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☆★☆週刊チャオ チャオ20周年記念号☆★☆ ホップスター 18/12/23(日) 0:00

シャドウの冒険 最終話 ダーク 18/12/31(月) 14:09
ダーク 18/12/31(月) 14:09
ダーク 18/12/31(月) 14:11
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ダーク 18/12/31(月) 19:59
ダーク 19/1/4(金) 17:09
エピローグ ダーク 19/1/4(金) 18:57

シャドウの冒険 最終話
 ダーク  - 18/12/31(月) 14:09 -
  
冒険が、終わる。
引用なし
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 ダーク  - 18/12/31(月) 14:09 -
  
 二つの世界の内、一つの世界が消えようとしていた。
 光の世界と影の世界、その境界がマッスル達にもはっきりと感じ取れる。視覚的には何も変わっていない。ただの草原。辺りには緑が広がっていて、マッスル達の後ろにはかつて避難所として使った建物があった。でも、そのどれもが輪郭を失ったように"収まっていない"、印象ではない実体を表現していた。
 マッスル達も例外ではなく、自分が自我を失った二人の自分になり、しかもその内の一人が消滅を迎えようとしていることの理解を迫られていた。そしてその中にあるシャドウの孤独を、初めて共有したのだった。
 影の世界を保つべく影の世界の神へと戻ろうとするシャドウは、自我を失いつつあった。それに抗うシャドウ・ザ・スピードの生きようとする意思が、シャドウの力を暴走させる。シャドウから大量のカオスレイが放たれ、辺りを破壊する。
 一瞬遅れて、マッスル達はカオスレイを迎撃する。暴走したシャドウのカオスレイの威力は凄まじく、そのほとんどが撃ち落とせない。撃ち落とすことができているのは、マッスルの気弾だけだった。
 撃ち落とせなかったカオスレイがマッスルを除いた仲間達に迫る。
「伏せろ!」
 マッスルが叫び、仲間達は地に伏せる。マッスルは気烈破滅弾を仲間達の頭上に放った。気烈破滅弾は仲間達の頭上で何かに挟まれたように平たくなり、仲間達を守る天井となった。カオスレイは気の天井に触れると勢いを失い、そのまま消滅した。
「守れ!」
 ラルドは叫び、仲間達を覆う気のバリアを張った。それに合わせて、ナイツ、エイリア、ナイリアも魔力をバリアに練り込む。そしてできた気と魔力の大きな繭の中から、マッスルの背中を見た。
「マッスル」
 自分たちが戦力にならないと悟った仲間達は、マッスルの背中を見ることしかできなかった。今まで力を合わせてきたマッスルのその背中も、今は押すことも支えることもできない。そして、その向こうには咆哮しながらカオスレイを放ち続ける未だかつて見たことがないシャドウの姿。繭の外に出たらその歪みの中に取り込まれ、自分が自分でいられなくなってしまう。これから世界は、変わる。新しい世界の中に生まれ変わらなくてはいけないときが、理不尽な唐突さをもって、しかし運命的に、やってきた。戦いが、始まった。


 シャドウのカオスレイが延々と降り注ぐ中、マッスルはそのすべてを掻い潜り、シャドウへ接近していく。満身創痍のシャドウに、この世界との繋がりはもはや本能だけであった。接近する脅威に、シャドウの魔力が解き放たれる。創造と破壊と運動がひしめく空間を空白にすべく存在する力。神のみぞ持つことが許された絶対的消滅の魔法。
 カオス・イレイザー。
 マッスルは膨張する光から距離を取り、地面に拳を打ち付ける。全面地衝撃。降り注ぐカオスレイは空中で勢いを失い、シャドウの足が地から浮く。
 その瞬間にシャドウに向かって拳を突き、衝撃波を放つ。マッスルの衝撃波はどの技よりも速く、もはや相手との間に存在する空間ごと相手を殴るに等しい。
 シャドウはその場に倒れ、膨張する光もふと消える。
 光が消えた瞬間、そこには一瞬の空白が存在した。その空白を埋めるべく周りの空間が収縮し、時空が歪む。視覚的にも分かる、明らかな歪みだ。


