●週刊チャオ サークル掲示板
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1397 / 1586 ツリー ←次へ | 前へ→

コーヒーカップ ダーク 14/8/16(土) 16:46
ダーク 14/8/17(日) 14:35
ダーク 14/8/17(日) 14:36
ダーク 14/8/18(月) 23:49
ダーク 14/8/31(日) 20:36
感想コーナー ダーク 14/8/31(日) 20:38

コーヒーカップ
 ダーク  - 14/8/16(土) 16:46 -
  
久しぶりに小説を投稿します。
これは以前、小説投稿サイトに投稿した駄作のリベンジ作品です。
ついでにチャオをぶっこんでしまおうと思ったのですが、それでは投稿サイトという土俵でリベンジを果たせないんですよねー。でも面倒なんでもうチャオ小説にしてこっちに投稿しちゃいます。あっちでのリベンジは気が向いたらあっちでやります。

この作品の序盤のほうは数ヶ月前に書いたものなんで、やっぱり粗が目立ってだめでしたね。それを粗だと気づけるようになったのは進歩かもしれませんが。そこを整える作業が退屈で、また難しかったです。
そんなに長い作品ではないんですけど、小分けにして出しますね。8月16日現在、まだ完成していないので。でもネタ投下ってやっぱ必要だと思うんですよ。それがチャオラーが、まだチャオラーだと言い張ることのできる証拠になるんですよ。だから皆さんにも是非書いてほしいな。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@124-144-253-33.rev.home.ne.jp>

 ダーク  - 14/8/17(日) 14:35 -
  
 おばあちゃんはいつもせんべいを買ってくる。にこにこしながら「はい、食べてね」と言って買い物袋の中から色々なせんべいを取り出して、テーブルの上に優しく置く。わたしがせんべいを好きだと思っているのだろう。多分、わたしが小さい頃にせんべいを食べたときに「おいしい」と言ったのだと思う。正直なところ、わたしはそれほどせんべいが好きなわけではないのだけど、おばあちゃんが嬉しそうにせんべいを持って帰ってくるのを見ると、ついもらってしまう。決して嫌いだというわけではない。ただ、たまにはポテチとかスティック系のスナック菓子を食べたいなあ、と思うので、せんべいが出てくると内心がっかりしてしまう。でも結局食べてしまえばせんべいはおいしいし、おばあちゃんの期待に応えられた気もするので、それほど引きずったりはしないのだった。
 でも今日はそのことについてふと考えることになった。おばあちゃんが夜ご飯にハンバーグを作ってくれたときだった。ハンバーグはわたしが昼ご飯を食べ終わったあとにおばあちゃんにリクエストしたもので、その日の夜ご飯に作ってくれたものだった。おばあちゃんが作るハンバーグは特においしくて、わたしはしばしばハンバーグをリクエストする。おばあちゃんも自分の作るもので孫を喜ばせることができて喜んでいた。今日はなぜか気分が良くてなんでも好意的に受け取れるような心持ちでいたわたしは、本当にわたしを愛してくれているんだと、そのとき改めて強く感じた。でもそれと同時に、せんべいを買ってきてくれたときのことを思い出した。こんなにも愛してくれているおばあちゃんに対して、がっかりするなんてあんまりだ。わたしは自分が許せなくなり、おばあちゃんに謝りたくなった。でも、そんなことを言えばおばあちゃんは絶対に傷つくから、なかなか言えなかった。実際のところ、せんべいが嫌いなわけでもないから、言わなくてもいいんじゃないか、とも思ったけど、それでもがっかりしているのは本当だし、わたしのことを誤解させたままなのは嫌だったので、言わなきゃいけないと決心した。
 それから少し経ったある日、おばあちゃんが買い物に行くと言うので思い切って、
「ごめん、せんべいよりもポテチの方が好きだから、ポテチ買ってきてほしいな」と言った。
 おばあちゃんは「そうなのかい? ごめんね」と言って買い物に出て行った。わたしは胸が痛んだけど、これも今後のためにしょうがないと思うようにして、おばあちゃんが帰ってきたときには「ありがとう」と心から言った。おばあちゃんはまた「ごめんね」と言って、ポテチをテーブルの上に優しく置いた。
 それからおばあちゃんはお菓子を買いに行くときはポテチを買ってくるようになった。こうやってわたしのことを知ってくれると嬉しかったし、お互いの認識が同じになって心を共有できたような気がした。そして、わたしのことをおばあちゃんに知ってもらうだけだとフェアじゃない気がしたから、おばあちゃんのことも知ろうと思った。でも改めてあれこれ聞くのは恥ずかしいし、かと言って他の人からおばあちゃんのことを教えてもらうのもずるい気がして、なかなか聞き出せなかった。そんなままで、日は進んでいった。


