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進化のかたち ろっど 16/12/23(金) 22:07
第一話 魔王軍 ろっど 16/12/23(金) 22:14
第二話 魔の森の悪夢 ろっど 16/12/31(土) 22:38
第三話 竜神様のはら ろっど 17/1/7(土) 18:54

進化のかたち
 ろっど  - 16/12/23(金) 22:07 -
  
これは、魔王を倒す勇者たちの物語。
毎週土曜日更新!

登場人物紹介

・サイン
"聖剣"を持つ"勇者"
戦いの才能がある
少し猪突猛進なところがある

・ルーシー
ナックル村の見習い魔法使い
拘束系の魔法が得意
とても目が良い

・マーク
ルーシーのパートナーチャオ
魔力供給を担当する
ブソウタイプだが魔法も使いこなす

・ヒョウジ
サインの幼馴染み
剣も魔法もそれなりに扱える
自警団で訓練を積んだ経験がある

・ミコ
竜の民の血筋
右腕に継承者の紋章がある
力が強い

〜あらすじ〜

チャオと人とが平和に暮らすピュア王国を、突如として襲った魔王軍。
魔王軍はピュア王国首都ソニックシティを早々に支配してしまった。

エミー地方のとある村で暮らしていたサインは、教会からの導きで"聖剣"に選ばれる。
ピュア王国の伝承によれば"魔王"は"勇者"でしか倒すことができないとされている。
"聖剣"に選ばれたサインは持ち前の正義感から"魔王"を倒すことを決意した。
ヒョウジは村の自警団の団長の息子で、サインとは幼馴染み。サインの決意に影響されて、ヒョウジはサインと共に"魔王"を倒す旅に同行する。

二人はナックル村でマークというブソウタイプのチャオを連れたルーシーという少女と出会う。
彼女の村で起きた事件を解決して、二人はルーシーを仲間にした。

物語は、彼らがシルバー山を越えて首都ソニックシティ近辺に辿り着いたところから始まる。
はたして彼らの冒険の行く先は。


〜用語集〜

・魔王軍
ブソウタイプのチャオで構成される軍団
ひとつの群れには"親"がおり、"親"を倒さない限りチャオは無限に増え続けるとされる

・ブソウタイプ
戦うことに特化したチャオの進化形態
人の使う武器や魔法を真似ることができる

・魔力
人に流れる血液のようなもの
チャオは空気中に流れ出た魔力を感じ取ったり、吸収したりできる
引用なし
パスワード
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第一話 魔王軍
 ろっど  - 16/12/23(金) 22:14 -
  
 第一話 魔王軍
 
 サインはぼくよりも強い。
 彼の持つ"聖剣"が次々とチャオのポヨを貫いていく。ひとりの人が扱うには大きすぎるそれを、サインは手や足と同じように使いこなしてみせる。
 サインの死角をフォローするのはルーシーの役割だ。彼女の魔法は光の輪っかを形成して的確にチャオを拘束する。
 拘束されたチャオのポヨを斬るのはぼくの役割。その間にもサインはチャオの群れに単身飛び込んで、ブソウしたチャオの攻撃を避けながらポヨを破壊していく。そこをルーシーがフォローする。
 これがぼくたちの戦い方だった。
「悪い! 二匹逃がした!」
 サインの言葉通り、二体のブソウしたチャオがぼくたちの方へ向かってくる。その銃口がルーシーに向こうとしているのを見て、ぼくは火の魔法を放った。だがその火の魔法はチャオの作る半透明の盾に防がれてしまう。
「マーク!」
 ルーシーのパートナーチャオのマークが、二体のチャオの後ろに回り込んで、銃でポヨを撃ち貫いた。
「ナイス陽動!」
 とマークがぼくに言う。
「敵が多すぎるね」
「埒が明かない!」
 業を煮やしたサインが"聖剣"のチカラを解放する。その刀身から伸びた光で、魔王軍のポヨを一薙ぎする。一瞬にして数えきれないほどにいたチャオが消滅した。
「このまま突っ切る!」
 サインの叫びとほぼ同時に、一際大きなオーラをまとったチャオが現れる。"親"だ。"親"を倒さないとチャオは次々と生み出される。
 "親"が銃を撃つ。サインは神懸かり的な反応でそれを避ける。一瞬で距離を詰めて、"親"のポヨを切り捨てる。
 三十五体目。
