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チャオ生誕20周年記念作品 WITH スマッシュ 18/4/7(土) 23:47

昨日までのレール、今日はただのレース 1 スマッシュ 18/4/30(月) 22:28
昨日までのレール、今日はただのレース 2 スマッシュ 18/4/30(月) 22:36

昨日までのレール、今日はただのレース 1
 スマッシュ  - 18/4/30(月) 22:28 -
  
「なあ詩音、野球……」
「嫌だ」
 松浦の誘いをはねのけて、詩音は教室から出ようとした。
 晃が来る前に帰るつもりだった。
 教室のドアはいつもより軽くて、勢いよく開く。
 目の前に晃がいた。
「おっ」
「おっ」
 お互いに一瞬固まる。
 詩音は逃げ道を検討しようとして、いやそれよりもとにかく逃げなければと思い直して、もう一つの方のドアへ走ろうとした。
 しかし晃は笑顔で、
「シオちゃん、私部活やめてきた!」
 と言って一歩走り始めたばかりの詩音を止めた。
「は?」
 教室の所々で詩音と同じ声が上がった。
「はあああ!?」
 異様に驚いたのは松浦だ。
「なんで!? 羽山晃は陸上部のホープだろ!?」
 詩音は、晃が部活をやめる理由はあれだろうとわかっていたけれども、それを知らない松浦たちにはありえない出来事に聞こえるのだろう。
「マジでやめたの」
 と詩音は聞いた。
「うん。私、これからウィズに専念する!」
 晃は喜ぶチャオのようにうなずいた。
「あ、私、チャオレース・ウィズ・ヒューマンやりまーす」
 と教室内に手を振った。
「そういうわけだからシオちゃん、私とビームのコーチをお願いね!」
「は?」
 晃の手は詩音の手首をがっちりと掴んだ。


 第二話
 昨日までのレール、今日はただのレース


 詩音は晃の家に連れて行かれた。
「まずはアレキサンドライトレースの研究をしよう」
 と晃はレースのビデオを再生する。
 去年のソニック杯の映像だ。
 晃と詩音の目は一匹のヒーローヒコウチャオに注がれている。
 そのチャオ、ディーバがこのレースを制したチャオだからだ。
 しかし開幕、ディーバは出遅れた。
 正確にはディーバが遅れたのではなかった。
 ハシリを得意とするチャオたちのスタートダッシュが秀逸だった。
 スタート直後から最高速でトップに立つのは、ハシリチャオたちに多く見られる技術、脚質だ。
 ディーバは下位スタート。
 走るスピードも他のチャオに比べて劣っているふうに見える。
 この開幕の展開でわかるとおり、ディーバは走るチャオではない。
 ディーバが真の速さを見せるのはトリックエリアに入ってからだ。
 アレキサンドライトレースはよりダイナミックなレースを演出するための作りになっている。
 それを象徴するのがトリックエリア、そしてそこに設置されたトリックリングである。
 コースの随所に輪が設置されていて、それをくぐることでポイントが溜まる。
 一定以上のポイントを稼ぐことで、ショートカットルートが解放される仕組みだ。
「そういえばこの前の年のレースはヒコウのトリックエリアが最初だったんだよな」
「うん。それでディーバが圧勝したからこの時はオヨギのトリックエリアで始まってる」
 水中にトリックリングが設置されている。
 その中には、水底やコースの脇に設置されているリングもあった。
 ショートカットをするためには多少遠回りをしなければならない仕組みだ。
 理屈の上ではショートカットを使う方がタイムは縮まる。
 しかしチャオの能力次第ではショートカットを諦めた方が速いということも往々にしてある。
 ディーバの選択は、ショートカット狙いだった。
 水中に潜ってリングをくぐっていく。
 ディーバはバタ足だけでなく、羽を動して前進していく。
 ヒコウ複合泳法。
 羽が大きく発達するヒコウチャオの泳ぎ方だ。
 二十個設置されたうち十個以上くぐればショートカットは解放される。
 余計にくぐった分はストックとなり、次のトリックエリアで使うことが可能なのだが、ディーバは十個ぴったりを狙うコース取りだ。
 リングを十個通ると、ディーバが着けたブレスレットの緑色のランプがともった。
 それを合図にディーバは一度深くまで潜る。
「来るよ」
 と晃が言った。
 ディーバはさっきよりも強く羽を動かして、加速しながら浮上する。
 そしてディーバは水中から飛び上がった。
 高度は二十センチほど。
 ディーバはそこから十メートル飛行して、オヨギエリアを突破する。
 再び走るが、スタート時とは全く異なる走り方をする。
 ヒコウ複合走行だ。
 走っているというよりもスキップしているような見た目だ。
 体を浮かすように地面を蹴り、得意のヒコウでスピードを出す。
 ディーバの強さは、開幕以外をヒコウのスキルで突破するところにあるのだ。
 ヒコウのトリックエリアに入ると、ディーバは最大の持ち味であり、天才的に優れているヒコウ能力を見せる。
 高く飛んで、ループを描くように三つリングをくぐると、羽をたたんで落下する。
 下には妥協ルートという想定で一つだけ設置されたリングがあった。
 そのリングの高度付近まで落下し、羽を広げるとはばたかずに滑空してリングをくぐる。
 そしてまた上の方へと飛んでいく。
 ディーバはこのエリアで二十個全てのリングをくぐってみせた。
引用なし
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昨日までのレール、今日はただのレース 2
 スマッシュ  - 18/4/30(月) 22:36 -
  
