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チャオ生誕20周年記念作品 WITH スマッシュ 18/4/7(土) 23:47
WITH 予告編 スマッシュ 18/4/7(土) 23:48
かつてチャオ小説を書いた人たちへ スマッシュ 18/4/12(木) 21:49
WITH〜チャオレース・ウィズ・ヒューマン〜 スマッシュ 18/4/12(木) 21:50
Escape from the Girl 1 スマッシュ 18/4/12(木) 21:53
Escape from the Girl 2 スマッシュ 18/4/14(土) 22:42
Escape from the Girl 3 スマッシュ 18/4/17(火) 19:53
昨日までのレール、今日はただのレース 1 スマッシュ 18/4/30(月) 22:28
昨日までのレール、今日はただのレース 2 スマッシュ 18/4/30(月) 22:36
感想&感想以外コーナー スマッシュ 18/4/12(木) 22:01

チャオ生誕20周年記念作品 WITH
 スマッシュ  - 18/4/7(土) 23:47 -
  
今年って、チャオ生誕20周年なんだぜ!!!
つうわけで、チャオ小説らしいチャオ小説を書きまーーーす
引用なし
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WITH 予告編
 スマッシュ  - 18/4/7(土) 23:48 -
  
「シオちゃん、遅すぎだよ」
 疲れ果てて歩いている少年に、少女は笑いかける。
 昼休み、クラスで鬼ごっこをしていた。
 少年は鬼で、少女は逃げる側だった。
「僕が遅いんじゃなくて、アキラが速すぎるの」
「どっちでもいいけど、速くならないと一生鬼のままだよ」
「そんなあ」
 少年はしょげた。
 疲れ果てていて、言い返すことも突然に全力で走って少女を捕らえることもできない。
 少女はそんな少年を笑った。
 そしてその後に言った。
「じゃあ私がシオちゃんを速く走れるようにしてあげる!」


 あの鬼ごっこが、全ての始まりだった。


「お前よう、陸上部入った方が絶対いいって。それか野球部かサッカー」
「きつい練習とか面倒で無理。そんじゃな」
 俊足の帰宅部、滝田詩音。
 彼は誰にも縛られず通学路を自由に走っていた。

「シオちゃん、明日大会だからビーム連れて応援に来てね」
「なんで行かなきゃいけなんだ。行ってやるけど」
「私、めちゃくちゃ速いから。応援、よろしっく」
 なにもかも抜き去る天才少女、羽山晃。
 彼女はより高みを目指して走り続けていた。

「シオちゃん今日もビームのお世話ありがとー」
「お前のためじゃない。ビームのためにやってるだけ」
「ツンデレお疲れでーす」
「俺がデレてるのはビームに対してだから」
「チャオ〜!」
「ビームはシオちゃんにデレデレだねえ」
 二人に愛されているチャオ、ビーム。
 チャオもまたレースという舞台で頂点を目指している。


        WITH


「詩音、本当に部活入らなくていいの?」
「俺は学校の帰り道走ったり、チャオと追いかけっこしたりするのがいいんだよ。だから今のままが一番いいの」
「詩音のおかげでビーム君速くなったって晃ちゃん言ってたし、帰宅部も悪くないか」
「そう。むしろいい」
 気楽に走る詩音。
 少年との追いかけっこがビームをチャオレース選手として成長させていた。
 そしてビームの飼い主の少女はある決断をする。

「シオちゃん、私陸上部やめる」
「は?」
「私、ウィズやりたい。チャオレースウィズヒューマン」
 チャオレースを発展させて生まれた新競技。
 走るのは、チャオと、人間。
 それがチャオレースウィズヒューマン。通称ウィズ。
「だからシオちゃん、練習手伝って」
「はああ?」


 二人と一匹に立ちはだかるのは、元陸上選手の男、立花。
「重要なのはフォームだ。約五キロのチャオを背負って走っても体に負荷がかからないこと。そして背中で休憩しているチャオがゆっくり休めること。その二つを実現する美しいフォームを会得することが勝利につながる」

 ウィズ最大の特徴。
 それはレース中盤、人間がチャオを背負って走るヒューマンコースだ。
 チャオは人間の背で休息を取ってスタミナを回復することで、従来のチャオレースを超える長距離レースが展開される。
 いかにチャオが休める安定した走りをしながら速く走るか。
 それが勝負を左右する重要ポイントだ。

