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チャオ生誕20周年記念作品 WITH スマッシュ 18/4/7(土) 23:47

Escape from the Girl 1 スマッシュ 18/4/12(木) 21:53
Escape from the Girl 2 スマッシュ 18/4/14(土) 22:42
Escape from the Girl 3 スマッシュ 18/4/17(火) 19:53

Escape from the Girl 1
 スマッシュ  - 18/4/12(木) 21:53 -
  
 少年は鬼ごっこが苦手だった。
 だって、鬼をやっても、逃げる側になっても、いつもある女の子に追いかけられていた。
「シオちゃん、遅すぎだよ」
 疲れ果てて歩いている少年に、少女は笑いかける。
 五年生のある昼休みだった。
 クラスで鬼ごっこをしていた。
 少年は鬼で、少女は逃げる側だった。
「僕が遅いんじゃなくて、アキラが速すぎるの」
「どっちでもいいけど、速くならないと一生鬼のままだよ」
「そんなあ」
 少年はしょげた。
 疲れ果てていて、言い返すことも、突然に全力で走って少女を捕らえることも、できない。
 少女はそんな少年を笑った。
 そしてその後に言った。
「じゃあ私がシオちゃんを速く走れるようにしてあげる!」

 それからだった。
 少女はいつも少年のすぐ近くで、少年よりも速く走った。
 だから鬼ごっこにはいい思い出がない。
 だけど、速く走れるようにするという言葉は、全てが全て悪夢の響きを持っていたわけじゃなかった。
 もしアキラ――羽山晃よりも速く走れるようになって、誰にも追われずに好きなように走れたら。
 そういう自由が手に入ったらいいな、と滝田詩音は思った。


 WITH〜チャオレース・ウィズ・ヒューマン〜

 第一話 Escape from the Girl


 高校一年生、滝田詩音は帰宅部だった。
 つまり部活に入っていなくて、放課後は家に帰るだけの人間。
 だけど彼は足が速い。
 体育の時間にそれを知った野球部のクラスメイト、松浦が話しかけてくる。
「なあ、滝田、お前部活やってないんだろ? なら野球部入ろうぜ。一緒に甲子園目指そうぜ」
「嫌だよ。俺、野球興味ないし」
 詩音は、家に持ち帰る教材と机の中に入れっぱなしにしておく物の選別をしながら答える。
 と言っても、ほとんど持ち帰りはしない。
 宿題をするのに必要な物だけ持って帰る。
 荷物はなるべく軽い方がいい。
 そういうわけで、僅かな教科書とクリアファイルを学校指定の鞄に放り込んで、ジッパーを閉める。
「でもお前、足めっちゃ速いじゃん。陸上部の羽山晃から勧誘されてるのに断ってるって聞いたぞ。なら野球しかないだろ。野球も脚力が物を言うんだぜ」
「だからね、俺はそういうので走る気はないの」
「はあ?」
「俺は自由に走りたいんだ。走りたい時に走って、走りたくない時には走らない。部活に入ったら、そういうふうにはできないだろ?」
「まあ、そうだな。団体行動は大事だ」
「だから嫌だ」
 詩音は鞄を背負った。
 この学校の鞄はリュックとしても使えるように設計されているのだ。
 丁度そのタイミングで、教室のドアがスパーンという快音と共に開けられた。
 開けたのは同じ学年の少女だった。
 松浦がその顔を見て、
「あ、羽山晃」
 と言った。
「それじゃあ俺は帰るから。また明日」
 詩音は松浦に小声で告げると、開けられた方とは違う方のドアにそっと向かった。
 教室内を見渡す晃が詩音を見つける。
「シオちゃん、まだいた」
 と指差した。
 同時に詩音は走り出した。
「今日こそ捕まえる!」
 晃が追いかける。
 単純な走力は晃の方が上だ。
 しかし階段で詩音は晃を離す。
 単純に走りながら降りるのが上手い。
 さらに階段の中程で飛び降りることで、素早く降りていた。
 晃は律儀に一段ずつ下っている。
 最初から平らな道で捕まえるつもりだから、余計なことはしない。
 一方詩音にとってはこの階段を始めとした、校内で稼いだリードが貴重だ。
 下駄箱でさっと靴を履き替える。
 晃はここで履き替えずに捕まえてもよさそうだが、自身も靴をしっかりと履き替える。
 それが彼女なりのスポーツマンシップであるらしい。
 ここでも手際よく履き替えた詩音がややリードを広げる。
 校内はリードを広げる場所に満ちている。 最後はショートカットだ。
 校門から出ず、下駄箱から敷地と公道を隔てるフェンスに真っ直ぐ走る。
 ぶつかる勢いでフェンスに飛びかかり、手と足をフェンスに押し付けた瞬間、もう一度跳ぶようにしてフェンスの上に手をかける。 こうして詩音は、ものの数秒でフェンスを越えた。
 着地して、また走る。
「おおうっ」
 ランニングしていた黒いジャージ姿の男が、突然目の前に振ってきた学生に驚いた。
 後方の校門から出てきた晃が、
「待てえ!」
 と大声を出していた。
 黒いジャージの男は、ふっと笑うと詩音に併走する。
「あの子に追いかけられてるのか」
 見知らぬ男に話しかけられて当惑した詩音は、喋って体力をロスするのも嫌だから、うなずいて返答する。
 男はちらちらと後ろを振り返って、
「彼女の方が速いみたいだな。このままだと追いつかれる。どうする?」
 と言った。
 そんなこと、わかっています。
 詩音は心の内で答えるだけだ。
 だけどただ追いつかれるのを待つだけじゃない。
 逃げ切るためのルートが詩音の頭の中にはあった。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Geck...@p218.net042127085.tokai.or.jp>

