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一年が経って、エメラルドはニュートラルノーマルのオトナチャオになった。
繁殖ができるようになったが、エメラルドとつがいになれるチャオがこの島にはいない。
飛空艇が新しい卵を運んできてくれないだろうかと空を見る時間が増えた。
見えるのは遠い上空を飛ぶ旅客機ばかりだ。
「またコウノトリさん待ってる」
とアサは塔の上で空を見ている俺に言った。
「そりゃあ、待つだろ」
「別に待たなくたっていいんじゃない? 卵なんて、次いつ持ってきてくれるかわからないんだし」
そもそも次があるのか、とアサは言った。
「でももう一匹いれば繁殖できて、そうしたらどんどんチャオが増える」
「そんなことになったら、すぐにこの島から溢れちゃうよ」
「だけどそれが生き物として自然だろ」
時の流れと共にチャオが生まれ、死んでしまうこともある。
その正常な時の流れをこの島に取り戻すべきだという考えが俺にはあった。
「ま、そういうことは実際に卵が来てから考えようよ。待つのなんて、空見てなくてもできるよ」
アサは両手に持っていた、シャベルと花の種の袋を俺に見せた。
「種まきしよう」
「種まき?」
「そう。ほらチャオって繁殖する時に、花を咲かせるでしょう。あれの代わりに、本物の花をってこと」
「ごっこ遊びか」
「そう、ごっこ遊び。私たちが毎晩していることと同じ」
悪くないでしょ、とアサは笑った。
「そうだな」
カオスチャオたちも種まきに興味を示したようだった。
二本しかないスコップを交代で使ってカオスチャオは穴を掘る。
そしてその穴に種を入れていく。
うまく咲けば、この島のみんなが寝転がれるくらいのスペースが花畑になる。
カオスチャオたちは、大きくなれという祈りのダンスを踊り出す。
体をくねらせながら両手を頭上に持ち上げる踊りだ。
「うおおおおっ」
アサも力を溜め始める。
そして種を植えた場所に手をかざす。
「カオス・イレイザー!」
「消滅させるなよ」
三ヶ月ほどが経って、ひまわりはアサの攻撃に負けずに咲いた。
植えたはいいものの、よくよく考えたらひまわりは背が高くてチャオが繁殖時に咲かせる花とは似ても似つかなかった。
「綺麗に咲いたねえ」
アサはひまわりの花の部分をもぎ取っていく。
「おいおいおい、なにしてんの」
せっかく咲いたのに。
するとアサはさも当然のことのように、
「なにって、繁殖の花畑を作るんだよ」
と返す。
どういうことだ、と首をひねっている間にアサは十個ほど花をもいでいた。
そして花畑から少し離れた場所に、もいだ花を円形に並べていく。
なるほど最初からそうするつもりだったのか。
そうして作った繁殖スペースに、エメラルドを連れてくる。
「さて、お相手は誰にしようかなあ」
アサは周囲を見渡す。
「やっぱチャオドルのみーちゃんかなあ。それか普通にフツウかな」
考えた末にアサは、
「決めた。私にしよう」
と言った。
「お前はチャオじゃないだろ」
「固いこと言わないの。嫉妬?」
「そうじゃないけど」
アサはエメラルドの両手を握って、上下する。
それが繁殖のダンスのつもりのようだ。
しかしエメラルドは腕の上下に合わせて飛び跳ねていて、それは俺が見ていたチャオの繁殖ダンスとは違っていた。
「俺がやる」
と俺はアキにダンスをやめさせた。
「寝取り?」
「うるさい」
今度は俺がエメラルドの両手を握る。
そして上下ではなく左右に優しく振る。
エメラルドは跳ねたりせずに、穏やかに体を揺らす。
そう、そういう感じだ。
と俺は思った。
本当の繁殖のダンスとは違う動きだったが、動きのノリを教え込めていると感じる。
「ほら早く卵産んじゃえよ」
とアサが俺の背中を押すように蹴った。
嫉妬しているのはそっちじゃないか。
そう彼女には言わないで俺は笑みを浮かべる。
いくら蹴られても動じずにエメラルドを踊らせ続けた。
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