳でもない。バルテアに到着後すぐに1週間ほど第4艦隊に合流しての軍事演習があるため、少なくともそれが終わるまでは戻れない。現時点でオリトがとれる選択肢は、そう多くはなかった。
【カンナ】「…まぁ正直、今すぐ戻るのは難しいし、とりあえず演習が終わるまでは見学扱いということにして、その後どうするかは学校とも相談してその時決めましょうか」
【オリト】「はい、分かりました」
【カンナ】「それじゃ、みんなにも挨拶させたいから、もう1回ブリッジ行きましょう」
【オリト】「はい」

…そうしてカンナとオリトが立ち上がった、その瞬間。
オリトにしてみれば今日何度目とも知れない轟音と衝撃と震動が襲い掛かった。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第2章:果てのない世界の果てまで
 ホップスター  - 21/1/9(土) 0:07 -
  
もう今日何度目かも分からない衝撃と震動、そして轟音。
しかし、今回は今までのそれとは明らかに違っていた。
艦長室に警報音が鳴り響き、部屋が赤色灯で赤く染まる。
カンナは個人端末を手に取り、ブリッジへ声をかけた。


        【第2章 果てのない世界の果てまで】


【カンナ】「どうしたの?」
【女生徒】『カストルがおかしいみたい!』
個人端末から女生徒の緊迫した声が響く。ただならぬ様子を察したカンナが間を置かずに返す。
【カンナ】「分かった、すぐ行くわ!」
カンナはそれだけ告げて通信を切ると、オリトの手を取ると、
【カンナ】「ブリッジに行くわよ!」
とオリトを引っ張ろうとする。が、オリトは驚きの表情を見せてこう訊き返した。
【オリト】「え、俺もですか?」
今日入学してきたばかりのただのチャオである自分が、この緊急事態にブリッジに立ち入っていいものかどうか。それに対しカンナはこう答えた。
【カンナ】「まぁ理由はいろいろあるんだけど…同じ船に乗った者は運命共同体。これは遥か昔、まだあたしら人類が宇宙に出る前、海で船を使ってた時代から変わらない鉄則よ」
そう言うと、再びオリトの手を取り、ブリッジへ向かい走り出した。

オリトを引っ張るようにして廊下を走りながら、カンナがもう1つの理由を説明する。
【カンナ】「オリト君だって、士官学校に入学した軍志望なんでしょ?…だったら、よく見ておく必要があるわ。緊急事態は軍にはつきものよ、戦闘なんて常に緊急事態みたいなもんだしね」

そして、ブリッジへ。カードキーを差し込み扉を開ける。
【カンナ】「お待たせ!状況説明お願い!」
その声に男子生徒が応える。
【男生徒】「カストルが突然暴走しやがった!止めようにも止まんねぇ!」
【カンナ】「緊急停止は!?」
【女生徒A】「やってますけどダメです、システムが言うことを聞きません!」
【女生徒B】「エンジンの暴走がシステム全体に影響を与えてるみたい!」
【カンナ】「なるほどね…クーリア、このままだとどうなると思う?」
と、隣に座っていた女生徒に声をかける。クーリアと呼ばれた生徒が答えた。
【クーリア】「恐らく、カストルがオーバーヒートするなり壊れるなりして止まるまでこのまま超光速で進み続けるんじゃないかと…」
【カンナ】「なんというか…表現は古いけど、まるで暴走特急ね…」

そんな会話を隣で聞いていたオリトが思わず口を出す。
【オリト】「なんというか、話を聞いてるとかなりヤバそうなんですけど…艦長さん、ずいぶん暢気な気がするんですけど、大丈夫なんですか!?」
すると、それを聞いた隣のクーリアが椅子を回してオリトの方を向き、顔を近づけてその目をじっと見つめた。言葉が出ずに、有体に言えばクーリアにビビるオリト。彼女がかけている眼鏡の奥の瞳がピタリと止まり、じっとオリトの方に向いている。やがてそれが数秒続いた後、彼女は距離を取った。
【クーリア】「彼が先生の仰ってたチャオですか…」
【カンナ】「ええ、オリト君よ。とりあえず、クーリアは初対面の人…っと、今回は人じゃなくてチャオだけど、に会ったら顔を近付けちゃう癖、気をつけた方がいいわよ」
【クーリア】「自覚はしているのですが、やめろと言われてやめられれば癖とは言わないのでは…っと、失礼しました。私はクーリア=アレクサンドラ=オルセン、クーリアで構いません。クロスバードの副艦長兼参謀、という名の雑用係です」
【オリト】「ど、どうも…オリトです」
自己紹介するクーリアだが、未だに軽い恐怖感が抜けないオリト。自分の名前を答えて挨拶に対して返すのが精一杯だった。だが、クーリアは気にせずに話を続ける。
【クーリア】「で、先程の質問ですが…そうですね、正直に言って超光速のまま永遠に彷徨う可能性も否定できません。超光速航行のエネルギー源は宇宙空間に遍く存在するエネルギー粒子なので、尽きるということがないですし…もしそうなったらここがそのまま私達のお墓ということになりますね」
【オリト】「やっぱりヤバいんじゃないですか!」
【クーリア】「まぁ、そうなんですけどね…私がこの状況で言うのもなんですけど、世の中、意外と何とかなるもんなんですよ」
【オリト】「そんなもんですか…」
そう返しつつオリトはクーリアの返答に、何となくであるが納得した。そうやって説明しているクーリアも、慌ててる素振りはあまりない。そしてオリトは、そのメンタリティが彼らをエリートたらしめているのだろうと思った。

【カンナ】「とはいえ、さすがにこのままじゃまずいわね…何か打てる手は…」
【クーリア】「そういえばジャレオ、ポルックスは?」
そう呼ぶと、端末とにらめっこしていたメカニックの男生徒、ジャレオ=バステルーニが答える。
【ジャレオ】「試しにポルックスの出力を落としてみましたが、変化はないですね…」
クロスバードは、カストルとポルックスという2つのエンジンを積んでいる。クロスバード自体は元々30年ほど前に作られた戦艦だが、10年前に旧型になった際に士官学校に練習艦として回され、その際に校舎に変形するように大改造した…という経緯がある。
その際にエンジンも2台積むように改造しており、どちらもその時に取り付けられたものであるが、そのどちらも使えなくなった戦艦のエンジンを再利用したいわゆるお古であり、かなり旧型のエンジンである。…要するに、基本的にお古の戦艦、という訳だ。

ジャレオの報告を聞いたカンナは、ふーむ、というような表情を浮かべた後、少し考える。
時間にして十秒ほどだろうか。しばしの沈黙の後、チャオであれば頭上のポヨがビックリマークになりそうな表情を見せ、こうジャレオに伝えた。
【カンナ】「…ということは、ポルックスの出力自体は調整できるのね?
      それなら、逆にポルックスの出力を上げてみてくれるかしら?」
それを聞いたジャレオは、カンナとは逆にチャオであればポヨがハテナマークになりそうな不思議そうな顔をしながらこう返す。
【ジャレオ】「え、上げるんですか?…この状態であんまり出力を上げたらカストルにもエネルギーが流れ込んで…あっ!」
そこで、ジャレオも、そしてオリトもカンナの意図するところを察した。そう、
【オリト】「わざとカストルをオーバーヒートさせて止めさせる!?」
【カンナ】「そういうこと!」

しかしそこで、ジャレオの隣に座っていた女生徒、オペレーターのレイラ=アルトゥロスがこう疑問を呈す。
【レイラ】「でも、カストルの制御が利かなくなってる現状でそんなことしたら…最悪、艦ごと爆発しかねませんよ!?」
【クーリア】「確かに…とはいえ、今のところそれ以外に手は思いつかないですし…」
【カンナ】「このまま超光速で彷徨い続けるか、一か八かで賭けに出るか…」

…この状況でどちらを選択するかと言われれば、後者しかあり得なかった。
【カンナ】「ジャレオ、お願い!」
【ジャレオ】「分かりました!」
その指示でジャレオが手元の端末を操作しポルックスの出力を上げる中、彼女はレイラにも声をかける。
【カンナ】「レイラ、不安も分かるけど…それでも、このまま超光速で彷徨う訳にはいかないよの、あたしらは」
【レイラ】「ええ、分かってます、分かってます…」
レイラは自らの不安を抱え込むように、やや小さく、繰り返した。その様子をみたカンナはさらに言葉を続ける。
【カンナ】「…そうね、もし生きて帰れたら、ケーキでもおごってあげるわ」
【レイラ】「いやいや、そんな…」
レイラは一瞬強く拒否するが、少しの間を置いて、
【レイラ】「…いいんですか?」
と尋ねる。さっきまでは消えていた瞳の光が戻り、その表情はニヤリと笑っている。いつものレイラである。
これにはさすがのカンナも一瞬引いてしまい、
【カンナ】「あ、あんまり高くないのでよろしく…」
…と苦笑いしながら返すのが一杯一杯だった。

そんなやり取りが終わった直後、ジャレオが叫ぶ。
【ジャレオ】「カストルからのエネルギー、許容範囲を突破します!」
その叫びと同時に、ブリッジの照明が緊急事態を示す赤いものに切り替わる。
【カンナ】「来たわね!…さぁ生きるか死ぬか、どっちかしら?」
エリート揃いであるX組のメンバーの間でも緊張が走る。いち見学者であるオリトなら、なおさらだ。

しばらくの間、ブリッジに警報音が鳴り響く。
そして数分の沈黙の後、ジャレオが口を開いた。
【ジャレオ】「カストル、出力下がっていきます!…うまくいきそうです!」
それに合わせ、ブリッジいたほぼ全員がはーっ、と大きく溜息をついた。
【カンナ】「さすがにどうなるかと思ったけど…とりあえず、後でレイラにケーキおごんなきゃね…」

やがて警報音が鳴り止み、ブリッジの照明が普通のものに戻む。
【ジャレオ】「カストルの出力、順調に低下!」
【レイラ】「超光速航行、解除されます!」
すると、超光速航行に突入した際と同じような独特のキュウウン、という音が響き渡り、やがて軽い衝撃とドン、という音が響いた。

【カンナ】「ふーっ、無事生還っと。…とはいえ、問題はここからね…」
実は超光速航行の最中に、自分達がどこにいるのか正確に把握する術はない。突入時の方角や速度から推定するだけである。そしてカストルの暴走中、超光速航行は制御できていない。つまり、超光速航行から抜け出した今、クロスバードはどこにいるのか全く分かっていないのである。当然、その把握が最優先課題となる。
【カンナ】「フランツ、現在位置の把握お願い!」
そうお願いしたのは、クロスバードの航宙士である男生徒、フランツ=アンブロット。
【フランツ】「やってますが…いやでも、これは…」
【カンナ】「…どうしたの?」
答えをためらうフランツに対し、カンナが疑問を投げかける。フランツは少し黙った後、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
【フランツ】「…みなさん、落ち着いて聞いてください。現在位置、ポラリス腕のF−6エリア。つまり…惑星同盟の勢力圏の正反対、銀河連合と宇宙共和国の境界宙域です…!」

その言葉に、クロスバードのメンバーに衝撃が走る。先ほどのカストルの暴走でもあまり動じなかったカンナですら、困った表情を見せた。
オリトも銀河地理に詳しい訳ではないが、何となく状況は把握している。同盟の勢力圏から遠く離れ、敵同士が戦ってる宙域へと飛び込んでしまったのだ。
【クーリア】「まさか暴走中に一気に銀河を横断してしまうとは…」
【フランツ】「カストルの暴走具合から現在位置を推定できれば良かったのですが…すみません、暴走自体に気を取られてしまって」
【カンナ】「どっちにしろ結果は同じなんだから、気にしないで」
そして、カンナは少し手元の個人端末を見ると、こう続けた。
【カンナ】「…とりあえず、銀河の外まで行かなかっただけ良しとしましょう。状況も落ち着いたし、銀河標準時も19時を回ったので、今後の相談も含めてみんなで夕食にします。それまでしばらく現状把握と休憩をして、20時30分に食堂に集合!いいわね?」
それを聞いたクロスバードのメンバー全員が「了解!」と答え、ある者は引き続き座席で状況の把握、ある者はブリッジを出て損傷等の確認へと向かうなど、それぞれがやるべき行動を取りはじめた。

その中でオリトは、ただその場に立ち尽くしていたが、少ししてその状況を見たミレーナ先生が声をかけた。
【ミレーナ】「…とまぁ、不測の事態にはこのように対処します。といっても、あたしはなーんにもしてないけどね」
【オリト】「あ、先生」
【ミレーナ】「オリト君、暇そうだしちょっと手伝ってもらっていいかな?」
【オリト】「え?あの、僕にできることであれば構いませんけど…」
【ミレーナ】「あぁ、それは大丈夫。チャオでもできる、だけどとっても大事なお仕事!ついてきて!」
と、ミレーナ先生に連れられるようにブリッジを出た。行き先は…

【オリト】「あの、これって…」
【ミレーナ】「そう、キッチン!今からみんなの夕食を作るわよ!」
…そう、その手伝いをオリトに頼んだのである。オリトがそれを疑問に思いこう尋ねる。
【オリト】「でも何で皆さんの料理を先生が?」
【ミレーナ】「まぁ、単純に言えば他にやる人がいないってことね。X組のメンバーはみんなあぁいう状況では才能を発揮するけど、こういう仕事のプロはいないのよ。女性陣もみんな料理あんま得意じゃないみたいだしねー」
【オリト】「な、なるほど…」
【ミレーナ】「ま、あたしも得意って程じゃないんだけど、本業ではダメ教師だから、こういう仕事ぐらいはね。という訳で、いくわよー!」
【オリト】「あ、はい!」
…そしてそれから約1時間、彼はミレーナ先生の手伝いに忙殺されることになる。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第3章:伸ばした腕の先に見えるもの
 ホップスター  - 21/1/16(土) 0:05 -
  
「はーっ、いくらここが共和国との境界付近だからって、辺境とはなぁ…」
「サグーリアみたいな激戦地はさすがに勘弁だけど、もっとこう…なぁ?もうちょっと華々しく活躍できる場所に行きたかったぜ…」
「華々しい…といえば、ウチのエース様はなんでまたこんな所に?」
「どうやら新型の調整らしいぜ。ここなら俺ら以外に見つかることなく色々できるってことらしい」
「なるほどなぁ…ん?なぁ、この反応って…」
「どうした…って、同盟の旧型艦?共和国ならともかく、なんでこんな所に同盟が…?」


        【第3章 伸ばした腕の先に見えるもの】


クロスバード、食堂。
ミーティングルームは別にあるのだが、カンナの場合はミーティングをする場合ここで食事をしながら行うことが多い。
【カンナ】「…みんな集まったわね。それじゃあ、夕食にしましょう!いただきます!」
その合図で、X組のメンバーが一斉に食事に手をつける。その横で、かなり疲れた表情を浮かべるオリト。
【オリト】「つ、疲れた…まさか10人分の食事を一度に作るのがこれだけきついとは…」
【ミレーナ】「はい、お疲れ様!…自分も食べておかないと、この先持たないわよー?」
【オリト】「この先って、まさか…」
【ミレーナ】「そう、片付けも手伝ってもらうから、頑張ってね!」

それを聞いて呆然とするオリト。その様子を見たカンナがミレーナ先生をたしなめる。
【カンナ】「ミレーナ先生…あまり無茶はさせない方が…色々ありすぎてだいぶ昔のように思えますけど、オリト君がここに迷い込んだの今日ですよ…」
【ミレーナ】「士官学校に入学する生徒なんだから、これぐらいは頑張ってもらわないとー。どうせあそこで普通に新入生やってても先輩とか教官から似たようなことやらされるだろうしね。ま、一応あたしは医者だし、無茶はさせないつもりよ」
【カンナ】「それはまぁ、そうなんでしょうけど…」
兵士を育てる学校が厳しいのも、古今東西変わらない。そうでなければ戦場で生き残れないし戦いに勝てないので、ある意味当然の話である。しかし、X組のメンバーはエリート中のエリートの為、士官学校の生徒でありながらそういう世界とはあまり関わらずにここまで来ている。だからこそ、カンナは『そうなんでしょうけど』と推測する形で喋った。

一方、そんな会話を聞いていたオリトは、ミレーナ先生に向けてこうつぶやいた。
【オリト】「…俺、やります」
【ミレーナ】「あら、珍しいわねー、若いのに根性ある」
【カンナ】「でも、無理しちゃダメよ。何かあったら言ってね、あたしらが先生を止めるから」
【オリト】「はい、分かりました」
そう言って、オリトも夕食を食べ始めた。一方、ミレーナ先生は不満顔。
【ミレーナ】「ぶー、なんか信用されてない…」

…さて、カンナは正面を向き直し、改めて口を開く。
【カンナ】「とりあえず、食べながらミーティングを始めます。…まずは、現在の状況の確認。フランツ、改めて説明お願い」
【フランツ】「了解しました」
フランツが立ち上がり、正面のモニターに銀河全図を表示させ、ポインターで指し示しながら説明する。
【フランツ】「現在我々は、同盟の首都惑星であるアレグリオや本来の目的地であったバルテアがある銀河のアルビレオ腕の正反対にあるポラリス腕の外れ、銀河の辺境に位置します。銀河の端っこといっても差し支えありません」
その言葉に、一同が沈黙する。その中で、フランツはさらに説明を続ける。
【フランツ】「ここから最寄の惑星はクレシェット。宇宙連合の影響下にあります。また、その反対側には銀河共和国の勢力圏内である惑星ディステリアがあります。距離的にはクレシェットからやや遠くなりますが。…いずれにせよ、連合と共和国が互いを睨み合うエリアに来てしまった訳です」

【オリト】「なんというか…最悪だな…」
思わずオリトが口に出す。そこで、クーリアが補足を入れる。
【クーリア】「先ほども艦長が言ってましたが、銀河の外まで出てしまうよりはマシです。それにもう1つ幸いなことに、このエリアは銀河の辺境で戦略的価値が薄いということもあり、連合と共和国は睨み合ってこそいるものの、直近1年以内に直接戦火を交えたという話は聞いていません。サグーリア近辺では激戦が繰り広げられているようですが…」

【カンナ】「それじゃ次、ジャレオ、エンジンは結局どうなったのかしら?」
次はジャレオの番。フランツと交代するようにして立ち上がり、正面のモニターを操作しながら説明を始める。
【ジャレオ】「はい。結論から言うと、本格的な修理を受けないとカストルは使い物になりません。…正直に言って、もう完全に壊れちゃった、という感じです」
再び、一同に沈黙が走る。
【ジャレオ】「幸い、ポルックスの側に問題はありませんので、通常航行及び艦機能の維持は可能です。しかし、超光速航行となると…不可能ではありませんが、せいぜいクレシェットやディステリアまで数日かかって行けるかどうか、という程度でしょうか」
【カンナ】「まるで宇宙開拓時代ね…」

そして、議題は次のテーマに移る。
【カンナ】「…まぁとりあえずこの話は一旦置いといて、次。なんだかんだでちゃんと紹介しきれなかったけど、例の迷い込んだチャオのオリト君。こんな状況になっちゃったし、しばらくクロスバードで面倒を見ます。よろしくしてあげてね」
と、オリトを紹介する。オリトは慌てて立ち上がり、
【オリト】「よ、よろしくお願いします!」
と一礼。すると、全員から拍手が沸いた。一通り拍手が終わった後、オリトの隣の席にいたクーリアが話しかける。
【クーリア】「ウチのメンバーについては、おいおい覚えていけば構いません。まぁ、私含めてかなり変わった面子ばかりですから、そんなに苦労はしないと思いますが…」
【オリト】「そ、そうなんですね…」
オリトは微妙に反応に困りながらも、そう答えた。

その後、少しの沈黙の後、カンナがやや言い出すのに躊躇しながらも、喋り出した。
【カンナ】「で、結局、あたしらはこれからどうすべきか、ね…」
銀河の辺境、しかも敵同士が睨み合っているエリアに突然放り出されてしまったのである。そう簡単に結論が出るはずもなく、雰囲気が沈む。
【クーリア】「現在のエンジンの状況では、私達同盟の勢力圏内まで辿り着くには最短ルートでも1ヶ月ほどかかります」
【フランツ】「当然同盟の勢力圏まで戻るには連合か共和国のどちらかの勢力圏内を通る必要がありますし、その上最短ルートを通る場合は危険な銀河中心部を抜ける必要があります。…正直、無謀という他ありません」
…すると、1人の男子生徒が声をあげる。クロスバードの砲撃手、火器管制を担当するゲルト=アンジュルグである。
【ゲルト】「大昔に戦艦たった1隻で隣の銀河まで突っ込んで全宇宙規模の帝国を滅ぼしちゃうってアニメがあったらしいなそういえば…リアルにそんな展開かよ!」
【クーリア】「…その旧時代のアニメはよく知りませんが、とにかくそんなアニメみたいなことをやらなきゃ私達は生きてアレグリオには帰れない訳ですよ」

【カンナ】「…となると、別の方法…つまり、連合か共和国のどちらかを頼る…ということを考えなければならないわね…」
しかし、それもなかなか難しい話である。現在の銀河情勢は大雑把に言うと、銀河を巨大な円として考えた時に、ちょうど円を120度ずつ3等分するように3大勢力の勢力圏があるような状態である。どの勢力も他の2勢力と正面からぶつかる形になっており、AとBが協力してCを攻撃する…といったような状況が生まれにくくなっているのだ。
その上3勢力が交差するはずの銀河の中心部は、中心にある巨大ブラックホールの影響により重力が歪んでおり、さらにその影響で星やガスなどの物質が密集している危険地帯で、先ほどフランツが説明したように通り抜けるのは非常に難しい。近年の超光速航行技術であれば一気に通り抜けることもできるが、カストルが壊れてしまったことによりそれもできない。

クーリアがそんな内容のことを大まかに話した後、こうまとめた。
【クーリア】「…まぁ、最終手段としては考える必要があるでしょう。ただその場合、下手を打つと裏切りと看做されて同盟に帰ったところで首がスパーン、ですよ?」
…と、自らの首に手をやりながら。
【カンナ】「ええ、現状ではあくまでも自力での帰還を目指す、ということで…」

と、その時、食堂に警報音が鳴り響いた。一瞬でメンバーに緊張が走る。
【クーリア】「この警報音は…!」
【レイラ】「ええ、敵艦です!…連合のオリオン級が1隻!」
手元の端末を見ながらレイラが叫ぶ。
【カンナ】「みんな、急いでブリッジへ!」
カンナの合図で、みんな一斉に立ち上がり、ブリッジへと向かい走り出した。

残ったのは、呆気に取られているオリトと、ミレーナ先生のみ。
【オリト】「て、敵…?」
【ミレーナ】「そりゃまぁ、さっきみんなが説明した通り、敵陣ド真ん中だしねー」
彼女は顔色一つ変えずに、食事を続ける。
【オリト】「先生は行かないんですか?」
【ミレーナ】「あたしはここだとただの雑用係だからねー。一応軍人で教官という立場上ブリッジに座らなきゃいけない時もあるんだけど、お飾りみたいなもんだし」
と、どこか飄々とした雰囲気で喋っていたが、次の瞬間、突然表情を変えてオリトにこう問いかけた。
【ミレーナ】「…で、君はどうするのかしら?」

そうオリトに問いかけた目は、軍人のそれだった。反応できず、何も言えないオリト。だがすぐに、いつもの雰囲気に戻り、こう続ける。
【ミレーナ】「もちろん、夕食の後片付けを手伝ってくれるとあたしとしては嬉しいんだけどねー。軍人を志望して士官学校に入ったんだったら、今からここで何が起こるのか、をブリッジで見ない手はないと思うけどねー?」

…そう言われたら、動かない理由がなかった。
【オリト】「…先生ごめんなさい、行ってきます!」
そう言い残して、自らもブリッジへ向かった。残ったミレーナ先生は、
【ミレーナ】「別に謝らなくてもいいんだけどねー…っと、それじゃ、あたしは片付けやりましょうか。折角作ったものを残されるのは良い気分しないけど、敵襲じゃあしょうがないわよねー…」
とぼやきつつ、テーブルに並んでいる食器を片付けだした。

オリトが急いでブリッジに駆け込む。
【オリト】「すいません、見させてもらってもいいですか!?」
【カンナ】「お、来たわね。当然っ!それじゃ、そこに座って!」
と、本来はミレーナ先生が座るはずの場所を指す。乗り込む人数が決まっている練習艦なので、座席はそこしか空いてないという訳だ。
オリトは人間用の大きな椅子に座り込む。…が、チャオの大きさではデスクが邪魔で様子が分からない。すぐに椅子に立って様子を見るようになった。

次の瞬間、モニターを見ていたレイラが叫ぶ。
【レイラ】「敵艦から人型兵器の発進を確認!現在のところ恐らく1機、これは…データにありません!新型の可能性があります!」
それを聞いたカンナは、妙に納得した表情を見せた。
【カンナ】「なるほどねぇ…そういうこと」
【オリト】「どういうことですか?」
【カンナ】「ここは一応ギリギリ連合の勢力圏内だけど、かなりの辺境。そこで新型を1機だけ発進させてきた、ということは…相手の目的は、恐らく新型のテストよ」
【クーリア】「まぁ言ってしまえば、私達は新型の実験台にされた、ということです」
【オリト】「実験台!?」
その表現に思わずオリトが驚く。

だが、驚いている間にも敵は近付く。
【レイラ】「…光学映像、入ります!」
レイラがそう叫んだ直後、ブリッジ正面にある一番大きなモニターに映像が入った。そこにいたのは、青い人型兵器。
それを見た瞬間、オリトを除いてブリッジにいた全員が絶句した。
数秒の沈黙の後、カンナがようやく言葉を発する。
【カンナ】「い、いやー、これは…今日は色々あったけど、最大のアンラッキーね…」
【オリト】「アンラッキー?」
事情をよく知らないオリトが尋ねる。クーリアが答えた。
【クーリア】「連合の機体であの青いカラーリングといえば、彼女しかいませんよ…
       …連合のエースパイロット、シャーロット=ワーグナー。別名、『蒼き流星』…!」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第4章:はじまりと、その終わり
 ホップスター  - 21/1/23(土) 0:04 -
  
この時代の戦いは、戦艦と人型兵器による戦いが主流である。
戦艦にはない機動力を補完する兵器として人型兵器が存在するが、なぜわざわざ操縦が複雑な人型にする理由があったのか。
戦闘以外での用途や操縦感覚の分かりやすさなど、様々な理由が後から付けられたが、つまるところ「それが人類の夢だから」ということに尽きる。


        【第4章 はじまりと、その終わり】


話は、クロスバードと連合の戦艦が互いを発見する少し前まで遡る。
その連合のオリオン級戦艦、バーナードの艦内で、シャーロットは少し不満そうにつぶやいていた。
【シャーロット】「別にわざわざこんな場所で新型のテストなんかしなくたって、それこそサグーリア辺りで共和国相手にどかーんとやっちゃえばいいのに…」
そう愚痴をこぼす相手は、その新型の開発を担当した、連合の重工業企業の技術主任であるウィレム=ヘリクソン。
【ウィレム】「それじゃあもうテストじゃなくて実戦じゃないですか…そういう決まりなんですから勘弁して下さいよ」
【シャーロット】「分かってるわよ、あたしもそんな子供じゃないってば。やる事はきっちりやるから安心してちょうだい」

そんなやり取りを交わしながら廊下を歩いていると、こんな会話をしているバーナードのクルー2人とすれ違った。
「一体どういう事なんだよ?」
「こっちが聞きたいよ!なんでこんな場所に同盟の戦艦が…」
その2人は会話に夢中だったが、シャーロットに気付くと、慌てて敬礼をする。
彼ら2人とシャーロットの階級は変わらないが、彼女は同盟や共和国にも名前が知れ渡っている程の有名人で英雄である。そんな人間とすれ違ったら思わず敬礼してしまうのが人間というものだ。

シャーロットはシャーロットで、彼ら2人の会話が耳に入っていた。最初は何となく聞き流していたが、「同盟」という言葉に内心驚き、足を止めた。
既に繰り返している通り、ここは連合と共和国の境界地域である。同盟という言葉が登場して、疑問に思わない者はいない。そして、シャーロットは彼らにこう尋ねた。
【シャーロット】「さっきの話、どういうこと?よければ教えてもらえるかしら?」
【クルーA】「な、何でもレーダーになぜか同盟の戦艦の反応があったらしくて…」
シャーロットはそれを聞いた直後は「へぇ」という感じの反応だったが、数秒考えた後、いいアイデアを思いついたように再びそのクルーに話しかけた。
【シャーロット】「ちょっとブリッジまで…いいかしら?」
【クルーB】「は、はい!」
【ウィレム】「ま、まさか…」
ウィレムも何かを察したらしく、心配そうにシャーロットに話しかけるが、彼女はあっさりとそれを認めて一蹴した。
【シャーロット】「そのまさか、よ」

元々バーナードはこのエリアの哨戒任務にあたっていて、シャーロット達が新型のテストとして乗り込んでいるのはその「ついで」である。
【艦長】「しかし、こんな所に同盟の戦艦、しかも旧型艦の反応となると、誤検知の可能性が…」
【シャーロット】「だから、それを確かめに行ってあげるって言ってるんでしょう?こっちとしても新型のテストになるし、損になることはないと思うけど?」
【艦長】「とはいえ、連合のエースパイロットにそんな役回りは…」
【シャーロット】「あーもう、そういうのやめてってば!それに心配しなくても即撃破なんてことはしないわよ、ちゃんと確認するっての」

結局、彼女は周囲の反対を押し切る形でカタパルトに向かい、例の新型に乗り込んだ。
各種チェックを済ませ、起動する。そこにウィレムが確認の通信を入れる。
【ウィレム】『大丈夫ですか?』
【シャーロット】「問題なし。いつでも行けるわ!」
やがてシグナルが青に変わり、カタパルトが開いた。
【シャーロット】「シャーロット=ワーグナー、UDX-201/A『レグルス』、行きます!」


さて、話はクロスバードへと戻る。
【オリト】「そんな、連合のエースだなんて、ど、どうするんですか!?」
ようやく事態を飲み込んで慌て出すオリトだったが、他のクルーはアンラッキーと言っていた割には落ち着いている。
【カンナ】「説明したでしょ、あたしはともかくとして、ここのメンバーはみんな優秀だって。…シャーロットには及ばないかも知れないけれど、こっちには2人いるのよ、人型兵器乗りが」
【レイラ】「まぁ、謙遜してる当のカンナが一番優秀なんですけどねー…っと、準備はいい?」
レイラがオリトとカンナの会話に口を挟みつつ、その「2人」に向かって個人端末で呼びかける。
「もちろんだっ!」「同じく!」
【レイラ】「それじゃ、カタパルト開けるわ!」
男女それぞれの声をレイラが確認すると、コンソールを操作し、人型兵器が待機しているカタパルトが開く。それに合わせて、2機が発進した。
「ジェイク=カデンツァ、AATE-010C『アンタレス』、行くぜ!」
「アネッタ=クレスフェルト、AATE-008E『アルタイル』、行きます!」

【オリト】「というか、逃げないんですか!?超光速航行ができない訳じゃないって言ってましたよね!?」
オリトは相変わらずの調子である。それが普通の反応ではあるのだが、クロスバードの面々の中では明らかに浮いていた。
【ジャレオ】『いえ、先ほどのカストル暴走の影響がまだ…こっちが終わり次第向かいますけど、もう少しかかりそうです』
と、オリトの疑問にジャレオが通信で答える。彼は人型兵器の整備も担当しているので、今はカタパルト近くにいるのだ。
【カンナ】「そんなに心配しなくても、何とかなるわよ。それとも、あたしらが信じられないのかしら?」
【オリト】「あ、いえ、そんなことは…」
【クーリア】「幸い、相手は戦艦1隻、人型兵器1機です。いくら敵がエースといえど、2対1なら…勝つまではいかなくとも、最悪の状況は避けられるはずです」
ここまでみんなの話を聞いて、ようやくオリトも落ち着いてきた。


一方、シャーロット側もクロスバードの様子を捕捉していた。
【シャーロット】「敵戦艦から人型兵器2機の発進を確認…アンタレスとアルタイル!完っ全っにビンゴじゃないの!」
【艦長】『では…』
【シャーロット】「言われなくても何とかするわ。なんでこんな場所に同盟がいるのかは知らないけど…いくわよ!」
そう叫んで一気に加速し、2機のもとへと飛び込んだ。

さて、2人の機体を簡単に説明しておくと、ジェイクのアンタレスが近距離での格闘戦、アネッタのアルタイルが遠距離での射撃戦に秀でた機体である。
本来はどちらも白い量産機であるが、ジェイク機は赤、アネッタ機は水色のカラーリングが施されており、また多少のカスタムがなされている。但し逆に言うと、そのカスタムとカラーリングの変更以外は、ほとんど量産機と変わらない。

シャーロットのレグルスが2機のもとに飛び込んでくると、まずアルタイルが距離を取り、逆にアンタレスが受けて立つかのようにビームソードを抜いて構えた。
【アネッタ】「相手は新型よ!何を出してくるのか分からないんだから気をつけて!」
【ジェイク】「その前にぶった斬る!相手がエースだろうと新型だろうと関係ねぇ!」
アネッタの言葉もスルーして、逆に一気にレグルスに向かい突っ込むジェイク。
【ジェイク】「うおおおおっ!!」
【シャーロット】「あたしに突っ込んでくるとはいい度胸じゃないの!」
しかし、あっさりかわされる。だがそこに、アルタイルからビームランチャー。直前に気がつき、間一髪かわすシャーロット。
【アネッタ】「ったく、フォローするこっちの身にもなってみなさいよ、っと…」
【シャーロット】「アルタイルもいたわねそういえば…やってくれるじゃないの!」
それならば、とシャーロットはアルタイルの方へ向かう。
アネッタは応戦しようとするが、レグルスが速かった。一気に距離を詰められると、次の瞬間にはアルタイルの右脚が吹っ飛んでいた。

【アネッタ】「っ…!?」
しかしそれでもシャーロットは軽く舌打ちする。これで仕留めるつもりだったのだ。
【シャーロット】「ちっ…さすがに慣れないなぁ…」
そこに置き去りにされたジェイクのアンタレスが追いつく。
【ジェイク】「うおおおっ!!」
シャーロットのレグルスと再びぶつかり、何度か斬り合う。一方アネッタにはクロスバードからの通信が飛び込んでくる。
【レイラ】『アネッタ、大丈夫!?』
【アネッタ】「…問題ないわ!」
アネッタは意外と落ち着いていた。宇宙空間において人型兵器の脚部は「飾り」でしかない、ということもあったし、「相手がエースで新型ならこれぐらいやってくるはず」という見通しもあった。
そして再び彼女はビームランチャーを構え、ジェイクのアンタレスの援護に回る。そのまましばらく、ジェイク機とシャーロット機が直接戦い、それをアネッタが援護するという図式が続いた。

ところがクロスバードはといえば、レグルスの射程外からその様子を睨んで止まっているだけ。
【ゲルト】「こりゃ動くに動けねぇなぁ…」
【オリト】「どうしてですか?」
【ゲルト】「人型兵器にとっちゃ、戦艦はデカい的みたいなもんだからなぁ…特に相手はエース様ときた。あとは…分かるな?」
それを聞いてオリトも何となく察する。
【カンナ】「確かに現状では動けないけど…ゲルト、ミレア、いつでも動ける準備はしておいてね」
カンナが確認として声をかける。ミレアというのは、クロスバードの操舵手、ミレア=マードナーのこと。
なお、クロスバードを始めこの時代の宇宙戦艦に舵はなく、キーボードを使って戦艦を操作するのだが、旧時代の名残で艦を操る者のことを操舵手と呼んでいる。
【ゲルト】「分かってるって」
【ミレア】「了解、です」

【シャーロット】「っ、こっちが新型で慣れてないとはいえ、なかなかやるじゃないの…」
戦闘開始から数分経過。さすがにシャーロットもイラついてきた。相手が並のパイロットであれば、2機が相手でもそう時間をかけずに蹴散らすことができる。
そのイラつき、焦り、そして新型故の慣れなさが致命的な操作ミスを生んでしまった。
【シャーロット】「しまっ…!」
操作ミスから、レグルスの動きが完全に止まる。
慌ててフォローしようとするも、余計に焦ってしまい、上手くいかない。いくらエースといえど、彼女もまた人間である。この心理状況では、普段出来るはずのことも出来なくなってしまう。
なんとか立て直すものの、結局1秒前後の『空白』が生じてしまった。

…そして、1秒あれば、ジェイクとアネッタには十分であった。
【アネッタ】「動きが止まった!?」
【ジェイク】「何があったか知らねぇが!」
アネッタがすかさずビームランチャーを構え、数発撃ち込んでレグルスの動きを牽制すると、真っ直ぐにジェイクが飛び込む。
【ジェイク】「おりゃああああっ!!」
ビームソードを抜いて一閃。少なくともジェイクには、手応えのある一撃だった。

…が、すんでのところでシャーロットが立て直し、致命傷は逃れていた。
【アネッタ】「あれを避けるなんてっ…」
とはいえ、致命傷は逃れたものの、レグルスの右腕が吹き飛んでいる。
さらにその衝撃でシャーロットは流血。左手で額を押さえるが、赤い滴が流れ出す。

シャーロットはそんな状況でも、自身でも不思議に思う程に冷静だった。
【シャーロット】「稼動自体に異常なし、まだライフルが残ってる、と…」
どう考えてもこちらが不利、そもそも新型のテストであり無理はしてはいけない、という状況から、「これ以上の戦闘続行は不可能」と判断し、残ったレグルスの左腕でビームライフルを数発撃って2機を牽制しつつ後退を開始。
それでもアンタレスとアルタイルが追撃してくるとまずい状況だったが、幸いにも追撃はなく、彼女はそのままバーナードに帰還していった。

【レイラ】「凄い…『蒼き流星』を落とすまではいかなかったけど、撤退させた…!」
【カンナ】「感心するのは後よ!ジャレオ、いけるかしら!?」
【ジャレオ】『はい、何とか終わりました!』
【カンナ】「オッケー、それじゃあ2機を回収次第、超光速航行の準備に入るわ!」
ジェイク達が戦闘している間に、ジャレオがポルックスを調整して何とか超光速航行が可能なところまで持ってきたのである。
【レイラ】「ハッチ、開けます!」
すかさず戻ってきた2機が飛び込み、ハッチが閉まるのを確認すると、
【カンナ】「超光速航行、スタート!!」
すかさずカンナが叫ぶ。それと同時に、クロスバードは宙域から姿を消した。