Escape from the Girl 2
 スマッシュ  - 18/4/14(土) 22:42 -
  
 鍵は公園だ。
 学校から詩音の家までを結んだ直線の中に、小さな公園があった。
 それは学校から走って二分くらいの所にあった。
 詩音はそこに向かった。
 校内で稼いだリードでこの二分を作る。
「袋小路じゃないか?」
 と黒いジャージの男は聞く。
 晃はすぐ後ろまで迫っていた。
 詩音が見ているのは、またフェンスだった。
 それを飛び越えて再び突き放すつもりなのだ。
 晃は公園には入らずに迂回する。
 フェンスを越えられない晃にとって、公園は行き止まりと同義だった。
「お?」
 晃が迂回した理由を知らないジャージの男が不思議そうな顔をした。
 しかし詩音の方も、単にフェンスを越えればいいというわけではなかった。
 詩音が目指す場所までの間には、ジャングルジムとブランコがある。
 ドーム型のジャングルジムを詩音は走ったまま登り、階段の時のように飛び降りる。
 肩を寄せてブランコの鎖にぶつからないようにしながら、ブランコを低いハードルのように飛び越える。
 そうして真っ直ぐに進んだ詩音は目的のフェンスを掴む。
 飛び降りた地点のすぐ前には横断歩道がある。
 詩音はそれを渡るが、晃がそこまで来た時には信号が赤になっていて、追いかけられなくなった。
「あの少年、やるなあ」
 公園のフェンスに手をかけて、黒いジャージの男は晃に声をかけた。
「君もかなり速いね。陸上部?」
「はい、そうです」
 息を切らしながも、晃は答える。
 そしてフェンス越しに話しかけてきた男の顔をよく見て、驚愕する。
「あなたはもしかして、立花剣選手!?」
「そう。立花、元選手」
 と男は笑って自分を指した。
 彼は長距離走で有名な選手だった。
 大きな大会でメダルも取っている。
「お会いできて光栄です。え、なんで立花選手がここに?」
「知らないの。俺の地元、ここらへんなんだけど」
「えっ、そうなんですか」
「うん。まさか地元で有望な若者二人に出会えるとは、嬉しいね」
「あはは。でもシオちゃんは陸上する気ないんですよ」
「そうなの?」
「いくら誘っても逃げられるんです」
「なるほど。今日も逃げられたっていうわけだ」
「はい」
 立花は信号を見た。
 もう青に変わっていた。
 晃もそれを見たが、追いかける気は失せていた。
「ところで君たちは、チャオを飼ってるのかな」
「チャオですか? 私は飼ってます」
「そうか。レースはするのかい?」
「しますよ。うちのチャオ、走るのが速いんです。それも帰宅部のシオちゃんが駆けっこして遊んでくれてるからなんですけど」
 もはや詩音のチャオと言ってもいいくらい、詩音は晃のチャオをよく世話していた。
「なら、いいことを教えてあげよう。これは噂なんだが、今度新しいチャオレースが発表されるそうだよ」
「えっ、そうなんですか」
「俺のところにはそういう話がちらほらと入ってくるのさ。本当か嘘かは知らないけどね」
「本当だったらいいなあ。新しいチャオレースなんて、もうないかと思ってました」
「十年前にできたアレキサンドライトレースは、チャオレースの完成形と名高いからね」
「あの、立花さんもチャオを飼ってるんですか?」
「いや、俺は飼ってないよ」
「それにしては詳しいじゃないですか」
「チャオレースには興味があったんだよ、元々。陸上選手としてね」
 と立花は微笑んだ。
「噂が本当だといいね。それじゃあ」
 立花は走り去った。
 フェンスの向こうの立花の背中を晃はじっと見ていた。
 サインもらいたかったなあ、と晃は思っていた。