 おばあちゃんが死んでしまってから一週間が経った。ただただ悲しくて何もする気が起きない一週間だった。でも普段と同じように学校に通って授業を受けて帰るだけの日々はいつもと同じようでもあって、悲しみと生活が不釣合いな気がして悔しかった。悲しみが落ち着いてしまってから、わたしの心に残ったのは後悔だった。おばあちゃんのことを、もっと聞いておけばよかった。わたしの心だけを共有して、おばあちゃんの心を共有できなかった。わたしは愛されるばかりで愛することができない人だと思わされた。わたしの中にあるあばあちゃんへの愛は行き先を失って、わたしを蝕んだ。だから責めてわたしは、できるだけ人と色々なこと共有しようと思った。
 それから中学校の友達とより仲良くしようとした。愛菜と律子とわたしの三人グループ。中学校へ入学して、席が近いのがきっかけで話すようになった友達だ。でもそれだけの、言うならただの友達だった。三年間ずっとそうだ。わたしは二人の好きなものや嫌いなものを知っているつもりだ。例えば愛菜は日本のポップスが好きで、数学と虫が嫌い。律子はロックが好きで、あと茶碗蒸しが好き。トマトと運動が嫌い。でもよく考えればそんな単純な話ではなくて、もっと色々なものが積み重なって愛菜や律子は一人の人間としてできてるわけだから、わたしが知っているのは一部でしかない。わたしを含めて三人とも内向的な性格をしているせいかもしれない。このままではいつか後悔すると思った。もっと踏み込まないと、わたしは落ち着ける場所まで辿り着けない。そしてこれも難しい話だけど、わたしのような後悔をさせないためにも、わたしのことを押し付けがましくならないように知ってもらわなきゃいけない。そうして心地よい関係を築いていけたらいい。
 そう考えたところで、次は何かをしなければいけないと思った。わたしのことを知ってもらおうとするより、先に二人のことを知ったほうがいい。でも、相手のことを知るというのは難しい。直接聞き出すのも不自然で、少しずつ知ろうと思っても何を知らないのかもわからないのでどこに手を出していいのかわからない。
 相手がおばあちゃんだったら、と考える。答えは簡単だった。どこでもいいんだ。どこでもいいからもっと知っておくべきだったと、わたしは後悔しているんだ。
「今週の土曜日、映画見に行かない?」
 わたしはとりあえず、映画が無難かなと思って映画に誘った。わたしが言いだしっぺなので、あらかじめ上映している映画の中からひとつ選んで薦める形で誘った。正直映画選びには結構悩んだ。普段学校で一緒にいても、休日を使って映画を見に行くのは初めてだ。映画を一緒に見に行くなんて定番の行動なのに、意外と何もしてこなかったんだなと改めて思った。二人は映画と言われて不意を突かれたような顔をしたが、
「いいよ、行きたい」と言ってくれた。
 わたしたちが見に行くのは『魔女の森』という原作が小説の作品だった。ある街のパン屋の息子が、同じくらいの年齢の魔女の女の子と森の中で出会い、触れ合っていく様子を描いた映画だ。わたしは予告の映像をネットで見て、その不思議な雰囲気に興味が湧いて、見たくなったのだった。でも、それを愛菜と律子に紹介した日の夜に、みんなで決めれば良かったな、と後悔した。いつもことが済んだあとに、良くないところに気づくのはなんでなんだろう。映画に誘えただけでもマシだと思うようにして、あとは映画が面白いことを願うだけだった。


 初めて二人を映画に誘ったあの日から、わたしたちは変わっていった。カラオケにも行くようになったし、その帰りにファミレスでずっとおしゃべりをすることもあった。友達というものが、こんなに一緒に何でもできるものだなんてみんな知らなかった。知らなかったというと変かもしれない。知っていたけど、こんな遊び方をするのはクラスではしゃいでいる子たちで、わたしたちは学校内で一緒に楽しく話せればそれで満足だと思っていたのだった。でも、映画館に行った日は良かった。映画を見に行ったあと、不思議な高揚感を抱えたままわたしの家に集まって、わたしの部屋で映画の感想を言い合った。映画は二人に好評で、二人とも「あなたはパンを売るよりも、わたしのように魔法を使うための練習でもしたほうがいい」という魔女の台詞が気に入ったようだった。映画を見ていたときはそんなに気にしなかったようだが、その直前のシーンで「わたしは人の心を操ることもできるが、そんなにつまらないことはないから使わない」という台詞があったから、きっと「わたしのように魔法を使う」って言うのは、わたしの心を変えようとしてみろ、って意味なんだろうね、っていう話をわたしがしたらすごく感動したようだった。わたしの作品じゃないのに、感動してくれてなんだか嬉しかった。そのあとは一緒にバラエティ番組を見て、笑いあって、解散した。それから、愛菜からも律子からも誘いが増えるようになった。こんな感じで、わたしたちは自分たちの中三革命を起こしたのだ。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@124-144-253-33.rev.home.ne.jp>