一方、バーナード艦内。
応急処置をしてもらい、頭に包帯を巻いたシャーロットが廊下を歩いていた。
【シャーロット】「2機はあの状況で追撃してこなかった、敵艦は2機を回収後すぐに超光速航行に入った…」
うつむいて、何やらぶつぶつと先ほどの状況をつぶやきながら。端から見たらまるで不審人物である。
冷静に考えれば、予想外の事態に慌てていたのは間違いなく向こう側であり、こちらがもっと落ち着いて対処すればこんなことにはならなかったのではないか。
などと考えながら、自分の行動、艦の行動に落ち度がなかっかじっくりと考える。
最も、バーナードの行動は彼女の責任の範囲外ではあるのだが。

やがて何かを吹っ切ったように、壁をドンと軽く叩くと、前を向いた。
【シャーロット】「いつかまた会ったら…連中は必ず落とす!!」
そう叫ぶ瞳は、火が灯っているように見えた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第5章:血の意味、魔女の目覚め
 ホップスター  - 21/1/30(土) 0:20 -
  
【ジャレオ】「…超光速航行から抜けます!」
その合図で、クロスバードが通常空間に姿を現す。
【アネッタ】「周囲に人工物の反応、ありません」
【フランツ】「現在位置、共和国領である惑星エクアルスから約4光年です」
【カンナ】「さすがにここまで来れば連合のエース様は追ってこれないでしょうけど…」
【アネッタ】「今度は共和国軍を警戒しなきゃいけないわね…」


        【第5章 血の意味、魔女の目覚め】


連合との交戦から数日。
クロスバードは連合からの追撃を避けるため、敢えて共和国の勢力圏内へと飛び込んだ。
古いエンジンであるポルックス1基だけで移動しているため、およそ6〜8時間ごとに超光速航行と通常航行(あるいは待機)を繰り返しつつ現在位置まで来ている。


【カンナ】「…ところで、例の応答はまだかしら?」
そこで、カンナがレイラに訊いた。
【レイラ】「ありませんね…」
【カンナ】「色々理由は考えられそうだけど…どの道自力で戻るしかなさそうだし、あまり期待はしないでおきましょう」
【フランツ】「そうですね…」
何の話題かというと、端的に言えば同盟本国への連絡のことである。エンジントラブルで銀河辺境に飛ばされた時点で、同盟の首都惑星であるアレグリオ、及び合流予定である第4艦隊にその旨の通信を飛ばしているのだ。しかし、返答は現時点でまだない。

理由はいくつか考えられる。まず考えられるのが、クロスバードがいるのは敵地ド真ん中であり、そこに通信を飛ばそうとすれば当然敵に傍受される危険性があるというものだ。もちろん暗号化技術はあるが、100%解読されないという保証はない。
他にも単純に対応に困り返答ができないままでいるという説や、陰謀論めいた説まで飛び出しているが、とにもかくにも返答がない現在の状況ではどれも推測の域を出ないし、そもそも敵地ド真ん中にいる以上どんな返答が来ようと、いやそもそも返答が来ようと来なかろうと、結局は自力で戻るしかないのだ。


さて、話はブリッジに戻る。
この時代、艦船はかなりの部分で自動化が進み、少人数でも運用できるようになっている。クロスバードのクルーがミレーナ先生を含めてもわずか10人(現在はそれに加えてオリトがいる状態)というのがその証だ。
とはいえ、最後は人の手による指揮・操縦・管理が必要。艦船が稼働している限りは24時間、誰かが必ず起きていてブリッジに座っている必要がある。クロスバードは敵の勢力圏の真っ只中にあり、先日のように交戦する可能性もある。現在はクルーが交替制で代わる代わるブリッジに入っているため、全員が揃うということはない。
なお、このような戦艦の運用の都合上、戦艦運用に関わる兵士は誰でも全ての分野に対し最低限の知識・技術が必要となる。スペシャリスト揃いのクロスバードクルーでも同様で、例えば現在はアネッタがレイラの代わりにオペレーター役をこなしている。

【カンナ】「とりあえず…再び超光速航行できるようになるまで、ここで待機ね」
【ジャレオ】「了解しました。それじゃ、交代ですね」
【カンナ】「ジェイクとゲルトが起きてきたらで構わないわ、そんなに疲れてないし」

そんな話をブリッジでしていたところ、ミレーナ先生が久しぶりにブリッジに現れた。
【ミレーナ】「みんな元気でやってるかしら?」
【アネッタ】「あ、先生」
【カンナ】「今のところ問題ありません」
【ミレーナ】「ならオッケー。ところで、オリト君知らない?手伝いを頼みたいんだけど」
【アネッタ】「あぁ、オリト君なら今…」

そのオリトは、とある部屋にいた。…そこにはもう1人、副長のクーリアの姿が。
【クーリア】「…このように、共和国は大統領を始め各主要ポストをサグラノ、ハーラバード、ルスティア、ドゥイエットの4つの血族、いわゆる『4大宗家』が占めており、敢えて古代・中世のような『4大宗家による統治』という非常に独特の統治方式を取っています。当然私ら同盟や連合はそれを『自由・平等の原則に反する』などと批判していますが、そもそも政治制度ってのは最適解なんて都合のいいものは存在しない訳で、だからこそ3大勢力もそれぞれ政治体制が異なり、数万年という人類とチャオの歴史があっても未だにこうして戦争している訳ですよ」
オリトは時折メモを取りながら黙って話を聞いている。そこに、ブリッジで話を聞いたミレーナ先生が入ってきた。
【ミレーナ】「最近オリト君見ないと思ったら…」
【クーリア】「あ、ミレーナ先生」
【オリト】「な、なんかすいません…」

【クーリア】「…まぁ要するに、士官学校での授業を私らでオリト君にやっちゃおうって話です。実技方面はさすがにチャオの感覚が分からないので如何ともし難いですが…」
【ミレーナ】「なるほど…」
いつアレグリオに戻れるか分からない状況、帰った時にオリト君がどういう処遇になるかも不透明な状況である。ならばもう、やれることはやれるうちにやっちゃおう、という話である。X組のメンバーはスペシャリスト揃いなので、全員でやれば士官学校のカリキュラムをほぼ全てカバーできてしまうのだ。
【クーリア】「今のところすごく勉強熱心でよくやってますし、この調子でいけばアレグリオに戻っても優秀な成績を収められると思いますよ」
【ミレーナ】「なるほどねぇ…」
ミレーナは少し考えた後、こう続けた。
【ミレーナ】「保健の先生にどれだけの発言力があるかどうか…微妙なところだけど、もしアレグリオに戻った際は私も口添えしてあげましょうか?」
【クーリア】「そうですね、お願いします」
【ミレーナ】「あと…私の手伝いをする時間は確保してね?」
【クーリア】「それは…むしろ余り働かせすぎないようにして下さいよ…」
【ミレーナ】「分かってるわよー…」
ミレーナはなんだか不満そうな言葉を残して部屋から出て行った。

【クーリア】「とりあえず、キリがいいですし私の授業はこの辺りにしておきましょう。10分程休憩して…次は…」
と、手元の端末でスケジュールを確認してあることに気がつく。
【クーリア】「戦艦の構造についてのミレアの授業…って、大丈夫なんでしょうか…」
【オリト】「大丈夫って、何がですか?」
【クーリア】「あの子、知識も技術も間違いなく凄いんですけども、ちょっとコミュニケーションが苦手で…私らでも最近になってやっと普通に意思疎通できるようになったぐらいなんですよ」
【オリト】「そうなんですか…」
【クーリア】「だから授業のスケジュール組む時もミレアは外そうって考えてたんですけど、本人がやるって言って聞かなくて…」

…そこに、当のミレアが入ってきた。
【ミレア】「あ、あの、失礼、します。…ちょっと、早かった、ですか?」
【クーリア】「いえ、ちょうど私の授業が終わって休憩中ですよ」
【ミレア】「そう、ですか、よかった」
そう言いつつ、部屋の奥に置いてある端末に自分の個人端末を接続し、授業の準備を始める。
少し心配そうに見ていたクーリアが、思わず話しかける。
【クーリア】「…ミレア、本当に大丈夫?私が補助しましょうか?」
【ミレア】「いえ、大丈夫、です。…1人で、やります」
【クーリア】「そこまで言うなら…何かあったら連絡して下さいよ?」
クーリアはそう言い残し、相変わらず心配そうな表情をしながら部屋を出て行った。

その後しばらく、沈黙が続く。少し気まずい雰囲気が続く中、しばらく経ってようやくミレアが口を開いた。
【ミレア】「で、では、そろそろ、始めましょう、か」
【オリト】「あ、はい」
オリトもつられて似たような喋り方になってしまう。

【ミレア】「え、えっと、戦艦の、構造ですけど、基本的には、3大勢力ともに、似たような、構造を、しています。これは、恐らく、旧文明時代の、影響だと、思われますが、詳しいことは、分かっていません」
とりあえず、ちょっと喋るペースは遅いものの、何とか普通に授業が展開されていく。
ところでその隣の部屋には、さっき授業を終えたばかりのクーリアがいた。何をしているのかというと…
【クーリア】「とりあえず何とか普通に授業やってるみたいですけど…」
ミレアを心配しすぎる故に、先ほどの授業の際に部屋にこっそりカメラを仕込んで、様子をチェックしているのだ。もちろん、何かあったらすぐに助ける腹積もりである。
そこにもう1人、ゲルトが入ってきた。
【ゲルト】「副長さん、こんなトコで何やってんだ?」
そう言いながら入ってきたが、クーリアはすかさず指を唇にやり「しーっ!」のジェスチャー。ゲルトはちょっと驚いたが、クーリアがチェックしているモニターを見て、状況を察した。

【ミレア】「これは、戦艦以外にも、言えること、ですけど、つまり、私たちでも、連合や、共和国の、戦艦を、すぐに、動かせる、ということです。少なくとも、旧文明崩壊後に、数百年単位で、各惑星の、交流が、断絶していたことを、考えると、不思議といって、いいぐらいだと、思います」
話を聞きながら電子端末にメモを取るオリト。が、ふと手が滑り、端末を床に落としてしまった。
【オリト】「あ、すいません」
【ミレア】「いえ、お構い、なく」
喋るのを止め、オリトが端末を拾うのを待つ。
そこでふと、ミレアが視線を横に向けると、見覚えのある小さなかばんが置いてあるのを見つけた。クーリアのものだ。
【ミレア】「あれ、忘れ物、かな?」
と、そのかばんに手を伸ばす。

【クーリア】「あっ、しまっ…!」
【ゲルト】「おい、バレるぞ!」
…そう、そのかばんには、クーリアがカメラを仕込んであるのだ。

そしてミレアがクーリアのかばんに手をかけた瞬間、クロスバード艦内に警報音が鳴り響いた。
【ミレア】「!?」
ミレアは一瞬、自分がかばんに手を触れたから何らかのトラップが発動したのか、などとありえない考えを巡らせていたのに対し、逆にオリトは冷静だった。
【オリト】「敵襲!?」
すると、艦内にアネッタのアナウンスが響いた。
【アネッタ】『周辺宙域に共和国の戦艦を確認!クロスバード総員、戦闘配備!』


数分後、ブリッジにオリトも含めて、全員が集合した。
【カンナ】「全員集まったわね。状況説明お願い!」
【アネッタ】「はい。先ほど本艦の前方に、突如共和国の戦艦と見られる反応が複数出現しました。恐らく超光速航行から抜け出してきたものと思われます」
【フランツ】「…どこかの惑星の近くという訳ではないこの宙域で、この距離での鉢合わせ…正直、偶然とは思えません」
【クーリア】「まさか、共和国もクロスバードを認識している…?」
既に連合とは一度戦闘しており、自分達の存在は恐らく認識されているだろう。だが、まだ共和国とは接触していない。だからこそ共和国の勢力圏内を移動していたのだが、仮に共和国もクロスバードを認識しているとすると、その前提、ひいてはクロスバードの存亡自体もかなり危うくなってくる。

【カンナ】「となるとやはり…少なくとも逃げ切らないとマズいわね…ジャレオ、超光速航行は…さっき抜けたばっかりだったか…」
【ジャレオ】「ええ、正直に言って…無理です」
ジャレオから厳しい答えが返ってくる。カンナは状況確認のため、今度はアネッタからオペレーターを交代したレイラに問いかける。
【カンナ】「レイラ、敵艦の数は分かるかしら?」
【レイラ】「ふあぁ…まだ距離があるので、正確な数は…恐らく10前後だと思われます」
レイラは警報が鳴るまで仮眠していたので、まだ眠気が抜けきっていない。ただ、そんな状況でもやるべき事はやらなければならないし、何よりやってくれるメンバーが揃っているのがクロスバードである。
【カンナ】「中規模の艦隊1つ分、といったところかしら…」

そこで、ゲルトがあることを思い出した。
【ゲルト】「待てよ?…共和国のこの規模の艦隊で、今連合との戦いに出てるって言えば…ドゥイエットのとこじゃねぇのか?」
その言葉に、オリト以外の全員が何かを理解したような表情を見せた。オリトはたまらずクーリアに聞く。
【オリト】「ドゥイエットって、さっき習った『共和国の4大宗家』の1つですよね?」
【クーリア】「ええ、これは後々教える予定だったんですが…共和国軍の編制も同盟や連合とは大きく異なっており、基本的に4大宗家がそれぞれ『私設軍』を所持していて、それをまとめて『共和国軍』と称しています。一応担当宙域などが被らないように最低限の調整はしているようですが、使用戦艦や指揮系統、戦術に至るまで4つの宗家でバラバラです」
【オリト】「で、今俺達の目の前にいるのが、そのうちドゥイエット家所属の艦隊、ってことですか?」
【クーリア】「ええ。しかも恐らく、バリバリの主力。通称、『魔女艦隊』です」

【ゲルト】「ったく、蒼き流星の次は魔女艦隊かよ!もうツイてんのかツイてねぇのか分かんねぇなコレ!」
【カンナ】「どっちにしろやるしかないわ!ジェイク、アネッタはアンタレス、アルタイルに乗って待機してて!いつでも戦闘開始できるように!」
その合図で、それぞれが持ち場に移動。戦闘準備を開始した。


…共和国軍・ドゥイエット家私設軍主力艦隊、通称『魔女艦隊』。
その艦隊が『魔女』の二つ名を冠するのには理由がある。
当然、その強さが魔法のようだと敵から恐れられているというのが最大の理由だが、もう1つ。
艦隊の旗艦・プレアデスのブリッジの中央に座っているのが、クロスバードのクルーと年齢が変わらない、17歳の少女だからである。
【少女】「同盟の戦艦の情報、ビンゴでしたわね…さぁて、迷子の子猫ちゃんはどうするのかしら?」
彼女こそ、ドゥイエット艦隊の総指揮官にしてドゥイエット家当主の次女、アンヌ=ドゥイエットである。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第6章:すれ違う光と想い、振り返った先
 ホップスター  - 21/2/6(土) 0:07 -
  
共和国は4大宗家がそれぞれ私設軍を所持しており、それらをまとめて便宜上「共和国軍」と称している。
4大宗家によって使用兵器や戦術等もバラバラだが、ドゥイエット家の私設軍の特徴として「戦艦を中心とした編制」が挙げられる。
【ゲルト】「普通はあれだけの規模の艦隊なら、機動性のある人型兵器をある程度用意するんだけどな。ウチだってジェイクとアネッタ、2人がいるだろ?」
【オリト】「ふむふむ」
【ゲルト】「だが魔女艦隊は宇宙開拓時代からの伝統か何か知らんが、あくまでも『戦艦』にこだわってる。人型兵器が全くない訳じゃないんだが、標準的な編制よりはかなり少ないな」
【オリト】「なるほど…」

と、ブリッジでゲルトが「臨時の授業」をしていた、その時だった。
【レイラ】「艦長、共和国戦艦より、通信が入りました!交信を求めています!」


        【第6章 すれ違う光と想い、振り返った先】


その話に、ブリッジにいるメンバー全員が一瞬驚きの表情を見せる。
【フランツ】「我々と交信を求めてる…?」
【レイラ】「どういう事なんでしょう、敵艦である私たちに交信を求めるなんて…」
【カンナ】「…」
カンナは一瞬驚いた後は、無言のまましばらく考え込んでいたが、のんびり考えていられる場合でもない。
数秒の後、決断した。
【カンナ】「…分かったわ。チャンネル、合わせて!」
【レイラ】「了解!」

レイラが向こうの周波数に合わせて通信を開くと、投射モニターによってブリッジの正面に、1人の少女の姿が映し出された。
【アンヌ】『同盟のはぐれ戦艦の皆さん、初めまして。本艦隊の総指揮官であるドゥイエット家次女、アンヌ=ドゥイエットですわ』
【カンナ】「…惑星同盟軍の練習艦「クロスバード」艦長、カンナ=レヴォルタです。何か御用でしょうか」

カンナがそう返した後、しばし不自然な沈黙があった。アンヌの側が少し驚いていたのだ。
アンヌと違い、クロスバードの面々はまだ無名の存在である。よもや自分と同年代の少女が目の前に現れるとは思っていなかったのだ。
だが、そこは17歳で1艦隊を率いる人間。動じた素振りは見せずに、こう続けた。
【アンヌ】『…なぜ同盟の戦艦がこんな場所にいるのか、事情は分かりかねますが…私達は貴艦を救助する用意がありますわ』
今度はカンナ達、クロスバードの面々が驚く番である。ざわつくX組の面々。アンヌはその様子を察して、さらに続けた。
【アンヌ】『確かに私達は戦争の当事者同士。ですが、かつて人類が海で船を使っていた時代、遭難者は敵味方の隔てなく助けたと言われていますわ。もちろん見返りを求めたり、同盟に対して私達が手引きしたことを明かしたりするような下衆な真似をするつもりはございませんことよ』
【カンナ】「…」
【アンヌ】『今すぐに返答せよ、と言うつもりはありませんけども、私達もそこまで暇ではありませんわ。…1時間待ちます。返答がない場合、私達は貴艦を敵艦と認識し、攻撃いたします』

伝えるべき事柄を伝えたところで、アンヌの側は一旦通信を切ろうとしたが、その寸前でカンナがゆっくりと口を開いた。
【カンナ】「我々はあくまでも、自力での同盟帰還を目標にしています。お気遣いには感謝しますが、その申し出を受ける訳にはいきません」
かなり悩んだ末の判断だったが、つまるところ、このまま同盟へ単独で帰還できる可能性はまだ十分にある、とカンナは踏んでいたのだ。それならば、敵である共和国に救助を求めるというそれなりにリスクのある行動を取る訳にはいかない、ということだ。
その返答を聞いたアンヌは、やはり数秒の間を置いた後、こう答えた。
【アンヌ】『…そうなると私達としては、貴艦を敵艦と認識し、攻撃せざるを得ませんわね。…残念です』
そう告げると、プツリと通信が切れた。

通信が切れた後、しばしの沈黙がクロスバードのブリッジを包む。数秒して、カンナがようやく一言、つぶやいた。
【カンナ】「…みんな、ごめん」
【クーリア】「いえ、やはり敵の言葉を信用するというのは難しいですし…妥当な判断でしょう」
クーリアがすかさずなだめる。そしてカンナに代わるように、こう続けた。
【クーリア】「恐らくこのまま逃げても逃げ切るのは難しいと思われます。相手はあの魔女艦隊、リスクはかなり高いですが…もうこうなったらやるしかないでしょう。…敵艦隊に突っ込みます!」
そしてそのまま、カンナに声をかける。
【クーリア】「…大丈夫ですか?」
【カンナ】「ええ、もう大丈夫」
カンナはそう言うと艦内指示用の通信にスイッチを入れなおし、
【カンナ】「ジェイクとアネッタは出撃して!しばらくはクロスバードの近くで防御と援護を!そろそろ敵の射程圏内に入るわ!」
改めて指示を出した。

【オリト】「敵に突っ込むって、そんな…自殺行為じゃないんですか!?」
さて、オリトだけは相変わらず不安そうな表情のまま。それを聞いたクーリアがちょっとだけ説明をする。
【クーリア】「まぁ、ケースバイケースなんですけども…こういう場合、敢えて突っ込んだ方が有利な場合もあるんですよ」
【オリト】「そういうもんなんですか…」
オリトはそう言い、納得したような、納得しないような微妙な表情を見せた。

【アンヌ】「こうなった以上仕方がありませんわね…アトラス、アルキオネ、主砲用意!敵艦がこちらの射程圏内に入り次第撃ちますわよ!回避行動も怠らずに!」
一方のアンヌは、艦隊のうち2つの戦艦に対し、主砲の準備を指示。
【アンヌ】「さて、私達を前にして逃げ切れるとの自信…どれだけのものか、見せてもらいますわよ?」

【フランツ】「敵艦、砲身をこちらに向けているようです!射線、計算します!」
すると数秒後、ブリッジ中央に浮かんでいる大きな3Dマップに、赤い線が複数示される。
【カンナ】「ミレア!」
【ミレア】「了解、です。衝撃に、注意、してください」
ミレアが艦を操りクロスバードを大きく上方に向けると、その射線上から回避するようにクロスバードが動き出す。軽く衝撃が走った。そんな中、カンナは休むことなく次の指示を出す。
【カンナ】「ゲルト、こちらも主砲の用意を!目標は敵旗艦!」
【ゲルト】「悪ぃな、もうやってる!」
【カンナ】「分かってるじゃないの!」

…やがて、互いのセンサーが、互いを射程圏内に捉えたことを示した。
【カンナ】「発射準備はいい?行くわよ!」
【アンヌ】「さぁ、行きますわよ…」

【2人】「「撃ぇーっ!!」」

次の瞬間、宇宙に3本の光の線が引かれた。


最初の一撃は、互いに事前に警戒していたこともあり、回避する。
【カンナ】「フランツ、2撃目以降に注意して!ゲルト、細かい運用は任せるわ!ミレア、一気に突っ込んで!」
次々と指示を出すカンナ。
【ミレア】「了解、です。出力、上げます」
ミレアがそう答えると、クロスバードは一気に速度を上げ、魔女艦隊の中へと突撃を開始。
次の瞬間、敵の2撃目以降の射線が次々と赤い線で示される。当然向こうの狙いはクロスバード1隻なので、その赤い線のほぼ全てがクロスバードの方へと向かっている。
【オリト】「こ、こんなに…!」
【ミレア】「大丈夫、です」
ミレアはそう自信あり気に答えながらキーボードを高速で叩き、クロスバードを操作する。
やがて次々と敵のビーム砲が襲い掛かってくるが、それをほぼ全てをギリギリで避けつつ、魔女艦隊へと突き進んでいった。
【オリト】「す、すげぇ…!」
そしてそんな中で、今度はゲルトの声が飛ぶ。
【ゲルト】「出し惜しみナシだ!副砲2門、右舷ミサイル、まとめて発射!」
タイミングを見て反撃を行っていく。

【アンヌ】「こちらの攻撃を避けつつ突っ込んでくるですって!?…普通はできませんわよそんなこと…」
ここまでくると、アンヌ側も相手が只者でないことに気がつき始める。艦隊にとって一番厄介なのは懐に飛び込まれることであるが、当然相手側にも大きなリスクが伴うので、それを正面切ってやってくる戦艦はまずいないのだ。
すると次の瞬間、一瞬だけ少し周囲が明るくなったような気がした。アンヌが「まさか」と思った少し後に、報告が飛び込む。
【通信員】「メローペ、被弾!」
【アンヌ】「当ててきたですって!?」
【通信員】「損傷軽微、作戦続行に支障はないとのことです!」
とはいえ、相手の攻撃がこちらの戦艦に当たったという事実はかなり重い。それを素早く判断を下す。
【アンヌ】「メローペは下がって後方から支援砲撃を!…仕方ありませんわ、プロキオンを出しますわよ!」
プロキオンとは、ドゥイエット家が所有している人型兵器。ドゥイエット家は戦艦中心の編制をとっているため数こそ少ないものの、性能的には同盟や連合の機体と大差はない。
なお、ドゥイエット家は戦艦中心の運用ということもあり、機体の運用については同盟や連合と異なる。あくまでも「戦艦のサポート」が中心で、人型兵器が積極的に敵と交戦する、ということは少ない。

【レイラ】「敵戦艦のうち1隻、後退していきます!命中した模様!」
【カンヌ】「残りは!?」
【レイラ】「こちらで確認できた敵艦は9隻!残り8隻です!」
【カンヌ】「状況的には相変わらずきついわね…全部落とすのは無理でも、相手を動揺させるところまで持っていければ…!」
その時、普段は声がそんなに大きくないミレアが、珍しくブリッジ全体に聞こえる声を発した。
【ミレア】「しまっ…!」
つまるところ、操舵ミスである。ブリッジ中央の巨大な3Dモニターでは、1本の赤い射線がクロスバードを貫く様子が映し出される。
そして次の瞬間、敵戦艦のうち1隻から、その射線通りにビーム砲が飛んできた。ブリッジへ一直線に向かっていく。
【オリト】「うわああああっ!」
思わず身を伏せるオリト。

…だが、何も起こらない。相変わらず戦闘音がブリッジに響いている。
どういうことかとオリトが顔を上げると、ブリッジ正面のモニターにはジェイクのアンタレスの姿があった。人型兵器のシールドで防いだのだ。
【ジェイク】『ふーっ、危ない危ない!ま、近接型機体にとっちゃこの状況は暇だからいいんだけどな!』
【アネッタ】『ミレア、多少のミスはあたしらでカバーするから、落ち着いて!』
人型兵器の2人から通信が飛び込む。ミレアは恐縮そうにお礼を言った。
【ミレア】「あ、ありがとう、ございます」
【ゲルト】「礼は後だ!次が来っぞ!」
気を取り直して、ミレアは再びキーボードを叩く。

だがまだまだ気は抜けない。間髪入れずに、レイラから状況報告が飛び込む。
【レイラ】「敵戦艦から複数の人型兵器の出撃を確認!ドゥイエット家の標準機・プロキオンだと思われます!」
【ジェイク】『おっ、出番か!?』
【クーリア】「ドゥイエット家は基本的に人型兵器を支援目的でしか運用しませんから…残念ながらここでクロスバードのお守り続行です」
【ジェイク】『マジかよっ!』
残念がるジェイクをスルーしつつ、今度はアネッタに対し指示を出す。
【クーリア】「アネッタはそのまま支援砲撃を続けて!」
【アネッタ】『了解!』

そうこうしているうちに、魔女艦隊とクロスバードの距離が迫ってくる。相変わらず、魔女艦隊の猛攻を針の穴に糸を通すような舵取りでほぼ全て避けていくクロスバード。
【アンヌ】「相手の操舵手、相当やりますわね…これ以上近づかれると…!」
懐に飛び込まれると、乱戦になり同士討ちの可能性が出てきてしまうので、アンヌとしてはできればその前にクロスバードを沈黙させたかったのだが、目論見が外れた格好だ。
このままではまずい。アンヌは少し迷ったが、決断した。
【アンヌ】「仕方ありませんわね…プランSに移行しますわ!」
【副官】「了解!」

【カンナ】「…よし、ここまで距離を詰められればいけるわ!ゲルト、主砲準備!」
【ゲルト】「了解っ!」
【カンナ】「ミレア、できるかしら!?」
【ミレア】「…やります!」
カンナの確認に対し、ミレアは普段の彼女らしからぬしっかりとした声で答えた。
【カンナ】「オッケー、主砲を敵旗艦に向けて!そのまま突っ込むわよ!」
その指示で主砲が角度を変え、魔女艦隊の旗艦・プレアデスをロックし、さらにそのままプレアデスに向かって突っ込んでいく。まるで特攻であるが、魔女艦隊の他の戦艦は同士討ちを恐れ迎撃が消極的なものになり、むしろ当初よりも攻撃の質・量ともに減っていた。
【カンナ】「そのまま至近距離ですれ違うわよ!多少ならぶつかっても構わないわ!」

果たして目論見通り、他の戦艦の攻撃を最小限に抑えながら距離を詰めていき、まさにクロスバードとプレアデスがすれ違おうとした、その瞬間だった。
【フランツ】「一旦下がった敵艦、再び前進してきます!」
【カンナ】「!?」
被弾して後方に下がっていた敵艦・メローペが前進し、クロスバードの真正面に構えたのだ。しかも、主砲はクロスバードをしっかりとロックしている。被弾したとはいえメローペの損傷は軽く、戦闘続行には問題なかったのだ。
【クーリア】「やられたっ!」
このままではメローペの主砲の餌食になる。慌てて停止するクロスバード。
さらにその間に、プレアデスとメローペ以外の魔女艦隊の戦艦が一斉に動き、クロスバードをグルリと取り囲んだ。こうなると、逃げ場は完全にない。

【クーリア】「…申し訳ありません、私のミスです。被弾した敵艦が完全に下がらなかった時点で予測すべきでした…!」
【カンナ】「クーリアのせいじゃないわ。そもそも論になるけど、普通なら魔女艦隊に捕まった時点でチェックメイトよ。むしろよくやってくれたわ」
悔しそうな表情を見せるクーリアをなだめるカンナ。だがそれっきり、クロスバードのブリッジには沈黙が走る。

やがてその沈黙を破るように、プレアデスのブリッジにいるアンヌから通信が入った。
【アンヌ】『…さて、最後にもう一度だけお伺いしますわ。私達は貴艦を救助、及び保護する用意があります。これを拒絶する場合、貴艦を敵艦とみなし、攻撃いたします。…賢明な判断をお待ちしていますわ』
プツリ、と通信が切れる音が、クロスバードに空しく響いた。

しばらく経って、カンナがゆっくりと通信開始のキーを押す。ゆっくりと、悔しさを噛み殺しながら、こう答えた。
【カンナ】「こちらクロスバード艦長、カンナ=レヴォルタです。…本艦の救助及び保護を、お願いいたします」
クロスバードとプレアデスの距離は、わずか数mだった。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第7章:巡り巡る思惑と甘い夢
 ホップスター  - 21/2/13(土) 0:04 -
  
魔女艦隊旗艦・プレアデスの、とある一室。来客のための部屋で、シンプルながら高級感漂う。
【アンヌ】「さてと…ゆっくりお話を聞かせてもらおうかしら?」
と、アンヌが正面に座ったカンナに対して話を切り出した。
【カンナ】「…何を話せばいいのかしら?同盟軍の動き?編制?それなら申し訳ないけれど、あたしらに話せることはないわ」
カンナは半分投げ槍な様子で逆にアンヌに尋ねる。クロスバードに現在乗っているのは士官学校の学生と軍医のミレーナ先生、それにオリトだけなので、共和国軍にとって「役に立つ」情報は実際ほとんど持っていない。
【アンヌ】「そんなつまらない話は諜報部に放り投げてしまえばいいのですわ。…そうですわね、まずは好きなスイーツから伺おうかしら?」
【カンナ】「す…スイーツ?」
【アンヌ】「ええ。どんなに銀河が広くて、互いに戦争していようが、スイーツが嫌いな女子などいません!これぞ宇宙の真理ですわ!!」
【カンナ】「た、確かにスイーツは好きだけど…」
さすがのカンナも、スイーツについて力説するアンヌに呆然とした。


        【第7章 巡り巡る思惑と甘い夢】


クロスバードの他のメンバーは、同じ部屋に集められていた。そこに共和国軍の男性が1人入ってくる。
【ドミトリー】「失礼します。私、ドゥイエット家艦隊の副司令官を務めております、ドミトリー=グラマチェフと申します」
【クーリア】「クロスバード副長、クーリア=アレクサンドラ=オルセンです」
この場にカンナがいないので、副長のクーリアが立ち上がり挨拶する。
【ドミトリー】「私から簡潔に状況を説明させて頂きます。現在、我が艦隊は惑星エクアルス付近を移動中です。それと…」
【クーリア】「何でしょうか?」
【ドミトリー】「答えられる範囲で構いませんので、一応ここに迷い込んだ事情だけお伺いさせて下さい。本来はアンヌ様がそちらの艦長様に伺うべき内容なのですが、アンヌ様のことですから恐らく雑談で時間を潰してしまいますので…」
【レイラ】「ざ、雑談?」

どういうことか分からない表情をするクロスバードの面々だったが、果たしてその通りになっていた。
【アンヌ】「そうそう、ケーキも外せませんわ!」
【カンナ】「ケーキいいわね!色々あるけど、やっぱり定番のショートケーキが…はっ!」
突然カンナが言葉に詰まる。
【アンヌ】「どうされましたかしら?」
【カンナ】「スイーツに…乗せられてしまった…ここ敵艦なのに…目の前に敵の司令官がいるのに…」
そんなつもりは全くなかったはずなのに、気がつけばスイーツの話で盛り上がってしまった。恥ずかしさで顔が赤くなる。
それと同時に、こうして相手を丸め込んでしまうというのも、魔女艦隊の強さの理由の1つなのだろうと感じていた。

【アンヌ】「本来ならば貴方達は捕虜として、戦争法に則った扱いを受けてもらうのでしょうけども…私達はそんな決まりきった扱いが正しいとは思ってませんわ。ルールに縛られた組織は硬直化し、却ってそれが足枷となりやがて瓦解する…それが私達、宇宙共和国が敢えて古代・中世のような『4大宗家による統治』という政治体制をとっている理由ですわ…と、これはさすがにご存知だったかしら?」
【カンナ】「ええ、基本的なことは存じています」
さすがにこの辺りの事柄は、共和国にとって敵国である同盟や連合にとっても一般常識の範疇である。魔女艦隊との交戦前にクーリアがオリトに4大宗家について教えていたが、その理由や詳細についてもクーリアが今後教える予定だった事柄だ。
【アンヌ】「『心ある者による心ある統治』、これが共和国の大原則。例え敵国の人間であろうと、心ある者に対しては友人として接したいですし、それができるのが共和国。ですから私達としては、貴方達をお客様として、いや友人としてお迎えしたいですわ。それに…」
【カンナ】「それに?」
【アンヌ】「共和国自慢のスイーツも紹介したいですわ!」
【カンナ】「そ、それは…悔しいけどちょっと食べたい…」


【ドミトリー】「皆様は士官学校の学生で、練習航海で超時空移動をしていた際にエンジンが故障した結果、同盟から遠く離れた共和国・連合の境界宙域に飛ばされた…ということでよろしいですか?」
【クーリア】「ええ、間違いありません」
【ドミトリー】「ありがとうございます」
ドミトリーに簡単な事情説明を行ったクーリア。しかし、彼女達には1つ気になることがあった。ゲルトがたまらず質問する。
【ゲルト】「あのー、1ついいか?」
【ドミトリー】「何でしょうか?」
【ゲルト】「俺達のクルー、ここにいるメンバーと艦長以外にチャオが1匹いるんだけど、どこに行った?」
…そう、オリトがこの場にいないのだ。どうやら自分達とは別室に案内されたようだ、というのは何となく把握していたが、やはり不安である。
【ドミトリー】「あぁ、チャオの彼でしたら、こちらの担当の者がついております。ご安心下さい」

オリトが案内されたのは、チャオ用の小さいサイズの部屋。スラム育ちで、士官学校入学と同時にクロスバードに迷い込んでからは人間用の部屋を借りていたオリトにとって、『チャオ用の部屋』というのは初めての経験だった。
【オリト】「すげぇ…チャオ用の部屋があるなんて…」
以前述べたように、どの勢力も軍に所属している兵士のうちおよそ9割が人間である。そのため、いずれにおいても戦艦でもチャオ用の部屋が用意されている戦艦は少なく、大半のチャオ兵はオリトのように人間用の大きな部屋を借りているのだ。そのため、「チャオ用の部屋がある戦艦」というのは本当に珍しい。
思わず部屋中を見回すオリト。そこに、1匹のチャオが入ってきた。
【チャオ】「やぁやぁやぁ、色々とごめんねー。僕はルシャール。しがない共和国兵さ」
【オリト】「ど、どうも」
【ルシャール】「敵とはいえ、お互い数少ないチャオ兵士なんだ。仲良くしていこうじゃないか。堅苦しいのはナシで、分からないことがあれば何でも聞いてくれていいよ」
【オリト】「あの…変なことかも知れないですけど、いいですか?」
オリトが恐る恐る尋ねる。
【ルシャール】「お、何だい?」
【オリト】「俺達のクロスバードって、エンジン壊れて超光速航行が飛び飛びにしかできないはずなんですけども…修理するんですか?できないとしたら、どうやって同盟の近くまでクロスバードを持ってくんですか?」
【ルシャール】「技術的な質問かよ!」
さすがにルシャールもこれは予想外で、ツッコミを入れずにはいられなかった。だが気を取り直して答える。
【ルシャール】「まぁ僕も専門じゃないから詳しくは解らないけど、やっぱり同盟軍のエンジンを修理するには共和国の技術じゃそこそこ時間がかかるらしくって、それならさっさと同盟に帰してあげたほうがいいって結論になったらしいよ」
【オリト】「なるほど…」
ちなみにこれは同盟に比べて共和国の技術が遅れている、という訳ではなく、単に技術体系の違いである。
【ルシャール】「で、どうやって運ぶかだけど、なんでもこっちの戦艦にくくりつけときゃ一緒に動いてくれるらしいぜ?ご都合主義もいいとこだよなー」
【オリト】「ご都合主義って…」
意外な答えにオリトは困惑した。実際にクロスバードは現在、魔女艦隊の大型戦艦であるアトラスに曳航されている状態である。ちなみに艦内には調査と曳航作業のため共和国軍の兵士が数人入っているが、クロスバードは旧型艦でかつ練習艦ということもあり、共和国にとっては得られる情報はほとんどなかった。

【ルシャール】「…あ、そうだそうだ。これを見せるのを忘れてた。これ、知ってるかな?」
と、何かを思い出したようにルシャールは個人端末を取り出し、軽く操作する。浮かび上がった画面は、とあるニュース記事のものだった。

【オリト】「『士官学校の練習艦、行方不明から1週間/関係者の不安募る』…って、俺達のことじゃないですか!」
【ルシャール】「そう。もう共和国でも結構話題になってるよー」
実のところ、自分たちがニュースになっている、ということは艦長のカンナ以下、クルーは知っていた。知らなかったのは、予想外の出来事の連続により事態の把握でいっぱいいっぱいだったオリトだけである。