「どうすればいい」
 マッスルは呟いた。
 一度こぼれてしまった言葉は、取り返しのつかない響きを残した。
 マッスルは仲間達の元に迫り、繭を叩いた。
「どうすればいい!」
 この場にいる誰もがいずれこうなることはわかっていたし、どうすることもできないということもわかっていた。
 シャドウを影の世界の神に戻さなければ、この世界は今ある形を留めておくことができない。しかし世界はシャドウ・ザ・スピードを失う。
 戦うことを放棄すれば、シャドウ・ザ・スピードの力が世界を破壊する。
 やりきれなかった。マッスルはその選択に、仲間達は選択することさえできない無力さに。
「!」
 仲間達はマッスルの背後に迫る無数のカオスレイに気づき、繭の内側だというのに後ろに飛び退いた。
 マッスルは仲間たちが飛び退いたのを見て我に帰り、振り向く同時にカオスレイを腕で弾いた。
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 ダーク  - 18/12/31(月) 14:11 -
  
 再び、戦いの火蓋は切って落とされた。
 また雨のようにカオスレイが降り注ぎ、足場がどんどん悪くなっていく。マッスルは空に向かって気烈破滅弾を放ち、空中で拡散させた。拡散した気の波動にカオスレイは撃ち落とされるが、シャドウはカオスレイを放ち続ける。
 さっきと同じように、カオスレイが止んだ瞬間、マッスルがシャドウに衝撃波を放つ。しかし、結果は違う。衝撃波がシャドウに当たる刹那、シャドウは気を放出し、衝撃波をかき消した。シャドウ・ザ・スピードの"慣れ"が、衝撃波を破った。
 すかさずマッスルは、地面を殴る。幾度も抉られて複雑な形状になった地面から、衝撃波が飛び出す。まっすぐ飛び出ない衝撃波があちこちでぶつかり合い、掠り合い、波動と渦になってカオスレイを撃ち落とし、シャドウを襲う。
 シャドウは衝撃を受け、回転しながら宙を舞う。だが、暴走するシャドウの力はそんなことお構いなしに、カオスレイを放ち続ける。そのすべてがシャドウ・ザ・スピードを脅かすマッスルに向けられる。
 マッスルは渾身の気烈破滅弾を放つ。大きな気烈破滅弾はすべてのカオスレイを飲み込み、シャドウに向かっていく。マッスルは後悔した。この気烈破滅弾はシャドウを殺しかねない。
 一瞬頭をよぎった実感のない言葉は、遥かに説得力のある予感に飲み込まれた。何か来る。
 マッスルは横に飛び退いていた。その一瞬後に、気烈破滅弾をカオス・バーストが貫いた。カオス・バーストは先に飛んだはずのマッスルの足先を掠めた。気烈破滅弾は少し膨らんだあと、霧散した。
 遠距離の技はシャドウに利があることが証明された。マッスルにこれ以上の技はない。
 マッスルに残された選択肢は接近戦しかない。ただ、シャドウを倒すことが目的でない以上、接近戦という選択肢を選ぶことは憚られる。いや、そもそもこの戦いに目的はない。でも、戦いをやめるわけにはいかない。マッスルは気烈破滅弾を両手に生み出した。