 一方逃げ切った詩音は、自分の家に帰らず、晃の家に寄っていた。
「どうも、詩音でーす」
 ドアチャイムを鳴らし、家の中に呼びかける。
 少し待つと玄関ドアが開いて、晃の母親が出た。
「おかえり、詩音君」
「チャオ!」
 晃の母の足下にいたチャオが詩音に駆け寄った。
 晃が飼っているチャオ、ビームだ。
 ニュートラルハシリタイプに進化して、いわゆるソニックチャオと呼ばれている状態に近付いてる。
「おっす、ただいま。ただいまです」
 と詩音はチャオと晃の母に挨拶する。
「いつも悪いわねえ」
「いいえ。俺もこいつのこと好きですから」
「チャオ〜」
 ビームは詩音の脚に頬ずりする。
 いつも世話をしているから、ビームは詩音にもだいぶ懐いている。
「じゃあ、ビームのこと今日もよろしくお願いします」
 晃の母はお辞儀をした。
「こちらこそ」
 と詩音もお辞儀をすると、ビームも真似して頭を下げた。
 そして詩音はビームとチャオガーデンに向かう。
「よしビーム、ダッシュで行くぞ」
「チャア!」
 詩音とビームは併走する。
 ビームは走るのが得意だ。
 歩幅の差があるから詩音の全力には付いてこられないが、まるで小さな自転車といったふうなスピード感のある走りをした。
 詩音はビームのペースに合わせながら、しかしトレーニングであることを意識してやや速めに走る。
 ビームはチャオレースに出ている。
 まだ賞金が出るレースに出たことがないが、いずれテレビ放送されるようなレースに参加させるのが晃の夢で、詩音はそれを手伝っていた。
 自分が走るわけじゃないから苦痛にならない。
 飽きたらやめればいい、と思いながらも、しかしビームを可愛がっているうちに愛着がわいて、こんなふうにビームのトレーニングに付き合っていた。
引用なし
パスワード
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Escape from the Girl 3
 スマッシュ  - 18/4/17(火) 19:53 -
  