【アンヌ】「…しかし驚きましたわ。政治家、官僚、軍司令官、科学者、大企業の経営者…皆さん、いずれ劣らぬ超エリート家の出身なのですわね」
そうアンヌが例のニュース記事を見ながらカンナに言う。
【カンナ】「なんか貴方には言われたくないわね…」
カンナが微妙な表情をしながらそう返した。共和国の4大宗家は、共和国内での扱いは一般的に言うところの王族のそれに近いのである。
【カンナ】「しかし当事者が言うのもアレだけど、よくマスコミが報じたわねこれ…正直もみ消されると思ってたわ、こっちから同盟方面に通信飛ばしても全然応答ないし」
軍の立場からすると、学生の練習艦とはいえ自軍の戦艦が行方不明になるのは言わば「不祥事」であり、隠したくなる事実である。しかも乗ってるのがほとんどエリートということになれば、ますます事を荒立てたくないものだ。
【アンヌ】「それなんですが、どうも軍内部からメディアにリークがあった、と別の記事にありましたわ。細かいことはそれこそ貴方達の方が詳しそうですが…」
その話を聞いて、カンナがアンヌにとって聞き慣れない単語を口にする。
【カンナ】「海溝派の連中かしらね…」
【アンヌ】「『かいこうは』?」
【カンナ】「…ま、同盟軍も一枚岩じゃないってことよ。共和国みたいに家ごとに結束が強い訳でもないし、連合みたいな強力なリーダーがいる訳でもないしね」
カンナはそう示唆だけし、多くは語らなかった。
【アンヌ】「なるほどねぇ…」
それに対し、アンヌもシンプルな言葉で答えた。この辺りは、互いに色々と考えが回った結果である。そしてしばらく、2人共に言葉が出ないまま、ニュース記事を読んでいた。

同盟軍内には大きく2つの派閥があり、それぞれ「山脈派」と「海溝派」と呼ばれている。現時点ではこの対立は表面化しておらず、共和国や連合には「同盟軍内で派閥争いがあるらしい」という程度の「噂」としてしか情報は流れてこないが、水面下では激しい主導権争いが繰り広げられている。
ちなみにアレグリオの士官学校は校長が山脈派のメンバーであるため、どちらかというと山脈派寄りと見なされており、それ故にカンナも海溝派のリークがあったのではと勘ぐったのだ。


数時間後、それぞれに一通り話を聞き終わったところで、カンナ達クロスバードのクルーはクロスバードに戻ることを許された。但し、もちろん「監視役」付きである。
【アンヌ】「成程、これが同盟の戦艦のブリッジですか…」
【ジェイク】「って、なんで魔女艦隊の司令官がこんな所に座ってるんだよ!」
【アンヌ】「言ったでしょう?私が直々に監視役を務めますと」
【ジェイク】「だからそれが意味分かんねぇって!」
【アンヌ】「まぁ、色々と建前は喋れますけども、スバリ本音を言いますと、『皆さんに興味が出てきた』というところかしら?」
【クーリア】「というか、艦隊への指示とかは大丈夫なんですか?」
【アンヌ】「個人端末を持ち込んでるので問題ありませんわ。それに万が一の際はドミトリーがしっかりやってくれます」
と言いながら、自らの個人端末を皆に見せる。状況分析や各艦への通信など、『司令官の仕事』をするにはこれ1つで十分だ。
ちなみに、彼女が座っているのは本来ミレーナ先生が座るはずの席である。その様子を見たミレーナ先生はというと、
【ミレーナ】「まー、元からあそこに座る意味ほとんど無かったしねー」
【オリト】「先生、いいんですかそれで…」
と、良くも悪くもいつもと変わらない。

【カンナ】「…というかそもそも、これからあたしらはどこに行くのよ?ちゃんと同盟に返してくれるんでしょうね?」
【アンヌ】「あぁ、そうでした、今後の予定についてもお伝えしなければいけなかったですわね…航宙士さん、ちょっとよろしいかしら?」
【フランツ】「えっ、あっ、はい」
いきなり話を振られて驚くフランツを横目に、アンヌはフランツの席へ向かい、航宙士専用の大きな3次元モニターに自らの個人端末を接続する。
銀河全図から徐々にズームインしていき、今現在魔女艦隊がいる惑星エクアルス付近の図を示した。
【アンヌ】「本来であればこのまま真っ直ぐ同盟方面へ向かいたいところですが…それだと少し補給が必要なので、惑星フレミエールの基地へ向かいたいと思いますわ」
と、3次元モニターにフレミエールの位置が示される。
【アンヌ】「それともう1つ。私達が突然同盟の勢力圏内に現れてもただの敵襲になってしまいますわ。そこで…」
今度はかなりズームアウトした後、座標を移して再びズームイン。同盟と共和国の境界宙域の図を示した…が、銀河の中央付近、危険地帯のすぐ外側に同盟でも共和国でもない色分けで示されたエリアがある。
【フランツ】「まさか…グロリア王国領へ?」
【アンヌ】「ええ。中立国であるグロリア王国経由であれば、互いに危害が及ぶことなく引き渡せると考えていますわ」
【クーリア】「なるほど…」
グロリア王国。全部で5つの惑星から構成される小勢力であり、名前の通りこの銀河時代においても王制を続けている。また、同盟と共和国の境界宙域にあるが、この2勢力が戦争状態に突入して以降中立を宣言し、戦争に介入していないことでも知られている。

アンヌがこれからについて軽く説明した後、今度は端末の通信機能をオンにすると、魔女艦隊の全艦艇に向けてアナウンスした。
【アンヌ】「それではこれから、私達は惑星フレミエールへと向かいます。全艦、超光速航行準備!」
【レイラ】「準備!…ってあたし達はしなくていいんだっけ」
【ジャレオ】「ですね、正直ここに座ってるのもあんまり意味ないです」
【カンナ】「ま、司令官様がいるんだから格好だけでもつけておきましょう」

【アンヌ】「皆さん、準備はよろしいですか?」
その声に対し、各艦から次々と「準備完了」との旨の通信が入る。全ての艦艇から準備OKとの連絡が入ったのを確認すると、アンヌは叫んだ。
【アンヌ】「それでは…全艦、超光速航行、開始!」
次の瞬間、あの独特の感覚がクロスバードを包んだ。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第7.5章:人の理由とチャオの理由
 ホップスター  - 21/2/20(土) 0:03 -
  
クロスバード・ブリッジ。
魔女艦隊に曳航され、フレミエールへ移動中である。
そのブリッジでは、艦長であるカンナが1人、システムチェックをしていた。他のクルー、それにアンヌは別室で作業中か、休憩中である。

【オリト】「…失礼します」
そこにオリトが入ってくる。
【カンナ】「お、来た来た。いらっしゃい」
【オリト】「で、用事というのは…?」
オリトが尋ねる。他でもない、カンナがオリトを「用がある」とブリッジに呼び出したのだ。

【カンナ】「…ちょっと、話が聞きたかったのよ。オリト君について」
【オリト】「俺について、ですか?」
オリトが首を傾げる。
【カンナ】「ええ。そういえばオリト君のことよく知らないな、って思ってね。どうせしばらく一緒に行動するんだしさ」
そう言いカンナは、仮想キーボードの操作を止め、椅子を回してオリトの方を向いた。


        【第7.5章 人の理由とチャオの理由】


【カンナ】「まずこれはだけは聞いておきたかったんだけど…オリト君は、どうしてここにいるのかしら?」
【オリト】「え?」
突然の質問に対して、オリトは戸惑い、こう答える。
【オリト】「それは、入学式の日に迷い込んで、気が付いたらクロスバードに…」
そこまで言ったところで、カンナが慌てて訂正する。『それ』は、カンナも既に大まかにではあるが聞いている。
【カンナ】「あーごめんめん、違う違う。どうして士官学校に入ろうって思ったのか、ってことよ」
【オリト】「あ、そういうことですね」

それを聞いたオリトは、こう答えた。
【オリト】「俺みたいなスラム育ちには、勉強ができても士官学校ぐらいしか選択肢がないですし…今の時代、いい学校はそれに見合ったいいお金を払わないと入れないんですよ」
【カンナ】「確かにね…」
カンナはそれを頷きながら聞いていた。

そこで、今度はオリトがこう返す。
【オリト】「艦長さんは、どうしてですか?」
【カンナ】「えっ!?」
予想していなかった『逆質問』に、思わず聞き返すカンナ。
【オリト】「あ、えっと…艦長さんのご実家は政治家一家ですよね?士官学校じゃなくて普通の学校でそういうことを勉強するっていう選択肢もあったんじゃないのかな、って…」
そうオリトが説明する。確かにカンナの父親は同盟では有力な国民議会議員であり、他の家族もほぼ全員が政治家であることで有名である。カンナも当然、将来はそういう道に進むのだろうと、少なくとも周囲は思っている。
【カンナ】「あー、それね」

カンナはそれを聞き、こうつぶやいた。
【カンナ】「そうね…確かにそうする選択肢もあったかも知れないわね…」

そして、少し考えて、こう説明した。
【カンナ】「小さい頃から、つまらない大人の都合で国ごと振り回されるのを散々見てきたから…ならいっそ、自分の手でこの戦争を終わらせてみたい、って思っちゃったのよ」
【オリト】「なるほど…」
【カンナ】「ま、つまりはただの反抗期ってやつかしらね。家族みたいに政治の力じゃなくて、自分は実力でみんなの役に立ちたいって。…結局、血は争えそうにないけどね」
そう言い、カンナは苦笑いした。


それからしばらく、カンナとオリトはブリッジから、何もない外の景色を眺めていた。超光速航行中なので、外は星空もなくただ漆黒が広がるのみである。

そして、ふとオリトが思い出したようにこうつぶやいた。
【オリト】「あ、そうだ。もう1つ、ここにいる理由があるんです」
【カンナ】「何かしら?」
【オリト】「これは半分後付けなんですけど…士官学校に入るって決まった時に、すごくスラムのみんなから祝福してもらえて。そんなみんなの希望になれたら、って思うんです」
【カンナ】「へぇ、素晴らしいじゃない!後付け結構よ!」
カンナがそう笑顔で返す。
【オリト】「いや、そんな大したものじゃ…」
【カンナ】「ううん、後付けでも何でも、そういう思いを持ってるのはいいことよ。結局自分のことしか考えてないあたしとは大違いよ」

カンナはそう言い、こう続けた。
【カンナ】「これからクロスバードがどうなるか分からないけど…将来もし何かあった時は遠慮なく頼ってくれていいわ。もちろん、あたしにできることには限りがあるし、そもそも誰かに頼られるほど人間出来てないけど…それでも、オリト君の助けになりたいから」
【オリト】「そ、そんな…ありがとうございます」
オリトは遠慮がちに一礼した。


【カンナ】「…あ、そうだ!もう1つ頼みたいことがあるんだけど…いいかしら?」
改めてカンナがそう尋ねる。
【オリト】「いいですけど…何でしょう?」
【カンナ】「ちょっと言いにくいんだけど…」
そこまで言って、カンナが少し口ごもるが、こう続けた。

【カンナ】「艦長室の掃除…頼めるかしら?」
【オリト】「艦長室…ですか?」
思わず聞き返すオリト。そう、クロスバードに迷い込んだ時に最初にカンナと話した、あの散らかった艦長室である。
【カンナ】「ええ…さすがにいい加減片付けようってずっと思ってたんだけど、こんな状況になっちゃったでしょ?…やるにやれなくなっちゃって…」
そう説明するカンナ。しかし、要するに面倒事の押しつけである。
【オリト】「わ、分かりました…」
オリトは安請け合いするんじゃなかった、と内心思いつつ、渋々承諾することにした。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第8章:ただ大気の底を眺めて
 ホップスター  - 21/2/27(土) 0:03 -
  
フレミエールへの移動中、クロスバードの一室。
【カンナ】「…それじゃ、特別授業、始めましょうか」
【オリト】「こんな状況でもやるんですか!?しかも艦長が!?」
そう、オリトへの授業である。本来はカンナは艦長という立場のため授業の担当から外れていたが、共和国に捕まり曳航中である現在は、つまるところ暇なのだ。
【カンナ】「時間がもったいないじゃない。今日はクーリアと相談して、銀河史の概要をやることにしました!」
【オリト】「とりあえず…ノートアプリ出すんでしばらく待って下さい…」
と、渋々自らの端末を準備するオリトだった。


        【第8章 ただ大気の底を眺めて】


【カンナ】「とりあえず一般常識の範囲ではあるけど、まずは基本的なことからやりましょうか。…人類とチャオが宇宙に進出して以降の歴史は、一般的に3つに区分されてるわね。つまり旧文明時代、宇宙開拓時代、そして今の銀河戦国時代ね」
人類とチャオが宇宙に進出するようになってからおよそ3000年。その活動域は銀河全体に広がり、かつてない繁栄を謳歌していた。
…だがその旧文明は、俗に『大崩壊』と呼ばれる事件で崩壊してしまう。
【カンナ】「大崩壊というのは、およそ550年前に起こった、一斉に全銀河の大半の惑星の文明が崩壊した事件のことね。とはいえ、そもそも光の速さでも端から端まで数万年かかるこの銀河で、どうして一斉に文明が崩壊したのか。その詳細は今でも不明のままよ」

と、そこまで説明したところで、ある人物が現れた。
【アンヌ】「何やら面白そうなことやってますわね!」
…他ならぬこの人である。
【オリト】「何でこんなところにいるんですか!?」
【アンヌ】「折角ですから、艦内を見て回ろうかと思いまして。…で、何をやっているのです?」

アンヌの疑問に対し、カンナが説明する。それに対するアンヌの答えは、カンナとオリトの予想通りだった。
【アンヌ】「それは是非!私にもやらせて下さい!」
【カンナ】「…まぁ、そうなるわよね…」
さすがに断る訳にもいかず、軽く状況説明をして、アンヌにバトンタッチ。

【アンヌ】「それでは、大崩壊後からですわね。…大崩壊の後も、超光速航行が可能な技術レベルを保持できた惑星はわずか。しかしそのわずかに残ったそれぞれの惑星が、もう一度銀河へと進出し始めました。私達がこれから向かう予定のグロリア王国もそのうちの1つですわね。そしてそのうちの3つの惑星が、後に現在の3大勢力の原型となったのです」
この時代がいわゆる「宇宙開拓時代」である。
【アンヌ】「しかしいくら銀河が広いといえど、無限ではありませんわ。銀河全域をほぼ開拓しきり、他の勢力と接触すれば、当然少なからず争いが起こります。最初は小さな行き違いであっても、誤解が誤解を生み、やがて大規模な戦争になっていく…こうして3大勢力を中心として銀河全体が戦争状態に突入してからおよそ50年、現在新銀河暦564年4月、銀河戦国時代の真っ只中ということですわね」
新銀河暦の年数から分かるように、この暦は大崩壊が起こった年を元年として制定されている。但し、あくまでも推定であり、正確な年代は不明である。

【アンヌ】「…さて、話を旧文明に戻しますわ。旧文明については分かっていないことも非常に多いですが、わずかに残っている記録や遺構物の調査などから、全銀河が1つの統一された政府の下にあったと推測されています。現に私達が使用している戦艦や人型兵器も、細部の差はあれど基本的な構造は3大勢力ともに同一。こうして同盟の皆さん相手に共和国の私が普通にお喋りしてもほぼ問題なく通じますのも、旧文明時代に共通言語が使用されていた証拠、と考えることができますわね」
実際、この銀河において各勢力で使用されている言語は、多少の訛りや語彙・用法の違いこそあれど、基本的には同一なのである。銀河のほぼ全住民同士で意志疎通が可能というのは、銀河統一政府のような存在が過去にあった、としなければ説明が難しい。
と、アンヌがここまで説明したところで、アンヌの個人端末のアラームが鳴った。
【アンヌ】「…と、失礼しました。そろそろフレミエールへの到着時刻ですわ」


アンヌとX組の面々がクロスバードのブリッジへ向かい、レイラが軽く端末を操作する。
【レイラ】「外の映像、出ます!」
次の瞬間中央のメインモニターに、黒い星の海の中にある褐色の惑星が大きく映し出された。思わず「おぉ」と声をあげるX組の面々。
【カンナ】「これが…フレミエール…」
【アンヌ】「ええ。旧文明時代は緑豊かな星だったそうですが、環境悪化によりこのような有様に…」
現在も人間が住むこと自体は可能だが、水がほとんどなくなってしまったため、地上には軍の基地や観測拠点など、必要最低限の人員しか住んでいない。
かつてフレミエールに暮らしてた住民の大半は、フレミエールの周辺に建設された宇宙コロニーで暮らしている。また、宇宙開拓時代に新天地を求めて他の惑星へと向かった者も少なくない。
そんな説明を聞いて、クーリアがこんな疑問を呈す。
【クーリア】「なるほど…しかし失礼ですが、私ら同盟や連合の勢力圏から離れていて、戦略的にも戦術的にも価値が薄いと思われるこの星に、なぜ艦隊が丸ごと停泊可能な大規模な基地があるのでしょう?」
【アンヌ】「いい所を突いてきますわね…仰せの通り、ここに基地を置くことに軍事上の意味はほとんどありませんわ。でもここは、論理より感情を大事にする共和国。…あとは分かりますわね?」
ここまで話を持っていけば、さすがにクーリアも気がつく。
【クーリア】「この星にドゥイエット家が基地を置かなければいけない、感情的な理由…まさか?」
【アンヌ】「ええ。この星…フレミエールは、ドゥイエット家始まりの星なんですわ」
そう言うとアンヌは、どこか寂しげな表情でモニターに映し出されたフレミエールを見ていた。


やがて魔女艦隊はフレミエールの衛星軌道上にある基地コロニーに到着。X組の面々も、アンヌに案内されながら降り立つ。
【基地司令官】「お帰りなさいませ、お嬢様!」
司令官を初め、兵士がずらりと出迎えに並び、敬礼をする。ちなみにこの基地司令官もドゥイエット家の分家の人間であるが、本家であるアンヌに対してはこういう立場になる。
【アンヌ】「皆さん、楽にして下さいませ」
アンヌがそうなだめるが、彼らは敬礼をやめようとはしなかった。階級や上下関係もそこまで厳密ではない共和国軍にあって、これだけ引き締まった光景はほとんどない。
【オリト】(これは…緊張する…)
そしてアンヌの後をついていくように歩くX組。カンナを始めとする本来のメンバーはエリート揃いのため、この手のシチュエーションには比較的慣れていたが、スラム育ちのオリトにとってはそうではない。その対象が厳密には自分ではないと分かっているとはいえ、このように敬意を持って出迎えられたのも初めてである。当然、緊張でほとんど思考が停止してしまった。


X組はそのまま会議室のような部屋に案内され、そこでしばらく休憩、となった。
【オリト】「な、なんかすごく疲れた…」
机の上でぐったりとするオリト。
【ジェイク】「おー、机の上で寝るとかチャオの特権だなー」
【アネッタ】「確かにチャオだから許される行動よね…人間がこんな場所で寝そべる訳には…って先生!?」
アネッタが思わず叫んだのは、そう、ミレーナ先生が完全にオリトと同じ体勢で机に寝そべっていたからである。
【ミレーナ】「どーせ共和国も誰も見てないんだしさー。気にしない気にしない。っていうかそんなこと言ってるけど、いつも休憩時間はぬいぐるみに囲まれて幸せそうに寝てるのはどこの誰だったかしらー?」
【アネッタ】「そ、それは…っ!」
アネッタの顔が真っ赤になる。まさか敵国の基地で自分のプライベートが暴露されるなんて夢にも思ってなかった。
【アネッタ】「なんで先生がそれを!?」
【ミレーナ】「いや、みんなの個室の掃除してるのあたしだからねー?」
アネッタは慌てて周囲を見回すが、みんな特別驚いた表情はしていない。まさかと思い、聞いてみる。
【アネッタ】「っていうか、あれ、みんな…知ってたの!?」
【カンナ】「いやだって艦長室にぬいぐるみ持ち込んだのアネッタだし…」
【ジェイク】「アルタイルのコクピットにぬいぐるみ置きっぱなしだよな?」
【ミレア】「えっと、つまり、バレバレ、です」
【オリト】「あ、僕もミレーナ先生に部屋の掃除頼まれたことがあるんで…」
…そう、オリトを含め全員知っていたのだ。

【アネッタ】「…もうイヤー!生きて捕虜の辱めを受けるぐらいならここから飛び降りて死んでやるー!」
と、思わず窓に駆け込もうとするアネッタ。
【レイラ】「ストップストップ!ここ1階だから!ついでに言うともうあたし達捕虜になってるから!」
レイラがツッコミを入れながらアネッタを止める。それを笑いながら見てる他のメンバー。いつものX組の光景であった…が、実はこの場に1人いないメンバーがいた。
【ゲルト】「って、そういえばジャレオはどこだ?いなくね?」
【クーリア】「ああ、彼ならば…」


そのジャレオは、コロニーの宇宙船ドッグにいた。
【ジャレオ】「これがプロキオンですか…まさか実物をこんな形で見れるなんて」
【技術兵A】「アンヌ様のご招待だ。もちろん何もかもお見せするって訳にはいかねぇが…ま、ゆっくり見てってくれ。答えられる範囲なら、質問にも答えるぞ」
【ジャレオ】「ありがとうございます」
アンヌの許可をもらい、人型兵器だけでなく戦艦など、共和国の技術を見学することになったのだ。
現在ドッグでは、魔女艦隊の修理・補給中。共和国の技術兵がいつもと変わりなく仕事をしているところを見学できるというのも、同盟のジャレオにとってはこの上ない機会である。
【ジャレオ】「しかし、クロスバードで交戦、曳航されている際は分かりませんでしたが、どの艦も相当ダメージを受けてますね…相当な激戦をくぐってきたように見えますが…」
【技術兵A】「さすがに分かるか…お前らとぶつかる前に、連合の『蒼き流星』とやり合ってきたからな」
【ジャレオ】「蒼き流星とですか!?」
ジャレオは驚いた。もちろん、彼らクロスバードも魔女艦隊と戦う前に彼女と戦っていたからだ。
【技術兵A】「あぁ。俺は技術兵だから戦闘になったら見守ることしかできねぇが、さすがにヤバいと思ったなぁ…命があるのはアンヌ様のおかげだよ、まったく」

…と、話しているその時だった。
突如とある技術兵が、ナイフを握り締めてジャレオ目掛けて突っ込んできたのだ。
【技術兵B】「うおあああああっ!!!」
【ジャレオ】「!」
突然のことに動けないジャレオ。だが、先ほどジャレオと話していた技術兵が咄嗟に身を挺し、まさに体でナイフを持った技術兵を止めた。
尋常ならざる様子に他の技術兵が気付き、さらに止めに入る。ジャレオは無傷だったが、先ほどの技術兵は右腕から流血している。
騒然とする中、ジャレオを狙った技術兵が叫ぶ。
【技術兵B】「放せよ!俺の家族は!同盟に!殺されたんだ!!」
その後も言葉としては判別不能な叫びを繰り返したが、彼は数人の兵士に腕を捕まれたまま、どこかへ連れて行かれた。

半ば呆然とするジャレオに、負傷した技術兵が語りかける。
【技術兵A】「ケガはないか?」
【ジャレオ】「ええ、僕は…ですが、貴方は…!」
【技術兵A】「なに、兵隊さんやってりゃこれぐらいかすり傷さ。すまんな、ウチの者が迷惑をかけて」
【ジャレオ】「いえ…ここでは僕は、あくまでも敵ですから」
ジャレオはここが「敵地」であることを改めて認識した。ここは同盟ではない。本来は敵国である共和国なのだ。
【技術兵A】「戦争をやってる以上、どうしたってあぁいう憎しみは生まれちまう。ドゥイエット家は基本的に対連合戦線の担当だから同盟に直接の恨みを持ってる者は多くないが、連合に対しては家族や友人を殺された奴がごまんといる。俺だって同僚の何人かが蒼き流星に屠られてるしな。…だが、人間やチャオならば、いつかきっとそれを乗り越えられる…アンヌ様はそう考えておられるからこそ、お前さん達を客人としてもてなしてるんだろうさ」
【ジャレオ】「………」
【技術兵A】「アンヌ様もお前さん達もまだ若い。その先にある無限の可能性を、信じてるぞ」
【ジャレオ】「はい…!」
そう答えると、ジャレオは深く頷いた。


その頃、アンヌは別室で基地の幹部と打ち合わせしていた。
【アンヌ】「補給が終わるまでどれぐらいかかるかしら?」
【幹部】「はっ、数日あれば大丈夫かと。ただ…」
【アンヌ】「ただ?」
【幹部】「いえ…あの…」
しかし、その幹部は言葉を詰まらせる。
【アンヌ】「怒りませんから、言って下さいませ」
【幹部】「はっ。補給線上にあるヘリブニカ宙域にて、いわゆる海賊行為が多発しておりまして、物資の補給などがままならない状況でして…」
【アンヌ】「そういえばそんな話がありましたわね…」
フレミエールは既に人がほとんど住めない状況にあることから、食料や物資などの資源はコロニーでの生産と他の惑星からの輸入で賄っている。
ヘリブニカでの海賊行為によりフレミエールのコロニー群がすぐに危機に陥る、という訳ではないが、それでも大きな損害を被っているのは事実である。
【アンヌ】「鎮圧に回せる部隊は…あればとっくにやっているかしら?」
【幹部】「ええ、他の3家にも問い合わせてみたのですが、何分同盟や連合との戦線維持で手一杯のようで…」
【アンヌ】「ハーラバードなんかは本当に手一杯なのか怪しいもんですけどね…と、それはとにかく、さすがにこのままでは困りますわね…」
少し考え込むアンヌ。今ちょうど動かせそうなのは他でもない自らの部隊である魔女艦隊であるが、戦時中にも関わらずドゥイエット家の主力艦隊が海賊退治、というのは格好がつかない。それにそもそも、今はクロスバードをグロリアまで送る方が優先順位としては上である。

と、そこまで考えて、アンヌは何かを思いついた。
【アンヌ】「そうですわ、それならばいい考えがありますわ!ただ、少々無理を言うことになりますが…」


【カンナ】「………」
【クーリア】「艦長、どうしましたか?」
【カンナ】「いえ、ちょっと嫌な予感が…」
【クーリア】「まさか…」

…かくして翌日、ヘリブニカ宙域にて、クロスバードは宇宙海賊の退治へと出向くことになるのである。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第9章:塵の中でもがくように
 ホップスター  - 21/3/6(土) 0:02 -
  
ヘリブニカ宙域。
共和国の首都惑星であるユグドレアとフレミエールの航路上にあるエリアである。
旧文明時代にその名の通り「惑星ヘリブニカ」が存在し、人やチャオが住んでいたが、大崩壊の際に惑星ごと崩壊してしまい(但し、大崩壊そのものと惑星ヘリブニカ崩壊の因果関係は不明である)、今はかつてヘリブニカを構成していた小惑星や岩石、それにヘリブニカにあった人工物の残骸が多数漂う危険地帯。
そのためこの艦船がこのエリアを通過する際は、超光速航行を解除して通常航行で通過するのだが、大量の残骸が宇宙海賊の格好の隠れ家となってしまい、被害に遭いやすいのだ。

【アンヌ】「…というのがこの宙域の大まかな説明ですわね」
【クーリア】(今更ですが、なぜ私達が共和国の海賊退治をする羽目に…しかもなんでこの人まで…)
【カンナ】(もうツッコミを入れる気すら失せてきたわ…)
小声で愚痴りあう艦長と副長。しかし、
【アンヌ】「そこ!聞こえてますわよ!」
アンヌが指摘する。2人は不満というより、どこか諦めた表情でアンヌのいる正面を向き直した。


        【第9章 塵の中でもがくように】


やがてレイラからのアナウンスが入る。
【レイラ】「超光速航行、抜けます!」
いつもの軽い衝撃の後、大きなメインモニターの中央に大きな輝く星が現れた。惑星ヘリブニカの太陽にあたる星、つまり恒星ヘリブニカである。
そしてその恒星を大きく囲むようにして、多数の岩石や人工物の残骸がかつての惑星の軌道を示していた。
【アンヌ】「さてと…それでは手はず通りにお願いできるかしら?」
【レイラ】「了解しました。エレクトラとの接続が解除され次第、変形シークエンスへと移行します」
現在クロスバードはカストルの故障のため、超光速航行に制限がかかっている状態。そのため、魔女艦隊のうちの1隻であるエレクトラに曳航される形でヘリブニカまで移動してきた。ここまでの移動はエレクトラ側で行われているので、クロスバードのクルーはフレミエールへの曳航中と同じく座っているだけである。
…だが、それもここまで。エレクトラとの接続を解除した後は、クロスバード(と、アンヌ)だけで海賊に挑むのだ。

【ゲルト】「っていうか、ここまで来たんならエレクトラも手伝えよ…と思わないでもないが…」
【アンヌ】「手伝いたいのは山々ですが…正直、エレクトラも整備が完全に終わっていないですし、とても戦闘に参加できる状態ではありませんわ」
なお、クロスバードの作戦中、エレクトラは比較的残骸の少ない宙域にある小惑星で待機することになっている。
やがてアンヌの端末から、エレクトラからの連絡が入ったことを示す電子音が鳴る。それを確認したアンヌはクロスバードのクルーに対し、こう告げた。
【アンヌ】「それでは、手はず通りに…お願いしますわ」
【レイラ】「了解!クロスバード、変形シークエンスに入ります!」
レイラがそう言いながら仮想キーボードを叩くと、クロスバードはアレグリオでのあの校舎の形に変形した。
【カンナ】「まさかアレグリオ以外で変形するとはね…」
【フランツ】「まぁ『まさか』を言い出したらキリがないですし…」
現在クロスバードが置かれている状況のほぼ全てが、「まさか」の展開の末の結果である。

さて、なぜこんな場所で校舎の形に変形したのか。理由はシンプルである。
【アンヌ】「この形ならまさかこちらが戦艦だとは思わないでしょう?」
そう、意表を突いて相手をおびき寄せる為である。
ちなみにこの形態でも最低限の武装が搭載されており、また超光速航行などもできるようになっているが、あくまで緊急時のもので、普通の戦艦形態の時よりもパフォーマンスははるかに劣る。こういう使い方はまさに想定外である。
【クーリア】「確かにまさか戦艦だとは思わないでしょうが、まさか輸送船だとも思わないのでは…」
【アンヌ】「ま、その辺は相手次第ですわね…」
結局のところ、相手が食いついてくるかどうかはアンヌにも分からない。そして、現状では他にできることもあまりない。

…ということで。
【アンヌ】「さぁ、いきますわよ!」
【ゲルト】「んなっ…、やりやがったな!」
【カンナ】「意外とやるわね…本当に初心者なの?」
暇つぶしに、ということで個人用の端末を使って対戦ゲームをやり出した。ゲーム自体は同盟のものだが、ルールはシンプルなので共和国の人間であるアンヌもすぐに参加できる。
【レイラ】「…あたしも参加したーいー!」
が、レイラは索敵のため不参加である。かなり不満げなレイラ。
【アネッタ】「あたしと交代でやろうか?」
【レイラ】「あ、いいの?」
【アネッタ】「構わないわよー、3戦ごとに交代でいい?」
【レイラ】「おっけー!」
と、レイラと話しているうちに、1戦目が終了。勝者は…
【アンヌ】「アネッタさん、レイラさんと話しながらなのに強いですわね…」
【カンナ】「伊達にアルタイルのパイロットやってないってことね」
もちろん対戦ゲームと人型兵器の操縦は訳が違うが、この手のものが全般的に得意なのがアネッタである。
ちなみにクロスバードにもう1人いる人型兵器乗り、ジェイクはどちらかというと力押しで攻めるタイプなので、ゲームも同じように…という風にはいかない。

そしておよそ15分後。
【アネッタ】「レイラ、チェンジー」
3戦終了し、約束の交代時間である。
【レイラ】「あ、はーい」
【クーリア】「しっかり3戦全勝して代わるとか強すぎでしょう…」
クーリアが愚痴る横を通り過ぎるアネッタ。レイラもオペレーターの席から立ち上がり、アネッタと交代のタッチをしようとした、まさにその瞬間。

ズドン、という衝撃がクロスバードを襲った。
【カンナ】「な、何!?」
【レイラ】「損害を与えるほど大きなものは近くになかったはず!」
【クーリア】「まさか、例の海賊!?」
【ゲルト】「それにしたって敵艦を捉えてるはずだろう!」
【カンナ】「とにかく状況の把握を!」
そこで格納庫にいたジャレオから通信が入る。
【ジャレオ】『恐らく戦艦の副砲クラスのビーム兵器がかすったんじゃないかと!今のところかすり傷なので問題ありません!』
【アンヌ】「見えない敵…海賊らしいゲリラ戦法という訳ですね…総員、戦闘配備ですわ!」
つい数分前まで遊んでいたクロスバードのクルーが、一気に戦闘モードへと突入した。
【レイラ】(うう…よりによってあたしと代わろうって時にー!)
結局遊べなかったレイラ。心の中では泣きそうだが、だからといって仕事をしない訳にはいかない。
【レイラ】「ジャレオ君の情報をもとに、敵ビームの射線計算出ました!方角は…X−6−14です!」
すぐに敵が撃ってきた方向を推測する。
【カンナ】「残骸や岩石だらけね…ゲルト、とりあえず一発…」
と、カンナが牽制も兼ねてゲルトに撃たせようとするが、
【アンヌ】「だめですわ!」
すぐにアンヌの制止が入った。
【アンヌ】「冷静に考えて下さい…相手は海賊。狙いは何だと思いますの?」
【ゲルト】「そりゃあ、ひとつなぎの秘宝を求めてだな!」
【クーリア】「そういうのはいいですから…しかし、秘宝というのは大袈裟ですが、海賊ですからやはりこちらの積荷や財産を…あっ!」
クーリアがようやく気がついた。
【アンヌ】「ええ。積荷や財産もなく、おまけに武装してる戦艦の前にわざわざ出てくる海賊なんて漫画の中にしかいませんわ」
ここでクロスバードが撃ってしまえば、相手が自分達の前に出てくるはずがないのだ。現時点でクロスバードはまだ「校舎の姿」という端から見ればシュールな姿なので、こちらから撃ちさえしなければ戦艦とは認識されないはずである。
【ゲルト】「なんか引っ掛かる言い方だが、確かにそうだな…」
【アンヌ】「恐らく相手はその辺りを見極めるために撃ってきたはずですわ。では、相手を民間船だと思わせておびき出すためには…分かりますわね?」

【ミレア】「海賊、なんか、警戒してません、という感じで、堂々、と…」
ミレアが艦を操りつつ残骸が漂う中を進む。
しかし戦艦の操舵というのは「如何に相手に見つからないか」、「如何に相手を避けるか」というのが基本である。これは言わば真逆の考え方であり、ミレアも珍しく動きがぎこちない。

そして数分後。クロスバードが比較的大きな岩石の横を通過した、その時だった。
【レイラ】「!?」
【クーリア】「こ、これが…」
【カンナ】「海賊船…!」
まさにその岩石の影から、クロスバードと同じぐらいのサイズの宇宙船が急に現れたのだ。
同盟・共和国・連合、どの戦艦とも違う意匠で、一言で言えば『派手』。まさに海賊船である。
【アンヌ】「来ましたわね!手はず通りに!」
【ゲルト】「あいよ!ミサイルランチャー発射!」
アンヌの指示で、ゲルトがミサイルランチャーを放つ。但し、それは海賊船に向かってまっすぐとは向かわない。その軌道は海賊船を囲むように動く。
【レイラ】「変形シークエンス、起動!」
海賊船の動きを封じ、その間にクロスバードは元の戦艦形態へと変形。
【ジャレオ】『ジェイク機及びアネッタ機、発進させました!』
さらに人型兵器を発進させ、クロスバードと併せて集中攻撃で一気に海賊船を叩く…と、ここまではアンヌの作戦通りだった。

が、この見通しは予想外の形で失敗する。
【レイラ】「質量反応なし…こ、これは…デコイ、おとりです!!」
【アンヌ】「何ですって!?」
【カンナ】「じゃあ、本物は…」

その瞬間、クロスバードが先ほどよりも大きな衝撃で揺れた。
【クーリア】「直撃!?」
【レイラ】「これは…逆方向からの砲撃!S−7ブロックに被弾!」
【アンヌ】「やってくれますわね…!」
軽く歯軋りしたアンヌを横目に、カンナが細かく指示を出す。
【カンナ】「ジャレオ、被弾ブロックの状況確認と対処をお願い!ジェイクとアネッタは砲撃があった方向へ向かって!但し深追いしすぎないように!」
【ジャレオ】『今向かってます!』
【ジェイク】『ジャレオと同じく!』
【カンナ】「ミレア、こっちも転回を!」
【ミレア】「了解、しました」
ミレアがキーボードを操作し、クロスバードがぐるりと方向転換する。

そのタイミングで、船内で雑事をしていたミレーナ先生とオリトがブリッジに入ってきた。
【ミレーナ】「なーんか揺れたけど、大丈夫かしらー?」
【クーリア】「先生、それにオリト君も…正直、相手を掴みきれてません。ちょっとまずいですね…」
状況を聞いてきたミレーナ先生に対し、クーリアが微妙そうな表情をして答える。
【オリト】「まさか俺達、同盟から遠く離れた共和国の片隅で…」
それを聞いたオリトが不安そうに言うが、それをアンヌが遮った。
【アンヌ】「させませんわ!…この私がこの艦に乗っている以上、こんなところで落とさせる訳にはいきませんわよ!」
海賊に出し抜かれる格好になり、プライドが傷ついたのだろうか。声にいつも以上に力がこもっていた。


【海賊A】「キャプテン!相手の損傷は軽微、ターンしてこっちに向かってきますぜ!」
【海賊B】「解析、出ました!…道理で見慣れねぇ訳だ、微妙に改修されてるっぽいがこりゃ同盟の旧型だ!」
【キャプテン】「同盟の旧型ぁ!?…なんでまたそんなもんがヘリブニカに…」
海賊船内。キャプテンと呼ばれるのが、この宇宙海賊のリーダー、リカルド=グローマンである。
彼らは自分達のことを「グローマンファミリー」と呼び、このヘリブニカ宙域を拠点にして海賊行為を働いている。
【リカルド】「…まぁいいさ。例えどんな奴でも、こうなった以上はやるしかねぇ!俺達グローマンファミリーが叩き潰す!」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第10章:閃光の果ての咆哮は聞こえるか
 ホップスター  - 21/3/13(土) 0:05 -
  