 シャドウの力の暴走が止まった。だが、シャドウはまだ立っていた。その存在を、マッスル達は強く感じていた。
 影の世界の神。
 影の世界の神が、まだ玉座についていないだけで、目の前にいる。
 色々な疑問が浮かぶ。
 影の世界の神が現実世界に降りてきたらどうなる? 彼は味方か? 敵か? どのタイミングで玉座につく? シャドウは死んだ? 自分達は何をすればい?
 影の世界の神が、地べたに座る。マッスル達は身構える。
 影の世界の神がゆっくりとピンクの繭に包まれた。マッスル達は理解した。シャドウが本当に影の世界の神へと転生しようとしている。
「待て!」
 マッスルが衝撃波を放って、繭を殴る。衝撃波が繭にぶつかった音がする。繭が部分的に砕けて、破片が舞う。壊せる、とマッスルは思った。
 マッスルが次の衝撃波を放とうとしたとき、繭の生成が止まった。繭はシャドウへと吸収されていき、シャドウが立ち上がった。
 通常、進化や転生が中断されることは有り得ない。今目の前に立っているのは影の世界の神で間違いない。影の世界の神が、マッスルを見据える。
「シャドウを、返してくれ」
 マッスルの祈りが、神に伝えられる。
 神は答えるように右手を前に出す。
 カオスレイが、神の右手から放たれる。
 マッスルは、カオスレイを地面に叩きつける。
「クソが」
 マッスルは両手に溜まった気烈破滅弾を神に放つ。気烈破滅弾が触れる前に、神が消える。そして、時空が歪んだ場所に現れる。カオス・シャドウ。
 歪んだ時空の上に立つ神は、歪んでいなかった。その確かな存在を携えながら、マッスルを見ていた。
 神の周りにカオスレイが浮かぶ。カオスレイは歪んでいる。歪んだ時空がどういう危険を孕んでいるのか、マッスルにはわからなかった。だが、マッスルに選択肢はなかった。気烈破滅弾を両手に生み出す。
「俺は負ける。負ける気しかしない。でも、俺は強い」
 神が歪んだカオスレイを放つ。この戦いに終止符を打つ訳でもなく、相手を倒す訳でもなく、ただ目の前の攻撃を打ち落とすために、マッスルは気烈破滅弾を放つ。カオスレイと気烈破滅弾が相殺する。先ほどまで一方的にカオスレイを打ち消していた気烈破滅弾であったが、影の世界の神となったシャドウのカオスレイはさらに威力を増していた。
「俺は強い」
 マッスルはまた両手に気烈破滅弾を生み出す。神がまた、カオス・シャドウで歪みの外に出た。
 次の瞬間、マッスルの体に何かが突き刺さる。視覚的には何も刺さっていない。だが、それは確実にマッスルを削り取っていた。
 マッスルに突き刺さったのは、影の世界のカオスレイであった。歪んだ時空を介して放たれたカオスレイは、視覚的には歪んだカオスレイであったが、それは影のカオスレイと分離した光のカオスレイであった。分離したカオスレイは、時空の歪みにより軌道を違えていた。光のカオスレイは気烈破滅弾と相殺したが、影の世界ではカオスレイが影のマッスルを捉えていた。神が歪みの外に出たのは、影の世界で相殺しきれなかった気烈破滅弾を避けたのだった。
 影に大きなダメージを負ったマッスルは、もはや完全に光と影に分断された。自我を失ったマッスルは倒れた。
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 ダーク  - 18/12/31(月) 14:11 -
  