 ダーク  - 14/8/17(日) 14:36 -
  
 愛菜と律子とは同じ高校に進学した。普通科のクラスは三つあったけど、運良くみんな同じ一組になった。三人で軽音楽部に入部しようか悩んだけど、結局遊ぶ時間欲しさにやめた。これで一年間は安心して過ごせる、と思っていたけど、やっぱり新しい生活はそんなに簡単なものではなかった。入学してからすぐにみんな自分の居場所、というより居るべき場所を見つけてそこに収まるのだけど、居るべき場所を間違えてしまった加奈子という女の子がわたしたちの仲良しグループの中に入ってきてしまった。原因は、入学直後にあった健康診断にあった。身長や体重の測定などは同じ部屋で行われるが、視力や聴力といった検査は別の部屋で行われていたので、いろいろな検査ごとに部屋を移動しなくてはいけなかった。検査は出席番号順に行われるので、部屋の移動も自然に一人ずつになる。そんな中、加奈子は聴力検査を終えたあとにどこの部屋に行っていいのかわからなくなったようで、出席番号がひとつ前のわたしが廊下を歩いているときに話しかけてきたのだった。わたしもそのときはまさかわたしたちのグループに入ってくるとは思っていなかったので、一緒に次の部屋に移動した。それがきっかけで、加奈子はわたしに対して話しかけられる人とみなしたみたいで、それ以降もわたしのそばをくっつくようになった。わたしは当然愛菜と律子と話すわけで、くっついてきた加奈子がグループに入ってしまうのはしょうがなかった。
「今日の帰りカラオケ行こうよ」
 と、律子が言う。カラオケの誘いは律子からが多い。律子は夜の寝る前に音楽を聴くのが習慣で、歌いたい衝動を引きずったまま次の日を迎えることが多いのだ。
「いいよ。いつものとこね」
 と、わたしが答える。いつものとこというのは、わたしたちが住んでいる町の駅から徒歩十分くらいのところにあるカラオケチェーン店だ。加奈子と一緒に行った事はない。加奈子はわたしたちがどこかに行くときに、自ら「わたしも行きたい」と言うことはない。加奈子はグループ内における自分の異物感を自覚していた。もちろん、わたしたちも加奈子に対して異物感を持っていた。それはすぐに嫌悪感に変わっていった。愛菜は加奈子のことについて「中途半端なんだよ」と言っていたが(もちろん加奈子がいないときに)多分加奈子はこれ以上踏み込んでもさらに嫌われるだけだ。正直なところ、みんな「加奈子がグループからいなくなればいいのに」と思っていたはずだ。そしてみんな加奈子に対して嫌悪を隠さないようになっていった。加奈子は見るからに元気を失っていったけど、居場所がなくなるのはもっと嫌なようでわたしたちと無理して行動していた。加奈子はこのポジションに身を落ち着けてしまったのだった。不憫なのかもしれないけど、わざわざ加奈子の立場に立った言葉は言わなかった。加奈子を敵として共有することが、さらにわたしたちを団結させていた。
 わたしがチャオを飼い始めたのは丁度その頃だった。母がある日曜日に突然家に連れて帰ってきたのだった。まだ子供のチャオで、体も水色のままだった。「チャピル」とわたしが名づけて、母も父も賛成してくれた。チャピルはまだわたしの家にいることに慣れていないからか、辺りをキョロキョロと見回していた。まん丸の目を見る限り、不安を感じている訳ではなさそうだった。放っておいても自分から動くということをしなかったので、抱きかかえてわたしのベッドに連れて行くとウトウトし始めて、すぐに眠った。たぶん疲れてしまったんだろうと思って、しばらく放っておいてあげた。そのまましばらくして、わたしたちが晩御飯を食べていると、ハイハイをしてチャピルがリビングに来た。それを見たわたしたちは大はしゃぎで「お腹減ったのかな」とか言って、チャオ用の木の実を与えると、チャピルは木の実をゆっくりと全部食べた。わたしたちは晩御飯を食べるのも忘れて、ずっとそれを見ていた。半日ほどで、わたしたち家族はチャピルに虜にされてしまった。
 チャピルのことは月曜日に愛菜と律子にも話した。そしてその日の内にわたしの家に来て、チャピルと顔合わせをした。二人もあっという間にチャピルの虜になり、交代で膝に上に寝かせながらわたしの部屋でテレビを見た。加奈子はチャピルの存在すら知らないままだった。