クロスバードがヘリブニカで海賊相手に戦っていたその頃、惑星サグーリア。
ここは元々連合の勢力圏内だったが共和国の勢力圏内に近いため、戦争開始時から連合と共和国の間で激しい戦いが繰り広げられていた。
共和国でサグーリア戦線の指揮を執っているのが、4大宗家のうちの1つ、ルスティア家の当主の長男であるアーノルド=ルスティアであった…が。
【アーノルド】「状況はどうだ?」
【共和国兵】「残念ながら…我が軍は総崩れであります。優勢だった北方大陸でも『蒼き流星』の出現により戦線が後退…このままではここも危ういかと…」
【アーノルド】「そうか…」

その報告を聞き、アーノルドはしばらく考える。およそ10秒の沈黙の後、ゆっくり口を開いた。
【アーノルド】「残念だが…現時刻を以って、我が軍は惑星サグーリアから一時撤退する。総員、撤退準備に入れ」
【共和国兵】「はっ…!」


        【第10章 閃光の果ての咆哮は聞こえるか】


一方、そのルスティア家を撤退に追い込んだ張本人は、北方大陸で絶叫していた。
【シャーロット】「あああああっ!!!どいつもこいつも!!物足りないっ!!」
そう叫びながら、撤退していく共和国軍の人型兵器を次々と落としていく。
つまるところ、彼女は飢えていたのだ。辺境で出会った同盟のはぐれ戦艦のような強敵に。
…とはいえ、彼女は獣ではない。本当ならすぐにでもサグーリアを飛び出して同盟のはぐれ戦艦を探したいところだが、叫んでストレスを発散し、ひたすら敵を攻撃し続けた。


さて、ヘリブニカ。
クロスバードのもとに、アネッタから通信が入った。
【アネッタ】『敵艦いたわ!座標送ります!』
【カンナ】「了解!バレてない?」
【アネッタ】『相手に変わった動きはないし、大丈夫だと思うけど…』
【カンナ】「そのままバレないように追いかけて!」
【アネッタ】『ええ!』

アネッタとの通信を切ると、カンナはジェイクとミレア、そしてレイラに指示を出す。
【カンナ】「ジェイク、アネッタの逆側から回りこんで!」
【ジェイク】『おうよ!』
【カンナ】「ミレア、そのままゆっくり近づいて!」
【ミレア】「了解、しました」
【カンナ】「レイラ、座標付近で怪しい動きがあったらすぐに知らせて!」
【レイラ】「ええ!…とはいえ、電波障害がかなりきついのでいけるかどうか…」
【アンヌ】「恐らく海賊の電波妨害ですわね…これは光学頼みになりそうですわ」

アネッタのアルタイルは岩石の裏に隠れて、海賊船を追いかける。海賊船はゆっくりと動いているが、こちらに気付いている様子はない。
【アネッタ】「しばらくは我慢ね…」
ところが、そうつぶやいた瞬間、ある異変に気がついた。
【アネッタ】「…ん?」
妙に近づいてくる1つの岩が。周囲の岩に比べて、少し動き方が違う。
この時点で確証はなかったが、彼女は直感で「まずい」と判断する。しかし、わずかに遅かった。

岩はカモフラージュで、その裏から人型兵器が突如現れ、アルタイルに襲い掛かる。海賊所有の人型兵器で、プロキオンを海賊が独自に鹵獲して改造したものだ。
【アネッタ】「!?」
アネッタの判断が素早かったおかげで難を逃れるが、それとほぼ同時に海賊船からミサイルが次々と向かってきた。ハメられたのだ。
【アネッタ】「これはまずいっ…!」

【海賊A】「敵機、かかりましたぜ!」
【リカルド】「へっ、バレてねぇと思ったのが運の尽きよ!」
アネッタは気付かれていないと思っていたが、アルタイルの動きは海賊側からは完全に見えていたのだ。
【海賊B】「さすがに一撃でとはいかなかったが…まぁ時間の問題だな」
【リカルド】「確実に落とすぞ!ミサイル撃ちこめぇっ!」
次々とアルタイルに向かってミサイルを撃ち込む海賊船。今のところ致命傷は避けているようだが、完全に動きを封じられたアルタイルがやられるのは、もう時間の問題だった。

一方、クロスバード側も『異変』に気がついた。
【クーリア】「うん、ちょっと待って下さい?我々は電波妨害食らってるんですよね?むしろ何故先ほどはアネッタと通信できたんですか…?」
【カンナ】「そりゃ、妨害ったって威力が足りないとか…いや、まさか!」
ここで彼女達も、アネッタがハメられた可能性に気がつく。
【ゲルト】「でも俺達同盟だぞ!何で共和国の海賊が同盟の暗号解析できてるんだよ!!」
当然のことながら、通信は暗号化されて送受信される。暗号化の技術は3大勢力ごとに異なるため、普通は解析できないはずなのだ。通信が筒抜けとなれば、なぜ相手がクロスバードの通信を解析してるのかという問題が出てくる。
しかし、その理由はレイラが気がついた。
【レイラ】「いや…この艦ソフトウェアも旧型だから、暗号化方式も古いのよ…そしてこの古いタイプの方式は、3年前に共和国によって解析されている…!」
となれば、共和国を根城にしている海賊が知っていても何ら不思議ではない。

さて、そこまで話が進んだところで、ある「可能性」に思い至ったクーリアが、アンヌの方を向いてつぶやいた。
【クーリア】「まさか…こんなまどろっこしい手は使いませんよね?」
【アンヌ】「私自身がここにいるということが、その最たる証拠ですわ」
クーリアは「アンヌが怪しいのではないか」と思ったのだ。しかしクロスバードにアンヌ自身が乗ってる上に、そもそもこんな手を使わなくてもクロスバードを沈める、あるいはクルーを殺すチャンスは今までにいくらでもあった訳で、わざわざ海賊を使うなんて面倒な方法を取るはずがなかった。

そんな様子を見ていたミレーヌ先生が、たまらず声をかける。
【ミレーヌ】「はいはい、それよりアネッタを助けるのが先でしょー?」
【クーリア】「…そうですね、失礼しました」
とはいえ、状況はよくない。クロスバードが直接突っ込むには距離がありすぎて時間がない。ジェイクのアンタレスは海賊船のさらに向こう側なので恐らく通信は届かないし、仮に届いても内容は相手に筒抜けである。

【ゲルト】「もう主砲ぶっ放すしかねぇだろこれ!」
たまらずゲルトが叫ぶ。
【クーリア】「そうですね…少々強引ですが、それしかないかと」
それに対し、ゲルトとは正反対の性格に近いクーリアが同調した。ブリッジが一気に主砲発射已む無し、という雰囲気になる。

【アンヌ】「でもそれだとアネッタさんが巻き添えになりますわよ!?」
だがそれにアンヌが異を唱えた。アネッタにも通信が飛ばせない以上、そうなってしまうリスクは消せない。

しかし、カンナはあっさりと断言した。
【カンナ】「…いや、アネッタなら避けてくれるはず!ゲルト、主砲準備お願い!」
【ゲルト】「了解!」
【アンヌ】「アネッタさんが避けてくれるっていう根拠はどこにあるんですの!?」
さすがに慌てるアンヌ。だがクロスバードの面々は、味方を巻き込む可能性がある作戦にも関わらず、いたって落ち着いていた。
アンヌの疑問に対しては、クーリアがあっさりとした表情でこう返す。
【クーリア】「私達は2年ちょっと一緒にやってるんです。分かるんですよ、アネッタならちゃんと避けてくれるって」

それを聞いて、アンヌは数秒の沈黙の後、悟ったようにこうつぶやいた。
【アンヌ】「…まったく、貴方達は常識外れですわね…常識外れで、最高に素晴らしいクルーですわ!」
そしてアンヌがそうつぶやく横で、カンナが叫ぶ。
【カンナ】「主砲、撃ぇーっ!」
その叫びと同時に、赤い一筋の光が岩石と闇の世界を一直線に切り裂いた。

【アネッタ】「くっ…さすがにそろそろ限界かも…!」
並外れた反応と操縦技術で、プロキオンの攻撃と海賊船からのミサイルを全て叩き落としてきたが、いくら彼女でも限界はあるし、集中力も落ちればミスもする。
やがてプロキオンの攻撃をかわし切れずに、アルタイルの左腕が吹っ飛ぶ。
【アネッタ】「ぐっ!!」
衝撃でコクピットが揺れ、歯を食いしばるアネッタ。その瞬間、彼女をふと不思議な感覚が襲った。
【アネッタ】「これは…?」
その直後は不思議がったアネッタだったが、すぐに直感した。『来る』。
【アネッタ】「それならっ!」
なおも続く海賊船からのミサイルをビームキャノンで迎撃すると、一気に加速。次の瞬間、さっきまでアネッタがいた辺りを赤い一筋の光が突き抜けた。その光をアネッタはよく知っている。紛れも無く、自分の艦の主砲である。
そしてその赤い光は、海賊所属のプロキオンを跡形もなく吹き飛ばした後、海賊船のすぐ横を掠めて、暗闇の向こうへと消えて行った。

【海賊A】「…ぷ、プロキオン、反応消失…!」
【海賊B】「あの状況で主砲を撃ってきやがるとは、なんて艦だよ…!」
呆然とする海賊船。たまらずリカルドが檄を飛ばす。
【リカルド】「お前ら落ち着け!まだ戦闘は終わっちゃいねぇ!立て直すんだ!」

しかし、一瞬気持ちが途切れたその瞬間を、彼は見逃さなかった。
【ジェイク】「いいや、てめぇ等はここで…終わりだあぁぁっ!!」
逆側から詰めていたジェイクのアンタレス。海賊船も先程までは当然警戒していたが、クロスバードの主砲により警戒が途切れた間に一気に距離を詰め、ビームソードで一閃。海賊船はブリッジから真っ二つに切り裂かれ、大きな閃光と爆音を上げながら宇宙の塵と消えた。


【カンナ】「お帰り、アネッタ」
戻ってきたアネッタをクロスバードのクルーが出迎える。
【アネッタ】「いやー、さすがに今回は死ぬかと思ったわよ…ありがとね、みんな」
【アンヌ】「1つ…聞いてもよろしいですか?」
【アネッタ】「?」
【アンヌ】「あの時…クロスバードは主砲を撃ってくるって、分かったんですか?」
するとアネッタは少し考え込む。そして、こう答えた。
【アネッタ】「うーん…なんとなく、ね。ただの勘だけどさ」
【アンヌ】「なるほど…」
アンヌは心底からは納得できなかったが、とりあえずこの場は身を引いた。そういうものなんだろう、と半ば無理矢理納得させた。

【ジェイク】「っていうか、海賊船落としたの俺なんですけど!?何なんだよこの蚊帳の外感!俺が反対側に回り込んでた間に何があった訳!?」
【ジェレオ】「まぁ、色々あったんですよ…」
一番の手柄のはずなのにオチ要員のような扱いのジェイクが不満そうに色々と喋るが、その横でなだめるのはジャレオしかいなかった。


その後、クロスバードは再びエレクトラに曳航されてフレミエールに戻り、数日後、魔女艦隊と共にフレミエールを出発。グロリア王国へと向かっていた。
【クーリア】「そういえば…私達のこと、グロリア王国とは話はついてるんですか?」
【アンヌ】「ええ、外交筋を通じて話はつけてあります。皆さんは超光速航行の事故でグロリア王国の勢力圏に飛ばされてしばらく漂流した後、王国軍の艦隊に救助された、という筋書きになりますわ」
【オリト】「確かに共和国の魔女艦隊に助けられた、なんて言えないのは分かりますけど、こうも堂々と嘘をつけって言われるのはなぁ…」
と、微妙な表情をするオリト。
【カンナ】「まぁ、仕方がないわ。そのうち真実を語れる時が来ることを願いましょう」
【アンヌ】「できれば、その時までお互いに生きている事を願いますわ」

やがて、共和国とグロリア王国との境界域に近づく。カンナは本来の居場所であるプレアデスのブリッジへ戻り、クロスバードと通信で会話する。
【アンヌ】『そろそろお別れですわね…』
【カンナ】「私達はあくまでも敵同士…だけど、再び会えることを願ってます。できれば、戦場以外で」
【アンヌ】『そうですわね。その時は、一緒にスイーツを食べにいきましょう!』
【カンナ】「あーっ!共和国のスイーツ食べに行くの忘れてた!」
カンナが思わず大声をあげる。
【クーリア】「今更スイーツのために戻りませんからね!?」
というクーリアのツッコミに対し、カンナは「分かってるわよ」っとちょっと不満げにこぼす。
そして、少し魔女艦隊の方を名残惜しそうに見た後に前を向き直し、指示した。
【カンナ】「クロスバード、全速前進!」

アンヌはその様子をプレアデスのブリッジから見守っていた。クロスバードの姿が小さくなっていき、やがて目視では確認できなくなる。
彼女はそれを見届けると、一言寂しそうにつぶやく。
【アンヌ】「本当に、味方として出会いたかったですわ…」
その後彼女はそれを振り払うように軽く首を振ると、魔女艦隊に指示を出した。
【アンヌ】「全艦、転回!一旦フレミエールへ帰還した後、対連合戦線へ復帰しますわ!」
それは、彼女にとって『日常』に戻った瞬間であった。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第11章:思惑が渦巻く銀河の中へ
 ホップスター  - 21/3/20(土) 0:03 -
  
連合のオリオン級戦艦・バーナード。
『蒼き流星』と呼ばれるエースパイロット、シャーロット=ワーグナーが乗船している。

【将官】『ちょっと頭を冷やして来い、ってことだ』
【シャーロット】「だから、あたしは別にどんな任務でも構わないって言ってんでしょ。でもエースパイロットをこんな任務に出して、連合はそれでいいのかって聞いてるんだよ!」
【将官】『だから、お前の為にこうした方が即ち連合のためになるって訳だよ。それにこれは大統領閣下直々のお達しだ。ノーと言う訳にもいかないだろう?』
【シャーロット】「…まぁ、そこまで言うなら行ってやるよ。ただあたしの本業は人型兵器乗りだ。正直、成果を期待されると困るよ」
【将官】『分かってるさ。大統領閣下も上手く行ったら儲け物、ぐらいな考えみたいだしな』

通信を切った後、シャーロットは深い溜息をついた。
つまるところ、サグーリアで暴れすぎて、連合の大統領や軍上層部にも問題視されたのだ。何せ銀河中に名前が知れ渡っているエースパイロットである。それ相応の『振る舞い』を求められるのだ。彼女もそれはある程度承知していて実際それなりにエースパイロットを『演じて』いたが、あの時クロスバードに撤退させられたのが余程我慢ならなかった、ということである。

…かくして、彼女は表向きには「休暇」と発表され、とある場所へと任務へ向かうことになる。


        【第11章 思惑が渦巻く銀河の中へ】


さて、クロスバードは共和国とグロリア王国の境界宙域を航行中。
【クーリア】「そろそろ予定の時間、ポイントですが…」
【レイラ】「前方に艦影!グロリア王国のペルセウス級3隻!」
【カンナ】「迎えが来た!」
そしてその王国の戦艦から通信が入る。
【王国兵】『こちら王国軍親衛艦隊、ミルファクである。ドゥイエット家からの要請により、貴艦を保護する用意がある。応答願いたい』
【カンナ】『同盟軍練習艦・クロスバードです。お心遣い、感謝致します』


かくして、グロリア王国に「正式に」保護されたクロスバード。
数日後、無事にグロリア王国の首都惑星・惑星グロリアに到着し、そこで同盟軍との引渡し交渉を待つことになった。
それを受けて、カンナが呼びかけてクロスバードのクルーが会議室に集められる。

【ゲルト】「しかし全員集合だなんてまた仰々しいが、どうしたんだ?」
【カンナ】「クーリア、説明お願い」
カンナの指示で、クーリアが手元の端末を見ながら説明を始めた。
【クーリア】「…正直、これに関しては私も含めて事態を軽く見すぎていた節がありますが、私達は既に「国家レベルの問題」になっています。艦長なんかは最早銀河で知らない者はいないレベルの有名人です。…行方不明の、ですが」
と、手元の端末の画面を中央の大きなスクリーンに映し出す。同盟のニュースサイトのものだ。トップ記事は、やはり自分達である。
【フランツ】「分かってはいましたが…改めて自分達が報道されるところを見るというのは…なんかこう、微妙な感覚ですね」
【クーリア】「現在のところ幸い私達の引渡し交渉は順調のようで、早ければ明日にも私達がグロリア王国にて全員無事である旨が同盟の報道機関に対し発表される見通しです」
さらにクーリアは淡々と説明を続ける。
【クーリア】「とはいえ、既に私達が「国家レベルの問題」になっている以上、帰ろうと思ってすぐに帰る、という訳にはいかなくなっています。恐らくは、あと1週間程度はグロリア王国で待機することになると思われます」
【レイラ】「やっと帰れると思ったのに、こんなところで足止めなんて…」
【ジェイク】「要は大人の事情って奴だろ?ま、もうこうなった以上生きて帰れりゃ何も言わねぇけどさぁ」
微妙な表情をするクロスバードの面々。そこで、今度はカンナが前に出て、軽く咳払い。
【カンナ】「えー、コホン」
クルーが一斉にカンナの方を向く。

【カンナ】「つまり何が言いたいかというと、交渉が終わるまでの間ぶっちゃけあたしら暇なのよね。そこで…」
【オリト】「そこで?」
【カンナ】「グロリア王国の担当官と相談した結果、交渉が終わるまでの間、自由行動ということになりました!」
【ALL】「おぉーっ!!」
歓声をあげるX組の面々。

【クーリア】「もちろん、いくつかの条件付きではありますが…惑星グロリア内で自由に遊ぶなり、観光するなりしていいそうです。最も、現実的には首都圏内が行動範囲になりそうですが」
という訳で、その条件など、詳細の説明に入る。
条件というのは、まず王国政府との連絡とクロスバードのシステム維持のため、常に最低1人は誰かが必ずクロスバードに残っていること。その他には、外出時の行動制限内容が主である。つまるところ、「悪い事をやっちゃいけないよ」というものだ。

【カンナ】「後は、いつ誰がクロスバードに残ってるか、ね…」
この問題に対しては、意外な人物が名乗りを上げた。
【ミレーナ】「基本的にはあたしが残ってようかー?折角だし羽伸ばしてきなよー」
とのミレーナ先生の答えに、少し驚くX組の面々。
【クーリア】「先生はいいんですか?」
【ミレーナ】「いやー、ほらあたし一応責任者だから、アレグリオに戻ったら始末書ってやつを書かなきゃいけなくなると思うんだよねー。もうこの際今のうちに書いちゃおうって思ってさ」
【オリト】「なるほど…」
【ミレーナ】「それに、こういう時に生徒を優先させるのが先生の役目だしねー。ま、始末書で済めばいいけど果たしてどうなるやらー…」
【ジェイク】「でもありゃカストルの故障っていう不可抗力で…」
【ミレーナ】「不可抗力でも、誰かが責任を取らなきゃいけないのが大人って奴なのよー」
特に、戦争というのはそういうものだ。仮に皆が最善の働きをしたとしても、例えば予期せぬ蒼き流星の出現で全てがぶち壊しになってしまったならば、誰かが責任を取らなければいけない。曲がりなりにも軍人である彼女は、それを理解していた。
さらに今回の場合は、ミレーナだけが成人していて、後は全員未成年である。今回の出来事に対して、責任を一身に負わなければいけない立場にあるのだ。


【オリト】「…なんか、理不尽だよな…世界って」
そう、誰に向かう訳でもなく、オリトはつぶやきながら、とある公園のベンチでくつろいでいた。
今回のミレーナ先生の件であり、自らの身を守る為に味方のはずである同盟に対して嘘をつかなければいけない件でもある。
オリトもどこかグロリアの観光に行こうかと思ったが、それよりも「ゆっくりしたい」という思いが強く、こうして公園のベンチでくつろぐことを選択したのだ。入学式の日に偶然巻き込まれてここまできたオリトにとっては、本当に久しぶりにゆっくりできる日々なのである。そういう理由もあり、特に何かなければ、引渡し交渉がまとまるまではこんな感じでのんびりしてよう、と思っていた。

すると、突如オリトは、女性から声をかけられた。
【女性】「まったく、世界って理不尽だよな…」
【オリト】「!?」
驚くオリト。彼女の方を見る。大きなサングラスをしていて、正確な顔は分からないが、どうやら年齢はクロスバードの面々より少し上、20歳ぐらいのようだ。
【女性】「ごめんごめん、あたしもちょうど似たような事思ってたってだけさ…ま、これも何かの縁だ。隣いいか?」
【オリト】「あ、はい」
そう彼女は確認を取ると、オリトの隣に座った。
【女性】「差し支えない範囲で構わないけど…何があったのか、聞いてもいい?」
その質問に対し、オリトはゆっくりと、言葉を選びながら答える。
【オリト】「うーん、何というか…まだこれから、『こういうことが起こりそう』って段階なんですけど…悪くない人が責任を取ることになりそうだったり、仲間を守るために嘘をつかなきゃいけないことになりそうだったり、っていうのかな…」
【女性】「なるほどねー…ま、あたしも似たようなものかな。あたしの場合はもう過去形だけど」
【オリト】「なるほど…失礼ですが、お名前は?」
【女性】「シャロン=イェーガー、…って言いたいところだけど、これ偽名なんだよねぇ…まぁ、『仲間を守るための嘘』って奴だ。悪いけど、本名は教えられないんだ、ごめんね」
シャロン、と名乗った女性は、そう言いあっさりとそれが偽名であることを明かし、オリトに謝った。
【オリト】「いえ、そういうことなら、仕方ないと思います…シャロンさん、でいいですか?」
オリトは本名が知りたい、と思ったが、さすがに聞けなかった。
【シャロン】「えぇ、構わないよ」
【オリト】「あ、俺はオリトって言います。本名です。よろしくお願いします」
【シャロン】「オリト君ね。よろしく。ところで…」
お互いに自己紹介をしたところで、シャロンが会話をさらに進める。
【シャロン】「オリト君って、グロリアのチャオじゃないよね?その訛りは…たぶん同盟の標準訛り?」
ズバリ、核心を突く質問。
【オリト】「わ、分かるんですか!?」
【シャロン】「まぁね。正直、この手の勉強はあんまり好きじゃないんだけど…仕事柄ってやつで、ある程度話者数が多い訛りは覚えてるんだ」
【オリト】「そうなんですか…」
同盟とグロリア王国は戦争状態ではないため、仕事や観光で訪れている同盟の人間やチャオは決して珍しくない。だからシャロンと名乗った女性も、オリトをそういうよくある存在だと勘違いしていた。
そこで、今度はオリトがこう聞き返す。
【オリト】「ところで…シャロンさんも、グロリアの人じゃないですよね?」
【シャロン】「!?」
彼女は一瞬、かなり動揺した。すぐさま自らの言葉遣い、仕草に癖がなかったか思い返す。そして思い返しながら、こう問いかける。
【シャロン】「ど、どうしてそう思ったの?さっきみたいに言葉遣い?」
【オリト】「いえ、こう、何と言うか…雰囲気です」
【シャロン】「雰囲気!?」
【オリト】「はい、雰囲気がこう…他のグロリアの人とはちょっと違う気がしたので」
【シャロン】「な、なるほどね…」
シャロンは拍子抜けすると同時に、別の恐ろしさを感じていた。このチャオは、ひょっとしたら只者じゃないのかもしれない。
…とはいえ、これ以上考えるのは無駄というものである。彼女はふと自分の持っていた紙袋からあるものを取り出した。
【シャロン】「これ、今グロリアで大人気のスイーツらしいんだけど、食べるかい?特別に1つおごってあげるよ」
そう言いながら取り出したのは、ドーナツである。
【オリト】「そこまでしてもらって、いいんですか?」
【シャロン】「そこまでって…ちょっと話してついでにドーナツおごっただけよ?…ま、そういう訳で気にするな、オリト君」
【オリト】「そ、そうですね…ありがとうございます」
オリトはドーナツを受け取り、ぱくり。
ついでにシャロンも残りのドーナツを取り出し、ぱくり。
公園のベンチでのんびりドーナツを食べる。ある意味、最高の休日かも知れない。


【男性】(ったく、何だってこんな遠い所まで…)
…グロリア王国首都の一角、とあるビルの一室。そう心の中で愚痴る男と、テーブルを挟んで1人の少女が向かい合って座っている。
少女の方はまだ10歳前後だろうか。大事そうに膝の上に人形を置きながら、テーブルの上でカードを切っている。
【少女】「…どうぞ」
【男性】「上の1枚を俺が、一番下をお前が取るんだったか?」
【少女】「はい」
少女は男の問いに対して軽くそう答える。男性は言われた通り、彼女の手に数十枚ある伏せられたカードのうち一番上を取る。それに続いて、少女も一番下のカードを取り出す。
そして2人は、それぞれ取ったカードを同時に表に出した。

【男性】「クラブのエースだ」
【少女】「スペードの8です。…キーワードは『流転』といったところでしょうか」
【男性】「なんか嫌な感じの言葉だな…止めた方がいいのか?」
【少女】「いえ、いい方向に流れるかも知れません。クリシアの神のお告げとは言いますけど、所詮は占いです。都合のいいように信じておけば、それでいいと思います」
【男性】「そういうもんか…」
【少女】「はい」
少女はそう答えつつ、カードをしまう。

数分後、同じ部屋。
先ほどの男の前に、先ほどの少女を含む5人の少年少女が並んでいる。占いをしていた少女以外は、全員10代後半から20代前半だろうか。
全員集まったのを確認して、男がこう彼らに言った。
【男性】「…分かっているな。我が共和国…いや、ハーラバード家、ひいてはお前達の命運がこの作戦には懸かっているんだぞ」
それに答えるように、5人の少年少女が次々と言葉を並べる。
【少年A】「もちろん、分かっています」
【少女B】「グロリア王国が隠し持っていると噂の、この銀河の争いを一変させるという技術…ゾクゾクするねぇ!」
【少年C】「ま、俺には細かい話は分からねぇが…やるべきことをやるだけだ」
【少女D】「それに今、ここグロリアには連合のエースもいるって…」
【少年E】「これはこれは、只事じゃ収まらない予感がしますよ…!」

【男性】(…まぁいい、もう少しの辛抱だ。この作戦…いや、『茶番』が成功すれば、全ては上手くいく)
彼は先ほどの占いの時から色々と思考を巡らせていたが、とりあえず落ち着くことにした。目の前にいる少年達は皆性格面には問題があるが、能力では非の打ちようがない。任務は、ほぼ間違いなく成功するはずである。
そして、自らを落ち着かせた後、こう命令した。
【男性】「クリシアの神の名の下に命ずる。…Σ小隊、『ルプス作戦』発動!」
その命令の後、5人は軽く敬礼すると、部屋から飛び出すように出て行った。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第12章:流転の渦を飲み込むように
 ホップスター  - 21/3/27(土) 0:44 -
  
【レイラ】「あーあ、結局お留守番かー…」
クロスバードの通路。レイラが一人歩いていた。
終わっていなかったクロスバードのソフトウェア更新をするため、休みを取らずにこの艦にいるのだ。
【レイラ】「艦長もグロリアで流行ってるとかいうドーナツの店に突っ走っちゃったし…そういえばケーキおごるって約束どうなったのよ…ぶつぶつ…」
などと愚痴りながら、休憩を終えてブリッジへ戻る。
【レイラ】「そもそもミレーナ先生だって留守番するって言ってたのに結局医務室で寝てるじゃない…結局あたしがこういう役回りを…って!?」
ブリッジの扉を開けたレイラは、思わず言葉を詰まらせた。

【レイラ】「あ…あの…どちら様ですか!?」
そう、知らない人がいたのだ。しかも、またまた(?)彼女たちとそう年の変わらない、少女が。


        【第12章 流転の渦を飲み込むように】


【少女】「こ、これは、あの、その…も、申し訳ありません!面白そうで、つい!」
慌てて謝る少女。
【レイラ】「面白そうって…」
困惑するレイラ。だが落ち着いて、少し冷静になって考える。
現在クロスバードは首都付近にある王国軍の基地内に停泊している。つまり、一般人はそう簡単には入れない。彼女の服装は私服であることから、自分達のような軍関係者というのも考えにくい。
【レイラ】(となれば…政府関係者の娘とか、そういうポジションの人かしら?)
そんなことをレイラが推測していると、突如背後に少女がクルリと回り込み、レイラの首にナイフを突きつけた。
【レイラ】「!?」
驚くレイラに、少女は小声で話しかける。
【少女】(安心して下さい、おもちゃです。少しの間、私の『演技』に付き合って頂けますか?)
突然の展開に呆然とするレイラ。しかし状況を整理する間もなく、数人の男がレイラを追うようにしてブリッジへと駆け込んできた。

【男性A】「見つけましたよ!」
【男性B】「まさかこんな場所に来るなんて…早く戻られないとどうなるか…!」
すると少女は毅然とこう返す。
【少女】「黙りなさい!今私はこの方を人質に取りました。今すぐこの戦艦から降りなさい。さもなくば…分かりますね?」
【男性C】「人質って…子供の遊びじゃないんですよ!?どうせブラフなんでしょう!」
【少女】「いいえ、本気です!」
すると彼女は腕を少し動かす。レイラの首筋から、赤い血がわずかに流れる。…というように見えるというよくできたおもちゃで、実際にはレイラは無傷である。
【男性A】「!?」
【少女】「この状況でこの戦艦の乗組員を殺してしまえば…外交問題どころか、グロリアの存続それ自体に関わりますのは、皆さんもお分かりになりますわよね?」
【男性B】「ぐっ…!」
同盟と共和国に挟まれた場所という元々不安定な地理条件の中で上手く立ち回ってきたグロリア王国。だからこそ、王国民、特に政府関係者は外交問題に対して非常に敏感である。わずかなミスや失敗でも、国家間のパワーバランスを崩してしまえば、即ちグロリア王国の存続に関わるのだ。
また、クロスバードのクルーが同盟の超エリート揃いというのは今回の事態に対処している王国関係者も承知している。レイラも実家は同盟における大手通信企業の経営者一族であり、そんな家族の一員に何らかの危害が及んだとなれば…後の展開を想像するのは難しいことではない。

【男性B】「仕方ない…一旦下がるぞ!」
【男性A】「で、ですが!」
【男性B】「我々が数百年かけた努力を一瞬で無に還す訳にはいかんのだよ!」
【男性C】「くっ…仕方がない…」
男達は相談の上、一旦撤収することを決断した。いくら状況が状況といえど、クロスバードが同盟軍の戦艦である以上、本来は無断で入るだけで殺されてもおかしくないのだ。
そして撤退間際、彼らのうち1人がその少女の方を向いて叫んだ。
【男性B】「この戦艦を巻き込んだ以上、もう後戻りはできませんよ!分かっていらっしゃるんでしょうね、『王女殿下』!!」
…そう言い残し、彼らはクロスバードから降りた。

【レイラ】「…王女殿下?」
時間にして10分ぐらいだろうか。レイラがブリッジへ戻ってきてからの怒涛の展開に、未だに頭がついていってないが、最後のフレーズだけは耳に残った。そして、半ば呆然としたまま、何となくそのフレーズを繰り返す。
そのつぶやきに対し、その少女はこう答えた。
【少女】「失礼、自己紹介が遅れました。わたくし、マリエッタ=ネーヴル…グロリア王国の王家たるネーヴル家の第二王女でございます」
【レイラ】「…は、はいぃぃぃ!?」
今度こそ、レイラの思考が完全に停止した。


一方、そんな事になっているとは全く知らないオリトと、偶然出会ったシャロン。公園で雑談しながらドーナツを食べる。
【オリト】「シャロンさんはどこの人なんですか?」
【シャロン】「あたし?…教えたいのは山々なんだけど、本名と同じで教える訳にはいかないんだよねぇ…」
【オリト】「あぁ、そうでした、すいません」
【シャロン】「まぁ、グロリアにはちょっとした仕事みたいなもんでね…」

彼女はそこまで喋りかけたところで、突然言葉が止まった。強烈な「違和感」を感じたからだ。グロリア王都の一角にあるのどかな公園、という雰囲気が、気がつくと消え失せていたのを感じ取った。
【シャロン】「…まずいっ!」
次の瞬間、彼女は慌ててオリトを引っ張るようにしてベンチから飛び上がる。刹那、そこに一筋の赤い光線が走り、その射線上でベンチに穴を開けていた。

明らかに、自分を狙ってきた。そう感じたシャロンは、チャオであるオリトを有無を言わせず自分のバッグに無理矢理押し込むと、一気に駆け出した。
だがその目前に、どこからともなく1人の少女が飛び降りてくる。少女は眼鏡をかけていたが、シャロンが見る限り、レンズ越しに見える瞳は明らかに常人のそれではなかった。
【少女】「あの狙撃を躱すとは…さすが連合のエース様ってところかねぇ?シャロン=イェーガーこと、シャーロット=ワーグナー?」
と、その少女は「シャロン」に対し、連合のエースの名を呼ぶ。シャロン…いや、シャーロットは、それに対し否定するまでもなく、こう返す。
【シャーロット】「そりゃいつかはバレるとは思ってたけど、まさかこんなに早いとは…ったく、ウチの軍はもうちょっとセキュリティしっかりして欲しいわねぇ」
【少女】「さすがにレグルスに乗られると手がつけられないけど、生身なら…あたしらでもぶっ壊せるからねぇ!!」
シャーロットの愚痴混じりのつぶやきを無視するかのように、少女はそう叫びながら右脚を大きく振り、強烈な蹴りを叩き込もうとする。だがそれに対しても、シャーロットは素早く反応してかわした。
【少女】「ちぃっ!」
【シャーロット】(これは…まずい!)
この蹴りの一連の動き、そして今までの言動でシャーロットは確信した。彼女は恐らく、「ただの人間」ではない。そして人型兵器に乗ってない自分が、まず勝てる相手ではない。
人型兵器での戦闘においては間違いなく銀河トップクラスの才能を持つシャーロットだが、いわゆる生身では彼女も1人の人間である。軍人であるため人並みの訓練は受けており、また超人的な反応速度を持ち合わせているため素人に比べれば強いのは間違いないが、こういう専門の訓練を受けた手合いに対して勝てる程の強さは持ち合わせていなかった。それに、
【シャーロット】(このチャオもいるしなぁ…)
あまりの突然な展開に気絶してしまっているが、これ以上巻き込む訳にはいかない。となれば、とるべき行動は1つである。

シャーロットは上着の右ポケットに手を入れ、何かを探す仕草をする。当然、相対する少女はそれをチャンスとばかりに飛び掛ってくるが、その右手はフェイク。咄嗟に左手で護身用のスタンガンを撃ち込んだ。
【少女】「っ!?」
さすがの彼女も一瞬動きが止まる。そのスキに、
【シャーロット】「事情を聞いてる余裕はなさそうだし…ここで死んでもらうよ!」
右手で携帯している小型の光線銃を抜き、彼女の額に向かって一発撃ち込んだ…つもりだったが、その直後に彼女は言葉にならない呻き声をあげる。当然額に銃を撃ち込んでいれば声を出す余裕もなく死んでいるはずなので、その声はシャーロットの一発が外れた事を意味していた。
シャーロットはそれを察して素早く飛び退こうとするが、次の瞬間、少女の左腕からナイフが舞い上がり、シャーロットの右腕に刺さった。
【シャーロット】「ぐっ…!」
慌てて右腕を抑え、ナイフを抜いて止血するシャーロット。連合のエースパイロットである彼女が右腕を失うということは、即ちそれだけで連合の戦力が半減することを意味するのだ。彼女は不本意ではあるがそれを自覚している。ここでまず何よりもやるべきなのは、傷を深くさせずに止めることだった。
一方、眼鏡の少女も先ほどの光線銃の一撃で脇腹を撃たれ、やはり流血していた。いくら人間離れした彼女といえどとても追撃できる状態ではなかったようで、シャーロットが右腕を抑えているのを確認すると脇腹を抑えながら逃げるようにその場から消えていった。

【シャーロット】「くっ…まさに痛み分けか…」
そう愚痴りながら服の袖で止血をする。そこで、ようやくオリトが気が付いた。
【オリト】「う、うう…」
【シャーロット】「っと、大丈夫?」
【オリト】「あ、はい…って、あなたは…!」
オリトは彼女の顔を見て絶句した。先ほどの眼鏡の少女の襲撃のためサングラスやウィッグでの変装が外れたため、オリトもニュースサイトなどで見たことのある「蒼き流星」の顔そのものが、オリトの目の前に現れたのだ。
シャーロットも驚くオリトの様子を見てその状況を理解し、こう返した。
【シャーロット】「あ、あぁ、悪い、まぁこういう訳で顔や名前を隠さなきゃいけなかったんだよ」
【オリト】「あ、そう、そうですよね…」
未だにオリトは上手く言葉を返せない。目の前にいるのが銀河レベルでの超有名人だということももちろんだが、何せクロスバードは数週間前に彼女と戦っているのだ。バレたら殺される、という思いがオリトの中を巡る。
その様子を見たシャーロットが、襲撃前の会話を思い出して、さらに続けた。
【シャーロット】「あー、そういえば同盟のチャオなんだっけか。心配すんな、面倒事は起こすなって上からきつーく言われてるし、同盟のチャオだからってすぐに殺したり捕まえたりするようなことはしないよ」
【オリト】「そ、そうですか…」
その言葉が本当である確証は無かったが、オリトはとりあえず安心した。今までの会話から、とりあえず信用できる人だと半ば無意識に判断していた。一方、シャーロットは苦笑いしながらこう続ける。
【シャーロット】「とはいえ、向こうから襲われるのはちょっとどうしようもないけどね…あたしがここにいるのを知ってるって一体どこの連中なんだか」
その時、オリトが地面に見慣れないものが落ちていることに気が付いた。先ほど襲ってきた眼鏡の少女の血の跡が赤く残っている、そのすぐ横である。
オリトは数歩だけ歩いて、それを拾い上げる。×印のような形をした金属のネックレスのようだった。それにシャーロットが気が付き、オリトに声をかける。
【シャーロット】「ん、ちょっと見せてくれるか?」
オリトがシャーロットにそのネックレスを見せた瞬間、シャーロットの表情が固まった。
【シャーロット】「こ、これは…」
【オリト】「何ですか、これ?」
【シャーロット】「『クリシアクロス』、クリシア教の象徴…ってことはほぼ間違いない…奴ら、共和国のハーラバード家だ」
クリシア教。共和国で広く信仰されている宗教である。特にハーラバード家は代々クリシア教の熱心な信者、そして庇護者であることが知られており、今回の襲撃がもし組織的なものであれば、ほぼ間違いなくハーラバード家の手引きだとシャーロットは結論付けた。そこでさらに、シャーロットはあることを思い出す。
【シャーロット】「確かクリシアの信者は、身に着けているクリシアクロスに自分の名前を彫るって習わしがあったはず…」
と、先ほどのクリシアクロスを裏返す。そこには確かに、女性の名前らしき文字が彫ってあった。
【シャーロット】「人を襲ってくるぐらいだから偽名や盗品の可能性もそれなりにあるだろうけど…恐らくこの名前の女ね」
【オリト】「『パトリシア=ファン=フロージア』…」


