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「このエンペラーは、お前たちのカオスエメラルドを取り込むことで完成する」
ドラゴン型の巨大アーティカが僕たちを睨む。
だがしょせんはバイオレットをくっ付けただけの積み木アーティカだ。
「なら今は未完成ってことだろ!」
僕はカオスコントロールをする。
時間の流れを遅くして懐に入り込む。
僕はバイオレットの銃から刃を出して、首を切り落とそうとした。
しかし刃が通らない。
「なんだ!?」
時間の流れが元に戻ってしまうので、退く。
「これはカオスコントロールで作る障壁。遊びでアーティカをくっ付けたわけじゃないんだよ、タスク君」
ドラゴンの顔が僕の方を向いた。
なにかまずいことが起こる。
それを察知する。
もっと退かなければ、と思ったらミツルのアーティカ――フォーレンテスターが僕の前に躍り出た。
僕の庇うというわけではなく、真正面から射撃をする。
さっきの僕の攻撃が見えていなかったのか、通用するはずのない攻撃をして隙だらけだ。
そしてエンペラーの口からなにかが放たれる。
その瞬間僕はカオスコントロールをして、再び時間の流れを制御する。
フォーレンテスターを引っ張って避難する。
エンペラーの口から放たれたのは、ハバナイが乗っていた時のホワイトナイトのチャージショットに似ていた。
あのチャージショットの散弾版。
危うく二機ともにやられるところだった。
連続のカオスコントロールでは、大して時間の流れを制御できず、かなりぎりぎりの回避となった。
「まずいな」
マキナが舌打ちする。
「でも向こうはカオスバッテリーの寄せ集め。バリアもたぶん大したことない。チャージだって吐かせたし」
「ならここから形勢逆転ってわけだな」
「それはどうかな?」
僕たちのアーティカの周りで小規模な爆発が起きた。
これは、カオスコントロールによって引き起こされた爆発だ。
だけどその発生源はエンペラーではなかった。
発生源は、フォーレンテスターだ。
「ミツル、一体なにをしている!?」
「なにもできない!」
とミツルは答えた。
「レイはいつも私にあんまり操縦させてくれなくて、そのレイもなんか様子がおかしい!」
「そういうことかよ!」
ミツルの報告を聞いてマキナが吠えた。
「ルウ、てめえ、レイを経由してフォーレンテスターを乗っ取っているな!」
「まさかレイまでいるとは思わなかったからね。私はラッキーだ。愛しているよ、レェェイ!」
「さっきの爆発の弱さからすると、まだ乗っ取りは完璧じゃない。だけど調整されるとまずいぞ」
マキナが言う。
ホワイトナイトもフォーリンテスターも、大して破損していなかった。
「私の計画では、GUNからこのカオスポイントに逃げてきた君からカオスエメラルドを奪うだけだったのに、まさかカオスエメラルドがもう一つあって、しかも予定より楽に手に入るだなんてね!」
「雑な計画だな。俺たちが来なかったらどうするつもりだったんだ?」
マキナは挑発する。
ルウも興奮のあまり余計に喋る。
おかげで小休止する時間が生まれる。
僕はその間に次のカオスコントロールでエンペラーを破壊する手段を考える。
「君たちは絶対ここに来る。忌々しいことにこのカオスポイントは、外界から完全に隔たれてはいない。入ることはもちろん、出ることも可能だ。しかし、だからこそカオスポイントの情報を外の世界に流して、君たちに安全な避難先というイメージを与えることができた」
「そして俺たちからカオスエメラルドを奪って、俺たちの身柄をGUNに渡して、それで返り咲くつもりだったのか?」
「まさか。もう一度あの時と同じカオスコントロールを起こして、このカオスポイントを外界から完璧に隔絶するんだよ」
「なんでそんなことを?」
「私ね、恋をしたんだよ」
その語りをこれ以上聞く必要はない。
こちらのカオスコントロールの準備は整った。
「カオスコントロール!」
イメージは槍だ。
鋭く、一点を貫く。
カオスエメラルドから得た力を細く集中させて飛ばす。
「カオスコントロール」
しかしその渾身の攻撃も、ルウの展開するバリアによって防がれてしまった。
「私はこの恋のために生きることにした。だからアーティカに脱出ポッドを付けて、そして私は戦いから逃げた」
エンペラーは地を這い、爪で切りかかってくる。
僕のホワイトナイトはそれをたやすく避けるが、武装の万全ではないアーティカでは反撃の術がない。
そしてフォーレンテスターは避けることすらままならず、弾き飛ばされた。
「私にはね、子どもがいるの。とても可愛い子よ。今は八歳。その子を無益な戦争に巻き込ませない」
「こりゃ無理だな。俺たちじゃ勝てない」
マキナが虚脱して言った。
「なに言っているんだ。母親なら偉いのか? 母親なら人を殺しても正しいのか? そうじゃないだろ、ふざけるな」