 ぼくたちが倒した"親"は、これで三十五体だ。
「終わったな」
 剣にこびりついたポヨの破片を拭き取ってサインは言った。戦闘中は温情を忘れたみたいになる彼の表情に、穏やかさが戻る。長い旅の間で、それがいつの間にかぼくたちの戦いの終わりの合図になっていた。
「なんかどんどん強くなってる気がするね」
「サインが?」
 ルーシーがこぼした一言にマークが尋ねる。
「チャオが」
「ボクが?」
「マークじゃなくて、魔王軍が」
 魔王軍のチャオが強くなっている。同じことをぼくも感じていた。
 ピュア王国の首都に近づくにつれて明らかに敵は手ごわくなっている。使ってくる魔法の質も戦術の質も、どちらもより高度なものになりつつある。事実今まではサインひとりで何とかなっていたような数を相手に苦戦を強いられるようになってきた。
「そうか? 逆に弱くなってる気がする」
「サインはそうかもしれないけど……ヒョウジもそう思うでしょ」
「そうだね。最初の頃はこんなに数が多くなかったのもあるけど、でも」
 ――ぼくの魔法が、通用しなくなっている気がする。
 そんな不安を煽るような情けない言葉を、ぼくは口にすることができなかった。
「心配いらないでしょ。おれたちも強くなってるし」
「だよね」
 サインの力強い言葉に安心したのか、ルーシーはほっとした表情を見せた。
 ほんの二週間前まで戦いの素人だったとは思えないほどに、確かにサインは強くなっている。"勇者"の名前は飾りではない。彼には戦いの才能がある。
 そしてそれはルーシーも同じだ。小さな村の見習い魔法使いでしかなかった彼女が、いくらパートナーチャオのマークがいるとはいえ魔王軍相手にここまで大立ち回りできるのも、彼女の才能と言えるだろう。
 ぼくは、どうだろうか。
「次はどこだっけ?」
 というサインの言葉に、
「ルート街道じゃない?」
 ルーシーが返すが、いやそうではないのだとサインはぼくに向き直った。
「ヒョウジ!」
「……え、ぼくに聞いてるの?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
 サインが笑って地図を広げる。サインもルーシーもあまりこの国の地理に詳しくはないようで、この旅路は主にぼくが組み立ててきた。
「ルート街道を通って首都に入るのは危険だと思う」
 ひときわ大きな道を指して、首都ソニックシティと書かれた位置へ動かしてみせる。
「まあ、待ち構えてるだろうなあ」
「待ち構えているとしたらここだよね?」
 首都の手前にあるエッグタウンを指すルーシー。
「そうだね、この街は内戦時にも防衛ラインになっていたみたいだし、迎え撃つに適した地形だ」
「結局全員倒さなくちゃならないんだから正面突破しかないんじゃね?」
「いや、難しいと思う」
 サインはところどころ自信過剰なところがある。強いからだ。それは"聖剣"のおかげ、というだけではない。単純な運動能力、魔法の才能、そういったすべてが彼の自信に繋がっている。
 しかし魔王軍のチャオも強くなっている。その強さは未知数だ。どれくらいの数がいるのかさえ分からない。できる限り不確定な要素は取り除いておくべきだ。
 そう説明したい気持ちをぐっとこらえた。チャレンジ精神旺盛なサインにこんなことを言ってしまっては、火に薪をくべるようなものだ。
 都合の良い説得材料を探しているうちにルーシーが「元を断たないといくらでも出てきちゃうでしょ」と助け船を出してくれる。それに乗っかることにした。
「首都の"親"を何とかしないときりがない。マイルス湖から回り込んで行こう」
「マイルス湖から首都に入るって、"魔の森"を通るってこと?」
 ルーシーがおそるおそるといった様子で口にする。
「"魔の森"って?」
 とサイン。
「このシャドウフォレストってところ。ここに入ったら出られない、っていういわくつきの」
「おもしろいじゃん!」
「そりゃあサインは面白いかもしんないけど、わたしそういうのムリだから!」
 あくまで"魔の森"を拒否する姿勢を見せるルーシーに、
「でもほかに道はない」
 はっきりと告げる。
「マイルス湖の近くの村で休息を取ろう。それから"魔の森"を通って首都に。それでいいかな」
 サインは愉快そうに、ルーシーは渋々といった様子で頷いた。
 