【ミレーナ】「なんだか騒がしいけど、どうしたのー?」
マリエッタが自己紹介し、レイラの思考が吹っ飛んだそのタイミングで、完全に出遅れた形でミレーナ先生がブリッジに現れる。
【レイラ】「そ、それが、あの、その…」
レイラが返す言葉に困っている間に、ミレーナ先生の視線がマリエッタ王女の方へ向かい、それだけでミレーナ先生は大体何が起こったかを察した。
【ミレーナ】「あー、なるほどねぇー…」
【マリエッタ】「ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません」
【レイラ】「え、先生、知ってるんですか?」
その様子を見たレイラが驚き、2人は知り合いなのかと問う。だがそうではない。
【ミレーナ】「いやー、ニュース見てない?ほら」
と、ミレーナ先生の個人端末をレイラに見せる。その画面には、グロリアのニュースサイトが表示されていた。
【レイラ】「『マリエッタ第二王女、高齢者介護施設を訪問』…」
その記事と共に載せられていた写真には、目の前の少女と同じ顔をした「王女様」が写っていた。
【レイラ】「正直、同盟のニュースばかり読んでてグロリアのニュースサイトはほんんど見てなかったわ…」
レイラがそうぼやく。

ミレーナ先生は自分の端末をポケットに戻すと、ふと表情を変えてマリエッタ王女にこう尋ねた。
【ミレーナ】「ところで王女殿下…いきなりこんな事聞くのは失礼かも知れないけど、ズバリここに来た『本当の理由』をそろそろ教えてくれないー?」
【レイラ】「え…?」
【ミレーナ】「どう見ても『面白そうだから遊びに来た』ってのは建前だよねー?」
戸惑うレイラ。だがそんなレイラをよそに、ミレーナ先生はマリエッタ王女の方をじっと見つめる。その表情は、先生がごくたまに見せる本気の表情である。
しかしマリエッタ王女は動揺する様子は全くなく、しばらくは笑顔のまま沈黙していたが、やがて我慢しきれなかったかのようにこうつぶやいた。
【マリエッタ】「…やはり、誤魔化せないようですね…話すと長くなるのですが、よろしいですか…?」
【ミレーナ】「こっちは暇だし、もう巻き込まれちゃったしねー。いくらでも聞くよー」
ミレーナ先生のその言葉を受けて、マリエッタ王女はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第13章:その最中で何を思わざるか
 ホップスター  - 21/4/3(土) 0:03 -
  
グロリア王国はその名の通り王制で、現在はネーブル家の者が代々王位を継承しており、歴史学的に言うならば「ネーブル朝グロリア王国」とでも言うべき国家である。
但しあくまでも王は象徴的存在であり、実際の政治は選挙で選ばれた議会が行っている、いわゆる立憲王制である…が、グロリア王国が普通の君主制国家と決定的に違うことが1つだけある。
【ミレーナ】「確かグロリアは『選挙王制』だったんだっけ?」
【マリエッタ】「はい。王である者が崩御した際には、王族の者が候補者となり代議員、つまりグロリアの国会議員による投票で王位継承者を決定する…ということになっています」
…とはいえ、過去の王位継承選挙はそのほとんどが長男・長女やすぐ下の兄弟姉妹、つまり普通の王制であれば王太子になるべき者が圧倒的な得票率で当選しており、ほぼ儀礼行事化していた…はずだった。


        【第13章 その最中で何を思わざるか】


現在のグロリア王であり、マリエッタの父にあたるジェームズ4世は病に倒れ、治療中の身である。公務は主にマリエッタと、妹であるソフィアが代行して行っている状況。
【マリエッタ】「徹底した報道規制が敷かれているので、「病気療養中」としか公にはされていませんが…正直に言います。父は、もう長くありません。もって数か月、とのことです」
【レイラ】「そんな…!」
そこで事情を知る一部の王室関係者や政府・議会関係者は極秘のうちに王位継承選挙の準備を始めているのだが、今回はすんなりと決まらない事情があった。
本来「次の王」となるはずであるジェームズ4世の長女・グレイスは生まれつき非常に体が弱く、22歳である現在もほぼ車椅子か寝たきりの生活を送っており、以前から「彼女は王位継承選挙の候補者から外すべき」という意見が少なからずあったのだが、それがここにきて対立の種となっているのだ。
【マリエッタ】「姉様は体は弱いのですが、小さい頃からベッドの上で本や電子端末をよく読んでらして、非常に聡明なのです。私などはとても及びません。しかしそのために、『多少無理をしてでも姉様に王位を継がせるべき』という者と、『姉様に王位は継がせるべきではない』という者の対立が内部で激しくなりつつあるのです」
そして、「グレイスに王位を継がせるべきではない」という者が推す「次の王」が、他でもない次女のマリエッタなのだ。
【マリエッタ】「私自身は、それが代議員、ひいては国民の意思であるならば、王の座を継ぐこと自体に抵抗はありません。その覚悟もあるつもりです。ただ…」
そこでマリエッタは口ごもってしまった。少しの間だけ沈黙が走るが、ミレーナ先生が自分の端末を少し操作して、ニュース記事を探し出した。
【ミレーナ】「…えっと、これかしらー?」
端末をマリエッタに見せると、彼女は軽く頷いた。
【マリエッタ】「…ええ、それです」
【レイラ】「え、何ですか…?」

ミレーナが探し出したのは、グロリアの野党幹部が『国王は国家行事への参加も多く、健康でなければ難しいのではないか』という旨の発言をした、というニュースである。
つまりグレイスを王位継承から外すべき、という意見であり、それ自体は特段珍しいものではないのだが、
【ミレーナ】「つまり、王位継承問題が政争の種になっちゃってるんだねー。しかもこの野党、いわば『親共和国派』で、ハーラバード家と繋がりがあるって噂もあるねー」
【レイラ】「それじゃ、もしマリエッタ様が女王になったら…」
【ミレーナ】「その影響が世論にも広がって次の国政選挙で野党が勝利、グロリアが共和国に組み込まれてあたしらに宣戦布告。…ってのが最悪のシナリオかなー?」
当然、これは同盟の人間であるクロスバードのクルーにとってはなんとしても防がなければいけない事態である。

【ミレーナ】「…でもグロリアは立憲王制。王族には何もできないし、いたたまれなくなって逃げ出した、ってところかしらー?」
【マリエッタ】「ただ嫌になって逃げ出した、というだけのつもりではないのですが…そうなのかも知れません」
ミレーナの鋭い指摘に対し、マリエッタは伏し目がちにそう答えた。同盟の練習艦であるクロスバードが現在グロリア王国内にいるということは、現時点ではグロリア軍及び政府の上層部など、ごく一部にしか知られていない。だが、普段見ないはずの戦艦がグロリアの首都惑星に停泊している…ということで、偶然目撃した一般人もごく少数ながら存在した。ネットワーク上などでは小さいながらも話題になっており、同盟で行方不明になっているクロスバードではないか、という『正解』だけでなく、王国の新型戦艦説、共和国の輸送艦説など様々な憶測が飛び交っていた。マリエッタも王族という身分ではあるがそんな噂は耳に入っており、興味本位で調べるうちにクロスバードに突き当たった、という訳である。

【レイラ】「でも、この状況をいきなりどうにかしろって言われても…」
【マリエッタ】「ええ、無茶をお願いするつもりはありません。こうして話を聞いてもらっているだけでもありがたいです」
そもそもついさっき、政府関係者と思われる数人の男性を振り切ってクロスバードに飛び込んだのである。彼らはこの場は一旦引いたが、このままで済むはずがないのだ。


【シャーロット】「しかしハーラバードの連中が一枚噛んでるとなると、これは面倒なことになるわねぇ」
【オリト】「でも、ハーラバード家…共和国の4大宗家のうち1つが、何でグロリアに?」
【シャーロット】「そりゃちょっと考えれば分かるでしょ。ここは同盟と共和国の間にあるんだよ?それより連合でエースやってるあたしがここにいる方が100倍おかしいじゃんって話よ」
と、シャーロットは自嘲気味に話した後、情勢と自身がここにいる理由を軽く説明する。
【シャーロット】「グロリア王室の動きが最近慌ただしいらしくて、国王は表向きには病気療養中って話だけど実はヤバいんじゃないかってのが専らの噂…そんな状況だから、グロリアを共和国に引き込むべくハーラバードが色々手を回してるんじゃないかって。それでその辺の調査に行って来い、って訳でわざわざ連合からはるばるグロリアまでやってきたって訳ね」
【オリト】「なるほど…」
【シャーロット】(…っていうのは一応表向きなんだけど…ま、変装して極秘裏に調査してる時点で表も裏も何もないわよねぇ)
そのタイミングで、オリトの個人端末が鳴り響く。発信元は、ミレーナ先生。

【オリト】「はい、オリトです」
【ミレーナ】『あ、オリト君?ちょーっと緊急事態なんで、戻ってもらえるかしらー?どれぐらいで戻れるー?』
【オリト】「そうですね…今はF-82地区なので、ここからなら1時間ぐらいあれば」
【ミレーナ】『了解ー、待ってるわよー』

ミレーナ先生との軽い会話が終わり、通信が切れる。それに対し、すかさずシャーロットが首を突っ込んだ。
【シャーロット】「お仲間さんかしら?」
【オリト】「ええ、いえ、まぁ…」
それに対し、オリトは歯切れの悪い返事を返す。当然のことながら、クロスバードのことを喋る訳にはいかない。しかも今目の前にいるのは、そのクロスバード相手に実際に戦った人間である。
その結果がこの歯切れの悪い返事だったが、その不自然さをシャーロットは感じ取って、付け入った。
【シャーロット】「ねぇ…ちょっと、同行させてもらってもいいかしら?もちろん、悪いようにはしないからさ」
【オリト】「え、でも…」
【シャーロット】「大丈夫、ちゃんと変装してシャロン=イェーガーで通すから。さすがにさっきの連中みたいに見破られたらどうしようもないけど、まぁ何とかなるでしょ」
【オリト】「いえ、あの…」
オリトは何とか断ろうとするが、上手い理由が思いつかない。ハッキリ言ってしまえば、シャーロットはこの銀河中で最もクロスバードに連れてきてはいけない人間だといっても過言ではないし、そのことはオリトも理解している。だが、当然それを本人の前で喋ることもできず、しどろもどろしてしまう。
一方何も知らないシャーロットはそれを不審に思い、さらにオリトに迫る。そして最終的には、
【シャーロット】「…あんまりこういう手は使いたくないんだけど…分かるわよね?」
先ほど襲撃してきたパトリシアという少女に対して使ったスタンガンをオリトに向けて、半ば脅迫するような形で、オリトに連れていってもらうことにした。


ところでその頃、リーダーたるカンナは何をしていたかというと、
【カンナ】「はいぃ!?緊急事態だから戻ってこい!?ちょっと待ってよ、こっちはようやくグロリア人気No.1スイーツを買えるってとこなのに!!」
【ミレーナ】『どう考えても軍人の言うセリフじゃないわよねー、それ…』
…別の意味でそれどころではなかった。


かくしておよそ1時間後。
共和国基地内のクロスバードに、クルー全員、及びマリエッタ王女、そしてシャロン=イェーガーを名乗る変装したシャーロットが集まった。
【シャーロット】(ちょっと待ってちょっと待って!!確かにオリト君なんかちょっと怪しいとは思ってたけど、まさかよりにもよってこの艦のクルーかよ!!しかもマリエッタ王女殿下までいるし、一体何がどうなってこうなってるのよこの戦艦は!?)
この状況に一番焦っているのは、当然彼女である。
シャーロットにしてみれば、いくら多少怪しいと思ったとはいえまさかオリトを脅迫してまで付いてきた先が自分が直接戦った敵の戦艦だとは思ってもみなかったし、そこにグロリアのマリエッタ王女までいるということで、全くもって状況が掴めなくなっていた。
だが、彼女はすぐに切り替え、こう自らに言い聞かせる。
【シャーロット】(落ち着いて…落ち着くのよ…この銀河のエースパイロット、シャーロット=ワーグナーがこれぐらいで慌てちゃいけない…そうよ、敵の戦艦に乗り込めた上にマリエッタ王女殿下までいるんだから、これはチャンスだと思わないと…)
技術面はもちろんだが、こういう精神的な強さが、彼女を銀河のトップエースたらしめているのかもしれない。

【カンナ】「さてと…全員集まったわね。それじゃレイラ、一体何がどうしてこうなったのか、説明をお願い…もぐもぐ」
カンナがレイラに説明を促す。右手には、先ほど並んで手に入れたグロリアで人気のケーキ。
【ゲルト】「こんな状況でケーキ食べながら指示かよ…さすがウチの艦長」
【カンナ】「なんだっけ、ほら、糖分は脳にいいのよ!」
【クーリア】「この状況でそのセリフ、どう解釈しても言い訳にしか聞こえませんが」
【レイラ】「ま、まぁ、説明を始めましょう」
と、レイラがこの状況についての説明を一通り行う。

【カンナ】「もぐもぐ…グロリア王国内が何だか慌ただしいとは耳に入ってたけど、そういう状況になってたとはね…」
【ジェイク】「しっかし、コレ大丈夫なのかよ?下手すりゃ俺たち王女誘拐犯になっちまうぞ?」
と、ジェイクが心配を口にする。マリエッタ王女がクロスバードに転がり込んでからおよそ2時間、ここまで何もないのがむしろ不気味なぐらいなのだ。
【フランツ】「さすがにようやく同盟に帰れる寸前、ってところで王国軍と一戦交えるのは勘弁願いたいですね」
【クーリア】「そもそもここでグロリアを敵に回すのは同盟全体を考えても非常にまずいですし…」

話がそんな流れになったところで、マリエッタが小さく言葉を絞りだす。
【マリエッタ】「も、申し訳ありません…やはり、戻った方がよろしいのでしょうか…?」
だが、クーリアはそれをキッパリ否定した。
【クーリア】「『普通』であれば、それを薦めます。最終的に、それがお互いの為になる可能性も高いです。…けど、それでも、私たちは…クロスバードは、そんな人間味のない、つまらない結末を選びたくはありません。…そうでしょう、艦長?」
【カンナ】「そうね…」
カンナはそう軽く頷いた後、ケーキの最後の一かけらを口の中に放り込んで、こう言い切った。
【カンナ】「こうなった以上、グロリアをこの戦争に巻き込まずに王女殿下を助けて、ついでにあたしらも無事に帰る…不可能かも知れないけど、それでも、出来る限りやろうじゃない、みんな!」

カンナのその言葉に一瞬全員がおおっ、となった。が、すぐにゲルトがツッコミを入れる。
【ゲルト】「…でもよ、結局何をどうすりゃいいんだよ、この状況で?」
【カンナ】「そ、それは…」

カンナが言葉に詰まった、その時だった。
ミーティングルームの隅っこで1人端末をいじっていたシャロン…変装したシャーロットが、こうつぶやいた。
【シャーロット】「ちょっと待って…これ、まずいんじゃない?」
【レイラ】「どうしました?えっと…確か、シャロンさん、でしたっけ?」
【シャーロット】「シャロンでいいよ。今、グロリアのネットワーク上で、こんな噂が流れてるらしいんだけど…」
そう言って、端末の画面を皆に見せる。その画面は、グロリアのニュースサイト、それもどちらかといえばゴシップ的な記事が中心のサイトの記事だった。

『【緊急速報】グレイス第一王女、何者かに誘拐される!?複数の目撃情報あり』

【クーリア】「確かに本当なら相当まずい事態ですが…そもそもこのニュースサイト、信用していいものでしょうか?」
訝しむクーリア。ところがその時、他でもないマリエッタの個人端末が鳴り響く。
【マリエッタ】「これは…侍女のアイラさん?ちょっと失礼いたします」
マリエッタがそのまま部屋を抜け、通話を始める。沈黙が走るミーティングルーム。

およそ1分ぐらい経っただろうか。マリエッタの通話が終わったようで、ミーティングルームに戻ってきた。
【マリエッタ】「今、侍女から連絡がありました。先ほどのニュースサイトの記事…どうやら、ほぼ事実のようです」
その一言で、部屋が凍り付いた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第14章:迷路の果てに掴む未来で、瞳は灯る
 ホップスター  - 21/4/10(土) 0:04 -
  
グレイス王女が何者かに連れ去られた、の一報に凍り付くクロスバードの会議室。最初に口を開いたのは、オリトだった。
【オリト】「…でも、ちょっと待って下さい?仮にも一国の王女様、しかも病弱な方なんですよね?…そんな簡単に誘拐できるものなんですか?」
【マリエッタ】「ええ、普段は厳重な警備のもと、郊外の離宮にて静養なされています。アイラも少し不思議がっているようでした…」
【カンナ】「ひょっとすると…」
カンナはそこまで来て、「その可能性」を口にするのを少し憚った。が、あっさり当事者がそれを認める。
【マリエッタ】「恐らくは…内に手引きした者がいるのでしょう…王室を管理する王室庁にも、姉様よりも私が王になるべきと考える者がいると聞いていましたから…」


        【第14章 迷路の果てに掴む未来で、瞳は灯る】


【ゲルト】「しかしこうなっちまった以上さっさとグレイス殿下を助けねぇと、これ長引けば長引くほどまずい状況になるんじゃねぇのか?」
【フランツ】「それが簡単に出来る程相手も間抜けではないでしょう…そもそも一体どこに連れ去ったのか分かる訳がないですし…」

しかし、クーリアが少し考えながら、こう話し出した。
【クーリア】「…グロリア国民の間では、ジェームズ4世陛下がもう長くないということはまだ知られていないが、ジェームズ4世陛下の後継者問題自体は度々ニュースになっており、ほとんどの国民が知っている…マリエッタ殿下、この前提に間違いはありませんね?」
【マリエッタ】「ええ、そのはずです。私が我が国民について何を知っているのかと言われると、正直そこまでの自信はありませんが…」

さらにクーリアはゆっくり考えつつ、話を続ける。
【クーリア】「…ここからは全て仮定の話になるのですが…仮にグレイス殿下の王位継承に反対する一派の犯行だとして、それなら離宮に侵入できた時点で殺してしまえば終わる話ですよね?」
【カンナ】「そりゃ、殺してしまったらどっちにしろ長子がマリエッタ殿下になるんだから、賛成派も反対派も何もなくなっちゃう…それどころか、野党勢力は怪しまれて終わりよね」
【クーリア】「…そう、解せないのはそこなんですよ。グレイス殿下が『何者かにどうにかされた』時点で、この状況下では間違いなく反対派が真っ先に怪しまれるんです。実際私達もそう考えていますし」

【ゲルト】「おい、それじゃむしろ、犯人はまさか…」
思わず叫びそうになるゲルトを右手で制止して、クーリアが続ける。
【クーリア】「ええ、恐らくは…ですが、その中でもより過激な、『自分たちが主導権を握れればむしろ王位継承はどうでもいい』という一派の犯行ではないでしょうか」
【フランツ】「確かに、単純にグレイス殿下を女王にするという考え方では、病弱なグレイス殿下を誘拐、なんて真似はできないでしょうね」
【アネッタ】「何がどうなっても、反対派のせいにすれば全てが上手くいくって訳ね…」

【カンナ】「…マリエッタ王女殿下、失礼を承知で伺います。…思い当たる節は、ありますか?」
その問いかけに、マリエッタがゆっくり口を開く。
【マリエッタ】「どこの国、どの勢力にも、過激な考えをする者は一定数いる…それはグロリアでも例外ではありません。ただ…いくら私を王位につけようとする者が今の政府に批判的といっても、この小さな国でそのような過激な考えを持つ集団がこのような事を起こすほどの力があるとも思えません」

…そこで、意外な人物が言葉を挟んだ。シャロン…もとい、シャーロットである。
【シャーロット】「あのー、ちょっといい?」
【カンナ】「シャロンさん、何でしょう?」
【シャーロット】「もしも、もしもの話。その『過激な考えを持つ集団』に…何か、後ろ盾のようなものが、できたとしたら…こんな馬鹿げた真似も、できるんようになるんじゃないの?」
【レイラ】「つまり…裏があると?」
【シャーロット】「ただでさえ同盟と共和国に挟まれて不安定な上に後継者問題で揺れてる。オマケに野党勢力は共和国寄り。となれば、同盟側がこんな事仕掛けてきても…不思議じゃないよねぇ?」

さすがにそこまで話したところで、たまらずジェイクが大声をあげた。
【ジェイク】「おい、ちょっと待てよ!俺たちを疑おうってのか!?」
一瞬静まり返るミーティングルーム。だが、あっさりシャーロットが謝る。
【シャーロット】「…悪かった、そんなつもりで言ったんじゃないんだけどね。同盟のチャオに助けられといて同盟を疑うなんてあたしもどうかしてるねこりゃ…」
シャーロットとオリトは、クロスバードに入る際に「一般市民であるシャロンが素性不明の男に襲われていたところをオリトが機転を利かせて助けた」という筋書きを合わせてある。
【カンナ】「…正直同盟も一枚岩じゃない以上、その可能性は否定できないけれど…少なくともあたしらは何も知らないわ。それより…」
カンナは中途半端なところで上手く話を切りつつ、シャロン…もといシャーロットに迫る。
【カンナ】「オリト君の恩人みたいだから特別にここまで通してるけど…どうもただのグロリア一般市民には見えないのよねぇ…ひょっとして、ひょっとするのかしら?」
本来、クロスバードがグロリアにいる、というのはこの時点ではトップシークレットである。グロリアにいるのではないか、という噂は流れているが、それはまだ単なる噂に過ぎない。
最も、結果的にその最重要機密をこの銀河で一番知られてはいけない人間、シャーロットに知られている訳なのだから、最重要機密とは一体何なのかという話になってしまうのだが。

【シャーロット】「参ったなぁ、そうきたか…といっても、こっちもいくら振っても何も出てこないわよ?」
さらにシャーロットは続ける。
【シャーロット】「こういう性格だからそうは見えないかも知れないけど、ただでさえ噂になってた『消えた同盟戦艦』にいるってだけで正直結構ビビってるんだからね?」
シャーロットがそこまで言うと、さすがのカンナも引き下がった。
【カンナ】「…まぁ、こんな状況でこんな押し問答は無意味ね…」

結局推理をしても犯人が分かる訳ではなく手詰まりになってしまい、その場を沈黙が支配する。だが数秒した後、電子音が鳴り響いた。先ほどと同じ音、マリエッタの個人端末である。
チェックしようとマリエッタが端末を見た瞬間、思わず声をあげた。
【マリエッタ】「これは…父上!?」
【全員】「!?」
その場にいた全員が驚き振り返る。病気療養中の、ジェームズ4世国王その人からの着信である。
マリエッタは、軽く深呼吸をすると、ゆっくりと通信開始のスクリーンをタップした。

…通常、この時代の通信というのは、立体映像と音声によるリアルタイム会話が通常である。
だが、マリエッタがタップした瞬間、映し出された映像はこの時代ほとんど見られない『SOUND ONLY』の文字。そして、音声が流れる。

【ジェームズ】『…大体の話は聞いている。マリエッタ、お前にこれを託す。“銀河の意思”たる『これ』をどう使うかは、お前次第だ…!』

時間にして、わずか30秒足らず。ジェームズ4世国王はそれだけ言い残して、プツリと通信が切れた。呆気に取られる一同。
だが次の瞬間、マリエッタの端末から先ほどとは違う着信音が鳴る。マリエッタがチェックすると、とあるアプリケーションがダウンロードされてきた。

【マリエッタ】「アプリ…?」
それが一体何なのか、マリエッタも知らない。ただモニターには、『The WILL of Galaxy』、つまり“銀河の意思”というアプリ名が表示されていた。
マリエッタは恐る恐る、そのアプリをタップする。数秒の待機画面の後、文字入力を促すテキストボックスが2つ現れた。
【マリエッタ】(これは…ファーストネームとファミリーネーム、つまり人名を入力するのでしょうか…?)
マリエッタが試しに自分の名前を入力して、エンターキーをタップする。すると、ある画面が表示された。

【マリエッタ】「こ、これは…!!」
【レイラ】「どうしたの…?」
【マリエッタ】「申し訳ありません、これはちょっとお見せできません…!」
かなり慌てた様子でそう言い残し、マリエッタはクロスバードのブリーフィングルームを出て行った。

【クーリア】「一体、どういうアプリだったのでしょう…?」
【カンナ】「王女殿下のあの様子を見ると、恐らく国家機密に関わるようなアプリだったんでしょうけど…」
微妙な沈黙に包まれるブリーフィングルーム。しかし、『彼女』だけは頭をフル回転させていた。
【シャーロット】(ここで『銀河の意思』!?いやいやいや落ち着け、王女殿下なんだから何もおかしくはないでしょ、…でもこの状況であのワードがアプリ名ってどういう…っ、この状況ではさすがに動けない…!)

そうこうしているうちに、マリエッタが戻ってきた。先ほどの慌てた様子とは180度異なる、落ち着き払った、まさに『王女』のような足取りで。
【マリエッタ】「…申し訳ありません、取り乱してしまいました。…改めて、皆様にお願いがあります」
そして、そのしっかりとした口ぶりに、改めてクロスバードの面々、そしてシャーロットは姿勢を正す。
【マリエッタ】「姉様の居場所が判明しました。場所は…ここです」
そう説明しながら地図アプリを開いてブリーフィングルームの大きなモニターに投影させる。地図が指示したのは、グロリア首都郊外にある5階建ての小さなビルだった。
【フランツ】「いきなりグレイス王女殿下の居場所が判明とは話の展開が早いですね…先ほどのアプリと何か関連が?」
フランツがさすがに違和感を覚えて疑問を挟む。
【マリエッタ】「関連があることは否定しません。詳細についてはお話しできませんが…」
言葉を濁すマリエッタ。さすがにカンナがフォローする。
【カンナ】「正直とっても気になるけど…一国の王女が他所の国の軍人の卵相手には話せない内容、なんていくらでもあるでしょうし、今重要なのはそこじゃないわ。続けて?」
【マリエッタ】「ありがとうございます。このビルに入っている企業は、共和国のハーラバード家と資本的に繋がりがある、と言われています」

【シャーロット】「ハーラバード家…!」
シャーロットが思わず声をあげる。
【クーリア】「シャロンさん、何か思い当たる節が?」
【シャーロット】「…いや、今日ここに来る途中、偶然クリシアクロスを身に着けてる女を見たのよ。他にも最近ハーラバード家がグロリアの取り込みを狙ってるって噂はよく聞くけど…さすがにそれぐらいは王女殿下も聞いたことあるでしょう?」
【マリエッタ】「ええ、そうですね…ハーラバード家が信仰しているクリシア教の象徴たるクリシアクロス…最近では、ここグロリアでも身に着けている者を見る機会が増えていると聞いています」
【レイラ】「ハーラバード家以外にも最近は広がりだしてる、って聞いたことはありますね…っと、話題が逸れちゃいましたね、続けましょう」

【ゲルト】「でも何で共和国のハーラバードがグレイス王女殿下を?今までの推理と正反対じゃねぇか」
そうゲルトが疑問を呈すが、
【ジャレオ】「確かに謎ではありますが…現実としてハーラバード家の息のかかった場所に王女殿下がいる可能性が高い、という事実がある以上、動くしかないでしょう」
そうジャレオが諭した。

【マリエッタ】「向こうにとっても、恐らく姉様は大事な交渉材料…そんざいな扱いはしていないはずです。クロスバードの皆さんには…姉様を、救い出していただきたいのです。無茶なお願いであることは承知の上ですが…」
【カンナ】「………」
カンナは即答せずに、少し冷静になって考えた。そもそも、いくら自国である同盟にも影響を与える可能性があるとはいえ、ただの士官候補生が他所の国で起こっている争いに首を突っ込む道理はない。
何より、連合と共和国の境界宙域に弾き飛ばされてからおよそ1ヵ月、あと一歩で帰れるというところまで来ているのだ。普通ならば、さっさと帰るのが筋である。

…だがカンナは、いや、クロスバードのクルーは、だからといって、困っている人間を前にして首を横に振れなかった。
【カンナ】「…できる限りのことはやりましょう」
【マリエッタ】「ありがとうございます。極秘裏に話を進めていますし、私は他にやらなければいけないことがあるので、できることは限られますが…最大限の支援をいたします」
【クーリア】「了解しました。後ほど詳細を詰めましょう」

さて、これで話はまとまった…と思いきや、マリエッタは今度はシャーロットの方を向き、こうお願いをした。
【マリエッタ】「それと…シャロンさん、貴方には特別なお願いがあります。別室に来ていただけますか?」
【シャーロット】「え、えぇ、構わないけど…」
シャーロットが彼女の意図も分からずに頷くと、マリエッタはシャーロットを連れてクロスバードから降り、グロリア軍の基地へと戻っていった。


およそ15分後。グロリア軍の基地の一室に対し、マリエッタは厳重に鍵をかけるよう命じ、その中に入っていった。
外側で、警備を命じられた兵士2人がぼやく。
【兵士A】「ったく、あの姫様は何がしたいんだ…さっきはクロスバードから俺たちを追い払っといて、今度は一般市民を連れ込んで厳重に鍵をかけろ?」
【兵士B】「そういえば、例のはぐれ戦艦の艦長も女の子だったよな…?まさか、姫様にそういう趣味が…!?」
【兵士A】「そんなバカみてぇな話、漫画の中だけにしてくれよ、頼むから…」

…もちろん、当の本人は全くそんな気はない。シャーロットを前にして、マリエッタが話を切り出す。
【マリエッタ】「さてと…シャロンさん…いえ、『連合の蒼き流星』、シャーロット=ワーグナーさん…貴方に特別なお願いがあります」
【シャーロット】「バレバレかい!…こりゃもうちょっと変装の練習しといた方が良かったかなぁー…」
ハーラバード家の少女の襲撃に続き、またもあっさり自分の正体を見破られたことに、さすがに苦笑いするしかないシャーロット。
【マリエッタ】「貴方がどんな理由でこのグロリアにいるのかは知りませんが…折角銀河のエースが目の前にいるのです。姉様救出のために、そしてグロリア王国のために、少しだけ骨を折っていただきます。もちろん、それなりの報酬はお付けいたしますわ」
【シャーロット】「…比喩表現ってのは分かってるけど、骨を折るとは物騒ね。…仮に、NOと言ったら?」
【マリエッタ】「その気になれば私たちは、貴方を拘束して、同盟か共和国のいずれかに身柄を引き渡すことも可能であることをお忘れなきよう…と、言っておきましょうかしら?」
【シャーロット】(地味にエグいこと言うねこのお姫様…まぁこの状況だししゃーない、か…)
マリエッタがさらりと脅しをかけるように話を進める。これにはさすがのシャーロットも、首を縦に振らざるをえなかった。

【シャーロット】「…分かった。で、あたしは何をすればいい?」
すると、マリエッタは自らの端末を少し操作して、シャーロットに見せる。
【シャーロット】「こいつは…なるほどね…!」
その画面を見たシャーロットは、ニヤリと笑った。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第15章:小さな世界の果てで嘘と踊る
 ホップスター  - 21/4/17(土) 0:04 -
  
グロリア首都郊外の、小さなビル。
数日前に、グレイス王女がここに連れ去られたと示された場所。
…の、小さな通気口を進むチャオが1匹。オリトである。


        【第15章 小さな世界の果てで嘘と踊る】


【オリト】(グレイス様はどこだ…!?)
小柄なチャオである身を活かして、ビル内に潜入したのである。
最も、チャオは基本的にはきれいな環境を好む生物であり、本来こういう場所は不得手。
それでもオリトが潜入したのは、自らこういう役目を買って出たからだ。スラム育ちのチャオであるオリトにとって、こんな環境は慣れたものである。

【オリト】(この部屋には…武装した共和国兵が数人…)
そのビルはグロリア王国の共和国系企業、という建前で建っているビルではあるが、中は完全に共和国の諜報基地と化していた。
もちろん、一番の目的はグレイス王女の捜索であるが、敵の状況をある程度把握できるのであれば、それだけで大きなアドバンテージを得ることができる。
オリトは必死に構造と状況を覚える。小さな録画用カメラで録画もしているが、やはり活きた記憶に勝るものはない。

いくつかの部屋を天井裏からチェックしていき、やがてある部屋の近くに辿り着いた。
部屋の中をチェックすると、人が何人か座っている。そして、そのうちの1人の姿が目に入った時、オリトは驚いた。
【オリト】(あれは…!)
思わず声を上げそうになるのを、必死で口を抑えて止める。
先日、オリトとシャーロットを襲った眼鏡の少女がそこにいたのだ。

オリトは音を立てないように深呼吸をし、落ち着かせる。
そして、改めて部屋の中を確認する。眼鏡の少女の他に、同年代と思われる少年が1人と、少し年下、10歳前後と思われる少女が1人、中年の男性が1人の計4人がいる。

オリトが様子を見ていると、少年が少女に声をかけた。
【少年】「パトリシア、ケガはもういいのか?」

【オリト】(パトリシア…あの時シャーロットさんが拾ったクリシアクロスに刻まれた名前!)
オリトはすぐにその名前を思い出す。点と点が繋がり線になる。あのクリシアクロスは本人のもので、パトリシア=ファン=フロージアは彼女の本名であること(仮に本名でなくても、周囲からそう呼ばれていること)はほぼ間違いない。オリトは確信した。
【パトリシア】「脇腹かすったぐらいでぎゃーぎゃー騒ぐなよミッチェル、あんまり自分から言いたくはないがあたしらは試験管生まれなんだぞ?」
それに対しパトリシアに声をかけた少年、ミッチェル=グレンフォードが返事をする。
【ミッチェル】「そうか、なら問題ない。すまなかった」

【オリト】(あのパトリシアって少女は軽傷、話している少年の名前はミッチェル、試験管生まれってことは…元々は研究対象として生まれた…?)
もちろん先ほどの録画用カメラで録音もしているが、改めて内容を自分の中で咀嚼する。でなければ、自分がここに来た意味がない。

次に、彼らを監督する立場にあると思われる中年の男性、アンドリュー=マルティネスが口を挟む。
【アンドリュー】「シャーロットを仕留められれば良かったんだが…まぁ相手が相手だからな。牽制できればそれでいい」
【パトリシア】「あの程度で牽制ができる相手とも思えねぇが…まぁなるようにしかならねぇ、か。そうだろ、エカテリーナ?」
と、パトリシアが話を振ったのが、10歳くらいの少女、エカテリーナ=キースリング。
【エカテリーナ】「ええ、クリシアの神の意思のままに…って、あれ?…パトリシアさん、クリシアクロスは?」
エカテリーナが、パトリシアが普段身に着けているクリシアクロスが無い事に気が付き指摘する。パトリシアは慌てた様子で衣服の中を探し回るが、
【パトリシア】「やべぇ、恐らくあん時に落としちまったかねぇ…シャーロットに拾われてなきゃいいんだがな…本国帰ったら作り直してもらうか…」
すぐに諦めたように探すのをやめた。

…そのクリシアクロスは、すぐそこで隠れているオリトが持っている。さすがにオリトはドキリとしたが、平静になるように努める。

【ミッチェル】「そういえば、カルマンとイズミルは?」
【アンドリュー】「カルマンは4階、イズミルはメグレズで待機だ。この2ヵ所を空ける訳にはいくまい」
【パトリシア】「4階…あぁ、王女殿下か」

【オリト】(4階…!!)
4階。王女殿下。直接見た訳ではないが、オリトはついに決定的なセリフを掴んだ。
それと同時に、彼はビルから撤退することにした。作戦を立案したクーリアとの約束で潜入時間を決めていたのだが、そろそろタイムリミットが近づいていたのだ。


一方、クロスバードのクルーは、そこから数百メートルほど離れた別のビルの一室で待機していた。
【カンナ】「オリト君、本当に大丈夫なのよね…?」
【レイラ】「生体スキャンシステムのハッキングは問題ないはずです。あとは、オリト君の頑張り次第だと思います」
この時代、ある程度のセキュリティが必要な建築物などには、建物全体の生命反応をスキャンできる生体スキャン機能がある場所が多い。この物語の最初、オリトがクロスバードに迷い込んだ際もそれに反応したのが生体スキャンシステムだった。
例に漏れずオリトが潜入したビルにも生体スキャンシステムが備わっているが、レイラはそれをあっさりハッキングして解除してみせたのだ。

【ジェイク】「しかし、敵国のシステムなんてよくハッキングできたな?」
感心しつつ首を傾げるジェイクに、レイラが気持ち小声で説明する。
【レイラ】「ここだけの話なんですけど…魔女艦隊にいた時に、こっそり共和国の暗号システムの一部を覗き見してコピペしたんです。ドゥイエット家系のシステムがハーラバード家系のシステムでも普通に通用するとはさすがに思いませんでしたけども…」
【ジャレオ】「い、いつの間にそんなことを…」
【ゲルト】(地味に恐ろしいなコイツ…)

【ミレア】「…そろそろ、時間、です」
ミレアが時計を見ながらつぶやく。潜入のタイムリミットの時間のことである。
【フランツ】「グレイス王女殿下の居場所は無理でも、最悪ビル内の構造だけでも分かれば大きな収穫なのですが…」
【レイラ】「でもオリト君の性格を考えると、無理して長居しちゃいそうな気がするけど…大丈夫?」
【クーリア】「念のために色々仕込んだり教えたりはしていますが…通信系の機器が一切使えない以上、最終的には彼次第です」
通信に気づかれてバレるのを防ぐため、オリトには通信系の機器は一切持たせていない。小型の録画用カメラも、ジャレオが通信機能を全て取り外した特製のものだ。
【カンナ】「…とにかく、今はオリト君を信じて待つしかないわ」