「それは関係ない。勝てるかどうかの鍵は俺たちじゃなくて、ミツルとレイが握ってるってことだ」
ルウの乗っ取りに、ミツルとレイが対抗できさえすれば、勝機は十二分にある。
それを妨げているのは協調性の壁だ。
ミツルとレイの間にはそれがあり、そしてルウとレンの間にはそれがない。
マキナはレイに呼びかける。
「レイ、お前はこれでいいのか? このままあいつに殺されるのが、お前はいいのか?」
「ぼくはいやだ!」
レイが叫んだ。
マキナがレイに叫ぶ。
「ならミツルを頼れ、レイ! 今のお前のパートナーはあいつじゃない、ミツルだ!」
「そうだよ、私なんだよ、レイ。私なんだよ」
そしてミツルの言葉は、レイに届いた。
「ミツル、てつだって。ぼくはあいつにフクシュウしたい。ぼくにあいつを殺させてくれる?」
「うん。いいよ。しよう。復讐しよう! あいつを殺そう!」
フォーレンスターは飛んだ。
背中に付けられた小動物、ツバメの翼でミツルとレイのアーティカは飛行する。
自分の支配を逃れたフォーレンスターに、ルウの意識は向いてしまう。
エンペラーもパワーダウンしている。
ここが勝機だ。
「カオスコントロール!」
再び槍の攻撃。
反応が遅れたが、ルウはカオスコントロールのバリアで攻撃を受け止める。
「今だミツル!」
「わかった! いくよ、レイ!」
「おっけー!」
ミツルとレイが同時に叫ぶ。
「カオスコントロール!!」
フォーレンスターの脚部に、カオスコントロールの力が集中する。
「ふざけるなあ!!」
エンペラの口がフォーレンスターの方へ向く。
そこから放たれるチャージショット。
しかしチャージが不完全で、弾の密度が薄い。
フォーレンスターはそれを綺麗にかいくぐる。
弾が全て見えているかのよう。
いや、見ているのだ。
おそらくは操縦を代わりながら、操縦をしていない時に弾を避けるルートを見切っている。
そんな技を二人は自然とやってのけているのだ。
そしてカオスコントロールによって、とてつもないパワーを得たキックが、エンペラーを頭部から両断する。
「レイ、タスク……結局私は過去に……!」
エンペラーは爆散する。
フォーレンスターがその爆発の中から転がってくる。
そしてホワイトナイトの傍で止まって倒れる。
「勝てた……」
「ころした……」
満足そうにミツルとレイが呟いた。
「おかげでカオスコントロールができるようになったよ! ありがとう!」
戦いの余韻が落ち着いて、ミツルは僕とマキナに礼をした。
まさかカオスコントロールが使えるようになるとは思っていなかったけど。
それもシステムなしで。
「これなら帰ることができそう」
「帰る?」
「うん。このカオスポイントの異常と、それと私の宇宙船のカオスコントロール装置の故障とが重なって、この星から宇宙船に帰ることができなくなっていたんだ」
「故障してるのに降りてきたのか」
マキナが笑う。
「仕方ないでしょ。ちょっとダメージ受けただけで、普通なら問題なかったんだもん。それにライオンの回収は早くしないと、こっちの星の人に奪われちゃう可能性もあった」
それに想定外のことがあったのだとミツルは言う。
「ここをカオスポイントにしたカオスコントロール。それが私たちの宇宙船まで届いたの。そんなの想定できるわけないじゃん」
「まじかよ」
マキナは愕然とした。
「とにかく。私は帰るよ。ライオンのパーツは回収できなかったけれど、私がこれまで未知だったカオスコントロールを起こせるようになったからね」
「そっか。ちょっと残念だな」
と僕が言ったら、
「うん。私も残念」
とミツルは苦笑した。
「ねえ、もしよかったら、私たちの宇宙船に来ない?」
「え?」
「ほら、あのルウって人が言うには、君はGUNに追われてここに逃げてきたんでしょう? それなら私たちの宇宙船に来れば、まず安全だよ。それに私たちも、君たちの戦力とカオスコントロールは喉から手が出るほどほしいんだ」
どうしよう、と僕はマキナを見た。
別にいいんじゃねえか、とマキナは言うが、最後の決定は僕に下させる気のようだった。
彼女は戦力と言った。
彼女たちと一緒に行けば、それは侵略者としてGUNと戦うことになることを意味している。
だけどこの星に残ったところで、僕になにができるというのか。
それを考えると、この誘いに乗るのは悪くないのかもしれない。
少なくとも、せっかく仲良くなった彼女とは戦わずに済む。
その一点だけでも、この星から離れるには十分な理由だった。
「わかった。行くよ」
「ありがとう。じゃあ私が私たちの船に案内するよ」
ミツルのフォーレンスターが、宇宙へ向けて手を伸ばす。
「カオスコントロール!」
フォーレンスターは宇宙船とコンタクトを取ることに成功し、機体を浮上させる。
僕のホワイトナイトもそれに付いていく形で、宇宙へと旅立った。
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