 
 マイルス湖。ピュア王国随一の面積を持つ湖だ。
 間もなく日が沈むかという頃になって、ようやくぼくたちは湖の畔にある村に着いた。
 湖を囲うように形成された集落は村と呼ぶには大きすぎるように思えた。
「ここはまだなのかな」
 不安がるルーシー。魔王軍は人里を襲い、その住処を奪う。彼らがこのピュア王国に現れてから最初に襲ったのが首都ソニックシティだ。その首都に近いマイルス湖も既に占領されている可能性が高かった。
「大丈夫みたいだ」
 家屋からこっそり顔を覗かせる村人たちを見てサインが言った。
「おれは"勇者"サイン! 村の主にお目通り願いたい!」
 "聖剣"を掲げて、"勇者"サインは名乗りをあげる。その名乗りを聞いた村人たちが一斉に家屋から出てくる。せめて一目、"勇者"の姿を見たい。そんな縋るような気持ちが表情から読み取れる。既に国の七割が魔王軍に占領された王国にとって"勇者"とは唯一の希望なのだ。
「勇者様……」
「勇者様だ!」
 わっとサインのまわりに村人が集まる。
「相変わらずすごい人気ね」
「茶化すなよ」
 そんな軽口をたたき合っていると、急に村人が静まりかえった。彼らはさささと道を開けるように端に寄る。村人たちの中から初老の男性がゆっくりと近づいてくる。
「村長かな?」
 ルーシーが呟く。彼はサインの前に頭を垂れて見せる。
「村長のロージンと申す者です。"勇者"様、お顔を見せてくださり、まことに光栄でございます」
 彼の声はやや震えていた。"勇者"を一目見ることのできた喜びに打ちひしがれているのだ。
「わたくしたちにできることがあれば、何なりと」
「勇者様!」
 村長のあいさつも待たず、堰を切ったように村人たちがサインに詰め寄る。
「勇者様!」
「この国は大丈夫なんですか!?」
「魔王軍はいつこの村に……」
「国王は一体何をしているんですか!」
「静かに!」
 慌てふためく村人を村長のロージンが一声で制す。
「静まれ。勇者様の御前で失礼のないようにせい」
 しん、とする村人に、
「まあみんなが不安な気持ちは分かるっすよ」
 サインが軽口を叩いてみせる。しかしロージンは恐縮といった様子を続ける。
「みなは戻るがよい」
 村長の言葉に村人たちは家に戻る。とは言え遠目からこちらを窺っているあたり、やはり"勇者"のことが気になるのだろう。
「村の者が失礼をいたしました、"勇者"様」
「いや、まあ別に……」
 頑なな態度を崩さない村長にサインもやりづらそうにしている。
「サイン、こういう人苦手だもんね」
 こそこそと話しかけてくるルーシーを、
「聞こえるから」
 とたしなめる。
「それより宿を探してるんですが、どこか泊まれるところはありませんか?」
 ぼくの言葉に村長は頷く。
「そういうことでしたら、こちらで用意いたします」
「よかったー。野宿は最近寒くてさ」
 サインがぼやく。確かに首都近辺での野宿は寒い。シルバー山を越えてからは特に寒さが増したように思う。
 先日は寒いせいかマークが風邪を引いて足止めを食らってしまったくらいだし、寒さをやり過ごすことは急務だ。
「どこに行けばいいですか?」
「村の者に準備させますゆえ、まずはわたくしの家においでください」
「サンキュー! あー、腹減った」
「こら、サイン!」
 サインの無礼極まりない言葉にルーシーが叱る。
「ちなみに、そちらのチャオは……」
 村長が不安げにパートナーチャオのマークに目をやった。苦い顔をしているルーシー。
「わたしのチャオが何か?」
 棘のあるルーシーの言い方に村長が怯える。サインはまたこれか、とでも言いたげな顔をしていた。
「このチャオは彼女のパートナーで、魔王軍に対抗するために力を貸してくれています」
 すかさずそうぼくが横槍を入れると、村長は安心してくれたようだった。
「おお、"勇者"様のお仲間でしたか。これは失礼を致しました」
「いえ」
 チャオに過剰反応してしまうのは仕方のないことだ。魔王軍のチャオもそうでないチャオも、ぱっと見では変わらないように見える。それにマークは魔王軍のチャオと同じ"ブソウタイプ"のチャオだ。見慣れているぼくたちはともかく、ほかの人では見分けをつけることなんてできない。
 閑散とした村の中を村長に続いて歩いて行く。林の間に無理やり割りこませたような場所に一回り大きな家が見えた。
「こちらです、"勇者"様」
 外から見ると大きそうに見えた家も、内装はあっさりとしていた。目立つものと言えば玄関先に黄金の竜を模した飾りが立てかけてあるくらいだ。
「ルーシーの家みたいだな」
「そう? わたしの家もっと狭いよ」
「でも首都の近くにしては……」
 地味すぎると言おうとして、村長の前でする話ではないと思い直す。
「あ、すみません」
「いえ、いいのです。これは我々竜の民の伝統ですから」
「竜の民?」
 サインが聞き返す。
「マイルス湖に棲むと言い伝えられる伝説の竜に、古くから仕えし一族をそう呼ぶのです」
「へえ」
 あまり興味なさそうなサインに村長もそれ以上の説明を避けたのか、
「ただいま食事を運ばせますので、どうぞおくつろぎ下さい」
 と言って外に出る。村長が外に出たのを見計らって、ルーシーがマークを撫でた。魔王軍が出現してからというもの、どこへ行ってもチャオは同じような扱いを受ける。
「ルーシー、ボク気にしてないよ」
 くすぐったそうにマークが言った。
「ごめんね、マーク」
「だから気にしてないよ、ボク」
 マークは本当に気にしていない様子だった。しかし幼い頃からパートナーとしてやってきたルーシーにとって、この問題はなかなか折り合いがつけられないのだろう。
 魔王軍と見分けがつかないのだから仕方がないこととはいえ、ぼくも気分が悪くなる。彼らのチャオを見る目は、あくまで外敵としてなのだ。
「何としてでも早く倒さないとな。"魔王"」
 サインが決意を口にしたけど、ぼくは心の底から頷く気にはなれなかった。
 がちゃんと玄関から大きな音がした。村長が戻ってきたのかと思ってそちらを見ると、長身の女性が息を切らせてぼくたちを睨んでいた。
「"勇者"……」
 彼女は"聖剣"を持つサインを見つけると、一層憎らしげに表情を歪ませた。
「出て行ってくれない?」
 ぼくたちは何を言われたのか分からずに、お互い目を見合わせた。どこに行ってもちやほやされてきたものだから、ここまでずさんな扱いをされるのが新鮮ですらある。
「は?」
 耐えきれずにサインが言い返した。
「ここ、あたしの家だから。出て行って」
「いや、村長にここにいろって」
「出て行け!」
 彼女の唐突な叫びにぼくたちが戸惑っていると、村長があわてた様子で戻ってきた。
「ミコ!」
「こんなやつうちに入れる必要ない!」
「やめなさい、ミコ」
「何があったか知らないけどさあ」
 サインがゆっくりと立ち上がる。それから"聖剣"を掲げて彼女をすっと見つめた。
 その真摯な表情に、ミコと呼ばれた長身の女性もサインに向き合う。
「"魔王"はおれが倒す。だから」
「そんなこと、聞いてないから!」
 彼女はそう言い捨ててこの家から飛び出して行った。
 いつものポーズで格好をつけようとしたサインはいたたまれなくなってぼくの方を見る。だけどぼくに頼られても困る。
「「かっこわる……」」
 ルーシーとマークがぼやいた。
 