 そして立花と組むのはチャオレース界のサラブレッド、ディーバ。
「ビームは走るスピードとスタミナだけならディーバに近いものがあるけど、飛行能力とパワーが全然足りてない。これまでのチャオレースと同じ感覚でいると、確実に負ける」

 ショービジネスとしてのスポーツを意識されて設計されたウィズのコース。
 人間とは全く別のレースを演出するために、チャオの小さな体に似合わないパワーや飛行能力を求めるコースになっていた。
 大きな翼を持つヒコウチャオのディーバは華麗にコースを攻略していく。
 人々を魅了する走りで衆目を集め、チャオレースを盛り上げる。
 チャオレース界の希望の星だ。


「私がウィズをやりたいと思ったのは、一人で走るのに疲れたから。ううん、ずっと前から走るうちに一人になっちゃうのが嫌だった」

 少女が夢見た舞台、ウィズ。
 誰かと共に風を感じられるレース。

 そのウィズを通じて二人の距離は変化していく。

「疲れるんだよ! お前といるとどんだけ疲れても全力疾走し続けなきゃいけない!」
「ごめん」
「ごめんじゃないんだよ!」

 勝負から逃げてきた少年と、
 孤独を感じていた少女と、
 選手としてあまりにも未完成なチャオ。

 少年と少女とチャオは走り続ける。
 走り続けるしかない。


        WITH
    2018年公開予定

どこよりもラブラブな、チャオレース。
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かつてチャオ小説を書いた人たちへ
 スマッシュ  - 18/4/12(木) 21:49 -
  
 今年、2018年。その12月23日。
 チャオ生誕、すなわちソニックアドベンチャー発売から20年が経ちます。

 でもそれよりも、チャオBBSに書き込みができなくなったのが10年前ということ。
 そして週刊チャオが休刊したのも同じく10年前だったということの方が、時の流れを実感する人も多いと思います。

 私もそういった人間の一人です。
 ゲームキューブに移植されたソニックアドベンチャーシリーズでチャオに触れ、チャオBBSにたどり着いた私たちが思いをはせるのが20年前ではなく10年前なのは、ごく自然なことです。

 10年前、あるいはさらに数年前。
 みんなでチャオ小説を書いていた日々は、青春の輝かしい記憶として思い出されます。

 終わってしまったあの日々を振り返ると、もっと互いに歩み寄って、絆を深く強くできていたら、と思わずにはいられません。
 そういった後悔がいくらでも生まれるくらいに、チャオBBSや週刊チャオは私にとって大切なもので、だからこそ忘れえぬ美しい記憶なのです。

 あなたがこの記事にたどり着いたのも、チャオBBSや週刊チャオの美しい記憶を抱いているからなのでしょう。

 チャオ小説はあれからも細々と書き続けられています。
 どんどん小説らしいクオリティになっていきましたが、最近は昔のチャオ小説のエッセンスを取り入れようという動きも見られます。

 本作、WITHもまたチャオBBS時代のチャオ小説を回顧した作品です。
 休刊後もチャオ小説を書き続けていた一部の週チャオ作家は、
 当時とはだいぶ異なる文体になりました。
 成長したこともそうですし、普通の小説の影響を受けたこともあります。
 休刊後のムーブメントの影響を大きく受けた一人が私です。
 というか、休刊後のチャオ小説を代表する一人と言ってもたぶん過言じゃありません。
 そんな私が休刊後の要素と、休刊前の要素の両方を取り入れるつもりで、書きました。

 ですから、かつてチャオ小説を書いていた方々にとって、
 懐かしくありながらも、新しさも感じられる、
 そんなチャオ小説になっていると思います。

 どうかこの作品によって、
 あなたのチャオ小説への情熱が蘇るか、
 あるいは、あなたの青春の一ページに終止符が打たれますように。
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WITH〜チャオレース・ウィズ・ヒューマン〜
 スマッシュ  - 18/4/12(木) 21:50 -
  
ここに本編かきますうううう!!
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Escape from the Girl 1
 スマッシュ  - 18/4/12(木) 21:53 -
  