 静か。
 神が口から糸を吐いて、ゆっくりと繭に包まれていく。その糸と糸が擦れ合う音だけが、音であった。
 仲間達は繭の中から、神を包む繭が濃くなっていくのを眺めていた。濃くなる繭と倒れたマッスルが、仲間達のすべてだった。
 糸の擦れ合う音はカウントダウンの含みを持ちながらも、安心と許容を仲間達に与えていた。濃くなる繭と倒れたマッスルの周りに存在する、入り込むことができない隙間を埋めていた。
 しかし、その安心も許容も隙間を埋める音も、仲間達は許す訳にはいかなかった。
 決意を力に変え、ラルドは繭を叩き割った。
 繭を飛び出した仲間達は、神を包む繭に魔力をぶつけた。魔力は繭の表面で消滅する。先ほどマッスルが衝撃波を放ったときのように砕けることはなかった。
 ラルドが衝撃波を放つ。だがやはり繭の表面で消滅する。マッスルの衝撃波が仲間達の技を上回っているのか、繭がその力を増しているのか、仲間達にはわからない。
 だが、諦める訳にはいかなかった。
「海を作れ!」
 ラルドが叫び、エイリアがありったけの水を放つ。ナイツが空気圧で水を形作り、水は繭を包む大きな球となる。水の中でふわりと繭が浮く。
 その水の中にラルドとナイリアが飛び込み、超高速で泳ぎながら繭を殴る。水の中で本領を発揮する二人が、すべての力を繭にぶつけ続ける。外から見ているナイツとエイリアには、見えない力に弾かれ、水の中を跳ね返り続ける繭の姿しか見えなかった。共に戦い続けてきた仲間達の強さ、その集大成を二人は感じていた。しかし、繭がまだ繭であることだけが気がかりであった。
 ラルドとナイリアが水の中から飛び出した。ラルドはナイツとエイリアの手を引き、少し離れた。ナイリアが水の球の上に飛び上がり、魔力を解き放つ。
 ナイリアの魔力によって形作られたフェニックスが水の球の周りにある空気の層を掴み、地面に向けて突撃した。魔力は大爆発を起こし、水の球も破裂した。辺りに雨が降った。爆発の中からフェニックスが蘇り、もう一度爆発の中へ飛び込み、二度目の爆発を起こした。
 短い雨が止み、そこにある繭がまだ繭であることをラルド達は確認した。その絶望は、己の無力を思い出させるのに十分であった。
「どうすればいい」
 光が仲間達の中を横切った。仲間達には一瞬何が起こったのかわからなかった。
 次の瞬間、繭が砕け散って再び神がその姿を現した。神の後方まで過ぎ去ったその光は、再び神へと襲いかかる。
 仲間達に見えているのは、神の背中と神に襲いかかるオレンジ色の残像だった。さっきまで倒れていたマッスルがいなくなっていた。あれはマッスルだ、と仲間達は思った。
 

 マッスルは速かった。かつて仲間であったソニック、彼よりも遥かに速い。
 マッスルの拳が神の頬を捉える。神は吹き飛び、近くの雑木林の中に突っ込んでいった。木々が倒れ、砂や木屑が舞う。
 吹き飛んだ神を超える速さでマッスルが追い、神を地面に叩きつけるべく拳を振り下ろす。
 瞬間、神が消えて、マッスルの拳は地面を捉える。地面は崩れてその形を失うのと同時に衝撃波を吹き出し、雑木林を上空へと舞わせた。
 神は歪んだ時空に現れる。カオス・シャドウで移動したのだった。
 だがマッスルはそれにすら追いつく。マッスルは既に拳を振り上げていた。
 神はオーラ・バリアを張って拳を止める。オーラ・バリアは一瞬にしてその耐久性を失うが、神にとってはその一瞬があれば十分であった。
 カオス・バーストがマッスルを打ち抜き、マッスルは吹き飛び、倒れる。
 倒れたマッスルのもとに、仲間達が駆け寄る。
「マッスル!」
 腹に風穴の空いたマッスルが、なんとか意識を保とうと目を開こうとする。だがその瞼は重く、薄く開かれた目にもはや仲間達は映っていなかった。
 仲間達は必死にマッスルへ水の回復魔法をかける。傷口は徐々に塞がっていくが、ダメージは深刻だ。
 音はもはやマッスルの深い呼吸だけだ。その音は、先ほどの繭が濃くなっていくときの音よりも、運命の色を含んでいた。
 マッスルは、影の自身を失っていた。しかし、マッスルは確かに生きている。マッスルの呼吸はまだ世界と繋がっていて、仲間達と繋がっていた。
 仲間達は、マッスルにもう一度立ち上がって欲しい訳でもなく、目の前の傷を治したい訳でもなく、その繋がりを離したくなくて、回復魔法をかけ続けた。もはやこのあとにどんな未来が待ち受けているかなんて、考えるに値しなかった。
 だが、その繋がりを手放してしまったのは、皮肉なことにその回復魔法で、マッスルだった。
 体が動くようになった瞬間に、マッスルはもう飛び出していた。神を目掛けて、拳を振り上げて飛び掛かった。
 しかしマッスルの先にあったのは神の体ではなく、白い光であった。マッスルの光は、消滅した。
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 ダーク  - 18/12/31(月) 19:59 -
  