引用なし
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第二話 魔の森の悪夢
 ろっど  - 16/12/31(土) 22:38 -
  
 第二話 魔の森の悪夢
 
「ミコは……あの子は両親を亡くしたのです」
「魔王軍ですか」
 はい、と村長は答えた。
 会食が終わる頃合いになって、村長は先刻の非礼を詫びると言ってきたのだった。
「あの子の親は優秀な魔法使いでして、魔王軍首都侵攻の折に招集されたのです」
「王国の魔法団に?」
「はい」
 目を瞑って頷く村長。何となく、もしかしたらミコの両親のどちらかは村長――ロージンの子なのかもしれないと思った。
「あの子は"勇者"の伝承を信じていました。"魔王"の出現と共に現れ、"聖剣"と共に世界を救済する"勇者"を待ちわびた。ですが」
「間に合わなかった」
 ルーシーが言葉尻を引き取る。
「半年ほど前に、魔王軍の手によって。遺骨すら届けられることはなかったのです」
「それで"勇者"はいらないか」
 恨みつらみを直接ぶつけられた当の本人はいつになく重々しい様子で話を聞いている。
「今更だもんな」
 サインは悔しそうに言った。
「"勇者"様の責任では……」
「サインのせいじゃないでしょ。両親を亡くしたのは可哀想だけど、あの子のやってることはただの八つ当たりだよ」
「そうかもな。だけどおれがもっと早く"聖剣"を手に入れてたらなんとかなった」
 村長とルーシーの慰めにもサインは応えない。こういう時、サインはいつも自分ひとりで責任を背負おうとする。
 強い力を持つとどうにかできることが増える。できたかもしれないこと、それができなかった時に残るのはあともう少しだったのにという後悔だ。ぼくたちにはいつもあともう少しが足りない。"勇者"であるサインでさえそうなのだ。
 これ以上この話を続けてもサインを追い詰めるだけだと分かったのだろう、村長が咳払いをひとつして話題を変えた。
「ところで、いつ出立なさるので?」
「明朝には。できるだけ人の少ない時間に発ちたいと思っています」
「では今晩はもうお休みになられるがよろしかろう。何かわたくしたちにできることがあれば、何なりとお申し付けくだされ」
「ありがとうございます」
 そう言って村長は仮の宿から去って行く。
「村長、良い人だよね。こんな宿もお布団も用意してくれたし」
「それだけぼくたちに期待してるんだよ」
 正確には"勇者"に期待しているのだが、そう言葉にすることはできなかった。
「両親かあ」
 ほう、とため息をつくルーシー。
「心配?」
「うーん、お父さんもお母さんも魔法使えるし、わたしはあんまり。ヒョウジは?」
「心配かな。ぼくがいたら、少なくとも魔王軍からは守れると思う」
「だけど時間の問題だろ。結局"魔王"が来る」
 "魔王"への強い対抗意識を燃やして、サインが言う。
「半年で首都からおれたちの住んでたエミー地方まで侵攻してきたやつらだ。"魔王"が来たら生半可な戦力じゃどうにもなんねーよ」
 生半可な戦力。どきりとした。サインにそういうつもりはないだろうが、まるで自分がそう言われたみたいで。
 ピュア王国の伝説によれば、"魔王"には"勇者"でないと対抗できないとある。"勇者"は"聖剣"によって選ばれる。"聖剣"から、世界から選ばれた"勇者"サインにしか成し遂げられないこと。きっとそれはどんなに努力をしても届かない世界なのだと思った。
「今日はもう寝ようか。明日に備えないと」
「そうだな。明日は"魔の森"だし」
「うわー。やだなー。行きたくなーい」
 "魔の森"の怪談に笑いながら、ぼくたちは眠りについた。
 
 
「竜の民のこと、聞きそびれたね」
 ――明朝、ぼくたちは"魔の森"へ向かって出立した。
 旅の準備には村長とお付きの人が協力してくれた。"我ら竜の民の御加護を"。彼らはそう言ってぼくたちを見送った。
「朝ごはんもおいしかったなあ」
「魚がうまかったよな」
 まだ食べ足りないのか、サインは自分のお腹をさする。前々から思っていたことだが、"勇者"は人よりもよく食べてよく眠る。サインの個性レベルの範疇にも思えるが、もし"勇者"であることと何らかの関係があるのだとしたら、彼の体はもはや他人とは少し違うものになっているのかもしれない。
