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チャオ生誕20周年記念作品 WITH スマッシュ 18/4/7(土) 23:47

昨日までのレール、今日はただのレース 2 スマッシュ 18/4/30(月) 22:36

昨日までのレール、今日はただのレース 2
 スマッシュ  - 18/4/30(月) 22:36 -
  
「やっぱりヒコウチャオは強いよ」
 と晃は言った。
「ヒコウ複合で走ることはできても、ハシリ複合で飛ぶことはできないもん」
 もっともらしい意見だ。
「でもビームはハシリチャオだ。ハシリで勝負するべきだよ」
 と詩音は言った。
 複合は得意の能力をいかせる分スピードを出せるが、スタミナを消耗する。
 しかしビームはヒコウがそんなに得意ではないのだから、別のスタミナの使い方をした方がいい。
「そうだね。ないものねだりをしても意味ないか」
「チャオチャオ」
 と晃の腕の中でビームはうなずいた。
「ビームもそうだと言っている」
「わかってんのかな、この子」
「餅は餅屋。チャオレースはチャオなんだろ」
「チャオレース屋じゃなくて? ってかこの子って、今どのくらいのランクなの?」
「ペリドットが8。それ以外は6だ」
 ランクは1から9までの九段階あり、コースごとにランク付けされる。
 ランクレースという大会で優勝することでランクは上がった。
 最高の9になると、ランクレースで優勝した場合賞金が手に入る。
 いわばランク9はプロである。
「アレキサンドライトも?」
「6だ」
 普通のチャオにしては高いが、賞レースに参加することを目指すにしては低すぎる。
「特訓が必要ですよ」
 晃はにやつきながら重々しく言った。

「実はうちの高校の外周は、ランニングコースとして運動部によく使われています」
 詩音とビームは晃に連れられて、高校の校門前に立っていた。
「そうなのか」
「チャオ〜」
 知りませんでした、というふうにビーム。
「一周すると大体、えっと、どんくらいだっけ。とにかく丁度いい感じの距離になるのです」
「その丁度いい感じがわからないと駄目なんじゃないのか」
「いいの。部活だといつも十周するんだけど、今日はビームの速さが知りたいから、一周を全力で走ってみて」
「全力だってよ。全力」
「チャオ!」
 チャオが人間の言葉を理解できるのかどうかはわからないが、少なくともビームは全力という言葉を理解している。
 チャオレースをするチャオたちは飼い主の指示を聞きながら走るので、その指示で使われる言葉は教え込まれているのだ。
 そしてビームも詩音からそれらの言葉を教わっている。
「よーいどんで走るからね〜」
 ビームはクラウチングスタートの構えを取る。
 晃は片手で耳を塞ぎ、もう片手を銃の形にする。
「よーいどんばん」
 空砲の音まで真似た。
 ビームが走り出す。
 同じスピードで晃と詩音が後ろを走る。
「チャオにしては速いね。速いんだよね?」
 と晃が詩音に聞いた。
「ペリドットランク8だからな。速い方だ」
「ふうん」
 しかし後ろで走っていて、その実感はない。
 人間がチャオを追っているのだから無理もないことだ。
 ただ晃はチャオのペースに合わせるのが、速くも退屈に思えてきたようだ。
「もういい。私マジで走るから」
「はっ?」
 晃はするっと加速してビームの横に並んだ。
「私、本気で走るからビームも本気でついてきて」
 と晃はビームに言った。
 言い終わると同時に晃の脚の動きに稲妻が走った、ように詩音には見えた。
 地面を弾くようにして高く蹴り上げた靴の裏が見える。
 速いランナーの脚の動きはダイナミックだ。
 それでありながら恐ろしい速度で回転し続け、強く地面を蹴ってゆく。
「おいアキラ」
 お前がそんな速く走って、どうするんだよ。
 そう声をかけようとした詩音が息を呑んだ。
 ビームが加速した。
 全力で走っているはずの晃に食らいついている。
「嘘だろ」
 と目を剥く。
 確かめるためには詩音も全力で走ってみるしかない。
 力を振り絞る。
 しかし晃にもビームにも離されてしまう。
 ということは間違いない。
 晃は全力で走っている。
 そしてビームは晃と同じくらいのスピードで走っていた。
 だが詩音が全速力で追い始めてから数秒でビームは失速した。
 普段の速さも出ず、詩音に追いつかれると息を切らして歩くようになった。
「お前、いつの間にあんなことができるようになったんだよ」
 と詩音は聞いた。
 ビームに答えられるはずはない。
 しばらくすると晃が一周してきて、
「ふう、やはり私は速かった」
 と満足げに言った。
「お前それどころじゃないぞ」
「え? どしたの」
 詩音とビームは歩くことすらやめていて、なにか異変があったというのは明らかだった。
 それに気付いて、
「怪我?」
 と聞いた。
「違う。速いお前が速くなかった瞬間があったんだ」
「は? なにそれ」
「ビームのスタミナが戻ったら見せてやる」
 そしてたっぷりと休憩した後で、詩音はビームに晃と併走させ、さっきと同じ走りを晃に見せた。
「うちのビームは天才であったのか!」
 と晃は驚愕した。
「ただお前と同じスピードで走るのはかなりの無茶らしくて、スタミナがすぐ切れる。怪我とかのリスクもあるから、させない方がいいとは思う」
 でも晃と同じ速度で走れるということは、チャオレース界で最速に躍り出たのと同義だ。
 人間のスピードで走る必要はない。
 他のあらゆるチャオよりも速ければいいのだ。
 それなら怪我のリスクを抑えられる。
 ビームはディーバと戦えると詩音は確信した。
 晃は既にディーバに勝ったつもりになった。
「やったよビーム、ビームが一番速い!」
 と晃ははしゃいでいた。
引用なし
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