 何も繋がっていない。
 まるで、最初から何もなかったように、マッスルとこの世界の繋がりは絶たれてしまった。そしてそれは、仲間達とマッスルの繋がりが絶たれるのと同義であった。
 死体に縋ることもできない仲間達は、ただ泣きじゃくるしかなかった。
 マッスルを飲み込んだカオス・イレイザーが膨張し、仲間達に迫る。仲間達に、できることは何もなかった。
「スーマ、頼む」
「ええ」
 仲間達の後ろに、二つの影。仲間達が顔を上げて、声の方を見る。そこには、黒いマントに身を包んだカオスィヴと、対照的に青々としたスーマが立っていた。
 スーマが魔力を使う。スーマの魔法は目視で確認できない。時の神による、時の魔法。仲間達は、さっきまでマッスルが倒れていた場所から、何かが消えるのを感じた。
「カオス・イレイザーか」
 カオスィヴは膨張する光を見下すような目で見る。そして、カオス・イレイザーに魔力を注ぎ込む。すると、白い光の内側から、そこに元々あった空間が生まれていく。すぐに、白い光は空間で塗り潰された。その光景を見た神は、カオスィヴの顔を無表情に見る。
「元神にして元シャドウ。今のお前は何者でもない。そして、神の資格を持つものはお前だけではない」
 カオスィヴは手から、魔力を浮かばせる。神だけが使える創造の魔法、無限魔法。カオスィヴは無限魔法を空間の歪みに注ぎ込み、あるべき空間の形に戻した。
「何者だ」
 初めて神が口を開く。声はシャドウのものであるが、シャドウ・ザ・スピードが発した言葉ではない。
 仲間達に疑問が浮かぶ。神が把握していない存在? カオスィヴの伝説は聞いたことがあったし、実際にマッスルが会ったということも聞いていた。カオスィヴは500年も前から存在していて、その絶大な戦闘力が言い伝えられてきた。そんな圧倒的存在感を放つカオスィウが、神に認識されていなかった。
 カオスィヴが仲間達を見る。仲間達はその目から何かを汲み取ることはできなかった。
「奇しくも、光のマッスル・パワードがさっきまで倒れていたこの場所は、影のカオスレイによって影のマッスル・パワードが倒れた場所と同じであった」
 カオスィヴはそこで言葉を区切り、神を見た。神は次の言葉を待った。カオスィヴは語り続けた。
「カオス・バーストにより重傷を負った光のマッスル・パワードは、その仲間達の手によって回復が施された。そして、その回復魔法は同時に、影の世界で同じ場所に倒れている影のマッスル・パワードの傷口をも塞いだ……。回復した影のマッスル・パワードは時の神スーマによって500年前に飛ばされ、神を元に戻そうとする世界の脅威からシャドウ・ザ・スピードを守り続けた。もうわかるだろう、元神よ」
 カオスィヴは巻いていたマントを捨てた。カオスィヴの体には、かつて自らを貫いたカオスレイによる傷跡が未だ残っていた。神も、仲間達も、真実を理解した。
 神は考えていた。神の資格は、対となる世界に対となる存在を持たないこと。それ以外の者達はすべて神々によって作られ、対となる存在を持っている。そして必ず、光の存在は光の世界に、影の存在は影の世界にいる。だが、このカオスィヴは対となる光の存在を持たない上に、影の存在であるにも関わらず光の世界に存在している。対の世界に存在する単体は、ある種の完全性を持つのだ。私と同じように。
「影のマッスル・パワードが、私に何の用がある」
「お前を殺し、神の座を頂く」
「シャドウ・ザ・スピードを守り続けてきた貴様が、私を殺すのか」
「お前はシャドウではない。この世界に生きようとする生命の意思こそが、シャドウなのだ。今やお前は神の成り損ないだ」
「では、どちらが真の神に相応しいのか。証明して見せよう」
 カオスィヴは、もう一度仲間達を見た。
「ラルド、ナイツ、エイリア、ナイリア。すまなかった」
 仲間達は何も言えなかった。
「スーマ」
 スーマはカオスィヴに歩み寄った。
「私のわがままに付き合わせてしまってすまなかった。500年もそばにいてくれて、ありがとう」
 そして、長いキスをした。
 唇を離すと、カオスィヴは自らに棲まわす鬼のオーラを解放した。
「さて、元神よ」
 つづきから、だ。
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 ダーク  - 19/1/4(金) 17:09 -
  
