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【企画】ろっどの物語を書こう! ろっど 17/3/26(日) 3:20

ろっどの塊 チャピル 17/4/8(土) 23:41

ろっどの塊
 チャピル WEB  - 17/4/8(土) 23:41 -
  
 彼らはいびつな形をした青い塊で、お世辞にも美しいとは言えなかった。ごつごつとした胴体の上に、にきびのような赤い斑点がついている。その斑点が、波打つように明るくなったり、暗くなったりしている。ぼくは笑顔を取り繕った。
「はじめまして」
 斑点が黄色く点滅した。
 初めはヒトの姿をしていたぼくも、しばらくするうちに青い塊を身に纏うことを覚えた。そうしてぼくは、新しい星に受け入れられたのだった。

 ホームステイ先のナカセンさんは、はじめて会ったぼくに飛行訓練を勧めた。
 青い塊を纏ったまま、一箇所に力を込めるとイオンスラスターとなる。イオンスラスターは白い光とともに強い推力を産み出す。トゥンバ星の北極には、高い塔が建てられている。その塔の頂上に向かって飛ぶのが、僕にはじめて与えられた課題だった。
 ぼくはトゥンバ星に来る前にかなり飛行の練習をしていたので、この手の空中制動は得意だった。地面を蹴ると共に足元でイオンを発生させると、爆発したような勢いで体が宙へ飛び出した。そのまま少しずつ塔の頂上へ軌道を寄せていく。課題をクリアするのに2秒もかからなかった。
「こんなに慣れの速い地球人は他に見たことがない」
と、ナカセンさんはぼくを褒めた。
「君なら運び屋なんかが向いてるんじゃないか。あるいは、航空網のメンテナーか」
 トゥンバ星では、仕事という概念はないらしい。ただ自分で自分の肩書きを名乗れば、みなにその職業の人だと思われるらしい。
「個性というものはないのだ。みんな同じ青い塊で、役割の違いがあるだけなのだ」
と、ナカセンさんは言った。
 ぼくには十分なお金がなかったので、現地で働いて当面をしのごうと思っていた。なので、この仕組みはとてもありがたかった。

 ぼくはナカセンさんに言われたとおり、運び屋のバイトを始めた。基本的には倉庫で待機して、頼まれた荷物を目的地まで運べばよい。
 トゥンバ星はどこへ行っても青い住宅地ばかりだ。しかし、番地と緯経だけは合理的に設計されていて、それに慣れてしまえば仕事をこなすのは簡単だった。
 この街の運び屋は誰もまともに仕事をしているようには見えなかった。ただいつも通りにのそのそと歩いて、そのついでに荷物を運んでいるというのがぼくの印象だった。
 ぼくはイオンスラスターを思うがままに使えたし、暇さえあれば常にバイトをしていたから、あっという間にこの星でトップの運び屋になった。

 そんなぼくのことを面白く思わない連中もいた。
 ある日、ぼくは自分のことをシカクイ星のスパイじゃないかと噂する声を耳にした。シーマ星は、トゥンバ星の近くにあって、近年敵対している星である。
 ぼくはそんな他人の声にも、臆さず突っかかっていった。
「誰がそんなこと言ってたんだ」
「それは……」
 噂話をしていた青い塊たちはたじろいで、お互いに斑点をちかちかさせた。
「ぼくは断じてシーマ星人なんかじゃない。誰が言ったか知らないが、そう伝えておいてくれ」
 それだけ伝えてその場を去った。彼らにはきっとうっとうしいと思われたに違いなかったが、気にしなかった。ぼくは青い塊の中にいたし、それを使いこなしている自分にも満足していた。

 ある日、珍しく赤色のトゥンバ星人がぼくに仕事を依頼してきた。
「こいつを塔にくくりつけてきてくれや」
 彼は青色のトゥンバ星人をぼくの足元に蹴り飛ばした。
「噂は聞いている。この星トップの運び屋さんなんだろ?」
 ぼくは青色のトゥンパ星人を見下ろした。その頭部のまだら模様は、どす黒く濁って渦を巻いていた。
「こいつが何をしたって言うんだ」
「別になんだっていいじゃねーか。お前はお前の仕事をすればいいんだ」
 ぼくは少しためらったが、決意はすでに決まっていた。倉庫には運搬用の大きなかごがある。それを取りに行くと見せかけて、赤色のトゥンパ星人めがけて放り投げた。がしゃんと派手な音がした。
「そんな仕事は請け負えない」
 赤いトゥンパ星人の体の一部に、白いあぶくが沸きだし始めた。それは瞬間的に爆発した。ぼくは飛び退いたが、ぼくの纏っていた青い塊が燃え上がった。倉庫も燃えていた。目の前のあらゆるものが赤く染まった。
 ぼくは焼け爛れた青い塊を剥いだ。ヒトの薄い胸板と二の腕が露出した。その様子を見て、赤いトゥンバ星人はゲラゲラと笑った。ぼくは何もできなかった。赤いトゥンバ星人に刃向かったことを、後悔した。
 とっさに右腕を使って、青色のトゥンバ星人の体を掴んだ。
 下半身に残った青い塊を集中させる。イオンスラスターの出力を最大まで上げる。赤いトゥンパ星人の頭上を抜ける。そのまま脇目を振らず飛び出した。赤のやつが追ってくるかどうか、確認している余裕もない。いや、その心配はないだろう。ぼくより速いトゥンバ星人は、そう多くはないはずだから。
 住宅街をジグザグに飛び続け、数十分飛行したところで、ようやく安心して着陸した。
「助けてくれてありがとう」
 その言葉がとても心地よかった。しかし、自分の青い塊が、未だ本物ではないことをひしひしと感じさせられた。

 ぼくは何時の日か、子供の頃に見たアニメを思い出していた。星々を飛び回る宇宙警察が、悪の陰謀を次々に滅ぼしていく。どうせ肩書きを自由に名乗っていいのなら、悪を成敗したいと思った。
 だからぼくは宇宙警察を名乗ることにした。

 家に帰って、ナカセンさんにも報告した。ナカセンさんは、斑点の模様一つ変えずに、ぼくにこう言った。
「宇宙警察なんて、この星では不要なのだ」
 トゥンバ星人には、個体というものがない。個体がないということは、ひとりひとりを罪に問うてみたところで、なにも意味がない。そういう意味のことを、ナカセンさんは言った。
「でも、さっきぼくが見た赤いやつは、確かに悪意を持っていた」
「それはこの星の悪意であって、個人が悪いというわけではない。それは私の悪意かもしれないし、君の悪意かもしれない」
「誰の悪意だろうと、糾弾されるべきじゃないのか?」
「君がいくら頑張ったところで、嫌がらせをする個体は現れるだろう。それは君の中の悪意がなくならないのと同じだ」
 ぼくにはナカセンさんの言っていることがよく分からなかった。ただ、ナカセンさんはトゥンバ星人であって、必ずしもぼくの味方ではない。そのことを少し理解した。
引用なし
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