 少年は鬼ごっこが苦手だった。
 だって、鬼をやっても、逃げる側になっても、いつもある女の子に追いかけられていた。
「シオちゃん、遅すぎだよ」
 疲れ果てて歩いている少年に、少女は笑いかける。
 五年生のある昼休みだった。
 クラスで鬼ごっこをしていた。
 少年は鬼で、少女は逃げる側だった。
「僕が遅いんじゃなくて、アキラが速すぎるの」
「どっちでもいいけど、速くならないと一生鬼のままだよ」
「そんなあ」
 少年はしょげた。
 疲れ果てていて、言い返すことも、突然に全力で走って少女を捕らえることも、できない。
 少女はそんな少年を笑った。
 そしてその後に言った。
「じゃあ私がシオちゃんを速く走れるようにしてあげる!」

 それからだった。
 少女はいつも少年のすぐ近くで、少年よりも速く走った。
 だから鬼ごっこにはいい思い出がない。
 だけど、速く走れるようにするという言葉は、全てが全て悪夢の響きを持っていたわけじゃなかった。
 もしアキラ――羽山晃よりも速く走れるようになって、誰にも追われずに好きなように走れたら。
 そういう自由が手に入ったらいいな、と滝田詩音は思った。


 WITH〜チャオレース・ウィズ・ヒューマン〜

 第一話 Escape from the Girl


 高校一年生、滝田詩音は帰宅部だった。
 つまり部活に入っていなくて、放課後は家に帰るだけの人間。
 だけど彼は足が速い。
 体育の時間にそれを知った野球部のクラスメイト、松浦が話しかけてくる。
「なあ、滝田、お前部活やってないんだろ? なら野球部入ろうぜ。一緒に甲子園目指そうぜ」
「嫌だよ。俺、野球興味ないし」
 詩音は、家に持ち帰る教材と机の中に入れっぱなしにしておく物の選別をしながら答える。
 と言っても、ほとんど持ち帰りはしない。
 宿題をするのに必要な物だけ持って帰る。
 荷物はなるべく軽い方がいい。
 そういうわけで、僅かな教科書とクリアファイルを学校指定の鞄に放り込んで、ジッパーを閉める。
「でもお前、足めっちゃ速いじゃん。陸上部の羽山晃から勧誘されてるのに断ってるって聞いたぞ。なら野球しかないだろ。野球も脚力が物を言うんだぜ」
「だからね、俺はそういうので走る気はないの」
「はあ?」
「俺は自由に走りたいんだ。走りたい時に走って、走りたくない時には走らない。部活に入ったら、そういうふうにはできないだろ?」
「まあ、そうだな。団体行動は大事だ」
「だから嫌だ」
 詩音は鞄を背負った。
 この学校の鞄はリュックとしても使えるように設計されているのだ。
 丁度そのタイミングで、教室のドアがスパーンという快音と共に開けられた。
 開けたのは同じ学年の少女だった。
 松浦がその顔を見て、
「あ、羽山晃」
 と言った。
「それじゃあ俺は帰るから。また明日」
 詩音は松浦に小声で告げると、開けられた方とは違う方のドアにそっと向かった。
 教室内を見渡す晃が詩音を見つける。
「シオちゃん、まだいた」
 と指差した。
 同時に詩音は走り出した。
「今日こそ捕まえる!」
 晃が追いかける。
 単純な走力は晃の方が上だ。
 しかし階段で詩音は晃を離す。
 単純に走りながら降りるのが上手い。
 さらに階段の中程で飛び降りることで、素早く降りていた。
 晃は律儀に一段ずつ下っている。
 最初から平らな道で捕まえるつもりだから、余計なことはしない。
 一方詩音にとってはこの階段を始めとした、校内で稼いだリードが貴重だ。
 下駄箱でさっと靴を履き替える。
 晃はここで履き替えずに捕まえてもよさそうだが、自身も靴をしっかりと履き替える。
 それが彼女なりのスポーツマンシップであるらしい。
 ここでも手際よく履き替えた詩音がややリードを広げる。
 校内はリードを広げる場所に満ちている。 最後はショートカットだ。
 校門から出ず、下駄箱から敷地と公道を隔てるフェンスに真っ直ぐ走る。
 ぶつかる勢いでフェンスに飛びかかり、手と足をフェンスに押し付けた瞬間、もう一度跳ぶようにしてフェンスの上に手をかける。 こうして詩音は、ものの数秒でフェンスを越えた。
 着地して、また走る。
「おおうっ」
 ランニングしていた黒いジャージ姿の男が、突然目の前に振ってきた学生に驚いた。
 後方の校門から出てきた晃が、
「待てえ!」
 と大声を出していた。
 黒いジャージの男は、ふっと笑うと詩音に併走する。
「あの子に追いかけられてるのか」
 見知らぬ男に話しかけられて当惑した詩音は、喋って体力をロスするのも嫌だから、うなずいて返答する。
 男はちらちらと後ろを振り返って、
「彼女の方が速いみたいだな。このままだと追いつかれる。どうする?」
 と言った。
 そんなこと、わかっています。
 詩音は心の内で答えるだけだ。
 だけどただ追いつかれるのを待つだけじゃない。
 逃げ切るためのルートが詩音の頭の中にはあった。
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感想&感想以外コーナー
 スマッシュ  - 18/4/12(木) 22:01 -
  
感想を書け!!!