 神が放ったカオス・バーストをカオスィヴは掌で受け止め、空いている手から気弾を放つ。
 神はそれを避けて、カオスィヴがいるところにカオス・イレイザーを放とうとする。だがカオスィヴはカオス・イレイザーの発生に合わせ無限魔法を置き、発生と同時に相殺した。
「わかっているだろう、元神」
 カオスィヴは神を殴り、吹っ飛ばす。
 地面スレスレを飛んでいく神を、その先に回り込んだカオスィヴが片手で受け止める。
「お前は私に勝てない」
 カオスィヴは神を地面に叩きつける。地面から衝撃波が飛び出し、神を挟み込む。地衝撃。
 その瞬間に、神はかつてと同じように、カオスィヴの腹にカオス・バーストを放つ。
 カオスィヴはもう片方の手で、カオス・バーストを掴む。そして、神を掴んでいた手を放し、カオス・バーストをぶつける。また、神は吹っ飛ぶ。
 神はすぐに起き上がるが、その目の前には白い光があった。カオスィヴのカオス・イレイザーだった。
 神はカオス・シャドウで移動を試みるが、ことごとく移動先の目の前にはカオス・イレイザーがあるのだった。
「神の資格を得た私は、その力である無限魔法と消滅魔法を含むすべての力を500年もの間磨き続けてきた」
 カオスィヴはカオス・イレイザーを変形させ、神を消滅魔法の檻で閉じ込める。
「この世界に生まれ落ちて、たかだが数年不完全な力を振りかざしていただけのお前とは訳が違う」
 カオス・シャドウでカオスィヴの背後に現れた神が、魔力でできた槍を突く。が、それもカオスィヴの背中を守るカオス・イレイザーによって消滅する。カオスィヴはカオス・イレイザーによって生まれた空間の歪みを、すべて無限魔法で直した。
「そして、お前は無限魔法を使えない」
「私は無限魔法を使えない」
 神はカオスィヴの言葉を繰り返した。
「シャドウ・ザ・スピードの生命こそが、私の無限魔法だからだ」
「……シャドウは孤独だった。神の座でただその役割を果たすだけの存在だった」
「あるとき、神の座に渦巻く混沌の中に一瞬の規則性が生まれ、自らが持つ無限魔法を生命に変えた」
「それと引換えに世界は神を失い、シャドウを手に入れた」
「生命とは制限だ。この体も、この意思も、実に不便だ。なぜシャドウ・ザ・スピードは自らを生み出した?」
「そこに目的はない。意思に始まり、意思に終わる。それだけだ」
「意思あるものは神に成りえない。貴様は私を越えるか?」
 無数のカオスレイが神の上に現れる。
 カオスィヴはマッスル・パワードであった頃を思っていた。当時の自分は、このカオスレイを見て何を感じていたのか?
 自信か、恐怖か。それとも、何を考える余裕もなかったのか。
 覚えていない。
 カオスィヴは右手に気を集中し、気の球を浮かばせる。
 カオスレイがカオスィヴに降り注ぐ。カオスィヴは球に気を送り続ける。気烈破滅弾。
 気烈破滅弾はその大きさを増していき、すべてのカオスレイを飲み込む。それでもまだ、気烈破滅弾は大きくなっていく。
 気烈破滅弾に照らされた仲間達の影が、長く伸びていく。カオスィヴと神の影が、光に飲まれていく。
「大丈夫だ」
 俺は強い。
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エピローグ
 ダーク  - 19/1/4(金) 18:57 -
  