【パトリシア】「…で、結局これからどうするんだ?グロリアの連中だって馬鹿じゃあるまいし、例の時間までのんびりしてる訳じゃないだろう?」
パトリシアが話を続ける。いかにも続きを聞きたい話題であるが、オリトはぐっと我慢し、音を立てないように引き返す。…ここから先の会話は、オリトは聞いていないし、録音データにも入っていない。

【アンドリュー】「そうだな…パトリシア、カルマンと代わってくれるか?ついでに例の情報について聞き出せるといいが、そっちはまぁ二の次でいい」
【パトリシア】「それは構わねぇが…」
【アンドリュー】「ミッチェルとエカテリーナは今夜を目途にここから「動いて」もらう。D48地区の第6ビルだ…っと、エカテリーナは?」
アンドリューがふと気が付くと、部屋からエカテリーナがいなくなっていた。
【ミッチェル】「理由は解らないが、先ほど部屋から出ていった。動くことに関しては後で私から伝えておこう」
【アンドリュー】「頼むぞ」
ミッチェルの返答に、アンドリューは納得したように軽く回答した。


実際のところ、エカテリーナが部屋から出て行ったのに特に理由は無かった。強いて言えば、「飽きた」というところか。
エカテリーナはまだ11歳である。座って大人(最もミッチェルもパトリシアも18歳なのだが)が小難しい話をしているだけ、というのは飽きるというものだ。

彼女はお気に入りの人形を持ちながら、特に目的も無く廊下を歩く。周囲には誰もいない…はずだった。
…その時、ふと「気配」に気が付いた。
【エカテリーナ】「…誰か、いるの?」
その声に反応するかのように、廊下の天井にあった通気口からガタリと音がし、…1匹のチャオが『落ちてきた』。オリトである。

【エカテリーナ】「…チャオ?」
【オリト】「うわあっ!?」
オリトは想定外の事態にかなり慌てた様子で、意思疎通がすぐにできる状況ではない。ただ、それはエカテリーナも同様。予感があったとはいえ、突然天井からチャオが落ちてきたのだ。互いに冷静な状態ではなかった。

しばらくして、ようやくエカテリーナが尋ねる。
【エカテリーナ】「ま、迷子?」
【オリト】「…え、あ、はい!」
オリトは咄嗟に肯定したものの、パニック状態が収まらず、質問の内容をよく理解しないまま頷いてしまっている。
【エカテリーナ】「…そう。出口はあっち。気を付けて」
と、エカテリーナも親切に出口を教えたが、そんなことをした彼女も冷静ではなかった。そもそもにして、このビルは共和国兵が厳重に警備しており、迷子のチャオが入り込む余裕なんかないはずなのだ。
【オリト】「あ、ありがとうございます!」
オリトも訳が分からないままお礼を述べて、エカテリーナが指した出口の方へまっすぐ歩いていった。

【エカテリーナ】(こんなところに迷子のチャオなんて…あれ?)
ふと彼女が気が付くと、オリトが去っていった床に、光るものが落ちていた。


【オリト】「…オリト、戻りました!」
【カンナ】「!!…お帰り、良くやったわ!!」
戻ってきたオリトの姿を見て、歓声が沸くビルの一室。
【ジャレオ】「早速カメラデータの解析に入ります」
【オリト】「お願いします。直接見た訳ではないんですけど、あのビルにグレイス王女殿下がいるのは間違いないみたいです。そういう会話を聞きました」
そう言いながらオリトは機材をジャレオに渡す。
【クーリア】「…!正直無事に帰ってくるだけでも合格点だと思っていたのですが…」
【カンナ】「オリト君はゆっくり休んどいて!ジャレオとクーリア、レイラは解析をお願い!それが終わり次第、作戦会議に入るわ」
テキパキと話を進めるカンナと、それに従うクロスバードのクルー。だが、その雰囲気を止める人がいた。

【ミレーナ】「…なんかみんな完全にやる気だけど、本当にいいのー?止めるなら今のうちだよ?」
【アネッタ】「え?」
【ミレーナ】「銀河の反対側に飛ばされて彷徨っておよそ1ヵ月、やっと帰れそうってところで他の国の争いに首を突っ込んで…下手すれば命を落とすかもしれないんだよ?」

その疑問に対し、カンナがゆっくりと喋りだした。
【カンナ】「…正直、似たようなことは、ずっと考えてます。…この争いにあたしらが首を突っ込むことがどれだけ無謀か、どれだけ無駄か、どれだけ無意味か…でも、それでも、あたしらは首を突っ込む人でありたい。困ってる者を放っておく訳にはいかない…!」
それは、確固たる決意だった。そしてそれは、クロスバードのクルー全員の意思である。
【ミレーナ】「…そう。そこまで言うなら、もう止めないわよー。その代わり、その後始末をするのが、教師の仕事ってやつなのかねー…」
それを聞いたミレーナ先生は、半分諦めたような笑顔を見せ、ビルの一室を去ろうとする。
【カンナ】「先生…大丈夫です。必ず、全員、生きて戻ってきます」
【ミレーナ】「りょーかい。よろしくねー?」
そう言うと、ミレーナ先生は背中を見せたまま軽く手を振り、歩いて去っていった。


一方、エカテリーナはミッチェルから移動についての話を聞き、その準備のために別の部屋へと移動していた。
そこで、偶然パトリシアとすれ違う。
【パトリシア】「お、エカテリーナか。ミッチェルから話は聞いたか?」
【エカテリーナ】「ええ、D48の第6ビルに移動ですね」
【パトリシア】「あぁ…っと、そういえばお前、あん時何処行ってたんだ?」
【エカテリーナ】「いえ、深い理由は…あ、でも、その途中で見知らぬ迷子のチャオと会いました」
【パトリシア】「迷子のチャオ!?」
パトリシアが面食らったような表情で聞き返す。繰り返しになるが、いくら体格の小さいチャオといえど、警備が厳重なこのビルに偶然迷い込む、なんて話は基本的にある訳がないのだ。
【エカテリーナ】「ええ。それでパトリシアさん、そのチャオが落としていったようなんですが、これを…」
と、ポケットからあるものを出してパトリシアに渡す。
【パトリシア】「これは…!」

…それは、パトリシアの名前が刻まれた、クリシアクロス。
パトリシアは一瞬『何故』と思考を巡らせたが、その回答は1秒ほどで解けた。
【パトリシア】「まずい!!そいつは…敵だ!!!」
思わず叫ぶパトリシア。そう、クリシアクロスを落としたと思われるシャーロットとの戦いの最中にいたチャオ…それが、他でもないオリトなのだ。
【エカテリーナ】「!?」
パトリシアの叫びに思わずたじろぐエカテリーナ。そしてその次の瞬間、ビルを大きな爆発音が襲った。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第16章:嘲笑い、交差して、そして瞬く
 ホップスター  - 21/4/24(土) 0:03 -
  
グロリア王国首都郊外の小さなビルに、爆発音が響く。
既に周囲は王国軍の協力を得て封鎖しており、邪魔者はいない。
【ゲルト】「っしゃ!突破成功っ!」
ゲルトの仕掛けた爆薬が、ビルの正面ゲートを見事に吹き飛ばす。
【カンナ】「アネッタは隣のビル、ジャレオとレイラ、オリト君は後方待機よろしく!それじゃ…突っ込むわよ!!」
その掛け声と共に、残りのクロスバードクルーが一斉にビルの中へと駆け込んだ。


        【第16章 嘲笑い、交差して、そして瞬く】


【ミッチェル】「敵…!」
【アンドリュー】「んなっ…このタイミングでだと…!」
ビル内の一室にいたアンドリューとミッチェルもさすがに驚きを隠せない。
だが、アンドリューは驚きつつも、別の考えを巡らせていた。先ほどミッチェルとエカテリーナに別のビルへの移動を命じたばかりだが、2人ともまだ移動前である。もし移動後の襲撃であれば、さすがにパトリシアとカルマンだけでは防ぎきれなかったかも知れない。
【アンドリュー】(だが、今は『4人』いる…ラッキーだと思え!)
そう必死に言い聞かせ、個人端末の通信スイッチを入れ、こう叫んだ。
【アンドリュー】『落ち着いて対処しろ!向こうも派手なことはできないはずだ!!』

【パトリシア】「ったく、生体スキャンは仕事してんのかよ!」
廊下でパトリシアも舌打ちをしながら叫ぶ。
生体スキャンシステムは人間に対してはかなり有効であるが、小柄なチャオに対してはまだまだ精度が上がらず、小動物などと間違えてしまう問題が度々発生している。それを逆手に取って、チャオだけの特殊部隊を編成しているという噂がある国や勢力もあるぐらいである。
つまるところ、パトリシアはそれを疑った訳だが、実際にはレイラがハッキングしている。それに気付いた人間は、こちらにはいなかった。

【エカテリーナ】「ごめんなさい、私の不注意のせいで…」
エカテリーナが俯きながら、小声で謝る。
【パトリシア】「後悔は後でたっぷり聞いてやる!連中を迎え撃つのが先だ!」
パトリシアはそれを遮るように軽く怒鳴った後、敵を迎え撃つために廊下を走り出した。

だがエカテリーナは、それを追わなかった。立ち止まったまま、少し考え込む。
【エカテリーナ】(このわずかな時間で襲撃されるっていうことは、敵もそんなに遠くには拠点を置いていないはず…この近くで王国政府系、もしくは王国軍系の建物は…)
と考えていくと、とある小さなビルの存在に思い至った。


【カンナ】「まずはとにかく4階ね…」
慎重に進む一行。迎え撃ってきた敵を確実に光線銃で仕留めながら、とりあえずビルの奥にある階段へと駆け込み、2階へと駆け上がる。
【クーリア】「敵のフィールドですから、十分注意してください…オリト君の証言が確かなら、少なくとも3〜4人は『要注意人物』がいるはずです…」
そうクーリアが話しながら、2階へと駆け上がった瞬間だった。

【パトリシア】「誰が『要注意人物』だって…?」
パトリシアが、光線銃を2丁両手に構えながら歩いてきた。

【カンナ】「来た…っ!」
【クーリア】「特徴的なアンダーリムの眼鏡とミドルヘアー…映像資料と一致、間違いありません!パトリシア=ファン=フロージア!」
【パトリシア】「色々話を聞きたいところだけど…生憎そんな余裕はこっちもないんでね…最初から全力でいかせてもらうよ!!」
そう叫ぶと、パトリシアは全く躊躇せずに、クロスバードのクルーが固まっているところに一気に突っ込もうとする。

…だが次の瞬間、パトリシアはドン、と床を強く踏み、動きを止めた。
その時、彼女の目前を一筋の光の束が斜めに走る。
【カンナ】「アネッタ!」
隣のビルのアネッタからの援護射撃である。すぐに彼女は姿を隠したので、パトリシア側からはもう捉えられない。
【パトリシア】「ちっ…思ったより用意周到だねぇ…」
パトリシアは唸りつつ、隣のビルから狙われない死角へと移動する。

だが逆にカンナは、パトリシアが引き下がる一瞬を見逃さなかった。
【カンナ】「そこっ!」
光線銃を一発。だが惜しくも外れ、パトリシアの顔のすぐ左を掠める。とはいえ、彼女を一瞬怯ませるには十分だった。
その一瞬の間にクロスバードのクルーは全員で一気に走り、パトリシアを出し抜く形で奥の廊下へと消えた。

【パトリシア】「ちぃっ、また不覚を…取るかよ!!」
だがパトリシアはすぐに駆け出し、クロスバードのクルーを追い始める。この建物の構造も、そして敵の目的も分かっている以上、どちらへ向かえばいいかは明白なのだ。
廊下の角を曲がれば、そこが3階へと向かう階段。一気に角を曲がろうとしたその時、本能的に危険を察知し、再び足を止めた。

次の瞬間、白兵戦用の小型ビームセイバーがパトリシアの目前を一閃する。持ち主は、この人。
【クーリア】「さすがに勘がいいですね…」

そのクーリアに向けて、遠くから叫び声がした。
【ゲルト】「クーリア、足止めを買って出た以上は死亡フラグ発動だけはするなよ!!」
それに対し、クーリアもこう叫び返した。
【クーリア】「ご冗談を!そんなお涙頂戴な展開は漫画の中だけだって証明してあげますよ!」

【パトリシア】「はははっ、それじゃあその漫画みたいな展開になってもらいましょうか!!」
それを聞いたパトリシアは、笑いながら2丁の光線銃を乱射してクーリアに襲い掛かる。
【クーリア】(とはいえ、実力では正直到底及びそうにありませんけどね…私の首が吹っ飛ぶ前に皆さんに何とかしてもらうしかないですね)
クーリアはそれを躱したり受けたりしつつ、こう考えながら策を巡らせていた。彼女も一応士官候補生なので多少の白兵戦の心得はあるものの、基本的に頭脳労働担当であり、パトリシアのような『規格外』とマトモにやりあってもまず勝てない。だとすれば、頭を使うしかないのだ。


さて、残りのクルーは一気に3階へと駆け上がろうとする…が、踊り場でカンナがストップをかけた。
【カンナ】(ちょっと待って!…これは、“まずい”わ…)
先ほどのパトリシアよりもさらに強い、かなり危ない気配のようなものを感じ取り、全員を止める。
その次の瞬間、最後尾にいたジェイクが咄嗟に小型ビームセイバーを抜いた。ガキン、と鋭い音。
それに気が付いて他のクルーが振り向いた時には、ジェイクと1人の少年が剣を交えていた。
【フランツ】「いつの間に…!」
【少年】「やはりこれで仕留められるほど甘くはないか…」
【ジェイク】「はっ、随分と舐められたもんだなぁ!」

そしてそのまま、少年とジェイクの斬り合いへと突入した。猛スピードで2本のビームセイバーが舞う。
【カンナ】(気配は前方からだったはずなのに…!)
【ゲルト】(ちょっとこれは手が出せねぇぞ…)
それを呆然と見つめる他のクロスバードクルー。それだけ、この2人が凄すぎたのだ。
そしてそれと同時に、彼女たちは慄いていた。クロスバードのクルーの中で最も白兵戦が得意なジェイクと涼しい顔で互角に渡り合っている少年がいる。
銀河は広い。どこかにそんな人間はいるだろうとは全員薄々感じていたが、実際に相対してみると、呆然とするしかなかった。

そこでジェイクが思わず叫んだ。
【ジェイク】「何ボサっとしてるんだよ!!やること分かってんだろ!!」
【カンナ】「…!」
ハッとするカンナ。…だが、それは「敵」も分かりきっていることである。少年が咄嗟にジェイクから離れ、先頭のカンナに襲い掛かった。
カンナもすぐにビームセイバーを抜いて応戦するが、
【カンナ】(速いっ…!)
さすがに相手が悪すぎる、と思った瞬間、ジェイクが少年に追いつき、再びジェイクと少年の1対1になる。
カンナと他のクルーはそのスキに距離を取り、階段を駆け上がった。

【ジェイク】「さぁてと…まだ名前を聞いてなかったな…」
2人しかいなくなった踊り場で、ジェイクは静かに喋る。
【少年】「わざわざ戦場で殺す相手の名前を聞く必要性があるのか?」
少年はそう返し、軽く首を傾げる。
【ジェイク】「必要性が無くとも聞きたくなるのが人間ってもんなんだよ、分かんねぇかなぁ?」
ジェイクがそう答える間にも、少年が斬りかかり、ジェイクが応戦する。以下は、斬り合いながらの会話である。
【少年】「申し訳ないが、そういう機敏はあまり分からなくてな…そもそも、機密事項に関わる可能性だってあるだろう?」
【ジェイク】「あー、そういう手合いか…なら、まぁ、無理にとは…言わねぇっ!」
するとジェイクは一気に距離を詰めた。手を伸ばせば触れるほどの近さ。少年も当然対応するが、そこがジェイクの狙いだった。
わずかに少年の剣が右に流れた瞬間を狙い、
【ジェイク】「てえぇいっ!」
一撃。虚を突かれた少年は対応が遅れ、右肩に軽く切り傷ができた。
【少年】「…!!」

すぐに立て直すが、さすがに驚いた顔をする少年。しばらくして、ゆっくりと喋りだした。
【少年】「…前言撤回だ。興味が湧いた。名前を聞こう…」
その問いかけに対し、ジェイクが堂々と答える。
【ジェイク】「惑星同盟、アレグリオ士官学校所属士官候補生、ジェイク=カデンツァ!」
そしてそれに返事をするように、少年も自らの名を名乗った。
【少年】「宇宙共和国ハーラバード家所属第21特務小隊、通称『シグマ小隊』隊長…ミッチェル=グレンフォード。少尉だ」


一方、後方支援組。
【ジャレオ】「皆さんの動きはどうですか?」
【レイラ】「ジェイクの動きが止まりました。恐らくクーリアに続いて交戦に入ったと思われます」
そこにクーリアを支援しているアネッタからの通信が飛び込む。
【アネッタ】『あのパトリシアって敵の女の子…ハッキリ言って尋常じゃないわ。クーリアがまずいかも知れない…!』
【ジャレオ】「艦長、皆さん、急いでください…!」

【オリト】「…大丈夫、なんですよね…?」
オリトが心配そうに話しかけた、その時だった。
建物のドアの方から轟音がしてドアが崩れ落ちる。
驚いて2人と1匹が振り向くと、そこには―――

【少女】「やはり、ここでしたか…」
まだ10歳ぐらいの幼さの残る少女が、左手で人形を抱えたまま立っていた。

【レイラ】「お、女の子…?」
【ジャレオ】「迷子…ですか?」
状況が飲み込めない2人だが、『1匹』はこの状況を把握していた。
【オリト】「気を付けてください!!…あの子、『敵』です!!」
…そう、そこにいる少女は、他でもない、先ほど共和国のビルで出会った少女、エカテリーナ=キースリングその子である。

オリトが叫んだ次の瞬間、エカテリーナは右手で素早く光線銃を抜き、一発撃ち込む。
レイラとジャレオはオリトの叫びに素早く反応したため回避したが、その光線は通信機器を撃ち抜いた。
【レイラ】「こんな子が…?嘘でしょう…!?」
【オリト】「間違いないです。あのビルで見かけました!」
オリトがそう断言する。ついでに言うと、オリトが潜入時に撮影した映像にもしっかりと彼女の姿が映っており、それはレイラもジャレオも確認している。それでも、俄かには信じ難い。
【ジャレオ】「多少、いえかなり躊躇しますが…これも戦争ということですか…!」
ジャレオは少し逡巡しつつも、小型ビームセイバーを抜いた。


さて、カンナを始めとする残りのメンバー4人(カンナ、ゲルト、フランツ、ミレア)は、ついに4階の、厳重に鍵がかかった一室に辿り着いた。
息を押し殺しながら、会話する。
【カンナ】(鍵はかかっているけど…恐らく当初は『そういうこと』を想定していない部屋のようね。ゲルト、いけるかしら?)
【ゲルト】(これぐらいなら手持ちで恐らくいけるだろう。2分だけ時間をくれ)
【カンナ】(オッケー、頼むわよ)

するとゲルトは、慣れた手つきで音を立てないように扉の周囲に小型の爆薬を複数セットする。
【ゲルト】(この辺りなら爆風をあまり受けずに、爆破直後に突入が可能だ。艦長、ここで待機してくれ。あとは…頼んだ)
【カンナ】(ええ。みんなもすぐについて来れるようにしてね)
やがてカンナをはじめ、全員が所定の位置につく。それを確認したゲルトが、左手で合図をし、右手でスイッチを押した。

鼓膜に発破音が響いた次の瞬間、カンナは耳栓を手早く抜きつつ、ドアを蹴破ってその部屋に突入した。
【カンナ】「グレイス女王殿下!!」

…その部屋には、ベッドの上で座っているグレイスと、その横に1人の少年がいた。
【少年】「やれやれ、来ちまったか…」
少年は半ば諦めたような表情でカンナを見る。そして、ベッドのグレイスがこう続けた。

【グレイス】「ようこそいらっしゃいました。お噂はかねがね聞いていますよ、銀河の漂流者である同盟の士官候補生さん?」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第17章:深淵の爪先で踊る人形達よ
 ホップスター  - 21/5/1(土) 0:06 -
  
銃声と轟音が時折響くビルの中で、Σ小隊の上官であるアンドリュー=マルティネスは1人考え込んでいた。
【アンドリュー】(状況はかなり良くねぇ…恐らく作戦は失敗だろう…元々リスクの方が高いような作戦だったから想定内ではあるんだが…)
そもそもグロリアは中立国であり、その王女を誘拐するというのは、冷静に考えると無謀と言うしかない作戦である。
だが成功さえすれば、この永遠に続くのではとすら感じさせる銀河の戦争を、自らの手で終わらせることも不可能ではないはずなのだ。
【アンドリュー】(だからせめて…断片的な情報だけでも…!)
そう決意するとアンドリューは歩き出した。向かうは、4階。


        【第17章 深淵の爪先で踊る人形達よ】


【カンナ】「グレイス王女殿下!大丈夫ですか!?」
カンナが叫ぶ。
【グレイス】「落ち着いてください、カンナ=レヴォルタ艦長?幸い私はこの通り、傷一つありません」
攫われた身でありながら、グレイスは至って冷静だった。それに対し、逆に混乱するのはX組の方になる。
【フランツ】「何故王女殿下が…艦長の名前を…!?」
フランツのその疑問に対し、隣にいた少年が答えた。
【少年】「俺は詳しいことは知らねぇが…お前さん達、とっくに銀河の有名人らしいぞ?」
【グレイス】「そして貴方達がここグロリアにいるという話は聞いていましたから…あとはこう、点と線を繋げれば…ね?」
そう言いグレイスはニコリと笑った。

【ゲルト】(いやいやいや、俺らが有名人なのは何となく解ってたが、どうやって点と線を繋げりゃ俺らがここに助けに来たって分かるんだよ!!)
ゲルトが心中で狼狽する。その間に、グレイスの隣にいた少年が自己紹介をした。
【少年】「…おっと、自己紹介が遅れた。俺はカルマン=マイトリンガー。共和国のハーラバード家の人間だ。思いっきり要約すると、王女様を攫った犯人ってことだな!」
【グレイス】「カルマンさん、その表現は適切ではありませんよ。1人で攫った訳ではないでしょう?攫った犯人の一味、といったところでしょうか」
【カルマン】「成程、そうだな。ではそう改めるとしようか」

…本当にこの会話が、誘拐犯とその被害者の会話なのだろうか。突入したX組の面々は唖然としていた。それに対し、グレイスは容赦なく疑問をぶつける。
【グレイス】「…どうしたのです?私を助けに来たのではなかったのですか?」
【カンナ】「いや…そうなんだけど…なんというか、そちらがそういう調子だと…ねぇ?」
さすがに回答に窮するカンナ。それに対し、ミレアが耳打ちをする。
【ミレア】(艦長…ひょっとして、グレイス王女は…彼らと…?)
ミレアは元々グレイスは彼らに協力していたのではないか、と勘繰ったのだ。それを聞いたカンナは少し考え込む。

すると、その様子を見て察したグレイスが、さらに言葉を続けた。
【グレイス】「あぁ、いえ、さすがに離宮に突入してきた時はかなり動転しましたが…つまるところ、私には自力で脱出する力はないですし、彼らも私に危害を加えるメリットはありませんから…利害の一致、というものです」

そこまでグレイスが喋ったところで、その部屋に1人の男が入ってきた。アンドリューである。
【アンドリュー】「取り込み中のところ済まない。…ちょっといいか?」
【カンナ】「!?」
カンナは咄嗟にアンドリューの方に銃口を向ける。それを見たアンドリューは、軽く両手を挙げてこう答えた。
【アンドリュー】「おおっと、悪い悪い。銀河の漂流者御一行様もいるんだったな。俺はアンドリュー=マルティネス。そいつの上官ってとこだ」
さらにアンドリューはカルマンの方に目線をやりつつ、こう続ける。
【アンドリュー】「さっきグレイス王女から聞いたと思うが…俺達も彼女に危害を加えるメリットはないんだ。この場でドンパチするのは互いに不味いとは思わねぇか?」
【フランツ】「では何故こんなリスクの高い真似を…?」
それに対して、フランツが『そもそも』の疑問を投げかける。アンドリューは少し考えて、こう返した。

【アンドリュー】「そうだなぁ…そいつぁ機密事項なんで同盟さんには答えられない…っていうのが筋なんだが、それじゃお前さん達は納得しねぇだろう」
【フランツ】「大方の予想は付きますけどね…グロリアの後継者問題を共和国に有利に働かせるために…」
フランツがそう喋るところを、アンドリューが遮る。
【アンドリュー】「それもあるが、それだけだとテストの答案としては50点だ。それだけじゃこれだけのリスクをかける理由にはならねぇ」
【ミレア】「残り…50点とは…?」
そのミレアの疑問に対して、アンドリューは少し悩みつつこう提案した。
【アンドリュー】「…そうだなぁ、教えてやってもいいが…俺たちを見逃すのが条件だ。さすがに異国で死にたくはないんでね。もちろん王女殿下はそちらに引き渡す」

アンドリューが突き付けた『条件』に、ゲルトが怒る。
【ゲルト】「こんな場で取引だと!?」
【アンドリュー】「もちろん飲む、飲まないはそちらの自由だがね。飲んでくれたら『頑張ったけど取り逃しました』ぐらいの口裏は合わせてやるよ。逆に断るんだったら、不本意だが…上手いこと王女殿下を安全な所に退避させた後で、思う存分殺し合おうじゃないか」

その話を聞いてカンナは数秒の間考え込む。…そして、結論を出した。
【カンナ】「…分かったわ。脱出後、速やかに共和国勢力圏内まで退避するのが条件よ」
【アンドリュー】「それで構わねぇ。元よりこれ以上長居するリスクはこっちとしても避けたいんでね」


【ジャレオ】「くっ…!」
一方、エカテリーナと交戦するジャレオ。彼の本業はメカニックであり、クーリアと同様、白兵戦の心得はあるが『本業』ではない。
【レイラ】「この子、強い…!」
そしてその横でオリトを守りながら、戦況を見つめるレイラ。エカテリーナの人間とは思えない速さ、そして強さに思わず言葉がこぼれる。
【レイラ】(クーリアと戦ってるパトリシアって女の子もアネッタが『尋常じゃない』って言ってた…さっきのジェイクの動きも、ジェイクがそれだけの対応をしなければならない相手ってことよね…ある程度は想定していたつもりだったけど、いくらなんでも一人一人が常軌を逸してる…!)
自分と同年代であれば、仲間内にジェイクがいるので『銀河って広いんだな』という一言で片付けることもできる。だが、今自分の眼前にいる少女、エカテリーナはどうみてもまだ10歳前後。レイラが疑問を浮かべるのも無理はなかった。

【オリト】「レイラさん…どうしたんですか?」
思案を巡らせるレイラに対して、オリトが尋ねる。
【レイラ】「今回の敵…何か、あるわ…!」

と、その時だった。
再び部屋を轟音が響き渡る。先ほど、エカテリーナが部屋に突撃した時とは違う種類の轟音。例えるなら、超音速の戦闘機がすぐ横を通過したような音。
【レイラ】「!?」
その轟音でしばらく全員が動きを止めるが、収まった頃にエカテリーナがぽつりと呟いた。
【エカテリーナ】「来たのね…」
言い終わるや否や、再びジャレオと剣を交える。一方、その言葉に連られて、レイラは思わず近くの窓から外を見た。…すると見慣れぬ人型兵器が1機、かなりのスピードで飛び去っていくのが見えた。
【レイラ】(あれは…?)


…それは、共和国・ハーラバード家所有の人型兵器、RDF7-004『カノープス』。
乗っているのは、イズミル=グヴェンソンという少年。彼もまた、Σ小隊所属である。
【イズミル】「いくつか想定外の事象はあったみたいだが…俺が全て片付けてやるさ!!」
グロリア領内で共和国の人型兵器が堂々と突撃する。当然ながられっきとした領土侵犯であるが、ちょうどグレイス王女誘拐で王国軍は混乱の最中にあり、止める者はいなかった。

やがてカノープスは、クロスバードのクルーとΣ小隊が戦っているビルの前で動きを止めた。
【イズミル】「っと、着いたな…人の気配がしねぇが…」
そう呟きながら、カノープスのビームライフルを抜き、ビルに向かって構えさせる。
そのビルの中にはクロスバードのクルーだけでなく、グレイス王女や味方であるはずのアンドリュー、ミッチェル、パトリシア、カルマンもいるのだが、彼はお構いなしだった。
【イズミル】「うまいこと敵だけ吹っ飛んでくれよ…!」
そう身勝手な願いを唱えると、ビームライフルに光が灯る。あとは発射ボタンを押すだけの、その時だった。

左方向から猛スピードで突入した別の機体が一閃し、そのビームライフルを弾き飛ばす。
【イズミル】「!?」

イズミルの目前に現れた白い機体。
カノープスのモニターには、「Unknown」の文字が示されていた。
【イズミル】「アンノウンだと…?だが、この系統は…」
未知の機体ではあるが、その形状やエンジン音などからある程度推測はできる。その結論が、これ。
【イズミル】「グロリアの新型か…!」
さすがに自分の邪魔をしてきた機体を無視する訳にはいかず、イズミルはビームセイバーを抜き、その機体と交戦する。


話をまとめた後、アンドリューは軽くため息をした後、こう語りだした。
【アンドリュー】「お前さん達がどこまで知ってるかは分からねぇが…グロリアの王族は、代々『この銀河の鍵を握る重要な秘密』を口伝しているっていう噂がある。簡単に言えば、その秘密を聞き出す為だ」
【ミレア】「秘密を…聞き出す為に…?」
【アンドリュー】「実際、ただの噂なのかも知れねぇし、あるいは本当だったとしても内容的には大したもんじゃないのかも知れねぇ。…だが、俺たち共和国と同じようにグロリアと国境を接する同盟のお前さん達から見て、おかしいとは思わねぇか?」
【ゲルト】「おかしい…?」

【アンドリュー】「例えば、国力を計る指標はいくつかあるが…まぁシンプルなところでいくと、グロリアの人口は共和国や同盟の10分の1以下だ。それなのに、共和国と同盟に挟まれた地理状況で、なぜ今の今まで中立を保ってこれた?」
【フランツ】「それは同盟と共和国の緩衝国になっているからでしょう?歴史的にも大国に挟まれた小国が緩衝国となり独立を保った事例が数多くあります」
【アンドリュー】「それもあるだろうが…それだけが理由だとはとても思えねぇ。…そうだなぁ、数ヵ月前に公表されたグロリアの人型兵器の新型、知ってるか?」
【ゲルト】「…えっと確か、GHHS-4000、ハダルだったか?」
【アンドリュー】「あくまでも噂だが…あれのスペック、我々のプロキオンや同盟のアンタレスやアルタイルに並ぶか、それ以上だって話もある。…小国だから配備数は少なくて済むかも知れねぇが、そんな高性能機を開発して大量生産するなんて芸当、グロリアの国力で本当にできるのか?」
【カンナ】「確かにあのニュースを聞いた時は少し驚いたわね。3大勢力のどっかが裏で技術供与でもしてるんじゃないかって噂もあったけど…」
【アンドリュー】「技術供与するったって、さすがに供与先に自国の戦力以上の能力を持った機体を開発させるなんて阿呆は居ねぇだろう。…他にも色々あるがつまり、何か俺たちの知らない『秘密』があるんじゃないか、ってのが、ウチの上層部のご判断ってやつだ」
【カンナ】「なるほどね…」


一方、イズミルが駆るカノープスとグロリアの新型の激突は、思わぬ方向へと進んでいた。
【イズミル】「い、いくらなんでも速過ぎる…!!」
カノープスはスピードを重視して設計・建造された、イズミル専用のカスタムモデルなのだが、そのカノープスがスピードで押されているのだ。

【イズミル】「機体性能がいいのは勿論だが…恐らくパイロットが…」
新型の攻撃を受けながら、必死に思考を巡らせるイズミル。そして必死で考えた末、99.99%有り得ないはずの、『まさか』という結論を弾き出した。
【イズミル】「この戦闘パターンは…いや、そんな馬鹿なことが…あってたまるか…!!」

彼は「そのパイロット」と直接対峙した経験はないが、映像なら何度も見ているし、その動きを再現したシミュレーターとも何度も戦っている。
信じたくはないが、口にするのも憚られるが、今自らの目の前でグロリアの新型に乗っているであろうパイロットとそのパターンが酷似しているのだ。

イズミルは決心したように、その『悪魔の名前』を口にした。
【イズミル】「シャーロット=ワーグナー…!!」
しかし、銀河中の誰もが知っている通り、シャーロット=ワーグナーは連合のエースパイロットである。それが連合から遠く離れたこのグロリアで、王国軍の新型に乗って現れることなど、99.99%有り得ない。
最も実際のところは、彼女は先日生身でパトリシアと交戦していた訳で、上官であるアンドリュー達は彼女がグロリアにいることを知っていたが、別行動だったイズミルはそれを知らなかった。それが、ある意味彼にとって悲劇だったとも言える。

とにかく、現実は、残りの0.01%であった。
【シャーロット】「いいねぇ、この新型!レスポンスと機動性が抜群ね!レグルスにも劣らない!グロリア小国と侮るなかれ、ってか?」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第18章:その寓話のあっけない終焉
 ホップスター  - 21/5/8(土) 0:04 -
  
アンドリューの話を黙って聞いていたカルマンがこう切り出した。
【カルマン】「…で、王女様、実際のところは…どうなんだ?何か知ってるのか?」
そうグレイスに向かって問いかける。それに対し、グレイス王女はこう首を振った。
【グレイス】「残念ながら、私は何も…」
【アンドリュー】「…ま、こういう訳でその目論見は外れた訳だがな」


        【第18章 その寓話のあっけない終焉】


…ところが、そこでグレイス王女が何かを思いついたように語りだした。
【グレイス】「あぁ、そういえば…1年ほど前でしたか、用事があって車椅子で父の部屋に入った際に、父が何やら1人で呟いてたことがあります。その時は『何を言っているのだろう』と思ったのですが、今から思えば…」
【カルマン】「何を言ったのか覚えてるのか?」
【グレイス】「小声だったので全て聞き取れた訳ではないのですが…『銀河の意思』というフレーズだけはハッキリと耳に残っています」
【カンナ】「銀河の意思…!?」

銀河の意思。そのフレーズに、カンナが思わず反応した。
先日、マリエッタ王女が個人端末にその名を冠したアプリをダウンロードして、急にグレイス王女の居場所が分かったのを彼女は目にしている。
(最も、カンナが確認できたのはアプリ名までであり、何をしているのかまでは分からなかったのだが)

【アンドリュー】「ほう、『銀河の意思』ねぇ…それはまたご大層なフレーズだな」
【カンナ】「そういえば、マリエッタ王女殿下の個人端末にも…」
【グレイス】「マリエッタに…?」
グレイスが思わず反応する。
【カンナ】「ええ、本人も驚いていたようだけど…」
カンナがその時の状況を説明する。

【グレイス】「なるほど…父上が何か知っている可能性が高いですね…」
そう言いグレイスが自らの個人端末を取り出すも、何も表示させないまま少し考え込む。

ところがその時、突然グレイス王女の個人端末が起動し、ある動画の再生が始まった。
【グレイス】「!?」
動画に映し出されたのは、グロリアの女性ニュースキャスター。
【キャスター】『臨時ニュースをお知らせいたします。
        間もなく、マリエッタ第二王女殿下より、王位継承について重大なお知らせがあると王室より発表されました。
        なお、本ニュースはグロリア全国民にいち早く伝えたいとのマリエッタ王女殿下たっての要望により、現在グロリア国内に存在する個人端末全てに生中継にて配信し、自動で再生させていただきます。繰り返します…』

【グレイス】「マリエッタ!?」
そのニュースに、その場にいた全員が驚いた。
間もなくして、カンナやゲルトなどクロスバードの他メンバー、そしてカルマンやアンドリューの個人端末も同様の動画の再生が始まった。
【アンドリュー】「現在グロリアに存在する個人端末全てにニュースを強制再生、か…地味にエグいなこの国は…」

その後、2回ほどキャスターが同様のお知らせを繰り返した後、カメラが切り替えられ、王室内の一室と思われる場所でマイクを向けられて座っているマリエッタ王女が映し出された。

【マリエッタ】『グロリア国民の皆様、このような形で突然皆様の端末をお借りすることになり、大変申し訳ございません。
        ですが、現在グロリアで起きていること、そしてこれから起きようとしていることについて、国民の皆様に正しくお知らせする義務があると思い、このような形を取らせて頂きました』

【マリエッタ】『まず、現在病気療養中である父…ジェームズ4世国王陛下について、私よりお知らせさせていただきます。
        医師団は最善を尽くしていますが…正直、あまりよくない状況であり、近いうちに万が一のことも覚悟しなければならない、と伺っております。
        父や周囲の平穏を保つため、これまで報道機関にはなるべく取材を控えるように通達させて頂いていましたが、結果的に国民の皆様に真実を隠す結果となってしまい、大変申し訳なく思っております。
        なお、病状の詳細につきましては、後ほど王室庁より公式に発表させていただきます。今しばらく、お待ちいただきますようお願いいたします』

【マリエッタ】『続いて、一部で報じられている、姉…グレイス第一王女殿下についても、大事なお知らせとお願いがあります。
        結論から申し上げますと、姉が何者かに誘拐された、という報道そのものは事実であります。
        こちらにつきましても、国民の皆様の混乱を招くこと、及びその影響により姉の身に危害が及ぶことを危惧し、報道機関への通達をこれまで控えていました。重ねてお詫び申し上げます』


そこまで話して、マリエッタ王女は一度、深く頭を下げた。
カンナやグレイス達はもちろん、ジェイクとミッチェル、クーリアやアネッタとパトリシア、オリト達とエカテリーナ、そしてシャーロットとイズミル。その場で交戦していた全員が手を止め、放送に見入っている。
それは、グロリア国民ほぼ全員が、同じ状況であった。


【マリエッタ】『ですが、こちらにつきましては、外部からの協力者の尽力もあり、現在、救出作戦が進行中です。
        危害が及ぶ可能性を考慮し、救出作戦の詳細については現時点ではお話できませんが、『外部からの協力者』についてこの場で説明させていただきます』