「湖で獲れた魚って言ってたね。今から釣る?」
 とマーク。彼は意外とサインに似てアクティブだ。
「なんか変な生き物とか釣れちゃったら嫌じゃない?」
「マイルス湖には竜が棲んでんだろ? もしかしたら」
「ウワサでしょウワサ」
 眼前に広がる湖を見る。こうして近くで見るとその大きさに圧倒される。対岸に小さく家々が並んでいるのが見えたり、釣り堀が作られているのが辛うじて分かる程度だ。
 水は澄んだ透明なのに、湖の底は暗闇になっていて見通せない。竜が棲んでいるという話もあながちウソではないのかもしれないと、ぼくは地図を広げながら思った。
「なんとなく湖の形が竜の頭に見えるかも」
「え、ほんと? 見せて見せて」
「いやなんとなくね」
 ルーシーに地図を渡す。彼女は首を傾けてみたり地図を傾けてみたりしたが、納得が行かなかったようだ。
「竜っていうかトカゲじゃない?」
「いや竜だろ」
 とサインが地図を覗きこんで言った。
「そもそも竜ってなに? なにするの?」
「伝説になるくらいだから、富を与えるんじゃない」
「出た、物知りヒョウジ」
 サインのからかいに少しだけいらっときたが、地図を取り返して説明する。
「このあたりの土地は雪山ばかりだから、食料が獲れる場所ってほんとここらへんしかないんだよね。"魔の森"は"魔の森"って呼ばれているくらいだし」
「シルバー山、なんもなかったもんなあ」
「すっごい寒かったしね」
 シルバー山。ルージュ地方と首都ソニックシティ圏の境目にある霊峰。ぼくたちはそこをまたいできた。この二つの地方は、本来であればヒーローブリッヂと呼ばれる大きな橋で自由に行き来ができるようになっている。しかし魔王軍の侵攻の影響で、橋はすでに落ちてしまっているのだ。
 ぼくたちがシルバー山を登らざるを得なかったのもほかに道がなかったからだった。そうでなければあれほど険しい雪山を登ろうなどとは思わない。
「それもあって、ここは竜の恵みのある土地だーとか言われていたんじゃないかな」
「これはボクたちチャオに伝わる話だけど」
 話に切り込みを入れて来たのはマークだ。
「マイルス湖はもともとチャオの楽園だったらしいんだ」
「楽園? なんで?」
「生き物として弱いチャオたちを竜が守ってくれていたみたい。守り神、って呼ばれていたみたいだよ」
 ふうんと森の中を進みながらマークの話を聞く。
「マークを見てるとチャオが弱いとか思えないなあ」
「ボクは"ブソウタイプ"だから」
 チャオは本来弱い生き物だ。だが魔王軍のチャオやマークは戦うことに特化して進化した。人は"ブソウタイプ"と呼んでいる。
 戦いの最中に突然銃を撃ったり魔法を使ったりできるのも、"ブソウタイプ"のチャオが人の使う武器や魔法を真似ることができるからだ。
 ルーシーは主にマークを魔力の供給元としてパートナー契約を結んでいるようだが、"ブソウタイプ"のチャオは本来ひとりでも十分に戦える。
「昔は"ブソウタイプ"がいなかったってことか?」
 と思ったことを口にせずにはいられないサインが聞く。
「チャオが"ブソウタイプ"に進化することは稀なんだ」
「だけど魔王軍はみんな"ブソウタイプ"だよな?」
「そうだね」
 一説によれば、とぼくが口を挟む。
「"ブソウタイプ"は人がチャオに戦うことを望んだ形態、らしい」
「戦うことを望んだら、戦えるようになるのか?」
「一説によればだけどね」
「まあとにかく昔はボクたちチャオってみんな弱かったんだよ」
 ボクは昔から強いけど、とマークは付け加える。その言葉にルーシーも満足げな様子を見せた。ふたりは小さい頃からずっと一緒に戦ってきた。だからマイルス湖の村でマークを魔王軍と疑われた時に、ルーシーは自分のことのように怒りをあらわにしたのだ。
「ってことは"ブソウタイプ"のチャオが集まって魔王軍を結成して、人に反旗を翻してるってわけか」
 人に反旗を翻す。サインが自然に口にした言葉に、ぼくは何だかもやもやしたものを感じた。
 人から戦うことを望まれて進化したチャオはどういう気持ちなんだろうか。竜に守られる生活がチャオたちにとっての楽園なら、戦って人から命を奪い、住処を奪う魔王軍は、一体なにを目指しているのだろう。
 魔王軍の、目的は。
「ところでさ」
 ルーシーが怯えたような声でふと言った。
「さっきから、同じところを歩いてない?」