 墓はないが、彼らはそこにいた。
 甚大なダメージを負った大地も、今や元の草原の姿を取り戻していた。近くにあった雑木林はなくなり、草原の一部となっていた。
 雲も風もない、穏やかな日だった。それはたまたまそうだったのではなく、エイリアが仲間達の予定と天気予報を照らし合わせて、今日という日を再会の日としたのだった。
 エイリアはマッチョに声を掛けなかった。それはマッチョを気遣っただとか、この場に呼ぶのには相応しくないだとか、そういうことではない。あの戦いが終わり、カオスィヴは桃色の繭に包まれて影の世界の神へと転生した。桃色の繭が解けると、誰もいなかったのだ。その後、シャドウはずっと眠っていたが、その間に他の仲間達でマッチョのもとを訪ね、事情を説明した。するとマッチョは、
「そうか。すると俺は神の親だな」
 と笑ったあと、
「心配するな。あいつは強いし、俺も強い」
 と真面目な顔をして言ったのだった。
 逆に慰められた気持ちになった仲間達は、二度とマッチョと会わないことを誓ったのだった。
 仲間達は何も持ってきていなかった。何を持ってこようとしても取ってつけたような違和感があったし、何もないことが何かがあることよりも大きい価値になる場合があるということもわかっていた。
 だから、集まったはいいものの、誰も何も喋らなかった。
 しばらくその場で、草原を眺めていた。その目にはあの戦いが蘇ることもなく、ただ目の前の草原を映していた。
「僕は」
 とシャドウが言った。
 シャドウだけは違った。厳密に言うと、仲間達も違った。本当はそこにあるものを、シャドウという蓋で塞いでいただけだった。シャドウが喋りだしたことによってその蓋は外れ、世界が動き出す。
「あれから自分の生命について考えてきた。影の世界の神は、生命は制限だと言った。確かにそうだ。僕には元々目的も役割もあった。だが、もうその目的も役割も果たせない。マッスルは意思に始まり、意思に終わると言った。そうなのかもしれない。だが結果を見てみれば、僕の意思はマッスルを犠牲にした。僕の意思とはマッスルを犠牲にすることだったのか?」
「違うよ」とラルドが言う。
「自信を持って言える」
 声が震えていた。自分に言い聞かせた言葉だった。
「マッスルは選べたんだよ。シャドウが神になることと、自分が神になること。それで、自分が神になることを選んだ。シャドウの意思もマッスルの意思もそこにはあったんだよ! 結果なんて、見方一つでどうにでもなるじゃない……? 生命とは冒険だよ。少なくとも私は、そう思って王女をやってる」
 ラルドは途中から泣き出していた。声は震えて、裏返って、弱々しいものだった。だが、シャドウはその意思を汲み取っていた。
「そうか……。すまなかった、酷な問いかけだった」
 ラルドは首を横に振った。
「ううん、みんなそう。シャドウも問いかけられてた。冒険だから。でもそれでいい」
「冒険だから、か。ありがとう。そんな言葉が欲しかったのかもしれない」
 シャドウは一度考え込んだ。仲間達はシャドウの次の言葉を待った。
「僕はこの言葉を言うのが怖かった。だが今なら言える。あの影の世界の神は、僕だった。生命が冒険だとするのなら、僕の冒険もマッスルの冒険も終わった。だが」
 マッスルは強い。だが、そのマッスルですらも、神の孤独に耐えかねてこの世界に降りてくるようなことがあるのなら。
「それすらも含んだ、大きな冒険がまだ続いている」
 僕が再び神になろう、とシャドウは思った。
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