感想以外も書いていいよ!!
ぜひ書け!!!!!
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Escape from the Girl 2
 スマッシュ  - 18/4/14(土) 22:42 -
  
 鍵は公園だ。
 学校から詩音の家までを結んだ直線の中に、小さな公園があった。
 それは学校から走って二分くらいの所にあった。
 詩音はそこに向かった。
 校内で稼いだリードでこの二分を作る。
「袋小路じゃないか?」
 と黒いジャージの男は聞く。
 晃はすぐ後ろまで迫っていた。
 詩音が見ているのは、またフェンスだった。
 それを飛び越えて再び突き放すつもりなのだ。
 晃は公園には入らずに迂回する。
 フェンスを越えられない晃にとって、公園は行き止まりと同義だった。
「お?」
 晃が迂回した理由を知らないジャージの男が不思議そうな顔をした。
 しかし詩音の方も、単にフェンスを越えればいいというわけではなかった。
 詩音が目指す場所までの間には、ジャングルジムとブランコがある。
 ドーム型のジャングルジムを詩音は走ったまま登り、階段の時のように飛び降りる。
 肩を寄せてブランコの鎖にぶつからないようにしながら、ブランコを低いハードルのように飛び越える。
 そうして真っ直ぐに進んだ詩音は目的のフェンスを掴む。
 飛び降りた地点のすぐ前には横断歩道がある。
 詩音はそれを渡るが、晃がそこまで来た時には信号が赤になっていて、追いかけられなくなった。
「あの少年、やるなあ」
 公園のフェンスに手をかけて、黒いジャージの男は晃に声をかけた。
「君もかなり速いね。陸上部?」
「はい、そうです」
 息を切らしながも、晃は答える。
 そしてフェンス越しに話しかけてきた男の顔をよく見て、驚愕する。
「あなたはもしかして、立花剣選手!?」
「そう。立花、元選手」
 と男は笑って自分を指した。
 彼は長距離走で有名な選手だった。
 大きな大会でメダルも取っている。
「お会いできて光栄です。え、なんで立花選手がここに?」
「知らないの。俺の地元、ここらへんなんだけど」
「えっ、そうなんですか」
「うん。まさか地元で有望な若者二人に出会えるとは、嬉しいね」
「あはは。でもシオちゃんは陸上する気ないんですよ」
「そうなの?」
「いくら誘っても逃げられるんです」
「なるほど。今日も逃げられたっていうわけだ」
「はい」
 立花は信号を見た。
 もう青に変わっていた。
 晃もそれを見たが、追いかける気は失せていた。
「ところで君たちは、チャオを飼ってるのかな」
「チャオですか? 私は飼ってます」
「そうか。レースはするのかい?」
「しますよ。うちのチャオ、走るのが速いんです。それも帰宅部のシオちゃんが駆けっこして遊んでくれてるからなんですけど」
 もはや詩音のチャオと言ってもいいくらい、詩音は晃のチャオをよく世話していた。
「なら、いいことを教えてあげよう。これは噂なんだが、今度新しいチャオレースが発表されるそうだよ」
「えっ、そうなんですか」
「俺のところにはそういう話がちらほらと入ってくるのさ。本当か嘘かは知らないけどね」
「本当だったらいいなあ。新しいチャオレースなんて、もうないかと思ってました」
「十年前にできたアレキサンドライトレースは、チャオレースの完成形と名高いからね」
「あの、立花さんもチャオを飼ってるんですか?」
「いや、俺は飼ってないよ」
「それにしては詳しいじゃないですか」
「チャオレースには興味があったんだよ、元々。陸上選手としてね」
 と立花は微笑んだ。
「噂が本当だといいね。それじゃあ」
 立花は走り去った。
 フェンスの向こうの立花の背中を晃はじっと見ていた。
 サインもらいたかったなあ、と晃は思っていた。