「"魔の森"の悪夢、ですな」
 森を進んでいる途中で景色が変わらないことに気付いたぼくたちは、一度マイルス湖の村に戻ることにした。
 この現象の正体を突き止めない限り首都には入れない。そう考えて村長に詳しい話を聞くことにしたのだった。
「悪夢ですか」
「"魔の森"には外敵を拒絶する魔法がかかっていると言われておるのです。一度入った者が脅威と見なされれば出られず、脅威があれば入ることかなわず」
 つまりぼくたちは脅威と判断されたということだ。
 "魔の森"がマイルス湖にとっての、ひいてはチャオにとっての外敵を拒絶する場所なら、"勇者"……"聖剣"が脅威と判断されるのは辻褄が合う。魔王軍のチャオを最も薙ぎ倒しているのはサインだ。
「どうすりゃ先に進めるんだ?」
「ううむ」
 顎に手を当てて考え込む村長。
「だから言ったじゃん。"勇者"なんていらないってさ」
「ミコ!」
 村長の家の入口から長身の女性が入ってくる。昨日見た時よりも表情から険しさが減っている。しかしそれは歓迎の意ではない。"魔の森"に拒絶され足踏みしている"勇者"の姿を嘲っているのだ。
 彼女はずかずかとサインの前に立って、とびきりの皮肉に満ちた笑顔を浮かべる。
「役に立たない"勇者"様なんて、竜神様が通してくれるワケない」
「あなたね……」
 ルーシーが冷たい目線をミコに送っているのを見て、慌てて間に入る。
「竜神様って?」
 彼女はぼくから目を逸らして腕組みする。答える気はなさそうだと見て村長に促すと、彼は観念したように話してくれた。
「湖に棲む竜を、我々竜の民は竜神様と慕い崇めております」
「では"魔の森"の魔法もその竜神様が?」
 はい、と村長は頷く。
「竜神って本当にいるのか?」
 サインの疑問にも村長は頷く。じゃあ、とサインは立ちあがる。
「会わせてくれ。おれたちは何としてでも"魔の森"を抜けなくちゃなんねえ」
 村長に詰め寄るサインの肩を掴んで、ミコは息巻く。
「だから、あんたは竜神様から嫌われてんの! そのくらい分かれ!」
「嫌われてたら諦めなくちゃいけないのか?」
 ぐっと言葉に詰まるミコ。こういう時のサインは、たぶんルーシーやぼくよりも頑固だ。
 彼の力強い意志は、彼の眼を通して伝わってくる。彼の意志を前にして中途半端な思いは通用しない。"聖剣"に選ばれる前からサインのことを知っているぼくだからこそ言える。
 サインは"聖剣"に選ばれたから"勇者"なのではない。"勇者"として生まれたから"聖剣"に選ばれたのだ。
「おれは竜神に会って、"魔の森"を抜ける。それから"魔王"を倒す」
「あたしのお父さんを……お父さんもお母さんも守れないのに、あんたに"魔王"を倒せるワケない!」
「それでも倒さなくちゃいけない」
 強く拳を握って、サインは言う。
「おれは"勇者"だから」
 緊張に満ちた静寂。ミコはその言葉を前に何も言い返せないでいる。力を持つ者の責任と、それを成し遂げる強い意志。
 サインは生まれた時から"持って"いる。素質がある。そして"聖剣"はそれを正しく見て、正しくサインを選んだ。ぼくではなく、サインを選んだのだ。
 彼を前にすると、多くの人はぼくと同じことを考えてしまうはずだ。ぼくが"勇者"だったら同じことを言えるだろうか。たくさんの人から期待され、謂れのない罵りを受けて、なお世界を守るために立ち上がることができるだろうか。
 ぼくにはできない。そう思った。
 その緊張の時間はしばらく続いた。サインは何も言わない。もとから言いたいことがあれば言うタイプの彼は、言いきれば相手の言葉を待つ。今はじっとミコの言葉を待っていた。
「じいさん」
 と、彼女が静寂を破る。
「こいつらを竜神様のところに連れてく」
「ミコ、おまえ……」
「それ、ウソだったら殺すから。竜神様に食わすから」
 たぶん彼女も同じように思ったのだろう。ミコの表情にさきほどまでの嘲りや憎しみはない。"勇者"が彼女の気持ちに応えることをミコはもう知っているからだ。
「任せとけって!」
 そうサインは笑って、自信満々に言ってみせるのだった。
引用なし
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第三話 竜神様のはら
 ろっど  - 17/1/7(土) 18:54 -
  