 加奈子に彼氏ができた。相手は丸山健太というわたしたちと同じ中学出身で、今は軽音楽部に所属している人だ。クラスも同じだ。確か、中学生の頃は吹奏楽部の数少ない男子部員で、ドラムをやっていた。割とかっこいい顔をしていて、大人しくて敵のいない人だったと思う。
 それでも加奈子は学校ではわたしたちと一緒にいたがった。彼氏ができたのをきっかけにわたしたちから離れていったら良かったのに、とみんな口々に言った。でも、それからすぐに律子にも彼氏ができて、律子は加奈子の彼氏については何も言わなくなった。律子の彼氏は出身中学の違う人で桜井卓哉という、この人もまた軽音楽部の人だった。律子は彼氏ができてもわたしたちとの付き合いの時間を極力減らさないようにしていた。わたしと愛菜はその気持ちだけでも嬉しかったので「たまには彼氏と一緒にいてもいいよ」と言ったけど律子は「いいのいいの」と言って聞かなかった。
 丸山くんと桜井くんは、多分わたしたちと加奈子の関係を理解していた。でも二人は二人でうまくやってくれているみたいで、わたしたちに直接何かを言ってくるということはまったくなかった。桜井くんはわたしたちと一緒にトランプをしたりゲームをしたりすることもあった。だからわたしたちは二人に好印象を持っていた。でも、多分愛菜と律子は気づいてないと思うけど、丸山くんはわたしたちのことを敵、というより面倒くさい奴だと見下してるような雰囲気があった。わたしたちが化学の授業のために理科準備室(なぜか準備室という名前だった)に移動しているときに、わたしが持っていた筆箱と教科書とノートを落としてしまって、たまたま同じ時間に移動していた丸山くんがノートを拾ってくれて渡してくれた。そのときの丸山くんは少し微笑んだ顔をしていたが、渡して振り向いてまた理科準備室へ向かうその動作がすごくあっさりしていて、すごく怖かったのを覚えている。その恐怖はわたしだけ感じたようで、愛菜と律子は「なんで加奈子と付き合ってんだろうね」とか言っていた。わたしはショックを受けたことがなんだか恥ずかしくて「加奈子なんてどこがいいんだろ」と言ってごまかした。
 家に帰ってからチャピルと遊んでいると、チャピルの体の色が少し黒みがかっているのに気づいた。チャオという生物が飼い主の心に反応して姿や色を変えるということは知っていた。でも、黒みがかるということは、確か飼い主の心がすさんでいるときの反応だった。わたしが持つ加奈子への悪意と、そして八つ当たりの怒りが、目の前に形となって現れたのだった。チャピルはなんともない顔をしているが、チャピルにまで悪影響を与えているようでわたしは冷静でいられなかった。わたしは餌をあげるのも気が引けて、全部お母さんに任せた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@124-144-253-33.rev.home.ne.jp>

 ダーク  - 14/8/18(月) 23:49 -
  
 珍しく律子が桜井くんと一緒に帰ると言った日、当然わたしは愛菜と二人で帰ることになった。最寄の駅まで歩いているときは「彼氏いない組は帰って寝るしかないもんねー」とか言ってふざけていた。でも電車に乗ってからは愛菜が静かだった。電車は空いていて、わたしたちはボックス席に向かい合って座っていた。なんだか珍しく気まずい雰囲気だな、と感じて「律子は何してるんだろうね」と言い出そうとしたら、先に愛菜が、
「加奈子、可哀想だよね」
 と零した。急に呼吸が難しくなった。今までに皮肉っぽく「可哀想」と言うことはあったけど、こんな真面目な雰囲気で言うことはなかった。そう言えたら、わたしもあんなチャピルを見て、あんな思いをせずに済んだのに。
「もう少し迎え入れてあげる?」
 とわたしは何も考えずに言った。じゃないと、わたしが愛菜のことをわかっていなかったと認めてしまいそうだった。そんな頭の中を空っぽにしなければいけない時間が少し続いて愛菜が、
「できたら」
 と言った。愛菜は、わたしが愛菜と律子を映画館に誘ったときのように、勇気を持って革命を起こそうとしているのだった。わたしはその思いに答えなければいけない。
「わかった」
 律子にも話さないといけない。わたしたちだけが加奈子を受け入れるわけにはいかない。でも、いつどうやって律子に話すのか考えているうちに自宅の最寄駅についてしまい、しょうがなくわたしたちは別れた。