 一方逃げ切った詩音は、自分の家に帰らず、晃の家に寄っていた。
「どうも、詩音でーす」
 ドアチャイムを鳴らし、家の中に呼びかける。
 少し待つと玄関ドアが開いて、晃の母親が出た。
「おかえり、詩音君」
「チャオ!」
 晃の母の足下にいたチャオが詩音に駆け寄った。
 晃が飼っているチャオ、ビームだ。
 ニュートラルハシリタイプに進化して、いわゆるソニックチャオと呼ばれている状態に近付いてる。
「おっす、ただいま。ただいまです」
 と詩音はチャオと晃の母に挨拶する。
「いつも悪いわねえ」
「いいえ。俺もこいつのこと好きですから」
「チャオ〜」
 ビームは詩音の脚に頬ずりする。
 いつも世話をしているから、ビームは詩音にもだいぶ懐いている。
「じゃあ、ビームのこと今日もよろしくお願いします」
 晃の母はお辞儀をした。
「こちらこそ」
 と詩音もお辞儀をすると、ビームも真似して頭を下げた。
 そして詩音はビームとチャオガーデンに向かう。
「よしビーム、ダッシュで行くぞ」
「チャア!」
 詩音とビームは併走する。
 ビームは走るのが得意だ。
 歩幅の差があるから詩音の全力には付いてこられないが、まるで小さな自転車といったふうなスピード感のある走りをした。
 詩音はビームのペースに合わせながら、しかしトレーニングであることを意識してやや速めに走る。
 ビームはチャオレースに出ている。
 まだ賞金が出るレースに出たことがないが、いずれテレビ放送されるようなレースに参加させるのが晃の夢で、詩音はそれを手伝っていた。
 自分が走るわけじゃないから苦痛にならない。
 飽きたらやめればいい、と思いながらも、しかしビームを可愛がっているうちに愛着がわいて、こんなふうにビームのトレーニングに付き合っていた。
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Escape from the Girl 3
 スマッシュ  - 18/4/17(火) 19:53 -
  
 日が暮れた。
 眠ってしまったビームを抱いて詩音は帰路を歩いていた。
 その途中で晃に会った。
「よう」
 と詩音から声をかける。
「ん。チャオガーデン?」
「そう。今日は泳いでた」
「オヨギかあ。ヒコウはどうなの?」
「あんまり興味ないみたいだな」
「そっか」
 晃は難しい顔をした。
「アレキサンドライトレースか」
 と詩音は聞いた。
「うん。あのレースは、ヒコウが強いチャオが有利だから」
「そうなのかな。ディーバを意識しすぎなんじゃないのか」
 ディーバは、チャオレース界で現在最も有名なチャオだ。
 年末に行われる、チャオレース内で最高額の賞金を争うソニック杯で二年連続優勝している。
 ソニック杯もアレキサンドライトレースだ。
 ソニック杯だけでなく、高額賞金のレースはほとんどがアレキサンドライトである。
「アレキサンドライトは、ヒコウのレースじゃない。一流のチャオなら誰でも勝てる可能性があるレースだ」
 去年のソニック杯で二位だったポチェドンは、オヨギを得意としている。
 詩音がそのことを言うと、
「ハシリはどう?」
 と晃は言った。
「ビームのハシリは一流?」
「まだ。でも、そのうちそうなる」
「そっか」
 晃の表情がほころぶ。
「ならヒコウのディーバ、オヨギのポチェドン、ハシリのビームで三つ巴だ」
 と晃は言った。
「あ、そうだ。シオちゃん、黒いジャージの人と走ってたでしょ」
「ああ、お前に追いかけられてた時な」
「あの人、立花選手だったんだよ。知らなかったでしょ」
「知らなかった。と言うか、誰。立花選手って」
「立花剣、元選手。長距離で有名なんだよ」
「へえ」
「立花選手から聞いたんだけど、新しいチャオレースができるんだって」
「そうなのか?」
「そういう噂があるんだって言ってた」
「新しいのか。想像つかないな」
 晃の家の前に着く。
 詩音は晃にビームを渡した。
「ほい」
「ありがと。ハシリが得意だなんて、私たちに似たね」
「お前に似たんだ。俺には似てない」
「そう?」
「そうだよ」
 詩音は自分の家へ歩いていく。
「今日もありがとね」
 と晃は声をかける。
 振り向かずに、おう、と詩音は応じた。
「似てると思うけどなあ」
 晃は呟いた。
 詩音も溜め息を吐いて、呟いていた。
「俺は追いかけっこは好きじゃない」