 第三話 竜神様のはら

 食料を貯蔵した蔵の中に湖の地下に繋がる階段があった。階段を下りた先は洞窟だった。静かに空洞音が響いた。
 奥の見えない暗闇にミコがランプを照らす。薄暗がりに苔の張った壁面が見えた。
「まるで"異界"だな」
「異界って?」
 サインの呟きにミコが聞き返す。
「こんな暗いのがずっと続くんだよ」
 いまひとつ納得できなかったようすでミコがぼくに視線を送って説明を促す。
「シルバー山の山頂で"異界"と呼ばれる場所に迷い込んだんだ。道に迷う人を、心に迷いを抱えた旅人を闇に誘うらしい」
「あんたらあの山を登って来たのかよ」
「うん」
 彼女が感心したように吐息をもらすと、ランプの灯がそれに伴って揺れた。
「わっ」
 影が暗闇の中で揺らめいて、それにマークが驚いたみたいだった。ルーシーが頭を撫でてやると少し落ち着きを取り戻した。
「今、影が動いたような……」
 マークが不安そうにぼやいた。
「ああ、あんたらの"異界"はどうか知らないけど、ここは竜神様の"のど"だからね」
「呑み込まれてるってこと?」
 とルーシー。
「昔からそう呼ばれてるんさ。罪人は竜神様の"はら"行きになってたってじいさんはよく言ってた」
「この洞窟自体が竜の体内みたいなものなのかな」
「そういうこと。あんたは頭回るみたいね」
 ミコがぼくの肩をバシンとはたく。サインと言い争っていた時にも思ったが、この人のコミュニケーションはかなり暴力的だ。あの村長も若い頃はこんな感じだったのかもしれない。
 洞窟――"竜神様ののど"の壁面をよく観察してみると、かすかに脈動していた。まさか本当に竜の体内ということはないだろうから、原理的にはこの空間そのものが魔法で構築されているのだろうと思った。"異界"の場合、空間を作り出していた魔法使いは旅人たちの妄執だ。かつてシルバー山で死んで行った者たちの悔み切れぬ執念が、山の豊潤な魔力に染み付いていた。
 この洞窟の場合は竜神様の魔法で構築されているはずだ。入りこんだ者が不審な動きを見せた場合、すぐに"呑む"ことができるように。
「まあ、あたしがいるうちはほんとに呑みこまれちまうことなんてないけどさ!」
「おまえがいると何が変わるんだよ」
「変わる変わる。すっごい変わるよ」
「だから何が」
 サインが声を荒げようとすると同時に、どくん、と地面が鳴った。
「あたしは"竜の血筋"だから」
「だから何なんだよ、竜の血筋って……おまえはいつも一言足りねーんだよ」
「あんたは勇者のくせにもの分かり悪すぎでしょ」
「この二人すごい相性悪いみたいね」
 ルーシーとマークが呆れたようすを見せる。
「で、血筋って何なの?」
 ミコが尋ねたルーシーを睨む。
「あんた、勇者の彼女?」
「殺されたいのかしら」
 冷やかな笑顔を浮かべてルーシーが右手に火の魔法を構築し始める。ルーシー、出てる出てるとマークが彼女を止める。彼女の溢れんばかりの魔力はマークの管理下にある限り暴走することもないが、無意識に魔法を発動させてしまうことも少なくない。
 魔力とは血液みたいなものだ。傷口からは勝手に血が出てくる。それと同じで、ひとたび栓が外れればそこから魔力はいくらでも出てくる。最も魔力が外界に出る場合は血液と違い魔法という形になってしまうのだが。
 どくん、と今度はさきほどよりも大きな地響きがした。ルーシーが慌てて火の魔法を抑えた。
「ほら、竜神様も怒ってる」
 にやっとミコが笑った。
「わたしのせい……」
「待ってルーシー。魔力の流れが何かおかしい」
 落ち込もうとするルーシーにマークが待ったをかける。
 地響きが止まない。心なしか壁の脈動も早くなっているような気がする。
「おいミコ」
 サインにしては珍しく苦い笑い方をして、戸惑っているミコに声をかけた。
「おまえがいれば大丈夫なんじゃねーのかよ」
 ――どくん。
 一際大きな地響きを皮切りに、ぼくたちが通ってきた道から赤い水が流れ込んでくる。
「逃げろ!」
 誰かが叫んだ。全力で赤い水から逃げる。
「なんでこんなことになるの!?」
 ルーシーが息を切らせながら言った。みんな必死で答えはなかった。
 まるで外観の変わらない一本道を赤い水から逃げながら走る。暗闇の中に二手に分かれた道が見えた。
「こっち!」
 ミコが右を指す。右の道に駆け込む。また似たような道が続く。
「いつ着くんだよ!?」
「もう少しのはずなんだけど!」
 走る。分かれ道。ミコに続いて右に進む。さらに走る。後ろを振り返ってみる。赤い水の勢いは続いている。
「やばいやばいやばい!」
 サインが焦る。
「これ、洞窟ごとぶち抜いちゃっていいか!?」
「ダメに決まってる!」
 ミコが返す。
「だったらどうすんだよ!」
「もう少しで着くはずだから!」
 もう一度分かれ道が来る。右に進む。赤い水の勢いは続く。地響きは止まない。
 何かおかしい、ということに気がついたのはもうしばらく走り続けて、四回目の分かれ道を右に進んでからだった。
「マーク! これ同じなんじゃ!?」
「同じ?」
 焦ったせいで言葉に詰まった。
「同じ道なんじゃないか!?」
 そう言ってすぐにマークのポヨがびっくりマークになる。たぶん当たりだ。チャオは人よりも魔力の感知能力に優れているという。赤い水に追われていながらも、マークならこの空間の全体像を把握することはできるだろう。
「ルーシー!」
 マークが立ち止まってルーシーに呼び掛ける。つられて他のみんなも立ち止まる。
「なに止まってんの!」
 ミコが叫ぶ。
「分かった!」
 ルーシーがマークに頷いてみせて、手を繋ぐ。赤い水が迫って来る。
 魔力が二人を中心に渦を巻いている。ヒカリゴケのような色の粒が彼女のたち前で形を成していく。二人の呼吸が合う。魔力の輝きが一層強まる。
 土の魔法。岩壁が目の前にせり上がる。
 波の打つ音がして、地面が大きく揺れた。サインがミコを支える。ゆっくりと揺れが収まる。ふう、と誰かがため息をついた。水滴の音が残った。
「歓迎されてないみたいだね、ぼくたちは」
 どうやらそうらしかった。
「触んな」
 ミコがサインを振り払う。彼女の右腕にはまだ紋章が刻まれている。その紋章に一体どういう意味があるのかは知らないが、少なくとも繋がりはまだあるようだ。それはつまり彼女がまだ"竜の血筋"であることを意味している。
「やっぱりわたしのせい?」
「いやルーシーは関係ねえ」
 サインが確信に満ちた声色で言う。
「あいつ、魔王の眷属だ」
 "聖剣"を掲げる。その刀身がまばゆく輝く。"聖剣"は倒すべき敵が近くにいる時、その刀身を輝かせる。
「そんなこと!」
 ミコが声を荒げる。
「竜神様があたしを、あたしたちを裏切るワケない……」
 だがその勢いは続かなかった。彼女の顔は青ざめてしゃがみ込む。無理もない。今まで信じて来た守り神から殺されかかったのだ。だが本当に竜神が彼女たち"竜の民"を裏切ったのであれば、紋章が消えていてもおかしくはない。そんな気がした。
 腹の底に響くような鈍く大きな音がした。暗闇の先から冷たい風が吹く。"聖剣"の輝きが強まった。
「お迎えだ」
 サインが奥へ向かう。
「魔王の眷属かどうかは分からないけど、ぼくたちと仲良くするつもりはないみたいだ。戦うしかない」
 許可を得る必要はないだろうが、ぼくは彼女に一声かけておきたかった。そうして暗闇の奥に進んだサインに続く。ルーシーがミコの表情をうかがって、ぼくについて来る。
 彼女を連れて行くつもりにはなれなかった。ぼくたちと共に行くにしろここに残るにしろ、どちらにも同じくらいの危険はある。だけどこの先竜神との戦いは避けられない。そうなれば彼女は足手まといになる。
 置いて行くのが正しい判断だと思った。