「やっぱりヒコウチャオは強いよ」
 と晃は言った。
「ヒコウ複合で走ることはできても、ハシリ複合で飛ぶことはできないもん」
 もっともらしい意見だ。
「でもビームはハシリチャオだ。ハシリで勝負するべきだよ」
 と詩音は言った。
 複合は得意の能力をいかせる分スピードを出せるが、スタミナを消耗する。
 しかしビームはヒコウがそんなに得意ではないのだから、別のスタミナの使い方をした方がいい。
「そうだね。ないものねだりをしても意味ないか」
「チャオチャオ」
 と晃の腕の中でビームはうなずいた。
「ビームもそうだと言っている」
「わかってんのかな、この子」
「餅は餅屋。チャオレースはチャオなんだろ」
「チャオレース屋じゃなくて? ってかこの子って、今どのくらいのランクなの?」
「ペリドットが8。それ以外は6だ」
 ランクは1から9までの九段階あり、コースごとにランク付けされる。
 ランクレースという大会で優勝することでランクは上がった。
 最高の9になると、ランクレースで優勝した場合賞金が手に入る。
 いわばランク9はプロである。
「アレキサンドライトも?」
「6だ」
 普通のチャオにしては高いが、賞レースに参加することを目指すにしては低すぎる。
「特訓が必要ですよ」
 晃はにやつきながら重々しく言った。

「実はうちの高校の外周は、ランニングコースとして運動部によく使われています」
 詩音とビームは晃に連れられて、高校の校門前に立っていた。
「そうなのか」
「チャオ〜」
 知りませんでした、というふうにビーム。
「一周すると大体、えっと、どんくらいだっけ。とにかく丁度いい感じの距離になるのです」
「その丁度いい感じがわからないと駄目なんじゃないのか」
「いいの。部活だといつも十周するんだけど、今日はビームの速さが知りたいから、一周を全力で走ってみて」
「全力だってよ。全力」
「チャオ!」
 チャオが人間の言葉を理解できるのかどうかはわからないが、少なくともビームは全力という言葉を理解している。
 チャオレースをするチャオたちは飼い主の指示を聞きながら走るので、その指示で使われる言葉は教え込まれているのだ。
 そしてビームも詩音からそれらの言葉を教わっている。
「よーいどんで走るからね〜」
 ビームはクラウチングスタートの構えを取る。
 晃は片手で耳を塞ぎ、もう片手を銃の形にする。
「よーいどんばん」
 空砲の音まで真似た。
 ビームが走り出す。
 同じスピードで晃と詩音が後ろを走る。
「チャオにしては速いね。速いんだよね?」
 と晃が詩音に聞いた。
「ペリドットランク8だからな。速い方だ」
「ふうん」
 しかし後ろで走っていて、その実感はない。
 人間がチャオを追っているのだから無理もないことだ。
 ただ晃はチャオのペースに合わせるのが、速くも退屈に思えてきたようだ。
「もういい。私マジで走るから」
「はっ?」
 晃はするっと加速してビームの横に並んだ。
「私、本気で走るからビームも本気でついてきて」
 と晃はビームに言った。
 言い終わると同時に晃の脚の動きに稲妻が走った、ように詩音には見えた。
 地面を弾くようにして高く蹴り上げた靴の裏が見える。
 速いランナーの脚の動きはダイナミックだ。
 それでありながら恐ろしい速度で回転し続け、強く地面を蹴ってゆく。
「おいアキラ」
 お前がそんな速く走って、どうするんだよ。
 そう声をかけようとした詩音が息を呑んだ。
 ビームが加速した。
 全力で走っているはずの晃に食らいついている。
「嘘だろ」
 と目を剥く。
 確かめるためには詩音も全力で走ってみるしかない。
 力を振り絞る。
 しかし晃にもビームにも離されてしまう。
 ということは間違いない。
 晃は全力で走っている。
 そしてビームは晃と同じくらいのスピードで走っていた。
 だが詩音が全速力で追い始めてから数秒でビームは失速した。
 普段の速さも出ず、詩音に追いつかれると息を切らして歩くようになった。
「お前、いつの間にあんなことができるようになったんだよ」
 と詩音は聞いた。
 ビームに答えられるはずはない。
 しばらくすると晃が一周してきて、
「ふう、やはり私は速かった」
 と満足げに言った。
「お前それどころじゃないぞ」
「え? どしたの」
 詩音とビームは歩くことすらやめていて、なにか異変があったというのは明らかだった。
 それに気付いて、
「怪我?」
 と聞いた。
「違う。速いお前が速くなかった瞬間があったんだ」
「は? なにそれ」
「ビームのスタミナが戻ったら見せてやる」
 そしてたっぷりと休憩した後で、詩音はビームに晃と併走させ、さっきと同じ走りを晃に見せた。
「うちのビームは天才であったのか!」
 と晃は驚愕した。
「ただお前と同じスピードで走るのはかなりの無茶らしくて、スタミナがすぐ切れる。怪我とかのリスクもあるから、させない方がいいとは思う」
 でも晃と同じ速度で走れるということは、チャオレース界で最速に躍り出たのと同義だ。
 人間のスピードで走る必要はない。
 他のあらゆるチャオよりも速ければいいのだ。
 それなら怪我のリスクを抑えられる。
 ビームはディーバと戦えると詩音は確信した。
 晃は既にディーバに勝ったつもりになった。
「やったよビーム、ビームが一番速い!」
 と晃ははしゃいでいた。
引用なし
パスワード
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