 その日の夜からは、またチャピルと普通に接するようにした。こうしなければわたしたちの革命は証明されない。そして何よりも、わたしはチャピルを愛していた。撫でたかったし抱きたかった。わたしはおばあちゃんに愛を見せられなくて後悔していたんだ。同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。何があろうと、わたしはチャピルを愛し続けるんだ。
「チャピル、ごめんね」
 チャピルを撫でるけど、チャピルはよくわからないといった風に首をかしげ、頭の上の球体をハテナマークにした。そしてすぐにそのマークはハートマークになって、わたしの胸に飛び込んできた。そんなチャピルの無償の愛に鼻がつんとなって、涙が出てきた。わたしはなんてことをしようとしていたんだろう。
 それから、わたしたちが電車を降りて別れたのは、しょうがなくではなくてきっとまだその問題を置いておきたい気持ちがあるからなんだ、と反省した。そして、そこまで反省できるのだったら、明日の朝すぐにでも律子に話すことはできるはずだ、と決意した。
 次の日の朝、わたしは律子に話しかけようと思って律子の席に近づいた。でも、前日の夜のわたしは想像力が足りなかったみたいで、いざ朝の教室で一人の人と真面目な話をしようとすると、周りの生徒や相手の眠そうな雰囲気だとかが「話すべきタイミングは今じゃない」と訴えかけてきた。事実、そうだ。万が一、わたしたちが話しているときに加奈子が近づいてきてしまったら、話を中断せざるを得ない。時間と場所を改めて考え直さないといけなかった。律子の席に近づくところまで行ってしまったわたしは、とりあえず「おはよー」と言って律子の前の席に座った。その後は何も続かなくて黙って座っているだけになった。
 昼休みに律子と一緒にトイレに行き、わたしはそこでようやく話を切り出すことができた。なんて切り出していいかわからなくて、しどろもどろになってしまったけど、
「わたしたち加奈子にさ、冷たすぎるかなって思ったんだけど、どう?」
 と、弱々しいストレートのような投げ方ではあるけど言い出すことができた。しかし、
「わたしあの子生理的に無理」
 と律子は言い放った。無理だ、と思った。ここで食い下がることは絶対にしてはいけない。
「まあ、だよね。わたしも多分無理」
 それだけでわたしたちの会話は終わった。革命なんてそう簡単に起こせるものではないんだ。律子はきっと変わらない。愛菜には悪いけど、今まで通りにやってもらうしかないんだ。わたしも加奈子を前にして優しい態度を取るのは難しそうだ、なんて正直で生々しい気持ちもある。これを打ち破るのが革命だけど、今回は環境が許してくれないみたいだ。いや、気持ちだけでなく環境をも変えることが革命か。革命は、難しい。
 その日の放課後も、律子は桜井くんと帰った。多分、もともとは桜井くんと一緒に帰る予定ではなかったんだろう。わたしが昼休みに余計なことを言ったから、こうなった。午後はずっと機嫌が悪かったから、間違いないと思う。散々わたしは共有することで生まれる信頼を思い実感してきたのに、気づいたときには自分の手で叩き壊そうとしていた。革命なんかよりも大事なものがあったのだ。律子は加奈子を悪く言うみたいに、桜井くんにわたしの愚痴を言うんだろう。桜井くんはわたしの方に同情してくれそうだけど、正直わたしにはそんなの必要なかった。律子とただ元通りに戻りたかった。
 また愛菜と二人の下校になって「愛菜のせいでわたしが嫌われた」と言ってやりたかったけど、愛菜とまで関係を悪くする訳にはいかないので、堪えて、
「律子は加奈子のことダメだって。うまくやるしかないよ」
 うまくやるという自分の発した言葉が、わたしの哲学を絶望的に破壊した。こんなこと言わなければよかったと思ったけどもう遅くて、
「わかった。ごめんね」
 と、愛菜に言わせてしまった。わたしたち三人は一瞬で完璧ではなくなったようだった。
 その日の夜、わたしは開き直るしかないと思った。もう過ぎてしまったことはしょうがないから、今の状態がベストだと思うしかないんだ。これ以上関係を悪化させなければ、わたしたちはきっと何も意識せずに楽しい日々を送れる。楽観的な見方をしている訳ではなくて、根拠なしで本当に大丈夫だと思う。
「チャピル」
 と、ふと名前を呼んで涙が流れた。今後への不安じゃなくて、ただ今の状況が悲しかった。人間よりも、チャオのほうが無条件にわたしの気持ちをわかってくれる気がした。チャピルは体を、わたしの小さい胸の中にうずめてくれた。生き物の体の温かさは生々しくて、頭の中に浮かべる律子とか友達とか言う言葉よりもずっと優しかった。