【ゲルト】「救出作戦の外部からの協力者って…」
【カンナ】「あたしら以外に誰が…っていうか、ここで明かすの王女殿下!?」
このタイミングで自分たちの存在を公表することについて、さすがのカンナも動揺を隠せない。
これはマリエッタ王女の独断なのか、それとも同盟軍の担当者との交渉の末なのか―――『当事者』である自分たちが不在の中でこの判断が行われたことについて、必死に考えを巡らせるが、そうこうしているうちにマリエッタのスピーチは続く。


【マリエッタ】『1ヵ月ほど前より行方不明となっております、惑星同盟軍の士官候補生が搭乗していた練習艦『クロスバード』…皆様も各種報道などで一度は聞いたことがあるかと思います。
        彼女たちは超光速航行時のトラブルにより、予期せずグロリア領内の宙域を漂流していたところをグロリア軍艦が極秘裏に保護しておりました。
        同盟軍側との身柄引き渡し交渉がようやく終わり、近日中に公表させていただく予定だったのですが、姉の誘拐事件の発生に伴い、彼女たちが公表されていない自分たちの立場でできることはないか、と協力の申し出があり、共同で救出作戦にあたっているところです』

【マリエッタ】『なお、救出作戦につきましては、姉の救出が確認され次第、速やかに国民の皆様にお知らせいたします。
        父の回復と共に、姉の無事を、国民の皆様と共に祈りたいと思います』

【マリエッタ】『さて、この度の一連の出来事につきまして…元々は、私と姉による王位継承問題が原因であることは否定できません。
        この事実に対し、家族一同、非常に責任を痛感すると共に、心を痛めております。
        これに際し、父は病床の身ではありますが、ある決断をするに至りました。…以下、私が代読させていただきます』

…そこで、マリエッタは一呼吸置いて、以下の一文を読み上げた。

『私の次の王位について、三女であるソフィアを推薦する』


その一言で、グロリアの全国民がどよめいた、といっても過言ではなかっただろう。
それは当然、特にこの一室で大きかった。
【アンドリュー】「…そうきやがったか…!!」
アンドリューは『やられた』という表情でその言葉を口に出す。

…だが、逆にクロスバード側の面々はいまいち状況を飲み込めていなかった
【フランツ】「次の王位にアンヌ様でもマリエッタ様でもなく…三女のソフィア様を推薦…!」
【ミレア】「…でも、グロリアは、選挙王制、だから、国王が、推薦、しようが、関係、ないんじゃ…?」
そのミレアの疑問に、アンドリューが答える。
【アンドリュー】「ああ、本来なら『関係ない』かも知れねぇ…
         だが、いくら立憲君主制だからといって、自分の家の跡継ぎに関する国王の意向を国家が無視する訳にはいかねぇ!そこを敢えて突いたんだよ、あの姫様は…」
【ゲルト】「でもそれこそ国民の意思を無視してるんじゃねぇのか!?」
【アンドリュー】「王様1人の意思を汲めねぇんじゃ、何の為の立憲君主制だよ!」
そのアンドリューの言葉に、さすがのゲルトも黙ってしまった。

【アンドリュー】「…悪いな、言葉がきつくなっちまった。でも、こういうのは、同盟の連中には分からねぇかも知れねぇな…」
共和国はその名とは裏腹に、敢えて『4大宗家による支配』を認めている。そういう意味では、規模や内容こそ違えど、グロリアと近いものがある。逆に言えば、だからこそアンドリューはこの発言の重大さを理解できたのであるし、君主のいない民主制である同盟出身のゲルトには分からなかったのだ。


アンドリューは改めて、今度はカルマンの方に向かいこう命令する。
【アンドリュー】「…とにかく、こうなっちまった以上、俺たちがここにいる大義名分がなくなっちまった…
         って訳で、カルマン、撤収だ!全員に伝えろ!」
【カルマン】「了解!」

かくしてカルマンから、ミッチェル、パトリシア、エカテリーナ、そしてイズミルに対し撤収命令が下った。
続いてアンドリューはこの場の後始末を始める。まずはグレイス王女の解放である。
【アンドリュー】「悪かったな、グレイス王女殿下。こんなことに巻き込んじまって」
【グレイス】「いえ、こちらこそ、そちらが望むような情報を持っておらず、申し訳ありませんでした」
と、自らを攫った相手に対して謝るグレイス王女。
アンドリューはばつが悪そうにしながらも、今度はカンナの方を向いて話を続ける。

【アンドリュー】「…クロスバードのカンナといったか。グレイス王女殿下を頼めるか?」
【カンナ】「元よりそのつもりよ。さすがにこんな展開は想定外だけどね」
【アンドリュー】「それじゃあまぁ…戦場以外の場所で、また会えることを祈るぜ」
そう言い残すと、カルマンと共に部屋を出ていった。


『敵』のいなくなった一室で、カンナは改めてグレイス王女に対して頭を下げる。
【カンナ】「それでは、グレイス王女殿下…参りましょうか」
【グレイス】「…ええ、そうですね」
そう頷いたグレイス王女は、どこか寂しげだった。
ひょっとしたら、王室の人間、しかも病弱なグレイス王女にとっては、拉致という形とはいえ、見知らぬ人と見知らぬ場所で話すのは、とても新鮮だったのかも知れない。
あるいは、先ほどのマリエッタ王女の演説により、彼女自身が女王になるという可能性がほぼ完全に閉ざされたことに、一抹の悲しさを覚えたのかも知れない。
…カンナはそんな可能性を少し考えたが、かといって、これ以上グレイス王女をこのままにする訳にもいかなかった。


その頃、エカテリーナが襲撃した、X組が拠点としていたビル。
エカテリーナも撤収命令を受け、剣を収める。
【エカテリーナ】「…撤収ですか。この状況では仕方ありませんね…」
そうつぶやくと、彼女は特に未練もない様子で、すぐに部屋から姿を消した。

エカテリーナの猛攻を必死で受け止めていたジャレオは、まさに「命拾いした」という表情。それは、その場に居合わせたレイラとオリトも同じだった。
【レイラ】(た、助かった…)
しかし、『これで終わり』ではない。レイラはすぐに気持ちを切り替え、手持ちの個人端末で他のX組メンバーと接触を試みる。
【レイラ】「みんな、大丈夫!?」
【カンナ】『ええ、グレイス王女殿下も無事よ!』
【クーリア】『こちらは何とか生きてます…さすがに死ぬかと思いましたよ』
【ジェイク】『しっかしあんだけ強ぇ奴は初めてだ…銀河ってのは広いもんだなぁ』
とりあえず、全員無事のようである。レイラはひとまず安堵した。


レイラがメンバーと連絡を取る一方、ジャレオも剣を収めて1つ深いため息をすると、すぐにエカテリーナの襲撃で壊れた通信端末のチェックを始めている。
…そこで手持ち無沙汰になったオリトだけが、マリエッタ王女の『放送の続き』を聞いていた。
この場のジャレオとレイラ以外のX組のメンバーも、連絡や撤収のためそれどころではなかった。

【マリエッタ】『また、この度の一連の騒動の責任を取り…
        私、マリエッタ=ネーブルは、王位継承権の放棄、及び王家からの離脱を宣言いたします。
        これからは、一グロリア国民として、この国の未来に貢献していきたいと思います』

という内容を、X組のメンバーで唯一、オリトだけが聞いていた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第19章:意思はまだ、彼方にありて動かず
 ホップスター  - 21/5/15(土) 0:03 -
  
アンドリューの撤退命令で一番安堵したのは、グレイス王女やカンナ達でも、オリトやジャレオ、レイラでも、そしてクーリアやアネッタでもなく、他でもないこの人だった。
【イズミル】「撤退命令…!これで助かる…っ!!」
イズミルは撤退命令を受けて、真っ先に逃げるように撤収。いくらなんでも相手が悪すぎた。


        【第19章 意思はまだ、彼方にありて動かず】


シャーロットはイズミルを無理に追うことはしなかった。グロリアという異国の地で、借り物の機体である以上、余計なことはすべきではなかった。
【シャーロット】「ちっ、久しぶりに骨のある奴だったんだけど…まぁしゃーないか。
         こんだけ新型の戦闘データ取れれば向こうさんも満足してくれるでしょ、そろそろ返しにいくか…
         しっかし、これ表にバレたら確実にグロリアがひっくり返るのに、よくやるわねぇ」
マリエッタ王女はあの時、シャーロットに対しグロリアの新型人型兵器の戦闘テストを頼んだのだ。
その見返りは、「シャーロットが乗るグロリアの新型人型兵器の機体データ」。
グロリア側としても新型の貴重な実戦データを手に入れた上に、グレイス王女の救出の力になってくれるのだから、悪い話ではなかったという訳だ。
(最もこれには、グロリアが同盟と共和国に挟まれた位置にあり、シャーロットが所属する連合とは国境を接していないという地理的理由もあるのだが)

【シャーロット】「ま、あとはあのはぐれ同盟戦艦の皆さんが何とかしてくれるでしょ。
         …こっちも大義名分失くしちゃったし、さっさと連合に帰るとしますかね。…あー、大統領の渋い顔が目に浮かぶっと」
シャーロットはそんな感じの独り言を喋りながら、自らもこの場から撤収した。


【マリエッタ】「お姉様!!」
【グレイス】「マリエッタ!よくやりましたね…!」
再会した姉妹が抱き合う。それは、銀河中どこにでもいる、ごく普通の姉妹の姿だった。

【グレイス】「そういえば、ソフィアは?」
【マリエッタ】「政府の方と一連の事件への対応にあたっています。少し休んでこちらに来るように勧めたのですが、『私は後でいいから』といって聞きませんでした」
【グレイス】「ソフィアらしいわね。後で彼女もねぎらってあげないと…っ!」
そこで、グレイス王女が少しふらついた。元々病弱の身であり、アンドリューはかなり丁重に扱ったとはいえ、やはり一連の事件による心身の負担は相当なものである。
【マリエッタ】「お姉様!?もういいですから、ゆっくりしてください!そちらにベッドを用意してますので!」
【グレイス】「悪いわね。さすがにちょっと…眠く…」
【マリエッタ】「って、ちょっと、お姉様!?」
なんとマリエッタに抱きつくような状態で、そのまま目を閉じてしまった。
【マリエッタ】「仕方ありませんわね…よいしょっと」
マリエッタが何とかベッドまで運び、グレイス王女を楽な姿勢で寝かせる。その瞬間、とてつもない寂しさがこみ上げてきた。王家から離れるということは、つまりグレイス王女とも離れるということなのだ。
それが、自らに課した決断であり、今回の事件の責任である。改めて、それを痛感していた。


一方、撤収したハーラバード家のΣ小隊も、グロリア王国の宇宙港付近で再会した。
【アンドリュー】「…よし、全員揃ったな」
【ミッチェル】「ああ、問題ない」
【カルマン】「…しっかし、見事に失敗したなぁ、任務!まさか姫様が土壇場であの決断をするとは!」
【パトリシア】「声が大きいぞカルマン!」
笑いながら話すカルマンに対し、パトリシアが小声で諫める。
【カルマン】「おっと、すまんすまん」

それを受けるように、アンドリューが話を続ける。
【アンドリュー】「ま、全員無事なんだ。どうにでもなるさ。差し当たっては俺が上の連中に怒鳴られるだろうが、それだけで済むんだからな。それに、意外と収穫も少なくなかったしな」
【イズミル】「…俺だけやられ損じゃねぇかよ…あの悪魔めが…!」
それに対し、イズミルが舌打ちをしながらシャーロットに対して悪態をつく。彼からしたらたまったものではない。グロリアから遠く離れているはずの連合のエースが突然目の前に現れて危うく殺されかけたのだ。
【パトリシア】「何言ってんだよ、蒼き流星と実際に交戦経験を積めた上になんだかんだで無傷で生きて戻ってきてんだぞ?最高にラッキーじゃねぇかよ」
そうパトリシアが言い返すが、それにイズミルは激怒した。
【イズミル】「冗談言ってんじゃねぇよ!こっちは死にかけてんだぞ糞眼鏡ぇ!!」
そう叫び、パトリシアの胸倉を掴むが、パトリシアは表情一つ変えずに言い返す。
【パトリシア】「こっちだって身体張ってんだよ!!あたしもミッチェルもエカテリーナも結局例の艦のクルーと殺り合っときながら誰一人仕留められてねぇんだぞ!あいつら人畜無害な顔しながらこっちと平然と渡り合ってんだぞ!!」
パトリシアがそこまで叫んだところでアンドリューが仲裁に入り、2人を離した。
【アンドリュー】「まぁまぁ、2人共落ち着け。さすがにあれは想定外過ぎたが…イズミル、よく戻ってきてくれた。カノープスもなんだかんだでほぼ無傷だったしな。イズミルには後で別任務を与えてやるから、共和国に戻るまで我慢だ」
【イズミル】「分かったよ、ったく…」
一応は納得して引き下がったものの、なおも不満そうな表情を浮かべるイズミル。
【アンドリュー】「…さて、共和国に戻るぞ。残念ながらまだまだ戦争は終わりそうにねぇからな」
アンドリューはそう号令をかけると、全員がゆっくりと歩きだした。

【エカテリーナ】(あのチャオの子…またどこかで、会いそうな気がする…)
エカテリーナは歩きながらふとそんな予感がしたが、こっそりと胸の内にしまっておいた。


【ミレーナ】「よーし、全員無事だねー…って、クーリアさん!?」
こちらもX組のメンバーと再会したミレーナ先生だったが、クーリアの姿を見て驚いた。全身に血しぶきを浴びていて、その身には無数の切り傷。特に左腕にはかなり深い傷が入っている。

【クーリア】「グレイス王女殿下は無傷で救出成功、X組メンバーも全員無事…何か、問題でも?」
だが、クーリアはそんな状況でも、表情1つ変えずにこう平然と答えた。
【ミレーナ】「いやいやいや、あなたが無事じゃないでしょー!?」
ミレーナ先生は慌ててクーリアのところに駆け寄り、傷の状況を見つつ応急手当を始める。ミレーナ先生は医師免許を持つ保健教師であり、さすがに手際がいい。

【オリト】「な、何があったんですか…?」
恐る恐るオリトが尋ねる。答えたのは、クーリアを隣のビルから援護していたアネッタ。
【アネッタ】「あたしの銃で援護してこれよ。本当に、これでもクーリアが生きてるのが不思議なぐらいだわ…!」
つまるところ、パトリシアに圧倒された結果なのだ。彼女、ひいては「彼ら」の規格外さを生々しく示した結果に、改めてオリトは戦慄した。

【ミレーナ】「左腕…傷が骨の近くまで入ってる…応急処置はするけど、同盟に戻って再生治療するまで、左手は使わないでよー?」
【クーリア】「右利きなので、問題ありません」
【ミレーナ】「そういう話じゃなくってですねー…」

【カンナ】「ジェイクは大丈夫かしら?」
カンナはジェイクの方に振り向いた。こちらもミッチェルと1対1で戦った、ということもあり、少し気になったのだ。
【ジェイク】「あぁ大丈夫、俺はこの通り無傷だ。とはいえあんなバケモン、もうしばらくやりたくねぇけどな…」
それを聞いてカンナは安心した。最も、その『バケモン』相手に無傷で戦い通したジェイクもジェイクであるが。

【レイラ】「しっかし、ジェイクにここまで言わせるなんて、あいつらどんだけ規格外なのよ…
      あたしらんとこに来た女の子もあんな小っこくて可愛かったのにジャレオが押されてたし」
【クーリア】「恐らく、これは推測ですが…」
レイラの疑問にクーリアが答えようとするが、
【ミレーナ】「クーリアさんちょっと黙ってて!」
手当てをしているミレーナ先生の珍しい一喝に、クーリアもさすがに黙ってしまう。

【ジェイク】「クーリアの代わりに俺が答える。あの人間離れした強さ、恐らく普通の人間じゃねぇぞ…
       確か突入前にオリトが潜入した時に、奴ら『試験管生まれ』って言ってたよな?ということは、遺伝子改造じゃねぇか?」
【カンナ】「なるほどね、辻褄は合うわ…」
当然、遺伝子改造は倫理的に問題があるため3大国家共に禁止しているが、その3大国家が戦争中のご時世である。表に見えてこない裏でいくらやっていても、おかしくはない。


そこに、マリエッタが入ってくる。
【マリエッタ】「皆さん、この度は、本当に…ありがとうございました」
そして、深々と頭を下げた。
【カンナ】「とんでもないわ。最終的には、王女殿下の勇気と決断が状況を変えたのよ」
【マリエッタ】「その背中を押して下さったのは、他でもない皆さんです」

そこで、フランツが質問をする。
【フランツ】「それで、王女殿下…これからどうなされるおつもりで?」
その質問に対しマリエッタは、少し考えながら答えを紡ぎだす。
【マリエッタ】「そうですね…一グロリア国民として、まずは国内を…状況が許せば、この銀河中を巡ってみたいと思います。
        さすがに戦争中なので、すぐには難しいと思いますが…この銀河で、どんな人が、どんなチャオが生きているのか、この目で直接見てみたいです」
【カンナ】「面白い考えね。もし同盟領内にいらっしゃることがあったら、ぜひ連絡をいただければ、案内しますよ」

このやり取りを聞いて、オリトは微妙に話が噛み合っていないな、と感じた。それもそのはず、マリエッタの会見の終盤、王家からの離脱のくだりについては、クロスバードのクルーの中ではオリトしか聞いていないのである。
しかし、「オリトしか知らない」という事それ自体についても、オリトは気が付いておらず、違和感を指摘するような余裕も、まだオリトにはなかった。


さて、そんなX組の面々がいる部屋の隅っこで、腕組みをしながら立って考え事をしていたのが、シャロンに変装したシャーロット。彼女に対し、オリトが話しかける。
【オリト】「そういえば、シャーロ…シャロンさんは、救出作戦の時何をしてたんですか?」
【シャーロット】「えーっと…まぁ、ちょーっと裏方でマリエッタ姫の手伝い。おかげで色々と面白いものも見れた」
【オリト】「そうなんですね。あの、色々と、ありがとうございました」
そう言い、オリトが頭を下げる。
【シャーロット】「こちらこそ、この場にあたしがいるのはオリト君のおかげだ。感謝するよ。
         …とはいえ互いの立場上、次に会う時は殺し合う時かも知れないけどね…」
と、特に後半部分は他のメンバーに聞こえないように、小声でつぶやく。その後、軽く手招きするようなジェスチャーをし、部屋の外へと向かった。

廊下で話の続きをするオリトとシャーロット。
【オリト】「っと、すいません。でも僕たちまだ士官候補生ですし、特に僕はまだ入学したばかりですし、そもそもこの広い銀河で戦場で会うなんて…」
そこまで話したオリトを、シャーロットが制止する。
【シャーロット】「…いい?もうクロスバードの名前は銀河中に知れ渡ってる。あたしと同じでね。あたしは同盟の上層部がどういう連中かまでは知らないけど、そんな細かい御託は抜きにして連合のエースにぶつけようって考えてもおかしくない。…顔見知りを殺すのは、苦しいわよ?」
【オリト】「…殺すって、そんな…」
少したじろぐオリト。そこで、シャーロットが話題を変えた。

【シャーロット】「…そういえば、オリト君はどうして士官候補生になったの?」
【オリト】「そうですね…」
オリトは少し考えた後、こう答えた。

【オリト】「僕はスラム出身で、両親の顔を知りません。周囲もみんな、そんな感じです。でも、僕は運良く勉強ができて、士官候補生になれて、X組の皆さんのような方と知り合うことができた。…スラムのみんなの希望に、なりたいんです」
【シャーロット】「なるほどねぇ…いい心がけじゃない。あたしとは大違い」
【オリト】「大違いって…シャーロットさんはどうして軍に入ったんですか?」
オリトが思わず聞き返す。シャーロットはまさか聞き返されるとは思っておらず、一瞬しどろもどろになる。
【シャーロット】「えっ、あ…あたし?」

だが彼女も少し考えた後、こう答えた。
【シャーロット】「…そうね、最初はただの憧れ。人型兵器に乗って敵をどーん!ってやっつける、かっこいい!って。インタビューとかだと連合のために云々って言ってるけど、そんなのはただの後付け。…まぁ、その結果がこの有様なんだけどね」
【オリト】「有様って…」
【シャーロット】「だってあたし22だよ?普通は友達と遊んだり、たまにおいしいもの食べたり、ひょっとしたら恋愛なんかしてみたり…なんて歳だよ?あたしの顔と性格で恋愛できるかどうかは別としてさ。…それが気が付いたらなんかめちゃくちゃ才能があって、蒼き流星だの銀河のエースだの異名をつけられて軍隊で人を殺しまくってる訳でさ…なんてことも、たまには考えちゃうのよね」
そう言いながら、ふと天井を見上げたりした。
オリトはそれを黙って聞いていた。当たり前ではあるが、彼女もまた、1人の人間なんだ、と思った。

【シャーロット】「…っと、そろそろ戻っとき。怪しまれちゃいけないしね」
シャーロットは今度はオリトにジェスチャーで指示をする。
【オリト】「あ、はい。…ありがとうございました」
オリトは深々と礼をして、部屋に戻っていった。

【シャーロット】「ふぅ…しばらくは対共和国戦線に回してもらいたいが…あの大統領に要望通るかねぇ…?それにしても、結局『銀河の意思』って何だったのさ…」
そうぶつぶつとつぶやきながら、ゆっくりと廊下を歩く。知り合いと殺し合うのが苦しいのは、銀河に名だたるエースたる彼女とて同じである。
そこに、前から人が歩いてくるのが見えた。カンナである。変装がバレないように、シャーロットは静かに歩く。

しかし、彼女はすれ違いざまに、こう耳元でシャーロットに囁いた。
【カンナ】(…感謝するわ、蒼き流星さん。でも、次に会うのは戦場かしら?)
…シャーロットは少し驚いたが、さすがに3度目ともなると、自らの変装が周囲にバレているのも慣れてきてしまう。あるいは、カンナ本人が気が付いたのではなく、オリトからの報告があったのかも知れないが、今の彼女にそれを知る術はないし、もうこの際どちらでも良かった。
そして、シャーロットも囁くようにこう返す。
【シャーロット】(どちらにしろ、いずれ会うでしょ…ま、一時とはいえ運命を共にした者同士、それまでお互いに幸運を祈るってことで)

そのまま、互いに振り返ることはなく、そのまま逆の方向へ歩いていった。


翌日、グロリア王国と惑星同盟軍の連名でクロスバードの無事が正式に発表され、1ヵ月に渡るクロスバードの漂流劇は終わりを告げた。
そのニュース番組を、部屋にあるモニターで見ながら、コーヒーを飲む男性がいた。
【???】「さぁて…彼女たちは『銀河の意思』に、どこまで近づけるんだろうねぇ…?」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第20章:英雄への道程は道半ばにて
 ホップスター  - 21/5/22(土) 0:02 -
  
惑星同盟の首都惑星・アレグリオ。
その首都の一角にある、同盟軍の士官学校。
…そのとある教室に、1人の女性教師とチャオの生徒が座っていた。


        【第20章 英雄への道程は道半ばにて】


【ミレーナ】「…はー、今日も誰も来ないわねー…」
頬杖をついてため息をつくのが、保健教師でありX組の担任でもあるミレーナ=ジョルカエフ。
【オリト】「そりゃ、皆さんメディアに引っ張りだこですからね…ほら、今も艦長が番組に出てますよ…」
と、動画が流れる個人端末を見せるのが、チャオの生徒であるオリト。


…グロリア王国で起きた、王位継承を巡り発生した(ということになっている)グレイス王女誘拐事件からおよそ1ヵ月。
あの後、無事に同盟に帰還を果たしたクロスバードは、まさに英雄のような扱いをもって迎えられた。

X組の面々は全員エリートの少年少女という特殊性もあって、連日各種メディアからの取材攻勢。
同盟軍上層部もこれを恰好の宣伝機会と捉え、基本的に出演や取材にあまり制限をかけなかったため、X組のメンバーはまさに人気俳優やタレントみたいな扱いになっていた。

…だが教師であるミレーナ先生と、実質的に部外者であり、チャオであるオリトは例外。
こうして誰もいなくなったX組の教室で、ただ無為に空き時間を過ごしていた。

【オリト】「…そういえば先生、結局報告書は書けたんですか?」
【ミレーナ】「何とかねー。結局あたしは最後の救出作戦知らないし、その辺はオリト君のおかげだよ、本当にー」
【オリト】「いえ、俺もビビってただけですし…」
そう言い苦笑いするオリト。それに対し、今度はミレーナ先生が質問を聞き返す。
【ミレーナ】「一般クラスの授業は大丈夫ー?ちゃんとついていけてるー?」
【オリト】「あ、はい、そっちも何とか…特に座学については、航海中の空き時間の特別講義が役に立ってます」
結局、オリトはアレグリオ帰還以降、一般クラスに編入する形で通常のカリキュラムをこなしている。今はいわゆる放課後の時間にあたる。
【ミレーナ】「そう、それなら良かったわー」

その時、滅多に開かれることのなくなった教室の扉が開く音がした。入ってきたのは、クーリア。
【ミレーナ】「あれ、クーリアさんー?どうしたのー?」
不思議そうな表情で尋ねるミレーナ先生。
【クーリア】「いえ、そんな不思議な表情をされても…X組の生徒がX組の教室に入ることの何がそんなに不思議なんですか…」
【ミレーナ】「その生徒が銀河中に名前が知れ渡る有名人で連日の取材攻勢のおかげでロクに登校すらしないんだから、不思議よねー?」
というミレーナの返しに、さすがのクーリアも苦笑いするしかなかった。当のクーリアも、昼間は雑誌の取材を受けて、夕方のこの時間にようやく登校してきたところである。

【オリト】「そういえば、ケガはもう大丈夫なんですか?」
【クーリア】「ええ、おかげさまで」
オリトの質問に対し、クーリアは左腕のシャツをめくる。
1ヵ月前、パトリシアとの戦いで付いた深い傷も、何事も無かったかのようにきれいになくなっていた。

【オリト】「すごいですね…これが再生治療…」
この時代は遺伝子工学を応用した再生治療が普及し、過去の時代であれば傷痕が一生残っていたような怪我もきれいに治るようになっている。
最も、心理的な理由などにより傷痕が残った方がいい、という人は少なからずおり、またそれなりに費用もかかるため、スラム育ちのオリトにとっては驚きの光景であった。
【ミレーナ】「外見は元通りだけど、内部はまだダメージが残ってるんだから、しばらくは無茶しちゃだめだよー?」
【クーリア】「分かってますよ」
ミレーナ先生の忠告に対し、クーリアは聞き飽きた、という表情を滲ませつつも、頷いた。

【オリト】「そういえば、艦長もすごいですよね、今もほら…」
オリトは話題を変え、先ほどの個人端末をクーリアに見せる。カンナが情報番組に出演しているものだ。
【カンナ】『そうですねー、私は最初に紹介された5番通りのパフェがすっごくおいしそうでした!今度休みの日に食べにいきたいです!』

カンナの予想外のセリフに微妙な沈黙が走る。まさか、おすすめスイーツの紹介コーナーだとは誰も思っていなかった。
【オリト】「これでいいんでしょうか…艦長…」
【クーリア】「ま、まぁ、本人が嫌でなければ…いいのではないでしょうか…?」

そこでクーリアが何かを思い出したように、言葉を続ける。
【クーリア】「…あ、でも確か、この番組は収録ですよ?生放送ではないはずです」
【オリト】「あ、そうなんですね。では今、艦長はどこに…?」
その時、今度はミレーナ先生があることを思い出した。
【ミレーナ】「…そういえば艦長さん、参謀総長閣下からの呼び出しがかかってたようなー?そんな話を職員室で聞いたよー?」

【クーリア】「さ、参謀総長…!?あの、エルトゥール=グラスマン元帥閣下ですか!!?」
クーリアが突然凍り付いたような表情で聞き返す。
【ミレーナ】「うん、たぶんねー。…報告書、嘘がばれちゃったかなぁ…?」
ミレーナが心配そうにつぶやく。

【オリト】「参謀総長閣下って、まさか…」
その役職、その名前は、スラム育ちのオリトも一度は聞いたことがある。
【クーリア】「ええ。細かいところを全て端折って思いっきりざっくりと説明すると、『同盟軍で一番偉い人』です」


そもそも今回のクロスバードの失踪事件について、表向きには先月のグロリア王国マリエッタ第二王女の会見により明かされた通り、「グロリア領内に飛ばされて、グロリア軍に保護された」ことになっている。
しかし、クロスバードの航行記録を辿れば、それが嘘であることは一目瞭然。当然同盟軍関係者相手には、共和国領内を経由しグロリア王国領内まで辿り着いたことについて説明しなければならない。だからといって、最終的にドゥイエット家が率いる魔女艦隊に拾われたという「真実」を明かす訳にもいかない。
そこでミレーナ先生は、「共和国領内を単独で航行し、中立国であるグロリア王国を目指した」という内容の報告書を上層部に提出したのだ。なお、道中での魔女艦隊との通信記録などは残っていたが、さすがにまずいだろうということで同盟帰還直前に全て破棄してしまっている。


…という内容を何度も頭の中で咀嚼しながら、カンナはとある高層ビルの廊下を、秘書に連れられて歩いていた。
【秘書】「こちらの部屋です。既にお待ちですので、ノックしてお入りください」
【カンナ】「ありがとうございます」
カンナは案内官に一礼すると、一度深呼吸をして、部屋のドアをノックした。
【カンナ】「失礼します。カンナ=レヴォルタ、入室します」

いかにも『偉い人の部屋』という感じの、高級そうなデスクや椅子、家具が並ぶ一室。
その部屋の奥のソファで、40歳くらいの男性が静かに寝ていた。…そう、寝ていた。

【カンナ】(!?)
これにはさすがのカンナも驚きを隠せない。
各種報道や広報媒体などで、カンナもその顔はよく知っている。寝ているのは、彼女を呼び出した張本人、エルトゥール=グラスマン参謀総長で間違いなかった。

その時、ようやくカンナに気づいたのか、参謀総長が目を覚ました。
【エルトゥール】「んー…あ、ごめんね…この部屋、空調がいい具合に効いてるから、ついね…ふぁ〜…」
彼は一度大きなあくびをすると、それでスイッチを入れたかのように自らの椅子に座り、
【エルトゥール】「…それじゃ、始めよっか。といっても、ちょっとお話を聞くだけだから。そこに座って、リラックスして」
【カンナ】「あ、はい」
カンナを手前のソファに座らせる。

【エルトゥール】「まずは…随分遅くなっちゃったけど、1ヵ月もの間、お疲れ様。よく戻ってこれたね」
【カンナ】「ありがとうございます」
【エルトゥール】「今もずっと取材とか出演とかが続いてるんだって?忙しい中ごめんね、呼び出しちゃって」
【カンナ】「いえ、とんでもありません。こうして直々にお会いでき、お言葉を頂けるなんて、光栄です」

【エルトゥール】「報告書、読ませてもらったよ。共和国領内を通過したんだってね?」
【カンナ】「はい。どうやって敵地から同盟領内に帰還するかを考えた時に、中立国であるグロリア王国を通過するのが一番安全だという結論に至りました。さすがにグレイス王女誘拐事件に巻き込まれるのは想定外でしたが…」
グロリアを通過するのであれば、共和国領内を通過するしかないという訳だ。
【エルトゥール】「なるほどね。…グロリアまでは自力なんだよね?」
【カンナ】「ええ。途中ドゥイエット家の艦隊…通称『魔女艦隊』と遭遇し、これと交戦。何とか離脱しましたが、それ以降は幸いにも大きな戦闘はなく通り抜けることができました」
【エルトゥール】「ふぅん…」

そのカンナの説明を聞いた参謀総長は、ふと立ち上がり、自らのデスクに向かう。
そして個人端末を取り出し、少し操作すると、ある写真をカンナに見せた。
【カンナ】「こ、これは…!」
その瞬間、カンナの表情が固まった。

参謀総長がカンナに見せた写真とは、惑星フレミエール近海にて、魔女艦隊の旗艦・プレアデスに曳航されるクロスバードの姿。つまり、事実の写真である。
【エルトゥール】「3大勢力ってどこも、結構銀河中に諜報員…いわゆるスパイってやつだ、を配置してるんだよ。
         特に共和国とは間に中立国のグロリアを挟むだろ?…もちろん本来は敵国への出入りは厳禁なんだけど、ぶっちゃけ互いにかなり侵入し放題なんだよねぇ…」
【カンナ】「それって、つまり…」
【エルトゥール】「裏を返せば、このアレグリオにだって、連合や共和国の息のかかった連中が少なからず紛れ込んでいる。ま、それはお互い様なんだけどね」

そこまで説明すると、参謀総長はデスクに置いてあったコーヒーを飲むと、こう続けた。
【エルトゥール】「さて…もう一度聞くよ。…君たちは、本当にグロリアまで、誰の手も借りずに、自力で辿り着いたのかい?」
【カンナ】「………」
思わず黙ってしまうカンナ。数秒の沈黙の後、再び参謀総長が喋りだす。
【エルトゥール】「っと、ごめんごめん。別に脅迫するつもりはないし、どうしても真実を聞き出したいって訳でもないさ。それに、仮に利敵行為があったところで、今や同盟中で大人気のクロスバード御一行様を処罰するなんて、世論が許さないだろうからね。…どちらにせよ、話したくないのであれば、構わないさ」

【カンナ】「申し訳、ありません…」
さすがのカンナも消え入るような声でつぶやくように話す。

【エルトゥール】「…で、だ。本題はむしろこっからさ」
参謀総長はそんなカンナを気に留めず、話を続ける。
【エルトゥール】「不幸な偶然とそれに屈しない努力と、わずかな幸運が重なって、君たちは普通の士官候補生では到底成しえない名誉と名声を手に入れた訳だけど…ずばり、これから君たちはどうしたい?」
【カンナ】「どうしたい、とおっしゃいますと…?」
カンナは参謀総長の質問の意図が掴めないような表情で聞き返す。
【エルトゥール】「君たちの名誉と名声ならば、ハッキリ言って君たちの未来は選び放題だ。何者でもない普通の士官候補生に戻ってそれまでの平和な日常を繰り返すも良し、あるいは参謀本部入りして銀河に広がる戦場を左団扇に高見の見物をするも良し、いっそこのままメディアに出続けてアイドルでも芸人でもスイーツ評論家にでもなってしまう、ってのもいいかも知れないね」
【カンナ】「す、スイーツ評論家…」
カンナは苦笑いしながら参謀総長の言葉を反芻する。ちょっと心が動いてしまったのを隠しつつ。

【エルトゥール】「…あるいは、もう1つの選択肢として…再び最前線に出て、この銀河に遍く広がる敵を屠りながら血塗れの英雄への道を突き進むか…なんてね」
【カンナ】「…!」
その言葉を聞いて、カンナの表情が180度変わった。その瞬間、部屋に夕日が差し込み、カンナの顔の右半分を照らす。

【エルトゥール】「さて…、君たちは、どうしたい?」
参謀総長の2回目の質問に対し、カンナはこうハッキリと言い切った。
【カンナ】「…英雄への道を、突き進みます。それが、例え地獄への道であろうとも」
【エルトゥール】「理由は?」
【カンナ】「あたし達は、この手でこのつまらない戦争を終わらせたい、と思ったからです」
その為には、地獄への道であろうと、最前線に立ち続けることが必要なのだ。この1ヵ月で、カンナはそう確信したのだった。

【エルトゥール】「…分かったよ。我々は、それを最大限サポートするだけさ」
参謀総長はそう言い、笑いながら立ち上がる。
【エルトゥール】「今日は会えてよかったよ、カンナ=レヴォルタ君。今日は時間の都合でこれでおしまいだけど、そのうち辞令を出しておくから、待っていてくれ」
【カンナ】「ありがとうございます」
カンナはそう言い深々と礼をすると、扉を開けて、部屋から立ち去った。


…静かになった部屋で、参謀総長が1人、窓から外を見つめる。アレグリオの夕暮れは、林立するビルに光が乱反射し、お世辞にも綺麗とは言えない。
【エルトゥール】「彼女たちなら、あるいは…いや、今はそこまで考えるのはよそう…」
そうつぶやくと、カーテンを閉めた。やがて、再び眠気が襲ってきたので、彼はゆっくりとソファに横になり、すぐに意識は消えた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第21章:煌めきは決して届かぬ御伽噺
 ホップスター  - 21/5/29(土) 0:03 -
  
カンナが参謀総長に呼び出された日から、およそ2週間後。
ようやくX組の面々のメディア出演も減ってきて、X組の教室に顔を出すことも多くなってきた。
…だが、今度は皆、何やら別の用事で忙しそうにしている。


        【第21章 煌めきは決して届かぬ御伽噺】


X組の教室には、オリトとカンナだけ。今日はミレーナ先生も職員会議で不在だ。
【オリト】「皆さん、最近何をしてるんですか?」
【カンナ】「あー、ちょっとね。なんだかんだでみんなずっと学校を空けてたから、その間のあれこれで忙しいのよ」
【オリト】「そうなんですね…でも、艦長はいいんですか?」
【カンナ】「あたしは今週、敢えて何も予定を入れてないのよ。さすがに気を張りっぱなしだったし、しばらくリフレッシュするわ」
【オリト】「でも、昨日はいませんでしたよね…?」
そこに、段ボール箱を持ったレイラが教室に入ってきて、こう口を挟んだ。
【レイラ】「艦長なら昨日は街でスイーツ巡りしてたわよー、途中顔バレして大変だったみたい」
【カンナ】「ちょっと、その話はもういいでしょ!」
カンナが慌てて遮るが、時すでに遅し。

【オリト】「そうだったんですね…」
【レイラ】「もうみんな話題にしてるわよ、スイーツ大好き少女艦長ってね」
【カンナ】「うう…うれしくない…」
帰還直後は艦長という立場もあり、真面目な番組や雑誌等への出演が非常に多かった彼女だが、気が付けば出番はスイーツコーナーばかりである。
このままでは、本当にスイーツ評論家になりかねない状況。何が情けないかと言えば、スイーツ評論家としてやっていけそうと思ってしまうカンナ自身が一番情けない。

カンナはそんな誘惑に耐えつつ、何とか話題を変える。
【カンナ】「そういえばオリト君、いくら放課後とはいえ毎日毎日こっち来てていいの?そりゃ、あたしらは拒む理由はないけどさ」
そう言い、オリトに話題を振る。なんだかんだで放課後は毎日のようにX組の教室に来ているが、本来はたまたまクロスバードの遭難に巻き込まれたただの一般生徒である。エリート揃いのX組のメンバーとは訳が違うのだ。
【オリト】「なんかもう…慣れですね…それに、座学で分からないところとかは皆さん教えてくれますし」
と、オリトは苦笑いしながら答えた。