 夕飯を終えた晃は、リビングのソファでくつろいでいた。
 バラエティ番組の後にやっているニュース番組をなんとはなしに見ていたら、まさに新しいチャオレースのニュースが紹介された。
「本日、日本チャオレース教会から新しいチャオレースが発表されました。チャオから人、人からチャオへと走者を交代して走るのが特徴的な、全く新しいチャオレースです」
 この新レースはチャオレースでありながら、レース中盤に人間がチャオを背負って走る区間がある。
 チャオは人間の背で休息を取ってスタミナを回復することで、従来のチャオレースを超える長距離レースが展開される。
 これまでのいかなるレースよりも長く、そして人とチャオの絆が求められるレースだと教会は記者会見で話した。
 レース名は、ウィズヒューマン。

「やばいやばいやばい!」
 晃は興奮しきっていた。
 これが、立花の話していた新しいチャオレース。
 それがまさか人間も走るレースだったなんて。
 晃は当然、自分がチャオレースの舞台にビームと一緒に立っているところを想像した。
 詩音に電話をかける。
「もしもし」
「ねえ聞いた!? ニュース見てた!?」
「なに、見てない」
「チャオレース・ウィズ・ヒューマン!」
「はあ? なんだそりゃ」
「新しいチャオレースだよ!」
「ああ、マジだったのか」
「それがね、チャオだけじゃなくて、人も走るレースなんだって。ビームと一緒に走れるんだよ」
「よかったな」
「うん! だから私、陸上部やめる!」
「は?」
「陸上部やめて、ウィズやる! シオちゃん、練習付き合って」
「おいおいおい、どういうことだよ」
「それじゃあ明日からよろしくね!」
 晃は通話を切った。
 もっと詳しく知りたくて、スマホでチャオレースのニュースを検索する。
 すると速報を見つけた。
 ディーバと共にウィズを走るパートナーが立花剣に決まったというニュースだ。
 ディーバの所属する企業が発表したらしい。
「うおおおお!?」
 ウィズの話は、チャオレースの関係者には教会から非公式に知らされていた。
 立花がウィズのことを知っていたのは、噂を聞いたからではなく、オファーを受けたからだったのだ。
 晃も立花が知っていた真相は察した。
「立花選手が、私たちを誘ってくれたんだ!」
 と晃は万歳して喜んだ。
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昨日までのレール、今日はただのレース 1
 スマッシュ  - 18/4/30(月) 22:28 -
  
「なあ詩音、野球……」
「嫌だ」
 松浦の誘いをはねのけて、詩音は教室から出ようとした。
 晃が来る前に帰るつもりだった。
 教室のドアはいつもより軽くて、勢いよく開く。
 目の前に晃がいた。
「おっ」
「おっ」
 お互いに一瞬固まる。
 詩音は逃げ道を検討しようとして、いやそれよりもとにかく逃げなければと思い直して、もう一つの方のドアへ走ろうとした。
 しかし晃は笑顔で、
「シオちゃん、私部活やめてきた!」
 と言って一歩走り始めたばかりの詩音を止めた。
「は?」
 教室の所々で詩音と同じ声が上がった。
「はあああ!?」
 異様に驚いたのは松浦だ。
「なんで!? 羽山晃は陸上部のホープだろ!?」
 詩音は、晃が部活をやめる理由はあれだろうとわかっていたけれども、それを知らない松浦たちにはありえない出来事に聞こえるのだろう。
「マジでやめたの」
 と詩音は聞いた。
「うん。私、これからウィズに専念する!」
 晃は喜ぶチャオのようにうなずいた。
「あ、私、チャオレース・ウィズ・ヒューマンやりまーす」
 と教室内に手を振った。
「そういうわけだからシオちゃん、私とビームのコーチをお願いね!」
「は?」
 晃の手は詩音の手首をがっちりと掴んだ。