「なーがれぼし、なーがれぼし」
 スピッツの『流れ星』をギターで弾き語りしながら、わたしの真っ暗な部屋の窓からチャピルと一緒に夜空を眺める。いつからか、わたしとチャピルにはこんな習慣ができていた。雲がかかっていても、雨が降っていても、いつも歌っていた。
 あれから一年、わたしの予感は当たっていて、愛菜と律子とは楽しい日々を送れていて、チャピルはとっくにダークチャオへ進化していた。わたしと律子は二組で、愛菜だけが一組になってしまったけど、休み時間は必ず二組に遊びに来た。加奈子は三組になって、どうやら別のグループの中に入ることができたようだけど、わたしたちのところには相変わらず来た。今でも加奈子のことは嫌いだ。
 愛菜が何を思っているのかは知らない。それはつまり、愛菜はうまくやっているということだろう。愛菜はわたしたちが初めて会った頃からは想像もつかないくらい人付き合いがうまい子になっていた。そう考えると、愛菜と本当に理解し合えているんだろうか、という疑問が浮かぶけど、お互いに愛を感じられるくらいの関係ではあると確信を持って言えるから、少なくとも完璧でなくなってしまったわたしたちには十分度外視できた。世界はうまくまとまっているのだ。
 夜だけはそんな世界から切り離されていた。独立した夜の世界は、現実世界のわたしたちと違って完璧だった。家に愛菜や律子を招いても、ギターを弾いてチャピルと一緒に歌って見せるなんてことは絶対にしなかった。誰も触れない、わたしとチャピルだけの変わらない時間だった。
 ギターはアコースティックギターで、親から月一でもらっているお小遣いを使って買った。お小遣いを貯めて買ったわけではなく、一月分の小遣いで買えるほどの安物だったので、そんなにいいものではない。でも正直、音の良し悪しなんてわからないので何でも良かった。ただ、ギターを無性に弾いてみたくなったのだった。
 最初の頃はドレミファソラシドと弾くだけで嬉しかったけど、それだけだとつまらなくてすぐにコードを覚えようとした。ギターを弾くというとジャカジャカ弾くイメージがあったので、早くそのイメージに自分を当てはめたかった。コードを覚えるのにそんなに時間はかからなかったけど、音が綺麗に出なくて困った。特にFやBのコードが難しく、桜井くんにアドバイスを求めたところ「最初はみんなそこで躓くよ」と笑われただけだった。ゆっくりと指を整えながら押さえれば音が出るのだけど、曲に合わせてぱっと押さえるとボスンという音しか鳴らなかった。
 でも何日か続けているうちに、気づいたら音が出るようになっていた。それからというものの、知ってる曲のコード譜をネットで調べてそれを弾いていた。その中でも『流れ星』はお気に入りで、部屋を暗くして夜空を見ながら弾いたら気持ちよかったので毎晩弾き続けている。チャピルははじめはキョトンとしていたが、今では曲に合わせてよくわからない言葉で歌っていた。薄暗い部屋で真っ黒なチャピルは影のようにしか見えなかったが、わたしの声とチャピルの声のユニゾンを聴いているだけでわたしは自分の中にあるチャピルへの愛を自覚することができた。
 願いは叶わないから美しい、といった意味の言葉を言う人がいるけど、きっと願いは願いであるだけで美しいんだと思う。そして、叶ったらよりいいんだとわたしは思っている。だから、あえてわたしは願いを言う。
「ずっとチャピルがそばにいてくれますように」
 流れ星は見えないけど、きっとどこかで流れているだろうと思い込んで、その流れ星がわたしの願いを叶えてくれることを何も考えずに信じた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@124-144-253-33.rev.home.ne.jp>