 暗闇の道がしばらく続いた。その暗闇を"聖剣"の道しるべにしたがって進むと、やがてぼくたちは開けた場所に出た。
「さむい……」
 ルーシーが呟いて、マークが火の魔法を彼女の側に灯す。
「ありがと」
 マークのポヨがハートマークになる。
 壁面に張っていた苔は、いまや霜に変わっていた。吐息が白い。空気中の水分が凍って時たま地面に落ちる。暗くて見づらいが天井が遠いことは分かる。大きな空間だ。構造的に湖の直下だろうか、恐らくここが、
「"竜神様のはら"――」
 どしん、と今度は生き物の音がした。獣の臭いがかすかに感じ取れる。壁面に薄らと張り付いた霜が氷結する。
「お出ましだぜ」
 サインが"聖剣"を構えた。
 蒼い竜が姿を現す。体長は人よりも遥かに大きい。サインが五人ほど縦に並べばその頭に届くだろうという大きさ。その竜が翠色の瞳をこちらに向けていた。
 竜が氷柱を生み出す。その氷柱がサインに向かって一直線に飛来する。サインはそれを"聖剣"で両断する。氷の結晶が粉々になって飛び散った。
 ぐっと一歩踏み込むサイン。そのまま突進。"聖剣"を表皮に突き立てる。
 がんっと高い音がして弾かれる。竜の尾が横薙ぎに払う。跳躍して避けるサイン。氷柱が空中のサインを狙う。
「マーク!」
 ルーシーが叫んで火の魔法で氷柱とサインの間に膜を張る。
 体の軸を翻して"聖剣"が竜の首を狩る。もう一度高い音がして弾かれる。その反動で着地。
「剣が通らねえ」
「魔法なら」
 火の魔法を練る。尾を狙って放つ。命中。白い煙が噴き出る。
「効いた!」
 サインが吼える。
「いや」
 とマーク。
「氷で防御された。あの氷の魔法をどうにかしないとこちらの攻撃は通らない」
 氷柱が天井からぼくの隣に落ちる。狙いがぼくに変わったことを察知して駆ける。剣で迫る氷柱を弾きながら回避行動。
 サインが"聖剣"の刀身に魔力を注入。刀身から光が伸びる。尾を一閃。高い音。
「弾かれた!」
 氷柱がサインに飛ぶ。火の魔法の膜で防ぐ。
 ルーシーとマークが魔力を練って、火の魔法を氷柱のような形状にして頭部を狙う。大きく白い煙。しかし煙が晴れないうちに氷柱がぼくとサインに飛ぶ。ぼくは火の魔法で払い、サインは横に転がって避ける。
「やけに女に優しいなあ、竜神サマ!」
 サインが竜の頭に向かって跳び上がる。"聖剣"を振りかぶる。刀身から溢れる光。それを縦に振ろうとして、竜の尾が"聖剣"を捕えた。そのまま尾に弾かれて地面に投げ出されるサイン。
「こいつ……」
 "聖剣"が尾に絡めとられている、ように見えた。しかしそれは間違いだった。翠色の眼光がサインを鋭く突き刺す。眼光は四つ、いや、六つ。
 竜の頭が三つ。今まで尾だと思っていたそれは竜の首だ。サインの表情に焦りが見えた。
 三つ首の蒼い巨竜が咆哮し、口にくわえた"聖剣"を一呑みする。
「何がやべえのか分かってんじゃねーか」
「竜神様!」
 後ろからミコが駆けてくる。その瞬間、魔力の流れがぐっと彼女の方向に傾いたのを感じ取った。
「サイン! あの子を!」
 ぼくが言い終えるよりも早くサインは起き上がって駆け出した。氷柱が彼女を地面から突き刺すように隆起する。寸でのところでサインがミコを抱えて避ける。
「竜神、様……」
 ミコは縋るように竜を見上げていた。
「どうにかならねーのか」
 とサイン。
「ヒョウジ」
「ぼくに聞いてるの?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
 少し考える。魔力が竜の口に集中する。
「ルーシーが火の大魔法で何とか。でも外したらやばい」
 氷柱が生成。細かく分散して飛来。狙いはサイン――いやミコ。二人の前に駆けて剣で弾く。弾きもらしたものをルーシーが火の魔法で防ぐ。
「竜神様!」
「あっ!」
 ミコが叫んで竜の目の前に走る。
「あたしです! ミコです! "竜の民"の……」
 右腕の紋章を見せつける。竜の攻撃が止む。ミコの表情が少し和らいだ。
「おとなしくなった、のか?」
 とサインが自問する。
「竜神様に許可なく来たことは謝ります、でも!」
 ミコが必死に訴えかける。
「勇者が魔王を討つために、"魔の森"を通らなければいけないんです! どうか!」
 氷の結晶が落ちて割れる音が響いた。しばらくその間が続く。竜のようすに変化はない。しかし攻撃は止まった。
 ルーシーが一息ついた。この広間に着いてから続いていた緊張が解けたのだろう。
 サインが笑ってミコに駆け寄る。
「変だ」
 マークがぼくを見て言った。
「それはぼくに言ってるんじゃないよね」
「いや違くて。サインが竜神に嫌われてるって話じゃなかったの?」
 空気中の冷たさが増した、ような気がした。
「なんであの子が攻撃を受けるのかな」
 ルーシーとぼくが顔を見合わせる。なぜ、ミコが攻撃を受けるのか。勇者を連れて来たから? 竜が既に魔王の眷属だから? 納得できるようで、いまひとつできない。
「やるじゃねーか、おまえ」
 サインがミコに声をかけた。瞬間だった。
 竜の尾がミコを横薙ぎにせんと振り払われる。ルーシーが土の魔法を生成、足場を隆起させてミコとサインを退避させる。尾が空を切る。
 ――魔力の流れを察知して対応していることに、気付かれた! 即座にぼくはそう判断した。
「竜神様……!」
「ヤロウ!」
 眼光の鋭さが増す。確実に竜はぼくたちを殺しに来ている。
 火の魔法を竜の尾に放つ。白い煙。防がれる。氷柱がぼくを狙って飛来。剣で弾く。
「こっちに、早く!」
 二人が急いで駆け戻る。竜の尾が振り下ろされる。ミコとサインの頭上に迫る。サインが彼女を引っ張って避ける。
 ぱらぱらと氷の結晶が散る。
 こうなってくると、サインが無謀な突貫をしなければ、と思わざるを得ない。
 "聖剣"はない。魔法は通用しない。大魔法は一度きりでリスクが高い。逃げる時間はどうやら稼がせてもらえない。そもそもこの空間が竜の作ったものである可能性が高いから、逃げ切れるとも思えない。
「ミコ、ここはおれたちで何とかする。とりあえずおまえは逃げろ」
 サインがミコを起き上がらせる。妥当な判断だ。
 彼女はよろよろとサインの手から離れる。
 竜の尾が横薙ぎに迫る。ルーシーが魔法を生成する直前、ミコが尾を蹴り飛ばした。
 ずしん、と大きな音を立てて巨体をよろめかせる竜。
 マークのポヨがびっくりマークになっていた。
「こっちが下手に出てりゃあ付け上がりやがって」
 右腕の紋章が一際輝く。ぐっとそれを振り上げながら、ミコは竜を睨みつけた。
「あんた、ぶっ飛ばすから」
 魔力の流れがミコに向く。ぼくが剣を握る手に力を込める。氷柱が生成される。ミコは飛来する氷柱を殴って壊しながら竜の頭部に組みつく。
 そのまま思いっきり殴り飛ばした。
 巨体が壁に叩きつけられる。
「ええ……」
 サインが唖然として言った。
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