 第二話
 昨日までのレール、今日はただのレース


 詩音は晃の家に連れて行かれた。
「まずはアレキサンドライトレースの研究をしよう」
 と晃はレースのビデオを再生する。
 去年のソニック杯の映像だ。
 晃と詩音の目は一匹のヒーローヒコウチャオに注がれている。
 そのチャオ、ディーバがこのレースを制したチャオだからだ。
 しかし開幕、ディーバは出遅れた。
 正確にはディーバが遅れたのではなかった。
 ハシリを得意とするチャオたちのスタートダッシュが秀逸だった。
 スタート直後から最高速でトップに立つのは、ハシリチャオたちに多く見られる技術、脚質だ。
 ディーバは下位スタート。
 走るスピードも他のチャオに比べて劣っているふうに見える。
 この開幕の展開でわかるとおり、ディーバは走るチャオではない。
 ディーバが真の速さを見せるのはトリックエリアに入ってからだ。
 アレキサンドライトレースはよりダイナミックなレースを演出するための作りになっている。
 それを象徴するのがトリックエリア、そしてそこに設置されたトリックリングである。
 コースの随所に輪が設置されていて、それをくぐることでポイントが溜まる。
 一定以上のポイントを稼ぐことで、ショートカットルートが解放される仕組みだ。
「そういえばこの前の年のレースはヒコウのトリックエリアが最初だったんだよな」
「うん。それでディーバが圧勝したからこの時はオヨギのトリックエリアで始まってる」
 水中にトリックリングが設置されている。
 その中には、水底やコースの脇に設置されているリングもあった。
 ショートカットをするためには多少遠回りをしなければならない仕組みだ。
 理屈の上ではショートカットを使う方がタイムは縮まる。
 しかしチャオの能力次第ではショートカットを諦めた方が速いということも往々にしてある。
 ディーバの選択は、ショートカット狙いだった。
 水中に潜ってリングをくぐっていく。
 ディーバはバタ足だけでなく、羽を動して前進していく。
 ヒコウ複合泳法。
 羽が大きく発達するヒコウチャオの泳ぎ方だ。
 二十個設置されたうち十個以上くぐればショートカットは解放される。
 余計にくぐった分はストックとなり、次のトリックエリアで使うことが可能なのだが、ディーバは十個ぴったりを狙うコース取りだ。
 リングを十個通ると、ディーバが着けたブレスレットの緑色のランプがともった。
 それを合図にディーバは一度深くまで潜る。
「来るよ」
 と晃が言った。
 ディーバはさっきよりも強く羽を動かして、加速しながら浮上する。
 そしてディーバは水中から飛び上がった。
 高度は二十センチほど。
 ディーバはそこから十メートル飛行して、オヨギエリアを突破する。
 再び走るが、スタート時とは全く異なる走り方をする。
 ヒコウ複合走行だ。
 走っているというよりもスキップしているような見た目だ。
 体を浮かすように地面を蹴り、得意のヒコウでスピードを出す。
 ディーバの強さは、開幕以外をヒコウのスキルで突破するところにあるのだ。
 ヒコウのトリックエリアに入ると、ディーバは最大の持ち味であり、天才的に優れているヒコウ能力を見せる。
 高く飛んで、ループを描くように三つリングをくぐると、羽をたたんで落下する。
 下には妥協ルートという想定で一つだけ設置されたリングがあった。
 そのリングの高度付近まで落下し、羽を広げるとはばたかずに滑空してリングをくぐる。
 そしてまた上の方へと飛んでいく。
 ディーバはこのエリアで二十個全てのリングをくぐってみせた。
引用なし
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昨日までのレール、今日はただのレース 2
 スマッシュ  - 18/4/30(月) 22:36 -
  
「やっぱりヒコウチャオは強いよ」
 と晃は言った。
「ヒコウ複合で走ることはできても、ハシリ複合で飛ぶことはできないもん」
 もっともらしい意見だ。
「でもビームはハシリチャオだ。ハシリで勝負するべきだよ」
 と詩音は言った。
 複合は得意の能力をいかせる分スピードを出せるが、スタミナを消耗する。
 しかしビームはヒコウがそんなに得意ではないのだから、別のスタミナの使い方をした方がいい。
「そうだね。ないものねだりをしても意味ないか」
「チャオチャオ」
 と晃の腕の中でビームはうなずいた。
「ビームもそうだと言っている」
「わかってんのかな、この子」
「餅は餅屋。チャオレースはチャオなんだろ」
「チャオレース屋じゃなくて? ってかこの子って、今どのくらいのランクなの?」
「ペリドットが8。それ以外は6だ」
 ランクは1から9までの九段階あり、コースごとにランク付けされる。
 ランクレースという大会で優勝することでランクは上がった。
 最高の9になると、ランクレースで優勝した場合賞金が手に入る。
 いわばランク9はプロである。
「アレキサンドライトも?」
「6だ」
 普通のチャオにしては高いが、賞レースに参加することを目指すにしては低すぎる。
「特訓が必要ですよ」
 晃はにやつきながら重々しく言った。