 ダーク  - 14/8/31(日) 20:36 -
  
 律子から「遊園地に行こう」と誘いがあったのは、高校に入学してから初めての夏休みの頭の頃だった。宿題も大して多くなく、暇な日が多いだろうなあと覚悟していたときに律子からメールがあったのだ。メールには、わたしたち三人とチャピルで行こうと書いてあった。チャピルを連れて行ったら、絶叫系のアトラクションには乗れなさそうだ。そうすると、楽しめるアトラクションは一気に限られてしまうんじゃないか。なんでチャピルを一緒に連れて行きたいのか。色々な疑問が浮かんだので、返信はせずに電話をかけ返した。
「わたしはいいんだけどさ、チャピルは連れて行っても大丈夫なところなの?」
「あー、全然大丈夫。末森アイランドっていうところが最近できたらしくて、チャオもオッケーみたいなんだよね。場所も電車で一時間くらいのところだし、せっかくだから一緒にね」
 オッケーっていう言葉が具体的にどうオッケーなのかはわからないけど、ここで問い詰めても多分律子はそこまで調べていないだろうから、
「ちょっと調べてみるから待ってて」
 と言ってパソコンを開いて『末森アイランド』と検索した。検索結果ページの一番上に末森アイランドの公式ホームページが出てきて、内容を調べると乗り物にはチャオ用のシートベルトがあったり、人の食べ物と一緒にチャオの食べ物も販売している店があったりと、本当に大丈夫そうだったので、
「おー、いいね。いつ行く?」と答えた。
「わたしはいつでもいいけど、希美はいつが空いてる?」
「わたしもいつでもいいよー。あ、でもお盆辺りは家族とどこか行くかもしれないから、お盆以外で」
「オッケー。あと愛菜にも連絡取るから、予定合いそうな日があったら勝手にこっちで決めちゃって、それから連絡するねー」
「わかったー。ありがとー」
 それから二時間くらいした頃にまた律子から連絡が来て、末森アイランドには明後日行くことになった。
「チャピルー。楽しみだねー」
 と言って、チャピルの頭を撫でた。
 末森アイランドに行く当日、わたしたちは自宅の最寄駅で待ち合わせをして、日除け用の麦藁帽子を被ったチャピルをみんなでわいわい可愛がりながら末森アイランドに向かった。準備もそれほど必要なくて、服もそんなに張り切って決める必要もないから白のティーシャツにショートパンツで済ませた。
 正直なところ、ダークチャオを連れて歩くのは勇気がいる。わたしは心がすさんでます、と言ってるようなものだ。でも世の中にはダークの実という、食べさせるだけでダークチャオに進化しやすくなる餌がある。わたしはそれをチャピルにあげているということにして、納得するようにしていた。もちろん、愛菜と律子に見られるのも嫌だったけど、初めてダークチャオになったチャピルを二人に見られたときも、直接「ダークの実あげてるから」と言って丸め込んだ。実際、二人がどう思ったのかはわからないけど。
 末森アイランドのアトラクションは楽しかった。ジェットコースター、3DCGワールド、地下迷路、脱出ゲーム、観覧車。チャピルも頭の上にハートマークを浮かべて満足していた。愛菜と律子も頭の上にハートマークを浮かべているようだった。
 歩いて、待って、遊んで、また歩いて、たまに食べてを繰り返すだけで十分に楽しかった。末森アイランドはローカルの遊園地にしては本当に広くて何でもあった。あまり有名でないのは何でだろう。もしかしたら、チャオも遊べるという点をアピールしたら他のところに目を向けられなかったのかもしれない。なんだかもったいない気がした。でも有名でない割には人も多いので、一部の人には強く愛されているんだろう。
 夕方、小腹が空いたというよりも何かを食べたい気分になったわたしたちはカフェに入った。もちろんここは今日初めて来るところだ。ここもチャオ用の食べ物があった。普段、チャオの餌という枠組みでしかチャピルに食べ物を与えていないので(人間の食べ物はあまりチャオの体に合っていないという話を聞いたことがある)こういったところで変わった食べ物を食べさせられるのは嬉しかった。わたしはチャピルにビッグミートという、骨付き肉を模したパンのようなデザートを選んであげた。愛菜と律子はわたしの「いいよ、わたしが払うから」という言葉を聞かずに、お金を出し合ってくれた。わたしはフレンチトーストを食べて、愛菜はバナナパフェを食べて、律子はトリュフチョコのアイスを食べた。そして最後にみんなでコーヒーを一杯ずつ飲んだところで、
「そういえばコーヒーカップってあるのかな」
 と律子が言い出した。確かに遊園地の定番とも言えるけど、今日は乗ってもいないし、見てもいなかった。どうだろ、と言ってパンフレットを見ると、どちらかというと入り口に近いところにコーヒーカップがあった。そこには土産屋もあって、土産屋は最後に行こうと思っていたから今まで見つけられなかったのだ。
 コーヒーカップへ向かうと、それほど人は並んでいなかった。わたしたちは即決で並んだ。夕日が沈み始めていた。コーヒーカップに乗って、その後何か乗り物に乗ったらお土産を買って今日は終わりだろうなと思った。なんだかコーヒーカップに乗るのが嫌になってきた。こんなのは一瞬の楽しみで、間違いなく時間と一緒に消えていく現実だとわかっている。ずっと回り続ける幻のコーヒーカップに乗っていられたらいいのにと思った。
 わたしたちが乗る順番になった。ちょっと緊張して、残念で、高揚した。愛菜、律子、チャピル、わたしの順番で座った。すべてのコーヒーカップが一箇所割れて欠けているデザインになっていて、そこから人が入れるようになっていた。そして全員が着席したのを確認すると、スタッフがその割れた破片を持ってきて、その出入り口を塞いだ。そして完成したコーヒーカップの中で回るのだ。ファンタジックで素敵だった。
 コーヒーカップの中心にあるハンドルをみんなで回した。ゆっくりと回り始めたコーヒーカップに、すでにみんな笑い出していた。チャピルだけがわたしと律子の間でキョトンとしていた。
 どんどん加速していくコーヒーカップ。そろそろ最高速だ。もうすでにかなり強く振り回されていて、楽しくてしょうがなかった。頭を後ろに倒すと、ぐわんと視界が回る感じがして、なおさら面白かった。わたしたちには回すハンドルの感触と、振り回される心地よさしかなかった。そんなとき、笛の鋭い音が鳴ってすべてのコーヒーカップが急速に止まり始めた。チャピルがコーヒーカップから投げ出されてしまったからだ。わたしの袖に、チャピルが吹き飛ばされるときに一瞬つかんだ感触が残っていた。それは確実に現実のことで、チャピルが危険な目にあったという恐怖で体の中が急速に縮んでいったような感覚もあるのに、振り回されたときの浮遊感がまだ頭と体に残っていて、起こるはずのない不思議な出来事が起こったような感覚があった。わたしはそんな感覚のままコーヒーカップの縁を乗り越え、チャピルの元へ駆け寄った。チャピルは頭の上にビックリマークを浮かべ目を丸くしているが、怪我はどこにもないようだった。スタッフが駆け寄ってきて大袈裟に心配していて(それが普通なのかもしれない)わたしが「大丈夫みたいです」と言っても「申し訳ございませんでした。ただいま園長をお呼びしますので、少々お待ちください」としつこかったので「大丈夫なので気にしないでください」と逃げた。その後、コーヒーカップは稼動停止したようだったけど、わたしの感覚に残る幻のコーヒーカップはまだ回り続けていた。
 その後は何にも乗ることなく、帰ることになった。お土産も少ししか買わなかった。本当に末森アイランドから逃げるように出た。愛菜も律子も気の毒そうな顔をしてわたしとチャピルを見ていたし、実際に心配する言葉をかけていたた。なんと言っていたのか、よく覚えていないのだけどチャピルがいつも通りの無表情に戻っていたのだけは覚えている。家に着いてからも何か夢を見ていたような気がして、ギターを弾くのも忘れて不思議な気分のまま眠りについた。