【オリト】「それに、明日は休みなので、学校に外出許可をもらって、久しぶりに家に戻ろうと思うんです。あんまりいい所じゃないですけど、色々ありましたし、やっぱり家族には報告しないといけないので」
【レイラ】「へぇ、ご実家に!いいじゃない!」
【オリト】「皆さんと違って、実家って呼べるほどのものじゃないですけどね…スラムですから、そもそも他の家との境界自体があいまいですし」

何となくオリトの話を聞いていたカンナだったが、その瞬間、あることを閃いた。
【カンナ】「ねぇ、オリト君…」
【オリト】「何でしょう?」
【カンナ】「明日、ついて行ってもいいかしら?」
【オリト】「えぇっ!?」
突然の申し出に、驚くオリト。慌てて否定する。
【オリト】「だ、駄目ですよ!皆さんのようなエリートが行く場所じゃないです!そもそも危ないですし!」
【カンナ】「…この間まで銀河の反対側まで飛ばされた挙句、蒼き流星や魔女艦隊や遺伝子改造を受けた連中と戦ってきたあたしらに、『危ないから』って理由が通じると本気で思ってるのかしら…?」
…それを思えば、少なくとも今のカンナにとって、スラムなど何てことはなかった。
【オリト】「うっ…」
さすがにオリトも言葉に詰まる。自分も当事者だから否定できない。そしてカンナは、こう続けた。
【カンナ】「確かにあたしらは、生きることそれ自体には不自由がなく育ったエリートかも知れない。でも、だからこそ、オリト君が育ったような場所を、見なければいけない、知らなければいけない。…違うかしら?」

そこまで言われると、オリトは言い返せない。
【オリト】「…分かりました。話は通しておきます。但し、身バレだけはやめてくださいよ!本当に収拾つかなくなりますから…!」


翌日。
アレグリオの首都郊外、大きな川の近くの低地帯。オリトが育った、スラム地区の入り口に、オリトとカンナが立っていた。無論、カンナは変装している。グロリアで出会った蒼き流星によく似ていた誰かさんみたいにバレバレではないはず、と信じていたが、なにぶん初めてなので実際のところどうなのかは正直あまり自信がなかった。
【カンナ】「ここが…ニュース映像では見たことがあるけど…」
【オリト】「…はい。最も、こうやって『故郷』があって『実家』がある分だけ、僕らはまだマシな方だと思いますよ。それすら知らない人やチャオも、まだまだこの星にはたくさんいますから。もちろんアレグリオだけじゃなくて、同盟、そしてこの銀河全体を考えたら…」
【カンナ】「そうね…あたしらは、まだこの銀河のことを何も知らない…」

そんな壮大な話をしていると、年老いた男性の人間が1人、彼らの前に現れた。
【男性】「…オリト君、久しぶりだね」
【オリト】「あ、長老!お久しぶりです!」
彼を見たオリトは、慌てて深く礼をする。
【長老】「ほっほっほ、立派になったのぉ。
     …そちらのお嬢さんが、噂の艦長さんかね」
と、長老はカンナの方を向く。
【カンナ】「あ、はい、カンナ=レヴォルタです。こんな姿で申し訳ありません」
それを受けて、カンナは慌てて一礼。
【長老】「いやいや、構わんよ。むしろそうでないと、大変なことになりそうじゃからのぉ…さ、ついてまいるがいい」
【カンナ】「あ、はい」
長老とオリトに促されて、カンナはスラムへの足を踏み入れた。


スラムは、旧時代と変わらぬバラック建ての小屋が延々と建ち並ぶ。銀河を三分した宇宙戦争をやっている一勢力の首都惑星とは、とても思えない光景が続く。
その中を長老とオリトが先に歩き、カンナが少し後ろからついていく。そんな中、カンナがオリトに小声で話しかけた。
【カンナ】(ねぇ、オリト君…)
【オリト】(何でしょう?)
【カンナ】(長老さんって、どういう方なのかしら?)
【オリト】(実は、よく分からないんです。誰も名前を知らないので、皆『長老』って呼んでるぐらいですし)
【カンナ】(そ、そうなのね…)
だが、このスラムの指導者的立場にいるのは確かであり、行政側との交渉にもよく参加すること、そもそもスラムにいる人間やチャオはあまり長生きできないため、名前はもちろん、長老が何故長老なのか知っている者はほとんどいないこと。
そんな話題をオリトは小声でカンナに説明しながら歩いていく。

その時、突然路端にいた男がカンナの右肩を掴んだ。
【男】「姉ちゃん、いい服着てんじゃねぇか」
【カンナ】「…!」
驚いたカンナの動きが止まる。明らかに酒に酔っている様子だ。

しかし次の瞬間、長老が男に対し、キッ、と軽く睨みつけると、
【男】「チッ、長老か…!」
男は舌打ちすると、バラックの合間の小道へと消えた。

【長老】「すまんのぉ」
長老はカンナに謝る。
【カンナ】「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
自らも頭を下げるカンナ。
【オリト】「…正直、あぁいう輩は少なからずいますから…僕は慣れてますけど、さすがに僕だけでは艦長まで守り切れないので」
と、オリトが長老を呼んだ理由も含めて説明をした。
【カンナ】「いざそういう場面に出くわすと、何もできないものね…」
それに対して、カンナは苦笑いしながらこう返す。
仮にも士官候補生であり、生身での戦闘術もそれなりに優秀なカンナであるが、そんな彼女でも突然の出来事に何もできなかった。ちょっとした悔しさが襲うと共に、戦場とは別の危うさが潜む場所だということを実感した。

…そして、さらに歩くこと、数分。
【オリト】「…着きました」
オリトと長老が、足を止めた。バラック建てが並ぶスラムに於いて、数少ないコンクリート建ての建物が現れた。
【カンナ】「ここは…?」
【長老】「ある時は集会場、ある時は学校、ある時はこうして客人をもてなす場、そしてある時はお祭り会場。…ま、つまり、何かある時はここを使うんじゃ」

すると、その建物から、数匹の子供チャオが飛び出してきた。
【チャオ】「オリト兄ちゃん!!」
【オリト】「アーダルト!スウェナ、ユダルク、フラージェまで!!みんな元気だったか!?」
驚き、すぐに喜びの表情に変わるオリト。

【カンナ】「この子たちが…」
【長老】「彼の家族じゃよ。…血は繋がってないかも知れないがの」

【オリト】「アーダルト、ちゃんと勉強してるか?スウェナは部屋散らかしてない?」
弟たち、妹たちと久しぶりの再会に、思わず言葉が止まらないオリト。
【スウェナ】「もう、オリト兄ちゃんってば、こんな時まで小言ばっかり!」

【長老】「…さてと、感動の再会の邪魔をしちゃいかん、ちょいとこちらへ…よいか?」
【カンナ】「あ、はい」
と、そんなオリト達を横目に、長老はカンナに対して手招きをし、建物の中へと向かった。


長老とカンナが向かったのは、建物の最上階である4階。
といっても、バラック建てのスラムの住居はほとんど平屋であり、高くても2階建て。このスラムの中ではここが最も「高い場所」である。
その窓からは、アレグリオ首都の超高層ビルを背景に、平屋建てのスラムが広がっていた。
【カンナ】「正直…あたしは『あちら側』の人間です。まさか、こちら側に立つ日が来るとは、思っていませんでした」
そう、遥か遠くに霞む超高層ビルを指してつぶやく。
【長老】「彼…オリトも、士官学校に合格するまでは、全く逆の立場から、似たようなことを考えとったじゃろう」
【カンナ】「そうかも知れませんね…」

そしてそのまま、カンナと長老の会話が続いた。
【カンナ】「なんというか…ちょっと前まで、銀河を漂流していたのが、遠い遠い昔の、遠い遠い世界の話みたいに思えてきます」
【長老】「実際、わしらにとってはおとぎ話みたいなもんじゃからの…今この星が、夜空に浮かぶ他の星々との間で本当に戦争をしておるのか…
     最近はスラムでも安価な個人端末が普及しとるから、情報だけはいくらでも入ってくるが…かえってますます『おとぎ話』にしか聞こえなくなっておるよ」
【カンナ】「そう考えると、士官学校に合格したと思ったら突然『おとぎ話の世界』に放り込まれたオリト君は…なんというか、凄いんですね」
【長老】「でなければ、士官学校に合格などせんじゃろうて」
【カンナ】「そうですね…」

しばらく、青空に沈黙が走る。やがて長老が、ゆっくりと話し出した。
【長老】「…これから、お嬢さん達はどうするんじゃ?」
【カンナ】「近いうちに…『おとぎ話の戦争』に戻ることになっています」
【長老】「そうか…」

【長老】「お嬢さん達はわしらとは生まれも育ちも違う…お嬢さん達はきっとこれから『おとぎ話の戦争』で活躍し、やがて本当のおとぎ話に残るような英雄になるんじゃろう。
     その間も、わしらのような場所に生まれた者は、地を這い、今日と明日を死に物狂いで生き残る。…わしらには、それしかない」
【カンナ】「………」
長老の言葉に返す言葉がなく、黙ってしまうカンナ。長老は構わず、淡々と言葉を続ける。
【長老】「わしらとて馬鹿ではない。この状況が一日や二日で良くなることはないというのは解っておるし、万が一そんな事が起こる時はこの星が終わる時じゃろう」

【長老】「じゃから、せめて覚えていてくれ。お嬢さん達が戦っておるその遥か後ろでは、わしらのような名も無き者達が、今日を必死で生きておるってことを」
【カンナ】「…誓います。その言葉、そして今日見た『こちら側』からの景色。一生、忘れません」
カンナは右手を自らの胸に当て、そう力強く言った。


オリトと再合流し、スラムを抜け、士官学校へと戻る帰り道。既に日は暮れ、薄暗い。
そんな中、カンナがオリトに話しかけた。
【カンナ】「ねぇ、オリト君…」
【オリト】「艦長、どうしました?」
【カンナ】「…オリト君さえ、良ければだけど…正式に、X組に入らないかしら?」
【オリト】「え、えぇっ!?僕がですか!?」
予想外の言葉に驚くオリト。

【オリト】「でも、X組って確かエリートしかなれないんでしたよね!?しかも、チャオがX組になったことも前例がないって…」
そう、本来X組の存在とはかけ離れているのがオリト…の、はずである。
【カンナ】「…だからこそ、X組に入って欲しいのよ。オリト君みたいな存在こそがX組に必要だと思うし、何より…あたしらは、大人のつまらない常識を覆すために在りたい、と思ってるから」
【オリト】「そんな、言葉で言うのは簡単ですけど…それこそ学校や軍の上層部が納得してくれますか?」
【カンナ】「そこはまぁ、あたしが掛け合うわ。なんか気が付いたら今や銀河の有名人なんだもの、大抵のお願いは通さざるを得ないでしょう?」
そう言い、ニヤリと笑った。
その表情を見て、オリトも理解した。彼女は自らの立場を賭けてでも、通したいものがある。それが自分に関わることだといううことが、少し嬉しかった。

そして、オリトはこう返した。
【オリト】「…分かりました。スイーツ大好きで銀河中に知られた有名人のお願いとあっては、僕も断る訳にはいかないですからね!」
【カンナ】「ありがとう…って、なんか上手く返された気がする!っていうかスイーツ大好きは余計じゃないかしら!?」
カンナは苦笑いしながら軽く怒るが、既に察したオリトは逃げるようにして先を急いだ。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第22章:8つの灯と、11の魂
 ホップスター  - 21/6/5(土) 0:02 -
  
アレグリオの首都の某所にある、真っ暗な小さな会議室。
その一番奥の席に、小さな明かりが灯る。

その光によって姿を現したのは、惑星同盟軍参謀総長、エルトゥール=グラスマン元帥。
やがて、他の席にもぽつぽつと小さな明かりが灯り、合計8つの光が会議室に灯った。

そして、8つの光が灯ったのを確認したエルトゥールが、口を開いた。
【エルトゥール】「…さて、始めようか。『元帥会議』を」


        【第22章 8つの灯と、11の魂】


軍隊における最上位の階級である元帥。但し、その扱いは時代や国家によって様々である。
この惑星同盟軍においては、合計7個ある艦隊の各総司令と、アレグリオの参謀総長の合計8人にのみ与えられる、実質的には名誉階級のようなものである。
そして、その各艦隊の総司令と、参謀総長の計8名が一同に会するのが、惑星同盟軍の最高意思決定機関である、この『元帥会議』である。

…といっても、実際には広い銀河で忙しく戦っている各艦隊の総指令ともなると出席できないことが多く、平均の出席率は半分ほど。不在の場合は、アレグリオに常駐している艦隊所属の将官が代理出席することになっている。

が、今回は違っていた。8人全員が偶然にもアレグリオ近海に集まっており、一部メンバーは映像による参加ながら、久しぶりに8人全員がリアルタイムで元帥会議に参加していた。

第1艦隊総司令、アルフォンゾ=スライウス元帥。
【アルフォンゾ】「…しかし珍しいな、全員参加とは」

第2艦隊総司令、シュンリー=グェン元帥。
【シュンリー】「一体これはどういう風の吹き回しだろうねぇ…?」

第3艦隊総司令、イレーヌ=ローズミット元帥。
【イレーヌ】「ま、あたしはちゃんと会議になって話が進めば、誰が出ようがいいと思うんだけどねぇ」

第4艦隊総司令、ヨハン=マルクブルグ元帥。
【ヨハン】「たまには本当の『元帥会議』と洒落込むのもよかろう」

第5艦隊総司令、イブラヒム=アルジャイール元帥。
【イブラヒム】「最後に元帥が8人集まったのは確か17年前じゃったかのぅ、あの時は確か…」

第6艦隊総司令、アルベルト=グラッドソン元帥。
【アルベルト】「爺さん、御託はいいから始めるぞ。すまんがあまり時間がないんだ」

第7艦隊総司令、ルートヴィヒ=フォン=ザンクハウゼン元帥。
【ルートヴィヒ】「私は多少長引いても構いませんけどね。…とはいえ無駄話は好きじゃない。参謀総長さん、議題をどうぞ」

そして、参謀総長、エルトゥール=グラスマン元帥。
【エルトゥール】「あぁ。…まずは大まかに現在の戦況から確認しようか」


…さて、そんな会議とは無縁…という訳ではないが、少し離れた場所にいる、士官学校のX組。
珍しく、教室にX組のメンバーがほぼ全員集まっていた。いないのは、ゲルトのみ。
【カンナ】「さてと…ゲルトは今日も忙しいんだっけ?」
【ジェイク】「なんでも『秘密兵器』を運び込むんだとさ。詳しくは聞いてないけどな」

それを聞くと、カンナは軽く咳払いをした後、改めて喋りだした。
【カンナ】「さてと…今日は大事なお知らせがあります。
      まず1つ!オリト君、入ってきて!」
そう言いカンナが手招きをすると、オリトが教室に入ってきた。
【オリト】「ど、どうも…」
軽く頭を下げるオリト。
【カンナ】「えーと、学校の偉い人とかけあって、やーっと許可が下りました!
      …オリト君が、正式にX組のメンバーとして編入することが決まりました!!」
【ALL】「おぉーっ!!」
一同、拍手。

【ミレーナ】「いやー、校長室で渋る校長相手に大立ち回りをやったカンナさん、凄かったわよー」
ミレーナ先生も拍手しながら思い出すように語る。
【ミレア】「まさか、校長先生、相手に、直談判を…?」
【ミレーナ】「『認められないのであれば、あたしはX組を降ります』とまで言ってたわねー」
【クーリア】「そ、そこまで…もし本当に認められなかったらどうするつもりだったんですか…」
【カンナ】「まぁ、その時はその時かなって…」
クーリアの指摘に苦笑いするカンナ。

【オリト】「すいません、自分なんかのために…」
恐縮するオリトだったが、カンナが否定する。
【カンナ】「いいえ、そうじゃないわ。オリト君にはあたしがそこまでする価値があると思った、っていう、それだけの話よ」
【オリト】「ありがとうございます」
【カンナ】「とにかく、これからもよろしくね!」
【オリト】「はい、頑張りますので、よろしくお願いします!」
そう言い、再びオリトは頭を下げた。再び拍手。

【カンナ】「それじゃ、間に合わせで悪いけど…一般クラスの教室からチャオ用の机と椅子を持ってきてもらったから、ここにお願いできるかしら?」
【オリト】「はい!」
X組にチャオが入るのは史上初のことである。そもそも、X組にチャオが入ることをあまり想定していなかったので、机などは一般クラスから急遽借りたものだ。
こうしてX組は新たにオリトを迎え、来るべき「再出発」に向けて準備を進めていた。


一方、元帥会議は後半に差し掛かっていた。参謀総長が、次の議題として、この話題を持ち込んだ。
【エルトゥール】「さてと、次だけど…例の『帰還者たち』…つまり、クロスバードとそのクルーの処遇について」
【ルートヴィヒ】「あの士官学校の子供たちが、どうしたのかい?」
【エルトゥール】「計らずして彼女たちは国民的英雄となった。…これを利用しない手はないと、思わないかい?」
参謀総長は7人の艦隊総司令相手に、そう諮った。

【イブラヒム】「利用とな…!まだ17か18の子供じゃぞ!?」
イブラヒムが拒否反応を示すが、参謀総長がすぐに反論する。
【エルトゥール】「だが彼女たちは士官学校の生徒だ。どのみちいずれ戦場に出ることになる。それが早いか遅いかだけの話さ。
         …何より、彼女たち自身が、それを望んでいる。『例えそれが地獄への道であろうと、血塗れの英雄への道を突き進む』…そう明言したよ、彼女は」

参謀総長を通じて伝えられたカンナのそのセリフに、さすがの元帥たちも一瞬黙った。
【シュンリー】「『血塗れの英雄』、か…18でそんなセリフが口から出るとは、いやはや末恐ろしいお嬢ちゃんだね」

【エルトゥール】「という訳で、彼女たちをどこかの艦隊でしばらく面倒を見て欲しいんだけど…どこがいいだろうね?」
その問いかけに、第4艦隊のヨハンが立候補する。元はといえば、クロスバードはヨハン率いる第4艦隊の演習に参加しようとして銀河の反対側に飛ばされたのだ。
【ヨハン】「…となると、我らの所に収まるのが自然だろう」

だがそれに、アルベルトが反論する。そこから、激しい応酬が始まった。
【アルベルト】「ちょっと待ってもらいたい。あの時の第4艦隊は主力が後方に回ってたからよかったが、今は連合と最前線でやり合ってるではないか。例の『蒼き流星』の出現報告も聞いているぞ。いきなりそんな所に放り込む訳にはいかんだろう」
【ルートヴィヒ】「グラッドソン元帥閣下はさっきの参謀本部長の話を聞いてなかったのかい?」
【アルベルト】「何だと!?」
【ルートヴィヒ】「彼女たちは英雄になりたいんだろう?だったらむしろその状況はうってつけじゃないか。…それとも、英雄の卵を山脈派に取られるのがそんなに嫌かい?」
【アルベルト】「貴様っ…!最前線を知らんからそういう事が言えるのだっ!」
第6艦隊のアルベルト=グラッドソン総司令は同盟軍の2大派閥のうちの海溝派で知られている。一方、第4艦隊のヨハン=マルクブルグ総司令はもう1つの2大派閥である山脈派。ちなみに、アレグリオの士官学校はどちらかというと山脈派寄りであることが知られていて、アルベルトが不快感を示しているのはこういった理由もある。
一方、ルートヴィヒ=フォン=ザンクハウゼン総司令率いる第7艦隊は、同盟領内の治安維持を主な任務としており、直接最前線に出ることはあまりない。また、ルートヴィヒ自身も山脈派であることから、アルベルトが噛みついたのだ。

しかしルートヴィヒは意に介せずこう言い返す。
【ルートヴィヒ】「へぇ、ではグラッドソン元帥閣下は最前線をよくご存知と?前線はほとんど部下に任せきりで自らはアレグリオや出身地域で資金集めのパーティー三昧なのに?…古代中世ではないのですよ、公人の行動履歴は全てデジタルの記録に残されているんですよ?」
【アルベルト】「ぐっ…それこそ必要なことなのだよ、艦隊が最前線で戦うためにな!」

【アルフォンゾ】「…やめんか、ご両人」
激しく睨み合う2人に対し、第1艦隊の総司令であるアルフォンゾが一喝。さすがに2人とも大人しくなった。

そこで、唯一の女性元帥であるイレーヌが立候補した。
【イレーヌ】「…それなら、アタシが預かろうか?例の艦長は女の子なんだろう?それにちょうどウチは今サグラノ家とやりあってるけど、こっち優勢で動いてる。初陣にはちょうどいいんじゃないか?」
…何より、イレーヌ本人は敢えて口に出さなかったが、彼女は海溝派でもある。そうなると、アルベルトが反対する理由はないし、ルートヴィヒも引き下がらざるを得なかった。
【アルベルト】「…まぁそれなら良かろう」
【ルートヴィヒ】「ベストではないかも知れないが、ベターではあるね。否定はしない」

【エルトゥール】「それじゃ、決まりということで…今回の会議はここでお開きかな。ご苦労さん」
その参謀総長の一言で、その場に出席していた者は立ち上がり、また映像で参加していた者は映像が途切れた。


かくして数日後、X組に正式な命令が下った。
練習艦『クロスバード』はアレグリオを出発し、惑星ケレイオス近海で第3艦隊と合流し、そのまま対峙する対サグラノ家戦線に参加せよ―――

【ジャレオ】「しかし第4艦隊ではなく第3艦隊ですか…」
【ゲルト】「今第4艦隊は連合の主力とバリバリやりあってるからな。さすがにそこに放り込むのはまずいって上が判断したんだろう」
【ジェイク】「あっちにゃ『蒼き流星』が出てるって話だろ?むしろ俺らが行かなくてどうすんだよって気もするが…」
【ゲルト】「さぁて、その辺は大人の事情ってやつが絡みまくってんじゃねぇの。ケレイオスでのサグラノ戦線は割と優勢らしいしな」
【ジャレオ】「個人的には第3艦隊が海溝派寄りというのも気になりますね…我々が山脈派寄りというのを分かった上での判断なんでしょうか」
と、廊下を歩きながら雑談する男子陣。やがて、クロスバードのブリッジへと入る。

【カンナ】「…遅いわよ、男子!」
ブリッジに入った男子陣に、カンナが一喝。それに対し、ゲルトがこう返す。
【ゲルト】「べったべたなセリフ頂きました!」
【クーリア】「そういうのいいですから、早く持ち場について下さい」
【ゲルト】「はいはい、っと…」
クーリアがそれに対し冷静に話を止めて、持ち場につくよう促した。

【カンナ】「ジャレオ、エンジンは大丈夫?」
【ジャレオ】「ええ、問題ありません。逆に恐いぐらいです」
漂流劇の直接の原因となったエンジンについては、軍上層部の肝入りで最新型のエンジンに換装。練習艦とは思えないスペックの代物である。
但し、2基のエンジンの名前だけはジャレオのたっての希望で、「カストル」と「ポルックス」のままとなった。2代目、という訳だ。
【レイラ】「その他のシステム、全て問題ありません。いつでもいけます!」

【カンナ】「それじゃ…クロスバード、浮上シークエンス、開始!」
【ジェイク】「カストル、及びポルックス起動っ!」

クロスバードの浮上時は人型兵器乗りであるジェイクやアネッタもオペレートの手伝いをしている。
X組全員が集合し手際よくこなしていく様を、ミレーナ先生とオリトが艦長席の横の特別席で見ていた。
【オリト】「す、凄い…」
【ミレーナ】「ま、そのうち見慣れるだろうし、見慣れないとだめよー?」
【オリト】「はい…!」

【ジェイク】「カストル及びポルックス、出力80%まで上昇っ!ってか今までの半分も経ってねぇぞ!すげぇな最新型!」
【ゲルト】「むしろ今までがポンコツすぎたってだけの話じゃねぇのか…?」
【カンナ】「おしゃべりは後で!…それじゃ、クロスバード、浮上!」

カンナのその号令と共に、クロスバードはゆっくりと士官学校から浮上する。
入学式の時のように新入生が揃って見ている訳ではなかったが、一般生徒や話を聞きつけた一部メディアが周囲から見ていた。浮上した瞬間、一斉に歓声が上がる。

やがて、入学式の時と同じようにクロスバードは校舎から戦艦に変形し、アレグリオの空へと消えていった。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

第23章:天秤にかけるは、ただ星一つ
 ホップスター  - 21/6/19(土) 0:05 -
  
惑星ケレイオス。
元々共和国のサグラノ家の勢力範囲内の惑星であったが、同盟軍の第3艦隊が侵攻。
現段階で、ケレイオスそれ自体はまだサグラノ家が統治しているものの、周囲のガス惑星などを第3艦隊が次々と陥落させており、ケレイオス陥落も時間の問題とみられていた。

【イレーヌ】「あれがケレイオスだよ、『レヴォルタ大尉』」
【カンナ】「…あ、はい!」
第3艦隊旗艦・ベラトリクスのブリッジ。
総司令・イレーヌ=ローズミット元帥に声をかけられ、返事をするカンナ。
その返事が少し遅かったが、その原因は「呼び方」にあった。


        【第23章 天秤にかけるは、ただ星一つ】


あの漂流劇により有名人となったX組。これから本当の任務に向かう…ということもあり、いくら学生といえどさすがに階級なしではまずい、という話が軍内部で起こった。
海溝派を中心に慎重論も根強かったが激しい議論の末、結局艦長であるカンナには大尉、副長のクーリアは中尉、他のメンバーも立場に合わせた階級が与えられることになったのだ。
当然、18歳で大尉となるのは同盟軍では異例中の異例であり、こう決まるまでにも紆余曲折あったのだが、とにかくカンナは『レヴォルタ大尉』となった。

【イレーヌ】「どうした、レヴォルタ大尉。…それとも、『お嬢ちゃん』とでも呼んだ方がいいかい?」
【カンナ】「い、いえ、申し訳ありません!」
【イレーヌ】「…ま、階級なんてそれでしか物事を計れない阿呆な連中への餌でしかないよ。あたしも気が付いたら元帥になってるけど、中身はただのおばさんだからねぇ」
謝るカンナに対して、イレーヌ元帥はそう自虐的に笑ってみせた。

【カンナ】「そ、そんなことありません!同盟軍で元帥閣下の活躍を知らない者はいないんですよ!?」
カンナが慌てて反論する。そもそも、人並みであれば惑星同盟にたった8人しかいない元帥になどなれるはずがないのだ。小型駆逐艦の艦長時代に1隻で敵の大艦隊を翻弄したことで名を知られるようになり、元帥になってからも繊細かつ大胆な指揮で艦隊を引っ張る。『女傑』の二つ名を持ち、同盟軍の全女性士官が憧れる存在といっていい。そして、それはカンナも例外ではなかった。
【イレーヌ】「それを言うなら、レヴォルタ大尉だって奇跡のヒロインじゃないか。…っと、本題に入るよ」
イレーヌはそう言い話題を切り、一歩前に進んだ。

【イレーヌ】「さて…ケレイオス攻略は順調に進んでいるけど、敵さんだって馬鹿じゃあない。意地もあるだろうさ。あれを見てごらん」
イレーヌが指した方向にあるモニターには、ケレイオス近海を撮影した映像が映し出された。
【カンナ】「これは…」
そこには、共和国・サグラノ家の戦艦がズラリと並ぶ。さすがのカンナも、驚いて声が出ない。
【イレーヌ】「サグラノ家艦隊の旗艦・カグラヅキを筆頭に、大型のハナミヅキ級だけでも約20隻…中型や小型まで含めるとざっと150隻といったところか。惑星1つの攻防に注ぎ込むレベルの数じゃあないね」
【カンナ】「というか、サグラノ家艦隊の大半がいるじゃないですか…!」

少したじろぐカンナに対し、イレーヌはこう言い切った。
【イレーヌ】「…だが逆に言えばチャンスだ。あれを突破すれば惑星1つ落とせる上に、向こうとしては戦力的にはもちろん、心理的にもダメージは計り知れないだろうさ」
何より、共和国の4大宗家の一角・サグラノ家の主戦力がこれだけ集まった末に敗れたとなれば、当然銀河全体の戦争の行方も大きく変わってくる。

そこで、イレーヌは元帥にのみ与えられる元帥杖を床に突いてクルリとカンナの方を向き、こう命令した。
【イレーヌ】「そこで、お嬢ちゃん…レヴォルタ大尉に命令だ。なに、難しいことは言わないさ。たった11文字。
       …『1隻で何とかしてみせろ』…以上だ」


【ゲルト】「いやいやいやいやいや、めちゃくちゃ難しいこと言ってんじゃねーか!!!」
…その命令を伝え聞いたゲルトが思いっきり絶叫した。無理もない。相手は大艦隊である。

【クーリア】「…しかし解せませんね。サグラノ家も必死ですが、こちらもケレイオス攻略に第3艦隊の主力を注ぎ込んでいます。イレーヌ元帥閣下が直々に指揮を執っているのが何よりの証拠。…なのにその最重要局面を、ひよっこ練習艦1隻に任せる…?」
一方、クーリアは首を傾げた。いくらクロスバードが有名だったとしても、こんなマネをするのは筋が通らない。
だがその疑問に対しては、カンナが答えた。
【カンナ】「恐らく…イレーヌ元帥閣下は、あたしらを試してるんだと思う。それにあの方は海溝派だし、最悪山脈派寄りのあたしらならやられても問題ないんじゃないかって…」
【ジェイク】「結局派閥争いかよ…」
それを聞いたジェイクがそう吐き捨てたが、こうなってしまった以上はどうにもならない。

【オリト】「あの…大丈夫なんですか?」
オリトが恐る恐る尋ねる。
【カンナ】「正直簡単じゃないけど…大丈夫にするしかないわ。…クーリア、作戦立案頼めるかしら?」
【クーリア】「それが私の仕事ですので。…1日だけ、時間をください」
そうクーリアが言うと、1人ブリッジから退出した。

【カンナ】「…それじゃあ、とりあえず今日は解散。みんな、準備はしっかりね」
クーリアのいなくなったブリッジで、カンナはそう命じる。当番制でブリッジに残ることになっているレイラ以外は席を立ち、それぞれの部屋へと消えた。


その頃、ベラトリクスのブリッジでは、1人になったイレーヌがブリッジから見える星空を眺めていた。
【イレーヌ】「『血塗れの英雄への道を突き進む』か…それなら、まずあたしを超えてみせるがいいさ」
そうつぶやきながら、カンナのまっすぐな瞳を思い出す。…それは、かつての自分のようであった。


さて、かくしてクーリアは作戦立案のために1人で部屋に籠った。
相談のため、たまにフランツとゲルト、カンナが彼女の部屋に出入りするが、他のメンバーは基本的に最低限の艦機能維持の他は空き時間となる。
【ミレーナ】「よーし、それじゃあ次はキッチンの掃除。今のうちにやっとかないとねー」
【オリト】「はい!」
…が、オリトは相変わらず雑用だった。
X組の正式メンバーとなったオリトではあったが、基本的にはミレーナ先生のもとでの雑用であり、その役割は変わらない。…というより、それ以外に出来ることがない以上、こうするしかないのだが。

ところが、そんなオリトに声をかける人がいた。…ジェイクである。
【ジェイク】「オリト、ちょっといいか?先生、借りるぞー」
【ミレーナ】「オリト君に用なんて、どうしたのー?」
ミレーナが不思議そうな顔をしてジェイクに聞く。
【ジェイク】「ゲルトから『秘密兵器』について頼まれててな」
【ミレーナ】「そういえば出発前に何か運び込んでたみたいだけどー…それとオリト君に何の関係がー?」
【ジェイク】「その『秘密兵器』が、オリト絡みなんだよ」
そう言い、ジェイクはニヤリと笑った。


オリトがジェイクに連れてこられたのは、アンタレスとアルタイルが格納されている人型兵器の格納庫。
【ジェイク】「おーい、連れてきたぞー」
【ジャレオ】「お、来ましたね」
【アネッタ】「それじゃ早速、ジャレオ、例のあれをよろしく!」
【ジャレオ】「了解!」
そこにはジャレオとアネッタが。そしてアネッタの合図で、ジャレオが隅に置いてある人間サイズの機械を操作する。

【オリト】「あの、一体どういう…?」
訳が分からない状態のオリト。だがお構いなしで、ジャレオが話を進める。
【ジャレオ】「…よし、準備できました。オリト君、こちらへ」
そう言い、手招きをする。よく見ると、ジャレオが操作していた人間サイズの機械は、中にチャオが1匹だけ入れるような構造になっていた。
ジャレオに案内されるがまま、その中に入り、座る。目の前には真っ暗なモニター、その手前にはレバーや多数のスイッチが並んでいる。
【ジャレオ】「それじゃ、まず右側のスイッチを回してONにしてください」
オリトが言われるままにスイッチを回すと、軽くモーターの駆動音がした後、オリトの眼前の真っ暗なモニターに星空が広がった。
【オリト】「…!」
そして息つく暇もなく、モニターの星空をバックに、文章が浮かび上がる。
【オリト】「シミュレーター…?じゃあ、これって…まさか…!」
その『まさか』に対し、ジェイクが正解を告げた。
【ジェイク】「あぁ。同盟軍本部の倉庫に転がってるのを偶然ゲルトが見つけたらしい。ちょいと旧式だが、チャオ専用の人型兵器シミュレーターだ…!」


翌日。クロスバード・ブリーフィングルーム。オリトを含め全員が集まった。
【カンナ】「…それでは、今回の作戦を説明します。クーリア、お願い」
そのカンナの一言で、クーリアが立ち上がり、前面の大型モニターのスイッチを入れて、ゆっくりと喋りだした。

【クーリア】「正直私も最初は、いくら何でもクロスバード1隻でサグラノ家の主力相手に立ち回るのは難しいだろうと思っていました。
       …ですが、向こうの陣形、条件、こちらの戦力、様々な情報を総合すると…この戦い、勝てます」
クーリアは、いきなりそう断言した。さすがにX組の面々もざわつく。

【カンナ】「クーリアにしては珍しく大きく出たわね。とんでもない作戦でも思いついたのかしら?」
【クーリア】「具体的な作戦は後ほどお話しするとして…まずは、望遠鏡で撮影したサグラノ家主力艦隊の陣形をご覧ください」
そう言い、クーリアは大型モニターに接続した端末を操作する。モニターには、サグラノ家艦隊の写真とそれを3D図面に起こしたもの、2つの画面が表示された。

【レイラ】「これは…!」
【ゲルト】「副長さん、こっからは俺が解説していいか?」
そこで、ゲルトが挙手をする。作戦立案時に陣形を分析したのがゲルトなのだ。クーリアは「どうぞ」と声をかけ、ゲルトに譲った。

サグラノ家艦隊の艦船は、球の表面を半分だけ形作ったかのような陣形を敷いていた。
【ゲルト】「みんなも授業で聞いたかも知れねぇが…普通は陣形に「厚み」を持たせるんだ。先鋒、主力、後詰め、って感じでな。
      ところがコイツらは全て、『たった1隻』でこの陣形を構成してる。前にも後ろにも艦が居ねぇ。半球状の陣形だが、その半球がペラッペラの紙1枚で出来てるようなもんだ。…こんなの、ハッキリ言って実戦でやる陣形じゃねぇ」

…では、なぜこんな『ありえない』陣形なのか。ゲルトが話を続ける。
【ゲルト】「正直、俺もなんでこんな陣形になってんのか不思議でしょうがなかったが…艦長が1つ情報を持ってきてくれて謎が解けた」
そこで、ゲルトはカンナにバトンタッチ。今度はカンナが立ち上がる。
【カンナ】「これはイレーヌ元帥閣下とその側近や艦隊幹部など、一部にしか伝わっていない情報なんだけど…元帥閣下がこっそり教えてくれたわ。
      ケレイオスに潜入している諜報員からの情報によると…彼ら、完全に油断しているわ」

【オリト】「油断…?」
【カンナ】「どうやら、あたしら…同盟の第3艦隊がケレイオス本星を攻めてくるとはまだ思ってないらしいのよ。しばらくはこの状態で様子見だろう、って決めつけてる」
【ジャレオ】「だから実戦を考慮していない陣形なんですね…」
【ゲルト】「そういうことだ。…つまり、これは大チャンスって訳でもある」

そもそもサグラノ家側も、主力艦隊をケレイオスに集結させているのだ。それが同盟の第3艦隊と正面からぶつかるとなると、どういう結果になるにせよどちらの勢力にも大きな損害が及ぶことは間違いない。自分たちがケレイオス近海に大艦隊を置いている限り、そう易々とは攻めてこないだろうと踏んでいるのだ。
だからこそクーリアは、その裏をかけるのであれば、この戦いは勝てると断言したのだ。

そして、この妙な陣形には、もう1つ意図があった。ゲルトが解説を続ける。
【ゲルト】「もう1つ。この不思議な陣形の理由なんだが…この離れた場所に1隻、戦艦があるだろ?」
と、モニターのある部分を拡大してみせる。サグラノ家艦隊が半球状の陣形を取るその反対側、そのまま球状に陣形をとればちょうど反対側に位置する場所に、1隻だけ戦艦がいるのが映し出されていた。
【アネッタ】「これって…!」
【ゲルト】「…間違いない。サグラノ家艦隊旗艦、カグラヅキだ」

【オリト】「でも、なぜ旗艦だけがこんなところに?」
オリトが再び首を傾げる。それに対し、カンナが答えた。
【カンナ】「この陣形と諜報員からの情報を総合した結果…恐らくだけど、サグラノ家艦隊は、観艦式をやろうとしているわ」
【ジェイク】「敵を目前にして式典とはいい度胸じゃねぇかよ…!」

しばらくして、X組の面々が静まり返ったところで、クーリアが端末を操作してモニターを切り替える。自然と全員の視線がモニターに向く。
【クーリア】「それでは、以上の状況を踏まえて、今回の作戦を説明します。…決行は、1週間後です」
そう言い、作戦について説明を始めた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@st4615.nas811.p-tokyo.nttpc.ne.jp>

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
10 / 265 ツリー ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
53818
(SS)C-BOARD v3.8 is Free