 日が暮れた。
 眠ってしまったビームを抱いて詩音は帰路を歩いていた。
 その途中で晃に会った。
「よう」
 と詩音から声をかける。
「ん。チャオガーデン?」
「そう。今日は泳いでた」
「オヨギかあ。ヒコウはどうなの?」
「あんまり興味ないみたいだな」
「そっか」
 晃は難しい顔をした。
「アレキサンドライトレースか」
 と詩音は聞いた。
「うん。あのレースは、ヒコウが強いチャオが有利だから」
「そうなのかな。ディーバを意識しすぎなんじゃないのか」
 ディーバは、チャオレース界で現在最も有名なチャオだ。
 年末に行われる、チャオレース内で最高額の賞金を争うソニック杯で二年連続優勝している。
 ソニック杯もアレキサンドライトレースだ。
 ソニック杯だけでなく、高額賞金のレースはほとんどがアレキサンドライトである。
「アレキサンドライトは、ヒコウのレースじゃない。一流のチャオなら誰でも勝てる可能性があるレースだ」
 去年のソニック杯で二位だったポチェドンは、オヨギを得意としている。
 詩音がそのことを言うと、
「ハシリはどう?」
 と晃は言った。
「ビームのハシリは一流?」
「まだ。でも、そのうちそうなる」
「そっか」
 晃の表情がほころぶ。
「ならヒコウのディーバ、オヨギのポチェドン、ハシリのビームで三つ巴だ」
 と晃は言った。
「あ、そうだ。シオちゃん、黒いジャージの人と走ってたでしょ」
「ああ、お前に追いかけられてた時な」
「あの人、立花選手だったんだよ。知らなかったでしょ」
「知らなかった。と言うか、誰。立花選手って」
「立花剣、元選手。長距離で有名なんだよ」
「へえ」
「立花選手から聞いたんだけど、新しいチャオレースができるんだって」
「そうなのか?」
「そういう噂があるんだって言ってた」
「新しいのか。想像つかないな」
 晃の家の前に着く。
 詩音は晃にビームを渡した。
「ほい」
「ありがと。ハシリが得意だなんて、私たちに似たね」
「お前に似たんだ。俺には似てない」
「そう?」
「そうだよ」
 詩音は自分の家へ歩いていく。
「今日もありがとね」
 と晃は声をかける。
 振り向かずに、おう、と詩音は応じた。
「似てると思うけどなあ」
 晃は呟いた。
 詩音も溜め息を吐いて、呟いていた。
「俺は追いかけっこは好きじゃない」

 夕飯を終えた晃は、リビングのソファでくつろいでいた。
 バラエティ番組の後にやっているニュース番組をなんとはなしに見ていたら、まさに新しいチャオレースのニュースが紹介された。
「本日、日本チャオレース教会から新しいチャオレースが発表されました。チャオから人、人からチャオへと走者を交代して走るのが特徴的な、全く新しいチャオレースです」
 この新レースはチャオレースでありながら、レース中盤に人間がチャオを背負って走る区間がある。
 チャオは人間の背で休息を取ってスタミナを回復することで、従来のチャオレースを超える長距離レースが展開される。
 これまでのいかなるレースよりも長く、そして人とチャオの絆が求められるレースだと教会は記者会見で話した。
 レース名は、ウィズヒューマン。

「やばいやばいやばい!」
 晃は興奮しきっていた。
 これが、立花の話していた新しいチャオレース。
 それがまさか人間も走るレースだったなんて。
 晃は当然、自分がチャオレースの舞台にビームと一緒に立っているところを想像した。
 詩音に電話をかける。
「もしもし」
「ねえ聞いた!? ニュース見てた!?」
「なに、見てない」
「チャオレース・ウィズ・ヒューマン!」
「はあ? なんだそりゃ」
「新しいチャオレースだよ!」
「ああ、マジだったのか」
「それがね、チャオだけじゃなくて、人も走るレースなんだって。ビームと一緒に走れるんだよ」
「よかったな」
「うん! だから私、陸上部やめる!」
「は?」
「陸上部やめて、ウィズやる! シオちゃん、練習付き合って」
「おいおいおい、どういうことだよ」
「それじゃあ明日からよろしくね!」
 晃は通話を切った。
 もっと詳しく知りたくて、スマホでチャオレースのニュースを検索する。
 すると速報を見つけた。
 ディーバと共にウィズを走るパートナーが立花剣に決まったというニュースだ。
 ディーバの所属する企業が発表したらしい。
「うおおおお!?」
 ウィズの話は、チャオレースの関係者には教会から非公式に知らされていた。
 立花がウィズのことを知っていたのは、噂を聞いたからではなく、オファーを受けたからだったのだ。
 晃も立花が知っていた真相は察した。
「立花選手が、私たちを誘ってくれたんだ!」
 と晃は万歳して喜んだ。
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