 目覚めるとそこは現実だった。昨日どころか、昨日までのことがすべて夢のことだったように感じられるくらい、わたしは生活感の中にいた。寝る前にかけていたタオルケットがわたしの横に丸まっていて、体にはじっとりと汗をかいていた。眠気がまだ残っていて、外から車の走る音や鳥の鳴く声が聞こえた。濃い紫色のカーテンが陽の光でその鮮やかさを強調していた。カーテンを開けると外は晴れていた。窓を開けて顔を出してみると、西から東の方まで珍しいくらい真っ青な空が見られた。今日は夜空が見れるな、と思った。扇風機をつけて、ベッドに腰掛ける。今日は予定がなくて、暇を持て余しそうだった。愛菜と律子を誘ってどこかに行くのも悪くないけど、たまにはずっと家でごろごろしてるのも悪くないかなと思ってテレビをつけた。時刻は九時三十三分。普段は見られない、平日のこの時間帯の番組。釣り番組やグルメ番組、なんだか狭い部屋にお笑い芸人とタレントが座って話している番組にニュース。どれもつまらなかった。しょうがないからテレビを消して、本棚から『魔女の森』を取り出した。映画を見に行った一ヶ月後くらいに買った原作の小説だ。買ったはいいけど小説を読む習慣がないわたしは、ずっと読むタイミングを見失ったまま本棚にしまいっ放しだったのだ。本を持って、ベッドに座って壁に背を預ける。一ページ目には『魔法なんてないよ。見たことないもん。 ――マイト』と書いてあった。その次のページから本編だった。でも、わたしがページをめくろうとしたときに、お母さんが大慌てでわたしの部屋に入ってきた。
「何?」
 こんな時間に、しかもノックもなしに入ってくるのだから何かが起こったのだろう、と緊張した。お母さんはわたしの緊張なんて気にも留めずに次の言葉を発した。
「チャピルが転生してるよ!」
 そういってリビングの方へと駆けるお母さんを、わたしも同じように駆けていった。そうか、もう寿命の時期か。
 リビングのソファーの上に、桃色の繭があった。チャピルが転生している真っ最中なのだ。飼い主のことを強く愛していると起こる転生が起こったということで、わたしは安心と感動を覚えた。ダークチャオに進化させてしまって、どこかで悪い影響をチャピルに与えているんじゃないか、と心配だったのだ。
 繭が少しずつほどけてきて、中にあるタマゴが姿を現す。チャピルが生まれ変わったんだ。チャオが転生をする生き物だということは知っていたが、生で転生を見るのは初めてだった。他の生物では絶対にありえない、チャオだけの不思議。魔法みたいな愛の行く先。繭が全部ほどけてからは、ずっとタマゴを眺めたり抱きかかえたりしていた。孵化するところを絶対に見て、チャピルを迎えてあげようと思った。
 タマゴが孵化するのにもそれほどかからなかった。タマゴがパカッと割れて、中から水色の体のチャピルが出てきた。この姿のチャピルを見るのは久しぶりだった。今度こそはダークチャオにしない、とわたしは強く思った。
 結局『魔女の森』の続きはまったく読まずに、また本棚へ戻すことになった。今日はずっとチャピルと遊んでいた。特に何をしたというわけではないけど、家中をチャピルと一緒に動き回っていた。それだけで十分楽しく、嬉しかった。
 その日の夜だった。一面の星空を見ながら、わたしはいつものようにギターを取り出した。いつもならこの辺りでチャピルがわたしのベッドから降りてわたしの足元に来るのだけど、チャピルはベッドの上に座ったままだった。この辺りでわたしは嫌な違和感を覚えていた。ギターのチューニングを終えて、コードを鳴らした瞬間、チャピルは頭の上にハテナマークを浮かべた。わたしの違和感が形となって現れたのだった。このチャオはチャピルじゃない。わたしとの思い出と、わたしとの生活と、何よりも唯一の無償の愛を共有していたあのチャピルは、その名の通りもう死んでしまったのだ。
 ギターの音がやむとわたしの部屋は静かだった。いつもと違う、なんだか偽者じみたわたしの部屋の空気に耐えられなくなって、わたしは部屋から出た。わたしが部屋を出るときも、チャピルはわたしのベッドの上にいた。 
 お母さんにもお父さんにも会いたくなくて、逃げ場を探してわたしは前はおばあちゃんの部屋だった和室に辿り着いた。どうしようもなくて、おばあちゃんの愛にすがりたかった。仏壇の前にわたしは膝を落とした。
「おばあちゃん、わたしはどうすればいいの」
 仏壇は答えてくれず、おばあちゃんも写真の中で笑っているだけだった。わたしの泣き顔を見ても、おばあちゃんは笑ったままだった。魔法なんてどこにもなかった。わたしの中でコーヒーカップが回り続けていた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@124-144-255-233.rev.home.ne.jp>

感想コーナー
 ダーク  - 14/8/31(日) 20:38 -
  
オレ、カンソウ、マッテル。
オマエ、カンソウ、カク。
オマエ、ショウセツ、カク。
オレ、マッテル。
オレ、マッスル。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chr...@124-144-255-233.rev.home.ne.jp>

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃チャットへ ┃編集部HPへ  
1397 / 1586 ツリー ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
56285
(SS)C-BOARD v3.8 is Free