「実はうちの高校の外周は、ランニングコースとして運動部によく使われています」
 詩音とビームは晃に連れられて、高校の校門前に立っていた。
「そうなのか」
「チャオ〜」
 知りませんでした、というふうにビーム。
「一周すると大体、えっと、どんくらいだっけ。とにかく丁度いい感じの距離になるのです」
「その丁度いい感じがわからないと駄目なんじゃないのか」
「いいの。部活だといつも十周するんだけど、今日はビームの速さが知りたいから、一周を全力で走ってみて」
「全力だってよ。全力」
「チャオ!」
 チャオが人間の言葉を理解できるのかどうかはわからないが、少なくともビームは全力という言葉を理解している。
 チャオレースをするチャオたちは飼い主の指示を聞きながら走るので、その指示で使われる言葉は教え込まれているのだ。
 そしてビームも詩音からそれらの言葉を教わっている。
「よーいどんで走るからね〜」
 ビームはクラウチングスタートの構えを取る。
 晃は片手で耳を塞ぎ、もう片手を銃の形にする。
「よーいどんばん」
 空砲の音まで真似た。
 ビームが走り出す。
 同じスピードで晃と詩音が後ろを走る。
「チャオにしては速いね。速いんだよね?」
 と晃が詩音に聞いた。
「ペリドットランク8だからな。速い方だ」
「ふうん」
 しかし後ろで走っていて、その実感はない。
 人間がチャオを追っているのだから無理もないことだ。
 ただ晃はチャオのペースに合わせるのが、速くも退屈に思えてきたようだ。
「もういい。私マジで走るから」
「はっ?」
 晃はするっと加速してビームの横に並んだ。
「私、本気で走るからビームも本気でついてきて」
 と晃はビームに言った。
 言い終わると同時に晃の脚の動きに稲妻が走った、ように詩音には見えた。
 地面を弾くようにして高く蹴り上げた靴の裏が見える。
 速いランナーの脚の動きはダイナミックだ。
 それでありながら恐ろしい速度で回転し続け、強く地面を蹴ってゆく。
「おいアキラ」
 お前がそんな速く走って、どうするんだよ。
 そう声をかけようとした詩音が息を呑んだ。
 ビームが加速した。
 全力で走っているはずの晃に食らいついている。
「嘘だろ」
 と目を剥く。
 確かめるためには詩音も全力で走ってみるしかない。
 力を振り絞る。
 しかし晃にもビームにも離されてしまう。
 ということは間違いない。
 晃は全力で走っている。
 そしてビームは晃と同じくらいのスピードで走っていた。
 だが詩音が全速力で追い始めてから数秒でビームは失速した。
 普段の速さも出ず、詩音に追いつかれると息を切らして歩くようになった。
「お前、いつの間にあんなことができるようになったんだよ」
 と詩音は聞いた。
 ビームに答えられるはずはない。
 しばらくすると晃が一周してきて、
「ふう、やはり私は速かった」
 と満足げに言った。
「お前それどころじゃないぞ」
「え? どしたの」
 詩音とビームは歩くことすらやめていて、なにか異変があったというのは明らかだった。
 それに気付いて、
「怪我?」
 と聞いた。
「違う。速いお前が速くなかった瞬間があったんだ」
「は? なにそれ」
「ビームのスタミナが戻ったら見せてやる」
 そしてたっぷりと休憩した後で、詩音はビームに晃と併走させ、さっきと同じ走りを晃に見せた。
「うちのビームは天才であったのか!」
 と晃は驚愕した。
「ただお前と同じスピードで走るのはかなりの無茶らしくて、スタミナがすぐ切れる。怪我とかのリスクもあるから、させない方がいいとは思う」
 でも晃と同じ速度で走れるということは、チャオレース界で最速に躍り出たのと同義だ。
 人間のスピードで走る必要はない。
 他のあらゆるチャオよりも速ければいいのだ。
 それなら怪我のリスクを抑えられる。
 ビームはディーバと戦えると詩音は確信した。
 晃は既にディーバに勝ったつもりになった。
「やったよビーム、ビームが一番速い!」
 と晃ははしゃいでいた。
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